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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A61H
管理番号 1014992
審判番号 審判1999-35364  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2000-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-07-14 
確定日 2000-04-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第2566599号実用新案「扉を有する歩行浴槽」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 〔1〕手続の経緯
本件実用新案登録第2566599号(以下「本件実用新案登録」という。)及び本件無効審判事件に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
本件実用新案登録の出願日:平成3年10月11日
手続補正書(明細書の実用新案登録請求の範囲の 補正):平成9年6月25日付け
実用新案権の設定の登録:平成9年12月19日
実用新案登録無効審判の請求:平成11年7月14日
答弁書:平成11年10月29日付け
訂正請求:平成11年10月29日
弁駁書(請求人):平成11年12月15日付け
口頭審理:平成11年12月15日
訂正請求の取り下げ:平成11年12月17日
〔2〕当事者の主張
1.請求人は、「実用新案登録第2566599号の実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」(請求の趣旨)ものであって、請求の理由は、「本件実用新案登録の請求項1及び請求項2に係る考案は、甲第1号証及び甲第2号証または甲第1号証乃至甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、その登録は同法第37条第1項第2号により、無効とすべきである。」というにある。
そして、請求人は以下の証拠方法を提出している。
甲第1号証:米国特許第3485213号明細書
甲第2号証:実願昭58-70602号(実開昭59-177436 号)のマイクロフイルム
甲第3号証:特開平3-26221号公報
2.一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」(答弁の趣旨)ものである。
〔3〕本件実用新案登録に係る考案
本件実用新案登録に係る考案は、設定登録された実用新案登録の明細書及び図面からみて、実用新案登録請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された以下のものにある。
「請求項1
湯水中にて歩行訓練を行なう浴槽(1) の一側壁に入浴者が出入りする扉(2)を設け、前記浴槽(1)内に湯の移動を止める仕切板(3)を設け、仕切板(3) で分割されてできた二つの浴槽の双方に湯を移動させる湯水移動機構(6) を連通させて設けていることを特徴とする扉を有する歩行浴槽。
請求項2
仕切板(3) で分割してできた浴槽の一方を入浴者の出入りに供する入退浴槽部(5)とし、他方を入浴者の歩行訓練に供する歩行浴槽部(4)とし、扉(2)は入退浴槽部(5)に設けられ、仕切板(3)は、水密状に閉塞或いは開放できることを特徴とする請求項1記載の扉を有する歩行浴槽。」
〔4〕請求人の主張する理由
請求人は、本件発明を下記1.のように分説するとともに、甲号各証には、下記2.?4.の事項が記載されているとし、これを前提として、5.のように主張する。
1.請求項1
1):湯水中にて歩行訓練を行なう浴槽(1) の一側 壁に入浴者が出入りする扉(2)を設け、
2):前記浴槽(1)内に湯の移動を止める仕切板(3) を設け、
3):仕切板(3) で分割されてできた二つの浴槽の 双方に湯を移動させる湯水移動機構(6) を連通 させて設けている
4):ことを特徴とする扉を有する歩行浴槽。
請求項2
5):仕切板(3) で分割してできた浴槽の一方を入浴者の出入りに供する入退浴槽部(5)とし、
6):他方を入浴者の歩行訓練に供する歩行浴槽部 (4)とし、
7):扉(2)は入退浴槽部(5)に設けられ、
8):仕切板(3)は、水密状に閉塞或いは開放できる ことを特徴とする請求項1記載の扉を有する歩 行浴槽。
2.甲第1号証:
「甲第1号証には、『符号10で示す動物の訓練及びコンディショニング装置が図1に開示されている。訓練及びコンディショニング装置は符号12で示すタンク構造を含む。タンク構造12は必要ならホイール14に搭載され後述の可動エンドゲート16と内部ゲート18を含む。』(第2欄第60?68行)とあり、『図2において、タンク構造12は訓練エリア28、ドライロックエリア30そして液体貯溜エリア32に分割されている。訓練エリア28は液体34で満たされている。液体34は通常水またはいくつかの理由によって粘性の高い液体である。』(第3欄第4?9行)とあり、『前述のドライロックエリア30は側壁20、エンドゲート16、内部ゲート18及び床54で規定される。理想的には内部ゲート18は訓練エリア28側に回動可能な回動タイプからなる。液体34の静止圧力は内部ゲートをより緊密に閉止する。図示しない好適なガスケットがゲート18のシールエッジに設置されてもよい。』(第3欄第49?55行)とあり、『床54はドライロックエリアを液体貯溜エリア32から区分けしている。更に床56はトレッドミル36を支持して訓練エリアを液体貯溜エリアの他の部分と区分けする。タンク12の底壁58と側壁20と前壁22は液体貯溜エリアを区分けする。ポンプ60は図2に示すようにタンク12に装着してもよく、または一部に示すように液体をロックエリア30から液体貯溜エリア32に輸送し、そして逆に輸送するために供する。その目的を達成するポンプ60と協働する導管の配置は図2に示され、符号62で示される。』(第3欄第57?70行)とあり、『具体例で描かれたエンドゲート16はその上端に補助パネル66を備えている。パネル66とエンドゲート16との関係はエンドゲートが閉塞位置にある時に図2で仮想線で示される。図2の直線部分において図1及び図3と同様にパネル66はエンドゲート16と共に平坦な位置に回転させられ、そしてタンク構造12に取付けられたヒンジ68回りにエンドゲートを回転させるとエンドゲートとパネルは入り口の傾斜部を形成する。馬は傾斜部を通してドライロックエリア30に導かれ、エンドゲート16はその後ろで閉じられる。エンドゲート16は液密シール部材を備えている。
ドライロックエリア30に動物を導入するのに先だって、訓練エリア28と液体貯溜エリア32が液体で満たされる。液体貯溜エリア32の場合、この目的のために備えられた図示しない付属品または開口を通して達成される。ドライロックエリア30に閉じこめられた馬について、ポンプ60で液体貯溜エリア32の液体の一部をドライロックエリアに移送する。ドライロックエリアの液面が訓練エリア28のそれとほぼ等しくなると内部ゲート18が開かれ馬が訓練エリア28に導かれる。』(第4欄第3?26行)とあり、『訓練エリアや装置から動物を出すには単に上述の手順の逆にすればよい。動物は開口した内部ゲート18を通して多量の液体のあるドライロックエリアに移動させられ;内部ゲート18が閉じられ;ドライロックエリアから液体貯溜エリアに液体が送られ;そして最後にエンドゲート16はその傾斜位置に下ろされる。』(第4欄第35?42行)とあり、『訓練の程度の相違は正確に測定するのが難しいが、容易に目視できる。上述したように、液体は動物の移動で生じる抵抗を制御する。』(第4欄第58?62行)とあり、『更に、液体は動物に浮力を生じさせ、そのためにその深さで動物のボディ、脚部、ひずめにかかる衝撃的な力の大きさを広い範囲に亘って調整する。衝撃的な力は液体の深さの増大より小さい。実地訓練は、脚部まで十分に且つかろうじて漬かる液体の深さが腹部の下側に届く程度で行うのが最適である。この深さは脚部の動きにふさわしい抵抗であることがわかり、訓練エリアで液体の過度の撹拝や好ましくない波は生じることがない。
要するに本発明では、トレッドミル速度と液体の深さと液体の粘性と時間の様々な組み合わせが訓練の動きと努力の大きな結合を提供し、多くの異なる目的を達成するためのフレキシブルな訓練プログラムを規定する機会を獣医またはトレーナに提供する。そのため、その最も広い認識において、本発明は治療と訓練及びコンディショニングの方法である。』(第4欄第67行?第5欄10行)とあり、『本発明の方法及び装置では、下等動物と同様に人間に対しても訓練できて、筋肉、関節及び骨の異常について有益な効果を継続し、筋肉の調子及び状態を得ることができる。』(第5欄第26?30行)と記載されている。
クレームの第1項では『1.多量の液体を保有する直立のエンクロージャと、エンクロージャの底部に水平方向に配設されていて液体に浸されて動物が立つ表面を備えている可動部材と、動物の歩行運動を誘う前記部材を動かすための前記部材に装着された駆動手段と、前記駆動手段のスピードを選択的に変化させるために駆動手段に装着されて動物の移動スピードを制御できる制御手段と、液体の高さを選択的に変化させるために前記エンクロージャからそして前記エンクロージャに液体を案内する手段とを備え、液体に起因する移動抵抗は動物のために制御された訓練を行うために前記駆動手段のスピードと互いに関連させられていることを特徴とする動物の訓練とコンディショニング装置。』と記載され、
第6項では『6.液体を保有する直立のエンクロージャを備え、動物の脚部のみを充分に浸す多量の液体をエンクロージャ内に入れ、動物をエンクロージャ内に導入して留め、動物を支持する表面を動かすことで液体の抵抗に抗してエンクロージャ内で歩行運動を行わせるという複数のステップを含む動物の訓練及びコンディショニング方法。』と記載され、
第7項では『7.クレーム6に従う方法において、液体によって動物に適用する抵抗と浮力を変えるためにエンクロージャの液体高さを変化させるステップを更に含むことを特徴とする。』と記載されている。」
3.甲第2号証:
「甲第2号証記載のリハビリテーション浴槽は、『温湯の使用量を最小限に止め』(第2頁14行)ることをその目的の1つとし、『Aは、細長なリハビリテーンョン用の浴槽であり、・・・この浴槽Aの左右両端には、下肢が漬かるに充分な深さの第1液溜め部Bと、上肢が漬かり屈曲運動する充分な深さ、広さの第2液溜め部Cが各々形成され、これら第1と第2液溜め部BとCの間の浴槽Aの上面は、広幅な腰掛け部Dに形成されており、各液溜め部B、Cと腰掛け部Dの上縁は面一としてある。』(第4頁1?10行)と記載され、『浴槽Aは、・・・必要に応じ腰掛け部Dの下側には、各液溜め部B、C内の浴湯を強制循環し渦流を形成する渦流発生装置のポンプP、モータなどの機器が内蔵される。15は、各液溜め部B、Cの内壁に設けた浴湯注入ノズルであり、・・・各液溜め部B、Cのノズル15と金網付き栓16は対をなし、流体管路17を介して前記ポンプPに運通し、各流体管路17に介装した電磁弁18の入、切により、浴湯の流路を切替え、交互に第1、第2の液溜め部B、Cに渦流が発生する構造としてある。』(第5頁6行?20行)」
4.甲第3号証:
「甲第3号証記載の浴湯及び給湯装置には、『図に示すように、この給湯装置は、開閉自在の扉3を備えた上記浴槽1と、この浴槽1とほぼ同容量である通常の浴槽9とが近接して配置され、さらに両浴槽1、9の側壁下部を送湯管10により接続し、この送湯管10の途中に圧送方向が反転可能なポンプ11およびフィルタ12、13、逆止弁14?17が配設されている。』(第2頁右下欄11?17行)と記載され、『ここで浴槽1内に入浴者が入ろうとする場合、まずポンプ11を起動して湯Wを浴槽9へ移動し、湯Wの移動が完了したところで扉3を開ける。入浴者が内部に入った後、再び扉3を閉じ、ポンプ11を反転させて浴槽9から湯Wを浴槽1内に戻す。その後、入浴者が浴槽1から外に出ようとする場合は、同様に湯Wを浴槽9へ移動してから扉3を開ける。』(第3頁左上欄3?10行)と記載され、『なお、浴槽1内の湯の移動先である浴槽9では、蓋18を外して健常者が入浴することができる。・・・また、図において湯Wを移動する際に、入浴者の身体の大きさ、つまり容積に応じて浴槽1の水位を監視しながら適当な水位でポンプ11を停止させることも可能であり、その場合、湯Wの浪費を防止するとともに最適な水位で入浴することができる。』(第3頁左上欄17行?右上欄8行)と記載されている。」
5.請求人はこれらを前提として、以下のように主張する(審判請求書第7頁第1行?第11頁第6行)。
「請求項1について
a)請求項1に係る本件考案と甲第1号証に記載された考案を対比すると、甲第1号証には、
1)′液体中にて歩行訓練を行なう訓練及びコンディショニング装置10の一側壁に入浴者が出入りするエンドゲート16を設け、
2)′装置10内に液体の移動を止める内部ゲート18を設け、
4)′扉を有し歩行による訓練とコンディショニングを行う装置10を備えた点で、
請求項1に係る本件考案と一致する。
そして、甲第1号証は、3)′ドライロックエリア30に液体を移動させる液体貯溜エリア32を備え、訓練エリア28は別の給排水機構に連通されていてドライロックエリア30とは別個にその液面高さを調整可能としている点で、3)二つの浴槽の双方に湯を移動させる湯水移動機構(6) を連通させて設けている請求項1に係る本件考案と相違する。
尚、甲第1号証は馬など動物の歩行訓練とコンディショニングなどに関するものであるが、人間にも適用可能であることが上述の第5欄26?30行に明示されている。
b)相違点について
b-1)しかしながら、障害者などがリハビリテーションなどのために設けた分割された二つの浴槽の双方に湯を移動させる湯水移動機構を設けることは甲第2号証や甲第3号証に記載されている。
即ち、甲第2号証の第5頁6行?20行の記載によれば、浴槽Aの左右両端に第1液溜め部Bと第2液溜め部Cが各々分離して形成され、各液溜め部B、C内の浴湯を流体管路17を通して強制循環し渦流を形成する渦流発生装置のポンプP、モータなどの機器が内蔵され、各流体管路17に介装した電磁弁18の入、切により浴湯の流路を切替えれば交互に第1、第2の液溜め部B、Cに渦流が発生する構造が開示されている。
そのため、第1液溜め部Bと第2液溜め部Cのいずれか一方に他方からポンプPによって浴湯を渦流で送り込めばその液溜め部の浴湯高さを変化させることになり、その際に別個に貯溜タンクを設けていないから、二つの液溜め部B、Cの双方に湯を移動させる湯水移動機構が実質的に備えられている。
また甲第3号証の第3頁左上欄17行?右上欄8行の記載によれば、開閉自在の扉3を備えた浴槽1と通常の浴槽9を送湯管10により接続し、ポンプ11で湯Wを浴槽9へ移動しまた浴槽1に戻すことで、浴槽1の扉3から入浴者の出入りを行え、更に湯Wを移動する隊に入浴者に応じて浴槽1の水位を調整でき、結果的に浴槽9の水位をも調整できることになる。
そのため、二つの浴槽1、9の双方に湯を移動させる湯水移動機構が実質的に備えられている。
尚、上述した甲第2号証及び甲第3号証から認識できるように、二つの浴槽の双方に湯を移動させる湯水移動機構を連通させて設ける構成3)は、本件考案の出願前に周知慣用技術である。
b-2) ところで請求項1に係る本件考案では、i)浴槽への出入りが容易で簡易な構成の扉を有する歩行浴槽を提供することを目的(課題)としている(本件実用新案登録公報第2欄第11?13行)。また、この目的以外の作用効果として、ii)歩行訓練に際して水深調整することで湯水の浮力や抵抗を調整でき、訓練効果を高めることができ、iii)扉を開けるに際して入退浴槽部の湯水を歩行浴槽部に移せば水を捨てないでよく経済的であり、iv)抜き取る湯水を貯留する貯溜タンクを準備する必要もなくこの点でも経済的であり、v)入浴者が入ってしまえば仕切壁を回動させて仕切を除去して入退浴槽部と歩行浴槽部を難なく通行可能である、ことが挙げられている(第6欄29行?第8欄16行)。
b-3)これに対して、甲第1号証では第4欄3?14行に開示されているように、エンドゲート16はヒンジ68回りに回転させて入り口の傾斜部を形成し、ドライロックエリア30への出入りが容易で簡易な構成の扉とされている。従って、甲第1号証は請求項1に係る本件考案のi)と同一の目的及び作用効果を有する。
更に甲第1号証では、クレームの第1項において『液体の高さを選択的に変化させるために前記エンクロージャからそして前記エンクロージャに液体を案内する手段とを備え』ており、更に第7項で『液体によって動物に適用する抵抗と浮力を変えるためにエンクロージャの液体高さを変化させる』と記載されており、エンクロージャは明細書とクレーム第1項の記載内容から訓練エリア28に相当することは明らかである。
従って、これらの記載から訓練エリア28(エンクロージャ)の液体深さ調整によって浮力と歩行時の抵抗とを調整できて訓練効果を高めるものであり、甲第1号証は上記作用効果ii)を有している。
また甲第1号証においてエンドゲート16を開ける場合、第4欄第3?26行に開示するようにドライロックエリア30の液体は液体貯溜エリア32にポンプ60で戻され、その後にドライロックエリア30に再供給されるから液体を捨てることがなく経済的であり、上記作用効果iii)を実質的に有しているが、iv)を有していない。
更に甲第1号証ではドライロックエリア30内に動物が入った後、内部ゲート18を回動させて仕切を除去して訓練エリア28とドライロックエリア30を難なく通行可能になるから、上記作用効果v)を有している。
そのため甲第1号証は、請求項1に係る本件考案の目的、作用効果i)、ii)、iii)及びv)を奏するが、抜き取る液体を貯留する液体貯溜エリア32を備えた点で、本件考案の作用効果iv)を有しておらず、本件考案と相違する。
b-4)しかしながら、リハビリテーンョンなどのために設けた分割された二つの浴槽の双方に湯を移動させる湯水移動機構を設けることは上述のように甲第2号証や甲第3号証に記載されている。
即ち、甲第2号証では、第1液溜め部Bと第2液溜め部Cのいずれか一方に他方からポンプPによって浴湯を渦流で送り込めばその液溜め部の浴湯高さを変化させることになり、その際に別個に貯溜タンクを設けておらず、二つの液溜め部B、Cの双方に湯を移動させる湯水移動機構が実質的に備えられており、液溜め部BまたはCの水深調整が可能であり、実質的に上記作用効果iv)を奏するといえる。
また甲第3号証においても、扉3を備えた浴槽1と通常の浴槽9を送湯管10により接続し、ポンプ11で湯Wを浴槽9へ移動しまた浴槽1に戻すことで、浴槽1の扉3から入浴者の出入りを行え、更に湯Wを移動する際に入浴者に応じて浴槽1の水位を調整でき、結果的に浴槽9の水位をも調整できることになる。
そのため別個に貯溜タンクを設けずに、二つの浴槽1、9の双方に湯を移動させる湯水移動機構が実質的に備えられており、一方の浴槽1または9の水深調整が可能であり、実質的に上記作用効果iv)を奏するといえる。
b-5)上述のように甲第1号証には請求項1に係る本件考案の構成1)、2)及び4)に相当する構成1)′、2)′及び4)′が開示され、甲第2号証及び甲第3号証には本件考案の構成3)が実質的に備えられており、しかも請求項1に係る本件考案の目的、作用効果i)、ii)、iii)及びv)は甲第1号証に、作用効果iv)は甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ実質的に開示されているから、甲第1号証記載の『1)′湯水中にて歩行訓練を行なう浴槽(訓練及びコンディンョニング装置10)の一側壁に入浴者が出入りする扉(エンドゲート16)を設け、2)′浴槽(装置10)内に液体の移動を止める仕切板(内部ゲート18)を設けた4)′扉を有する歩行浴槽(訓練とコンディショニングを行う装置10)』に、甲第2号証及び甲第3号証等に記載の周知の湯水移動機構を採用して『二つの浴槽(訓練エリア28とドライロックエリア30)の双方に液体を移動させる湯水移動機構を連通させて設け』て、訓練エリア28の液面深さを調整したり、ドライロックエリア30内の液体を除去または供給したりすることは、当業者においてきわめて容易に想到し得たものであり、請求項1に係る本件考案は、甲第1号証及び甲第2号証、または甲第1号証乃至甲第3号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものにすぎない。
請求項2について
c)甲第1号証には
8)′内部ゲート18で分割してできたタンク構造12の一方を入浴者の出入りに供するドライロックエリア30とし、
6)′他方を入浴者の歩行訓練に供する訓練エリア28とし、
7)′エンドゲート16はドライロックエリア30に設けられ、
8)′内部ゲート18は、水密状に閉塞或いは開放できることを特徴とする訓練及びコンディショニング装置。
が開示されており、請求項2に係る本件考案の構成5)、6)、7)及び8)とそれぞれ同一の構成を備えている。
従って、請求項2に係る本件考案も、請求項1と同様に甲第1号証及び甲第2号証、または甲第1号証乃至甲第3号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものである。」
〔5〕当審の判断
1.そこで、請求人の上記主張について検討する。
甲第1号証に係る明細書及び図面全体からみると、請求人の主張するように、甲第1号証には、
1)′液体中にて歩行訓練を行なう訓練及びコンディショニング装置10の一側壁に入浴者が出入りするエンドゲート16を設け、2)′装置10内に液体の移動を止める内部ゲート18を設け、4)′扉を有し歩行による訓練とコンディショニングを行う装置10を備えた、歩行浴槽(コンディショニング装置)である点で、請求項1に係る本件考案と一致しているとすることができる。
しかしながら、甲第1号証のものは、訓練エリア28とドライロックエリア30の間に連通して二つの浴槽の双方に湯を移動させる湯水移動機構を有するものでなく、また、甲第1号証のものにおける訓練エリア28側の回動可能な内部ゲート18は、ドライロックエリア30を空にしたいときに訓練エリア28内の液体を封じるためのものであって、本件考案のように、1つの浴槽を仕切板3で仕切り仕切られた一方の浴槽の湯を他方の浴槽へ移動させるものとは、基本構成において相違するというべきである。
この点に関して請求人は、障害者などがリハビリテーションなどのために設けた分割された二つの浴槽の双方に湯を移動させる湯水移動機構を設けることは甲第2号証や甲第3号証に記載されており、甲第1号証記載の湯水中にて歩行訓練を行なう浴槽(訓練及びコンディショニング装置10)に甲第2号証及び甲第3号証等に記載の周知の湯水移動機構を採用して二つの浴槽(訓練エリア28とドライロックエリア30)の双方に液体を移動させる湯水移動機構を連通させて設けて、訓練エリア28の液面深さを調整したり、ドライロックエリア30内の液体を除去または供給したりすることは、当業者においてきわめて容易に想到し得たものである、という。
しかしながら、甲第2号証には、液体を移動させる湯水移動機構を連通させて設ける点は記載されておらず、甲第3号証にも、浴槽内に湯の移動を止める仕切板を設けて該仕切板で分割されてできた二つの浴槽を連通させるという構成は記載も示唆もなく、そもそも湯水中にて歩行訓練を行なう浴槽として利用することは何ら意図していない。
そうすると、甲第2号証乃至甲第3号証に記載された手段を甲第1号証に記載される湯水中にて歩行訓練を行なう浴槽(訓練及びコンディショニング装置)に適用する起因乃至契機はないものというべきであり、また、かりに適用したとしても本件考案に到達することにはならない。
本件考案は、これらの構成が相まって、明細書に記載される甲号各証のものに比して有利な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件考案が甲第1号証乃至甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとすることは到底できない。
2.次に、請求項2に係る考案は、請求項1に係る考案の構成をさらに限定した歩行浴槽に関するものであるから、その余について検討するまでもなく、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとすることはできない。
〔6〕まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および証拠方法によっては、本件登録実用新案を無効とすることはできない。また、審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1999-12-27 
結審通知日 2000-01-07 
審決日 2000-02-14 
出願番号 実願平3-91532 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (A61H)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 山中 真  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 長崎 洋一
熊倉 強
登録日 1997-12-19 
登録番号 実用新案登録第2566599号(U2566599) 
考案の名称 扉を有する歩行浴槽  
代理人 志賀 正武  
代理人 田中 隆秀  
代理人 高橋 詔男  
代理人 安藤 順一  

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