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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) C02F |
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管理番号 | 1028435 |
判定請求番号 | 判定2000-60098 |
総通号数 | 16 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案判定公報 |
発行日 | 2001-04-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2000-06-29 |
確定日 | 2000-10-28 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2590512号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「スカム除去装置」は、登録第2590512号実用新案の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、イ号物件(添付図面1乃至4に示される「スカム除去装置」)が登録実用新案第2590512号の実用新案登録請求の範囲の第1項に記載された考案(以下、「本件考案」という)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 2.本件考案 本件考案は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の第1項に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、この考案を構成要件に分説すると次のとおりである。 「(イ)処理池の水面よりも低くなる誘引口を備え同池内に両端支持状態で固定して設置されるトラフと、 (ロ)前記トラフと同様の長尺状部材で同トラフの前側において上部が水面を境に浮き沈み可能とされた堰と、 (ハ)池内で循環運動するフライト側により蹴り上げられるカムを備え堰の長手方向に平行な中心軸回りに上下揺動可能に支持された揺動アームとを備えたスカム除去装置において、 (ニ)前記カムを蹴り上げるものとして、フライト側にローラータイプのアタッカーを備えていることを特徴とする、 (ホ)スカム除去装置。」 3.本件考案の目的及び効果 本件考案の目的は、現行のスカム除去装置では、「カムを蹴り上げるのに直接フライトで行ってきた。そのため、フライトが異常に摩耗して溝状になるため、初期想定程にカムを蹴り上げることができなくなり、その結果、堰が想定程に沈下せず、スカムの呑み込みが少なくなる等の問題がでてきた。」(実用新案公報第3欄第21行乃至第25行)ために、これらの問題を解決して、「スカムの呑み込みが初期想定程度に常時得られるようにしたスカム除去装置を提供することを目的とする。」(実用新案公報第3欄第27行乃至第29行)というものである。 また、本件考案の効果は、「この考案は以上のように構成されているので、スカムの呑み込みが初期想定程度に常時得られるようになる。」(実用新案公報第6欄第16行乃至第17行)というものである。 4.イ号物件 (1)イ号図面及びイ号図面に示された事項 判定請求書に添付されたイ号図面(図1乃至図4)は、請求人の説明によれば「イ号図面の図1は被請求人が実施を予定する矩形沈澱池にスカム除去装置を装備する構想を沈澱池を縦割りにして示す斜視図、図2は図3のII-II線に対応して同スカム除去装置の全体を示す縦断面図、図3は図2のIII-III線に対応して同スカム除去装置の全体を示す縦断側面図、図4は図3の要部についての作動状態を示す縦断側面図」である。 なお、請求人は、イ号図面に示される「イ号物件」を特定するために、イ号図面中の各部材に名称を書き込んでいるが、それら部材の中で「カム」及び「揺動アーム」と称されている部材については、イ号図面に示された構成やスカム除去装置の作動態様等からみて、その名称が適切でないと認められるから、「カム」については、「板状部材」に改め、また「揺動アーム」については、昇降ロッドと連結されている部分を「伝達アーム」に、板状部材と連結されている部分を「取付けアーム」にそれぞれ改める。 そして、図1乃至図4の内容を総合すると、イ号図面には、「スカム除去装置」に係り、次の(i)乃至(ix)の事項が示されていると認められる。 (i)トラフは、誘引口を備えその誘引口が処理池の水面より低くなるように処理池内に両端支持状態で配置されている(図2及び図3参照)。 (ii)堰は、トラフとほぼ同じ長さの長尺状部材でトラフの誘引口側前面に設けられ堰の上部が水面を境に水面下と水面上に浮き沈みするように回転可能に配置されている(図2及び図3参照)。 (iii)この堰は、昇降ロッドに連結されこの昇降ロッドは伝達アームに連結されている(図2及び図3参照)。 (iv)この伝達アームは、池の左右側壁間に水平に横架された一対の固定軸に配置された一対の回転パイプの一方の一端に固定されている(図1乃至図4参照)。 (v)この一対の回転パイプの他端には、その外周に一対の取付けアームが固定されこの取付けアームの先端には板状部材が取付けられている(図1、図3及び図4参照)。 (vi)この板状部材は、フライトの上部に取付けられたアタッカーと衝突することで図4の左方(上流側)に回動移動して一対の回転パイプを回転させるものである(図1、図3及び図4参照)。 (vii)一対の回転パイプが回転されることで、一方の回転パイプに固定されている伝達アームが回動しこの回動が昇降ロッドを上げ下げして堰を水面下と水面上に浮き沈みさせる(図1及び図3参照)。 (viii)フライトは、その上部にアタッカーを備えそのアタッカーの上端にはローラーが設けられている(図3及び図4参照)。 (ix)このフライトは、処理池を上回りから下回りを通るように循環運動し下回りの軌道上で板状部材を蹴り上げるものである(図3及び図4参照)。 (2)イ号物件の構成 イ号図面に示される「イ号物件」は、イ号図面から摘示される上記(1)に示す(i)乃至(ix)の事項からみて、本件の実用新案登録請求の範囲の第1項の記載に即して分説すると、次のとおりの構成を具備するものと認められる。 (a)処理池の水面よりも低くなる誘引口を備え同池内に両端支持状態で設置されるトラフと、 (b)前記トラフとほぼ同じ長さの長尺状部材で同トラフの前側において上部が水面を境に浮き沈み可能とされた堰と、 (c)池内で循環運動するフライト側により蹴り上げられる板状部材を備え池の左右側壁間に水平に横架された一対の固定軸にそれぞれ設けられた一対の回転パイプの一方の一端に固定された伝達アームと一対の回転パイプの他端にそれぞれ固定されその先端に前記板状部材が取り付けられた一対の取付けアームとから構成される部材(これを以下「回動部材」という)とを備えたスカム除去装置において、 (d)前記板状部材を蹴り上げるものとして、フライト側にローラータイプのアタッカーを備えていることを特徴とする、 (e)スカム除去装置。 5.対比・判断 (1)イ号物件の各構成要件が本件考案の各構成要件を充足するか否かについて 本件考案とイ号物件とを対比すると、両者は、「スカム除去装置」に係る点で共通しているから、イ号物件の構成要件(e)は本件考案の構成要件(ホ)を充足し、イ号物件の構成要件(a)及び(b)も、その文言からも明らかなとおり、本件考案の構成要件(イ)及び(ロ)をそれぞれ充足する。 次に、イ号物件の構成要件(c)と本件考案の構成要件(ハ)とを対比すると、イ号物件の構成は、板状部材を「回動部材」に備えており、本件考案のカムを「揺動アーム」に備える構成と異なっている。またイ号物件の「回動部材」も、本件考案の「揺動アーム」の構成と異なっているから、イ号物件の構成要件(c)は、本件考案の構成要件(ハ)を充足しない。 さらに、イ号物件の構成要件(d)と本件考案の構成要件(ニ)とを対比すると、イ号物件の構成は、そのフライトが衝突して蹴り上げる部材が「板状部材」であり、本件考案の「カム」の構成と異なっているから、イ号物件の構成要件(d)も、本件考案の構成要件(ニ)を充足しない。 (2)上記相違部分が均等であるか否かについて (均等の要件) 均等の判断は、最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡)で判示された以下の5つの要件をすべて満たした場合に均等と判断するとされている。 (A)特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない。 (B)前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する。 (C)前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが、イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである。 (D) イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない。 (E) イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない。 (均等の判断) イ号物件の上記「回動部材」の構成は、上記5.(1)の対比から、本件考案の「カムを備え・・・上下揺動可能に支持された揺動アーム」の構成と異なっていると云えるから、この相違部分に関する上記均等の要件について次に検討する。 (A)の要件について 本件考案の本質的な部分は、上記「3.本件考案の目的及び効果」に照らせば、現行のスカム除去装置における「カムを蹴り上げるのに直接フライトで行ってきた。そのため、フライトが異常に摩耗して溝状になるため、初期想定程にカムを蹴り上げることができなくなり、その結果、堰が想定程に沈下せず、スカムの呑み込みが少なくなる等の問題がでてきた。」(実用新案公報第3欄第21行乃至第25行)という問題を解決するために「フライト側にローラータイプのアタッカーを備え」た点にあるのであり、本件考案の構成要件(ハ)の中の「カムを備え・・・上下揺動可能に支持された揺動アーム」点については、本件明細書の【従来の技術】の記載に徴すれば、従来のスカム除去装置でも備えられていたものであるから、このような従来技術と本件考案の目的や効果を併せ勘案すれば、本件考案の上記「カムを備え・・・上下揺動可能に支持された揺動アーム」の部分は、本質的な部分ではないと云うのが相当である。 (B)の要件について 本件考案の目的は、フライトの摩耗を防止してスカムの呑み込みが初期想定程度に常時得られるようにすることにあると認められるところ、本件考案の「カムを備え・・・上下揺動可能に支持された揺動アーム」をイ号物件の「回動部材」の構成に置換した場合には、フライトの摩耗が防止されるものの、「回動部材」には「カム面」に相当するものが存在しないから、「カム」の表面形状に従って期待されるスカムの呑み込みの「初期想定程度」が常時得られるという本件考案と同一の作用効果を奏するとは云えない。 (C)の要件について 先ず、本件考案の「カムを備え・・・上下揺動可能に支持された揺動アーム」の「上下揺動可能に支持された揺動アーム」の部分について、その具体的な構成を検討すると、この「揺動アーム」については、実用新案登録請求の範囲の第1項に「堰の長手方向に平行な中心軸回りに上下揺動可能に支持された揺動アーム」と記載されている。 しかしながら、この記載からでは、揺動アームが「上下揺動可能に支持された」構成がどのようなものか必ずしも明確ではないから、本件明細書及び図面の記載を参酌すると、本件明細書には、「揺動アーム」について、「この揺動アーム15の一端であるカム取付アーム部15aは上流側に向けて延び、他方のアームである押下アーム部15bは下流側に向けて延びている。」(第4欄第36行乃至第38行)と記載され、また「アタッカー7が第1カム19aに当たると、揺動アーム15の一端15aは持ち上がり、他端15bは下がるようになり、昇降ロッド20が下げられる。」(第4欄第49行乃至第5欄第2行)と記載されている。 これら記載と図面を参酌すると、本件考案の「堰の長手方向に平行な中心軸回りに支持された揺動アーム」とは、「堰の長手方向に平行な中心軸(図1及び図2で番号17で示される軸)回りに上流側に向けて延びるカム取付アーム部15aと下流側に向けて延びる押下アーム部15bが支持された揺動アーム」であると云うのが相当である。 そして、このような「揺動アーム」が「上下揺動可能に支持された」とは、揺動アームの両端15a及び15bが中心軸を支点として、いわゆる「シーソー型式のような上下揺動可能に支持された」ことを意味すると云うのが相当である。 これに対し、イ号物件の構成の上記「回動部材」は、上記4.(2)(c)に示したとおりの構成を有するものであり、また、図1からも明らかな如く、フライト側により蹴り上げられる板状部材が取り付けられている「取付けアーム」は、処理池の底方向真下に向けて設けられているから、本件考案の「揺動アーム」の、上流側に向けて延びる「カム取付アーム部15a」とその配置方向や移動方向が異なっている。 すなわち、イ号物件の「取付けアーム」は、その配置方向が処理池の底方向真下に向けられ、フライトに板状部材が蹴り上げられて取付けアームが移動する方向もフライトの進行方向と同じ上流方向であるのに対し、本件考案の「カム取付アーム部15a」は、その配置方向が上流方向に向けられ、フライトにカムが蹴り上げられてこのアーム部15aが移動する方向は処理池の上下方向である。 また、イ号物件の上記「回動部材」の作動態様についてみても、その作動態様は、上述したような構成上の相違から、本件考案の「揺動アーム」のシーソー型式の如き「上下揺動」ではなく、取付けアームが上流側に移動することにより一対の固定軸(中心軸に相当)に通された回転パイプが回転され、この回転により他方の伝達アームが回動されるという、いわば「回動運動」と云うべきものである。 次に、本件考案の「カム」について検討すると、イ号物件の回動部材に備えられている「板状部材」は、フライト側により蹴り上げられてその「取付けアーム」を上流側に移動させるための部材であり、この「板状部材」のローラーが当接する箇所には「カム面」や「カム機構」に相当するものがあるとは認められない。 これに対し、本件考案は「カム」を有するものであり、そしてこの「カム」とは、本件明細書及び図面の記載からみて、一般的にいわれている「エッジ或いは表面にきざまれた溝によって従動部に運動を伝える板や円筒形の機械部品」(「マグローヒル科学技術用語大辞典大3版」第315頁)、すなわち、カムの表面形状(本件考案のカムでは、第1カム19a、第2カム19c及び凹み19bに相当)に従って従動部に所定の運動を与える機能を有する部材と云うべきであるから、イ号物件の「板状部材」の構成は本件考案の「カム」の構成と異なっていると云える。 そうすると、本件考案の「カムを備え・・・上下揺動可能に支持された揺動アーム」は、イ号物件の「回動部材」とその構成及び作動態様等の点で大きく異なっていると云うのが相当である。 そして、イ号物件の上記「回動部材」については、特段の証拠も見当たらないから、本件考案の「カムを備え・・・上下揺動可能に支持された揺動アーム」の構成をイ号物件の「回動部材」の構成に置き換えることが当業者にとってきわめて容易に推考することができたとすることはできない。 したがって、イ号物件は、上記相違部分に関する均等の要件の少なくとも上記(B)及び(C)の要件が満たされないから、その余の要件について検討するまでもなく、本件考案と均等なものとすることはできない。 (請求人の主張) 請求人は、甲第3号証(丹羽重光著「新版機構学」丸善(株)、昭和42年4月15日発行、第253頁乃至255頁)を提出して、この証拠から、本件考案とイ号物件との相違点については当業者がきわめて容易に推考することができたものであると主張している。 しかしながら、請求人が提出した上記証拠には、直線運動を回転運動に変換させる運動機構としての「リンク機構」が記載されているだけであり、「スカム除去装置」における上記「回動部材」の構成については何ら示唆されていないから、この証拠をもって、上記相違点が当業者にとってきわめて容易に推考することができたものであるとすることはできない。 また、請求人の上記主張についてさらに言及するならば、請求人の上記主張の根拠は、イ号物件の回転パイプに固定された「伝達アーム」及び「取付けアーム」を本件考案の構成要件に即して「揺動アーム」と、またイ号物件の「板状部材」を「カム」とそれぞれ称して「イ号物品」を特定し、この結果、イ号物件と本件考案とは、その構成上異なるところがあるとしながらも、その異なる点は、共にフライトの直線運動を中心軸回りの回転運動に変換する「直線→回転運動変換手段」である点で一致するから、両者の構成は、「平行リンク機構」を選択するか否かの点でのみ異なると結論付けたところにある。 しかしながら、「イ号物件」について、その一部の部材を上記のとおりに称することに適切さを欠くことは上述したとおりであり、また、イ号物件の「回動部材」の構成は、上述したとおり、本件考案の「揺動アーム」と平行リンク機構以外のその余の点でも異なることが明らかであるから、請求人の上記主張は、採用することができない。 6.むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件登録実用新案に係る考案の技術的範囲に属さないとするのが相当である。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2000-10-03 |
出願番号 | 実願平9-8515 |
審決分類 |
U
1
2・
1-
ZB
(C02F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 斉藤 信人、川上 美秀、繁田 えい子 |
特許庁審判長 |
沼沢 幸雄 |
特許庁審判官 |
野田 直人 山田 充 |
登録日 | 1998-12-11 |
登録番号 | 実用新案登録第2590512号(U2590512) |
考案の名称 | スカム除去装置 |