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審決分類 審判 全部申し立て   F16K
審判 全部申し立て   F16K
管理番号 1039515
異議申立番号 異議1999-71617  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-26 
確定日 2001-04-26 
異議申立件数
事件の表示 登録第2583766号「パイロット形電磁弁」の実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2583766号の実用新案登録を取り消す。
理由 1.[手続の経緯]
本件実用新案登録第2583766号(以下、「本件登録」という)は、平成4年5月29日に出願された実願平4-43243号をもとの出願として、平成8年5月28日付で、平成5年法律第26号による改正前の実用新案法第9条第1項で準用する、特許法第44条第1項の規定による新たな実用新案登録出願(実願平8-5642号、以下、「本件出願」という)としたものに係り、平成10年8月14日に設定登録され、その後、表記登録異議申立人より登録異議の申立があったので、当該申立の理由について検討の上、当審より、平成12年3月28日付で取消理由を通知したが、これに対しては実用新案権者より登録異議意見書が提出されている。

2.[本件登録考案]
本件登録異議の申立に係る考案は、登録明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
【請求項1】「供給ポート、出力ポート、排出ポート及びこれらのポートが開口する弁孔が開設された弁ボディと、上記弁孔内に摺動自在に配設されたメイン流体切換用の主弁体と、該主弁体の軸方向両側に配設された第1、第2ピストンとを有し、第1ピストンが第2ピストンよりも大径をなしていて、それらのピストンに対するパイロット流体圧の作用により主弁体を切り換える主弁;
第1及び第2のソレノイド機構を備え、これらのソレノイド機構の作用によりパイロット流体圧をそれぞれ上記第1ピストンと第2ピストンとに個別に作用させる第1及び第2のパイロット弁からなるパイロット弁部;
第1及び第2のパイロット弁に対応させて設けられた、手動操作でパイロット流体圧を第1ピストンまたは第2ピストンに作用させるための手動切換装置;
を有することを特徴とするパイロット形電磁弁。」(以下、「本件考案」という)

3.[出願日の認定]
本件登録に係る明細書中の【0002】?【0005】、【0021】?【0024】等の記載によれば、上記本件考案の構成によって解決しようとする技術的課題及び作用効果は、「パイロット弁を2つ備えたダブルソレノイド形電磁弁を、1つのパイロット弁によりシングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用できる」ようにするというものである。
そうすると、上記本件考案の「第1ピストンが第2ピストンよりも大径」をなすという構成は、単に二つのピストンの径に大小の差があるというにとどまらず、「シングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用」できるように、「第1ピストン18と第2ピストン19の両方にパイロット流体圧が作用している状態」では、「主弁体12が第1ピストン18に押されて右方向に移動」する程度の径の差がある構成を意味することは明らかである。ただし、このようなピストン径の差に係る構成の裏付けをなす、本件考案の課題や作用効果については、上記1.で指摘した、もとの出願(実願平4-43243号)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載がなく、当該もとの出願の手続過程において、平成8年5月28日付の手続補正によって、初めて加入された事項である。
一方、当該もとの出願については、平成10年4月17日に、実用新案の設定登録がなされたが、これに対する登録異議申立事件(平成10年異議第76273号)において、上記平成8年5月28日付の手続補正が、明細書の要旨を変更するものであるとして、平成5年(法律第26号)改正前の実用新案法第9条で準用される、同じく改正前の特許法第40条の規定を適用して、上記手続補正をした日に実用新案登録出願がされたものとみなしたうえで、当該実用新案登録を取消すべき旨の決定がされている。更に、この取消決定に対しては、この決定を不服として、当該決定の取消を請求の趣旨とする訴え(平成11年(行ケ)第302号)が提起されたが、上記要旨の変更に伴う出願日の認定に関する判断に誤りはないとして、当該請求を棄却する旨の判決が平成12年6月29日付でされている。
そうすると、本件登録に係る実用新案登録出願についても、もとの出願の場合と同様に、上記手続補正をした平成8年5月28日に出願されたものとみなすべきである。
なお、実用新案権者は、出願日の認定に係る明細書の要旨変更の判断に関して、平成12年6月6日付の登録異議意見書において、もとの出願の願書に添付した図面には、第1ピストンが第2ピストンより大径であることが明示されていて、第1ピストンと第2ピストンの両方にパイロット流体圧が作用している状態では、主弁体が第1ピストンに押されて移動することは当業者にとって自明であるし、特許庁編の審査基準によれば、「当業者において自明な事項」は、「記載した事項の範囲内」とみてよいとされている旨の主張をしている。
しかし、上記の判決でも指摘されているように、図面のみから、明細書に記載がなくかつ図面上にも明確な記載のない事項について技術的な意味を読み取ることは原則としてできない以上、上記ピストンの作用に関する事項が当業者にとって自明ということはできないから、審査基準の適用の可否を論じるまでには至らず、上記主張は採用できない。

4.[引用刊行物とその記載]
当審より通知した、平成12年3月28日付の取消理由通知で引用された刊行物は、実開平5-96660号公報(甲第1号証、以下、「引用例1」という)、及び特開平7-198054号公報(甲第10号証、以下「引用例2」という)であって、これらの刊行物は、いずれも、上記3.で本件登録に係る実用新案登録出願の出願日とみなされる日よりも前に頒布されたものである。
上記の引用例1には、図1及び図2と共に、次の記載がある。
「複数のポート及びこれらのポートが開口する軸方向の弁孔が開設された弁ボディと、該弁ボディの軸方向両側に配設された第1、第2ピストン収納箱と、これらのピストン収納箱に摺動可能に挿入された第1、第2ピストンと、上記弁孔に摺動可能に挿入された主弁体とを有し、第1、第2ピストンに作用するパイロット流体圧により主弁体を駆動して、複数のポート間の流体の流れ方向を切換える主弁、
並びに上記第1ピストン収納箱の軸方向一側に設置された第1、第2パイロット弁部を有するパイロット弁ボディと、上下方向に配設された第1、第2ソレノイドとを備え、該第1、第2ソレノイドへの通電及びその解除により上記第1、第2ピストン収容箱に個別に連通する第1、第2パイロット出力流路にパイロット流体を給排するパイロット電磁弁、
を備えたダブルソレノイド形電磁弁において、
上記主弁に供給流体を第1、第2パイロット弁部に供給するためのパイロット供給流路を設け、
上記パイロット弁ボディに、上方からの押圧により第1パイロット弁部を動作させて第1パイロット出力流路にパイロット流体を出力させる第1手動操作装置を設け、
上記第1ピストン収納箱に、上方からの押圧により上記パイロット供給流路を第2パイロット出力流路に連通させる第2手動操作装置を設けた、
ことを特徴とするダブルソレノイド形電磁弁における手動操作装置。」(第2ページ、【実用新案登録請求の範囲】の欄)
次に、上記の引用例2には、「電磁弁」の構成に関して、次の記載がある。
「アクチュエータの種類やその制御の方式等に応じて、シングルソレノイド電磁弁とダブルソレノイド電磁弁との何れかが選択されることになるが、アクチュエータの変更や制御方式の変更等の仕様変更がなされてシングルソレノイド電磁弁つまり自己復帰型の電磁弁とダブルソレノイド電磁弁つまり自己保持型の電磁弁とが交換されることがある。」「本発明の目的は、電磁弁自体を交換することなく、自己復帰型の電磁弁と自己保持型の電磁弁との何れかに容易に変更し得る電磁弁を提供することにある。」(【0005】、【0007】)
「弁軸17の一端つまり右端には、図3に示すように、大径ピストン21が設けられており、他端にはこの大径ピストン21よりも径が小さい小径ピストン22が設けられている。・・・大径ピストン21の受圧面積は小径ピストン22の受圧面積の2倍に設定されている。大径ピストン21はパイロット部13に形成された大径圧力室23に収容され、小径ピストン22はパイロット部11に形成された小径圧力室24に収容されている。」(【0020】)
「図3は電磁弁がシングルソレノイド型として使用された場合を示す図であり、・・・第1ソレノイド27のコイル部27fに電流が供給されていない状態では、小径圧力室24に供給される流体の圧力により、弁軸17は図2に示す位置となり、・・・一方、第1ソレノイド27のコイル部27fに電流が供給されると、・・・大径圧力室23に給気ポートPからの流体が供給される。大径ピストン21の受圧面積は小径ピストン22の受圧面積の2倍に設定されているので、小径圧力室24内に流体が供給されていても、大径圧力室23内に供給された流体によって、弁軸17は図2に示される位置よりも左側に移動する。」(【0038】?【0039】)
「次に、電磁弁をそのままダブルソレノイド電磁弁として使用する場合には、・・・第2ソレノイド28のコイル部28fに電力を供給し得る状態に設定する。」(【0040】)

5.[考案の対比]
引用例1の図1及び図2の記載と電磁弁に関する技術常識とを参酌すると、引用例1記載の、上記「複数のポート」には、「供給ポート、出力ポート、排出ポート」に相当するものが含まれることは明らかである。また、引用例1記載の「第1、第2ソレノイドへの通電及びその解除により上記第1、第2ピストン収容箱に個別に連通する第1、第2パイロット出力流路にパイロット流体を給排するパイロット電磁弁」は、本件考案の「第1及び第2のソレノイド機構を備え、これらのソレノイド機構の作用によりパイロット流体圧をそれぞれ上記第1ピストンと第2ピストンとに個別に作用させる第1及び第2のパイロット弁からなるパイロット弁部」に相当するし、同様に、第1及び第2の「手動操作装置」は、第1及び第2の「手動切換装置」に相当している。
したがって、本件考案と引用例1記載の考案とは、「供給ポート、出力ポート、排出ポート及びこれらのポートが開口する弁孔が開設された弁ボディと、上記弁孔内に摺動自在に配設されたメイン流体切換用の主弁体と、該主弁体の軸方向両側に配設された第1、第2ピストンとを有し、それらのピストンに対するパイロット流体圧の作用により主弁体を切り換える主弁;
第1及び第2のソレノイド機構を備え、これらのソレノイド機構の作用によりパイロット流体圧をそれぞれ上記第1ピストンと第2ピストンとに個別に作用させる第1及び第2のパイロット弁からなるパイロット弁部;
第1及び第2のパイロット弁に対応させて設けられた、手動操作でパイロット流体圧を第1ピストンまたは第2ピストンに作用させるための手動切換装置;
を有するパイロット形電磁弁」である点では一致している。
しかし、本件考案の「第1ピストンが第2ピストンよりも大径をなしていて」という構成についてみると、引用例1記載の図1及び図2で、第1ピストンが第2ピストンより大きく描かれている如くにみえるものの、各ピストンの径の大小についての文言上の言及や、上記3.で指摘した本件考案の課題や作用効果についての言及は全くないから、結局、本件考案の上記ピストン径に関する構成については、引用例1に言及がない点で、本件考案と引用例1記載の考案とは相違しているといえる。

6.[相違点についての判断]
そこで、この相違点について検討すると、引用例2には、上記のとおり、「パイロット弁を2つ備えたダブルソレノイド形電磁弁を、1つのパイロット弁によりシングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用できる」ようにするという技術課題が実質上示されていると共に、そのための構成として、「大径圧力室23」に「大径ピストン21」を、これよりも径が小さい「小径圧力室24」に「小径ピストン22」をそれぞれ設け、「小径圧力室24内に流体が供給されていても、大径圧力室23内に供給された流体によって、弁軸17は図2に示される位置よりも左側に移動する」ようにした構成も開示されている。
そして、上記の技術課題が公知である以上、引用例1記載のパイロット形電磁弁に関して、引用例2記載の上記構成を採用して、本件考案のようにすることは、当業者であれば、必要に応じて極めて容易にできる設計事項といえる。
したがって、本件考案は、引用例1及び引用例2に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたもので、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができないものである。

7.[むすび]
以上のとおり、本件登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して受けたことになるから、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用される、特許法第114条第2項の規定により取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2000-07-25 
出願番号 実願平8-5642 
審決分類 U 1 651・ 121- Z (F16K)
U 1 651・ 03- Z (F16K)
最終処分 取消    
前審関与審査官 豊原 邦雄鳥居 稔安井 寿儀  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 清水 英雄
鈴木 久雄
登録日 1998-08-14 
登録番号 実用新案登録第2583766号(U2583766) 
権利者 エスエムシー株式会社
東京都港区新橋1丁目16番4号
考案の名称 パイロット形電磁弁  
代理人 林 宏  
代理人 筒井 大和  
代理人 鷹野 寧  
代理人 内山 正雄  
代理人 小塚 善高  

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