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審決分類 審判 全部申し立て   F16C
管理番号 1016791
異議申立番号 異議1999-71870  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2000-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-05-11 
確定日 2000-03-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 登録第2584936号 「ターボチャージャー用玉軸受」の請求項1?3に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 登録第2584936号の請求項1に係る実用新案登録を維持する。
理由 1.手続の経緯
本件実用新案登録第2584936号の請求項1?3に係る考案は、平成4年11月26日に出願され、平成10年9月4日に設定登録がなされ、その後、実用新案登録異議申立人(以下、申立人という)・村岡 宏より実用新案登録異議の申立てがなされ、当審において取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年10月29日に訂正請求及び意見書の提出がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正請求書における訂正の内容は、
訂正事項aとして 【実用新案登録請求の範囲】の欄を、元の請求項1?3から請求項1、2を削除し、元の請求項3の項数を繰り上げて、
「【請求項1】内径面に外輪軌道を有し、ハウジングの内側に支持される外輪と、外径面に内輪軌道を有し、インペラとタービンとを接続する回転軸の中間部外径面に外嵌固定される内輪と、上記外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、この複数個の玉と同数のポケットを有し、各ポケットの内側に上記玉を1個ずつ転動自在に保持する保持器とを備えたターボチャージャー用玉軸受に於いて、上記保持器は耐熱合成樹脂製であり、この保持器の外径面は上記外輪の内径面に近接して、上記保持器が外輪案内により回転自在に支持されるものであり、常温時に於ける保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法が、上記保持器の外径寸法の1%以上、3.5%以下である事を特徴とするターボチャージャー用玉軸受。」
のように訂正し、訂正事項aに合わせて、【考案の詳細な説明】の欄を、訂正事項b 、訂正事項c、訂正事項d及び訂正事項fのように訂正するものである。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び実用新案登録請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記訂正請求における訂正事項aは、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、訂正事項b、c、d及びfは上記訂正事項aに合致するように明細書を訂正したものであって、明りょうでない記載の釈明に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)独立実用新案登録要件の判断
訂正明細書の請求項1に係る考案は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
これに対して、当審における取消理由通知で引用した実願昭63-134695号(実開平2-54925号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という)には、
「内径面に外輪軌道を有し、ハウジングの内側に支持される外輪と、外径面に内輪軌道を有し、インペラとタービンとを接続する回転軸の中間部外径面に外嵌固定される内輪と、上記外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、この複数個の玉と同数のポケットを有し、各ポケットの内側に上記玉を1個ずつ転動自在に保持する保持器とを備えたターボチャージャー用玉軸受に於いて、上記保持器は耐熱合成樹脂製であり、この保持器の外径面は上記外輪の内径面に近接して、上記保持器が外輪案内により回転自在に支持されるターボチャージャー用玉軸受。」
が記載されている。
さらに、同引用例1には、上記耐熱合成樹脂として「ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などの主鎖にイミド結合を有する樹脂またはポリエーテルエーテルケトン樹脂などの耐熱性エンジニアリングプラスチック」が記載されている。
同じく、学術講演会前刷集862の84「乗用車用ボールベアリング・ターボチャージャーの開発」昭和61年10月社団法人 自動車技術会発行 第439?442頁(以下、「引用例2」という)には、ターボチャージャー用玉軸受について「タービン側ベアリング温度は200℃を越えると予想される。」と記載されている。
同じく、「プラスチック読本」改訂第18版
株式会社プラスチックス・エージ 1992年8月15日発行 特に付録の表(以下、「引用例3」という)には、
「ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の線膨張率が、それぞれ4.5?5.6×10の-5乗/℃、3.06×10の-5乗/℃、4?4.7×10の-5乗/℃(<150℃)である」ことが記載されている。
そこで、訂正明細書の請求項1に係る考案と引用例1に記載された考案とを比較すると、両者は、
「内径面に外輪軌道を有し、ハウジングの内側に支持される外輪と、外径面に内輪軌道を有し、インペラとタービンとを接続する回転軸の中間部外径面に外嵌固定される内輪と、上記外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、この複数個の玉と同数のポケットを有し、各ポケットの内側に上記玉を1個ずつ転動自在に保持する保持器とを備えたターボチャージャー用玉軸受に於いて、上記保持器は耐熱合成樹脂製であり、この保持器の外径面は上記外輪の内径面に近接して、上記保持器が外輪案内により回転自在に支持されるターボチャージャー用玉軸受。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点 常温時に於ける保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法が、訂正明細書の請求項1に係る考案は、「上記保持器の外径寸法の1%以上、3.5%以下である」のに対して、引用例1に記載された考案は、その寸法が不明な点。
以下、上記相違点について検討する。
訂正明細書の請求項1に係る考案の、少なくとも、上記案内隙間の寸法が「保持器の外径寸法の3.5%以下である」という事項は、引用例2及び3には記載も示唆もされていない。
そして、上記数値限定の臨界的意義は、訂正明細書の段落番号【0030】及び【図4】の各記載から充分認められる。
してみると、訂正明細書の請求項1に係る考案は、前記各引用例に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえない。
よって、訂正明細書の請求項1に係る考案は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない考案とすることはできない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項及び同条第3項でさらに準用する同法第126条第2?4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.実用新案登録異議の申立てについての判断
申立人は、証拠方法として、甲第1号証(上記引用例1)、甲第2号証(上記引用例2)及び甲第3号証(上記引用例3)を提示して、本件請求項1?3に係る考案は、甲第1?3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、その実用新案登録は取り消されるべきである旨主張している。
ところが、申立時の実用新案登録は、そのうち請求項1、2を削除し、請求項3を請求項1とする訂正が認められることは、2.で検討したとおりであるから、申立の対象は実質的に訂正後の請求項1に係るものとなった。
以下、上記主張について検討すると、前記独立実用新案登録要件の判断に記載したのと同様な理由で上記訂正明細書のとおり訂正された本件請求項1に係る考案は、甲第1?3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえない。
したがって、実用新案登録異議申立ての理由および証拠方法によっては、本件実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に本件実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
ターボチャージャー用玉軸受
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 内径面に外輪軌道を有し、ハウジングの内側に支持される外輪と、外径面に内輪軌道を有し、インペラとタービンとを接続する回転軸の中間部外径面に外嵌固定される内輪と、上記外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、この複数個の玉と同数のポケットを有し、各ポケットの内側に上記玉を1個ずつ転動自在に保持する保持器とを備えたターボチャージャー用玉軸受に於いて、上記保持器は耐熱合成樹脂製であり、この保持器の外径面は上記外輪の内径面に近接して、上記保持器が外輪案内により回転自在に支持されるものであり、常温時に於ける保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法が、上記保持器の外径寸法の1%以上、3.5%以下である事を特徴とするターボチャージャー用玉軸受。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この考案に係るターボチャージャー用玉軸受は、自動車用エンジンの出力を向上させる為のターボチャージャーに組み込み、インペラとタービンとを接続する回転軸をハウジングに対し、回転自在に支持する。
【0002】
【従来の技術】
排気量を変えずにエンジンの出力を増大させる為、このエンジンに送り込む空気を排気のエネルギにより圧縮するターボチャージャーが、広く使用されている。排気のエネルギは、排気通路の途中に設けたタービンにより回収され、このタービンをその一端に固定した回転軸を介して、給気通路の途中に設けたコンプレッサのインペラに伝えられ、このインペラを回転させる。このインペラは、エンジンの運転に伴なって数万乃至は十数万r.p.m.の速度で回転し、上記給気通路を通じてエンジンに送り込まれる空気を圧縮する。
【0003】
ところで、上述の様なターボチャージャーのレスポンス(アクセル操作に対する追従性)を向上させる為、上記回転軸を転がり軸受により支承する事が、近年広く行なわれる様になっている。図1は、この様な回転軸の支持部の構造の1例を示している。ハウジング1の内側には1対のアウタースペーサ2、2を緩く嵌合させ、各アウタースペーサ2、2の内径面と回転軸3の外径面との間に、それぞれアンギュラ型の玉軸受4、4を設けている。各玉軸受4、4はそれぞれ、内径面に外輪軌道5を有する外輪6と、外径面に内輪軌道7を有する内輪8と、上記外輪軌道5と内輪軌道7との間に転動自在に設けた複数個の玉9、9と、これら複数個の玉9、9を、これら玉9、9と同数のポケット13、13により転動自在に保持する保持器10とから構成する。そして、各玉軸受4、4の外輪6、6を上記アウタースペーサ2、2に内嵌固定し、内輪8、8を上記回転軸3に外嵌固定する事により、この回転軸3を上記ハウジング1の内側に、回転自在に支持している。上記1対の内輪8、8同士の間隔は、インナースペーサ11により適正に規制し、背面組み合わせされた1対のアンギュラ型の玉軸受4、4には、圧縮ばね12により予圧を付与している。
【0004】
ところで、上述の様な構造により回転軸3を支承する玉軸受4、4には、高度の耐熱性を要求される。特に、排気のエネルギを吸収する為のタービンを設けた側の玉軸受4は、高温(最高950℃程度)の排気の熱の影響を強く受ける為、要求される耐熱性能はより高度なものとなる。この様な耐熱性に関する要求を満たすべく、従来から、例えば米国特許第5028150号明細書、特開平2-70923号公報に記載されている様に、ターボチャージャー用玉軸受の構成各部材のうち、特に高温に曝される内輪を、M50等の耐熱材料により造る事が知られている。
【0005】
一方、実開平2-54925号公報、同3-88023号公報、特開平3-96716号公報、同3-117722号公報、同3-188127号公報、同4-29617号公報には、保持器10を、ポリイミド樹脂、PTFE等の耐熱材料により造る事により、上記保持器10の耐熱性向上を図る考案が記載されている。又、特開平1-159419号公報に記載されている様に、上記玉軸受4、4を構成する玉9、9を、セラミック製とする事も、従来から知られている。この公報に記載された玉軸受は、保持器を設けない、所謂総玉軸受である。
【0006】
【考案が解決しようとする課題】
ところが、従来から知られているターボチャージャー用玉軸受の場合、玉軸受の構成部品の一部のみに就いて改良を施しただけで、構成部品同士を互いに関連させての改良ではない。この為、使用条件によっては耐熱性が不足し、十分な耐久性を得られなかったり、或はターボチャージャーのレスポンスを向上させられなかったりする場合が考えられる。
【0007】
特開昭60-208626号公報、特開平1-220718?9号公報には、耐熱性並びに耐腐食性を有する外輪及び内輪と、セラミック製の転動体とを組み合わせて成る、転がり軸受に関する考案が記載されている。但し、この考案は、溶融メッキ浴中でローラを支持する為の転がり軸受を対象としている。この為、保持器を備えていない等、そのままターボチャージャー用玉軸受に適用出来るものではない。即ち、前記特開平1-159419号公報に記載された玉軸受を含め、転動体を保持する保持器を備えていない転がり軸受の場合には、軸の回転に伴なって隣り合う転動体同士が摩擦し合う。この為、上記軸が回転する事に対する抵抗が大きく、ターボチャージャーの回転軸を支持する場合には、レスポンスを悪化させる等、好ましくない。
【0008】
一方、実開平2-54925号公報、発明協会公開技報92-1545には、ターボチャージャー用玉軸受の保持器を耐熱合成樹脂製とすると共に、この保持器を外輪案内とする構造が記載されている。保持器を比重の小さい合成樹脂により造れば、慣性質量の軽減によりレスポンスを向上出来、この保持器を外輪案内とすれば、ラジアル方向に亙る保持器の振れを防止して、運転時に於ける振動防止を図れる。
【0009】
しかしながら、単に保持器を合成樹脂製とすると共にこの保持器を外輪案内としただけでは、十分に満足出来る性能を得られない。即ち、合成樹脂の線膨張係数は、黄銅、鉄等の金属の線膨張係数に比べて大きい。この為、合成樹脂製保持器の外径とこの合成樹脂製保持器を案内する外輪内径面の直径との関係を適切に定めないと、保持器が回転する事に対する抵抗が大きくなったり、或は保持器のがたつきが多くなったりする。例えば、上記合成樹脂製保持器の外径寸法を外輪内径面の直径に近くして、保持器外径面と外輪内径面との間の隙間を小さくすると、ターボチャージャーの運転に伴なう温度上昇に伴なって、上記保持器外径面と外輪内径面とが著しく近接乃至は接触する。
【0010】
上記外径面と内径面とが著しく近接した場合には、玉9、9の設置部分に存在する潤滑油が外部に排出されにくくなって、この設置部分に存在する潤滑油の量が必要以上に多くなる。この結果、上記玉9、9による潤滑油の撹拌抵抗が増大して、玉軸受の駆動抵抗が増大し、この玉軸受を組み込んだターボチャージャーのレスポンスが悪化する。更に、上記外径面と内径面とが接触した場合には、上記保持器が回転する事に対する抵抗が著しく大きくなり、ターボチャージャーのレスポンスが著しく悪化するだけでなく、場合によっては玉軸受が焼き付く恐れがある。
【0011】
反対に、上記合成樹脂製保持器の外径寸法を外輪内径面の直径に比べて小さくして、保持器外径面と外輪内径面との間の隙間を大きくすると、運転時に振動が生じ易くなる。即ち、上記合成樹脂製保持器の質量は、周方向に亙って完全に均一にする事は難しく、僅かとは言え、周方向に亙って質量がアンバランスになる事が避けられない。この結果、上記隙間を大きくして、この保持器のラジアル方向に亙る変位を自在とした場合、ターボチャージャーの運転に伴なって保持器が高速回転すると、この保持器が振動する。この様にして合成樹脂製保持器がアンバランス振動すると、耳障りな騒音が発生したり、著しい場合には保持器が摩耗、更には破損する可能性がある。
本考案のターボチャージャー用玉軸受は、上述の様な事情に鑑みて考案したものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本考案のターボチャージャー用玉軸受は、前述した従来のターボチャージャー用玉軸受と同様に、内径面に外輪軌道を有し、ハウジングの内側に支持される外輪と、外径面に内輪軌道を有し、インペラとタービンとを接続する回転軸の中間部外径面に外嵌固定される内輪と、上記外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、この複数個の玉と同数のポケットを有し、各ポケットの内側に上記玉を1個ずつ転動自在に保持する保持器とを備える。
【0013】
特に、本考案のターボチャージャー用玉軸受に於いては、上記保持器を耐熱合成樹脂製とし、この保持器の外径面を上記外輪の内径面に近接させて、上記保持器を外輪案内により回転自在に支持している。そして、常温時に於ける保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法を、上記保持器の外径寸法の1%以上、3.5%以下としている。
【0014】
【0015】
【作用】
上述の様に構成される本考案のターボチャージャー用玉軸受は、構成部品同士を互いに関連させつつ改良を加えている為、十分な耐久性を保持しつつ、ターボチャージャーのレスポンスを向上させる事が出来る。
【0016】
本考案のターボチャージャー用玉軸受の場合、保持器を耐熱合成樹脂製としたので、保持器の慣性質量低減によりレスポンス向上を図れる他、潤滑油の粘度を低下する事でもレスポンス向上を図れる。即ち、保持器を耐熱材料により造る事により、玉軸受に送り込む潤滑油の温度を上昇させる事が可能となる。潤滑油の温度が上昇すれば、その分、この潤滑油の粘度が低下し、玉並びに保持器が回転する事に対する抵抗が小さくなって、上記レスポンスが向上する。
【0017】
又、本考案のターボチャージャー用玉軸受の場合、上記効果に加えて、保持器の振動を抑えつつ、レスポンスの向上と保持器の耐久性確保、並びに玉軸受の焼き付き防止を図れる。
即ち、保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法を、保持器の外径寸法の1%以上としたので、温度上昇時にも上記外径面と内径面とが、著しく近接したり接触したりする事がなくなる。この結果、玉設置部分に過剰量の潤滑油が滞留する事がなくなり、玉の撹拌抵抗が大きくならず、且つ、保持器の回転抵抗が大きくなる事もなくなって、ターボチャージャーのレスポンス向上を図れる。又、上記案内隙間の寸法を保持器の外径寸法の3.5%以下に抑えたので、保持器がラジアル方向に亙って大きく変位する事がなく、この保持器がアンバランス振動を起こし難くなる。
【0018】
【実施例】
図2(A)?(C)は、本考案のターボチャージャー用玉軸受の形状の3例を示している。何れの場合も、内径面に外輪軌道5を有する外輪6と、外径面に内輪軌道7を有する内輪8と、上記外輪軌道5と上記内輪軌道7との間に転動自在に設けた、セラミック又は軸受鋼製で複数個の玉9と、この複数個の玉9と同数のポケット13を有し、各ポケット13の内側に上記玉9を1個ずつ転動自在に保持する保持器10とを備える。
【0019】
図2に示した3種類の玉軸受のうち、(A)は外輪軌道5が深溝型で内輪軌道7が片側のみ開いたもの、(B)は外輪軌道5及び内輪軌道7がそれぞれ反対側に開いたもの、(C)は内輪軌道7が深溝型で外輪軌道5が片側のみ開いたものである。但し、何れの構造の場合も、玉9は外輪軌道5及び内輪軌道7に、接触角を持って接触している。そして、ターボチャージャーを構成する回転軸3(図1参照)の外周面とハウジング1に支持されたアウタースペーサ2、2の内周面(図1参照)との間への組み付け時には、アンギュラ型として使用する。
【0020】
上記外輪6と内輪8との少なくとも内輪8、好ましくは両部材6、8は、M50、或はSUS440C、SUS420C等の耐熱性ステンレス鋼、モリブデン鋼等の耐熱金属により造る。又、上記保持器10は、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルケトン(PEEK)樹脂等、使用可能温度が150℃以上の耐熱合成樹脂により造る。
【0021】
上述の様に、少なくとも内輪8を耐熱金属製とし、保持器10を耐熱合成樹脂製とした本考案のターボチャージャー用玉軸受は、玉軸受全体として十分な耐熱性を持つ為、使用時に高温の排気に曝されても、十分な耐久性を発揮する。従って、使用時に特に高温に曝されるタービン側に設けた場合でも、長期間に亙って安定した軸受性能を得られる。
【0022】
即ち、ターボチャージャーに組み込まれる玉軸受は、エンジンを高速回転させた状態から直ちに停止させると、上記玉軸受の構成部品の温度が急上昇する。特に、タービン、回転軸3を介して排気熱の影響を強く受ける内輪8の温度上昇が著しくなる。この様な場合、内輪8の硬度低下によって玉軸受の寿命低下を生じ易いが、本考案のターボチャージャー用玉軸受の場合、少なくとも内輪8を耐熱金属により造っている為、上記硬度低下が生じにくく、長期間に亙って安定した性能を得られる。
【0023】
尚、ターボチャージャーを組み込んだ自動車には、イグニッションスイッチを切った後、直ちにはエンジンを停止させず、一定時間アイドリングを行なわせた後、自動的にエンジンを停止させる、所謂アフターアイドリング装置を組み込む場合がある。この様なアフターアイドリング装置を組み込んだ自動車のターボチャージャー用玉軸受の場合、上記外輪6及び内輪8を、通常の軸受鋼により造っても、十分な耐久性を確保出来る。
【0024】
又、保持器10も耐熱合成樹脂により造っている為、この保持器10が変形する事はなく、保持器10の変形に伴なって玉9が転動しにくくなる事がない。更に、合成樹脂製保持器は、鉄、砲金等の金属製保持器に比べて軽量である為、回転に要するトルクを低く出来る。従って、ターボチャージャーの様な高温条件下に於いても、耐熱合成樹脂製保持器を用いた玉軸受は、回転軸3の回転に要するトルクを低くする事が可能となる。
【0025】
又、上記保持器10の外径面と外輪6の内径面とは互いに近接させる事により、この保持器10が外輪6に案内されつつ回転する、所謂外輪案内により保持器10を支持している。そして、上記外輪6の内径面で上記保持器10の外径面と対向する部分の表面粗さを、好ましくは0.6Ra以下とし、上記保持器10の外径面の表面粗さを1.0Ra以下とし、保持器10の内径面の表面粗さを0.6Ra以下とする。一方、上記外輪6の内径面の真円度を好ましくは0.04以下とし、上記保持器10の外径面の真円度を0.04以下とする。
【0026】
又、上記外輪6の内径面と保持器10の外径面との間に形成され、潤滑油が流通する隙間14の常温時に於ける厚さ寸法t_(14)(=外輪6の内径寸法-保持器10の外径寸法)を、好ましくは玉9の外径寸法Dの2%以上15%以下とする。又、各ポケット13の内径面と各玉9の外面との間に形成され、潤滑油が流通する隙間15の常温時に於ける厚さ寸法t_(15)(=ポケット13の内径寸法-玉9の外径寸法D)を、好ましくは上記外径寸法Dの2%以上15%以下とする。更に、上記隙間14の厚さ寸法t_(14)は、玉9の外径寸法Dとの関係から規制する他、保持器10の外径寸法Rとの関係からも規制する。即ち、上記厚さ寸法t_(14)を、上記保持器10の外径寸法Rの1%以上、3.5%以下(0.01R≦t_(14)≦0.035R)としている。
【0027】
この様に、保持器10を外輪案内としたり、各部の表面粗さを規制したり、更には隙間14、15の寸法を規制するのは、内輪8が回転する為に要するトルクを小さく抑え、ターボチャージャーのレスポンスを向上させる為である。即ち、ターボチャージャーに組み込まれた玉軸受を潤滑する場合、前記内輪8の外径面に向けて潤滑油を送り込む(吹き付ける)。内輪8の外径面に付着した潤滑油は、次いで遠心力によりこの外径面から離れ、ポケット13の内径面と各玉9の外面との間に形成された隙間15を通って、上記外輪6の内径面に達する。この様に外輪6の内径面に達した潤滑油は、次いでこの内径面と保持器10の外径面との間に形成された隙間14を通じて排出される。
【0028】
この様な潤滑油の供給排出を効率良く行なわせる為には、内輪8の外径面が露出している事、並びに上記各隙間15、14が潤滑油が流れる事に対して大きな抵抗とならない様に、十分な断面積を有する事が必要である。この為、保持器10の案内を外輪案内として、この保持器10の内径面と内輪8の外径面との間に比較的大きな空間16が形成される様にすると共に、上記各隙間15、14の寸法を規制した。
【0029】
又、保持器10を構成する合成樹脂の線膨張率は、外輪6を構成する鉄系合金の線膨張率よりも大きい為、上記隙間14の厚さ寸法t_(14)は、ターボチャージャーの使用に伴なう温度上昇により次第に小さくなる。本考案者の行なった実験によると、保持器10が鉄系合金製であった場合には、温度上昇に伴なって上記厚さ寸法t_(14)が、図3に破線aで示す様に変化し、保持器10が黄銅製であった場合には同じく鎖線bで示す様に変化した。これに対して、保持器を耐熱合成樹脂製とした場合には、上記厚さ寸法t_(14)が、同図に実線Cで示す様に変化した。この図3は、横軸に温度変化量を表わし、竪軸に、上記厚さ寸法t_(14)の変化量を、前記保持器10の外径寸法Rに対する割合(%)で表わしている。ターボチャージャーの使用時と停止時との温度差は200℃程度になるので、図3から明らかな通り、使用時に上記隙間14を確保する為には、この隙間14の厚さ寸法t_(14)を、上記保持器10の外径寸法Rの1%以上とする必要がある。
【0030】
一方、上記厚さ寸法t_(14)の最大値は、ターボチャージャーの運転時に、上記保持器10のアンバランス振動を抑える面から規制する。即ち、本考案者が上記隙間14の厚さ寸法t_(14)の、保持器10の外径寸法Rに対する割合を種々変えて行なった実験によると、図4に示す様に、厚さ寸法t_(14)が大きくなるに従って、ターボチャージャーの運転に伴なって発生する騒音が徐々に大きくなる事が確認された。そして、上記割合が3.5%を越えると、騒音が急激に増大した。又、同図に×印で示す様に、上記割合が0.5%、0.75%程度の場合には、ターボチャージャーの運転に伴なって、焼き付きが発生した。又、△印で示した様に、上記割合が0.8%程度の場合には、保持器10に著しい摩耗が生じた。更に、○印で示した様に、上記割合が1.0%程度あると、特に問題を生じなかった。
【0031】
これら図3?4の記載から明らかな通り、上記厚さ寸法t_(14)を、保持器10の外径寸法Rの1%以上、3.5%以下とすれば、ターボチャージャーの運転に伴なう温度上昇時にも、上記保持器10の外径面と外輪6の内径面とが、著しく近接したり接触したりする事がなくなる。この結果、玉9設置部分に過剰量の潤滑油が滞留する事がなくなり、玉9の撹拌抵抗が大きくならず、且つ、保持器10の回転抵抗が大きくなる事もなくなって、ターボチャージャーのレスポンス向上を図れる。同時に、保持器10がラジアル方向に亙って大きく変位する事がなく、この保持器10がアンバランス振動を起こし難くなる。
【0032】
尚、潤滑油の流通性を向上させる為には、各隙間15、14部分に存在する潤滑油の温度を上昇させる事が効果がある。これに対して、本考案のターボチャージャー用玉軸受の場合、保持器10が耐熱合成樹脂製である(外輪6、内輪8、玉9は、少なくとも軸受鋼若しくはそれ以上の耐熱性を有する金属材若しくはセラミックにより造られている為、或る程度の耐熱性は確保される。)為、玉軸受に供給する潤滑油の量を少なく出来て、この潤滑油による冷却作用を抑え、上記潤滑油の温度を十分に上昇させ、この潤滑油の粘度を低下させる事が可能となる。又、上述の様に、玉軸受に送り込む潤滑油の量を少なく抑えて、潤滑油の撹拌抵抗によるトルク損失を低く出来る為、より低トルクで回転する、レスポンスの良いターボチャージャーを実現出来る。
【0033】
又、上記外輪6の内径面と、上記保持器10の外径面と、保持器10の内径面との表面粗さを前述の様に規制する事により、上記潤滑油が一層円滑に流れる様にして、過剰量の潤滑油によるレスポンス悪化をも防止出来る。更に、上記外輪6の内径面並びに保持器10の外径面の真円度を前述の様に規制する事により、保持器10が外輪6の内側で回転する事に対する抵抗を小さくして、この保持器10の回転を円滑にし、前記内輪8を回転させる為に要するトルクの低減を図り、やはりレスポンスの向上を図れる。
【0034】
【考案の効果】
本考案のターボチャージャー用玉軸受は、以上に述べた通り構成され作用する為、十分な耐久性を保持して、長期間に亙り安定した性能を維持しつつ、ターボチャージャーのレスポンス向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
ターボチャージャー用玉軸受の使用状態の1例を示す部分断面図。
【図2】
ターボチャージャー用玉軸受の形状の3例を示す部分断面図。
【図3】
保持器外径面と外輪内径面との間の隙間の厚さ寸法と温度変化と保持器の材質との関係を示す線図。
【図4】
上記隙間の厚さ寸法と発生する騒音の程度との関係を示す線図。
【符号の説明】
1 ハウジング
2 アウタースペーサ
3 回転軸
4 玉軸受
5 外輪軌道
6 外輪
7 内輪軌道
8 内輪
9 玉
10 保持器
11 インナースペーサ
12 圧縮ばね
13 ポケット
14 隙間
15 隙間
16 空間
訂正の要旨 ▲1▼ 訂正事項a
実用新案登録第2584936号の明細書中の実用新案登録請求の範囲に於いて、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、元の請求項1、2を削除し、以下項数を繰り上げて、
「【請求項1】 内径面に外輪軌道を有し、ハウジングの内側に支持される外輪と、外径面に内輪軌道を有し、インペラとタービンとを接続する回転軸の中間部外径面に外嵌固定される内輪と、上記外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、この複数個の玉と同数のポケットを有し、各ポケットの内側に上記玉を1個ずつ転動自在に保持する保持器とを備えたターボチャージャー用玉軸受に於いて、上記保持器は耐熱合成樹脂製であり、この保持器の外径面は上記外輪の内径面に近接して、上記保持器が外輪案内により回転自在に支持されるものであり、常温時に於ける保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法が、上記保持器の外径寸法の1%以上、3.5%以下である事を特徴とするターボチャージャー用玉軸受。」
と訂正する。
▲2▼ 訂正事項b
明細書の考案の詳細な説明中の第12段落(【0012】)の本文中の第1行目の、
「本考案のターボチャージャー用玉軸受は何れも、」
を、不明瞭な記載の釈明を目的として、
「本考案のターボチャージャー用玉軸受は、」
と訂正する。
▲3▼ 訂正事項c
明細書の考案の詳細な説明中の第13?14段落(【0013】【0014】)の、
「 【0013】
特に、本考案のターボチャージャー用玉軸受のうち、請求項1に記載したものに於いては、上記外輪と内輪とのうち、少なくとも内輪を耐熱金属製とし、上記保持器を耐熱合成樹脂製とし、この保持器の外径面と上記外輪の内径面とを近接させる事で、この保持器を外輪案内により回転自在に支持している。これと共に、上記外輪の内径面で上記保持器の外径面と対向する部分の表面粗さを0.6Ra以下とし、上記保持器の外径面の表面粗さを1.0Ra以下とし、保持器の内径面の表面粗さを0.6Ra以下とし、上記外輪の内径面の真円度を0.04以下とし、上記保持器の外径面の真円度を0.04以下としている。
【0014】
更に、請求項3に記載したターボチャージャー用玉軸受に於いては、上記保持器を耐熱合成樹脂製とし、この保持器の外径面を上記外輪の内径面に近接させて、上記保持器を外輪案内により回転自在に支持している。そして、常温時に於ける保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法を、上記保持器の外径寸法の1%以上、3.5%以下としている。」
を、不明瞭な記載の釈明を目的として、
「 【0013】
特に、本考案のターボチャージャー用玉軸受に於いては、上記保持器を耐熱合成樹脂製とし、この保持器の外径面を上記外輪の内径面に近接させて、上記保持器を外輪案内により回転自在に支持している。そして、常温時に於ける保持器の外径面と外輪の内径面との間の案内隙間の寸法を、上記保持器の外径寸法の1%以上、3.5%以下としている。
【0014】 」
と訂正する。
▲4▼ 訂正事項d
明細書の考案の詳細な説明中の第16段落(【0016】)第1?4行の、
「先ず、請求項1に記載したターボチャージャー用玉軸受の場合、内輪を耐熱金属製とし、保持器を耐熱合成樹脂製としたので、保持器の慣性質量低減によりレスポンス向上を図れる他、潤滑油の粘度を低下する事でもレスポンス向上を図れる。即ち、内輪及び」
を、不明瞭な記載の釈明を目的として、
「本考案のターボチャージャー用玉軸受の場合、保持器を耐熱合成樹脂製としたので、保持器の慣性質量低減によりレスポンス向上を図れる他、潤滑油の粘度を低下する事でもレスポンス向上を図れる。即ち、」
と訂正する。
▲5▼ 訂正事項e
同じく明細書の考案の詳細な説明中の第16段落(【0016】)の後段部分の、
「又、外輪の内径面の真円度、並びにこの内径面で上記保持器の外径面と対向する部分の表面粗さ、並びに上記保持器の外径面の真円度、並びにこの外径面の表面粗さを規制する事により、これら両面同士の摺動抵抗を抑えて、やはりレスポンスの向上を図れる。」
を、不明瞭な記載の釈明を目的として削除する。
▲6▼ 訂正事項f
明細書の考案の詳細な説明中の第17段落(【0017】)頭初の、
「又、請求項3に記載したターボチャージャー用玉軸受の場合も、保持器が耐熱合成樹脂の為、上記効果を得られる。更に、請求項3に記載した」
を、不明瞭な記載の釈明を目的として、
「又、本考案の」
と訂正する。
異議決定日 2000-02-15 
出願番号 実願平4-86817 
審決分類 U 1 651・ 121- YA (F16C)
最終処分 維持    
前審関与審査官 秋月 均  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 西村 敏彦
和田 雄二
登録日 1998-09-04 
登録番号 実用新案登録第2584936号(U2584936) 
権利者 日本精工株式会社
東京都品川区大崎1丁目6番3号
考案の名称 ターボチャージャー用玉軸受  
代理人 小山 武男  
代理人 小山 欽造  
代理人 小山 武男  
代理人 小山 欽造  

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