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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) C02F
管理番号 1028434
判定請求番号 判定2000-60090  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2001-04-27 
種別 判定 
判定請求日 2000-06-13 
確定日 2000-10-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第1918018号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「スカム除去装置」は、登録第1918018号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号物件(添付図面1乃至4に示される「スカム除去装置」)が登録実用新案第1918018号考案(以下、「本件考案」という)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
2.本件考案
本件考案は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、この考案を構成要件に分説すると次のとおりである。
「(イ)誘引口である少なくとも一部が処理池の水面よりも低くなるようにして同池内に固定して設置されるトラフ、
(ロ)トラフの誘引口側前面位置に設けられ水面を境に出没可能とされる堰、
(ハ)水平軸状の可動固定支点に支持され一端が処理池内のフライトに沿うことにより上下運動するようになっている揺動アームおよび同アームの運動を伝達してアームの上方への持ち上がりにより堰を水面下に沈め下方への戻りにより同堰を再び水面上に突き出させる伝達機構を有する揺動アーム機構、を備えたスカム除去装置であって、
(ニ)前記揺動アームは、上回りから下回りを通るように循環するフライトの下回りの軌道上に配置され、
(ホ)前記伝達機構は、揺動アームと水面上の堰との間を長く結ぶようになっていることを特徴とする
(ヘ)スカム除去装置。」
3.本件考案の目的及び効果
本件考案の目的は、トラフ、堰、揺動アーム機構などから構成される現行のスカム除去自動化装置では、「フライト駆動用のチェーンを回転自在にするスプロケットの軸が水面近くに1本と水面下の底部に2本の合計3本が設けられている、いわゆる、3軸タイプの支持軸系である場合、水面近くのスプロケットを通過したフライトは次第に底部に向けて下がるように構成されている。この場合、揺動アームを水面上に設けるようにすると、フライトにより揺動アームのストライカーが蹴られないようになる。従って、このような3軸タイプの場合、揺動アームを水面上に設けることができず、前記のような有効なスカム除去装置を沈澱池に設置することができなかった。また、下部1階部分にチェーン等の駆動系が設けられ、上部2階部分にトラフや堰が設置されるような2階槽形式の場合、前記駆動系が1階部分にあるため、フライトで堰を浮沈させる構造をとることができなかった。」(実用新案公報第3欄第12行乃至第28行)という問題があったために、これらの問題を解決して、「3軸タイプや2階槽形式の場合でも、スカム除去装置を容易に設置することができるようにすることにある。」(実用新案公報第3欄第31行乃至第33行)というものである。
そして、本件考案は、このような問題を解決するために、「前記揺動アームは、上回りから下回りを通るように循環するフライトの下回りの軌道上に配置され、前記伝達機構は、揺動アームと水面上の堰との間を長く結ぶようになっていることを特徴とする」(実用新案公報第3欄第36行乃至第40行)というものである。
また、本件考案の効果は、「この考案は以上のように構成されているので、3軸タイプや2階槽形式の場合でも、スカム除去装置を容易に設置することができるようになった。」(実用新案公報第6欄第29行乃至第32行)というものである。
4.イ号物件
(1)イ号図面及びイ号図面に示された事項
判定請求書に添付されたイ号図面(図1乃至図4)は、請求人の説明によれば「イ号図面の図1は被請求人が実施を予定する矩形沈澱池(処理池)にスカム除去装置を装備する構想を沈澱池を縦割りにして示す斜視図、図2は図3のII-II線に対応して同スカム除去装置の全体を示す縦断面図、図3は図2のIII-III線に対応して同スカム除去装置の全体を示す縦断側面図、図4は図3の要部についての作動状態を示す縦断側面図」である。
なお、請求人は、イ号図面に示される「イ号物件」を特定するために、イ号図面中の各部材に名称を書き込んでいるが、それら部材の中で「揺動アーム」、「可動固定支点」及び「一端(カム板)」と称されている部材については、イ号図面に示された構成やスカム除去装置の作動態様等からみて、その名称が適切でないと認められるから、「揺動アーム」については、伝達機構と連結されている部分を「伝達アーム」に改め、「可動固定支点」については、「固定軸」と「回転パイプ」に区別して改称し、「一端(カム板)」については、「板状部材」に改める。
そして、図1乃至図4の内容を総合すると、イ号図面には、「スカム除去装置」に係り、次の(i)乃至(ix)の事項が示されていると認められる。
(i)トラフは、誘引口を有しその誘引口が処理池の水面より低くなるように配置されている(図3参照)。
(ii)堰は、トラフの誘引口側前面に設けられ水面を境に水面下と水面上に浮き沈みするように回転可能に配置されている(図3参照)。
(iii)この堰は、伝達機構に連結されこの伝達機構は伝達アームに連結されている(図2及び図3参照)。
(iv)この伝達アームは、池の左右側壁間に水平に横架された一対の固定軸に配置された一対の回転パイプの一方の一端に固定されている(図1乃至図4参照)。
(v)この一対の回転パイプの他端には、その外周に一対の補助リンクが固定されその補助リンクの先端には板状部材が補助リンクと回転自在に取り付けられている(図1、図3及び図4参照)。
(vi)この板状部材は、フライトの上部に取り付けられたアタッカーに沿うことにより図4の左方(上流側)に回動移動して一対の回転パイプを回転させるものである(図1、図3及び図4参照)。
(vii)一対の回転パイプが回転されることで、一方の回転パイプに固定されている伝達アームが回動しこの回動が伝達機構を介して堰を水面下と水面上に浮き沈みさせる(図1及び図3参照)。
(viii)この伝達機構は、伝達アームと堰との間を連結するようになっている(図1乃至図3参照)。
(ix)フライトは、処理池を上回りから下回りを通るように循環し下回りの軌道上で板状部材と沿うものである(図3参照)。
(2)イ号物件の構成
イ号図面に示される「イ号物件」は、イ号図面から摘示される上記(1)に示す(i)乃至(ix)の事項からみて、本件の実用新案登録請求の範囲の記載に即して分説すると、次のとおりの構成を具備するものと認められる。
(a)誘引口が処理池の水面よりも低くなるようにして同池内に固定して設置されるトラフ、
(b)トラフの誘引口側前面位置に設けられ水面を境に出没可能とされる堰、
(c)水平軸状の一対の固定軸にそれぞれ設けられた一対の回転パイプの一方の一端に固定された伝達アームと一対の回転パイプの他端にそれぞれ固定された一対の補助リンクとこの補助リンクの先端に取り付けられた板状部材とから構成され、処理池内のフライトに沿うことにより回動される部材(これを以下「回動部材」という)およびこの回動部材の回動を伝達して堰を水面下に沈め又は再び水面上に突き出させる伝達機構を、備えたスカム除去装置であって、
(d)前記回動部材は、上回りから下回りを通るように循環するフライトの下回りの軌道上に配置され、
(e)前記伝達機構は、回動部材と水面上の堰との間を長く結ぶようになっていることを特徴とする、
(f)スカム除去装置。
5.対比・判断
(1)イ号物件の各構成要件が本件考案の各構成要件を充足するか否かについて
本件考案とイ号物件とを対比すると、両者は、「スカム除去装置」に係る点で共通しているから、イ号物件の構成要件(f)は本件考案の構成要件(ヘ)を充足し、イ号物件の構成要件(a)及び(b)も、その文言からも明らかなとおり、本件考案の構成要件(イ)及び(ロ)をそれぞれ充足する。
また、イ号物件の構成要件(c)と本件考案の構成要件(ハ)とを対比すると、イ号物件の構成は、フライトに沿うことにより回動するのが「回動部材」であり、本件考案の「揺動アーム」の構成と異なっているから、イ号物件の構成要件(c)は、本件考案の構成要件(ハ)を充足しない。
また、イ号物件の構成要件(d)及び(e)と本件考案の構成要件(ニ)及び(ホ)とを対比すると、イ号物件の構成は、前記「回動部材」が配設されており、本件考案の「揺動アーム」の構成と異なっているから、イ号物件の構成要件(d)及び(e)も、本件考案の構成要件(ニ)及び(ホ)を充足しない。
(2)上記相違部分が均等であるか否かについて
(均等の要件)
均等の判断は、最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡)で判示された以下の5つの要件をすべて満たした場合に均等と判断するとされている。
(A)特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない。
(B)前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する。
(C)前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが、イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである。
(D) イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない。
(E) イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない。
(均等の判断)
イ号物件は、上記5.(1)の対比から、その構成要件(c)、(d)及び(e)が本件考案の構成要件(ハ)、(ニ)及び(ホ)とそれぞれ異なっているが、両者の相違部分は、尽きるところ、イ号物件の「回動部材」の構成が本件考案の「揺動アーム」の構成と異なっている点であると云えるから、この相違部分に関する上記均等の要件について次に検討する。
(A)の要件について
本件考案の本質的な部分は、上記「3.本件考案の目的及び効果」に照らせば、揺動アーム機構などから構成される現行のスカム除去自動化装置を3軸タイプや2階槽形式のスカム除去装置に使用することができなかったという問題を解決するために、「揺動アームを上回りから下回りを通るように循環するフライトの下回りの軌道上に配置し、伝達機構を揺動アームと水面上の堰との間を長く結ぶようにした」点にあるのであり、本件考案の構成要件(ハ)の中の「揺動アーム」点については、本件明細書の【従来の技術】の記載に徴すれば、従来のスカム除去装置でも備えられていたものであるから、このような従来技術と本件考案の目的や効果を併せ勘案すれば、本件考案の上記「揺動アーム」の部分は、本質的な部分ではないと云うのが相当である。
(B)の要件について
本件考案の目的は、「3軸タイプや2階槽形式のスカム除去装置の場合でも、揺動アーム機構などから構成される現行のスカム除去自動化装置を容易に設置することができるようにすることにある」ところ、本件考案の上記「揺動アーム」をイ号物件の「回動部材」の構成に置換した場合でも、本件考案と同様に「3軸タイプや2階槽形式のスカム除去装置に設置する」という目的を達成し、本件明細書に記載された作用効果と同一の作用効果を奏すると認められる。
(C)の要件について
先ず、本件考案の「揺動アーム」について検討するに、「揺動アーム」については、実用新案登録請求の範囲に「水平軸状の可動固定支点に支持され一端が処理池内のフライトに沿うことにより上下運動するようになっている揺動アーム」と記載されているが、この記載では、「揺動アーム」の「一端」だけが特定されているだけであるから、その「他端」が有るのか否か、有るとすればどのような構成のものか、また「水平軸状の可動固定支点」とはどのようなものか必ずしも明確ではない。
そこで、本件明細書及び図面の記載を参酌すると、「揺動アーム」については、本件明細書に「この揺動アームの先端である一端15aは上流側に向けて延び、基端である他端15bは下流側に向けて延びている。」(第4欄第37行乃至第39行)と記載され、また「アタッカー7が第1カム19aに当たると、揺動アーム15の一端15aは持ち上がり、他端15bは下がるようになり、昇降ロッド20が下げられる。」(第5欄第23行乃至第26行)と記載されている。
また、「水平軸状の可動固定支点」については、本件明細書の「考案の詳細な説明」の項に何ら記載はなく、第1図及び第2図に「可動固定支点」に相当する部材に対し「16」及び「17」の番号が付されているだけであるが、本願の当初の明細書には、この「可動固定支点」に関する記載として「この揺動アーム15は、アーム支持筒16に通された揺動軸17を中心として揺動できるようになっている。この揺動アーム15の一端15aは、上流側に向けて延び、他端15bは下流側に向けて延びている。」(第6頁第9行乃至第14行)という記載がある。
これら記載と図面を総合すると、本件考案の「揺動アーム」は、アーム支持筒16に通された揺動軸17を中心に上流側に向けてアーム一端15aと下流側に向けてアーム他端15bとが支持されたものである。そして、このような揺動アームの作動態様も、そのアーム両端15a、15bが揺動軸17を支点としていわゆるシーソー型式のような上下運動をするものと云うのが相当である。
これに対し、イ号物件の上記「回動部材」は、上記4.(2)(c)に示したとおりの構成を有するものであり、また、図1からも明らかな如く、フライトが衝突する板状部材が取り付けられている「補助リンク」は、処理池の底方向真下に向けて設けられており、本件考案の「揺動アーム」の、上流側に向けて延びる「アーム一端15a」とその配置方向や移動方向も異なっている。
すなわち、イ号物件の「補助リンク」は、その配置方向が処理池の底方向真下に向けられ、フライトと板状部材とが衝突して補助リンクが移動する方向もフライトの進行方向と同じ上流方向であるのに対し、本件考案の「アーム一端15a」は、その配置方向が上流方向に向けられ、その移動方向は上下方向である。
また、この「回動部材」の作動態様についてみても、その作動態様は、その構成上の相違から、本件考案の「揺動アーム」のシーソー型式の如き「上下運動」ではなく、補助リンクが上流側に移動することにより一対の固定軸に通された回転パイプが回転され、この回転により他方の伝達アームが回動されるという、いわば「回動運動」と云うべきものである。
次に、「可動固定支点」について検討すると、本件考案の「可動固定支点」は、上述したとおり、具体的には「アーム支持筒16に通された揺動軸17」であり、一方、イ号物件の「回動部材」の回動運動の「支点」は、処理池の両側壁間に水平に固定された「一対の固定軸」と認められるから、本件考案の「可動固定支点」の構成と異なっていると云える。
そうすると、本件考案の「揺動アーム」は、イ号物件の「回動部材」とその構成及び作動態様の点で大きく異なっていると云うのが相当である。
そして、イ号物件の上記「回動部材」については、特段の証拠も見当たらないから、本件考案の「揺動アーム」をイ号物件の「回動部材」に置き換えることが当業者にとってきわめて容易に推考することができたとすることはできない。
したがって、イ号物件は、上記相違部分に関する均等の要件の少なくとも上記(C)の要件が満たされないから、その余の要件について検討するまでもなく、本件考案と均等なものとすることはできない。
(請求人の主張)
請求人は、甲第3号証(丹羽重光著「新版機構学」丸善(株)、昭和42年4月15日発行、第253頁乃至255頁)を提出して、この証拠から、本件考案とイ号物件との相違点については当業者がきわめて容易に推考することができたものであると主張している。
しかしながら、請求人が提出した上記証拠には、直線運動を回転運動に変換させる運動機構としての「リンク機構」が記載されているだけであり、「スカム除去装置」における上記「回動部材」については何ら示唆されていないから、この証拠をもって、上記相違点が当業者にとってきわめて容易に推考することができたものであるとすることはできない。
また、請求人の上記主張についてさらに言及するならば、請求人の上記主張の根拠は、イ号物件の「固定軸」及び「回転パイプ」を本件考案の構成要件に即して「可動固定支点」と、またイ号物件の回転パイプに固定された「伝達アーム」及び「補助リンク」を「揺動アーム」とそれぞれ称して「イ号物品」を特定し、この結果、イ号物件と本件考案とは、その構成上異なるところがあるとしながらも、その異なる点は、共にフライトの直線運動を回転運動に変換する「直線→回転運動変換手段」である点で一致するから、両者の構成は、「平行リンク機構」を選択するか否かの点でのみ異なると結論付けたところにある。
しかしながら、「イ号物件」について、その一部の部材を上記のとおりに称することに適切さを欠くことは上述したとおりであり、また、イ号物件の上記「回動部材」の構成は、上述したとおり、本件考案の「揺動アーム」の構成と平行リンク機構以外のその余の点でも異なることが明らかであるから、請求人の上記主張は、採用することができない。
6.むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件登録実用新案に係る考案の技術的範囲に属さないとするのが相当である。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2000-10-03 
出願番号 実願昭61-79903 
審決分類 U 1 2・ 1- ZB (C02F)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 川上 美秀  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 野田 直人
山田 充
登録日 1992-07-13 
登録番号 実用新案登録第1918018号(U1918018) 
考案の名称 スカム除去装置  

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