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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て成立) B43K
管理番号 1025121
判定請求番号 判定2000-60003  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2001-03-30 
種別 判定 
判定請求日 2000-01-12 
確定日 2000-10-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第2556853号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「筆記具」は、登録第2556853号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 【1】請求の趣旨
本件判定の趣旨は、イ号図面並びにその説明書に示す筆記具(以下、「イ号物件」という。)は、実用新案登録第2556853号の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。
【2】本件実用新案登録考案
本件実用新案登録第2556853号の考案は、明細書または図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものであると認める。
A.筆記先端部(5)と軸筒(2)後部のインキ貯液部(21)との間に、該インキ貯液部(21)の内圧変化に対応するインキ保留溝を有するペン芯(3)が嵌着され、
B.前記ペン芯(3)の中心孔(31)に棒状のインキ誘導芯(4)が挿着されていて、
C.前記インキ誘導芯(4)をペン芯(3)後端より突出させてなる筆記具において、
D.内部にインキを貯液させた軸筒(2)の先端開口部に、前記ペン芯(3)を、前記ペン芯(3)の後端側から筆記先端上向き状態で挿入させてなり、
E.前記ペン芯(3)の軸筒(2)への嵌合開始から嵌合終了までの移動長さをL1、前記ペン芯(3)の嵌合開始時のインキ誘導芯(4)後端からインキ液面までの軸線方向の距離をL2としたとき、次式
0<L2<LI
を満足させるよう構成されてなる筆記具(1)。
【3】イ号物件
イ号物件についての判定請求書の「イ号物件の説明」、イ号図面(甲第1号証)、「イ号図面の説明書」の記載からみて、イ号物件の筆記具は、次のとおりのものと認める。
a.筆記先端部(5)と軸筒(2)後部のインキ貯液部(21)との間に、該インキ貯液部(21)の内圧変化に対応するインキ保留溝を有するペン芯(3)が嵌着され、
b.前記ペン芯(3)の中心孔(31)に棒状のインキ誘導芯(4)が挿着されていて、
c.前記インキ誘導芯(4)をペン芯(3)後端より突出させてなる筆記具において、
d.内部にインキを貯液させた軸筒(2)の先端開口部に、前記ペン芯(3)を、前記ペン芯(3)の後端側から筆記先端上向き状態で挿入させており、
e.前記ペン芯(3)の軸筒(2)への嵌合開始から嵌合終了までの移動長さをL1、前記ペン芯(3)の嵌合開始時のインキ誘導芯(4)後端からインキ液面までの軸線方向の距離をL2としたとき、次式
0<LI<L2
を満足させるよう構成されてなる筆記具(1)。
【4】イ号物件が本件実用新案登録考案の各構成要件を充足するか否かの判断
イ号物件の構成要件a、b、c、dは本件実用新案登録考案の構成要件A、B、C、Dにそれぞれ一致しており、イ号物件の構成要件a、b、c、dは本件実用新案登録考案の構成要件A、B、C、Dを充足する。しかし、本件実用新案登録考案の構成要件Eとイ号物件の構成要件eについては、、両者は、ペン芯(3)の軸筒(2)への嵌合開始から嵌合終了までの移動長さをL1、ペン芯(3)の嵌合開始時のインキ誘導芯(4)後端からインキ液面までの軸線方向の距離をL2とした筆記具(1)である点で一致するものの、本件実用新案登録考案では、LI、L2の寸法を定める式が「0<L2<LI」であるのに対して、イ号物件では「0<LI<L2」である。
【5】構成要件Eを充足するか否かについての検討
実用新案登録第2556853号公報によれば、本件実用新案登録考案には次の記載がある。
「【0003】
【考案が解決しようとする課題】 従来、本考案の如きペン芯を装着させた筆記具においては、上向き状態の軸筒にインキを注入後、インキ誘導芯の挿入されたペン芯を軸筒開口部より圧入、嵌着させて組立てられた後、即座に筆記先端部を下向き状態にして筆記先端部にインキを導出させる、初期インキ出し工程がとられている。この際、ペン芯を一回の動作で所定の嵌着位置まで圧入させると、ペン芯を偏心状態で装着させがちであるため、通常はペン芯を軸筒開口部に仮差しした後、治具などによって所定位置まで圧入される。
【0004】 前記従来の通常の組立工程を適用すると、前記従来の筆記具(実開平1?132778号公報)は、インキ誘導芯のペン芯後端からの突出長さが長すぎるため、組立時、ペン芯を軸筒に嵌着終了以前(または初期書き出し以前)にインキ誘導芯にインキタンク内のインキが接触するため、筆記先端部までの連続したインキ誘導が行われず、インキ誘導芯内の所々に空気を含んでしまい、スム?ズなインキ流出を阻害することがあった。また、前記従来の筆記具はインキ誘導芯の筆記先端部までの長さ(全長)が長すぎるため、筆記先端部へのインキ導出に時間を要し、高速筆記におけるインキ追従性を満足できなかった。
【0005】 一方、インキ誘導芯のペン芯後端からの突出量が短く、ペン芯組立終了時であっても、筆記先端上向き状態でインキ誘導芯後端がインキ液面に接触していない筆記具の場合、上向き状態で長期保管によって、筆記先端部のインキがドロップバックして筆記不能(所謂、呑み込み)となった。また、インキ誘導芯が乾燥して毛細管を目詰まりさせがちであり、安定してインキを導出させ難い等の不具合があった。」(第3欄第1?31行)
「【0016】 図1において、ペン芯3後半部は軸筒2に挿入され、前記第1嵌合部32と突起22が当接し、嵌合終了までの移動長さL1を残して一時的に係止される(仮差し状態)。この状態においてインキ誘導芯4後端は、インキ液面との距離L2を残しており、少なくともインキ液面と接触しない。
【0017】 図2において、ペン芯3は軸筒2に押し込まれると、第1嵌合部32及び第2嵌合部33が突起22を乗り越え、ペン芯3櫛歯群前部の環状鍔部34の軸筒2開口端部への当接により軸筒2へのペン芯3嵌着は終了する。この時、インキ誘導芯4後部はインキ液面と接触する。前記インキ誘導芯4のインキ液面との接触部分の長さはおよそ2mm?3mmに設定された。」(第5欄第11?23行)
「【0019】
【考案の効果】 本考案筆記具は、前記構成により、インキ誘導芯の突出量が適切な長さに設定され、迅速なインキ導出を可能にするのみならず、インキ誘導芯の仮差し時インキ液面と接触しないため、筆記先端部へインキを導出させるインキ誘導芯内に空気を混入させるおそれがなく、安定した連続的なインキ誘導を可能とした。また、筆記先端上向き状態で長期保管されても、インキ誘導芯後部がインキ液面に接触しているため、筆記先端部のインキのドロップバックや、インキ誘導芯のドライアップによるインキ導出不良もなく、消費者の手元に渡るまでに筆記不良となることがなくなった。」(第6欄第1?12行)
上記記載によれば、本件実用新案登録考案は、筆記具において、インキ誘導芯の仮差し時に、筆記先端部へインキを導出させるインキ誘導芯内に空気を混入させるおそれがなく、安定した連続的なインキ誘導を可能とし、筆記先端上向き状態で長期保管されても、筆記先端部のインキのドロップバックや、インキ誘導芯のドライアップによるインキ導出不良もなく、消費者の手元に渡るまでに筆記不良となることがないことを目的として、ペン芯(3)の軸筒(2)への嵌合開始から嵌合終了までの移動長さをL1、ペン芯(3)の嵌合開始時のインキ誘導芯(4)後端からインキ液面までの軸線方向の距離をL2としたとき、式 0<LI<L2 を満足させるよう構成すること、すなわち、本件本件実用新案登録考案の構成要件Eを備えることにより、インキ誘導芯の仮差し時インキ液面と接触しないため、筆記先端部へインキを導出させるインキ誘導芯内に空気を混入させるおそれがなく、安定した連続的なインキ誘導を可能とし、また、筆記先端上向き状態で長期保管されても、インキ誘導芯後部がインキ液面に接触しているため、筆記先端部のインキのドロップバックや、インキ誘導芯のドライアップによるインキ導出不良もなく、消費者の手元に渡るまでに筆記不良となることがないとの作用効果を奏するものである。このことは、第1図(本考案筆記具のペン芯が軸筒へ嵌合開始した時の状態を示す縦断面図)においてインキ誘導芯4の後部がインキ液面に接触しておらず、第2図(本考案筆記具のペン芯が軸筒へ嵌合終了した時の状態を示す縦断面図)においてインキ誘導芯4の後部がインキ液面に接触していることからも裏付けられる。
よって、本件実用新案登録考案の構成要件Eは、本件発明の目的・効果を達成するに必要不可欠なものといえる。
これに対して、イ号物件の構成要件eは、先に説示したとおり、 ペン芯(3)の軸筒(2)への嵌合開始から嵌合終了までの移動長さをL1、前記ペン芯(3)の嵌合開始時のインキ誘導芯(4)後端からインキ液面までの軸線方向の距離をL2としたとき、式 0<LI<L2 を満足させるよう構成されているため、0<L1、0<L2であるものの、L1<L2となっている。
このような場合においては、インキ誘導芯の仮差し時、ペン芯(3)の軸筒(2)への嵌合開始時にはインキ液面と接触しないため、筆記先端部へインキを導出させるインキ誘導芯内に空気を混入させるおそれがなく、安定した連続的なインキ誘導を可能としているものの、ペン芯(3)の軸筒(2)への嵌合終了後もインキ誘導芯後部がインキ液面に接触していないため、筆記先端上向き状態で長期保管されると、筆記先端部のインキのドロップバックや、インキ誘導芯のドライアップによるインキ導出不良を起こすおそれがあり、消費者の手元に渡るまでに筆記不良となることがあるものとなる。イ号図面にも、ペン芯組立前の図においてインキ誘導芯4の後部がインキ液面に接触しておらず、ペン芯組立終了時においてもインキ誘導芯4の後部がインキ液面に接触していないことが記載されている。
イ号物件は、上記したような本件実用新案登録考案の構成要件Eを具備しておらず、インキ誘導芯の仮差し時、筆記先端部へインキを導出させるインキ誘導芯内に空気を混入させるおそれがなく、安定した連続的なインキ誘導を可能としたものであるものの、筆記先端上向き状態で長期保管されても、筆記先端部のインキのドロップバックや、インキ誘導芯のドライアップによるインキ導出不良もなく、消費者の手元に渡るまでに筆記不良となることがないとする作用効果を奏しないものであるから、両者の作用効果も明らかに異なるものである。
したがって、上記イ号物件の構成要件eは、本件実用新案登録考案の構成要件Eを充足しない。
【6】むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
別掲 イ号図面

イ号図面の説明書

判定日 2000-09-11 
出願番号 実願平3-39024 
審決分類 U 1 2・ 0- ZA (B43K)
最終処分 成立    
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 鈴木 寛治
新井 重雄
登録日 1997-08-22 
登録番号 実用新案登録第2556853号(U2556853) 
考案の名称 筆記具  
代理人 水野 清  

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