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審決分類 審判 全部申し立て   H05B
管理番号 1004043
異議申立番号 異議1997-71541  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2000-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-04-01 
確定日 1999-05-07 
異議申立件数
事件の表示 実用新案登録第2513054号「高周波加熱コイル体」の実用新案に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 実用新案登録第2513054号の実用新案登録を取り消す。
理由 [1]手続きの経緯
本件実用新案登録第2513054号は、平成3年7月9日に実用新案登録出願されたものであって、平成8年7月9日に実用新案権の設定登録がなされ、その後、高周波熱錬株式会社により実用新案登録異議の申立てがなされ、当審において平成9年7月17日付で取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成9年10月6日付けで訂正請求がなされ、さらに、当審において平成10年9月21日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、その指定期間内に応答がなされなかったものである。
[2]訂正の適否
[訂正の要旨]
平成9年10月6日付訂正請求は、
▲1▼実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、実用新案登録請求の範囲【請求項1】を「小径部、中径部および大径部を有し、小径部と中径部との間および中径部と大径部との間にそれぞれ肩部が形成された軸状ワークの外周面を加熱する高周波加熱コイル体において、前記外周面の周方向に形成された平行な複数のほぼ半円弧状の周方向加熱導体と、前記周方向加熱導体の一端部同士および他端同士を接続し前記ワークの軸方向に平行な1対の軸方向加熱導体と、周方向加熱導体と軸方向加熱導体とに装着した磁性体からなる第1?第3コアとを備え、前記第1コアは珪素鋼板からなり、小径部に対応した周方向加熱導体に、前記第2コアは前記第1コアより薄い珪素鋼板からなり、小径部と中径部との間に形成された肩部に対応する部分に、前記第3コアはフェライトからなり、中径部と大径部との間に形成された肩部に対応する周方向加熱導体にそれぞれ装着されていることを特徴とする高周波加熱コイル体。」と訂正する、
▲2▼前記訂正にともない、考案の詳細な説明の段落【0010】を「本考案の加熱コイル体は、小径部、中径部および大径部を有し、小径部と中径部との間および中径部と大径部との間にそれぞれ肩部が形成された軸状ワークの外周面を加熱する高周波加熱コイル体において、前記外周面の周方向に形成された平行な複数のほぼ半円弧状の周方向加熱導体と、前記周方向加熱導体の一端部同士および他端同士を接続し前記ワークの軸方向に平行な1対の軸方向加熱導体と、周方向加熱導体と軸方向加熱導体とに装着した磁性体からなる第1?第3コアとを備え、前記第1コアは珪素鋼板からなり、小径部に対応した周方向加熱導体に、前記第2コアは前記第1コアより薄い珪素鋼板からなり、小径部と中径部との間に形成された肩部に対応する部分に、前記第3コアはフェライトからなり、中径部と大径部との間に形成された肩部に対応する周方向加熱導体にそれぞれ装着されていることを特徴としている」と訂正する、
▲3▼同様に【0014】を「以上説明したように、本考案の加熱コイル体は、小径部、中径部および大径部を有し、小径部と中径部との間および中径部と大径部との間にそれぞれ肩部が形成された軸状ワークの外周面を加熱する高周波加熱コイル体であって、前記外周面の周方向に形成された平行な複数のほぼ半円弧状の周方向加熱導体と、前記周方向加熱導体の一端部同士および他端同士を接続し前記ワークの軸方向に平行な1対の軸方向加熱導体と、周方向加熱導体と軸方向加熱導体とに装着した磁性体からなる第1?第3コアとを備え、且つ、前記第1?第3コアは2つ以上の異なった種類の磁性体から構成され、小径部に対応した周方向加熱導体には珪素鋼板からなる第1コアが、小径部と中径部との間に形成された肩部に対応する部分には前記第1コアより薄い珪素鋼板からなる第2コアが、中径部と大径部との間に形成された肩部に対応する周方向加熱導体にはフェライトからなる第3コアがそれぞれ装着されている。従って、軸状ワークの各部に所望の深さの硬化層を形成することができる。」と訂正する、
▲4▼実用新案登録請求の範囲【請求項1】の訂正にともない、考案の詳細な説明の段落【0001】【0005】【0009】【0011】【0012】を訂正する、ものである。
なお、前記▲3▼の訂正は、訂正請求人の平成10年1月20日付手続補正書により補正された訂正の理由「(3)訂正の要旨」の記載事項と整合しておらず、▲4▼の訂正は、同「(3)訂正の要旨」に記載すらされていないが、訂正請求書「6.請求の趣旨」記載のとおり、添付された全文訂正明細書の記載が正しいものとして、前記の様に訂正の要旨を認定する。
ところで、全文訂正明細書の考案の詳細な説明には、考案の目的に関して「しかしながら、最近では、ワークに形成する硬化層の深さや巾等の許容値がシビアになっており、精密に硬化層を形成することが要求されるので、従来の加熱コイル体を用いた焼入では、要求を満たすことが困難な場合がある。」(【0003】)「【0008】このような加熱コイル体200で段付シャフト50に焼入を行った場合には、必ずしも所望の硬化層を形成できるとは限らない。即ち、コア21?23に全て0.15mmの厚さの珪素鋼板を採用したとき、加熱コイル10に20kHzの高周波電流を通電した段付シャフト50を焼入すると、小径部51の上部の硬化層の深さt1と、中径部52の硬化層の深さt3とは適切であるが、小径部51の下部の硬化層の深さt2は大き過ぎる傾向がある。また、コア21?23に全てフェライトを使用して同じく段付シャフト50を焼入した場合、深さt2と深さt3とは適切であるがt1は大き過ぎる傾向がある。【0009】本考案は上記事情に鑑みて創案されたものであって、加熱コイルの各部に装着するコアの種類を適宜に変えることによって、小径部、中径部および大径部を有し、小径部と中径部との間および中径部と大径部との間にそれぞれ肩部が形成された軸状ワークの外周面に所望の硬化層を形成することができる加熱コイル体を提供することを目的としている。」と記載されている。
しかし、該記載中の▲1▼「コア21?23に全て0.15mmの厚さの珪素鋼板を採用したとき、…小径部51の上部の硬化層の深さtlと、中径部52の硬化層の深さt3とは適切であるが、小径部51の下部の硬化層の深さt2は大き過ぎる傾向がある」と、▲2▼「コア21?23に全てフェライトを使用…した場合、深さt2と深さt3とは適切であるがtlは大き過ぎる傾向がある」は、常識的には相矛盾する記載となっている。
すなわち、常識的には軸状ワーク各部の熱容量、放熱効率等の条件が変化しない限り、軸状ワーク各部に形成される硬化層の深さの傾向(第2図の例では、tl=t2<t3)も変化しないと考えられるが、前記▲1▼と▲2▼の記載では、▲1▼▲2▼共に適切とされる硬化層の深さtl?t3が同じとすると、t3が▲1▼▲2▼ともに適切とされているのに対して、tlは▲1▼で適切であるにもかかわらず▲2▼では大きすぎるとされており、逆にt2は▲2▼で適切であるにもかかわらず▲1▼では大きすぎるとされており、かつ、軸状ワーク各部に形成される硬化層の深さの傾向が▲1▼▲2▼で異なるとする根拠も記載されていないので、前記▲1▼▲2▼の記載は相矛盾する記載と言わざるを得ない。
そして、前記▲1▼▲2▼の「適切」は、本件考案の目的である「所望の硬化層」に対応するものであり、前記▲1▼▲2▼が相矛盾することにより、本件考案の目的である「所望の硬化層」がどのようなものか不明となってしまう。
また、「所望の硬化層」に関しては、【実施例】及び【考案の効果】でも「各硬化層の深さtl、t2およびt3は所望の深さとなる」「軸状ワークの各部に所望の深さの硬化層を形成することができる」と記載されているにすぎず、これらを考慮しても、本件考案の前提構成である「小径部、中径部および大径部を有し、小径部と中径部との間および中径部と大径部との間にそれぞれ肩部が形成された軸状ワーク」に対応した「所望の硬化層」がどのようなものか不明であり、本件考案の目的・効果が不明瞭と言わざるを得ない。
さらに、実用新案登録請求の範囲記載の「第2コアは前記第1コアより薄い珪素鋼板からなり」に関して、考案の詳細な説明には「第1コア31は、0.15mm厚さの珪素鋼板製、第2コア32は0.05mm厚さの珪素鋼板製」なる、記載が認められるものの、該厚さの違いがどのような作用効果を生ずるのかは記載されておらず、また、「薄い」「厚さ」がコアのどの部分に対する寸法であるかも明記されていないので「第1コア」「第2コア」の構成及び該構成の技術的意義(すなわち、作用・効果)も不明瞭である。
したがって、上記訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないし、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものでも誤記又は誤訳の訂正を目的とするものでもない。
ゆえに、本件訂正は平成6年12月14日法律第116号附則第9条第2項で準用する特許法第120条の4第2項の規定により当該訂正は認められない。
[3]特許異議申立についての判断
実用新案登録異議申立人の申立ての理由は、本件実用新案登録の請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)は、「甲第1号証ないし甲第2号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易になし得たものであるから、本件登録実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであり、本件実用新案は特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。」とするものであり、次の証拠を提出している。
刊行物1:特開昭58-204123号公報
刊行物2:特公昭48-2136号公報
本件考案は、明細書および図面の記載から見て、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「軸状ワークの外周面を加熱する高周波加熱コイル体において、前記外周面の周方向に形成された平行な複数のほぼ半円弧状の周方向加熱導体と、前記周方向加熱導体の一端同士および他端同士を接続し前記ワークの軸方向に平行な1対の軸方向加熱導体と、周方向加熱導体と軸方向加熱導体とに装着した複数の磁性体とを備え、且つ、前記磁性体は、2つ以上の異なった種類の磁性体から構成されていることを特徴とする高周波加熱コイル体。」
これに対し、刊行物1には、本件考案の従来技術に相当する「軸状ワークの外周面を加熱する高周波加熱コイル体において、前記外周面の周方向に形成された平行な複数のほぼ半円弧状の周方向加熱導体と、前記周方向加熱導体の一端同士および他端同士を接続し前記ワークの軸方向に平行な1対の軸方向加熱導体と、周方向加熱導体と軸方向加熱導体とに装着した複数の磁性体とを備える高周波加熱コイル体。」が記載されている。
本件考案と刊行物1記載の考案とを対比すると、両者は、以下の点でにおいてもっぱら相違するものと認められる。
刊行物1記載の考案は、磁性体が、2つ以上の異なった種類の磁性体から構成されていない点。
そこで、上記相違点について検討する。
刊行物2には、鋼材の表層加熱処理に用いられる高周波誘導加熱コイルに関して、第5?6図とともに、「1はコイル、2は被加熱体で、この場合はクランクシャフトを示す、3は高周波電源、4及び5は珪素鋼板などのコアー、6は純鉄などの磁性体、7はクランクシャフト両脚連結部にうがってある油通孔を示す。」(第1頁右欄第32行?第36行)、「磁性体(コア-4,5、及び磁性体6)は、(珪素鋼板、及び純鉄の)2つ以上の異なった種類の磁性体から構成されている」旨記載されている。
そして、この構成により、加熱効果の大小を変更可能とするものである。
したがって、加熱効果の大小を変更可能とするために、上記刊行物1記載の高周波加熱コイル体の磁性体を、上記刊行物2記載の2つ以上の異なった種類の磁性体から構成されているものとすることは、当業者が適宜成し得るものである。
ゆえに、本件考案は、上記刊行物1から2記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
よって、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものである。
[4]むすび
したがって、本件考案についての実用新案登録は拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものと認める。
よって、平成6年法律第116号附則第9条第7項の規定に基づく、平成7年政令第205号第3条第2項の規定により結論のとおり決定する。
異議決定日 1999-02-26 
出願番号 実願平3-61690 
審決分類 U 1 651・ 651- ZB (H05B)
最終処分 取消    
前審関与審査官 林 茂樹  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 梅辻 幹男
長崎 洋一
登録日 1996-07-09 
登録番号 実用登録第2513054号(U2513054) 
権利者 富士電子工業株式会社
大阪府八尾市老原4-16
考案の名称 高周波加熱コイル体  
代理人 大西 正夫  
代理人 中山 寛二  
代理人 大西 孝治  
代理人 木下 実三  

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