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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない E04D
管理番号 1041545
審判番号 審判1997-486  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-01-09 
確定日 2001-06-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第1995858号「横葺き用屋根板」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成 9年12月26日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成10(行ケ)年第0069号平成11年6月8日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件考案
本件登録第1995858号考案(以下、「本件考案」という。)は、昭和57年5月7日に出願した実願昭57-65713号の一部を昭和63年6月10日に新たな実用新案登録出願(実願昭63-76380号)として出願されたものであって、平成2年9月14日に実公平2ー34327号公報として出願公告され、平成5年12月15日に設定の登録がされたものである。そして、本件考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの
「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板において、上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部を形成すると共に、前記下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる横葺き用屋根板。」であると認める。

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件考案の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、
甲第1号証の1 実公平2-34327号公報、
甲第1号証の2 平成3年7月19日付手続補正書、
甲第1号証の3 平成4年8月7日付手続補正書、
甲第2号証 実願昭55-108287号(実開昭57-324 30号)のマイクロフイルム、
甲第3号証 実公昭56-48812号公報、
甲第4号証 実願昭53-74652号(実開昭54-1770 30号)のマイクロフイルム、
甲第5号証 「意見書」(本件実用新案の原出願の出願中に提出 された昭和63年6月10日付の意見書)、
甲第6号証 実公昭63-46577号公報(本件実用新案の原 出願の公告公報)、
を提出し、
本件考案は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証乃至甲第4号証に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができた考案であるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案に該当する。従って、本件実用新案登録は無効とすべきものであると主張している(以下、「理由1」とする。)。
さらに、理由補充書(平成11年10月8日提出)において、
甲第7号証 意匠登録第325017号の類似1の意匠公報、
甲第8号証 実願昭53-134376号(実開昭55-502 29号)のマイクロフイルム、
甲第9号証 実願昭55-108288号(実開昭57-324 27号)のマイクロフイルム、
甲第10号証 実開昭56-74114号公報、
甲第11号証 実開昭57-68830号公報、
を提出し、
本件考案は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である甲第7号証と、甲第2号証及び甲第8?11号証に記載された各考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができた考案であるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案に該当する。従って、本件実用新案登録は無効とすべきものであると主張している(以下、「理由2」とする。)。

2.被請求人の主張
(1)理由1に対して
甲第3号証には、本件考案との関係において、「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板」が記載されており、屋根板の基本構成において両者共通している。しかし、本件考案は上記の基本構成を備える屋根板において、その前端の係止部と後端の係合部の構成について、「上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部を形成すると共に、前記下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる」ものとしたのに対し、甲第3号証には、その屋根板前端の係止部と後端の係合部とを上記の如く構成していることの記載はない。
請求人は、甲第3号証に記載の屋根板は、係合部先端に「折返部分」が設けられていない点、並びに係止部の下面部に「山状に屈曲する部分」が設けられていない点以外、本件考案と同じである旨主張しているが、およそ横葺き用屋根板というものは、屋根面の下位にある屋根板後端の係合部に屋根面の上位にある屋根板前端の係止部を嵌合させることによって順次葺成されるものであるがゆえに、一枚の屋根板前端の係止部と後端の係合部とは相互に嵌合されるべき対応関係を有しているのである。すなわち、係止部は特定構造の係合部と、係合部は侍定構造の係止部と相互に嵌合され、各々の構造が有機的に関係し合うことによって初めて所期の目的を達成するべく構成されているのであって、このような係止部と係合部との一対一の有機的な対応関係を無視し、その構成を細かに分離分断し、その分断された一部の構成部分のみを比較することは無意味なことである。
甲第3号証における係止部3Aは「折返部分」を持たない係合部3Bとの対応関係で嵌合されることを前提として構成されているにすぎず、一方の係合部3Bは「山状に屈曲する部分」を持たない係止部3Aとの対応関係で嵌合されることを前提として構成されているにすぎないことは明白であるから、本来、甲第3号証は本件考案における「係止部」の構成を満足していないのみならず、「係合部」の構成をも満足していないものといわざるを得ず、結局、本件考案と甲第3号証に記載の屋根板とは、その前提となる屋根板の基本構成以外、何ら共通するところはないものというべきである。よって、本件考案と甲第3号証に記載の屋根板とは、係合部先端に「折返部分」が設けられていない点、並びに係止部の下面部に「山状に屈曲する部分」が設けられていない点以外、本件考案と同じである旨の請求人の主張は誤りである。
又、本件考案における係合部の「折返部分」は、「水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ」た「下り傾斜部分の下端部分」に設けられるものであり、しかも、それは「係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端綾が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない」ものである。ところが、甲第2号証の第5図記載の屋根板における折返部分10a は、甲第2号証中にはその構成に関する具体的記述はなく、単に図面から見て取れる程度のものであるが、第5図を見る限りにおいて、明らかに「水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し」ているものではない。そして、本件考案は、これにより、強風時や荷重が加わった場合でも先端の切断端縁が係止部の内面に接触することなく、塗装被膜が剥離して金属素面が露出することのない効果を意図するものであるが、甲第2号証記載の折返部分10a は、このような効果を狙って折返し形成されたものであることを窺わせる程度の記載もない。尚、請求人は、係合部の先端を水平に折り返すこと自体は、甲第4号証にも見られるとおり、本件実用新案出願前にすでに知られていたことである旨主張するが、甲第4号証記載の屋根板は、その第1図及び第2図の記載から明らかなように、平板状の金属板の前後両端部にそれぞれ係止部と係合部を形成したものであって、「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板」ではない。従って、甲第4号証記載の屋根板は、上記「水平部」と「傾斜部」のうちの「水平部に対しほぼ平行に屈曲して」なる本件考案の「折返部分」の構成を有していない。
以上要するに、請求人の提示する甲第2、3、4号証のいずれにも、本件考案の「上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部を形成すると共に、前記下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる」との構成についての記載がないから、本件考案は、甲第2、3、4号証の記載に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

(2)理由2に対して
本件考案は、特に、係止部の下面部が山状に屈曲する部分と水平部に対しほぼ平行に屈曲した折返部分との関連上より、風や雨、雪等により屋根板に正圧及び負圧が作用した場合でも、折返部材のその先端の切断端縁が係止部の内面に接触しないようにする点が特徴である。ここで、本件考案と甲第7号証記載の建築用板材との対比において検討すると、本件考案の主要旨の一つである下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる点が、甲第7号証記載の建築用板材には記載されていない。
そして、甲第9号証及び甲第2号証においても、係止部の下面部が山状に屈曲する部分を設け、それとの関連の基に無風状態で屋根板に正圧,負圧が作用しない場合には接触しないが、風や雨,雪等により屋根板に正圧及び負圧が作用した場合には、係止部の山状部分が折返部分に当接して結合強度を高め、特に下面部の山状部分が弾性的に作用するので係止部と係合部との結合を強固に維持することができるようにした、また、強風で屋根板が浮き上がったり、作業員が屋根面を歩いて荷重が加わった場合、下り傾斜部分の下端部分がその係止部内面に接触するだけで先端の切断端縁がその係止部内面に接触せず、よって塗装被膜が剥離して金属素面が露出して電飾作用を生ずることがないようにした、水平部に対しほぼ平行に屈曲する折返部分についてが記載されていないばかりでなく、示唆もされていない。
また、甲第8号証、甲第10号証、及び甲第11号証においても、本件考案のように強風で屋根板が浮き上がったり、作業員が屋根面を歩いて荷重が加わった場合、下り傾斜部分の下端部分が係止部内面に接触するだけで、先端の切断端縁がその係止部内面に接触しないように折返部分を構成し、塗装被膜の剥離をさせず電飾作用を起さないようにしたものが記載されていないばかりでなく、示唆さえもされておらず、この点が公知又は周知の事項でも全くない。
以上の次第であるから、本件考案は、甲第7号証、甲第9号証、及び甲第2号証記載のものに基づいて、並びに甲第8号証、甲第10号証、及び甲第11号証記載のものに基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものでない。

第3 当審での検討
1.甲各号証の記載事項
(1)甲第2号証 (実願昭55-108287号(実開昭57-32430号)のマイクロフイルム)
甲第2号証には、「屋根等の面材」(第2頁第3行)、「上縁に…係合部3を、下縁に…係止部4を設けた面材5」(第2頁第8行?第11行)、「面材8」(第4頁第15行)、「その上の段に敷設される他の面材8の下縁係止部9の下側湾曲部9aを弾性的に挿し込み係止させ、」(第6頁第5行?第7行)が記載され、図面の第1図には面材5が、第2図には係止部4と面材5及びこれらの係止状態を示す断面図が、第3図には面材8が、第5図には下側湾曲部9aが記載されている。

(2)甲第3号証 (実公昭56-48812号公報)
甲第3号証には、「この建造物の面施工法は一端から盛上つて他端が開放する爪部材1を一定間隔に設けた支持材2を、爪部材1が横方向に一致するように平行に設置し、一側縁に係止部3Aを、他側縁に係合部3Bを各々設けた面板3を上記支持材2に直交させ、係止部を隣り合う面板3の係合部3Bに係止すると共に係合部3Bを支持材2の爪部材1に嵌合させ、爪部材1を叩くことによって係合部3Bを止着し乍ら施工する」(第1頁左欄第35行?右欄第6行)、「第3図及び第4図は本案の第1実施例に係る面板の断面形状を示す全体断面図及び面板の組合せ部分を示す要部断面図である。」(第2頁左欄第3行?第5行)、「面板3の他端に形成された係合部3Bは、その断面がゆるやかな丸みを持たされて大小2個の連続した山形状になるように受部3Eを屈曲形成し、該受部3Eの先端縁に間隙3Gを持たされて成る。」(第2頁左欄第13行?第17行)、「次に、第5図は本考案の他の実施例に係る面板の組合せ部分を示す要部断面図である。この実施例では面板3の係合部3Bは丸みを持たせずに断面が大小2個の山形状となるように屈曲形成したものであり、受部3Eの抑え力を増大できると共に第4図で示した実施例の場合と同様に毛細管遮断を二重に図ることが出来る。」(第2頁左欄第34行?右欄第2行)が記載されている。

(3)甲第4号証 (実願昭53-74652号(実開昭54-177030号)のマイクロフイルム)
甲第4号証には、「本考案の金属屋根板は…金属板(3)の前後両端部を夫々長手方向全長に亘って折り返して形成され…金属板(3)前端を全長に亘って下方へ略U字状に折り返してできる嵌合部(1)を第2図に示すように下段に位置する金属板(3)後端を全長に亘って上方へ折り返してできる被嵌合部(2)に被嵌して連結される…被嵌合部(2)を形成する上横片(4)の略中央は長手方向に亘って上方に突曲して下面に凹所(5)を形成してあり、更に上横片(4)の先端には下方へ略U字状に折り返してできる係止片(9)が長手方向の全長に亘って設けてある。」(第2頁第13行?第3頁第8行)が記載され、第1図及び第2図にはその横葺き用屋根板が記載されている。

(4)甲第7号証 (意匠登録第325017号の類似1の意匠公報)
甲第7号証には、「建築用板材、本物品は屋根葺に使用するものであって、縦葺、横葺いずれにも使用できる。」との記載、及び板材の図面が記載されている。

(5)甲第8号証 (実願昭53-134376号(実開昭55-50229号)のマイクロフイルム)
甲第8号証には、「金属屋根板(1)の棟側端部を軒側へ折り返して折り返し片(2)が延出してあり、この折り返し片(2)は断面山形状に中央部を上方へ突曲してある。また折り返し片(2)の先端には先端片(3)が斜下方へ延出してある。金属屋根板(1)の軒側端部には鉛直方向に垂下片(4)が垂下してあり、垂下片(4)の下端より挿入片(5)が棟方向へ延出してある。垂下片(4)の先端には上方へ突曲する突曲部(7)が設けてある。」(第2頁第17行?第3頁第6行)、「雨水の吹き込みは折り返し片(2)の先端の先端片(3)にても2重にせき止めることができるものである。尚、上記実施例では挿入片(5)先部の突曲部(7)にて水切り凹部(10)を形成してこの部分においても毛細管現象が遮断されるようにしてある。第4図は水切り凹部(10)を挿入片(5)を山形に折曲して形成したものである。」(第4頁第15行?第5頁第1行)、「(1)は金属屋根板、(2)は折り返し片、(3)は先端片、(4)は垂下片、(5)は挿入片、(6)は水切り空所である。」(第5頁第11行?第13行)が記載されている。

(6)甲第9号証 (実願昭55-108288号(実開昭57-32427号)のマイクロフイルム)
甲第9号証には、「6は屋根等の支持材1に固着される吊子で、金属製の板材を加工してなり、その一端には、上記支持材1上面に略直交して敷設される面材5の上縁係合部3に嵌合する形状の爪部7が設けてある。この爪部7は施工時、面材5の上縁係合部3に上側から嵌合される部分であるが、その際引っ掛りがよいように好ましくは先端をさらに内側に曲げる等して止着部7aとし、上縁係合部3の側端縁3aに引っ掛かるようにするとよい。」(第3頁第20行?第4頁第9行)が記載されている。

(7)甲第10号証 (実開昭56-74114号公報)
甲第10号証には、「1…係止部、2…係合部、3…平面部、4…傾斜面部、5…屈曲部、7…立上り面部、8…山部、9…挟持片部、10…吊子差込み用溝、14…立下り面部、15…差込み片部。」(第1頁右欄第9行?第12行)が、図面には面構造材が記載されている。

(8)甲第11号証 (実開昭57-68830号公報)
甲第11号証には、「金属屋根材の接続構造」が記載されている。

2.理由1について
(1)本件考案と甲第4号証に記載された考案との対比
そこで、まず、本件考案と甲第4号証に記載された考案とを対比すると、甲第4号証に記載された考案では、屋根板の嵌合状態において、係止片(9)の端縁と棟側の嵌合部(1)及び上記嵌合部(1)とその下方の金属板(3)との間にそれぞれ隙間があるかのように図示されていることが認められるが、これは、実際には、この嵌合状態においては、係止片(9)の端縁と棟側の屋根板の嵌合部(1)及び嵌合部(1)とその下方の金属板(3)は、積雪や強風に耐えられるようにそれぞれ面接触しあっているものと認められ、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、折返部分である係止片(9)の後端の切断端縁は棟側の屋根板の嵌合部の内面に接触しているものと認められる。又、上横片(4)、凹所(5)、係止片(9)の各内面と、金属板(3)の上面とでほぼ囲まれた箇所に空部があるとしても、嵌合状態においては、金属板(3)は嵌合部(1)と、嵌合部(1)は係止片(9)とそれぞれ接触して上記空部の中にあるから、上記空部は、非常に狭くなっており、毛細管現象により雨水が浸入するのを防げるほどの大きさがあるものとは認められない。
従って、本件考案と甲第4号証に記載された考案とでは「前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板において、上記係合部には、上端部分から前端側の下方に延びる部分を形成し、該下方に延びる部分の下端部分を水平部の上面と上端部分とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、上端部分及び下方に延びる部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する空部を形成すると共に、前記下方に延びる部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記空部の高さのほぼ中程に位置し、折返部分を設けてなる横葺き用屋根板。」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
本件考案では、屋根板の水平部の前端に緩い傾斜部を連続させたのに対し、甲第4号証に記載された考案においては、傾斜部がない点。
相違点2
本件考案では、係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設けているのに対し、甲第4号証に記載された考案においては、水平な板である点。
相違点3
本件考案では、その係合部において、上り傾斜部分、下り傾斜部分を形成し、下り傾斜部分は上り傾斜部分の上端部分から斜め下方に延びるように構成しているのに対し、甲第4号証に記載された考案においては、その上横片の略中央に長手方向に亘って上方に突曲して下面に凹所を形成している点。
相違点4
本件考案では、空部が水切用空部であるのに対し、甲第4号証に記載された考案においては、その空部が水切用であるかどうか明確でない点。
相違点5
本件考案では、その折返部分が、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しないのに対し、甲第4号証に記載された考案においては、その係止片(本件考案の「折返部分」)は棟側の嵌合部(同「係止部」)と、そして棟側の嵌合部(同「係止部」)は金属板(同「屋根板」)とそれぞれ面接触している点。

(2)相違点に対する判断
そこで、上記相違点1?5について検討する。
相違点1について
甲第2号証の面材5、8、甲第3号証の面板3に、それぞれ「屋根板の水平部の前端に緩い傾斜部を連続させた」点が記載されており、この点を甲第4号証に記載されたものに適用して本件考案におけるように構成するようなことは、格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし得た程度のことである。
相違点2について
甲第2号証の係止部4、9に、それぞれ「下面部には山状に屈曲する部分を設け」る点が記載されており、この点を甲第4号証に記載されたものに適用して本件考案におけるように構成するようなことは、格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし得た程度のことである。
相違点3について
甲第3号証の第2図において、係合部3Bは、屈曲形成した折返し片3Dと、該折返し片3Dの先端に形成した1個の山形状に屈曲形成した受部3Eとから成る構成が記載されており、その係合部において、上り傾斜部分、下り傾斜部分を形成し、下り傾斜部分は上り傾斜部分の上端部分から斜め下方に延びるように構成している点が開示されている。この構成を甲第4号証に記載されたものに適用して本件考案におけるように構成するようなことは、格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし得た程度のことである。
相違点4、5について
甲第2号証には、上縁係合部10の端に、側端縁10aが記載されているものの、この側端縁10aは吊子14の止着部15aが引っ掛かるための縁で、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは相違している。又、「より多くの空間部が形成されるため、雨水等が毛細管現象等により屋内側に浸透してくるのを有効に防止することができる。」(同明細書7頁6?9行)との記載があり、その空間部(空部)が水切用として機能する点が開示されているものの、その側端縁10aが、本件考案の折返部分におけるように、水切の作用効果を積極的に奏する構成とは認めることはできない。
甲第3号証においては、「受部3Eによる毛細管の遮断は一段階にしか行われず」(同公報2欄18、19行)、及び「2個の山形空間部による毛細管遮断を二重に図り、」(同公報2欄32、33行)との記載があり、同様に、その空間部(空部)が水切用として機能する点が開示されているものの、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に対応するものについて、何ら記載がない。
以上によると、相違点4における水切用空部について、甲第2及び3号証において、断片的に開示されていると認められなくはないが、本件考案においては、その折返部分と相まって、空部が水切用空部として効果的に機能することを考慮すると、甲第2、3号証によっても、上記相違点4、5が備えられていないばかりか、上記構成についての示唆すらもされていない。
そして、本件考案は、上記相違点4、5を備えていることにより、明細書に記載された「雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という、甲第2、3、4号証にはみられない、顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件考案は、甲第2、3、4号証に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。

3.理由2について
(1)本件考案と甲第7号証に記載された考案との対比
本件考案と甲第7号証に記載された考案とを対比すると、甲第7号証には、図面からみて、本件考案でいう屋根板1、水平部2、傾斜部3、係止部4、係合部5、下面部8、上り傾斜部部分11、上端部分12、下り傾斜部分13に相当する構成を備えた屋根葺に使用する建築用板材が記載されているものと認められる。
本件考案と甲第7号証に記載された考案を対比すると、両者は、「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板において、上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する空部を形成する横葺き用屋根板」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
本件考案では、空部が水切用空部であるのに対し、甲第7号証に記載された考案においては、その空部が水切用であるかどうか明確でない点。
相違点2
本件考案では、下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、水平部に対しほぼ平行に屈曲して水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなるのに対し、甲第7号証に記載された考案においては、折返部分を備えていない点。

(2)相違点に対する判断
そこで、上記相違点1、2について検討する。
甲第2号証には、上縁係合部10の端に、側端縁10aが記載されているものの、この側端縁10aは吊子14の止着部15aが引っ掛かるための縁で、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは、構成において明らかに相違している。又、「より多くの空間部が形成されるため、雨水等が毛細管現象等により屋内側に浸透してくるのを有効に防止することができる。」(同明細書7頁6?9行)との記載があり、その空間部(空部)が水切用として機能する点が開示されているものの、その側端縁10aが、本件考案の折返部分におけるように、水切の作用効果を積極的に奏する構成とは認めることはできない。
甲第8号証には、垂下片(4)、挿入片(5)、水切り空所(6)、折り返し片(2)、先端片(3)を備えた、金属屋根板接続装置が記載されており、その空所(空部)が水切り用として機能するとの記載があるものの、甲第8号証の先端片(3)は、折り返し片(2)の先端から斜下方へ延出してあり、さらに、図面の記載からは、先端片(3)の先端は、挿入片(5)と接触していると認められるので、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは、構成において明らかに相違している。
甲第9号証には、上縁係合部3、係止部4を備えた、建築用面材の固定構造が記載されているものの、甲第9号証の図面では、上縁係合部3の側端縁3aは係止部4とは接触していると認められ、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは、構成において明らかに相違している。
甲第10号証には、立上り面部7、山部8及び挟持片部9を有する係止部1、そして係合部2を備えた建築物の面構造材が記載されているが、その挟持片部の端部の折返部分が、棟側の面構造材の端部の内面とどのように配置構成されているのか、例えば、接触しないように構成されているのかどうか、不明である。請求人は、甲第10号証として公開実用新案公報を提出しているが、公開公報の記載(第1?3図等)だけでもってはこの点明確でない。そこで、甲第10号証に係る実用新案登録出願の全文明細書の記載を参照して検討するに、その明細書の記載によっても、はたして、その係止部1の挟持片部の端部の折返部分が、本件考案におけるような、「雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という水切の作用効果を奏するものであるとの明示の記載もされてなく、示唆もされていない。又、この種の技術分野における技術常識等を考慮しても、この軒側の屋根材の端部の折返部分が、本件考案における、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に相当し、上記の水切の作用効果を積極的に奏する構成とは、認めることはできない。
甲第11号証の第1図には、その軒側の屋根材の端部の折返部分が、棟側の屋根材の端部の内面に接触しないように構成した点が記載されているかのように見受けられる。請求人は、甲第11号証として公開実用新案公報を提出しているが、公開公報の記載(第1図等)だけでもってはこの点明確でない。そこで、甲第11号証に係る実用新案登録出願の全文明細書の記載を参照して検討するに、さきの甲第10号証においての検討と同様に、その明細書の記載によっても、はたして、その軒側の屋根材の端部の折返部分が、本件考案におけるような、「雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という水切の作用効果を奏するものであるとの明示の記載もされてなく、示唆もされていない。又、この種の技術分野における技術常識等を考慮しても、この軒側の屋根材の端部の折返部分が、本件考案における、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に相当し、上記の水切の作用効果を積極的に奏する構成とは、認めることはできない。
以上からみて、甲第2及び8号証においては、その空所なり空間部(空部)が水切用として機能するとの記載があり、相違点1について断片的に開示されていると認められなくはないが、本件考案においては、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しないその折返部分と相まって、空部が水切用空部として、効果的に機能するものと認められることを考慮すると、甲第2、8?11号証のいずれにも、上記相違点1,2が記載されていないばかりか、上記相違点1,2についての示唆もされていない。
本件考案は、上記相違点1,2を備えていることにより、明細書に記載された「雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という、甲第7号証と、甲第2号証及び甲第8?11号証にはみられない、顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件考案は、甲第7号証と、甲第2号証及び甲第8?11号証に記載された各考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由1及び2、そして提出した証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1997-12-12 
結審通知日 1997-12-19 
審決日 1997-12-26 
出願番号 実願昭63-76380 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡 千代子山田 忠夫  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 藤枝 洋
小野 忠悦
鈴木 公子
鈴木 憲子
登録日 1993-12-15 
登録番号 実用新案登録第1995858号(U1995858) 
考案の名称 横葺き用屋根板  
代理人 長南 満輝男  
代理人 早川 政名  
代理人 鈴木 秀雄  
代理人 細井 貞行  
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