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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A24F
管理番号 1028439
判定請求番号 判定2000-60050  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2001-04-27 
種別 判定 
判定請求日 2000-04-13 
確定日 2000-11-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第2129458号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 イ号図面及びその説明書に示す「携帯用灰皿」は、登録第2129458号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 I.請求の趣旨

イ号図面及びその説明書に示す「携帯用灰皿」は、登録第2129458号実用新案の技術的範囲に属しない。との判定を求める。

II.本件登録実用新案

登録第2129458号実用新案(以下「本件考案」という。)は、実用新案登録明細書及び図面〔判定請求書に添付された添附書類3の実公平7-41359号公報(以下「本件実用新案公報」という。)参照〕の記載から見て、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものであると認められ、これを分説すると、次のA?Eの構成からなるものである。説示の便宜上、付番を施してある。
A ビニールレザー或は合成樹脂繊維等に防災処理を施した外装材11,12と、アルミ箔等の内装材14とにて形成した袋体13であって、該袋体13の開口部位にファスナーを設けて該開口部を開閉自在にした携帯用灰皿10に於て、
B 該開口部の背面縁部を延設15し、更に、
C 該開口部の前面縁部の全長に補強片16を装着し、
D 前記延設部15の先端部位内側面に全長に及ぶ雌ファスナー17を設け、該延設部15を折曲してこの雌ファスナー17と対峙する位置の全長に及ぶ如く前面外装材11の外側面に雄ファスナー18を設けたことを特徴とする
E 携帯用灰皿10。

III.イ号物件

1.判定請求書には、イ号物件の「携帯用灰皿」を示すイ号図面(第1図は全体の斜視図、第2図は第1図A-A線に沿う断面図、第3図は閉蓋状態を示す第1図A-A線に沿う個所の断面図)及びイ号説明書が添付され、イ号説明書には、次のとおり記載されている。
「軟質合成樹脂シート製外袋1の中に不燃性シート製内袋2を挿入された吸殻入れ本体3と、この本体3において外袋1と内袋2間に装着されたスポンジ13と、外袋1の前面版4の開口縁に止着されたチューブ状玉縁部材5と、外袋1の後面版6の開口縁に延設された蓋版7と、内袋2の後面版8の開口縁に延設され且つ蓋版7に重合状態に止着された内張縁9と、内袋2の前面版10の開口縁に延設され且つ玉縁部材5に捲き被せて外袋1の前面版4の外面に止着された縁巻き部11と、吸殻入れ本体3を開口部に近い個所で二つ折りとした時に相互に係合する状態で外袋1の前面版4と蓋版7の各中央部に止着された各1個の雌雄のホックとをもつ携帯用灰皿。」

2.イ号図面第1?2図によれば、イ号説明書にいう「内袋2の後面版8の開口縁に延設され且つ蓋版7に重合状態に止着された内張縁9」とは、内袋2の後面版8の開口縁に延設され且つ外袋1の後面版6の開口縁に延設された蓋版7に重合状態に止着され内張りされたシート状物を意味するものと認められるから、これを「内張縁9」というのは不適切であり、正しくは「内張版9」というべきである。
このことは、イ号物件の携帯用灰皿に相当する考案についての実用新案登録出願である実願平1-131118号(以下「イ号出願」という。)に係る公開実用新案公報であるとして請求人が判定請求書に添付した添附書類4の実開平3-71800号公報の実用新案登録請求の範囲に、「内袋2の後面版8の開口縁に延設され且つ蓋版7に重合状態に止着された内張版9」と記載されているところから見ても明らかである。
なお、イ号出願に係る考案では、前記の実用新案登録請求の範囲の末尾が「携帯用吸殻」となっているが、これは、考案の名称から見ても明らかなように、「携帯用吸殻入れ」の誤記であり、そして、「携帯用吸殻入れ」は「携帯用灰皿」ともいうことができるものである。また、イ号説明書にいう携帯用灰皿とイ号出願に係る考案の携帯用吸殻入れすなわち携帯用灰皿とは、前者では、「この本体3において外袋1と内袋2間に装着されたスポンジ13とをもつ」との事項が追加されており、さらに、前者では、後者にいう「雌雄ホック等係止具」が「各1個の雌雄のホック」と変更されている点で相違するが、この相違は、「内張縁9」は正しくは「内張版9」というべきであるとする前認定を何ら妨げるものではない。

3.したがって、イ号説明書の「内張縁9」を「内張版9」と読み替え、本件考案との対比の便宜上、構成の順序を適宜入れ替え、分説すると、イ号物件は、次のa?eの構成からなるものと認められる。
a 軟質合成樹脂シート製外袋1の中に不燃性シート製内袋2を挿入された吸殻入れ本体3と、この本体3において外袋1と内袋2間に装着されたスポンジ13と、
b 外袋1の後面版6の開口縁に延設された蓋版7と、内袋2の後面版8の開口縁に延設され且つ蓋版7に重合状態に止着された内張版9と、
c 外袋1の前面版4の開口縁に止着されたチューブ状玉縁部材5と、内袋2の前面版10の開口縁に延設され且つ玉縁部材5に巻き被せて外袋1の前面版4の外面に止着された縁巻き部11と、
d 吸殻入れ本体3を開口部に近い個所で二つ折りとした時に相互に係合する状態で外袋1の前面版4と蓋版7の各中央部に止着された各1個の雌雄のホック12,12’とをもつ
e 携帯用灰皿。

IV.本件考案の検討

1.本件実用新案登録明細書の考案の詳細な説明には、次のア?カの事項が図面(第1?5図)とともに記載されている。本件実用新案公報の該当欄行を括弧内に示す。
ア [産業上の利用分野]この考案は、携帯用灰皿に関するものであり、特に、フアスナーの損壊を防止する携帯用灰皿に関するものである。(1欄13行?2欄1行)
イ [従来の技術]従来、此種携帯用灰皿を別紙添付図面の第4図及び第5図に従って説明する。図に於て(1)は携帯用灰皿であり、外装材(2)及び(3)にて袋体(4)を形成している。又、該袋体(4)の内側面にはアルミ箔等で形成された内装材(5)(5)が設けられている。一方、袋体(4)の開口部(K)の下方内側面にはフアスナー(6)が設けられ、該フアスナー(6)はビニール等にて形成された雄フアスナー(7)と雌フアスナー(8)とを係合できるように形成されている。そして、タバコの吸殻等をこの携帯用灰皿(1)内に収容し、密閉できるように構成している。(2欄2?14行)
ウ [考案が解決しようとする課題]上述した従来の携帯用灰皿は、フアスナーが開口部位の内側面にあるため、吸殻等を該携帯用灰皿に収容するときに、該吸殻が直接フアスナーに接触する。依って、該吸殻により該フアスナーが焼損し、フアスナーの機能を害するようなことがあつた。そして、この携帯用灰皿をポケツト等に入れると、該フアスナーの締結機能が低下しているため、ポケツト内に灰が散乱することがあつた。そこで、フアスナーの焼損を防止し、確実に開口部を密閉できるようにするために解決されるべき技術的課題が生じてくるのであり、本考案は該課題を解決することを目的とする。(2欄15行?3欄12行)
エ [作用]本考案は、携帯用灰皿の開口部の背面縁部を延設し、前面縁部の全長に及んで補強片を装着している。そして、該延設部先端部位の内側面に水平方向全長に及ぶ雌フアスナーを設け、前面の外装材外側面に該雌フアスナーと対応して雄フアスナーを設けている。而して、該携帯用灰皿を使用する際は、延設部を上方へ回動するので雌フアスナーが開口部の上方へ位置する。又、雄フアスナーは袋体の外側面に設けているので喫煙途中の灰の収容又は、喫煙終了後の吸殻を収納する際、これらの灰並びに吸殻が直接前記フアスナーに接触するようなことがないので、灰や吸殻の熱によつて該フアスナーが焼損することは全くない。更に、袋体の開口部に装着した補強片は前記延設部の回動基点となつて、該開口部の開閉動作を円滑に行うことができる。又、前記雌雄のフアスナーは袋体の水平方向全長に及んで装着されているので、密封状態が良好となり、収納された吸殻等の燃焼を直ちに消失することができる。(3欄25?42行)
オ 該雌フアスナー(17)と雄フアスナー(18)とは前記補強片(16)からの距離l1とl2とを略同一に形成し、前記延設部(15)を該補強片(16)の位置で折曲し、雌フアスナー(17)と雄フアスナー(18)とを係合して開口部(K)を密閉できるように形成している。而して、タバコ(19)の灰を前記携帯用灰皿(10)に収容する際は、第3図に示すように前記延設部(15)を上方へ回動して開口部(K)を開放し、該携帯用灰皿(10)の上部両側を押圧する。このときは、前記補強片(16)が前方に湾曲して開口部(K)がO字状となる。そして、該補強片(16)にタバコ(19)の先端部位を当接して灰を該携帯用灰皿(10)に収容するが、前記雌フアスナー(17)は該補強片(16)より上方へ位置し、雄フアスナー(18)は外側面にあるのでタバコ(19)の火や灰がこれらフアスナー(17)(18)に接触することなく、この携帯用灰皿(10)内に収容することができる。又、前記延設部(15)を折曲して開口部(K)を密閉する際は、該補強片(16)がこの延設部(15)の折曲位置を定めるので、容易に雌フアスナー(17)と雄フアスナー(18)とを係合することができる。(4欄12?31行、実施例中の記載)
カ [考案の効果]この考案は、上記一実施例に詳述したように、携帯用灰皿の開口部の背面縁部を延設し、該延設部内側面に水平方向全長に及ぶ雌フアスナーを装着している。更に、該開口部の前面縁部に補強片を装着すると共に、前面の外装材外側に前記雌フアスナーと係合する雄フアスナーを設けている。そこで、この携帯用灰皿を使用する際は、前記延設部を上方へ回動し、更に、この携帯用灰皿の両側を押圧し前記補強片を湾曲して開口部を開放する。このときは、前記雌フアスナーは開口部の上方へ位置する。又、雄フアスナーは袋体の外側面に設けているから、喫煙中の灰或は喫煙後の吸殻を収納する際は、これら灰や吸殻がフアスナーに接触することはないので、灰及び吸殻の熱による該フアスナーの焼損を防止し、確実に袋体の開口部を密閉することができる。更に、袋体の開口部に装着した補強片は前記延設部の回動基点となり、前記携帯用の円滑なる開閉動作を為すことができる。又、前記雌雄のフアスナーは袋体の水平方向全長に及んで装着されていることから、該袋体の密封状態が良好となり、収納された吸殻等の燃焼を直ちに消失する等実用的効果のある考案である。(4欄39行?5欄10行)

2.本件実用新案登録明細書の前記ア?カの記載及び図面(第1?5図)によれば、従来の「外装材とアルミ箔等の内装材とで形成した袋体であって、該袋体の開口部位の全長にファスナーを設けて該開口部を開閉自在にした携帯用灰皿」においては、フアスナーが開口部位の内側面にあるため、吸殻を該携帯用灰皿に収容するときに、吸殻が直接フアスナーに接触してフアスナーが焼損し、フアスナーの機能を害するようなことがあつたため、本件考案では、従来のこの種の携帯用灰皿において、
(i)構成Bのように、開口部の背面縁部を延設15し、構成Dのように、延設部15の先端部位内側面に全長に及ぶ雌ファスナー17を設け、延設部15を折曲して雌ファスナー17と対峙する位置の全長に及ぶ如く前面外装材11の外側面に雄ファスナー18を設けたことにより、吸殻とフアスナーとの接触を防いでフアスナーの焼損を防止し、確実に開口部を密閉できるようにし、しかも、雌雄のファスナーを袋体の水平方向全長に及んで装着したことにより、袋体の密封状態を良好とし、収納された吸殻等の燃焼を直ちに消失させるようにし、
(ii)構成Cのように、開口部の前面縁部の全長に補強片16を装着したことにより、補強片16が延設部15の回動基点となつて延設部15の折曲位置を定め、該開口部の開閉動作を円滑に行えるようにするとともに、開口部の開放時には、携帯用灰皿10の上部両側を押圧して補強片16を前方に湾曲させて開口部をO字状に拡開できるようにしたものと認められる。

V.本件考案とイ号物件との対比判断

本件考案の構成A?Eとイ号物件の構成a?eとを順に対比判断する。

1.構成Aと構成aについて
構成Aの「ビニールレザーに防災処理を施した外装材」とは、本件実用新案公報3欄47?50行の「第1図及び第2図に示すように、該携帯用灰皿(10)は防火処理を施されたビニールレザーの外装材(11)(12)により袋体を形成し」との記載から見て、ビニールレザーに防火処理を施した、袋体を形成するための外装材を意味するものと認められる。そして、ビニールレザーとは、基布の表面に軟質ポリ塩化ビニール等の合成樹脂からなる被覆層を設け、該被覆層の表面に皮革に似せたしぼ付け加工を行って得られるものを指すことは当業者に明らかである。また、構成Aの「合成樹脂繊維等に防災処理を施した外装材」とは、同じく、合成樹脂繊維のたぐいに防火処理を施した、袋体を形成するための外装材を意味するものと認められる。
構成aの「軟質合成樹脂シート製外袋」とは、単に軟質合成樹脂シートを袋状にして外装材としたものを意味する。
してみると、構成aの「軟質合成樹脂シート製外袋1」は、構成Aの「ビニールレザー或は合成樹脂繊維等に防災処理を施した外装材11,12」に該当しない。
なお、アルミ箔は不燃性シートの1種であることが明らかであるから、構成aの「不燃性シート製内袋2」は、構成Aの「アルミ箔等の内装材14」に該当する。
したがって、イ号物件は本件考案の構成Aを充足しない。

2.構成Bと構成bについて
構成Bの「該開口部の背面縁部」とは、開口部における外装材と内装材とからなる背面の上縁部を意味するから、これを延設すると、外装材と内装材とが重合状態に止着されたシート状の延設部が当該背面の上縁部に形成されることになる。このことは、本件実用新案公報第2図において、外装材12、内装材14の両者が重合して延長されて延設部15が形成されていることから見ても明らかである。そして、当該外装材の延設部分は構成bの蓋版7に該当し、当該内装材の延設部分は構成bの内張版9に該当することも明らかである。
してみると、構成bの「外袋1の後面版6の開口縁に延設された蓋版7と、内袋2の後面版8の開口縁に延設され且つ蓋版7に重合状態に止着された内張版9」をもつことは、構成Bの「該開口部の背面縁部を延設15」することに該当する。
したがって、イ号物件は本件考案の構成Bを充足する。

3.構成Cと構成cについて
構成Cの「開口部の前面縁部の全長に装着された補強片16」は、前記(ii)のように、延設部15の回動基点となつて延設部15の折曲位置を定め、該開口部の開閉動作を円滑に行えるようにするとともに、開口部の開放時には、携帯用灰皿10の上部両側を押圧して補強片16を前方に湾曲させて開口部をO字状に拡開できるようにするものである。そして、構成Cでは、「補強片」というだけで、その形状は特定されていない。しかし、それは開口部の前面縁部の全長に装着されるものであり、また、本件実用新案公報4欄4?5行(実施例)に、「前面の外装材(11)上縁部の全長に及んでビニールチューブにて形成した補強片(16)が装着されている。」と記載されているところから見て、補強片16は、具体的には、チューブ状のものであると認められる。
構成cの「チューブ状玉縁部材」とは、縁取りないし縁飾りをするためのチューブ状の部材を意味するから、構成cのチューブ状玉縁部材5と構成Cの補強片16とは、いずれもチューブ状の部材である点で一致する。そして、構成cのチューブ状玉縁部材5は外袋1の前面版4の開口縁に止着され、構成Cの補強片16は該開口部の前面縁部の全長に装着されるから、両部材の止着ないし装着位置は同じである。してみると、イ号物件の携帯用灰皿においても、開口部の開放時には、チューブ状玉縁部材5は、吸殻入れ本体3の上部両側を押圧したとき、自身が前方に湾曲して開口部をO字状に拡開する作用を奏するものと推定できる。しかし、次記4でみるように、チューブ状玉縁部材5は折曲の回動基点とはならないから、この点で、構成cのチューブ状玉縁部材5は、構成Cの補強片16とは作用機能が異なる。
したがって、イ号物件は構成Cを充足しないといわざるを得ない。

4.構成Dと構成dについて
構成Dでは、延設部15の先端部位内側面に全長に及ぶ雌ファスナー17を設け、該延設部15を折曲してこの雌ファスナー17と対峙する位置の全長に及ぶ如く前面外装材11の外側面に雄ファスナー18を設けているから、延設部15が、袋体13の開口部の蓋体となって、構成Cの補強片16を回動基点として折曲され、雌雄の細長いファスナー17,18により前面外装材11の外側面に係合される。そしてこの場合、補強片16が折曲の回動基点となることから、補強片16から各ファスナー17,18までの距離はほぼ等しくなければならない。
構成dでは、吸殻入れ本体3を開口部に近い個所で二つ折りとした時に相互に係合する状態で外袋1の前面版4と蓋版7の各中央部に止着された各1個の雌雄のホック12,12’をもつから、蓋版7が折曲されるのではなく、軟質合成樹脂シート製外袋1の中に不燃性シート製内袋2を挿入された吸殻入れ本体3自身が、蓋版7を伴って、開口部に近い個所で二つ折りにされ、雌雄のホック12,12’により蓋版7が外袋1の前面版4に係合される。そしてこの場合、構成cのチューブ状玉縁部材5は折曲の回動基点とはならず、折曲部が吸殻入れ本体3上にあることから、チューブ状玉縁部材5から各ホック12,12’までの距離は等しくはなく、吸殻入れ本体3上の折曲部から各ホック12,12’までの距離がほぼ等しくなければならない。
してみると、構成Dと構成dとは、閉塞部材が、構成Dでは、「延設部15の先端部位内側面に全長に及んで設けた雌ファスナー17とこの雌ファスナー17と対峙する位置の全長に及ぶ如く前面外装材11の外側面に設けた雄ファスナー18」であるのに対し、構成dでは、「外袋1の前面版4と蓋版7の各中央部に止着された各1個の雌雄のホック12,12’」であり、さらに、開口部を開閉するための折曲部が、構成Dでは、延設部15の補強片16に当接する部分となるのに対し、構成dでは、吸殻入れ本体3の開口部に近い個所である点で相違する。
したがって、イ号物件は本件考案の構成Dを充足しない。

5.構成Eと構成eについて
いずれも携帯用灰皿であるから、イ号物件は本件考案の構成Eを充足する。

6.したがって、イ号物件は本件考案の構成B及びEを充足するものの、構成A、C及びDを充足せず、イ号物件は本件考案の構成A、C及びDを具備しない。
そして、イ号物件では、構成dにより、軟質合成樹脂シート製外袋1の中に不燃性シート製内袋2を挿入された吸殻入れ本体3自身が、蓋版を伴って、開口部付近で折曲されて開口部が確実に閉じられ、そのため、開口部の閉塞部材としては、外袋1の前面版4と蓋版7の各中央部に止着された各1個の雌雄のホック12,12’で足りるのに対し、本件考案では、構成C、Dにより、前記(i)、(ii)のように、開口部の背面縁部の延設部15が、補強片16を回動基点として折曲されて開口部が円滑に閉じられ、さらに開口部の全長に及んで設けられた雌雄のファスナー17,18が袋体13を密封状態にするものであるから、イ号物件と本件考案とは、開口部を閉塞する手段及び作用機序において根本的に相違する。

VI.被請求人の主張について

1.被請求人は、携帯用灰皿の袋体の開口部の閉塞手段として、本件考案ではファスナーを採用しているのに対し、イ号物件ではホックを採用している点を除いて、両者の構成は一致し、これら一致点の構成が奏する作用効果も同一であるところ、袋体の開口部の閉塞手段として、本件考案のファスナーとホックとは均等物であるから、結局、イ号物件の携帯用灰皿は本件考案の技術的範囲に属するものである旨主張する。

2.しかし、本件考案とイ号物件とが、その構成上、袋体の開口部の閉塞手段において相違するばかりでなく、それ以外にも相違することは、前記Vで説示したとおりであるから、被請求人の主張はその前提においてすでに失当である。
そして、前記Vの4の構成Dと構成dとの対比判断及び前記Vの6で説示したように、本件考案とイ号物件とは、開口部を閉塞する手段及び作用機序においてそもそも根本的に相違するから、両者の間に「均等」を論ずる余地がないことは明らかである。

3.ところで、仮に、本件考案とイ号物件との構成上の相違点が、被請求人の主張するように、開口部の閉塞手段として用いたファスナーとホックとの相違のみにあるとして、これについて、平成6年(オ)第1083号最高裁判決が判示した「均等の要件」に従って以下検討を試みることにする。なお、当該要件の文言中、「特許請求の範囲」は「実用新案登録請求の範囲」と、「発明」は「考案」と、「特許発明」は「登録実用新案」とそれぞれ読み替えてある。
(1)第1の要件は、「実用新案登録請求の範囲に記載された構成中のイ号物件と異なる部分が考案の本質的な部分ではないこと」である。
前記Vの2で認定したように、本件考案は、袋体の開口部の閉塞手段としてファスナーを用いる従来の携帯用灰皿においては、開口部位の内側面の全長に設けられたファスナーが吸殻により焼損するため、これを防止するという技術的課題を達成しようとして、ファスナーの取付け位置に改良を加えたものであるから、閉塞手段としてファスナーを用いることは、本件考案における本質的な部分であるというべきである。
したがって、本件は第1の要件を満たさない。
(2)第2の要件は、「前記異なる部分をイ号物件のものと置き換えても、登録実用新案の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏すること」である。
本件考案では、細長い閉塞部材である雌雄のファスナーが袋体の水平方向全長に及んで装着されているため、袋体の密封状態が良好となり、吸殻等の燃焼を直ちに消失できるものである。これを、いわば点状の閉塞部材である各1個の雌雄のホックに置き換えると、たとえ補強片16が存在していても、袋体の密封状態が不完全なものになることは見易いところであるから、その場合、本件考案の目的を達成することができるとはいえず、また、本件考案と同一の作用効果を奏するともいえない。
したがって、本件は第2の要件を満たさない。
(3)第3の要件は、「前記異なる部分をイ号物件のものと置き換えることが、イ号物件の実施の時点において、当業者が容易に想到することができたものであること」である。
前述のように、本件考案の主たる目的は、従来の内側面にファスナーを有する携帯用灰皿のファスナーの取付け位置の改良にあるから、たとえ、ファスナーとホックとが閉塞部材としていずれも周知のものであるとしても、本件考案の雌雄のファスナーを各1個の雌雄のホックに置き換えることなど、当業者は到底着想し得ない。このことは、このような置き換えをすると、本件考案の目的を達成することができないものとなることから見ても明らかである。それに、閉塞部材としてホックを用いたものは、被請求人が本件考案とは別に実用新案権を取得している(判定請求書の添附書類6の実開平3-37898号公報に係る考案についてされた実用新案登録第2505716号)。
したがって、イ号物件の実施の時点がいつであるかにかかわらず、本件は第3の要件を満たさない。
(4)したがって、この他の「均等の要件」について検討するまでもなく、本件について、被請求人の主張する「均等」の適用はない。

VII.むすび

以上のとおりであるから、イ号物件すなわちイ号図面及びその説明書に示す「携帯用灰皿」は、本件考案すなわち登録第2129458号実用新案の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2000-11-07 
出願番号 実願平1-68508 
審決分類 U 1 2・ 1- ZB (A24F)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 近 東明  
特許庁審判長 吉国 信雄
特許庁審判官 村本 佳史
杉原 進
登録日 1996-08-01 
登録番号 実用新案登録第2129458号(U2129458) 
考案の名称 携帯用灰皿  
代理人 杉山 泰三  
代理人 林 孝吉  

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