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審決分類 審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 無効としない B60P
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない B60P
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B60P
管理番号 1014949
審判番号 審判1997-21769  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2000-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-12-25 
確定日 2000-03-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第2004227号実用新案「ベルト金具係合用レール」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 [1]手続の経緯・本件考案の要旨
本件実用新案登録第2004227号(以下、「本件実用新案登録」という)は、昭和63年6月17日に実用新案登録出願され、出願公告(実公平5-19242号)後の平成6年1月31日に設定の登録がなされたもの(以下、そこに記載される考案を「本件訂正前の考案という)であり、その後願書に添付した明細書の訂正をすることについての審判請求(平成9年審判第17385号)が平成9年10月13日付けでなされ、その請求を認容する審決が平成10年2月2日に確定している(以下、そこに記載される考案を「本件訂正後の考案という)。
本件訂正後の考案の要旨は、訂正された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。「荷締めベルトの端部に装着されていて、長方形穴に挿入される形状のベルト金具を係合させるための多数の係合穴がレール本体にその長さ方向に沿って一定間隔をおいて設けられて、コンテナ車などの側板の内側に取付けられるベルト金具係合用レールであって、前記係合穴が、縦穴と横穴とを直交させた形状になっていて、同一係合穴に対してベルト金具が縦横両方向に係合可能になっていることを特徴とするベルト金具係合用レール。」
なお、前記訂正審判の認容により無効審判の対象に変更が生じており、本来当該変更の内容を請求人に通知し、変更された後の審判の対象について意見を申し立てる機会を与えるべきところ、請求人は、平成9年12月25日付け審判請求書において、訂正審判の不当性について言及すると共に、訂正審判確定後の平成10年3月12日に無効審判請求理由補充書を提出し、訂正審判の認容を前提として意見を述べており、改めて請求人に意見を聞くことなく審理を進めた。
[2]請求人の主張
請求人の主張の概要は、以下の4点である。
(無効理由1)
本件実用新案登録の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細な説明に記載したものであるとも、また、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあるとも認められないので本件実用新案登録は旧実用新案法第5条第4項第1号及び第2号に違反するものである(審判請求書における主張)。
(無効理由2)
訂正審判での訂正内容は、旧実用新案法第39条第1項第1?3号のいずれを目的とするものであるとも認められないし、仮にそのいずれかを目的とするものであったとしても、該訂正は実用新案登録請求の範囲を実質的に変更するものであって、明らかに旧実用新案法第39条第2項に違反しており、このような違法な訂正がなされた本件実用新案登録は、読替え旧実用新案法第37条第1項第2の2号の規定に該当し、無効にされるべきである。
また、審決には、不適な用語が使われているとともに、審決の理由は、訂正が誤記の訂正を目的とするものであるとの十分な理由となっていないし、この訂正が誤記の訂正を目的とするものであっても、実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものでないことについて審決は全くその根拠を示していなく、審理不尽の違法性があるといわざるを得ない(審判請求書、無効審判請求理由補充書及び審判事件弁駁書における主張)。
(無効理由3)
本件明細書についての平成4年11月19日付け手続補正書による補正は、旧実用新案法13条で準用する旧特許法第53条の規定に違反してなされたものであるから、本件実用新案登録は、旧実用新案法第9条で準用する旧特許法第40条の規定により、その補正書が提出されたときに実用新案登録出願されたものとみなされる。そうすると、本件考案は、実願昭63-80457号(実開平2-2247号)の願書に最初に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフィルムに記載された考案であるから、旧実用新案法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることができないものであり、本件実用新案登録は旧実用新案法第37条第1項第1号に該当し無効とされるべきものである(無効審判請求理由補充書における主張)。
(無効理由4)
本件考案は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証乃至甲第8号証に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、旧実用新案法第3条第2項の規定により登録を受けることができないものであり、本件実用新案登録は旧実用新案法第37条第1項第1号に該当し無効とされるべきものである(無効審判請求理由補充書における主張)。
[3]被請求人の主張
(無効理由1)に対して
訂正審判の審決の確定により、本件実用新案登録の明細書においては、「ベルト本体」の用語は、その出願時に遡及して明細書に存在しなくなったので、本件審判請求の理由は全て無くなった。
(無効理由2)に対して
本件訂正は、平成4年11月19日付けで行った全文補正明細書を通読すれば、その技術内容は容易に理解できるが、「単なる誤記」によって、「実用新案登録請求の範囲」の記載が、それ自体では一部が不明瞭であり、しかも「考案の詳細な説明」の「実施例」と多少矛盾するのであるが、これを訂正すれば、瞬時に全体が整合するという内容のものである。従って、本件訂正は、単なる「誤記の訂正」によって、一部が不明りょうであった「実用新案登録請求の範囲」の記載が明りょうになるに止まり、その「実用新案登録請求の範囲」の拡張、或いは変更を伴うものではない。
また、審決に請求人が主張するような違法はない。
(無効理由3)に対して
出願当初の明細書で使用されていた「十字状」とは、広辞苑の説明を総合すると、「縦横に交差(交叉)したありさま」と解するのが常識的、或いは一般的解釈といえる。そして、技術界のみならず、世の中一般においても、「十字」或いは「十文字」の用語は、様々な面で多用されている等の理由から、「十字状」とは、まさに「縦穴と横穴とを直交させた形状」を意味するのであるから、平成4年11月19日付け提出の手続補正書における補正は、「十字状」の用語を単に分かり易いように他の言葉(用語)におきかえたにすぎないと同時に、権利範囲が拡張されることもないので、何等要旨変更ではない。
(無効理由4)に対して
本件考案は、甲第5?8号証に対して十二分に進歩性を有し、本登録は、旧実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるとする審判請求人の主張は、全く理由はない。
[4]証拠
請求人は、以下の甲号証を提出している。
・甲第1号証(実公平5-19242号公報)(本件公告公報)
・甲第2号証(本件実用新案登録に対する訂正審判請求書)
・甲第3号証(本件実用新案登録についての訂正審判審決書)
・甲第4号証(本件当初明細書)
・甲第5号証(米国特許第3405660号明細書)
・甲第6号証(実願昭54-177230号(実開昭56-93335号)のマイクロフィルム)
・甲第7号証(実願昭54-138816号(実開昭56-56443号)のマイクロフィルム)
・甲第8号証(実願昭61-144273号(実開昭63-48647号)のマイクロフィルム)
・甲第9号証(判決書)(平成9年(行ケ)第64号)
被請求人は、以下の乙号証を提出している。
・乙第1号証(本件実用新案登録に対する訂正審判請求書)(甲第2号証と同じもの)
・乙第2号証(本件実用新案登録についての訂正審判審決書)(甲第3号証と同じもの)
・乙第3号証(特許法概説)
・乙第4号証(昭和42年審判第5444号)
・乙第5号証(昭和54年審判第15234号)
・乙第6号証(特許法概説)
・乙第7号証(本件当初明細書)(甲第4号証と同じもの)
・乙第8号証(広辞苑)
・乙第9号証(本件に対する拒絶理由通知書)
・乙第10号証(乙第9号証の拒絶理由通知書に対する意見書)
[5]当審の判断
5-1無効理由1について
前記[1]で記載したように本件実用新案登録については、願書に添付した明細書の訂正をすることについての審判請求(平成9年審判第17385号)が平成9年10月13日付けでなされ、その請求を認容する審決が平成10年2月2日に確定している。その結果、本件実用新案登録の明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明中の課題を解決するための手段の項に記載されていた「ベルト本体」は、「レール本体」に訂正されることになった。
してみると、本件実用新案登録の明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明には、請求人が主張するような記載不備は存在しないことになったので、請求人の主張を採用できない。
なお、平成5年法律第26号の実用新案法の附則第4条第1項に規定される経過措置により、前記法律が適用される以前の実用新案法(以下、「旧実用新案法」という)第40条(訂正の無効の審判)の規定が削除され、旧実用新案法第37条第1項に第2の2号として訂正が旧実用新案法第39条第1項ただし書、第2項若しくは第3項の規定に違反してなされた場合が無効理由として新たに規定された。その結果本件実用新案登録は、無効理由として訂正違反を主張することは許されることになったが、訂正は無効であり、本件訂正前の考案は、記載不備が存在するという主張は許されないことになった。
即ち、この点についての請求人の主張は採用できない。
5-2無効理由2について
本件実用新案登録の訂正前の明細書(以下、「訂正前明細書」という)の実用新案登録請求の範囲には、「荷締めベルトの端部に装着されていて、長方形穴に挿入される形状のベルト金具を係合させるための多数の係合穴がベルト本体にその長さ方向に沿って一定間隔をおいて設けられて、コンテナ車などの側板の内側に取付けられるベルト金具係合用レールであって、前記係合穴が、縦穴と横穴とを直交させた形状になっていて、同一係合穴に対してベルト金具が縦横両方向に係合可能になっていることを特徴とするベルト金具係合用レール。」と記載され、課題を解決するための手段の項にもほぼ同じ内容の事項が記載されていたところ、平成9年10月13日付け審判請求書の訂正内容は、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項に記載されていた「ベルト本体」を、誤記を目的として「レール本体」に訂正するものであった。
(1)まず前記訂正請求は、誤記の訂正を目的とするものであったかについて検討する。
審判便覧(改訂第7版、社団法人発明協会発行)には、誤記の訂正につき、『「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。』(54-10の4頁11?13行)(なお、実用新案登録でも同じ扱い)と記載されており、特許庁の運用がこれまでの判例をも考慮の上で示されている。
そこで請求人が甲第2号証として、また被請求人が乙第1号証として提出した平成9年10月13日付け審判請求書の訂正内容が、前記審判便覧の記載内容に適合するものであるかについてみると、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項に記載されていたベルト本体は、ベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設けた部材を、指していると解することができるため、請求人が甲第1号証として提出した訂正前明細書及びその訂正前明細書に添付されていた図面(以下、「訂正前図面といい、両者を合わせて「訂正前明細書等」という)(実用新案公告公報及び図面)で、ベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設けた部材に関しての記載を精査すると、
従来の技術の項には、「第14図及び第15図に示されるレールR′、R″は、それぞれ長方形状の縦方向の係合穴31,及び同形状の横方向の係合穴32が長さ方向に沿って一定の間隔をおいて設けられたものである。」(公報1欄22?25行)、「縦方向の係合穴31を備えたレールR′に対しては、」(公報2欄8?9行)、「よって、縦方向の係合穴31が設けられたレールR′を使用すると、」(公報2欄13?14行)、「同様に、横方向の係合穴32が設けられたレールR″を使用すると、」(公報2欄18?19行)、「例えば、縦方向の係合穴31を有するレールR′を使用して、」(公報2欄22?23行)及び「荷締ベルトのベルト金具の形状に対応した縦方向の係合穴と横方向の係合穴とをレール本体に交互に設ければ、」(公報3欄7?9行)と記載されているとともに、訂正前図面の従来例を示す第14?21図には、縦方向或いは横方向の係合穴が、レールR′或いはレールR″に設けられているものが図示されており、従来技術として、レール本体にベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設ける技術がいろいろ存在し、それら従来例には、問題点があったことが明確に示されている。
考案が解決しようとする課題の項には、「本考案は、従来のレールの有する上記不具合に鑑み、レール本体に設けられる縦横両方向の2種類の各係合穴の数を減じることなく、同一係合穴に対してベルト金具を縦横両方向に係合できるようにして、同一のレールと同一の荷締ベルトとを使用して、荷物を縦横両方向に締め付けれるようにすることを課題としてなされたものである。」(公報3欄15?21行)と記載されているように、従来の技術の項に記載されたレール本体にベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設ける技術が有していた問題点の記載を受け、その問題点に合致した課題を明示している。
実施例の項には、「このレール本体1の膨出部分に多数個の十字状の係合穴2が長さ方向に沿って一定の間隔をおいて設けられた構成である。」(公報3欄36?39行)、「このためレール本体1の裏面における係合穴2の周縁部には、全周にわたって係合フランジ3が形成される。」(公報3欄43行?4欄1行)、「ベルト金具A_(1)は、第2図及び第5図に示されるように、レール本体1に設けられた十字状の係合穴2の長さL(第4図参照)よりも」(公報4欄2?4行)、「そして、レールR_(1)に設けられた十字状の係合穴2にベルト金具A_(1)を係合させるには、」(公報4欄15?16行)、「係合穴2が十字状になっているため、第1図及び第2図に示されるように、同一の係合穴2に対してベルト金具A_(1)を縦横両方向に係合できて、レールR_(1)に対してベルト金具A_(1)を縦横両方向に係合させて取付けることができる。」(公報4欄33?37行)、「レールR_(2)は、レール本体1に多数個の十字状の係合穴12が長さ方向に沿って一定の間隔をおいて設けられたものである。」(公報4欄44行?5欄2行)、「第9図及び第10図は、ベルト金具A_(2)をレールR_(2)に対して縦方向に係合して取付ける場合であるが、第8図に示されているように、ベルト金具A_(2)をレールR_(2)に対して横方向に係合して取付けることもできる。このように、レールR_(2)の同一の係合穴12に対してベルト金具A_(2)を縦横両方向に係合して取付けることができるので、このレールR_(2)をコンテナ車9などの側板10に取付けた場合には、同一のレールR_(2)によって、コンテナ車に載せられた荷物11を荷締ベルト8により縦横両方向に締め付けることができる。」(公報5欄23?34行)及び「また、本考案の要旨は、レール本体に設けられる係合穴の形状を、縦穴と横穴とが直交する形状にして、同一係合穴に対してベルト金具を縦横両方向に係合可能にする構成に存するので、」(公報5欄35?38行)と記載されているとともに、訂正前図面の第1、3,7,8?13図には、縦方向或いは横方向の係合穴が、レールR_(1)或いはレールR_(2)に設けられているものが図示されており、ベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設けた部材は、一貫してレール本体として記載されているとともに、その記載内容は、前記従来の技術の項及び考案が解決しようとする課題の項に記載されている事項に合致したものになっている。
考案の効果の項には、「本考案は、レール本体に設けられる係合穴を、縦穴と横穴とが直交する形状にして、荷締ベルトの端部に取付けられたベルト金具を同一係合穴に対して縦横両方向に係合できるようにしたので、このレールをコンテナ車などの側板の内側に取付けた場合には、同一のレールと同一の荷締ベルトとによって、この荷締ベルトが捩じられることなくして、コンテナ車などに載せられた荷物をこの荷締ベルトにより縦横両方向に締め付けることができる。」(公報6欄1?10行)と記載されているように、レール本体にベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設けた効果であり、かつ前記従来の技術の項、考案が解決しようとする課題の項及び実施例の項に記載されている事項に合致した効果が明確に示されている。
このように訂正前明細書等には、実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項の記載を除いて、一貫してベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設けた部材は、レール本体であるとして記載されており、当業者にとって従来の技術の項、考案が解決しようとする課題の項、実施例の項、考案の効果の項及び図面に記載されている事項からそこに記載されている考案、即ちレール本体にベルト金具を係合させるための多数の係合穴を設けたものから構成される考案を容易に把握し得るものである。
ところで、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項には、ベルト本体という用語が使われており、訂正前明細書等には、矛盾があり、また、当業者であればベルト本体とレール本体のいずれかが誤記であることは容易に気付き得るものである。
そこで、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項に記載される事項に基づき、当業者が容易に考案を把握できるかについてみると、ベルト本体という用語自体は、不明であるとはいえないが、そのベルト本体は、訂正前明細書等に記載された荷締ベルトの本体をいうのか、全く別のベルトの本体をいうのか明らかでなく、また、たとえ訂正前明細書に記載される荷締ベルトの本体、或いは全く別のベルトの本体のいずれかをいうにしても、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項に記載されるベルト金具係合用レールの構成は、どのようなものになるのか全く把握することができないものである。即ちベルト本体という用語は、用語自体は明瞭であるとしても、その技術的意味は不明であり、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項に記載される考案は、当業者にとって理解することも実施することもできないものである。しかしながら、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲及び課題を解決するための手段の項に記載されるベルト本体という用語をレール本体という用語に置き換えれば、訂正前明細書等の記載が全て整合することになるが、当業者であれば訂正前明細書等の記載特に所期の目的及び効果の記載に基づけば、訂正前明細書には誤記があり、しかもその誤記は、レール本体という用語を用いるべき箇所にベルト本体という用語を使用したためであると容易に理解することができるものである。
即ち、ベルト本体をレール本体に変更する訂正は、本来その意であることが、明細書又は図面などから明らかな内容の字句、語句に正す訂正に相当し、前記審判便覧の記載事項に適合するものであり、そのため誤記の訂正を目的にしたものであると認められる。
(2)次いで前記訂正請求は、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであったかについて検討する。
審判便覧(改訂第7版、社団法人発明協会発行)には、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであるかにつき、『特許請求の範囲に記載された請求項について、その内容、特に目的、範囲、性質などを実質上拡張又は変更するもの』(54-10の6頁2?3行)(なお、実用新案登録でも同じ扱い)と記載されており、特許庁の運用がこれまでの判例をも考慮の上で示されている。
そして前記記載内容の意味するところは、訂正前後の特許請求の範囲(或いは実用新案登録請求の範囲)に記載される技術的事項によって構成されるものが一応発明(或いは考案)として認められるものであることを前提とし、訂正前後の発明(或いは考案)の内容、特に目的、範囲、性質が訂正後に拡張したか変更したかであると解される。この点については、請求人が提示した4件の判例『昭和41(行ツ)1号、昭和41(行ツ)46号、平成6年(行ケ)第235号及び平成9年(行ケ)第64号(甲第9号証)』のものも、訂正前後の特許請求の範囲(或いは実用新案登録請求の範囲)に記載される技術的事項によって構成されるものが一応発明(或いは考案)として認められるものであることを前提としていることからも窺い知ることができる。
ところで、前記(1)で述べたように、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されるベルト本体は、その技術的意味が不明であり、訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されるものは、当業者にとって理解することも実施することもできないもので、そこには元々考案は認められないのであり、ベルト本体をレール本体に変更したとしても、訂正前後の考案の内容、特に目的、範囲、性質が変更したと判断する余地のないものである。
即ち、ベルト本体をレール本体に変更する訂正は、本来その意味で記載されていた表現を真の意味を有する表現に直したものにすぎず、形式的には実用新案登録請求の範囲を変更するものではあっても、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものではない。
そのため、請求人が提示した前記4件の判例『昭和41(行ツ)1号、昭和41(行ツ)46号、平成6年(行ケ)第235号及び平成9年(行ケ)第64号』のものに基ずき当該訂正を無効とすることはできない。
(3)審決には、審理不尽の違法性があるかについて検討する。
請求人の主張の概要は、「審決の理由は、この訂正が誤記の訂正を目的とするものであるとの十分な理由とはなっていない。また仮に、この訂正が誤記の訂正を目的とするものであったとしても、この訂正が、実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものではないことについては、審決は全くその根拠を示していない。(無効審判請求理由補充書6頁9?13行)(なお、審判事件弁駁書にも同様な記載あり。)」である。
請求人が甲第3号証として、また被請求人が乙第2号証として提出した平成9年審判第17385号の審決書の審決理由を分節すると、以下のとおりである。
▲1▼「ベルト本体」の用語について願書に最初に添付された明細書(以下、原明細書という)及び図面を精査しても、全く記載されておらず、該用語は、原明細書が全文補正された平成4年11月19日付手続補正書に添付された明細書に初めて使用された用語である。
▲2▼また、訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載される技術事項である「長方形穴に挿入される形状のベルト金具を係合させるための多数の係合穴がベルト本体にその長さ方向に沿って一定間隔をおいて設けられて、」から想定される構成は、本件考案の目的構成並びに効果の記載から全くかけ離れたものとなり、むしろ、「ベルト本体」を「レール本体」と読み替えて読んだほうが本件出願時の考案の目的構成並びに効果の記載に合致するものである。
▲3▼してみると、「ベルト本体」という用語は、明細書の発明(考案の誤記)の詳細な説明の記載に照らして「レール本体」の誤記であることが明らかであるため、前記訂正は、誤記を目的にするものである。
▲4▼そして、「レール本体」という用語は、原明細書に記載されていたものであると共に、前記訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
そこで検討すると、訂正の基になる考案が、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載されたものでなく、願書に添付された明細書及び図面に記載されたものであることは、判例に示すとおりであり、その意味では、前記審決の▲1▼の記載は、紛らわしいものとなっているが、該▲1▼の記載は、あくまでも事実を参考程度に示したものにすぎず、▲2▼の記載において、願書に添付された明細書及び図面に記載されたものに基づき、訂正が誤記の訂正を目的としている理由を述べているのである。確かにその理由は、前記(1)で詳述したような理由と比べ必ずしも十分とはいえないが、だからといって理由が記載されていないとはいえない。
次に実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものでないことについて審決は全くその根拠を示していないとの点については、確かに審決には、その理由が明示されていない。しかしながら、当該訂正は、前記(2)で示したように、本来その意味で記載されていた表現を真の意味を有する表現に直したものにすぎず、形式的には実用新案登録請求の範囲を変更するものではあっても、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものでないと認められるものであり、その理由については、前記▲2▼の記載から全く読みとれないわけでなく、たとえその理由が明示されていないからといって違法となるようなものではない。
してみると、訂正を認容したことについて何等違法はないので、この点についての請求人の主張は採用できない。
5-3無効理由3について
請求人が甲第4号証として、また被請求人が乙第7号証として提出した本件実用新案登録の願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という)には、係合穴の形状について「十字状」としか記載されていなかったところ、平成4年11月19日付手続補正書(以下、そこに記載される全文明細書を「補正明細書」という)によって実用新案登録請求の範囲の係合穴の形状が「縦穴と横穴とを直交させた形状」に補正されるとともに、実施例の項に「また、本考案の要旨は、レール本体に設けられる係合穴の形状を、縦穴と横穴とが直交する形状にして、同一係合穴に対してベルト金具を縦横両方向に係合可能にする構成に存するので、上記した各実施例のように、厳格に十字穴のものに限られず、縦穴と横穴とが直交している同一の係合穴に、ベルト金具を縦横両方向に係合させることができれば、係合穴の形状は、十字穴に対して多少変形された形状であっても構わない。」という事項が追加された。
そこで前記補正が明細書の要旨を変更するものであるかについて検討すると、まずは被請求人が乙第8号証として提出した広辞苑(第2版)には、「十字」は、「漢字の「十」の字のような形。」として説明され、「十字」が付く用語について、「十字架」は、「罪人を磔にする柱。」として、「十字砲火」は、「銃砲火が交叉して飛ぶさま。」として、「十字路」は、「道が十字形に交叉した所。四辻。」として説明されているとともに、「状」は、「ありさま。様子。状態。」として説明されており、これら二つの用語を合わせ持つ「十字状」は、必ずしも縦と横とがいずれもその中央で交わるような形状に限定されるものでないことが一般的技術常識として理解される。
そして当初明細書をみても、「十字状」について定義されているわけではなく、してみると、当初明細書に記載されていた「十字状」とは、必ずしも縦と横とがいずれもその中央で交わるような形状に限定されるものでなく、前記補正明細書に追加された記載のように、十字穴に対して多少変形された形状のものも含むと解される。
次に補正明細書の実用新案登録請求の範囲に導入された「縦穴と横穴とを直交させた形状」については、その技術的意味が必ずしも明確とはいえないので、その明細書及び図面の記載を参照すると、実施例の項及び図面には、一貫して「十字状」のものとして記載されており、また被請求人は、審判事件答弁書(2)において、『「十字状」とは、「縦横に交差(交叉)したありさま。」と解するのが常識的、或いは一般的な解釈と言える。』(5頁19?20行)及び『「十字状」とは、まさに「縦穴と横穴とを直交させた形状」を意味する』(7頁3?4行)と述べ、「縦穴と横穴とを直交させた形状」とは、「十字状」と同義であると説明していること(当然の如く、少なくとも「T字形」或いは「L字形」を含まないと解される。)をも参照すると、「縦穴と横穴とを直交させた形状」の「直交」とは、「交差(交叉)」の意味と解されるため、「縦穴と横穴とを直交させた形状」とは、「十字状」の用語を単に言い換えたものに相当する。
してみると、補正明細書に記載される事項は、要旨を変更するものではなく、この点についての請求人の主張は採用できない。
5-4無効理由4について
(1)証拠
甲第5号証(米国特許第3405660号明細書)には、「トラック10のウエッブ13の同じスペース内において、係止金具をトラック10の軸方向と直角方向とに係合できる係合穴22が交互に設けられているベルト金具係合用レール」が記載されている。
甲第6号証(実願昭54-177230号(実開昭56-93335号)のマイクロフィルム)には、長方形に切り開かれた孔と丸孔とが交互に設けられているコンテナ車用レール」が記載されている。
甲第7号証(実願昭54-138816号(実開昭56-56443号)のマイクロフィルム)には、両側縁を外方に折曲して取付片を形成した断面チャンネル状の主体の中央板に、両側に内方への傾斜片を張設した縦長窓孔と、方形状、円形状などの適宜形状の窓孔を任意の配列で隔設してなる積載運搬用の型材」が記載されている。
甲第8号証(実願昭61-144273号(実開昭63-48647号)のマイクロフィルム)には、その実用新案登録請求の範囲に「バン型車の内側壁の上下部位に平行に配置したC形断面ガイドレールと、このガイドレール内に摺動自在に嵌装せしめ、前記ガイドレールと面一となした複数の角形ロープフックとで構成し、このロープフックの中央位置にフック部位を配置し、かつその片面に刻設した凹陥状のくびれ弾発作用によって、ガイドレールの開口フランジ部位にロープフック当接面が喰込み係止して、ロープフックがガイドレールに固定されることを特徴とするバン型車のスライド式ロープフック。」と記載されている。
(2)判断
本件訂正後の考案の要旨は、前記[1]に記載したとおりであるところ、その明細書の記載に基づけば、「係合穴が、縦穴と横穴とを直交させた形状になっていて、同一係合穴に対してベルト金具が縦横両方向に係合可能になっている」という技術的事項(以下、「本件技術的事項」という)を具備することにより、「レールをコンテナ車などの側板の内側に取付けた場合には、同一のレールと同一の荷締ベルトとによって、この荷締ベルトが捩じられることなくして、コンテナ車などに載せられた荷物をこの荷締ベルトにより縦横両方向に締め付けることができる。また、レール本体に設けられる係合穴が、縦穴と横穴とを直交させた形状になっているために、縦方向、及び横方向の各係合穴の数は、殆ど減ぜられない。」という特有の効果を奏するものである。
しかしながら、甲第5号証乃至甲第8号証に記載されるものには、前記本件技術的事項が示唆も記載もされていない。
なお、請求人は、無効審判請求理由補充書において「ベルト係合用レールの技術的分野において、縦又は横の係合穴を1つの連続した孔で構成することは甲第6号証及び甲第7号証により本件実用新案登録出願前に広く知られており、これらの刊行物に示された係合穴にもベルト金具が挿入されることによりベルトが固定されるものである。そして、この種のベルト金具係合用の孔は、ベルト金具の形状によって縦穴及び横穴がそれぞれ2つに分かれて開けられていてもそれが1つの孔であっても良いことは甲第5?7号証から明らかである。更に、係合形式は異なるが、長方形の縦穴と横穴とを直交させた形状の係合穴を有するガイドレールが甲第8号証により本件出願前に公知である。」(12頁9?18行)と記載しているが、甲第6号証及び甲第7号証に記載されるものは、本件訂正後の考案の従来例に相当するものでしかなく、甲第8号証に記載されているものも前記したように、ガイドレールに摺動自在に嵌装せしめた複数の角形ロープフックの中央位置にフック部位を配置し、そのフランジ部位にロープを固定せるものであり、長方形の縦穴と横穴とを直交させた形状の係合穴を有するガイドレールが甲第8号証により本件出願前に公知であると認定することはできない。
(3)結論
即ち、本件考案は、本件実用新案登録出願前に頒布された刊行物である甲第5号証乃至甲第8号証に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする請求人の主張は採用できない。
[6]むすび
以上、請求人の本件実用新案登録を無効とすべきとの無効理由は、全て認めることができないため、本件実用新案登録の訂正後の考案を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1998-11-04 
結審通知日 1998-11-20 
審決日 1998-11-30 
出願番号 実願昭63-80457 
審決分類 U 1 112・ 113- Y (B60P)
U 1 112・ 831- Y (B60P)
U 1 112・ 121- Y (B60P)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 大島 邦彦川本 真裕  
特許庁審判長 玉城 信一
特許庁審判官 大槻 清寿
佐藤 雪枝
登録日 1994-01-31 
登録番号 実用登録第2004227号(U2004227) 
考案の名称 ベルト金具係合用レール  
代理人 渡邊 隆  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 内藤 哲寛  

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