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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60N
管理番号 1014940
審判番号 審判1998-4787  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2000-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-03-25 
確定日 1999-12-08 
事件の表示 昭和62年実用新案登録願第140664号「パワーシート装置」拒絶査定に対する審判事件(平成7年1月25日出願公告、実公平7-2290)について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本願は昭和62年9月15日の出願であって、出願公告をされた明細書と図面の記載によれば(なお、出願公告の後に平成8年4月12日付け、平成10年4月24日付けでそれぞれなされた手続補正はともに本審決と同日付けで却下された。)、(1)「ケーブルと樹脂チューブとの間の▲摺▼動抵抗を小さくして、伝達効率を向上させると共に、たたき音の発生を防止することを、その技術的課題と」(明細書2頁18行?3頁1行、公告公報3欄3?5行)してなされた、
(2)「シートと、該シートに取り付けられ前記シートを動作させるシート動作機構と、該シート動作機構を作動させるモータと、鉄線を捩じつて構成されると共に樹脂チューブに覆われ前記モータからの回転トルクを前記シート動作機構に伝達するケーブルとを有するパワーシート装置において、前記鉄線を捩じつて構成することで生じる表面の凹凸を無くすように前記ケーブルの表面を覆うと共に前記樹脂チューブと▲摺▼接可能な熱収縮チューブ又は樹脂コーティングを有するパワーシート装置」(平成6年4月4日付け手続補正書別紙)
との構成を要旨とする
考案についてのものである。
そして、上記(2)の構成について、
(3)「シートを動作させるシート動作機構」には、「本考案の一実施例を添付図面に基づいて説明する」記載中の「シート動作機構10のロアレール11は、ブラケツト12を介してフロア2に固定されており、アツパレール13は、ブラケツト14を介してシート1に固定され、ロアレール11に▲摺▼動可能に装着されて」(明細書4頁2?6行、公告公報3欄27?30行)おり、「アツパレール13がロアレール11上を前後▲摺▼動しシート1を前後移動させる」(明細書4頁18?20行、公告公報4欄2、3行)との記載によれば、「シート1を前後移動させる」ものが含まれること、(4)「鉄線を捩じつて構成することで生じる表面の凹凸を無くすように」「ケーブルの表面を覆うと共に」「樹脂チューブと▲摺▼接可能な熱収縮チューブ」は、被覆の表面の凹凸の程度と奏される効果との関係について明細書中「ケーブル21の表面には、第3図に示されるように熱収縮チューブ23が被覆されている。これにより、ケーブル21の表面の凸凹が無くなるので、作動時におけるケーブル21と樹脂チューブ22との間の摩擦抵抗が小さくなり、ケーブル21の回転がスムーズになるため、伝達効率が向上すると共に、ケーブル21と樹脂チューブ22との接触によるたたき音の発生を防止することができ、作動音を小さくすることができる」(5頁4?13行、公告公報4欄6?14行。「作用」及び「考案の効果」の項にも同様の説明がある。)と説明されているだけであって、定量的な説明(所定の効果を奏するためには凹凸の程度をどの程度以下とする必要があるのか、そのためには被覆の条件(ワイヤロープの種類・径、素線の材料・径、「熱収縮チューブ」の材料・厚さ・径・収縮率、温度等の収縮処理の条件等)を具体的にどのようなものとする必要があるのか)はなされていないことを考えれば、被覆によって摩擦・騒音が十分低減しうる程度に滑らかな表面の得られるものであれは足りると考えられること
が認められる。
2 原査定の理由(実用新案登録異議申立人ユニフレックス株式会社に対する登録異議の決定の理由に同じ。)中引用された甲第1号証(実願昭60-2920号(実開昭61-119836号)のマイクロフィルム)には、
(1)「車両用シートを所望のスライド位置に前後動させる左右一対のスライド機構の一方ヘモータを配し、該モータ及び他方のスライド機構の対応部位にそれぞれ設けた連結部同士をインナワイヤで接続し、そしてこのインナワイヤの左右両端部を連結筒体で覆うと共にこの両連結筒体間をアウタケーシングで覆い、一方のスライド機構に加えてモータの回転駆動力をインナワイヤを介して他方のスライド機構へも伝達作動せしめる車両用シートのパワースライド装置」(明細書1頁実用新案登録請求の範囲の欄)に関する考案が記載されている。
そして、
(2)「シート3下面に固設されたシート側スライドレール4、5」(明細書2頁12、13行)を構成要素の一として「スライド機構16、17」が構成される(明細書3頁末行?4頁8行参照)ことを考えれば、「スライド機構16、17」は「シート3」に取付けられ「車両用シートを所望のスライド位置に前後動させる」ものであること、
(3)「インナワイヤ18」について、ワイヤ製のたわみ軸としては鋼線材を素線としたより線形のものがふつうであることを考えれば、その名称からより線形たわみ軸であると考えられること、
(4)合成樹脂を用いた案内筒がたわみ軸の案内筒として当業者に周知のものであることを考えれば、「アウタケーシング19」として合成樹脂を用いたものが使用しうること
は上記(1)の「車両用シートのパワースライド装置」について当業者がその技術知識に基づいて理解しうることと認められる。
3 原査定の理由中引用された甲第5号証(実公昭56-14425号公報)には
(1)「コアの外周面に金属線が等間隔に緊密につる巻された螺旋歯を有する有歯可撓軸において、該有歯可撓軸の外面形状をほぼ正確に保持する如く合成樹脂コートが設けられてなることを特徴とする合成樹脂コートを有する有歯可撓軸」(実用新案登録請求の範囲の欄)との構成を有する考案が記載されており、
(2)この考案の適用される「公知の有歯可撓軸3は、金属撚線または少くとも1本の撚られていない金属線からなる芯線10を中心に、数本の金属線からなる補強層11,12,13……が原則として互に逆方向に螺旋巻されてなる耐伸縮性、耐捻性の可撓性コア1の外周面に、少くとも1本の金属線が等間隔に緊密につる巻された螺旋歯2を有するものであつた。このように構成されているので、螺旋歯2と歯車とを係合させてそれらの一方の作動によつて他方を従動させる機能、また、二本の有歯可撓軸3の一領域を係合させて、一方の作動によつて他方を従動させる機能を有する。前記有歯可撓軸3の作動は、その軸方向の押引作動のほかに、回転作動によつても他方を従動させることも可能である」(1欄21?34行)ことが記載されている。また、
(3)上記(1)の考案では、上記(2)の「有歯可撓軸3の外周面に、該可撓軸の外面形状をほぼ保持する如く合成樹脂コート4が設けられている。このようなコート4は、例えば、テフロン,ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート,および塩化ビニール等からなる熱収縮性合成樹脂の適当な肉厚と内径を有する管(図示せず)をあらかじめ製作し、この管内に有歯可撓軸3を挿入し、しかる後加熱して管を収縮させることにより、前記有歯可撓軸3の外面形状をほぼ保持したコート4が可撓軸の外面に密着して極めて容易にコート4を有する有歯可撓軸Aを得ることができる」(3欄1?12行)こと、
(4)「コート4を有する有歯可撓軸Aを歯車等と係合させて作動した場合は、摩擦は従来になく軽減され、騒音も極めて少く」(3欄15?17行)、「特に、有歯可撓軸3どうしの前述の如き係合において、少くとも一方を本考案のコートを有する有歯可撓軸Aとすることにより、双方の係合時の摩擦が従来になく少くなり、かつ磨耗も少くなる」(4欄7?10行)こと
が記載されている。そして、
(5)「可撓性コア1」は、「芯線10を中心に、数本の金属線からなる補強層11,12,13……が原則として互に逆方向に螺旋巻されてなる耐伸縮性、耐捻性の可撓性コア1」(上記(2))との記載によれば、より線形たわみ軸であること、
(6)「コート4」は、「例えば、テフロン,ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート,および塩化ビニール等からなる熱収縮性合成樹脂の適当な肉厚と内径を有する管」「をあらかじま製作し、この管内に有歯可撓軸3を挿入し、しかる後加熱して管を収縮させることにより」施されるものである(上記(3))ことを考えれば、熱収縮チューブの被覆であること、
(7)上記(4)の記載よれば、適切な被覆の条件を選んで(「テフロン…等からなる…適当な肉厚と内径を有する…」(上記(3))熱収縮チューブの被覆を施した「有歯可撓軸Aを歯車等と係合させて作動した場合」に、また「有歯可撓軸A」「双方の係合時」に、「歯車」・他方の「有歯可撓軸A」と擦れ合うたわみ軸(「可撓性コア1」)の被覆された表面は、摩擦・騒音が十分低減される(「摩擦が従来になく軽減され、騒音も極めて少く」、「摩擦が従来になく少くなり、かつ磨耗も少くなる」)程度に滑らかなものとなっていることは、この「合成樹脂コートを有する有歯可撓軸」について当業者が理解しうることと認められる。
4 本願発明の「パワーシート装置」と甲第1号証に示された「車両用シートのパワースライド装置」(上記2(1))を取付けたパワーシート(以下「甲第1号証のパワーシート」という。)とを対比すると、両者はともにモータ(「モータ17」・「モータ10」)の回転をたわみ軸(「ケーブル21」・「インナワイヤ18」)で伝えてシート(「シート1」・「シート3」)の位置を調節するパワーシートであって、甲第1号証のものについて、
▲1▼「スライド機構16、17」は、「シート3」に取付けられ「車両用シートを所望のスライド位置に前後動させる」ものである(上記2(2))から、「シートに取付けられ前記シートを動作させるシート動作機構」といいうるものである(上記1(3))こと、
▲2▼「アウタケーシング19」は、合成樹脂を用いたものを使用した場合(上記2(4))、「樹脂チューブ22」といいうるものであること、
▲3▼「インナワイヤ18」は、鋼線材を素線としたより線形たわみ軸と考えることができ(上記2(3))「樹脂チューブ22」といいうる「アウタケーシングで覆」(上記2(1))われ(「鉄線を捩じつて構成されると共に樹脂チューブに覆われ」)ており、「一方のスライド機構に加えてモータの回転駆動力をインナワイヤを介して他方のスライド機構へも伝達作動せしめる」(上記2(1))ものであるから、「モータからの回転トルクを」「シート動作機構に伝達するケーブル」といいうるものであること
が認められることを考えれば、甲第1号証のパワーシートは本願考案の要旨とする構成のうち
「シートと、該シートに取付けられ前記シートを動作させるシートに動作機構と、該シート動作機構を作動させるモータと、鉄線をを捩じつて構成されると共に樹脂チューブに覆われ前記モータからの回転トルクを前記シート動作機構に伝達するケーブルとを有する」「パワーシート装置」
との要件をそなえるものであることが認められ、
▲4▼たわみ軸について、本願考案の「ケーブル21」は「鉄線を捩じつて構成することで生じる表面の凹凸を無くすように前記ケーブルの表面を覆うと共に前記樹脂チューブと▲摺▼接可能な熱収縮チューブ又は樹脂コーテイングを有する」のに対し、甲第1号証の「インナワイヤ18」は表面に被覆を有しない点
で両者は構成上相違するものと認められる。
5 本願考案の容易性如何につき検討する。
(1)摩擦、騒音の低減はより線形たわみ軸を用いる場合の周知の技術課題であり((イ)実願昭54-78042号(実開昭55-177520号)のマイクロフィルム(原審における実用新案登録異議申立人ユニフレックス株式会社の引用した甲第3号証)、(ロ)特開昭55-115617号公報(原審における実用新案登録異議申立人池田物産株式会社の引用した甲第3号証)、(ハ)特開昭44-5041号公報参照。自動車に用いる場合にも課題となっていることについて(ロ)(1頁右下欄17行?2頁左上欄5行)、(ハ)(1頁右欄17?20行)の公報参照)、より線形たわみ軸に合成樹脂の被覆を施すことは摩擦、騒音の低減の手段として周知のものである(上記(イ)?(ハ)の刊行物参照)ことを考えれば、甲第1号証のパワーシートに基づき、摩擦、騒音の低減のためそのたわみ軸(「インナワイヤ18」)に合成樹脂の被覆を施すことを企図することに困難性を認めることはできない。
(2)熱収縮チューブは被覆用の合成樹脂材料として当業者に周知のものである(マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会編「マグローヒル科学技術用語大辞典」(株)日刊工業新聞社(昭和54年3月20日)1054頁左欄「熱収縮チューブ」の項参照。物干竿の被覆に用いられたことで一般社会人にも周知のものであることも想起されたい。)。そして甲第5号証には熱収縮チューブをより線形たわみ軸の被覆に用いた場合、被覆処理が容易であり(上記3(3)「…コート4が可撓軸の外面に密着して極めて容易にコート4を有する有歯可撓軸Aを得ることができる」)、摩擦、騒音の低減をはかりうる(上記3(7))ことが示されていることを考えれば、熱収縮チューブは甲第1号証のパワーシートのたわみ軸に合成樹脂の被覆を施すことを企図した際(上記(1))当業者が随時利用を試みうる範囲のものと認められる。そして具体化のための詳細設計において適切な被覆の条件を選ぶことに困難性を認めるべき事情は見当らない。
(3)甲第1号証のパワーシートに基づき、そのたわみ軸に合成樹脂の被覆を施すことを企図し(上記(1))、熱収縮チューブの利用を試み、適切な被覆の条件を選ぶ(上記(2))ことにより到達することのできるパワーシートは、そのたわみ軸が、適切な条件を選んで熱収縮チューブの被覆を施すことにより摩擦、騒音を十分低減しうる程度に滑らかな表面のものとなされていることを考えれば、「鉄線を捩じつて構成することで生じる表面の凹凸を無くすように」「ケーブルの表面を覆うと共に」「樹脂チューブと▲摺▼接可能な熱収縮チューブ」「を有する」といいうる(上記1(4))ものであって、それゆえ、本願考案の構成要件をすべてそなえるものと認められる。そして上記(1)、(2)の検討によれば、このパワーシートに到達する過程に当業者にとって困難な点を見出すことができず、結局本願考案は出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができるものであったと認めることができる。
6 以上検討したとおり本願考案は、甲第1号証に示された考案に基づき甲第5号証に示された被覆を適用することにより、出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができるものであったと認められる。したがって本願考案は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1999-09-22 
結審通知日 1999-10-12 
審決日 1999-10-20 
出願番号 実願昭62-140664 
審決分類 U 1 8・ 121- Z (B60N)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 阿部 寛師田 忍和泉 等  
特許庁審判長 岡田 幸夫
特許庁審判官 梅辻 幹男
藤本 信男
考案の名称 パワーシート装置  

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