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審決分類 審判 全部申し立て   B01D
管理番号 1020865
異議申立番号 異議2000-70594  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-09 
確定日 2000-06-12 
異議申立件数
事件の表示 登録第2599149号「排煙脱硫装置」の実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2599149号の実用新案登録を維持する。
理由 1、本件考案
実用新案登録第2599149号(平成4年11月10日出願、平成11年7月2日設定登録)の請求項1に係る考案は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】吸収剤として石灰石、消石灰又は生石灰の少なくとも一種類を使用し、排ガス中の硫黄酸化物を吸収除去し、更に空気を吹込んで石膏を製造する湿式の吸収塔と、排ガスと接触せしめた吸収液から石膏を回収した後の液に含まれる有害物質を除去するための排水処理装置とを備えた排煙脱硫装置において、吸収塔内の吸収液又は吸収塔循環系の吸収液中の酸化還元電位を検出する検出器と、該検出器からの検出信号に基づき酸化還元電位が排水処理装置の機能低下を防ぐ許容範囲内に入るように吸収塔吹込空気量を制御するための制御装置とを備えたことを特徴とする排煙脱硫装置。」
2、申立ての理由の概要
実用新案登録異議申立人三菱重工業株式会社は、証拠方法として甲第1?5号証を提出し、本件請求項1に係る考案(以下、本件考案という。)の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきものである旨主張している。
3、甲号各証の記載内容
甲第1号証(特開昭59-189997号公報)には廃水処理方法に関し、次の事項が記載されている。
(a)「本発明は湿式排煙脱硫廃水、湿式排煙脱硫脱硝廃水、その他アンモニアを主体とする窒素化合物とジチオン酸やポリチオン酸を主体とする硫黄化合物とを含む各種廃水の生物学的処理方法に関する。湿式排煙脱硫廃水、湿式排煙脱硫脱硝廃水にはアンモニアが多量に含まれており、海域での赤潮発生や湖沼での富栄養化を防止するために処理する必要がある。このアンモニアを好気的条件下で硝化細菌により硝酸にまで酸化した後、該硝酸を嫌気的条件下で脱窒素細菌で窒素ガスにまで還元するという生物学的脱窒素法は非常に有益な方法としてよく知られている。一方、上記の廃水中に含まれるジチオン酸は、CODの主原因となるもので、物理化学的に非常に安定した物質であるため、従来の凝集沈殿法や活性炭吸着法等の物理化学的処理法では殆ど除去不可能であり、僅かにイオン交換樹脂法で除去可能であることが確認されているに過ぎない。」(第1頁右欄第9行?第2頁左上欄第8行)
甲第2号証(「昭和58年度学術講演会講演論文集」社団法人空気調和・衛生工学会発行 第73?76頁(昭和58年10月11?13日))には有機性排水の硝酸化と脱窒素過程における酸化還元電位に関し、次の事項が記載されている。
(b)「この環境条件の重要なものの一つに硝化反応、脱窒反応、それぞれについて適正範囲の酸化-還元系レベル維持の問題がある。酸化還元電位(ORP及びrH値)は、そのレベルの指標として、またプロセスの制御手段として有力な方法に考えられ、特にし尿処理工程において検討が進められている。しかしながら、このORP表示はし尿という複雑な性状のものを対象とする・・・」(第73頁第13?16行)
(c)「有機性排水の硝化と脱窒過程におけるORP値について検討を行い次の知見を得た。硝化反応が進行するときのORP値はEhとしておおむね250?300〔mV〕以上であり、脱窒反応が進行するときはEhとしておおむね50?150〔mV〕以下であることが明らかになった。」(第76頁第7?9行)
甲第3号証(日本微生物学協会編「微生物学辞典」技報堂出版株式会社 第644頁(1989年8月23日))
(d)「脱窒〔作用〕・・・脱窒作用は脱窒菌による生物的脱窒反応である。・・・脱窒作用を支配する環境要因としては次のような要因がある。(1)酸素:酸化還元電位がEh250mV前後に低下すると脱窒が起こる。」(右欄第19?37行)
甲第4号証(「hydrometallurgy」Vol.13 No.3 p265?281(March1985)には「イオン交換樹脂による希薄酸性硫酸塩溶液からのバナジウムの回収」(翻訳文、以下同じ。)に関し次の事項が記載されている。
(e)「イオン交換樹脂による希薄酸性硫酸塩溶液からのバナジウムの回収は溶液のEh(酸化還元電位)とpHの函数である」(第280頁第2?3行)
甲第5号証(特開昭61-433号公報)には排煙脱硫法に関し次の事項が記載されている。
(f)「SO_(2)を含む排ガスを吸収塔にてカルシウム化合物を含む吸収塔循環スラリーと接触させて脱硫処理する方法に於いて、該スラリ-中に酸素を含む気体を吹き込み、該スラリーの酸化還元電位を連続的に検知することによって前記酸素を含む気体の流量を制御し、スラリー中の亜硫酸カルシウムを完全酸化するよう調整することを特徴とする排煙脱硫方法。」(特許請求の範囲)
(g)「従ってORPによって亜硫酸濃度の僅かな変化を検知し、前述の比例制御によって亜硫酸が消失するのに最小限必要な空気流量に設定調整することができ、これにより必要な脱硫性能を保持することが可能となる。」(第3頁右上欄第5?9行)
(h)「循環液のORPは液留め5内に設置した電極8により検出する。ORPの設置位置は液留め5内に限定するものではなくライン4の途中に設置することも、もちろん可能である。」(第3頁左下欄第12?15行)
(i)「電極8により検知されたORPはライン9により調節計10に送られ、ここであらかじめ設定されたORP電圧との偏差に応じてコントロールバルブ12の開閉信号をライン11を通じて送る。コントロールバルブ12により液留め5内に供給する必要最小限の空気流量が設定される。」(第17頁左下欄第17行?右下欄第3行)
4、対比・判断
本件考案は、「吸収剤として石灰石、消石灰又は生石灰の少なくとも一種類を使用し、排ガス中の硫黄酸化物を吸収除去し、更に空気を吹込んで石膏を製造する湿式の吸収塔と、排ガスと接触せしめた吸収液から石膏を回収した後の液に含まれる有害物質を除去するための排水処理装置とを備えた排煙脱硫装置」に関し、
「吸収塔内の吸収液又は吸収塔循環系の吸収液中の酸化還元電位を検出する検出器と、該検出器からの検出信号に基づき酸化還元電位が排水処理装置の機能低下を防ぐ許容範囲内に入るように吸収塔吹込空気量を制御するための制御装置とを備えた」構成を必須の構成要件とし、
この構成により、明細書記載の「吸収液の酸化還元電位の上昇を抑制して廃水処理装置の窒素除去菌やイオン交換樹脂等の活性低下を防止し、廃水処理装置の機能の低下を防止し得る」という効果を奏するものと認められる。
これに対して、甲第1号証には、湿式排煙脱硫廃水に含まれているアンモニアを生物学的脱窒素法で処理したり、上記廃水に含まれているジチオン酸をイオン交換樹脂法で処理することは記載されている。しかしながら、甲第1号証には、湿式排煙脱硫廃水の生物学的脱窒素法やイオン交換樹脂法における処理において、廃水の酸化還元電位を排水処理装置の機能低下を防ぐ許容範囲内に入るようにすることの必要性について何も記載されていないし、示唆もされていない。
甲2号証には、有機性排水の生物学的脱窒処理が進行するときは酸化還元電位が一定の数値範囲であることについて記載されており、甲第3号証には、酸化還元電位が一定値前後だと生物的脱窒反応が起こることについて記載されており、甲第4号証には、イオン交換樹脂による希薄酸性硫酸塩溶液からのバナジウムの回収において酸化還元電位が関係することについて記載されている。 しかしながら、甲第2号証の排水は具体的にはし尿であり、甲第3号証には排水の記載はなく、甲第4号証も希薄酸性硫酸塩溶液が記載されているだけであるから、甲第2?4号証には湿式排煙脱硫廃水について何も記載されていないし、示唆もされていないと云える。してみると、甲第1?4号証を組み合わせても、湿式排煙脱硫廃水の生物学的脱窒素法やイオン交換樹脂法における処理において、湿式排煙脱硫廃水の酸化還元電位を排水処理装置の機能低下を防ぐ許容範囲内に入るようにすることは当業者がきわめて容易に推考し得る程度のこととすることはできない。
また、甲第5号証には、「吸収剤として石灰石、消石灰等を使用し、排ガス中の硫黄酸化物を吸収除去し、更に空気を吹込んで石膏を製造する湿式の吸収塔とを備えた排煙脱硫装置において、吸収塔内の吸収液中の酸化還元電位を検出する検出器と、該検出器からの検出信号に基づき吸収液中の亜硫酸が消失するように吸収塔吹込空気量を制御するための制御装置とを備えたことを特徴とする排煙脱硫装置。」が記載されていると云える。
しかしながら、甲第5号証には、「排ガスと接触せしめた吸収液から石膏を回収した後の液に含まれる有害物質を除去するための排水処理装置」について何も記載されていないし、示唆もされていない。加えて、甲第5号証では、吸収液中の亜硫酸を消失せしめる必要最小限の空気流量ですむように吸収塔吹込空気量を制御しているのであるから、本件考案の排水処理装置の機能低下を防ぐように吸収塔吹込空気量を制御することとは技術課題の点で相違している。
上述したように甲第1?4号証から湿式排煙脱硫廃水である排水の処理装置の機能と吸収液中の酸化還元電位の関係を導き出すことができないから、甲第5号証記載の考案において新たに排水処理装置を付設し、さらに吸収液中の亜硫酸を消失せしめる必要最小限の空気流量ですむように吸収塔吹込空気量を制御するのではなく排水処理装置の機能低下を防ぐように吸収塔吹込空気量を制御するために「吸収塔内の吸収液又は吸収塔循環系の吸収液中の酸化還元電位を検出する検出器と、該検出器からの検出信号に基づき酸化還元電位が排水処理装置の機能低下を防ぐ許容範囲内に入るように吸収塔吹込空気量を制御するための制御装置とを備えた」構成とすることは、甲第1?5号証記載の考案を組み合わせても当業者がきわめて容易に想到し得るものであるとすることはできない。

4、むすび
以上のとおり、実用新案登録異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2000-05-17 
出願番号 実願平4-83660 
審決分類 U 1 651・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持    
前審関与審査官 服部 智  
特許庁審判長 石井 勝徳
特許庁審判官 野田 直人
山田 充
登録日 1999-07-02 
登録番号 実用新案登録第2599149号(U2599149) 
権利者 石川島播磨重工業株式会社
東京都千代田区大手町2丁目2番1号
考案の名称 排煙脱硫装置  
代理人 田中 重光  

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