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審決分類 審判 全部申し立て   E05B
審判 全部申し立て   E05B
管理番号 1028369
異議申立番号 異議1999-72416  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-06-14 
確定日 2000-10-02 
異議申立件数
事件の表示 登録第2586924号「受金具」の実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2586924号の実用新案登録を取り消す。
理由 I.手続きの経緯
本件実用新案登録第2586924号に係る考案は、昭和61年9月24日に出願された実願昭61-146851号の出願の一部を、平成7年6月19日に実用新案法第9条第1項において準用する特許法第44条第1項の規定により分割して新たな実用新案登録出願としたものであって、平成10年10月9日にその実用新案の設定登録がされ、その後、平成11年6月14日に池田充宏より実用新案登録異議の申立てがあり、平成11年10月15日(起案日)に取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年1月11日に実用新案登録異議意見書の提出と共に訂正請求がなされた後、平成12年2月9日(起案日)に訂正拒絶理由通知がなされ、これに対して意見書が提出されたものである。

II.訂正請求について
1.請求の趣旨及び訂正事項
訂正請求の趣旨は、実用新案登録第2586924号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、そして、その訂正事項は、以下(イ)?(ハ)のとおりのものである。
(イ)実用新案登録請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】 表面から内方に凹入部を有する取付けボックスと、側板と底板を有し底板に孔が設けられたラッチボルトが係合されるスライド部材と、カムから成り、スライド部材は、前記取付けボックスの凹入部に嵌め込まれていて取付けボックスの凹入部内でスライド可能であり、カムは、該カムの移動に応じてスライド部材が移動するようにスライド部材の底板背面と取付けボックスの底板によって挟まれた位置に配され、該カムの周縁、或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔が、取付けボックスの一部と接触し、且つ該カムの回動軸は前記スライド部材の底板の穴内にあり、該カムは、前記スライド部材の底板の孔を介してスライド部材の開放側から回動可能であり、カムの回動に応じてスライド部材が左右に移動されることを特徴とする受金具。」に訂正する。
(ロ)実用新案登録請求の範囲の請求項2を、
「【請求項2】 取付けボックスは突起を有し、カムの周縁或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔が、取付けボックスの突起と接触し、カムの回動軸はスライド部材の底板の孔と嵌合し、カムは当該回動軸を中心に回動すると共に、当該回動軸のスライドに伴ってスライド部材がスライドすることを特徴とする請求項1記載の受金具。」に訂正する。
(ハ)実用新案登録明細書の段落【0005】の【課題を解決するための手段】の記載を、
「【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するための考案は、表面から内方に凹入部を有する取付けボックスと、側板と底板を有し底板に孔が設けられたラッチボルトが係合されるスライド部材と、力ムから成り、スライド部材は、前記取付けボックスの凹入部に嵌め込まれていて取付けボックスの凹入部内でスライド可能であり、力ムは、該カムの移動に応じてスライド部材が移動するようにスライド部材の底板背面と取付けボックスの底板によって挟まれた位置に配され、該カムの周縁、或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔が、取付けボックスの一部と接触し、且つ該カムの回動軸は前記スライド部材の底板の穴内にあり、該カムは、前記スライド部材の底板の孔を介してスライド部材の開放側から回動可能であり、カムの回動に応じてスライド部材が左右に移動されることを特徴とする受金具である。
また上記の受金具に改良を加えた請求項2の考案は、取付けボックスは突起を有し、カムの周縁或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔が、取付けボックスの突起と接触し、カムの回動軸はスライド部材の底板の孔と嵌合し、カムは当該回動軸を中心に回動すると共に、当該回動軸のスライドに伴ってスライド部材がスライドすることを特徴とする請求項1記載の受金具である。
上述の考案において、力ムは円弧状の長孔を有するものであっても良い。
また取付けボックスは、底板内面に突起を有し、該突起と力ムとが係合する構成も可能である。
さらにカムは、バネによって付勢され、取付けボックスの一部と接触状態を保っている構成も可能である。
カムにはドライバーの係合頭部が形成されていることが望ましい。
またスライド部材の開口と合致する開口を有するプレートを備え、前記スライド部材は開口縁から突出するフランジを有し、前記プレートによってスライド部材のフランジを押え込む構成を有することが望ましい。」に訂正する。
2.訂正の適否について
(1)訂正拒絶理由
上記平成12年2月9日付け訂正拒絶理由は、
『本件訂正請求は、明りようでない記載の釈明を目的として、実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の記載を訂正するものであるが、訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載された請求項1の、「カムの一部」とあるを「カムの周縁、或いは円弧状の長孔を有するカム」とすることは、結果として、実用新案登録請求の範囲を減縮するものとなり、訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案が実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものであるか検討する必要がある。
そこで、検討すると、本件訂正請求によっても、明細書の記載が以下の点で不備である。
すなわち、実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された「カムの周縁、或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔が、取付けボックスの一部と接触し、」との事項は、考案の詳細な説明中の及び図面の実施例の記載と対応せず、また、必須構成要件を欠くものと認める。つまり、実施例として、段落【0013】の、「なお、上記のカム15は、図1で示したように周縁に突起を接触させる形式のものと、図8及び図9で示したように弧状の長孔に突起を嵌め込んだ形式のものがある。」との記載及び図3?9の記載によれば、2つの具体例が記載されており、「カムの周縁、或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔」が接触するものは、「取付けボックスの一部」という不特定のものではなく、取付けボックスに設けられた突起である点で共通しており、その他の具体例は、記載されていない。さすれば、「取付けボックスの一部」とすることは、考案の詳細な説明及び図面に記載された実施例の上位概念として不適当であり、対応しているものとは言えず、例えば「取付けボックスに設けられた突起」のように限定し、上記記載事項をカムの周縁又は長孔と突起との協働による構造とすることが構成要件として欠くことができないものと認められるが、この事項が実用新案登録請求の範囲の請求項1には限定されていない。
よって、本件請求項1?7に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第5条第3項及び第4項の規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものであるから、訂正後における実用新案登録請求の範囲に記載された事項により構成される考案は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。』としている。
(2)実用新案権者の主張
実用新案権者は、上記訂正拒絶理由に対して、意見書を提出し、その中で、
『1)実用新案法第5条第4項は、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨を規定するところ、考案の詳細な説明の【実施例】の欄の記載のみならず、【課題を解決するための手段】の欄の記載をも考慮すべきことは明らかである。そして、訂正明細書の【課題を解決するための手段】の欄には、「取付けボックスの一部」という不特定のものが、「カムの周縁、或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔」が接触するものとして明記され、考案の目的達成に欠くことのできない技術手段として記載されており、かかる記載は実用新案登録請求の範囲の記載と同一であるから、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみが実用新案登録請求の範囲に記載されていることは明らかである。
2)「取付けボックスの一部」は、取付けボックスの突起が抽象化された一般概念であるが、実用新案登録請求の範囲の記載は、一般的かつ上位概念的記載となるのが通常であり、取付ボックスの突起が、「取付けボックスの一部」ではないならば兎も角、本件訂正明細書では、取付ボックスの突起が、「取付けボックスの一部」であるとして一貫して使用されており、考案の詳細な説明及び図面に記載された実施例の上位概念として不適当であるとの認定は全く理由がなく、むしろ「取付ボックスの一部」とすることは、実施例の上位概念として妥当するものである。』
と反論し、上記訂正拒絶理由通知書において指摘された理由によっては、本件訂正請求を認めないとすることはできないと主張している。
(3)当審の判断
実用新案法第5条第4項に規定する、「考案の構成に欠くことができない事項」とは、その考案の目的を達成するため(技術的課題解決のため)に必要不可欠な技術的手段であり、その必要不可欠な技術的手段は、考案の詳細な説明に記載した考案の目的、構成、効果に基づいて総合的に判断することにより認識されるもので、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならないから、考案の詳細な説明で開示した考案の範囲を超えないように、また、必要不可欠な技術的手段が欠けたり、余分な技術的手段を含むことがないように記載すべきであるとされている。
そこで、実用新案権者が主張する点について判断すると、
1)については、本件訂正明細書の課題を解決するための手段の記載自体、課題解決のために必要不可欠な技術的手段を欠くものと認められ、課題を解決するための手段の記載と同一だからといって実用新案登録請求の範囲の請求項1には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということはできない。
すなわち、本件訂正明細書の課題を解決するための手段及び実用新案登録請求の範囲の請求項1の「カムの周縁、或いは円弧状の長孔を有するカムにおいては当該長孔が、取付けボックスの一部と接触し、」との記載では、考案の詳細な説明に記載した課題を解決するための手段の限定として適当ではなく、考案の詳細な説明に記載した考案の目的、構成、効果からみて、段落【0013】に記載されたように、図1で示すようなカム周縁に突起を接触させる構造及び図9で示すようなカムの弧状の長孔に突起を嵌め込んだ構造、の2実施例のカムの周縁またはカムの長孔が接触するものは、突起であることで共通しており、他に「取付けボックスの一部」として何がカムに接触するかは、考案の詳細な説明及び図面には開示されていないから、「取付けボックスの一部」という事項では不適当で、「取付ボックスの突起」という事項が課題解決のために必要不可欠な技術的手段となると認められる。また、
2)については、実施例に記載された「取付けボックスの突起」をもって、「取付けボックスの一部」とすることは、「取付けボックスの突起」以外考案の詳細な説明及び図面に開示されていない以上、実施例に裏付けられない、突起以外の技術的手段を含むものとなり、これは、考案の詳細な説明で開示した考案の範囲を超えており、明細書に記載された実施例の上位概念の表現として、不適当であり、本件訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載では、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとは、認められない。
結局、実用新案権者が主張する理由を採用することはできず、上記訂正拒絶理由で指摘した理由は、依然として解消されておらず、不備である。
(4)むすび
したがって、本件請求項1?7に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第5条第3項及び第4項の規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものであるから、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであり、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によって適用される、特許法第120条の4第3項でさらに準用される同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

III.実用新案登録異議申立てについて
1.本件請求項1に係る考案
本件実用新案登録第2586924号の請求項1に係る考案(以下、「本件請求項1に係る考案」という。)は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 表面から内方に凹入部を有する取付けボックスと、側板と底板を有し底板に孔が設けられたラッチボルトが係合されるスライド部材と、カムから成り、スライド部材は、前記取付けボックスの凹入部に嵌め込まれていて取付けボックスの凹入部内でスライド可能であり、カムはスライド部材の底板背面と、取付けボックスの底板によって挟まれた位置に配され、該カムの一部は取付けボックスの一部と接触し、且つ該カムの回動軸は前記スライド部材の底板の穴内にあり、該カムは、前記スライド部材の底板の孔を介してスライド部材の開放側から回動可能であり、カムの回動に応じてスライド部材が左右に移動されることを特徴とする受金具。」
2.取消理由
上記平成11年10月15日付け取消理由は、
『(1)実用新案登録請求の範囲の請求項1、請求項2及び考案の詳細な説明の課題を解決するための手段の「カムの一部は取付けボックスの一部と接触し、」の「カムの一部」とは、カムのどの箇所を示すのか?「取付けボックスの一部」とは、取付けボックスの底板を意味するのか?取付けボックスに設けられた突起を意味するのか?明確に構成が把握できない。そして、実施例にも具体的に説明されておらず、考案の効果にもそれによって奏される効果が明示されていない。
また、実用新案登録請求の範囲の請求項2に記載の「カムの一部は取付けボックスに設けられた突起を介して取付けボックスの一部と接触し」も、この記載では、突起は、取付けボックスの一部ではないと理解できるが、カムの一部が取付けボックスの一部、(取付けボックスの底板と理解できるから)具体的には、取付けボックスの底板、に接触するのに突起を介する必要がないものと認められるから、不明瞭である。
(2)実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載に「カムの一部は取付けボックスの一部と接触し、且つ該カムの回動軸は前記スライド部材の底板の穴内にあり」との限定のみでは、「カムの回動に応じてスライド部材が左右に移動される」という作用を奏さず、必須構成要件を欠くものと認める。つまり、図1で示すようなカム周縁に突起を接触させる構造及び図9で示すようなカムの弧状の長孔に突起を嵌め込んだ構造、の2実施例に共通する突起を取付けボックスに設け、カムと該突起との協働による構造が構成要件として欠くことができないものと認められるが、この事項が実用新案登録請求の範囲の請求項1に明瞭には限定されていない(請求項2を上記(1)の点について明瞭にもし、請求項2を請求項1にするようにしたらどうか?)。
よって、本件請求項1?7に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第5条第3項及び第4項の規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものである。』としている。
3.当審の判断
実用新案権者は、上記取消理由に対して、実用新案登録異議意見書を提出すると共に訂正請求をしたが、該訂正請求については、上記II.2.に記載したように、訂正が認められず、また実用新案登録異議意見書の意見の内容も取消理由で指摘した事項に応じた訂正事項を説明したものであり、上記取消理由の理由に反論したものではないから、結果として、上記取消理由は妥当なものと認められる。
4.むすび
以上のとおり、本件請求項1?7に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第5条第3項及び第4項の規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものである。
したがって、本件請求項1?7に係る考案の実用新案登録は、拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第3条第1項及び第2項の規定により、結論のとおり決定する。
異議決定日 2000-08-11 
出願番号 実願平7-7128 
審決分類 U 1 651・ 532- ZB (E05B)
U 1 651・ 531- ZB (E05B)
最終処分 取消    
前審関与審査官 佐藤 昭喜辻野 安人  
特許庁審判長 樋口 靖志
特許庁審判官 鈴木 憲子
宮崎 恭
登録日 1998-10-09 
登録番号 実用新案登録第2586924号(U2586924) 
権利者 株式会社西製作所
大阪府寝屋川市点野3丁目18番3号
考案の名称 受金具  
代理人 安田 敏雄  
代理人 藤田 隆  

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