• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て   G06F
管理番号 1020883
異議申立番号 異議1997-74907  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-10-15 
確定日 2000-03-30 
異議申立件数
事件の表示 実用新案登録第2533002号「マウス用マット」の登録について、次のとおり決定する。   
結論 実用新案登録第2533002号の実用新案登録を取り消す。
理由 (1)手続きの経緯
本件実用新案登録第2533002号の考案は、平成5年6月1日に出願され、平成9年1月29日に設定登録され、その後、アキレス株式会社より本件考案は実用新案法第3条第1項第3号の考案に該当するものであるから、その登録を取り消すべきとの実用新案登録異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成10年3月30日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否
1.訂正明細書の請求項1に係る考案
訂正請求書の請求項1に係る考案は、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載される以下の通りのものである。
「コンピューターの入力装置であるマウスでコンピューター本体にデータや命令を入力する際に使用するマットであって、柔軟なプラスチックフォーム層の上に、マウスのボールが前記プラスチックフォーム層に嵌り込んで動かなくなることを防止すると共にマウスのボールがプラスチックフォーム層に適度に食い込んでスムーズに回転させることができる強靱な紙シート又はプラスチックシートからなる表面シートを接着したことを特徴とするマウス用マット。」
2.訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否
上記訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当し、実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。また、この実用新案登録請求の範囲の訂正に伴う考案の詳細な説明の訂正も明りょうでない記載の釈明にあたる。
3.独立実用新案登録要件の判断
本件訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は、(訂正前の)登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の「素材」を「強靱な紙シート又はプラスチックシート」に特定したものであるが、単純に表面シートの素材を特定したのみでは、「表面シート」のもう一つの特定条件である「マウスのボールが前記プラスチックフォーム層に嵌り込んで動かなくなることを防止すると共にマウスのボールがプラスチックフォーム層に適度に食い込んでスムーズに回転させることができる」が訂正されず依然として作用的・機能的表現であることにより、訂正にも係わらず依然として考案の要件である「物品の形状、構造及びその組合せ」を特定したことにはならず、従って考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したとは認められないことから、前記訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は実用新案法第5条第5項の規定に違反し、前記請求項1に係る考案は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない。
4.むすび
以上の通りであるから、本件訂正請求は、平成6年法律第116条附則第9条第2項において準用する特許法第120条の4第3項において更に準用する同法第126条第4項の規定に適合せず、当該訂正は認められない。
(3)異議申立について
すでに(2)で論じた如く、異議申立の対象となる実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載が、「表面シート」の「素材」を「強靱な紙シート又はプラスチックシート」と更に減縮しても、「表面シート」を客観的に他と区別できず、ひいては本件考案を特定できない。まして補正前の登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は、なおさら本件考案の特定は困難であり、実用新案法第5条第5項の規定を満たすことができないため、先の取消理由通知に示した理由よって取り消される。
ついでながら、このように登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案は、実用実用新案登録異議申立人によって提出された実願平2ー86754号(実開平4ー44037号公報参照:甲第1号証)の出願時に最初に添付された明細書又は図面に記載された考案と比較検討することができないことから、結果として両者を同一とすることはできない。
備考.
1.実用新案登録権者の主張
実用新案登録権者は取消理由通知に対する平成10年3月30日付け実用新案登録異議意見書において、実用新案登録請求に範囲の「素材」を「強靱な紙シート又はプラスチックシート」に訂正することによって、取消理由は解消したとし、平成10年7月22日付け訂正拒絶理由通知での、「素材」を「強靱な紙シート又はプラスチックシート」に訂正しても、これを他と区別する限定が「マウスのボールが前記プラスチックフォーム層に嵌り込んで動かなくなることを防止すると共にマウスのボールがプラスチックフォーム層に適度に食い込んでスムーズに回転させることができる」という主観的なものである、特に「適度」「スムーズに」「強靱な」なる限定はその限度を明確にできない以上、依然として拒絶理由は解消しないと言う当審の更なる指摘に対しても、平成10年10月19日付けの意見書において、「適度」、「スムーズ」、「強靱」とはそれぞれ「ちょうどよい程度」、「滑らか」、「強くて粘りのあること、あるいはしなやかで強いこと」と言う意味で客観的に明確であると主張する。
2.当審の見解
そこで本件の訂正後の実用新案登録請求の範囲の請求項1に、考案の構成に欠くことができない事項のみが記載されているかどうかについて詳細に検討する。
考案は、物品の形状、構造又は組合せに関するものでなければならず、請求項に考案の構成に欠くことができない事項のみを記載するとは、考案の必須の構成を他の考案のものと区別すべく過不足なく特定表現することを意味する。
本件のものはマウス用マットの構造に係るものであり、プラスチックフォーム層の上に表面シートを接着した構造を有することまでは明確であるが、表面シートの細部を特定する前記「マウスのボールが前記プラスチックフォーム層に嵌り込んで動かなくなることを防止すると共にマウスのボールがプラスチックフォーム層に適度に食い込んでスムーズに回転させることができる」なる表現は機能的記載で、いわば表面シートに持たせたい望ましい機能を特定しているに過ぎない。
考案としては、そのような機能を実現するに必要且つ十分な要件を具体的な形状、構造、組合せの形態で特定する必要がある。前記表現は「表面シート」の形状、構造を特定するものとは到底認められないが、「材質」が慣行的に構造の一部であると認識されていることに基づけば、かろうじて「構造」を限定していると解釈できないでもない。「紙シート又はプラスチックシート」を特定する「強靱な」も同様である。
しかし、前記「適度」、「スムーズ」は、それぞれ、マウスのボールのプラスチックフォーム層への食い込みの程度、ボールの回転の具合を表す言葉として用いられているが、これらは「ちょうどよい」「滑らか」と言い変えても、いずれも程度や具合を一義的に表わせる言葉ではなく、これらの言葉のみで他と厳密に区別することはできない。
すなわち、「適度に食い込む」とはどの程度の食い込みか、「スムーズに回転」とはどの程度の回転の具合か、そうでないものとの境界がどこにあるのかを客観的に規定することができない。
百歩譲って特許権者の主張のとおり「適度の食い込み」が「ボールをスムーズに、すなわち滑らかに回転させる」のに「ちょうどよい食い込み」だとしても、まず「滑らかに回転」がどのような回転かを客観的に定義ないしは特定されなければならないが、マウスの操作具合には使用者の好み即ち主観が影響し、ある人にはぎごちなく感じる動きが、他の人には手応えのある動きと感じられることもあり、それぞれの人にとって「滑らかさ」は異なる。またボールに回転を与えるのはボール表面と表面シートの間に発生する摩擦力であって、この摩擦力はボールのプラスチックフォーム層への「食い込み」具合のみによって定まるものではない。すなわち「食い込み」具合は摩擦力の大きさを決める一要因であるボールと表面シートの接触面積に影響を与えるため、ボールの回転に寄与するが全てではない。
ボールと表面シート間の摩擦力は、表面シートの材料、材質、粗さ等の表面状態、プラスチックフォーム層の硬さ及びボールの径、重量、表面材質、表面状態、マウス内部のセンサ支持バネ等よりボールに加わる荷重等、表面シートとボールとの相互関係に依存するので、表面シートのみを特定しても、マウスが異なれば異なるボールの回転となり、希望のボールの回転を与える条件を表面シート側(プラスチックフォーム層を含む)からだけでは特定できない。
そして「適度の食い込み」即ち特許権者の主張する「ちょうどよい食い込み」の大きさは希望のボールの回転が得られる結果としての大きさで、それは上記の理由によりやはり表面シートとボールの相対的関係から定まるものである。例えば表面シートとボールの材質・表面状態による摩擦力が大きければそれほど大きな「食い込み」は必要でなくなる。
したがって、使用者の使用するマウスの状態、好みの手応え等によって、結果として「適度の食い込み」の大きさが定まることになり、「適度の食い込み」にしたために「ボールがスムーズ」に回転する訳でもないから、この「適度」なる表現が辞書的な意味からのみならず実際に本件のマットに関しても主観的で暖昧な意味しか持ち得ないことが明らかである。
つまるところ、前記の表面シートに関する特定条件は主観的で他と区別できるに足りるものとは認められない。
本件のマウス用マットを他のものと区別するには、標準的なマウスの構造、特性及び使用者の使用条件を想定ないしは特定した上でプラスチックフォーム層、表面シートの材料、材質、表面状態、積層体としてのマットの硬さ等を数字を用いて、例えば標準的なボールを用い食い込み量と単位面積当たりの加重との関連で規定する等の具体的な特定が必要であろう。
ついでながら、「強靭さ」もヤング率、弾性限界強度等を示さなければ、客観的にその強さを特定できない。
以上より、前記の特定は客観的に明確であるとの特許権者の先の主張は認めることができない。
以上のとおり、本件登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は、当審の先の取消理由で通知したとおり実用新案法第5条第5項の規定に違反するため、結論のとおり決定する。
異議決定日 1998-12-11 
出願番号 実願平5-34830 
審決分類 U 1 651・ 534- ZB (G06F)
最終処分 取消    
前審関与審査官 川名 幹夫  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 高松 猛
大橋 隆夫
登録日 1997-01-29 
登録番号 実用登録第2533002号(U2533002) 
権利者 株式会社モリヤマ
福岡県福岡市城南区南片江6丁目22番22号
考案の名称 マウス用マット  
代理人 平田 義則  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ