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審決分類 審判    H02K
管理番号 1024936
審判番号 審判1998-2410  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-02-18 
確定日 2000-04-26 
事件の表示 平成 4年実用新案登録願第 59125号「渦電流クラッチ」拒絶査定に対する審判事件[ 平成 6年 3月 4日出願公開、実開平 6- 17385 、請求項の数2]について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 I.手続の経緯・本願考案
本願は、平成4年7月31日に出願であって、その請求項1乃至2に係る考案は、明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、本願の実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 多数の磁石(11)がN、Sが円周方向に交互に来るように円環状に配置された第1の回転板(14)と銅板(4)が前記第1の回転板(14)に対向して鉄製の基部(5)の表面に装着された第2の回転板(6)とからなる渦電流クラッチにおいて、前記第1の回転板(14)の磁石(11)を鉄製のバックプレート(12)に予め接着したうえ、前記磁石及び前記バックプレートの全外面を熱収縮チューブ又は熱収縮フィルム(13)で覆うようにし、前記第1の回転板(14)はハブ(16)を介して入力シャフト又は出力シャフト(15)に取り付けるようにされていることを特徴とする渦電流クラッチ。」(以下、「本願考案1」という。)
「【請求項2】 多数の磁石(11)がN、Sが円周方向に交互に来るように円環状に配置された第1の回転板(14)と銅板(4)が前記第1の回転板(14)に対向して鉄製の基部(5)の表面に装着された第2の回転板(6)とからなる渦電流クラッチにおいて、前記第1の回転板(14)の磁石(11)を鉄製のバックプレート(12)に予め接着したうえ、前記磁石及び前記バックプレートの全外面を弾性のある樹脂(18)で覆うようにし、前記第1の回転板(14)はハブ(16)を介して入力シャフト又は出力シャフト(15)に取り付けるようにされていることを特徴とする渦電流クラッチ。」(以下、「本願考案2」という。)

II.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された実願昭61-31839号(実開昭62-165777号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
「上記のものにおいて、永久磁石1は、第3図に示すように、直方体の形をした偶数個の板状の永久磁石1a、1b、1c・・・が表面にN極とS極が交互に現れるように放射状に配列して組み込まれており、これらの各永久磁石の表面とケーシングの裏側との間には間隙が設けられている。」(第3頁第18行ー第4頁第3行。)
「(第1)図において、永久磁石1を組み込んだ継手2は、モータの駆動軸7aに、その軸筒部2aを嵌合して結合されており、該永久磁石1の表面(図の上面)と間隙を設けて、ステンレスその他の非磁性体からなる椀形のケーシング5がモータ7に取付けられている。一方、上記永久磁石1と対向するようにして、回転体6が、ケーシング5に取り付けられた支持軸18に軸受けメタル9を介して回転自在に嵌入支持されており、該回転体6の円板部6dには、炭素鋼板10を介して導電体3が埋め込まれている。また導電体3は、導電率の高い板状導電体をなしている環状の銅板とからなっている。」(第9頁第20行ー第10頁第11行。)
以上の記載からすると、引用例1には次のことが記載されていることとなる。
「多数の磁石1がN、Sが円周方向に交互に来るように放射状に配置された継手2と銅板(導電体3)が前記継手2に対向して円板部6dの表面に炭素鋼板10を介して装着された回転体6とからなる渦電流継手において、前記継手2の磁石を組み込むようにし、前記継手2はその軸筒部2aを介してモータの駆動軸7aに取り付けるようにされていることを特徴とする渦電流継手。」
また、同じく引用された特開昭49-6341号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の記載がある。
「本発明は上記欠点に鑑み、磁気継手内輪を熱収縮性の合成樹脂材のチューブで被覆し、加熱固定したもので、電動機や玉軸受の発熱時は加熱により収縮し内輪を安全に保護し、内輪が何らかの原因で割れても飛散を防止するものである。」(第2頁コラム3第11-15行。)
「第1図および第2図において、1は磁気継手内輪で円筒形磁石11の内周をブッシング12の外側に接着し、ブッシング12は電動機5の駆動軸14に螺嵌固定されている。2は、外輪でヨーク16に外周を接着し、ヨーク16は被動軸15に螺嵌固定している。」(第2頁コラム3第15行ーコラム4第2行)
「13は、熱収縮性の合成樹脂のチューブで円筒形磁石11より長く、円筒形磁石11の外周に嵌合し温風等で加熱することにより磁石11に密着し、両端は収縮して磁石11の両端部に折れ曲り接着する。」(第2頁コラム4第10-14行。)

III.本願考案1について
(IIIー1).対比
そこで、本願考案1と引用例1に記載されたものとを対比すると、本願考案1の「第1の回転板(14)」、「ハブ(16)」、「入力シャフト又は出力シャフト(15)」、「渦電流クラッチ」が、それぞれその順に引用例1の「継手(2)」、「軸筒部(2a)」、「駆動軸(7a)」、「渦電流継手」に相当することは明らかであり、また、本願考案1の「鉄製の基部(5)の表面に装着された第2の回転板(6)」が、引用例1の「円板部6dの表面に炭素鋼板10を介して装着された回転体6」に相当するものとして格別不都合はないから、結局両者は本願考案の用語を用いて表現すると、
「多数の磁石がN、Sが円周方向に交互に来るように配置された第1の回転板と銅板が前記第1の回転板に対向して鉄製の基部の表面に装着された第2の回転板とからなる渦電流クラッチにおいて、前記第1の回転板はハブを介して入力シャフト又は出力シャフトに取り付けるようにされていることを特徴とする渦電流クラッチ。」である点で一致し、次の点で相違しているものと認める。
相違点:
多数の磁石がN、Sが円周方向に交互に来るように配置される第1の回転板における該多数の磁石の配置形状及び配置構造について、本願考案1では該多数の磁石が第1の回転板に「円環状」に配置されると共に、該第1の回転板(14)の磁石(11)を鉄製のバックプレート(12)に予め接着したうえ、前記磁石及び前記バックプレートの全外面を熱収縮チューブ又は熱収縮フィルム(13)で覆うようにしているのに対し、引用例1では(図面に示すように)該多数の磁石が継手2(第1の回転板)に「放射状」に配置されると共に、単に該継手2に組み込んでいる点。
(IIIー2).判断
上記相違点につき以下に検討する。
本願考案1の、多数の磁石が第1の回転板に「円環状」に配置される構造は、その磁石が「鉄製のバックプレートの予め接着される」ものである以上、該鉄製のバックプレートを介して配置されるものであることは明らかであるが、本願考案1や引用例1のような渦電流クラッチ(継手)において、その駆動軸側の(第1の)回転板への永久磁石の配置構造として、熱収縮チューブ又は熱収縮フィルムで覆う点はひとまずおくとして、本願考案1のように多数の磁石が鉄製のバックプレートに接着され、該バックプレートを介して回転板にN、Sが円周方向に交互に来るように円環状に配置されたものも、また、引用例1のように多数の磁石がN、Sが円周方向に交互に来るように放射状に配置されたものも、共に出願前周知のものである。{後者の、円環状に配置されたものに関しては、例えば文献1;特開昭56-31368号公報、文献2;特公昭42-5121号公報、等参照。該文献1のバックヨーク5の材質については「強磁性体」とあるのみで具体的には明示されていないが、それが例えば鉄等の材料からなることは当業者において自明のことである。そして、本願考案1のバックプレート12は、その効用として「磁石のパーミアンス係数を高めることができ、磁石を薄くすることが可能のため」(本願明細書の【0006】参照。)が挙げられており、明らかに文献1の該バックヨーク5及び文献2の環状継鉄板6は本願考案1の「鉄製のバックプレート」に相当する。また、文献1及び2には、磁石がバックヨークや環状継鉄板(バックプレート)に接着することは明示されていないが、磁石をバックプレートに接着により固定又は担持することは、当業者において自明の常套手段であると認められる。}
そうすると、引用例1の継手2(回転板)における永久磁石の配置構造に替えて、上記周知例に示された回転板(文献1では第1の回転体7、文献2では環状継鉄板6及びハブ9に相当。)の構造、即ち、「多数の磁石が鉄製のバックプレートに接着され、該バックプレートを介して回転板にN、Sが円周方向に交互に来るように円環状に配置された構造」(以下、この周知の回転板構造を「回転板構造A」と呼ぶこととする。)を採ることは、当業者が単なる設計変更として適宜なし得る程度のことにすぎない。
そして、本願考案1が、上記相違点における「第1の回転板(14)の磁石(11)を鉄製のバックプレート(12)に予め接着したうえ、前記磁石及び前記バックプレートの全外面を熱収縮チューブ又は熱収縮フィルム(13)で覆うようにし」という構成を具備する目的は、その明細書の記載されているとおり「第1及び第2の回転板を組み付けるときに銅板4と磁石1とが接触して磁石1が欠けたり割れたりし、又、磁石1を接着する作業を大量に行う場合その接着が信頼性に欠け接着が剥がれるという問題」を解決することにあるものと認められるところ、上記引用例2には、磁石の割れや欠けを防止し、磁気継手内輪を安全に保護するために、円筒形磁石の外周を熱収縮性のチューブにより嵌合被覆するという技術思想が開示されており、該引用例2に記載のものは、鉄製のバックプレートを具備するものでなく、その継手の結合力が磁石と磁石が対向するマグネットトルクによるものであり、かつ、該磁石と磁石の対向面が回転軸と平行な面であるという点では、本願考案や引用例1及び上記周知技術のような、その結合力が永久磁石と導電体(銅板)が対向する渦電流トルクによるもので、かつ、該磁石と導電体の対向面が回転軸と垂直な面であるものとは異なるものの、共に一方の回転軸に磁石を配置した磁気的なトルクを利用する磁気継手に係わるという点ではその技術分野を共通にするものであるということができ、さらに、磁石の割れや欠けを防止して磁石を含む回転体を安全に保護するという点でもその機能の一部を共通にするものであるから、引用例1に適宜前記設計変更を施してその回転板を周知の回転板構造Aとした上で、上記引用例2に開示された技術思想を該周知の回転板構造Aに適用することは、当業者であればきわめて容易になし得ることと認められる。
ところで、該引用例2の技術は、磁石が割れて飛散するのを防止するため、第2図に示すようにその熱収縮性のチューブ13は内輪の円筒形磁石11の全外周面(回転軸に平行な面)を覆い、その両端部に折れ曲がって該磁石の両端部底面(回転軸に垂直な面)の一部を覆うようになっており、必ずしも磁石の全外面を覆うものでもなく、また、鉄製のバックプレートを具備するものでもないが、少なくとも磁石が割れて飛散する危険性のある部分の磁石の面についてはその全面を覆っているものと解されるものであり、該引用例2の技術思想を上記周知の回転板構造Aに適用した場合には、その態様として基本的には、磁石のみの外面の一部を熱収縮性チューブで覆う構成と、磁石とバックプレート(バックヨーク又は環状継鉄板)の接着面を除く磁石のみの全外面を該熱収縮性のチューブで覆う構成と、磁石及びバックプレートの全外面を該チューブで覆う構成との3通りの構成が考えられる。そして一般に、磁石の欠けや割れによる飛散を防止するために永久磁石をブッシュや継鉄等の支持部材を含めてそれらの全外面を樹脂等により被覆することは出願前周知・慣用の技術であること{要すれば、文献3;特開昭55-103714号公報、文献4;特開昭58-83572号公報、文献5;実願昭61-184145号(実開昭63-88707号)のマイクロフィルム等参照。}、及び、磁石及びバックプレートの全外面を熱収縮性のチューブで覆う態様によれば、磁石とバックプレートの接着をより確実にして信頼性の向上が図れることは当業者であれば技術常識として容易に認識し得ること、を考慮すると、上記適用により該周知の回転板構造Aにおいて磁石及びバックプレートの全外面を熱収縮チューブで覆う構成を採ることは、当業者が設計的事項として容易に採りうる程度のことというべきである。
したがって、上記引用例1の回転板(継手2)に適宜設計変更を加えてこれを周知の回転板構造Aとし、該回転板構造Aに上記引用例2の技術を適用して本願考案1の上記相違点を想到することは、当業者であればきわめて容易になし得た程度のものである。
IV.本願考案2について
(IV-1).対比
本願考案2は、本願考案1の構成における「熱収縮チューブ又は熱収縮フィルム」を「弾性のある樹脂」に置き換えただけのものである。よって、本願考案2と上記引用例1に記載されたものとを対比すると、両者は、上記(IIIー1).対比の項に記載した一致点と同一の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
多数の磁石がN、Sが円周方向に交互に来るように配置される第1の回転板における該多数の磁石の配置形状及び配置構造について、本願考案2では該多数の磁石が第1の回転板に「円環状」に配置されると共に、該第1の回転板(14)の磁石(11)を鉄製のバックプレート(12)に予め接着したうえ、前記磁石及び前記バックプレートの全外面を弾性のある樹脂(18)で覆うようにしているのに対し、引用例1では(図面に示すように)該多数の磁石が継手2(第1の回転板)に「放射状」に配置されると共に、単に該継手2に組み込んでいる点。
(IV-1).判断
上記引用例2には、磁気継手内輪の円筒形磁石11を覆うものとして「熱収縮性の合成樹脂材のチューブ」しか開示されていない。しかし、磁石を保護するためにその表面を「弾性のある樹脂」で覆うことも、また、引用例2のように「熱収縮性の合成樹脂材のチューブ」で覆うことも共に出願前きわめて周知・慣用の技術である{要すれば、前者について例えば、前記文献4、文献6;特開昭56-81908号公報、文献7;実公昭48-30776号公報等、後者について、前記文献5、文献8;実願昭61-188022号(実開昭63-93604号公報等、参照。)}から、該引用例2に接した当業者であれば、該引用例2の熱収縮性のチューブに替えて「弾性のある樹脂」を採ることは単なる被覆材料の限定若しくは転換であって、設計変更としてなし得る程度のことにすぎない。
したがって、その判断についても基本的に前記(IIIー1).判断の項に記載したところと同じであって、上記引用例1の回転板(継手2)に適宜設計変更を加えてこれを周知の回転板構造Aとし、該回転板構造Aに引用例2の技術を適用して本願考案2を想到することも、当業者であればきわめて容易になし得た程度のものである。
V.まとめ
以上のとおりであるから、本願請求項1乃至2に係る考案は、上記引用例1に記載されたもの及び引用例2に記載されたものと各周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-02-14 
結審通知日 2000-02-25 
審決日 2000-03-08 
出願番号 実願平4-59125 
審決分類 U 1 80・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 紀本 孝  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 岩本 正義
川端 修
考案の名称 渦電流クラッチ  
代理人 斎藤 春弥  

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