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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B60K
管理番号 1036027
審判番号 無効2000-35048  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-01-18 
確定日 2001-03-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第2541717号実用新案「静油圧駆動車」の請求項1ないし3に係る実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第2541717号の請求項1ないし3に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 I.手続の経緯
本件実用新案登録第2541717号の請求項1ないし3に係る考案(以下、「本件考案」という。)についての出願は、平成2年11月21日に実用新案登録出願(実願平2-121200号)され、平成9年4月25日にその実用新案登録について実用新案権の設定登録がされたものである。
これに対し、平成12年1月18日に、請求人・ティー・シー・エム株式会社より実用新案登録無効審判の請求がされ、平成12年5月1日に、被請求人・株式会社小松製作所より答弁書が提出され、平成12年10月20日付けで、請求人より弁駁書が提出され、平成12年10月30日に、請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、平成12年11月6日付けで、請求人より弁駁書(第2回)が提出されたものである。
なお、本件実用新案権に係る小松メック株式会社の持分は、平成12年6月7日(登録日)に株式会社小松製作所に移転した。

II.当事者の主張
1.請求人の主張
「本件実用新案登録の請求項1及び請求項3に係る考案は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案に、甲第3号証乃至甲第6号証、甲第9号証及び甲第10号証に示されるような、周知技術を適用することにより、また、請求項2に係る考案は、上記甲号各証に加えて甲第7号証に示されるような公知技術又は甲第2号証にもあるとおりの周知技術を適用することにより、きわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきである。」(請求書1頁1?9行、弁駁書2頁20?22行及び3頁19?22行、第1回口頭審理調書1頁;請求人4参照)旨主張している。
<証拠方法>
甲第1号証 実願昭63-164683号(実開平2-84722号)のマイクロフイルム
甲第2号証 実願昭63-166513号(実開平2-85627号)のマイクロフイルム
甲第3号証 日本の技術100年第4巻「航空機・自動車」、中口博 井口雅一編、筑摩書房(1987年7月5日発行)、192頁
甲第4号証 特開昭48-54623号公報
甲第5号証 特開昭58-218634号公報
甲第6号証 特開昭58-53735号公報
甲第7号証 特開昭50-150128号公報
甲第9号証 「マグローヒル科学技術用語大辞典」、株式会社日刊工業新聞社(昭和54年3月20日発行)、第505頁及び第1439頁
甲第10号証 「省力と自動化」第13巻第5号、オーム社(昭和57年5月1日発行)、第65?69頁

2.被請求人の主張
(1).請求項1に係る考案について
「甲第1号証及び甲第2号証には、サブ組立装置として着脱自在に組み立て、試験をサブ組立装置で実行し得るようにしたとの開示はされていない。」(答弁書7頁8?12行、同8頁15?21行参照)。
また、「甲第3号証乃至甲第6号証は、サブ組立の構成が異なるだけでなく、甲第1号証及び甲第2号証とは技術分野が異なり、両者を組み合わせる動機付けが全くない。」(答弁書10頁下から1行?11頁2行参照)。
したがって、「『本件請求項1に係る考案は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案に、甲第3号証乃至甲第6号証に示されるような周知技術を適用することで、当業者であれば極めて容易に考案し得るものである。』との請求人の主張は理由がない。」(答弁書11頁3?9行参照)。
また、「本件請求項1に係る考案と甲第1号証に記載された考案を対比すると、審判請求書第2頁第14乃至24行記載のとおり請求項1に係る考案の構成要件を分節した場合、甲第1号証にその構成要件のまる1からまる4が実質的に記載されているので、これらに関する相違点はなく、争わない。構成要件のまる5については争う。」(第1回口頭審理調書の被請求人4参照)旨主張している。
(2).請求項2に係る考案について
「甲第7号証には、『機械式ブレーキ10には出力軸11が連結されている』点が開示されているだけで、出力軸がトランスファの出力軸である点は全く開示されていない。」(答弁書11頁21?23行参照)
「トランスファの出力軸にブレーキを設けることは甲第2号証に記載されており、公知であることは認めるが、甲第2号証に記載されたものは、請求項2に係る考案のものとトランスファの出力軸の限定について前提が異なる。すなわち、甲第2号証に記載されたものはトランスファの出力軸について請求項1のような限定を付した上での出力軸にブレーキを設けたものではない。また、その点が周知でもない。」(第1回口頭審理調書の被請求人5)
したがって、「『請求項2に記載の考案も、登録性を有しないものである。』とする審判請求人の主張は理由がない。」(答弁書12頁10?15行参照)旨主張している。
(3).請求項3に係る考案について
「甲第1号証には、エンジンやクラッチハウジング等が車軸36、37間に配置されている点が開示されているだけで、エンジン(E)、油圧HSTポンプ(2)、油圧HSTモータ(4)、油圧HST配管(3)、トランスファ(5)の各コンポーネントをサブ組立装置(10)とした、そのサブ組立装置(10)を前車軸(FA)と後車軸(RA)とのほぼ中間に配設したものである点は、開示されていない。したがって、『請求項3の考案も、当業者であれば極めて容易に成し得るものであり、登録性を有しないものである。』とする審判請求人の主張は理由がない。」(答弁書12頁23行?13頁7行参照)旨主張している。

III.本件考案
本件考案は、願書に添付した明細書及び図面(以下、「登録明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものと認める(以下、それぞれ「本件考案1」ないし「本件考案3」という。)。
【請求項1】エンジン(E)、油圧HSTポンプ(2)、油圧HSTモータ(4)、油圧HST配管(3)、トランスファ(5)からなる静油圧駆動車において、トランスファケース(25)の一側にエンジン(E)を、エンジン(E)と反対側に油圧HSTポンプ(2)と油圧HSTモータ(4)とを取り付け、油圧HSTポンプ(2)と油圧HSTモータ(4)とを油圧HST配管(3)で接続し、油圧HSTモータ(4)の出力を前輪及び、または後輪に伝達する出力軸(26)をトランスファ(5)に設け、エンジン(E)、油圧HSTポンプ(2)、油圧HSTモータ(4)、油圧HST配管(3)、トランスファ(5)の各コンポーネントをサブ組立装置(10)としたことを特徴とする静油圧駆動車。
【請求項2】請求項(1)記載のトランスファ(5)の出力軸(26)にブレーキを設けたことを特徴とする静油圧駆動車。
【請求項3】請求項(1)、(2)の静油圧駆動車におけるサブ組立装置(10)を前車軸(FA)と後車軸(RA)とのほぼ中間に配設したことを特徴とする静油圧駆動車。

IV.甲第1号証に記載された考案
請求人が提出した甲第1号証には、以下の技術的事項(a)?(e)が記載されており、また、技術的事項(f)が看取できるものと認められる。
(a).「エンジン(1)に接続するクラッチハウジング(3)に引き続いて機械式変速装置(X)及びHST式変速装置(Y)を配置してなるトラクタの動力伝動装置」(実用新案登録請求の範囲参照)
(b).「第1図?第3図において、エンジン(1)の前部にクラッチ(2)を収容するクラッチハウジング(3)が連結され、クラッチハウジング(3)の前部に機械式変速装置(X)を構成するミッションケース(4)が連結される。このミッションケース(4)は、前記クラッチハウジング(3)と一体に形成された右合わせケース(4a)と、下部に大きく突出した軸支部(4bl)(4b2)を形成する左合わせケース(4b)とを、多数のボルト(4C)により接合して形成される。・・・軸支部(4bl)(4b2)には、各々ドライブ軸(5)及びPTO軸(6)が前後に突出して軸支され、このドライブ軸(5)及びPTO軸(6)の前端部は、各々クラッチハウジング(3)内に突出位置する。ミッションケース(4)の上半部(B)前面には、HST式変速装置(Y)を構成するHSTケース(7)が、多数のボルト(10)により連結され、HSTケース(7)がミッションケース(4)の上方凹み空間(C)に入り込だ状態で配置される。」(7頁9行?8頁12行)
(c).「油圧モーター軸(9)は、一端(9a)がミッションケース(4)側に突出して、ミッションケース(4)に軸支され、変速機構(X1)を介して前記ドライブ軸(5)に連動連結するもので、油圧モーター軸(9)の動力は・・・ドライブ軸(5)に伝動される。」(9頁4?17行)
(d).「この伝動装置は、第4図に示すようにトラクタ(T)を構成するフレーム(34)(34)に装着され、ドライブ軸(5)の前方突出部(5a)は、ユニバーサルジョイント(35)を介して前車軸(36)に連動連結し、ドライブ軸(5)の後方突出部(5b)は、ユニバーサルジョイントを介して後車軸(37)に連動連結している。」(10頁10?16行)
(e).「(38)は、前車軸(36)に装着した前車輪、(39)は、後車軸(37)に装着した後車輪」(11頁9?10行)
(f).第1及び3図から、ミッションケース(4)の一側にエンジン(1)を、エンジン(1)と反対側にHST式変速装置(Y)を取り付けたこと。
以上の記載事項並びに明細書及び図面の全記載からみて、甲第1号証には次の考案が開示されているものと認められる(以下、「引用例考案」という。)。
【引用例考案】
エンジン(1)(エンジン(E))、 HST式変速装置(Y)(油圧HSTポンプ(2)、油圧HSTモータ(4)、油圧HST配管(3))、機械式変速装置(X)(トランスファ(5))からなるトラクタ(静油圧駆動車)において、ミッションケース(4)(トランスファケース(25))の一側にエンジン(1)(エンジン(E))を、エンジン(1)(エンジン(E))と反対側にHST式変速装置(Y)(油圧HSTポンプ(2)、油圧HSTモータ(4)、油圧HST配管(3))を取り付け、油圧モーター軸(9)の動力(油圧HSTモータ(4)の出力)を前車輪(38)(前輪)及び、後車輪(39)(後輪)に伝動(伝達)するドライブ軸(5)(出力軸(26))をミッションケース(4)(トランスファケース(25))に設け、エンジン(1)(エンジン(E))に接続するクラッチハウジング(3)に引き続いて、HST式変速装置(Y)(油圧HSTポンプ(2)、油圧HSTモータ(4)、油圧HST配管(3))、及び機械式変速装置(X)(トランスファ(5))を配置してなる伝動装置をトラクタを構成するフレーム(34)(34)に装着したトラクタ(静油圧駆動車)。
なお、括弧内の記載は、引用例考案を特定する事項に対応する本件考案を特定する事項を対比の便のために示したものである。

V.対比・判断
1.本件考案1について
本件考案1と上記引用例考案とを対比すると、引用例考案の「エンジン(1)」は、本件考案1の「エンジン(E)」に相当し、以下同様に、「機械式変速装置(X)」は「トランスファ(5)」に、「ミッションケース(4)」は「トランスファケース(25)」に、「油圧モーター軸(9)の動力」は「油圧HSTモータ(4)の出力」に、「前車輪(38)」は「前輪」に、「後車輪(39)」は「後輪」に、「伝動」は「伝達」に、「ドライブ軸(5)」は「出力軸(26)」に、それぞれ相当するものと認められる。
また、HST式変速装置が「油圧HSTポンプ」、「油圧HSTモータ」、及び両者を接続する油圧通路をそれぞれ備えていることは技術常識であるから、引用例考案における「HST式変速装置(Y)」は「油圧HSTポンプ」、「油圧HSTモータ」、及び「油圧通路」をそれぞれ備えていて、「油圧HSTポンプ」と「油圧HSTモータ」は「油圧通路」で接続されているものと認められる。
また、本件考案1における「静油圧駆動車」は、登録明細書の「(産業上の利用分野)この考案は静油圧駆動車(以下においてはHST車と記す)の主要装置(以下おいてはコンポーネントと記す)の構成、配置に関する。(従来の技術)従来のHST車のコンポーネントの配置図を第3図に示す。図においてエンジンEの駆動回転力は軸継手SJを介して、油圧ポンプであるHSTポンプHPを駆動して、発生した高圧の作動油を油圧配管であるHST配管HTを介して油圧モータであるHSTモータHMへ置くって該油圧モータHMを駆動し、該油圧モータHMで発生した回転駆動力はトランスファTF、推進軸PSを介して前車軸FA、後車軸RAに伝えられ、車両を走行するようになっている。BRはブレーキ、UJは自在継手である。そしてこのようなHST車の特徴は、駆動回転力はHSTポンプHPと、HSTモータHMとによって前後推無段変速されるため、歯車式変速機付車両に比較して、車両の運転が容易になるので、建設車両等に多く用いられている。」(実用新案登録公報2欄9行?3欄11行)との記載からみて、HST付車両を意味するものと解することができる。そして、引用例考案における「トラクタ」もHSTを備えた車両であることは明らかであるから、その意味の限りにおいて、本件考案1の「静油圧駆動車」に相当するものと認められる。
そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
エンジン、 油圧HSTポンプ、油圧HSTモータ、油圧通路、トランスファからなる静油圧駆動車において、トランスファケースの一側にエンジンを、エンジンと反対側に油圧HSTポンプ、油圧HSTモータ、を取り付け、油圧HSTポンプと油圧HSTモータとを油圧通路で接続し、油圧HSTモータの出力を前輪及び、後輪に伝達する出力軸をトランスファケースに設けた静油圧駆動車。

【相違点イ】
油圧通路が、本件考案1では、油圧HST配管(3)であるのに対し、引用例考案では、配管か否か不明な点。
【相違点ロ】
本件考案1では、「エンジン(E)、油圧HSTポンプ(2)、油圧HSTモータ(4)、油圧HST配管(3)、トランスファ(5)の各コンポーネントをサブ組立装置(10)とした」のに対し、引用例考案では、エンジン(1)に接続するクラッチハウジング(3)に引き続いて、HST式変速装置(Y)、及び機械式変速装置(X)を配置してなる伝動装置をトラクタを構成するフレーム(34)(34)に装着した点。
そこで、上記相違点イ、ロについて検討する。
・相違点イについて
油圧HSTポンプと油圧HSTモータを接続する油圧通路を配管とすることは周知技術であること(必要であれば、甲第2号証の第10頁14?16行を参照されたい。)、また、引用例考案におけるHST変速装置において、油圧通路を配管とすることに何ら不都合な点は見出せないことから、引用例考案に上記周知技術を適用し、上記相違点イに係る本件考案1の構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到できたものと認められる。
・相違点ロについて
本件考案1における「サブ組立装置」の技術的意義は、その実用新案登録請求の範囲の記載からは、サブ組立装置を構成する各コンポーネントが一纏まりとして車両に集合配置されているという程度のことを意味するのか、それとも、組立製造分野において技術常識であるサブアセンブリ又はユニット組立などと呼ばれている最終組立品の最終組立を容易にするための最終的に一纏まりに集合配置されることとなる部品群(中間組立品)を意味するのかが、必ずしも一目瞭然とはいえないが、考案の詳細な説明の効果の記載「この考案は以上詳述したようにしてなるので、サブ組立装置を車体に搭載する前にサブ組立装置の状態で品質、性能等のチェックを行うことができ、また該サブ組立装置の車体からの脱着性が良くなって、作業空間が広いのでブレーキのメンテナンスが容易になり、さらにHST配管が短くなるので、配管抵抗が小さくなるものである。従ってこの考案によれば車両の組立作業、及びサブ組立装置の脱着が容易になって大幅に作業能率が向上し、ブレーキの保守整備がやり易く、又配管のコストダウンとともに効率が向上するという大きい効果を奏するものである。」からみて、後者を意味するものと解することができる。
ところで、組立製造の技術分野では、サブアセンブリ又はユニット組立は技術常識であって、その効果についても最終組立を容易にし、結果として生産性の向上を図ることにあることは明らかである。これについては、被請求人も「『マグローヒル科学技術用語大辞典』の『ユニット組立』『サブアセンブリ』の説明は、サブ組立装置の定義の一例として、成立するものと認めます。」(平成12年10月30日付け被請求人口頭審理陳述要領書4頁10?12行)、「甲第3号証の記載、『ボディの製造方法は・・個々の部品をまず溶接し、・・サブアセンブリ方式となり、生産性も飛躍的に向上した。』は、サブアセンブリの効果として正しいことは認めます。」(同口頭審理陳述要領書4頁13?15行)と主張しているとおりである。
そうであるならば、組立製造の技術分野において、サブアセンブリ又はユニット組立といった手段は、最終組立を容易にし、結果として生産性の向上を図ろうとした場合に当業者が当然考慮すべき普遍的な課題解決の一手段ということができる。
しかるところ、引用例考案が属する静油圧駆動車の技術分野においても、それが、各コンポーネントからなる最終組立品である以上、最終組立を容易にし、生産性の向上を図ることは当業者が当然考慮すべき技術的課題であり、その際に、最終製品において一纏まりとして集合配置される部品群を、サブアセンブリ又はユニット組立といった手段とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであって、格別な困難性は見出せない。
また、甲第4号証に示されているように従来、エンジンと変速機等が組立や着脱容易性等のために一体構造として扱われていること(特に1頁特許請求の範囲、3頁左上欄19行?右上欄5行、及び同頁右上欄19行?左下欄1行参照)、及び引用例考案のエンジン、HST等の各コンポーネントにおいて、それらをユニット組立又はサブアセンブリとすることができない理由も格別見当たらない。
してみると、上記相違点ロに係る本件考案1の構成は、引用例考案及び組立製造の技術分野における技術常識から、当業者がきわめて容易に想到し得たものと言わざるを得ない。
また、本件考案1が、上記相違点イ及びロのように構成したことによる「サブ組立装置を車体に搭載する前にサブ組立装置の状態で品質、性能等のチェックを行うことができ、また該サブ組立装置の車体からの脱着性が良く」、「さらにHST配管が短くなるので、配管抵抗が小さくなるものである。」といった作用効果も、引用例考案及び技術常識から、当業者が予測可能なものであって、格別のものとは認められない。
したがって、本件考案1は、引用例考案及び技術常識から、当業者がきわめて容易になし得たものと認められる。

2.本件考案2について
本件考案2は本件考案1を特定する事項を含むものであって、本件考案2と引用例考案とを対比すると、上記「1.本件考案1について」において示した【一致点】、【相違点イ】、及び【相違点ロ】と同様の一致点及び相違点が認められる他に、以下の相違点ハが認められる。
【相違点ハ】
本件考案2では、 「トランスファ(5)の出力軸(26)にブレーキを設けた」のに対し、引用例考案では、それが不明な点。
そこで、上記相違点ハについて検討する。
・相違点ハについて
トランスファの出力軸にブレーキを設けることは、例えば、甲第2号証に記載されているように、従来周知の技術的事項と認められることから、引用例考案に上記周知技術を適用し、上記相違点ハに係る本件考案2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものと認められる。また、その際に、ブレーキをサブ組立装置の一コンポーネントとすることも、ブレーキの配置が結果的にトランスファに近接ないし内包する位置となること、及び、ブレーキのみを敢えてサブ組立装置から排除しなければならない特段の事情も見当たらないことから、当業者がきわめて容易になし得たものと認められる。
してみると、上記相違点ハは格別のものとは認められない。
また、相違点イ及びロについても上述のとおり格別のものとは認められないから、本件考案2は、引用例考案及び周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

3.本件考案3について
本件考案3は本件考案1または2を特定する事項を含むものであって、本件考案3と引用例考案とを対比すると、上記「1.本件考案1について」において示した【一致点】、【相違点イ】、【相違点ロ】及び上記「2.本件考案2について」において示した【相違点ハ】と同様の一致点及び相違点が認められる他に、以下の相違点ニが認められる。
【相違点ニ】
本件考案3では、 「サブ組立装置(10)を前車軸(FA)と後車軸(RA)とのほぼ中間に配設した」のに対し、引用例考案では、それが明らかでない点。
そこで、上記相違点ニについて検討する。
・相違点ニについて
上記相違点ニに係る本件考案3の「サブ組立装置(10)を前車軸(FA)と後車軸(RA)とのほぼ中間に配設した」なる構成において、サブ組立装置と前後車軸との位置関係が、詳細な説明の欄においてサブ組立装置を構成する各コンポーネントに対して具体的に定義されていないこと、図面の記載(第1図参照)が模式的であって、実際の部品スケールでの配置関係の比較ができないこと、サブ組立装置が形状の異なる各コンポーネントの組立品であってかなりの凹凸が予想されること、及び車両に占めるサブ組立装置の割合が比較的大きいものであること等の理由から、直ちにサブ組立装置の各コンポーネントの全てが両車軸の中間に配置される関係にあるものと解することはできないが、実用新案登録明細書の「HSTモータ及びブレーキが後車軸側に装着されているので着脱性が悪く、またブレーキのメインテナンス(保守、整備)がやりにくい。」(登録公報3欄21?24行)、「(3)ブレーキ6が車体中央部にあるので作業空間が広く、ブレーキのメンテナンスがやり易い。」(同公報4欄27?28行)、及び「作業空間が広いのでブレーキのメンテナンスが容易」(同公報4欄35?36行)とある記載からみて、その構成の技術的意義は、少なくともサブ組立装置のコンポーネントの一つと認められるブレーキを、車軸若しくは車輪側から離れており、作業空間が確保できる車体中央部に配置することでメンテナンスが容易となる程度の意味と解することができる。
そうだとすると、甲第1号証の第11頁第10?13行の記載「(40)は、ミッションケース(4)の上部に装着したシート、(41)は、シート(40)の前方に配置した操縦ハンドルである。」、及び第4図の記載からみて、引用例考案においては、少なくとも前方にHSTモータが取り付けられると共にブレーキの装着が考慮されるドライブ軸5(本件考案1の出力軸に相当)が取り付けられるミッションケース4(本件考案1のトランスファーケースに相当)が、車体のほぼ中央に配置されるシートの下部に配置されているといえるから、引用例考案において、ドライブ軸にブレーキが装着された場合には、本件考案3の上記構成に係る技術的意義の解釈の限りにおいて、甲第1号証に記載の各コンポーネントの配置関係と本件考案3のようにサブ組立装置を配置したものとの間に有意の差は認めることができない。
また、一般に、産業車両においては、エンジン、変速機等の配置は、車両の全体構造、作業機及びキャビンの配置等の全体のバランスを考慮して、適宜に配置されるべきものであって、しかも、引用例考案において、各コンポーネントを車体のほぼ中央に配置できない特段の事情も見出せないから、結局、エンジンを含むHST等の各コンポーネントを本件考案3に係る上記相違点ニの構成とすることは、当業者が適宜なし得た設計事項と認められる。
してみると、上記相違点ニは格別のものと認めることはできない。
また、相違点イ?ハについても上述のとおり格別のものとは認められないから、本件考案3は、引用例考案及び周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

VI.むすび
以上のとおりであるから、本件考案1ないし3は、引用例考案及び周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-12-27 
結審通知日 2001-01-16 
審決日 2001-01-30 
出願番号 実願平2-121200 
審決分類 U 1 112・ 121- Z (B60K)
最終処分 成立    
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 酒井 進
和田 雄二
登録日 1997-04-25 
登録番号 実用新案登録第2541717号(U2541717) 
考案の名称 静油圧駆動車  
代理人 宮川 貞二  
代理人 板谷 康夫  

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