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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない E04G
管理番号 1032494
審判番号 審判1999-35647  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-11-08 
確定日 2001-01-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第2146102号実用新案「揺動クランプ」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第一 本件考案
本件登録第2146102号実用新案は、昭和63年9月20日に実用新案登録出願され、平成6年12月21日に実公平6-50609号公報として出願公告され、平成8年12月10日に設定登録がなされたものである。その請求項1に係る考案(以下、「本件考案」と言う。)は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】所定板材に固定される開口部を有する側面略コ字形の固定体と、固定体に揺動自在に軸着された連結体と、連結体に取付けられて所定管材を把持する把持体とから成る揺動クランプにおいて、連結体を、把持体が取付けられる取付板と、固定体を両側から挟装する一対の両側板とで断面略下向コ字形に形成し、連結体を揺動せしめて固定体が固定された板材に対して垂直あるいは水平に位置した際に、固定体上面あるいは側面に衝接して連結体を係合支持する支持体を前記取付板下面に設けると共に、固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片を前記両側板に夫々に設け、固定体が固定された板材に対して把持体が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、支持体と当接片とが同時に固定体と板材とに夫々係止することを特徴とする揺動クランプ。」
なお、「いずれのに位置」は「いずれの位置」の誤記と認められ、上記のとおり認定した。

第二 当事者の主張等
一 請求人の主張等
請求人は、「登録第2146102号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
請求人は、甲第1?6号証を提出して、本件考案は、甲第1、2及び4号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法3条2項の規定に違反して実用新案登録されたものであるから、同法37条1項1号の規定に該当し、無効とすべきであると主張している。
請求人の主張の概要、及び提出した証拠方法は以下のとおりである。
1 本件考案では、連結体の側板に当接片を設け、支持体が固定体に係止したとき、同時にこの当接片を板体に係止させるようになっているが、甲第2号証では、取付板61の両端を折り曲げて固定片66を形成し、支持体64が固定体61に係止したとき、同時にこの固定片66を固定体61に係止させるようになっており、この点で甲第2号証と相違している。しかし、本件考案における当接片も、甲第2号証における固定片66も、固定体に揺動自在に軸着された連結体の一部であることに相違はない。又、前述したように、甲第1号証の第3図、第4図には、固定体である咬持具1に揺動自在に軸着された連結板10の一部を「角度調節片12」とし、連結体10を揺動させることにより.連結板10、把持具14を咬持具1が固定された板体Aに対して垂直あるいは水平のいずれの位置にしても、「角度調節片12」を板体Aに係止させるという構造が示されている。このため、甲第2号証の固定片66を甲第1号証の「角度調整片12」とすることにより、本件考案と同様の構造になり、これらの甲第1号証と甲第2号証は本件考案と同じ技術分野に属するため、これらを当業者が組み合わせることにより本件考案と同様の構造を創作することは格別困難なことではない。

2 本件考案では、「固定体開□部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片を前記両側板に夫々に設け」(構成要素4)となっているが、この構成要素に関して本件考案の審査時の審査官は、甲第6号証で説明したように、「固定体開□部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片を設けることは当業者なら極めて容易になしうるものである。」と認定している。すなわち、この認定を解釈してみると、甲第4号証には、前述したように、板体であるH鋼材90のフランジ部90Aの略直角をなす上面と側面に対応する略直角部分87を有している「建築工事用クランプ」が示されているから、前述した甲第1号証の「角度調節片12」と、前述した甲第1号証及び甲第2号証の「固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部」と、甲第4号証の「略直角部分87」とを組み合わせることにより、本件考案の当接片のように、固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略ー致する部分であって、固定体が固定される板材の上面と側面に対応する部分を、固定体間口部の略直角を構成する上縁部及び側線部と略一致させ、固定体が固定される板材上面と側面に対応させて略直角に形成することは、当業者にとって容易に想到することができることである。

3 甲第1号証の「角度調節片12」は、連結具9、把持具14を咬持具1に対して揺動させると、板体Aに対して垂直あるいは水平のいずれの位置にもなるため、この「角度調整片12」に甲第4号証の略直角部分87を組み合わせた場合には、「角度調整片12」は、本件考案の当接片と同じく略T字形状になる。

4 以上のことから.本件考案は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に示された構造と同一及びこれらの証拠を組み合わせることにより容易になし得るものであり、本件考案の構造には格別の要素は存在しない。

甲第1号証:実願昭59-124874号(実開昭61-39747号)のマイクロフィルム
甲第2号証:意匠登録第658430号公報
甲第3号証:「意匠分類表」252頁、特許庁編、昭和58年4月12日、社団法人発明協会発行
甲第4号証:意匠登録第584528号公報
甲第5号証:「意匠物品分類表」168,169頁、特許庁監修、昭和47年8月1日、社団法人発明協会発行
甲第6号証:本件考案の出願段階での平成6年2月9日付け拒絶理由通知書の写し
参考資料1

二 被請求人の主張等
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、答弁書の記載によれば、乙第1号証を提出し、概略、以下の反論をしている。
1 これら甲第1号証あるいは甲第2号証に記載の考案と本件考案の構成要件を比較した場合、請求人目身も認めているように、少なくとも本件考案の構成要件4(「固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片を両側板に夫々に設け」)については、甲第1号証及び甲第2号証には開示も示唆もされていない。又、構成要件5について、請求人は、甲第2号証に「同様な構造が示されている」と上記要約で述べている。しかし、構成要件5は構成要件4に規定する「略T字形状の当接片」を前提とし、垂直あるいは水平位置においてこの当接片と支持体とが同時に固定体と板材とにそれぞれ係止されることを内容とする。したがって、甲第2号証が、構成要件4を開示するものではないにもかかわらず、構成要件5の構造を開示するというのは、論理的な矛盾である。要するに、甲第1号証と甲第2号証記載の考案は、仮に本件考案の構成要件の1から3が明らかにされているとしても、少なくとも本件考案の構成要件4と5を明示あるいは推測させるものではない。

2 甲第4号証のクランプが、「略直角をなすフランジ部90Aの上面と側面に対応する略直角部分87(正面図を参照)を有していることになり、この略直角部分87によって「建築工事用クランプ」を板材であるH鋼材90のフランジ部90Aに位置決めできるようになっている」(審判請求書11頁14行から18行)としても、略直角部分87は、L字状をした固定体81の垂直部81Aの上端部に固着された水平方向に延びる筒体82下面に設けられた開口縁部86Aによって形成されているに過ぎない。固定体81は略直角の開ロ部を持つものではなく、筒体82も固定体に対して揺動可能ではなく、又開ロ縁部86Aも固定体81の垂直部81Aの上端に固着されていて固定体に沿って設けられたものではない。したがって、甲第4号証は、本件考案の構成要件4とはかけ離れた構造を示すもので、「同様な構造」が開示されているとは言えない。

3 以上の点から、請求人の主張する無効理由はいずれも本質的に根拠を有しないものである。

乙第1号証:実願昭58-28546号(実開昭59-134638号)のマイクロフィルム及び同公開公報

第三 当審での検討
一 甲第2、1及び4号証に記載された事項
1 甲第2号証について
甲第2号証には、意匠に係る物品として建築足場組立用クランプとの記載があり、さらに同公報の図面の記載からすると、
「所定板材に固定される開口部を有する側面略コ字形の固定体と、固定体に揺動自在に軸着された連結体と、連結体に取付けられて所定管材を把持する把持体とから成る揺動クランプにおいて、連結体を、把持体が取付けられる取付板と、固定体を両側から挟装する一対の両側板とで断面略下向コ字形に形成し、連結体を揺動せしめて固定体が固定された板材に対して垂直あるいは水平に位置した際に、固定体上面あるいは側面に衝接して連結体を係合支持する支持体を前記取付板下面に設けると共に、取付板の両側板が延長されない両側縁に固定片を夫々設け、固定体が固定された板材に対して把持体が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、支持体と固定片が同時に固定体に夫々係止する揺動クランプ」
が記載されているものと認められる。

2 甲第1号証について
甲第1号証には、
(1) 「本考案は、足場用パイプ及び足場に付設される手摺用パイブを設置する際に使用する揺動クランプに関する。」(同明細書1頁17行?2頁1行)、
(2) 「図に示す符号1は咬持具であり、側面略コ字形状を成して所定の板体Aを開口部2内に咬持するものである。所定の板体Aとは、例えばH鋼材のフランジ部の如きものであり、この板体Aを開口部2内に挿入すると共に、開口部2内に突出した締付ボルト3で板体Aを緊締させる。」(同明細書5頁4?9行)、
(3) 「次に符号9は連結具を示す。該連結具9は前記咬持具1の上部に軸着され、咬持具1の開口部2を設けない側面5と上面4とで成す外周面上の範囲内で揺動する。そして、連結具9の一端部に所定の管材Bを把持せしめる把持具14を連結し、ー方、連結具9の他端部には、咬持具1が咬持した所定板体Aの端面又は板面に自身の外側縁を当接係止して所定板体Aに対する連結具9の角度を直角又は水平に固定せしめる角度調節片12を形成する。図示例の連結具9は、板体を略コ字形状に屈曲した連結板10の中央部に把持具14を連結すると共に、連結板10の相対峙した側板で咬持具1の上部を挟着した状態にして咬持具1と固定片1とを回動軸8で軸着してある。更に、連結板10中央部の、側板が延長されない側縁を回動軸8方向に若干延長して同定片11を形成し、該固定片11が咬持具1の上面4と開口部2を設けない側面5とに当接することによって、連結具9が90度の範囲内で揺動するようにしてある。そして図示例の角度調節片12は、連結板10の両側板端部を夫々延長してー対形成してあり、平行に相対する垂直側縁12Aと該12a両端を直角に結ぶ水平側縁12Bとを形成し、垂直側縁12Aの一方を開口部2内に咬持する所定板体Aの端面に当接支持させることで、板体Aの板面に対する連結具9の角度を直角に固定し(第3図参照)、又は垂直側縁12Aの他方を板体Aの板面に当接支持させることで連結具9の角度を水平に同定するようにしてある。」(同明細書5頁18行?7頁6行)、
(4) 「次に、上述の如く構成したこの考案揺動クランプの使用例について説明すると、所定の板体Aに固定する管材Bの装着位置に合わせて把持具14の固定角度を垂直又は水平の何れかに合わせる。更にこの角度を保持した状態で咬持具1を所定の板体Aに咬持させる。このとき板体Aは連結具9の角度調節片12に自身の端面又は板面を当接係止させるようにする。そして、板体Aによって角度が固定された把持具14に所定の管材Bを把持させることで取付作業が完了する(第2図又は第5図参照)。」(同明細書8頁2?12行)、
(5) 「把持具14で把持した管材Bから加わる荷重が、回動軸8の軸方向に対して直接に掛ってもこの荷重を角度調節片12によって所定の板体Aに支持できるから、回動軸8自体の破損を防止すると共に、従来のクランプと比較して支持強度を格段にアップさせることができる。」(同明細書10頁17行?11頁3行)、
(6) 「しかも、この考案クランプの使用時においては、連結具9の装着角度を所定の角度に保持しながら所定の板体Aに咬持具1を咬持させるだけで、角度調節片12が固定されて連結具9の角度が板体Aの板面に対して垂直又は水平の何れかに決定されるから、取扱いが極めて容易で、この考案クランプを数多く装着する際でも短時間で行うことができる。このようにこの考案によれは、従来のこの種クランプと比較して支持強度を格段にアップさせることができ、しかも全体の構造がより簡単で生産性を高められ、ひいては製造コストを大幅に削減することが可能な上に、取扱いが頗る容易であるなどといつた実用上有益な種々の効果を奏するものである。」(同明細書11頁14行?12頁8行)、
(7) 第1?5図、
の記載があり、これら記載からみて、
「所定板体に固定される開口部を有する側面略コ字形の咬持具と、咬持具に揺動自在に軸着された連結具と、連結具に取付けられて所定管材を把持する把持具とから成る揺動クランプにおいて、連結具を、把持具が取付けられる連結板の中央部と、咬持具を両側から挟着する一対の連結板の側板とで断面略下向コ字形に形成し、連結具を揺動せしめて咬持具が固定された板体に対して垂直あるいは水平に位置した際に、咬持具上面あるいは側面に当接して連結具を係合支持する固定片を連結板の中央部の側板が延長されない両側縁に設けると共に、咬持具開口部の略直角を構成する上縁部又は側縁部と略一致する垂直側縁を有する角度調節片を前記連結板の側板に夫々に設け、咬持具が固定された板体に対して把持具が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、固定片と角度調節片とが同時に咬持具と板体とに夫々係止する揺動クランプ」
が記載されているものと認められる。

3 甲第4号証について
甲第4号証には、意匠に係る物品として建築工事用クランプとの記載があり、さらに同公報の図面の記載からすると、
「所定板材に固定される開口部を有する固定体と、固定体の上端に取付けられて所定管材を把持する筒体とから成るクランプにおいて、筒体の下面一部の開口部と固定体の開口部により略直角を構成する上縁部及び側縁部が形成され、上縁部及び側縁部を所定板材の上面及び端面に当接するクランプ」
が記載されているものと認められる。

二 本件考案と甲第2号証に記載されたものとの対比
本件考案と甲第2号証に記載された考案とを対比すると、両者は、
「所定板材に固定される開口部を有する側面略コ字形の固定体と、固定体に揺動自在に軸着された連結体と、連結体に取付けられて所定管材を把持する把持体とから成る揺動クランプにおいて、連結体を、把持体が取付けられる取付板と、固定体を両側から挟装する一対の両側板とで断面略下向コ字形に形成し、連結体を揺動せしめて固定体が固定された板材に対して垂直あるいは水平に位置した際に、固定体上面あるいは側面に衝接して連結体を係合支持する支持体を前記取付板下面に設け、固定体が固定された板材に対して把持体が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、支持体が固定体に係止する揺動クランプ」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
本件考案は、「固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片を両側板に夫々に設け」、固定体が固定された板材に対して把持体が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、「支持体と当接片とが同時に固定体と板材とに夫々係止する」のに対し、甲第2号証には、支持体と固定片が同時に固定体に夫々係止するものの、このような構成を有しない点。

三 相違点に対する判断
甲第1号証によると、「所定板体に固定される開口部を有する側面略コ字形の咬持具と、咬持具に揺動自在に軸着された連結具と、連結具に取付けられて所定管材を把持する把持具とから成る揺動クランプにおいて、連結具を、把持具が取付けられる連結板の中央部と、咬持具を両側から挟着する一対の連結板の側板とで断面略下向コ字形に形成し、連結具を揺動せしめて咬持具が固定された板体に対して垂直あるいは水平に位置した際に、咬持具上面あるいは側面に当接して連結具を係合支持する固定片を連結板の中央部の側板が延長されない両側縁に設けると共に、咬持具開口部の略直角を構成する上縁部又は側縁部と略一致する垂直側縁を有する角度調節片を前記連結板の側板に夫々に設け、咬持具が固定された板体に対して把持具が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、固定片と角度調節片とが同時に咬持具と板体とに夫々係止する揺動クランプ」が、本件考案の出願前に公知である。
甲第1号証は、本件考案と同じ揺動クランプに関するものであり、甲第1号証における、「板体」、「咬持具」、「連結具」、「把持具」、「連結板の中央部」、「挟着」、「連結板の側板」、「当接」、「固定片」、「垂直側縁」、「角度調節片」は、本件考案の「板材」、「固定体」、「連結体」、「把持体」、「取付板」、「挟装」、「両側板」、「衝接」、「支持体」、「当接側縁部」、「当接片」に対応するものである。そして、甲第1号証は、「取扱いが極めて容易で、この考案クランプを数多く装着する際でも短時間で行うことができる。・・・従来のこの種クランプと比較して支持強度を格段にアップさせることができ、しかも全体の構造がより簡単で生産性を高められ」(同明細書11頁19行?12頁5行)る等の作用効果を奏すると記載され、本件考案と同様の作用効果を有するものであることが認められる。
しかしながら、甲第1号証においては、連結板の側板(両側板)に夫々に設けられる角度調節片(当接片)は、咬持具(固定体)開口部の略直角を構成する上縁部又は側縁部と略一致する垂直側縁(当接側縁部)を有するものの、その角度調節片(当接片)は、本件考案におけるような略T字形状を有していないものであり、上記相違点における、「固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片を両側板に夫々に設け、固定体が固定された板材に対して把持体が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、支持体と当接片とが同時に固定体と板材とに夫々係止する」点については記載がなく、示唆すらもされていない。
なお、付言するならば、本件考案の明細書によると、甲第1号証を従来の技術として問題点の指摘をした上で(本件考案公告公報2頁3欄6行?4欄4行)、「そこで、この考案が、叙上の問題点に鑑み案出されたもので、把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体からの全荷重を分散して支持することが可能になり、揺動する連結体の固定体への支持強度が強く、しかも固定体が固定される板材に対する連結体の垂直あるいは水平となる角度位置決めが極めて容易で取扱いが簡単な揺動クランプを提供することを目的とする。」(同公報2頁4欄5?12行)との記載がされている。
又、甲第4号証によると、「所定板材に固定される開口部を有する固定体と、固定体の上端に取付けられて所定管材を把持する筒体とから成るクランプにおいて、筒体の下面一部の開口部と固定体の開口部により略直角を構成する上縁部及び側縁部が形成され、上縁部及び側縁部を所定板材の上面及び端面に当接するクランプ」が、本件考案の出願前に公知であるが、甲第4号証においては、その記載されたクランプが、本件考案や甲第1号証及び甲第2号証におけるような、いわゆる揺動クランプではなく、しかも、単に、筒体の下面一部の開口部と固定体の開口部により略直角を構成する上縁部及び側縁部が形成され、上縁部及び側縁部を所定板材の上面及び端面に当接する技術事項が開示されているに過ぎず、上記相違点に関する事項は何ら記載がなく、示唆するところさえない。
そして、本件考案は上記相違点におけるような構成を有することにより、明細書に記載の、「(作用)しかして、叙上のような考案にあっては、把持体の揺動角度が左右いずれの位置にあっても、支持体と当接片とが常に同じ係止力で把持体を係止固定する。また、把持体から加わる全荷重は、支持体から固定体へ伝わり、また、当接片から板材に伝わることで、分散支持される。」(同公報2頁4欄39?45行)、「把持体20が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体20からの全荷重を分散して支持することが可能になった。」(同4頁7欄25?27行)、及び「把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体からの全荷重を分散して支持することが可能になり、従来のものと比較してその支持強度が格段に向上し、更に取扱いが極めて容易となる等実用上有益な種々の効果を奏する。」(同4頁8欄21?26行)という作用、効果を奏するものである。
以上によると、本件考案は、甲第2、1及び4号証に記載されたものに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとすることはできない。

第四 請求人の主張に対して
請求人は、略T字形状の当接片について、「甲第4号証には、前述したように、板体であるH鋼材90のフランジ部90Aの略直角をなす上面と側面に対応する略直角部分87を有している『建築工事用クランプ』が示されているから、前述した甲第1号証の『角度調節片12』と、前述した甲第1号証及び甲第2号証の『固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部』と、甲第4号証の『略直角部分87』とを組み合わせることにより、本件考案の当接片のように、固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略ー致する部分であって、固定体が固定される板材の上面と側面に対応する部分を、固定体間口部の略直角を構成する上縁部及び側線部と略一致させ、固定体が固定される板材上面と側面に対応させて略直角に形成することは、当業者にとって容易に想到することができることである。」(審判請求書14頁26行?15頁8行)、又「本件考案のように、固定体に揺動自在に軸着された連結体に、固定体が固定された板体に当接することにより把持体からの荷重を支持するための部材を設けることは、本件考案の出願以前から甲第1号証により公知となっていたのである。このような部材を板体に対して位置決めできるようにするために略直角部分を設けて略T字形状とすることは、前述したように、板体に対して位置決めできて安定した状態で板体に固定することがもともと求められているクランプに関する当該技術分野の当業者にとっては、格別に困難なことではなく、容易に想到できることである。」(弁駁書6頁26行?7頁5行)、さらに「甲第2号証の固定片66の代わりに甲第1号証の角度調節片12を略T字形状にして把持体からの荷重を支持できるようにし、そして、本件考案の当接片16のように、連結体10の下面に設けられた支持体14と共に把持体20からの荷重を分散して支持する構造とすることは、当業者にとって格別困難なことではない。」(弁駁書7頁13?17行)と主張している。
しかし、上記「三 相違点に対する判断」の項で検討したように、甲第4号証に記載されているものは、いわゆる揺動クランプではなく、単に、筒体の下面一部の開口部と固定体の開口部により略直角を構成する上縁部及び側縁部が形成され、上縁部及び側縁部を所定板材の上面及び端面に当接する技術事項が開示されているに過ぎず、「固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片を両側板に夫々に設け、固定体が固定された板材に対して把持体が垂直あるいは水平のいずれの位置にあっても、支持体と当接片とが同時に固定体と板材とに夫々係止する」点については記載がなく、示唆すらもされていない。そして、「把持体の揺動角度が左右いずれの位置にあっても、支持体と当接片とが常に同じ係止力で把持体を係止固定する。また、把持体から加わる全荷重は、支持体から固定体へ伝わり、また、当接片から板材に伝わることで、分散支持される。」(本件考案公告公報2頁4欄39?45行)との作用等を予定して、甲第2号証における連結体の当接片として、甲第1号証における連結具の角度調節片を採用するのに際し、この甲第4号証に記載されている技術事項を適用するところの動機付けは見出し得ない。
次に、請求人は、甲第1号証により公知となっていた、このような荷重を支持するための部材を板体に対して位置決めできるようにするために略直角部分を設けて略T字形状とすることは、板体に対して位置決めできて安定した状態で板体に固定することがもともと求められているクランプに関する当該技術分野の当業者にとっては、格別に困難なことではなく、容易に想到できることであるとか、甲第2号証の固定片66に代わりに甲第1号証の角度調節片12を略T字形状にして把持体からの荷重を支持できるようにし、そして、本件考案の当接片16のように、連結体10の下面に設けられた支持体14と共に把持体20からの荷重を分散して支持する構造とすることは、当業者にとって格別困難なことではないと主張するが、何をもって格別困難なことではないとするのか、その主張の根拠が明確でない。
以上、請求人の主張は採用できない。

第五 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-11-13 
結審通知日 2000-11-24 
審決日 2000-12-06 
出願番号 実願昭63-122947 
審決分類 U 1 122・ 121- Y (E04G)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 小山 清二山田 忠夫  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 鈴木 公子
宮崎 恭
登録日 1996-12-10 
登録番号 実用新案登録第2146102号(U2146102) 
考案の名称 揺動クランプ  
代理人 植田 茂樹  
代理人 安藤 武  
代理人 笹倉 興基  
代理人 市川 裕史  
代理人 影山 光太郎  

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