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審決分類 審判 全部申し立て   F16F
管理番号 1009219
異議申立番号 異議1998-75098  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2000-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-10-08 
確定日 1999-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 実用新案登録第2568225号「液封入式防振マウント」の実用新案に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 実用新案登録第2568225号の実用新案登録を維持する。
理由 I.手続の経緯
実用新案登録第2568225号の請求項1に係る考案についての出願は、平成4年7月14日に出願され、平成10年1月16日にその考案について実用新案の設定登録がされ、その後、その実用新案登録について、異議申立人 石原寛之 により実用新案登録異議申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年2月16日に訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月9日に訂正請求書の補正がなされ、さらに、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月3日に訂正請求書の補正がなされたものである。
II.訂正の適否
1.訂正請求書に対する補正
(1)平成11年8月9日付け手続補正書
訂正請求書中の訂正事項f及びgを追加する補正(手続補正書第5?6頁、補正の内容(5)及び(6)参照)について、訂正事項fに係る「セレーションに塗布した樹脂が確実にセレーション上端近傍の空隙内に圧縮充填されて確実な気密性を得ることができる。」という記載事項及び訂正事項gに係る「また、ボルトの頭部の下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを用いているので、確実な気密性を得ることができる。」という記載事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載されていない。また、その記載から直接的且つ一義的に導き出せるものでもない。したがって、上記訂正事項f及びgを追加する補正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものではなく、訂正請求書の要旨を変更するものであるから、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用され同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合しないので、当該補正は認められない。
(2)平成11年9月3日付け手続補正書
{補正の内容}
▲1▼ 補正a
訂正明細書中の請求項1における「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するように設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具の間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」を、「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と補正する。
▲2▼ 補正b
訂正明細書第3頁第7?10行の「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するように設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」を、「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と補正する。
{補正の適否}
▲1▼ 補正aについて
補正aは、補正前の考案の構成に欠くことができない事項の一部を限定するものである。
また、訂正明細書の「ボルト頭部下面とセレーションのローレット部とに前記嫌気性ジメタクリレート樹脂を予め塗布し」(訂正明細書【0009】段落第2?4行)、「ボルト(11)の頭部(12)裏面と上記セレーション(10)のローレット部(14)とに、ドライコーティングあるいは焼付け加工等により予め塗布しておき、この塗布済みのボルト(11)を図1に示す如く取付金具(7)の孔に圧入すると、上記貫通部(13)の間隙と、ボルト頭部(12)下方の間隙とに夫々、上記嫌気性ジメタクリレート樹脂(15)の持つ独特の可塑性により、該樹脂(15)が自動的に気密に充填される。」(訂正明細書【0014】段落第6?12行)という記載及び図面の記載から、補正aにより補正されようとする事項は直接的かつ一義的に導き出せるものである。
また、補正aは、考案の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものでもない。
したがって、補正aは、「実用新案登録請求の範囲の減縮」を目的とし、「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてなされ、「実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」ではない。
▲3▼ 補正bについて
補正bは、補正後の実用新案登録請求の範囲と考案の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、当該補正は、上記「▲1▼補正a」において述べたとおり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
{まとめ}
以上のとおりであるから、上記補正a、bは、訂正請求書の要旨を変更するものではないから、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用され同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合するので、当該補正を採用する。
2.訂正の内容
平成11年9月3日付け手続補正書による補正が認められることにより、前記訂正請求に係る訂正事項は、以下のとおりである。
▲1▼ 訂正事項a
実用新案登録に係る明細書(以下、「登録明細書」という。)の請求項1において、「上記取付金具に、頭部下方にセレーションを有するボルトを圧入により貫通して設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記貫通部の間隙に、」を、「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と訂正する。
▲2▼ 訂正事項b
「上記取付金具に、頭部下方にセレーションを有するボルトを圧入により貫通して設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記貫通部の間隙に、」(実用新案登録公報【0007】段落第7?10行)を、「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と訂正する。
▲3▼ 訂正事項c
「取付金具に、セレーションを有するボルトを圧入により貫通して設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記ボルト貫通部の間隙に、」(実用新案登録公報【0013】段落第3?5行)を、「取付金具に設けた孔に、セレーションを有するボルトを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するように設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と訂正する。
3.訂正の目的の適否;新規事項の有無及び拡張・変更の存否
▲1▼ 訂正事項aについて
訂正事項aに係る訂正は、訂正前の考案の構成に欠くことができない事項の一部を限定するものである。
また、登録明細書の
ア.「頭部(12)の下方にセレーション(10)を有するハイテンションボルト(11)が、該ボルトのセレーションに対応すべく穿設された取付金具(7)の孔に圧入により貫設されている。」(実用新案登録公報【0011】段落第3?6行)
イ.「ボルト頭部下面とセレーションのローレット部とに前記嫌気性ジメタクリレート樹脂を予め塗布し」(本件登録公報第4欄第1?2行)、「ボルト(11)の頭部(12)…ドライコーティングあるいは焼付け加工等により予め塗布しておき」(実用新案登録公報【0008】段落第3?5行)
ウ.ボルト(11)と取付金具(7)の孔が嵌合している貫通部(13)の間隙に、」(実用新案登録公報【0011】段落第8?10行))
エ.「ボルト(11)の頭部(12)裏面と上記セレーション(10)のローレット部(14)とに、ドライコーティングあるいは焼付け加工等により予め塗布しておき、この塗布済みのボルト(11)を図1に示す如く取付金具(7)の孔に圧入すると、上記貫通部(13)の間隙と、ボルト頭部(12)下方の間隙とに夫々、上記嫌気性ジメタクリレート樹脂(15)の持つ独特の可塑性により、該樹脂(15)が自動的に気密に充填される。」(実用新案登録公報【0011】段落第14?22行)
という記載及び図面の記載から、訂正されようとする事項は直接的かつ一義的に導き出せるものである。
また、訂正事項aに係る訂正は、考案の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものでもない。
したがって、訂正事項aに係る訂正は、「実用新案登録請求の範囲の減縮」を目的とし、「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてなされ、「実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」ではない。
▲2▼ 訂正事項b、cについて
訂正事項b、cに係る訂正は、訂正後の実用新案登録請求の範囲と考案の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であって、当該訂正は、上記「▲1▼訂正事項a」において述べたとおり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
4.独立実用新案登録要件
(1)訂正明細書の請求項1に係る考案
訂正明細書の請求項1に係る考案は、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
「筒状本体金具の上部開口部にゴム弾性体からなる防振基体を、下部開口部にゴム膜からなるダイヤフラムを、夫々シール状態に取着せしめて液室を形成すると共に、該液室をオリフィスを備えた仕切板にて分割し、かつ上記本体金具の下端部に椀状の取付金具を取着せしめて、上記ダイヤフラムとの間に空気室を形成してなる液封入式防振マウントにおいて、上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、嫌気性ジメタクリレート樹脂を夫々充填せしめたことを特徴とする液封入式防振マウント。」
(2)引用刊行物記載の考案
訂正明細書の請求項1に係る考案に対し、当審が通知した訂正拒絶理由で引用した刊行物1(実願昭62-161192号(実開平1-65955号)のマイクロフィルム;異議申立人・石原寛之が提出した甲第1号証)には、その明細書の記載事項及び図面の記載からみて、「略円筒状の開口部金具20の上部開口部にゴム弾性体26を、下部開口部にゴム弾性膜からなるダイヤフラム32を、夫々流体密に取着せしめて流体収容空間を形成すると共に、該流体収容空間を絞り通路42を備えた仕切部材36にて分割し、かつ上記開口部金具20の下端部にカップ状の底部金具22を取着せしめて、上記ダイヤフラムとの間に空気室34を形成してなる流体封入式マウント装置において、上記底部金具22にボルト30が立設された流体封入式マウント装置。」が記載されているものと認める。
同様に、参考技術として引用した特開昭58-142045号公報(異議申立人が提示した参考資料2)には、液体減衰機能を有するゴム支承装置に関し、「ゴム質弾性板(11)と下金具(2)とで固繞される空間は空気を封入した密封空間あるいは大気に連通する開放空間のいずれにも形成し得る」(第2頁左上欄下から3?1行)と記載されている。
同様に慣用技術として引用した特開昭49-122550号公報及び特開昭61-4710号公報公報には、ボルト等の緩み止め又はシール材として広く利用されている嫌気性接着剤(嫌気性ジメタクリレート樹脂)が記載されている。
(3)対比・判断
訂正明細書の請求項1に係る考案と訂正拒絶理由通知において引用した各刊行物に記載されたものを対比すると、いずれの刊行物においても、訂正明細書の請求項1に係る考案における「取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、嫌気性ジメタクリレート樹脂を夫々充填せしめたこと」の構成は記載されていない。そして、この構成により、特に空気室の気密性を保持するために要する部品や工数を省略して液封入式防振マウントの製造コストを低廉させるという顕著な効果を奏するものと認められる。
次に、訂正明細書の請求項1に係る考案において、ボルトと取付金具の嵌合部に適用される嫌気性接着剤(嫌気性ジメタクリレート樹脂)として、嵌合部に予めドライコーティングまたは焼き付加工により塗布して使用するタイプ(以下、「プリコーティングタイプ」という。)のものを適用したことについて、適用が容易か否かを検討する。
プリコーティングタイプの嫌気性接着剤は、それ自体周知のものであるが、一般に、それはねじ係合部に用いられており、嵌合部のシール用としてはそれと異なるタイプのものが用いられていたものと認められる。すなわち、プリコーティングタイプの接着剤は、その機能を充分に実現するため、硬化剤を封入したカプセルを確実に破壊して硬化剤を溶出させ、かつ、本剤と硬化剤を充分に混合することが必須であって、嵌合部においてはカプセルの破壊と本剤との混合が充分に達成されないために、プレコーティングタイプではない接着剤が適用されていたものと認められる(例えば、日本ロックタイト株式会社のカタログ「LOCTITE 製品一覧表」参照;平成11年8月9日付け意見書に添付された乙第13号証)。しかしながら、訂正明細書の請求項1に係る考案においては、従来プレコーティングタイプの接着剤の適用が困難と認識されていた嵌合部に対し、セレーションボルトのセレーションとボルト頭部下面の両方に接着剤を塗布すること、及び当該ボルトを圧入により貫通させて当該ボルトのセレーションが取付金具に設けた孔に嵌合するようになすことにより当該ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に嫌気性ジメタクリレート樹脂を充填せしめたことにより解決したものであり、訂正明細書の請求項1に係る考案のボルトと取付金具間の嵌合部にプレコーティングタイプの接着剤を適用することに格別の創意が認められるから、プレコートタイプの接着剤自体が周知のものであったとしても、当該嵌合部への適用が、当業者にとって、きわめて容易に想到できたものとはいえない。
したがって、訂正明細書の請求項1に係る考案は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである。
5.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正事項a?cに係る訂正は、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用され同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2?4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.実用新案登録異議の申立てについて
1.本件考案
本件請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、上記「4.独立実用新案登録要件(1)訂正明細書の請求項1に係る考案」のとおりのものである。
2.申立ての理由の概要
実用新案登録異議申立人 石原寛之は、本件考案は甲第1号証(実願昭62-161192号(実開平1-65955号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(特開平2-236063号公報)、甲第3号証(特開平3-134336号公報)、甲第4号証(特開昭55-25486号公報)、及び甲第5号証(「全接着剤用途別最適選択・使用マニュアル」、海外技術資料研究所 1981年4月30日発行、第2-27頁)に記載された考案並びに参考資料1(特開昭63-246526号公報)、参考資料2(特開昭58-142045号公報)に記載された技術的事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定に違反し、本件考案についての実用新案登録は取り消すべき旨主張している。
3.取消理由通知において引用した刊行物記載の考案及び申立人が提出した甲各号証記載の考案
甲第1号証及び参考資料2には、上記「II.訂正の適否:3.独立特許要件:(2)引用刊行物記載の考案」において記載したとおりの考案が記載されている。
甲第2号証(特開平2-236063号公報)には、取付板とのシール性を維持しつつ取付板からボルト脚部を立設することができるシール軸固定構造に関し、取付板を貫通する脚部とこの脚部へ連結された頭部とを備えるシール軸の前記脚部には取付板圧入用のセレーションが形成され、前記頭部には取付板に面してオーリング収容用溝が形成されたものが記載されている(第1頁左下欄、右下欄参照)。
甲第3号証(特開平3-134336号)には、内筒と外筒の間に介装された防振ゴム体の内部に空洞部を形成した液体封入型ブッシュに関し、外筒に設けた液体注入孔をタッピンねじにて閉塞することが記載されている(請求の範囲参照)。
そして、液体注入孔の閉塞にあたっては、タッピンねじとともに嫌気性接着剤あるいはホットメルト系接着剤等のシール剤を併用するのが望ましいこと、これによりシール性の向上が図れることが記載されている(第2頁右上欄第13行?左下欄第3行参照)。
甲第4号証(特開昭55-25486号公報)には、嫌気性接着剤および/またはシール組成物に関するもので、その一例として、ジメタクリレート樹脂であるジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートを主成分とする組成物が挙げられている(請求の範囲参照)。
そして、嫌気性接着剤が、例えばナットおよびボルト用の弛み止めコンパウンドのように、隣接面間の接合部をシールまたは型締めするために用いられることが記載されている(第2頁右下欄第8?18行参照)。
甲第5号証(「全接着剤 用途別最適選択・使用マニュアル」、海外技術資料研究所、1981年4月30日発行、第2-27頁)には、嫌気性接着剤の具体例としてアメリカン・シーラント社のロックタイト(商品名)が例示されており、その用途として、各種ネジ、ボルトなどのゆるみ止め、嵌合部の充填に用いられることが記載されている((2)-6-1欄参照)。
参考資料1(特開昭63-246526号)には、液封入型防振支持具に関し、帽子状鋼製下枠1の外周部に主弾性体1jを介して帽子状上枠6を配し、前記下枠1の円筒部1cの内側に連通孔3aを有する仕切板8を装着し、円筒部1cの下部をダイヤフラム4で塞ぎ、その内部に主液室8a、中間液室8b、副液室8cを設けた防振支持具が記載されている(請求の範囲参照)。そして、前記上枠6に設けた上部天井中心孔6bに、セレーション2cを有する螺棒2bが回動不能に嵌着され、顎部2a上面はシール材7を介して上枠6下面に液密圧着され、ダイヤフラム4の下方には、底板5が固定されて、これらの間に空気室を形成しており、底板5が固定される下枠1もセレーションを有する螺棒(ボルト)にて取付けられることが記載されている(第2頁右上欄第20行?右下欄第7行及び第1、2図参照)。
4.対比・判断
本件考案に係る「取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、嫌気性ジメタクリレート樹脂を夫々充填せしめたこと」の構成は、上記取消理由通知で引用したいずれの刊行物並びに甲各号証及び参考資料1、2には記載されていない。また、ドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布した嫌気性ジメタクリレート樹脂からなる接着剤を液封入式防振マウントの取付金具とボルトの嵌合部に適用することも、上記II.訂正の適否:3.独立特許要件:(3)対比・判断」において述べた理由のとおり、当業者にとって、きわめて容易に想到できたものとはいえないことから、結局、本件考案は、取消理由通知において引用した各刊行物に記載された考案並びに甲各号証に記載された考案及び参考資料1、2に記載された技術的事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものとは認められない。
5.むすび
以上のとおりであるから、異議申立の理由及び証拠によっては、本件考案に係る実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に本件考案に係る実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
液封入式防振マウント
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 筒状本体金具の上部開口部にゴム弾性体からなる防振基体を、下部開口部にゴム膜からなるダイヤフラムを、夫々シール状態に取着せしめて液室を形成すると共に、該液室をオリフィスを備えた仕切板にて分割し、かつ上記本体金具の下端部に椀状の取付金具を取着せしめて、上記ダイヤフラムとの間に空気室を形成してなる液封入式防振マウントにおいて、上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボトルであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、嫌気性ジメタクリレート樹脂を夫々充填せしめたことを特徴とする液封入式防振マウント。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は自動車のエンジン等の振動発生体を防振的に支承するのに用いる液封入式防振マウントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
振動に対する減衰機能は容積可変の室内に封入した液体により担持させ、一方、振動絶縁性は液体封入のための室壁を形成するゴム弾性体からなる防振基体によって担持させ、低周波振動に対する減衰係数が大きく、かつ高周波振動に高い絶縁性を有する特性を持つ液封入式防振マウントは従来から知られており、例えば特開昭61-45130号公報によって開示されている。
【0003】
かかる防振マウントは、筒状本体金具の上部開口部にゴム弾性体からなる防振基体を、下部開口部にシール状態にダイヤフラムを夫々取着せしめて液室を形成すると共に、該液室をオリフィスを備えた仕切板にて分割し、一方、上記本体金具の下端部に椀状の取付金具を取着せしめてダイヤフラムとの間に空気室を形成してなる構造を有している。そして防振基体と取付金具には、エンジン又は車体取付用のボルトが夫々上下に突出して設けられており、防振基体のものは、接触面積を大にして設けられたボルト基部のアンカー部が該防振基体に加硫接着され、また、取付金具のものは該取付金具の底部外側に通常溶接により固着されている。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
ところで近年に至り、エンジン等の被支承物が大型化する傾向があり、それらの重量が増大した場合、上記ボルトの締付力は強いものが要求される。ボルトの軸力を高めるには、ハイテンションボルトを用いることが考えられるが、この場合特に前記取付金具において、ハイテンションボルトとの溶接ではおくれ破壊が起こる可能性がある。
【0005】
この点を解消するために採用されているのが、頭部下方にセレーションを有したボルトを、該ボルトのセレーションに対応するよう上記取付金具に設けた孔に圧入する方法であり、これによればボルトの取付金具に対する取付を強いものとすることができる。
【0006】
しかしながら、上記圧入によるボルトの取付にあっては、取付金具とダイヤフラムとで構成する空気室の気密性を保つことができず、そのため、ボルトと取付金具との界面にゴムを加硫接着したり、空気室密閉用の椀状の別金具を取付金具内側に挿入したりする必要があり、それに要する工数,部品等はマウント自体を少なからずコスト高なものとしていた。
【0007】
本考案は叙上の如き実状に対処すべくなされたものであり、特に取付金具のボルト廻りに新規な構成を見出すことにより、マウント空気室の気密性を確保すると共に、上記工数,部品等を要さずに低コストで防振マウントを製造することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち、上記目的に適合する本考案の液封入式防振マウントの特徴は、筒状本体金具の防振基体とダイヤフラムの間に液室を設けて、該液室をオリフィスを備えた仕切板により分割すると共に、本体金具の下端部に椀状取付金具を取着せしめてダイヤフラムとの間に空気室を形成してなる防振マウントにおいて、上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気制ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工のよりあらかじめ塗布したものを圧入にやり貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、嫌気性ジメタクリレート樹脂を夫々充填せしめたところにある。
【0009】
【作用】
上記構成を有する本考案液封入式防振マウントにおいては、前記従来のゴム加硫接着によるシール、あるいは空気室密閉用カバー金具を用いる必要がなく、ボルト頭部下面とセレーションのローレット部とに前記嫌気性ジメタクリレート樹脂を予め塗布し、このボルトを取付金具に圧入するとの極めて簡便な方法によって、取付金具とダイヤフラムとで構成する空気室の気密性を確保することが可能で、これによりマウントの製造コストを著しく低廉ならしめると共に、さらに、上記樹脂が硬化することによって、ボルトの取付金具に対する取付強度も同時に確保して外部からの強い締付力に対しても充分対応することが可能である。
【0010】
さらに、上記嫌気性ジメタクリレート樹脂は、硬化した後は、水,不凍液、あるいはエンジンオイル等にも冒されず、上記防振マウントに製造当初の特性を永く維持させることが可能である。
【0011】
【実施例】
以下、更に添付図面を参照して、本考案実施例の液封入式防振マウントを説明する。
【0012】
図1は実施例防振マウントを示す断面図であり、該マウントは、筒状の本体金具(1)の上記開口部に、ゴム弾性体からなりアンカープレート付ボルト(9)を有する防振基体(2)を加硫接着すると共に、該金具(1)の下部開口部に、ゴム膜からなるダイヤフラム(3)をシール状態に取着せしめて液室(4)を形成している。この液室(4)はオリフィス(5)を備えた仕切板(6)によって、上記オリフィス(5)により連通する主液室(4a)と副液室(4b)とに分割されている。また、上記本体金具(1)下端部には椀状の取付金具(7)が取着されて、上記ダイヤフラム(3)とで空気室(8)を形成している。
【0013】
一方、このマウントは車体やエンジンの取付部との締付力を確保するために、取付金具(7)側においては、頭部(12)の下方にセレーション(10)を有するハイテンションボルト(11)が、該ボルトのセレーションに対応すべく穿設された取付金具(7)の孔に圧入により貫通されている。
【0014】
そして、本考案においては、同図に示す如く、上記ボルト頭部(12)と取付金具(7)との間隙に、そして、ボルト(11)と取付金具(7)の孔が嵌合している貫通部(13)の間隙に、夫々嫌気性ジメタクリレート樹脂(15)を充填せしめた構成を有している。上記嫌気性ジメタクリレート樹脂(15)としては、例えばロックタイト社製ドライロック等が一例として挙げられる。また、上記樹脂(15)の充填の方法としては、図2に示す如く、ボルト(11)の頭部(12)裏面と上記セレーション(10)のローレット部(14)とに、ドライコーティングあるいは焼付け加工等により予め塗布しておき、この塗布済のボルト(11)を図1に示す如く取付金具(7)の孔に圧入すると、上記貫通部(13)の間隙と、ボルト頭部(12)下方の間隙とに夫々、上記嫌気性ジメタクリレート樹脂(15)の持つ独特の可塑性により、該樹脂(15)が自動的に気密に充填される。
【0015】
しかして上記の如く、ボルト(11)と取付金具(7)の結合部に嫌気性ジメタクリレート樹脂(15)を充填せしめた本考案実施例の防振マウントにおいては、ボルト(11)の所定部位に上記樹脂(15)を塗布してこれを圧入するとの極めて簡便な方法によって、取付金具(7)とダイヤフラム(3)とで形成する空気室(8)の気室性を確保することが可能で、従来のゴム加硫によるものや、密閉用金具を用いたものに比べ、格段の低工数・低コストにてマウントを製造することが可能となる。
【0016】
そして、上記本考案実施例の防振マウントでは、軸力の高いボルトを取付金具にセレーション嵌合により圧入し、しかも上記樹脂(15)の硬化も加わることから、車体やエンジン取付部に対し強い締付力で取着することが可能であると共に、空気室が上記のように気密性を保たれてなるため、100Hz以上の高周波数域の絶対ばね定数を有効に低減させることが可能である。また、この実施例の防振マウントでは、上記空気室(8)のボルト締結後の耐圧(水)力は、常温で5kg/cm^(2)以上を確保することができ、さらに上記嫌気性ジメタクリレート樹脂(15)は、硬化後は、水,不凍液、あるいはエンジンオイル等にも冒されることがなく、防振マウントに製造当初の特性を永く維持させることが可能である。
【0017】
【考案の効果】
以上説明したように、本考案の液封入式防振マウントは、筒状本体金具の下端部に取着され、ダイヤフラムとで液室下方に空気室を形成するマウントの取付金具に設けた孔に、セレーションを有するボルトを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するように設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、嫌気性ジメタクリレート樹脂を夫々充填せしめたものであり、ボルト頭部下面とセレーションのローレット部とに上記樹脂を塗布し、このボルトを取付金具に圧入するとの極めて簡便な方法によって、上記空気室の気密性を完全に確保することが可能で、これにより、従来気密性保持に要した工数や部品を省略して該マウントの製造コストを著しく低廉ならしめると共に、セレーションを用いた圧入と硬化した樹脂とによりボルトの取付強度も同時に確保して外部からの強い締付トルクにも充分対応し、さらに、耐久性に優れる上記樹脂により、上記防振マウントに製造当初の特性を長期に亘り維持させる等、優れた多くの効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本考案実施例の液封入式防振マウントを示す断面図である。
【図2】
本考案実施例マウントにおけるボルトの嫌気性ジメタクリレート樹脂の塗布範囲を示す拡大正面図である。
【符号の説明】
(1) 本体金具
(2) 防振基体
(3) ダイヤフラム
(4) 液室
(5) オリフィス
(6) 仕切板
(7) 取付金具
(8) 空気室
(9) アンカープレート付ボルト
(10) セレーション
(11) セレーション付ボルト
(12) ボルト頭部
(13) 貫通部
(14) ローレット部
(15) 嫌気性ジメタクリレート樹脂
訂正の要旨 ▲1▼訂正事項a
実用新案登録第2568225号考案の明細書中実用新案登録請求の範囲の請求項1において、「上記取付金具に、頭部下方にセレーションを有するボルトを圧入により貫通して設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記貫通部の間隙に、」とあるのを、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と訂正する。
▲2▼訂正事項b
実用新案登録第2568225号考案の明細書第3頁第3?5行における「上記取付金具に、頭部下方にセレーションを有するボルトを圧入により貫通して設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記貫通部の間隙に、」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として、「上記取付金具に設けた孔に、頭部下方にセレーションを有するボルトであってその頭部下面とセレーションとの双方に可塑性を有する嫌気性ジメタクリレート樹脂をドライコーティングまたは焼き付加工によりあらかじめ塗布したものを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するようになすことにより上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と訂正する。
▲3▼訂正事項c
実用新案登録第2568225号考案の明細書第5頁12?14行における「取付金具に、セレーションを有するボルトを圧入により貫通して設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記ボルト貫通部の間隙に、」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として、「取付金具に設けた孔に、セレーションを有するボルトを圧入により貫通させて上記セレーションが上記孔に嵌合するように設けると共に、上記ボルトの頭部と取付金具との間隙ならびに上記セレーションと上記孔の間隙に、」と訂正する。
異議決定日 1999-10-22 
出願番号 実願平4-55534 
審決分類 U 1 651・ 121- YA (F16F)
最終処分 維持    
前審関与審査官 内田 博之  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 鳥居 稔
和田 雄二
登録日 1998-01-16 
登録番号 実用登録第2568225号(U2568225) 
権利者 東洋ゴム工業株式会社
大阪府大阪市西区江戸堀1丁目17番18号
考案の名称 液封入式防振マウント  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 正人  

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