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審決分類 審判 全部申し立て   B23Q
審判 全部申し立て   B23Q
管理番号 1028390
異議申立番号 異議1999-75015  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-29 
確定日 2000-11-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第2600718号「工具ホルダの位置決めピン装置」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2600718号の請求項1に係る実用新案登録を維持する。
理由 第1 手続の経緯
本件実用新案登録第2600718号の考案は、平成4年8月5日に出願され、平成11年8月20日に実用新案権の設定の登録がなされ、その後、株式会社エムエスティコーポレーション(以下「本件申立人」という。)より請求項1に係る実用新案登録異議の申立てがなされたものである。
第2 実用新案登録異議の申立てについての判断
[1]実用新案登録異議の申立ての理由
本件申立人の理由および証拠は次のとおりである。
(1)理由1:本件登録実用新案(請求項1に係る考案)は、その構成要件の全てが甲第1号証にアングルヘッド「AHA20型/AHA25型」として記載されていたため、実用新案法第3条第1項第3号に規定する実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案に該当するから、その登録は準用する特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。
(2)理由2:本件登録実用新案(請求項1に係る考案)は、その出願前に当業者が甲第3号証ないし甲第5号証に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項に規定する考案に該当し、その登録は準用する特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。
(3)証拠の表示
(a)甲第1号証:商品名アングルヘッド、型番「AHA20型/AHA25型」を記載したカタログ
(b)甲第2号証:甲第1号証カタログの頒布日、頒布場所および頒布の目的と、型番「AHA20型/AHA25型」を持つアングルヘッドの構造についての本件申立人の代表取締役溝口春機の陳述を記した陳述書。
(c)人証:証人溝口春機の証言
(d)甲第3号証:実公昭58-56112号公報
(e)甲第4号証:実公平4-29964号公報
(f)甲第5号証:実公平2-24601号公報
[2]当審の判断
(1)本件考案
本件請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)は、登録時の明細書および図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ホルダ本体の周りに補助軸受を介してハウジングを装着し、該ハウジング一側の嵌合孔内にばねを介して位置決めピンを摺動自在に嵌合し、前記ホルダ本体を工作機械の主軸に自動工具交換機構により装着した後に引込機構により引き込み、前記位置決めピンの先端部を前記主軸近傍の対応する位置決めブロックに前記ばねの押付力により押し付けるようにした工具ホルダにおいて、前記ばねは、前記ホルダ本体を前記主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決めピンを押し付ける弱いばねと、前記引込機構により引き込んだときに前記位置決めピンを前記弱いばねと共働して押し付ける強いばねとから成ることを特徴とする工具ホルダの位置決めピン装置」
(2)理由1についての判断
甲第1号証(商品名アングルヘッド、型番「AHA20型/AHA25型」を記載したカタログ)の第4頁の図2には、「AHA20型/AHA25型」と呼ばれるアングルヘッドの側面図が示されている。
該図の一部断面で示された固定ブロック部を示す図から判断して、同号証には、シャンクの周りに補助軸受を介してハウジングを装着し、該ハウジング一側の固定ブロックに皿ばねを介して位置決めピンをストローク(6)をもって摺動自在に嵌合し、シャンクを工作機械の主軸に自動工具交換機構により装着した後に引込機構により引き込み、前記位置決めピンの先端部を前記主軸近傍の対応する位置決めブロックに前記ばねの押付力により押し付けるようにしたアングルヘッドにおいて、前記皿ばねは、前記シャンクを前記主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決めピンを押し付けることを特徴とするアングルヘッドの位置決めピン装置が記載されている。
しかし、該図から見て、図示のアングルヘッドが、位置決めピンを押しつける皿ばねと見られるばねを有していることは認められるが、「引込機構により引き込んだときに位置決めピンを前記弱いばねと共働して押し付ける強いばねとから成る」という本件考案の必須の構成を具備しているとはいえない。
したがって、本件考案が甲第1号証に記載のアングルヘッドであるとは言えない。
なお、本件申立人は、甲第2号証として本件申立人の代表取締役溝口春樹(以下、溝口という。)の陳述書を提出し、また、この陳述書の内容を証明するために、溝口の証人尋問を申請している。
しかしながら、実用新案法第3条第1項第3号にいう刊行物に記載された考案とは、刊行物に記載された事項から把握される考案をいうものであって、刊行物に記載された装置の実物がどのようなものであるかは、刊行物に記載された発明の認定に影響を与えるものではない。したがって、甲第1号証のカタログに記載された「AHA20型/AHA25型」の工具ホルダの実際の構造が、甲第2号証の陳述書に記載されたとおりのものであることが事実であるとしても、これが甲第1号証の刊行物に記載された発明の認定に影響を与えない以上、証人溝口の尋問を行うまでもなく、本件申立人の理由1は、理由があるとはいえない。
(3)理由2についての判断
甲第3号証乃至甲第5号証記載事項
(a)甲第3号証(実公昭58-56112号公報)には、次の記載がある。
「10は切削具取り付けユニットで、中空円筒状ユニットケースと、このユニットケース11内を同心的に貫通していて軸受12,12により回転のみ自在に支承されているシャンク13とを含んで構成される。」(第4欄10?14行)
「19はユニットケース11の外側面に突設されたピン保持台で、この保持台19にはシャンク13と平行に延びるピン穴20が貫設されていて、このピン穴20には、一端に前記ピン係合台5のテーパ穴部7と対応するようなテーパを有するテーパ端部21が形成されたユニットケース固定用ピン22が、該テーパ端部21をシャンク13の突子17と同方向に突出させた状態で摺動自在に内嵌されている。
そしてこのユニットケース固定用ピン2は、その他端側に穿孔された孔23の内奥部とピン穴蓋体24との間に介装された第1ばね5によってテーパ端部21が常時外方への突出姿勢を保持すべく付勢されている。」(第4欄22?35行)
「28はユニットケース固定用ピン22の突出端部に外嵌合された位置決め用カラーピンで、・・(中略)・・位置決めカラー28は、・・(中略)このピン27をガイドとして上記ユニットケース固定用ピン22の突出端部上を摺動できるようになっており、更にこのカラー28はピン保持台9の対向端部との間に介装された第2ばね32によって通常時ピン22突出端部上の所定位置(第1図の仮想線で示される位置)に保持され、」(第4欄40行?第5欄10行)
「またユニット装着時にはカラー28の先端面28aがピン係合台5の突出側端面5aに突き当たってその反動でカラー28は第2ばね32に抗して後退し、その結果カラー28側の係合部30がシャンク13側の係合部33から脱離してシャンク13は回転フリーの状態となるわけである。尚、第2ばね32の弾発力は第1ばね25のそれよりも小さい。」(第5欄第20行?第27行)
甲第3号証の以上の記載によれば、同号証には、次のものが記載されていると言える。
シャンク13の周りに軸受12を介してユニットケース11を装着し、該ユニットケース11一側のピン穴20内に第1ばね25を介してユニットケース固定用ピン22を摺動自在に嵌合し、前記シャンクを工作機械の主軸に自動工具交換機構により装着した後に引込機構により引き込み、前記ユニットケース固定用ピン22の先端部を前記主軸近傍の対応するピン係合台5に前記ばねの押付力により押し付けるようにした切削具取り付けユニットにおいて、前記シャンクを前記主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決め用カラーを係合台に押しつける弱い第2ばねと、前記引込機構により引き込んだときに前記ユニットケース固定用ピン22を押し付ける第1の強いばねとから成る切削具取り付けユニットのユニットケース固定用ピン。
(b)甲第4号証(実公平4-29964号公報)には、次の記載がある。
「上記ユニットケース1は中央接続部4寄りでシャンク2に垂直な面で二分割され、一方(接続部4側)の部分1aに対し他方(チャック部6側)の部分1bが軸受15を介し、シャンク2を軸心として回転可能となっている。」(第5欄8?11行)
「上記一方のユニットケース部分1aにはピン保持台7がボルト締めにより突設されており、このピン保持台7にスピンドル3周りの端面に向かって進退自在な中空のユニットケース1固定用ピン9が嵌入され、このピン9はばね19により突出方向に付勢されている。ピン9の先端はテーパ状に形成され、この先端がフレーム8の端面に形成された係止孔20に嵌入することにより、ピン9を介しユニットケース1がフレーム8に対し固定される。」(第5欄30行?39行)
「ピン保持台7から突出したピン23を介し、ばね24により、常時、第1図鎖線のごとくストッパー11が付勢されて突出片11aが係止部10に係止しており、ユニットケース固定用ピン9を係止孔20に嵌めると、同図実線のごとくストッパー11がフレーム8端面に当接して押され、突出片11aが係止部10から後退して離れ、ユニットケース1に対しシャンク2が回転可能となる。」(第6欄9行?17行)
甲第4号証の以上の記載によれば、同号証には、次のものが記載されていると言える。
シャンク2の周りに軸受15を介してユニットケース1を装着し、該ユニットケース1一側のピン穴内にばね19を介してユニットケース固定用ピン9を摺動自在に嵌合し、前記シャンクを工作機械の主軸に自動工具交換機構により装着した後に引込機構により引き込み、前記ユニットケース固定用ピン9の先端部を前記主軸近傍の対応するフレーム8の係止孔20に前記ばねの押付力により押し付けるようにした切削具取付けユニットにおいて、前記シャンクを前記主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記ストッパー11をフレーム8の端面に押しつけるばね24と、前記引込機構により引き込んだときに前記ユニットケース固定用ピン9を押し付けるばね19とから成る切削具取り付けユニットのユニットケース固定用ピン。
(c)甲第5号証(実公平2-24601号公報)には、次の記載がある。
「上記ユニットケース1は中央接続部4寄りでシャンク2に垂直な面で二分割され、一方(接続部4側)の部分1aに対し他方(チャック部6側)の部分1bが軸受15を介し、シャンク2を軸心として回転可能となっている。」(第4欄33?37行)
「上記一方のユニットケース部分1aにはピン保持台7がボルト締めにより突設されており、このピン保持台7にスピンドル3周りの端面に向かって進退自在な中空のユニットケース1固定用ピン9が嵌入され、このピン9はばね19により突出方向に付勢されている。ピン9の先端はテーパ状に形成され、この先端がフレーム8の端面に形成された係止孔20に嵌入することにより、ピン9を介しユニットケース1がフレーム8に対し固定される。」(第5欄11行?20行)
「ピン保持台7から突出したピン23を介し、ばね24により、常時、第1図鎖線のごとくストッパー11が付勢されて突出片11aが係止部10に係止しており、ユニットケース固定用ピン9を係止孔20に嵌めると、同図実線のごとくストッパー11がフレーム8端面に当接して押され、突出片11aが係止部10から後退して離れ、ユニットケース1に対しシャンク2が回転可能となる。」(第5欄34行?42行)
甲第5号証の以上の記載によれば、同号証には、次のものが記載されていると言える。
シャンク2の周りに軸受15を介してユニットケース1を装着し、該ユニットケース1一側のピン穴内にばね19を介してユニットケース固定用ピン9を摺動自在に嵌合し、前記シャンクを工作機械の主軸に自動工具交換機構により装着した後に引込機構により引き込み、前記ユニットケース固定用ピン9の先端部を前記主軸近傍の対応するフレーム8の係止孔20に前記ばねの押付力により押し付けるようにした切削具取付けユニットにおいて、前記シャンクを前記主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記ストッパー11をフレーム8の端面に押しつけるばね24と、前記引込機構により引き込んだときに前記ユニットケース固定用ピン9を押し付けるばね19とから成る切削具取付けユニットのユニットケース固定用ピン。
そこで、本件考案(前者)と甲第3号証に記載のもの(後者)とを対比する。
後者における、「シャンク」は前者における「ホルダ本体」に相当し、以下同様に、「軸受」は「補助軸受」に、「ユニットケース」は「ハウジング」に、「ピン穴」は「嵌合孔」に、「ユニットケース固定用ピン」は「位置決めピン」に、「ピン係合台」は「位置決めブロック」に、「切削具取付けユニット」は「工具ホルダ」に夫々相当するから、両者は、「ホルダ本体の周りに補助軸受を介してハウジングを装着し、該ハウジング一側の嵌合孔内にばねを介して位置決めピンを摺動自在に嵌合し、前記ホルダ本体を工作機械の主軸に自動工具交換機構により装着した後に引込機構により引き込み、前記位置決めピンの先端部を前記主軸近傍の対応する位置決めブロックに前記ばねの押付力により押し付けるようにした工具ホルダの位置決めピン装置」という構成を有する点において一致していると言える。
しかし、後者における、弱いばね(第2のばね)は、位置決め用カラーを係合台に押しつけるばねであって、位置決めピンを押しつけるばねではないから、前者における「前記ホルダ本体を前記主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決めピンを押し付ける弱いばね」に相当するとは言えないし、強いばねと共働して位置決めピンを押しつける機能も有しない。
すなわち、甲第3号証記載のものは、本件考案の必須の構成である「ホルダ本体を主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決めピンを押し付ける弱いばねと、引込機構により引き込んだときに前記位置決めピンを前記弱いばねと共働して押し付ける強いばねとから成る」構成を具備していない。また、甲第3号証に記載されたものにおける第1のばねおよび第2のばねは、それぞれ別個の部材を押し付けるものであるから、両ばねを共働させることが、きわめて容易であるとすることもできない。
次に、本件考案と甲第4号証および甲第5号証記載のもの(これらは同一であるのでまとめて「後者」という。)とを対比する。
後者における「シャンク」は前者の「ホルダ本体」に相当し、以下同様に「軸受」は「補助軸受」に、「ユニットケース」は「ハウジング」に、「ピン穴」は「嵌合孔」に、「ユニットケース固定用ピン」は「位置決めピン」に、「係止孔」は「位置決めブロック」に、「切削具取付けユニット」は「工具ホルダ」に、夫々相当する。
したがって両者は、「ホルダ本体の周りに補助軸受を介してハウジングを装着し、該ハウジング一側の嵌合孔内にばねを介して位置決めピンを摺動自在に嵌合し、前記ホルダ本体を工作機械の主軸に自動工具交換機構により装着した後に引込機構により引き込み、前記位置決めピンの先端部を前記主軸近傍の対応する位置決めブロックに前記ばねの押付力により押し付けるようにした工具ホルダの位置決めピン装置」という構成を有する点において一致していると言える。
しかし、後者におけるばね24は、ストッパーを係止部に押しつけるばねであって、ユニットケース固定用ピン(即ち位置決めピン)を押しつけるばねではないから、前者における「前記ホルダ本体を前記主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決めピンを押し付ける弱いばね」に相当するとは言えないし、強いばねと共働して位置決めピンを押しつける機能も有しない。
すなわち、甲第4号証および甲第5号証記載のものは、やはり本件考案の必須の構成である「ホルダ本体を主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決めピンを押し付ける弱いばねと、引込機構により引き込んだときに前記位置決めピンを前記弱いばねと共働して押し付ける強いばねとから成る」構成を具備しているとは言えない。また、甲第4号証および甲第5号証に記載されたものにおけるばね19およびばね24は、それぞれ別個の部材を押し付けるものであるから、両ばねを共働させることが、きわめて容易であるとすることもできない。
以上のことから、甲第3号証乃至甲第5号証に記載のものは、いずれも本件考案の必須の構成である「ホルダ本体を主軸に前記自動工具交換機構により装着したときに前記位置決めピンを押し付ける弱いばねと、引込機構により引き込んだときに前記位置決めピンを前記弱いばねと共働して押し付ける強いばねとから成る」という構成を具備しないから、これら甲号証記載のものに基づいて本件考案の構成を有する工具ホルダの位置決めピン装置がきわめて容易に考案をすることができたととは言えない。
したがって、本件申立人の理由2も理由がない。
[3]結び
以上の通りであるから、本件実用新案登録異議の申立ては理由がない。
また、他に本件実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2000-10-18 
出願番号 実願平4-60576 
審決分類 U 1 651・ 113- Y (B23Q)
U 1 651・ 121- Y (B23Q)
最終処分 維持    
前審関与審査官 横溝 顕範  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 中村 達之
播 博
登録日 1999-08-20 
登録番号 実用新案登録第2600718号(U2600718) 
権利者 黒田精工株式会社
神奈川県川崎市幸区下平間239番地
考案の名称 工具ホルダの位置決めピン装置  
代理人 日比谷 征彦  
代理人 森下 武一  

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