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審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許 無効としない B65D
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B65D
管理番号 1035987
審判番号 無効2000-35331  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-06-19 
確定日 2001-02-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第2053596号実用新案「袋物類の提手部材」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 理 由
1.手続の経緯
本件登録第2053596号実用新案は平成1年11月24日の出願(実願平1-136695号)に係り、平成6年6月8日に出願公告(実公平6-21864号)され、平成7年3月6日に設定の登録がなされたものであり、請求人松浦産業株式会社から平成12年6月19日に無効審判の請求がなされ、実用新案権者である被請求人ハヤセ株式会社から、平成12年9月25日に答弁書が、平成12年11月13日に証人尋問申立書が提出され、平成12年11月22日に口頭審理及び証拠調べが行われたものである。

2.請求人の主張及び提示した証拠方法
請求人は、「実用新案登録第2053596号の請求項1乃至3に係る実用新案登録はこれを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人の主張する理由の要点は、
イ.本件の請求項1乃至3に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである(以下、「理由イ」という。)。
ロ.本件の請求項1乃至3に係る実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第5号に該当し、無効とすべきものである(以下、「理由ロ」という。)。
というにあり、その具体的理由として、概略以下の点を主張している。
[理由イについて]
本件請求項1乃至3に係る考案は、甲第2号証に記載された考案及び甲第3号証乃至甲第6号証に記載された事項から把握される考案に、甲第7号証乃至甲第9号証に記載された本件実用新案登録の出願日前に公知の技術をそのまま転用したものであり、このような転用は当業者がきわめて容易に行える範囲のものである。
[理由ロについて]
本件実用新案登録の考案者は早瀬喜八郎となっているが、真の考案者は、佐藤勝市であり、ハヤセ株式会社は、佐藤勝市に無断で本件実用新案登録出願を行ったものである。
そして請求人は、上記主張の事実を立証するために以下の証拠方法を提示している。
[書証]
甲第1号証:実公平6-21864号公報(本件実用新案登録に係る公告公報)
甲第2号証:実公昭52-43386号公報
甲第3号証:実公昭59-31557号公報
甲第4号証:実公昭59-33789号公報
甲第5号証:実公昭60-8743号公報
甲第6号証:実願昭59-38517号(実開昭60-153215号)のマイクロフィルム
甲第7号証:学研の図鑑 鉄道、自動車編、学習研究社’87,9初版発行「連結装置のいろいろ」
甲第8号証:万有百科事典 科学、技術編、小学館H48.6初版発行「自動連結器」
甲第9号証:「関西の鉄道」No12、S59.9.1発行、第12号関西鉄通研究会第8,9,47頁
甲第10号証:密着連結器と甲第2号証の提手と本件実用新案登録に係る考案の提手との対比説明
甲第11号証:密着連結器と本件実用新案登録に係る考案の提手との対比説明
甲第12号証:密着連結器の写真とその説明
甲第13号証:同上
甲第14号証:密着連結器の写真
甲第15号証:佐藤勝市がS60.12.7にハヤセ株式会社専務に流したファックスの写し
甲第16号証:佐藤勝市のノートS62.1129
甲第17号証:佐藤勝市がH1.12.26にハヤセ株式会社に流したファックス
甲第18号証の1:佐藤勝市のメモ
甲第18号証の2:佐藤勝市のメモ
甲第18号証の3:佐藤勝市のメモ
[人証]
証人:佐藤勝市
なお、甲第6号証は、審判請求書の「9.証拠方法」の項には「実公昭60-153215号」と記載されていたが、平成12年11月22日の口頭審理において上記のように訂正された。
また、甲第10号証乃至甲第14号証は上記口頭審理において参考資料とされた。
さらに、請求人は、審理終結後の平成12年11月24日に、被請求人が提出した検乙第2号証の「袋物類の提手」に関する出願が本件実用新案登録に係る出願と同日付けかつ同一考案者名で出願されている証として実願平1-136696号(実開平3-75145号)のマイクロフィルムの写しを参考資料として提出した。

3.被請求人の主張及び提示した証拠方法
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人の主張は理由のないものである旨を答弁し、以下の証拠方法を提示している。
[書証]
乙第1号証:請求人の意匠登録を被請求人が無効にした審決書
乙第2号証:同上
乙第3号証:株式会社サトウ製作所へのハヤセ株式会社の支払額の報告書
乙第4号証:株式会社サトウ製作所との取引がなくなった理由についてのハヤセ株式会社の報告書
乙第5号証:本件実用新案登録に係る考案誕生の経緯の報告書
乙第6号証:試作金型代請求書
乙第7号証:金型代請求書
[人証]
証人:早瀬喜八郎
[検証物]
検乙第1号証乃至検乙第6号証:袋物類の手提げ
なお、乙第1号証及び乙第2号証は、平成12年11月22日の口頭審理において参考資料とされた。

4.当審の判断
そこで、請求人が主張する前記理由について検討する。
[理由イについて]
(1)本件考案
本件実用新案登録の請求項1乃至3に係る考案は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至3に記載された以下のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件請求項1乃至3に係る考案」という。)。
「【請求項1】袋物類1の開口に対向した口縁部2に夫々1本ずつ取り付けられ、2本1組で提手を構成する提手部材であって、手に提げるため逆U字形に曲げられる細長いバンド部10と、口縁部を内外から挟むためにバンド部の両端部に夫々設けられた各一対の取付片20、30並びに口縁部2を挟んだ状態で両取付片20、30を結合するため取付片20、30に設けられた結合手段40と、内側に位置する取付片20の内側面に内方へ突出して設けられた2重の開口防止手段50とからなり、該開口防止手段50は、前記突出して設けられたその基部60の上面の一側に片寄って設けられた係合受部51と、他の係合受部51と係脱可能なように前記基部上の係合受部51と隣接した位置に突出して設けられた係合突部52とを有し、これら係合受部51と係合突部52とをバンド部10の両端の取付片20、20に対称に配置したことを特徴とする袋物類の提手部材。
【請求項2】開口防止手段50は、取付片20の内側面に突出して設けられた中空の基部60を有し、該基部上よりさらに突出して設けられた係合突部52と、中心軸を挟み該突部52を隣接する位置で中空内部61へ達するように形成された係合受部51とからなる請求項第1項記載の袋物類の提手部材。
【請求項3】開口防止手段50は、1個の基部60に設けられた係合受部51とそれに隣接した係合突部52が相手側の係合突部52及び係合受部51に略同一の箇所で相互に係脱する2重構造を有する請求項第1項記載の袋物類の提手部材。」
(2)甲第2号証乃至甲第9号証に記載された事項
甲第2号証には、「紐状体から成る二個一組の提手主体1,1の両端部2,2の側面に直角方向の挟持突子a,aを突設し、該提手主体1,1を袋体6の前後の上口側辺e,e′上に外側から各々平行状に添わせて挟持突子a,aを挿通し、内向きに雄型または雌型の結合子5,4を設け且つ受穴b,bを穿設した前後一対の挟着板3,3を内側から添わせて前記の挟持突子a,aの先端を受穴b,bに着脱自在に強嵌して成る手提袋の提手。」(実用新案登録請求の範囲)に係る考案が記載され、「本案にあっては、袋体6の内側から嵌着させた前後の挟着板3,3に内向きの雄雌型一対の結合子5,4を各々一体に設けて成る故、袋体6の前後の上口側辺e,e′を互いに寄せ合うだけで内側の結合子5,4が互いに嵌入し合って袋体6の上口部を閉鎖し、携帯中に収容物が跳び出る憂いなく安全であると共に収容物の出し入れには、前後の上口側辺e,e′を互いに外向きに引き開くだけで、結合子5,4の結合状態を解き容易に開口してできる」(第2欄第19?28行)ことが、提手主体1を逆U字形に曲げて袋体6に装着した態様を示す第1図とともに示されている。
甲第3号証には、「柔軟性を有するプラスチック製の紐状提手片の両端それぞれに二股に分割されて互いに向き合せられた一対の扁平状取付片を形成し、一方の取付片には係止孔を穿設し、他方の取付片には係止孔方向に向けて係止孔に係止する係止部を有する係止突起を突設すると共に、取付片にて取付けられる所定の袋の開口縁上方に位置する提手片と取付片とのそれぞれの連続部分を係止突起の突設方向に沿う扁平状に形成しておき、それぞれの連続部分相互を、少なくともいずれか一方の連続部分に係止突起の突設方向とほぼ平行にして突接させた連結閉塞片を介して、この連結閉塞片に対し横向きにして連結閉塞片あるいは連続部分に設けた嵌合突起と嵌合孔とを勘合させることで連結させるようにしたことを特徴とする袋の吊手。」(実用新案登録請求の範囲)に係る考案が記載されており、「これが使用に際しては左右一対にして所定の袋30に装着されるもので、提手片1,15を逆U字状に湾曲させておき、袋30の開口縁の一側に二股に分割された取付片2,3または4,5、あるいは16,17または18,19にて挟んで係止突起8,9,22,23を開口縁近くで貫通させて係止孔6,7,20,21に係止することで、一側の開口縁に装着する。また、この開口縁と向き合う他側の開口縁にいま一つのものを同様に装着させて、一対のこの考案吊手における嵌合突起13,28と嵌合孔4,29とを向き合わせておけばよいものである。」(第4欄第33?44行)ことが、一対にして使用される場合の配置を示す第1図及び第4図とともに示されている。
甲第4号証には、「柔軟性を有するプラスチック製の紐状提手片の両端それぞれに二股に分割されて互いに向き合せられた一対の扁平状取付片を形成し、一方の取付片には係止孔を穿設し、他方の取付片には係止孔方向に向けて係止孔に係止する係止部を有する係止突起を突設すると共に、取付片にて取付けられる所定の袋の開口縁上方に位置する提手片と取付片とのそれぞれの連続部分に取付片と同一方向に向けて扁平にした連結閉塞片を設け、一方の連結閉塞片には係止孔とほぼ平行にした嵌合孔を穿設し、他方の連結閉塞片には係止突起とほぼ平行にして嵌合孔に係合する球状係合部を有する嵌合突起を突設したことを特徴とする袋の吊手。」(実用新案登録請求の範囲)に係る考案が記載されており、「これが使用に際しては左右一対にして所定の袋17に装着されるもので、提手片1を逆U字状に湾曲させておき、袋17の開口縁の一側に二股に分割された取付片2,3または4,5にて挟んで係止突起8,9を開口縁近くで貫通させて係止孔6,7に係止することで、一側の開口縁に装着する。また、この開口縁と向き合う他側の開口縁にいま一つのものを同様に装着させて、一対のこの考案吊手における嵌合孔12と嵌合突起13とを向き合わせておけばよいものである。」(第3欄39行?第4欄第5行)ことが、一対にして使用される場合の配置を示す第1図とともに示されている。
甲第5号証には、「両端部に二股状支持端子を設けた提手本体と複数の固定具とからなり、各二股状支持端子に通孔を一もしくはそれ以上穿設し、これらの通孔に固定具を装着して前記二股状支持端子で挟装される袋体の開口縁部を固定保持し、さらに前記固定具の一端部に凸状嵌合部もしくは凹状嵌合部を設け、凸状嵌合部を設けた固定具と凹状嵌合部を設けた他の固定具とを嵌合することにより袋体の開口縁部を閉塞保持するよう構成することを特徴とする袋物用提手。」[実用新案登録請求の範囲(1)]に係る考案が記載されており、「提げ手の使用に際しては、まず、袋体38の開口部を挟んで対向する縁部40,42の所定位置を一対の提手本体12,12の各支持端子10,10で夫々挟持し各支持端子10の一方の端子部材18に穿設した通孔20から他方の端子部材18に穿設下通孔20に袋体38の縁部に穿設した孔部を介して固定具14の挿通ロッド24を挿通し、固定具14の膨出段部26を前記他方の端子部材18に係合させることにより袋体38を支持端子10で固定保持し、……この場合、固定具14は、袋体38の開口部を挟んで対向する一方の固定具14の先端部に凸状嵌合部28が設けてある場合他方の固定具14はその先端部に凹状嵌合部を設けたものが位置するよう装着する。」(第4欄第12?27行)ことが第2図には一対の提手本体を逆U字状に曲げて袋体38に装着した態様を示す第2図とともに示されている。
甲第6号証には、「手提袋」に係る考案が記載され、「本考案は、提手を一本付き構造として握り持ち易くすることを目的とするものであって、両下端に逆V字状に開閉脚する割り脚部(1)(1)′を設けた逆U字状提手(2)を袋本体(3)の上方に配し、割り脚部(1)(1)′の前側脚部分(4)(5)を袋本体(3)に於ける前面版(6)の開口縁の両端側に、同じく後側脚部分(4)′(5)′を後面版(6)′の開口縁の両端側に夫々止着したことを要旨とするものである。」(第2頁第5?12行)こと、及び「割り脚部(1)(1)′の前側脚部分(4)(5)および後側脚部分(4)′(5)′の下端に内外二枚の舌状片(7)(7)′より形成された挟み部(8)(8)′(9)(9)′を、また外側の舌状片(7)′に係止ピン(10)を、更に内側の舌状片(7)に係止孔(10)′を夫々一体的に設けると共に……更に上記の前後両側脚部分(4)(5)(4)′(5)′に於ける内側舌状片(7)(7)′の外面に相互に係合する雌部(13)および雄部(13)′を設けたものである。」(第3頁第1行?第4頁第1行)ことが図面とともに示されている。
甲第7号証には、車両と車両とをたがいにつなげる装置である連結装置について記載されており、密着連結器として、先端に突出部と空所を備えた一対の連結体の一方の突出部が他方の空所に嵌合した状態で錠により密着される状態が図面により示されている。、
甲第8号証には、密着連結器について「平らな連結面の片側に突起があり中心部にハンドルのついた半円形のピンで止められて回転可能な錠からなる」と記載されている。
甲第9号証には、先端に突出部と空所を有する連結器を備えた電車の写真が掲載されている。
(3)対比・判断
i)本件請求項1に係る考案について
本件請求項1に係る考案と甲第2号証に記載された考案とを対比する。
甲第2号証に記載された「提手」は、上記の摘示した記載及び図面からみて、袋体6の前後の上口側辺e,e′に夫々1本ずつ取り付けられ、2本1組で手提袋の提手を構成するものであり、その「紐状体から成る二個一組の提手主体1,1」は、袋体6に逆U字形に曲げられて装着され、手に提げられるようになっており、該提手主体1,1の両端部2,2は、結合手段としての挟持突子a,aを備え、結合手段としての受穴b,bを穿設された挟持板3,3とで袋体6の上口側辺e,e′を内外から挟んだ状態で結合して袋体6に取り付けられる取付部を構成しており、該取付部の内側に位置する挟持板3,3に内向きに設けられた雄雌型一対の結合子5,4は、互いに嵌入し合って袋体の上口部を閉鎖するもので「開口防止手段」ということができる。
したがって、甲第2号証には、「袋体6の前後の上口側辺部e,e′に夫々1本ずつ取り付けられ、2本1組で提手を構成する提手部材であって、手に提げるため逆U字形に曲げられる紐状体から成る提手主体1,1と、上口辺部e,e′を内外から挟むために提手主体1,1の両端部2,2と挟持板3,3により構成される取付部と、該取付部に設けられた結合手段a,a及びb,bと、内側に位置する取付部に内向きに設けられた開口防止手段とから成る提げ手部材」が記載されていることになる。
そして、甲第2号証に記載された「袋体6の前後の上口側辺部e,e′」及び「紐状体から成る提手主体1,1」はそれぞれ本件請求項1に係る考案の「袋物類1の開口に対向した口縁部2」及び「細長いバンド部10」に相当し、甲第2号証に記載された挟持板3,3に内向きに設けられた雄雌型一対の結合子5,4は、挟持板3,3の内側面に設けられているので、本件請求項1に係る考案と甲第2号証に記載された考案とは、
「袋物類の開口に対向した口縁部に夫々1本ずつ取り付けられ、2本1組で提手を構成する提手部材であって、手に提げるため逆U字形に曲げられる細長いバンド部と、口縁部を内外から挟むためにバンド部の両端部に夫々設けられた取付部並びに口縁部を挟んだ状態で取付部を結合するため取付部に設けられた結合手段と、内側に位置する取付部の内側面に内方へ突出して設けられた開口防止手段とからなる袋物類の提手部材」
である点で一致しており、
以下の点で相違している。
相違点1:本件請求項1に係る考案において、バンド部の両端に夫々各一対の取付片を設けて取付部を構成しているのに対し、甲第2号証に記載された考案においては、提げ手部材の両端部と挟持板とで取付部を構成している点。
相違点2:本件請求項1に係る考案において、開口防止手段は、「2重の開口防止手段」であり、(取付片の内側面に内方へ)「突出して設けられたその基部60の上面の一側に片寄って設けられた係合受部51と、他の係合受部51と係脱可能なように前記基部上の係合受部51と隣接した位置に突出して設けられた係合突部52とを有し、これら係合受部51と係合突部52とをバンド部10の両端の取付片20、20に対称に配置した」ものであるのに対し、甲第2号証に記載された開口防止手段は、内向きに雄型または雌型の結合子5,4を設けた一対の挟持板によって構成されるもので、「2重の開口防止手段」ではない点。
そこで、上記の相違点について検討する。
相違点1について
甲第3号証乃至甲第6号証には、袋物類に提手部材を取り付ける取付部を、バンド部の両端に夫々各一対の取付片を設けて構成する点が記載されており、該取付部の構成は、本件実用新案登録の出願日前周知の技術的事項であったということができる。そして、甲第2号証に記載された考案の取付部を挟持板を用いるに代えて提手主体の両端に夫々各一対の取付片を設けて構成するようにすることは当業者がきわめて容易になし得た事項と認められる。
相違点2について、甲第3号証乃至甲第6号証のいずれにも袋物類の提手部材に開口防止手段を設けることが開示されているが、それらはいずれも甲第2号証に記載されたものと同様に雄型としての係合突起、凸状嵌合部あるいは雄部と雌型としての係合孔、凹状嵌合部あるいは雌部を夫々別の部分に設けており、本件請求項1に係る考案でいう「2重の開口防止手段」については、いずれにも記載も示唆もされていない。そして、甲第7号証乃至甲第9号証の記載は、電車の連結器において、一対の連結体の夫々が、突起と空所を有しており相互に嵌入し合うようになっている結合手段が本件実用新案登録の出願日前に公知あるいは周知であったことを教えているが、袋物類の開口防止手段について何ら開示するものではない。
そして甲第7号証乃至甲第9号証に記載されたような密着連結器は、電車等に用いられ、本来の目的からして、堅固に結合され、錠を解除しない限り容易にはずれないことが求められるものであり、他方、甲第2号証に記載された手提袋の提手における開口防止手段としての雄雌型一対の結合子は、「袋体6の前後の上口側辺e,e′を互いに寄せ合うだけで内側の結合子5,4が互いに嵌入し合って袋体6の上口部を閉鎖し、携帯中に収容物が跳び出る憂いなく安全であると共に収容物の出し入れには、前後の上口側辺e,e′を互いに外向きに引き開くだけで、結合子5,4の結合状態を解き容易に開口してできる」ような、袋体上口部の閉鎖及び開口が容易にできるようなものであり、このような閉鎖及び開口が容易にできることが求められる袋物類の開口防止手段として、上記のような容易にはずれないことを求められている電車等の密着連結手段における結合手段を適用することは、袋物類の分野における通常の知識を有する者にとって、きわめて容易に想到し得たとすることはできない。
請求人は、本件請求項1に係る考案の「2重の開口防止手段」の構成が密着連結器における従来技術と同一であるとして両者の対比説明書及び密着連結器の写真を参考資料として提出しているが、それらの参考資料について検討しても、電車等の密着連結手段における結合手段を袋物類の開口防止手段に適用することが、当業者にとって、きわめて容易に想到し得たものであるとする根拠は見出せない。
したがって、本件請求項1に係る考案は、甲第2号証乃至甲第9号証に記載された事項に基づいてから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということはできない。
ii)本件請求項2及び本件請求項3に係る考案について
本件請求項2及び本件請求項3に係る考案は、いずれも本件請求項1に係る考案をさらに技術的に限定したものであり、本件請求項1に係る考案の構成の全てを具備するものであるから、本件請求項1についてで述べたと同じ理由により、甲第2号証乃至甲第9号証に記載された事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということはできない。
[理由ロについて]
(1)請求人が、本件実用新案登録の真の考案者は、早瀬喜八郎ではなく、佐藤勝市であるとする理由の概略
a.佐藤勝市は、株式会社サトウ製作所の代表者であり、早瀬喜八郎を代表者とするハヤセ株式会社の製品の製作受注をしており、必要に応じて、提案、助言もしていた。
b.佐藤勝市は、ハヤセ株式会社が甲第2号証に係る実用新案権を使用する際のシール貼り作業も請け負っていたが、そのシール貼り作業の手間を省くために、新規な考案を思索し、若い頃国鉄に勤めていて熟知していた密着連結器の技術と関連して本件考案をなすに到った。
c.佐藤勝市は、本件考案の技術的内容は、創作性に乏しいとして自らは、特許出願または実用新案出願することは考えなかったが、その内容をハヤセ株式会社の森本専務に口頭で話し、後日昭和60年12月7日にファクシミリで流したところ、昭和60年12月18日にこの案は見送る旨の回答を受けた。その時の写しが甲第15号証である。
d.その後、ハヤセ株式会社名義の本件に係る実用新案登録出願がアイデア提供者である佐藤勝市に無断で行われた。
e.佐藤勝市は、その後、自己のアイデアを実現するために金型代金の見積もりを取った。それを記録したノートの写しが甲第16号証である。
f.佐藤勝市は、本件実用新案登録出願後も、甲第17号証に示すようにハヤセ株式会社に対し、アドバイスを行い、甲第18号証の1?3のメモから判るように技術的思索を行うなど本件考案の内容に深く関与した。
g.佐藤勝市が本件に係る実用新案登録出願の存在を知ったのは、本件に係る実用新案登録出願が拒絶理由通知を受けて、その応答についての相談をハヤセ株式会社の森本専務から受けたときであるが、その際、考案者としてアイデア料を請求し、考慮するとの回答を森本専務から受けたが、そのままになっている。
(2)証人尋問
そこで、当審において、上記の請求人の主張する理由を検討すべく、証人佐藤勝市及び早瀬喜八郎の証人尋問を行った。
本件登録実用新案に係る考案の真の考案者に関しての両証人の証言は概略以下のとおりである。
i)証人佐藤勝市の証言
ハヤセ株式会社とは10数年前から、甲第2号証に係る登録実用新案を使用した製品を作って納めていた。
甲第2号証に係る登録実用新案を使用した製品に、一本ずつ「実用新案使用許諾証書」(シール)を貼る仕事の貼り賃をハヤセ株式会社から貰って、内職先に斡旋し、利益を得ていた。
甲第2号証に係る登録実用新案の権利期間が切れると、内職のメリットがなくなると感じ、いっそ簡略化しようと思っていた時に、ハヤセ株式会社から、一つの型の中に2つ雄雌がついているものについての相談を受けた。
ハヤセ株式会社から相談を受けたものについては金型ができにくいので、金型を作る上で楽なものとして、電車の連結器から思いついた、雄型と雌型を半分ずつに割ったものをくっつけるという、自分の方で考えていた案を森本専務宛にファックスで連絡した。その時のファックスの写しが甲第15号証である。
シールを貼るのが面倒だから考案をしたわけではない。なお、この点について証人は正確には「シールを貼るのが面倒だから何をするというわけじゃない」と述べているが、尋問の内容が考案の動機についてであることから証人のいう「何」は考案のことと介するのが妥当であり、上記のように認定した。
甲第15号証のファックスは、甲第16号証のノートの記録を元にしたものであり、原本には日付は入っておらず、60年というのは間違いである。
甲第15号証のファックスで提案した案について、特許性があるとは思えないものの、出願中というお墨付きを貰う意味で一応特許出願を奨めたが、それは見送りといわれた。
本件実用新案登録に係る出願がなされたことを知ったのは、ハヤセ株式会社が拒絶理由通知を受けて相談に来たときであって、それ以前は全く知らなかった。
ii)証人早瀬喜八郎の証言
証人は、昭和55年頃樹脂製の袋の提手を作るに当たり、樹脂メーカーからの紹介で佐藤勝市と知り合い、株式会社サトウ製作所に仕事を頼むことになり、平成11年度に取引額がゼロになるまでは取引をしていた。
昭和60年頃、プラスチックのタック(提手)であるハッピータックの納入先から、両端部にそれぞれ雄型と雌型の係合部の付いた従来の提手は、袋物に取り付ける際に付け方を間違えると、雄同士あるいは雌同士が対向して嵌合できないものとなるというクレームがあり、どのように取り付けても使用できる提手を得るために開口防止手段として、提手端部のそれぞれ一方に雄雌2個の係合部を配置することをヒントにし、2つ並べると大きなものになるので、1個の係合部を2分割して雄雌とすれば、小型化することを考えついて本件実用新案登録に係る考案に到った(乙第5号証)。
佐藤勝市には、本件実用新案に係る考案をした後、樹脂の流れや金型について相談をし、金型の発注をした(乙第5?7号証)が、本件実用新案登録に係る考案をする時点では佐藤勝市の関与はなかった。
請求人が、佐藤勝市から、ハヤセ株式会社の森本専務に宛てたファックスの写しとして提出した甲第15号証について記憶はない。
甲第2号証に係る登録実用新案を使用した製品は、その権利期間中は、特許料を払って作り、シールを貼っており、権利が切れてからもずっと作っていた。
(3)判断
以上の両証人の証言に基づいて、請求人が、本件考案の真の考案者は佐藤勝市であるとする理由について検討する。
理由aについて
佐藤勝市を代表者とする株式会社サトウ製作所が、本件実用新案登録に係る出願の日の前後に亘って、ハヤセ株式会社が製作していた袋物類の提手の製作受注を行っていたこと、ハヤセ株式会社は、甲第2号証に係る登録実用新案を使用した製品を株式会社サトウ製作所に発注して製造し、該登録実用新案の権利期間中は「実用新案使用許諾証書」なるシールを貼っていたこと、佐藤勝市は、袋物類の提手の製作に関して、プラスチックの成型上の問題点や金型について、技術的な相談をハヤセ株式会社から受けていたことについては、両者の証言は一致している。
理由bについて
佐藤勝市は、シールを貼るのが面倒だから考案をしたわけでない旨を証言しており、また、「シール貼り」の作業を内職先に斡旋し、その手数料を受け取り、利益を得ていた旨、甲第2号証に係る登録実用新案の権利期間が過ぎれば「シール貼り」の仕事がなくなること及び該権利期間がまもなく切れることを認識していた旨の証言から、「シール貼り作業の手間を省くために新規な考案を思索」したという請求人のいう理由は妥当なものとは認められない。
ただし、佐藤勝市の「内職のメリットがなくなると感じ、いっそ簡略化しようと思ったときに……」という証言は、シール貼りの内職のメリットに代わる収入源として新規な考案を思索し、提案したという別の動機付けを証言しようとするものと推測することはできる。
理由cについて
佐藤勝市が自己のアイデアをハヤセ株式会社の森本専務に伝えた証拠として提出された甲第15号証には、12月7日の日付け、「この方法でやれば先方の特許と関係なくむしろこちらで特許がとれると思えます」、「金型代は試作型で65万くらいかかると思います」の記載及び雄雌の係合部を半分ずつ有する係合部の手書きの図面、及び「この案見送り12/18」の朱書きの書き込み等が認められる。そして、甲第6号証のコピーに見られる「60年」の記載は、後日誤って記入したもので実際は62年であり、62/11/29の記載のある甲第16号証のメモに基づいて作成したものである旨の証言から、甲第5号証は昭和62年12月29日以降に作製されたものと認められる。一方、ハヤセ株式会社が、使用していた甲第2号証に係る登録実用新案登録の権利期間は、昭和62年10月3日であることは、甲第2号証の公報の発行日から明らかであるので、上記甲第15号証のファックスは、上記権利期間の満了後すなわち、「シール貼り」の必要がなくなってからなされたものということになり、「シール貼り」の手間を省くための提案であるとすることは妥当でない。
また、上記「理由bについて」で推測したように、シール貼りの内職のメリットに代わる収入源を得るという動機で提案したとしても、提案の時点が「シール貼りのメリットがなくなると感じたとき」ということはできないのであるから、該推測も成り立たない。
理由d、e、f、gについて
本件実用新案登録出願が佐藤勝市に無断で行われたこと及び本件実用新案登録出願後に佐藤勝市がハヤセ株式会社に対しアドバイスをしたことについては、両証人の証言は一致しているが、請求人が提出した甲第16号証、甲第17号証及び甲第18号証の1乃至3については、佐藤勝市の作成したものであることは認められるが、これらに記載された事項が、佐藤勝市の考案になるもので、それに基づいて、ハヤセ株式会社が本件実用新案登録の出願をしたとする根拠は、両証人の証言から認めることはできなかった。
以上のように、甲第15号証乃至甲第18号証の1乃至3及び証人佐藤勝市及び早瀬喜八郎の証言を検討しても、佐藤勝市が本件考案をなすに到った動機(理由b)、早瀬喜八郎が佐藤勝市の考案に基づいて本件実用新案登録に係る出願をした事実(理由c)についての請求人の主張が妥当であるということはできず、したがって、本件実用新案登録に係る考案者が早瀬喜八郎ではなく佐藤勝市であるとする心証を得ることはできなかった。

6.まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提示した証拠方法によっては、本件の請求項1乃至3に係る実用新案登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審決日 2000-12-21 
出願番号 実願平1-136695 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (B65D)
U 1 112・ 152- Y (B65D)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 岡田 幸夫鳥居 稔  
特許庁審判長 佐藤 雪枝
特許庁審判官 船越 巧子
鈴木 美知子
登録日 1995-03-06 
登録番号 実用新案登録第2053596号(U2053596) 
考案の名称 袋物類の提手部材  
代理人 井沢 洵  
代理人 久保 司  

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