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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て成立) E01F
管理番号 1032521
判定請求番号 判定請求1999-60083  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2001-05-25 
種別 判定 
判定請求日 1999-11-11 
確定日 2001-01-31 
事件の表示 上記当事者間の登録第2550975号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 イ号図面(判定請求書添付資料2)及び判定請求書の5頁5行ないし15行に記載された[b-1]ないし[b-4]に示す「落石防止装置」は、実用新案登録第2550975号考案の技術的範囲に属しない。
理由 第1 判定請求人の請求の趣旨及び被請求人の答弁の趣旨

判定請求人は判定請求書において、判定の趣旨として「イ号図面に示す落石防止装置は、実用新案登録第2550975号の技術的範囲に属しないとの判定を求める。」と記載しているが、添付した図面のみではイ号装置を特定することができず、またイ号装置を特定する説明は明確でなかった。しかしながら、平成12年5月22日付けの弁駁書において、イ号装置については、「イ号装置は判定請求書の第5頁第5行目ないし第15行目に記載された[b-1-1]、[b-2-1]、[b-3]、[b-4]の構成のとおり」(2頁20行ないし22行)と記載していることから、判定の趣旨は「イ号図面及び判定請求書の第5頁第5行目ないし第15行目に記載された[b-1-1]、[b-2-1]、[b-3]、[b-4]に示す落石防止装置は、実用新案登録第2550975号考案の技術的範囲に属しないとの判定を求める。」にあると解される。
一方、被請求人の答弁の趣旨は、平成12年1月24日付けの判定事件答弁書においては、イ号装置が特定できないことを理由に「本件判定請求を却下する、との決定を求める。」としているが、平成12年12月6日付けの判定事件答弁書(2回)において、イ号装置は特定できたとして、本件考案と対比して「イ号は本件考案の技術的範囲に属するとの判定を賜りますようにお願いいたします。」(11頁13行ないし14行)と記載していることから、答弁の趣旨は、「イ号図面及び判定請求書の第5頁第5行目ないし第15行目に記載された[b-1-1]、[b-2-1]、[b-3]、[b-4]に示す落石防止装置は、実用新案登録第2550975号考案の技術的範囲に属するとの判定を求める。」にあると解される。

第2 実用新案登録第2550975号考案

実用新案登録第2550975号については、平成11年無効審判第35423号事件として審理され、平成12年6月20日付けで「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がなされ、当該審決は確定した。
そして、訂正後の実用新案登録請求の請求項1に係る考案(以下、本件考案という。)は、次のとおりである。
「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる落石防止装置。」
本件考案を分説すると次のとおりである。
A 立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、
B その立ち木を伐採することなく、
C 複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、
D これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる
E 落石防止装置。
(以下、本件考案の構成要件AないしEという。)。

第3 イ号装置の特定
イ号装置の特定については、イ号図面は判定請求書に添付されており、イ号装置の説明は、平成12年5月22日付けの弁駁書において、「イ号装置は判定請求書の第5頁第5行目ないし第15行目に記載された[b-1-1]、[b-2-1]、[b-3]、[b-4]の構成のとおり」(2頁20行ないし22行)と記載しており、被請求人も、これを争っていないことから、イ号装置の説明は、判定請求書の第5頁第5行目ないし第15行目の[b-1-1]、[b-2-1]、[b-3]、[b-4]に記載された下記のとおりであって、イ号装置の図面は、判定請求書に添付した添付資料2のとおりのものと特定される。

[b-1-1]傾斜面(1)の上に立ち木(2)が林立しかつ多数の浮き石(3)が点在する
[b-2-1]林立する立ち木(2)のうち、ワイヤロープ(4,4)を張設するにおいて邪魔になる立ち木(2A)を伐採する
[b-3]傾斜面(1)全体の上に、複数のワイヤロープ(4,4)を伐採されずに残置された立ち木(2)の間を縫いながら浮き石(3)の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープ(4,4)の交差部をクロスクリップ(5)で締結する
[b-4]ワイヤロープ(4,4)の交差部が点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、傾斜面にアンカー(6)を打ち込み、これらアンカー(6,6)でワイヤロープ(4,4)を傾斜面の起伏に沿う状態に係止する

第4 属否の検討

1.本件考案の構成要件Bの「伐採」の意義について
(1)本件考案の構成要件Bにおいて「立ち木を伐採することなく」とは、立ち木を伐採しないことを意味し、実用新案登録請求の範囲に特に「立ち木を伐採することなく」と記載していることから、立ち木は全く伐採しないことを意味すると解するのが自然である。

(2)しかしながら、被請求人は、平成12年12月6日付けの判定事件答弁書において、
「立ち木について言うと、立ち木にも各種のものがあり、真っ直ぐな立ち木の外に、曲った立ち木、地を這うような立ち木もあり、他に細い立ち木、太い立ち木或いはブッシュ(低木、潅木の類)など様々である。そうした現実の施工現場を考えてみると、本件考案でいう「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、」の意味は、立ち木が林立しかつ多数の浮き石が点在した傾斜面全体の上に、治山上また自然環境のうえで伐採することが好ましくない立ち木は伐採しないでその間を縫って、かつ浮き石の上を通るようにしてワイヤロープを縦横に張設することと解されるものである。しかし、現実にはワイヤロープを立ち木の間を縫いながらこれを避けて張設しようとしても、避けることが不可能だったり或いは避けることが著しく困難な場合がある。そうした立ち木があった場合は、これを「邪魔になる立ち木」として伐採したうえでワイヤロープ張設することも含むと当業者は解するものである。」(6頁21行ないし7頁7行)と記載し、「立ち木を伐採することなく」には、邪魔になる立ち木を伐採することを含むと解すべき旨主張する。

(3)そこで、被請求人の主張について検討する。
(3-1)本件実用新案登録設定後の経緯
本件考案の構成要件Bにおける「立ち木を伐採することなく」という記載は、平成9年6月20日の本件実用新案登録の設定登録に対して、異議の申立て(平成10年異議第71838号)があり、平成10年8月21日付けの取消理由通知で、実用新案法第3条第2項に該当する旨通知したのに対し、被申立人である実用新案権者が平成10年11月6日付けでした訂正請求により実用新案登録請求の範囲を減縮した事項の一部であって、上記取消理由通知に示した刊行物に記載された考案との差異を明確にした構成であるから、この構成は、本件考案において重要な構成であって、その技術的意義は大きいものである。
(3-2)明細書の検討
本件実用新案登録の明細書には、実用新案登録請求の範囲や、課題を解決するための手段の項以外に、「伐採」に関して次の記載が認められる。
(ア)考案が解決しようとする課題の項において、「傾斜面の全体に金網を拡げて覆う手段では、その施工に先だって傾斜面の上の立ち木(自然林、植林)の伐採、さらにその傾斜面の地ならし等の人工的な処置を施さなければならない。元来、傾斜面に林立する自然林や植林等による立ち木は、自然環境を保全するとともに、その傾斜面を風水等に対して強化する治山上の重要な要素であり、このような傾斜面の立ち木を伐採してしまえば治山上大きな不利益となり、風化が進み、また併せてその人工的な処置により自然環境が破壊してしまう。さらに施工面においても、立ち木の伐採およびその伐採後の傾斜面の地ならし等により多大な労力と時間を要し、コストが大幅に高騰してしまう。そして施工後には、傾斜面の全体が金網で覆われるため、この傾斜面に新たに植林を施そうとしても、その金網が邪魔となってほとんどその実施が困難であり、またその傾斜面から自然林が成育しようとしても、その成育が金網により妨げられてしまう。」(段落番号0006ないし0008)と記載され、
(イ)作用の項において、「そして浮き石を押さえ付けるワイヤロープは、傾斜面に成育している立ち木の間を縫って縦横に張設するものであるから、その立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要で、傾斜面に何ら人工的な手を加えることなく、自然の状態を保ったまま施工でき、したがって立ち木による自然環境の保全と傾斜面の強化をそのまま活用でき、傾斜面の安定化をより一層確実に達成して落石の発生を未然に防止でき、また立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要であるから施工コストが大幅に低減する。」(段落番号0012)と記載され、
(ウ)考案の効果の項において、「以上述べたようにこの考案によれば、浮き石の初期始動を抑えて落石の発生を確実に防止することができるとともに、立ち木の伐採を要することがないから、施工が簡易でかつ傾斜面を自然な状態に保て、環境破壊や美観の低下を招くことがない利点がある。」(段落番号0020)と記載され、
(エ)実施例の項においてではあるが、「立ち木2…を伐採する必要がなく・・・立ち木2…を伐採せずにそのまま傾斜面1に林立させておくものであるから・・」(段落番号0017、0018)と記載されている。
以上の「伐採」に関する記載から、本件考案において「立ち木を伐採することなく」とは、立ち木を全く伐採しないことを意味すると解され、立ち木の一部だけ伐採すること(例えば、邪魔になる立ち木は伐採し、邪魔にならない立ち木は伐採しないこと)を含むとは考えられない。
すなわち、作用の項において、立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要で、傾斜面に何ら人工的な手を加えることなく、自然の状態を保ったまま施工でき、立ち木による自然環境の保全と傾斜面の強化をそのまま活用でき、傾斜面の安定化をより一層確実に達成して落石の発生を未然に防止でき、さらに立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要であるから施工コストが大幅に低減する旨記載され、考案の効果の項において、立ち木の伐採を要することがないから、施工が簡易でかつ傾斜面を自然な状態に保て、環境破壊や美観の低下を招くことがない利点がある旨記載され、さらに、実施例ではあるが、立ち木を伐採せずにそのまま傾斜面に林立させておくものである旨記載されており、立ち木を伐採すれば、本件考案の作用効果、つまり、
(i)傾斜面に何ら人工的な手を加えることなく、自然の状態を保ったまま施工できる
(ii)立ち木による自然環境の保全と傾斜面の強化をそのまま活用でき、傾斜面の安定化をより一層確実に達成して落石の発生を未然に防止できる
(iii)立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要であるから施工コストが大幅に低減できる
(iv)環境破壊や美観の低下を招くことがない
という作用効果を奏することができなくなることは明らかであり、また、明細書において、ワイヤロープの張設に当たり邪魔になる立ち木を伐採することを示唆する記載は認められないからである。
(3-3)以上のように、本件発明において「立ち木を伐採することなく」とは、立ち木を全く伐採しないことを意味すると解され、被請求人の主張は採用できない。

2.イ号装置は本件考案の構成要件Bを充足するかについて
本件考案の構成要件Bは「(傾斜面に林立した)その立ち木を伐採することなく」であり、ここで、「伐採することなく」の意味は、上記1で検討したとおり、立ち木を全く伐採しないことを意味すると解される。
一方、イ号装置においては、[b-2-1]において、「林立する立ち木(2)のうち、ワイヤロープ(4,4)を張設するにおいて邪魔になる立ち木(2A)を伐採する」ものであるから、イ号装置は、本件考案の構成要件Bを充足しないものである。

第5 まとめ

以上のように、イ号装置は、少なくとも本件考案の構成要件Bを充足しないから、本件考案のその余の構成要件について検討するまでもなく、イ号装置は本件考案の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2001-01-11 
出願番号 実願平3-92043 
審決分類 U 1 2・ 0- ZA (E01F)
最終処分 成立    
前審関与審査官 森口 良子  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 杉浦 淳
鈴木 憲子
登録日 1997-06-20 
登録番号 実用新案登録第2550975号(U2550975) 
考案の名称 落石防止装置  
代理人 河井 将次  
代理人 坪井 淳  
代理人 長澤 哲也  
代理人 岡本 宜喜  
代理人 吉村 勝俊  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 宮崎 誠  

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