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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない H01C
管理番号 1041547
審判番号 審判1996-8661  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1996-05-28 
確定日 1997-04-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第1981396号実用新案「固定抵抗器」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 [1]手続の経緯 ・本件考案の要旨
本件登録第1981396号実用新案(以下、本件登録実用新案という)は、昭和58年4月15日に出願され、出願公告(実公平1-9121号公報参照)後の平成5年8月27日に設定の登録がなされたものであり、その考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「(1) 内径および外径が大きい大径部と内径および外径が小さい小径部とを背中合せに有する一体成形された筒状の金属キャップを備え、その金属キャップの大径部内に抵抗素子を、前記小径部内に芯線を露呈させた被覆電線をそれぞれ別別に挿入し、前記金属キャップの大径部と抵抗素子および前記金属キャップの小径部と被覆電線の芯線部を圧接により接合して抵抗器本体を構成し、その抵抗器本体を、上面に開口部を有しかつ長手方向の両端面に前記開口部から中間部に亘って溝を設けた矩形のセラミックケースに挿入し、前記開口部を絶縁材料で封止するとともに、前記セラミックケースの両端面の溝を通して被覆電線を外部に引出した固定抵抗器。
(2) セラミックケースにおいて、開口部面と反対側の面の長手方向に端から端まで、凹状の溝を有するセラミックケースを用いた実用新案登録請求の範囲第1項記載の固定抵抗器。
(3) 多数個の抵抗器をその抵抗器に内蔵されるキャップを用いて、被覆電線により連続的に結線した実用新案登録請求の範囲第1項または第2項に記載の固定抵抗器。
(4) セラミックケースの開口部の長手方向壁の一部に凹状の切欠きを設けた実用新案登録請求の範囲第2項に記載の固定抵抗器。
なお、実用新案登録請求の範囲第1項記載の考案を以下、本件考案という。
[2]請求人の主張
これに対して請求人は、甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、本件登録実用新案は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、その登録は同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものであると主張している。
[3]被請求人の主張
一方被請求人は、請求人の主張に対し、請求人が提示した甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案は、本件登録実用新案の特徴とする新規な技術思想を何等開示ないし示唆するものではないから、請求人の主張は誤りである。
[4]証拠
(1)、そして、請求人の提出した本件考案の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(実願昭49-155861号(実開昭51-78935号)のマイクロフィルム)は、「筒形ヒューズ」の考案に関し、筒形端子2につき「1はガラス製の筒形例えば円筒状の保護管、2、2は筒形端子で、この筒形端子2、2は径大部3、3及びこれに連接する径小部4、4を一体に形成して成り、外周を電気的絶縁物5、5で被覆している。そして、前記筒形端子2、2は、その径大部3、3を前記保護管1の両端部外周に夫夫嵌合して接着等により固着している。6は可溶体としてのヒューズ線で、これは両端部を前記筒形端子2、2の径小部4、4の基端部側における開口部分に半田付けにより夫々固着し、以って両筒形端子2、2に電気的に接続している。7、7は前記筒形端子2、2に夫々接続されるリード線である。・・・まずリード線7、7の一端部の被覆を剥離して心線7a,7aを露出させ、各リード線7、7の一端部を各筒形端子2、2の径小部4、4内に夫々挿入し、然る後、圧着具(図示せず)にて各筒形端子2、2の径小部4、4をかしめ、 以て各リード線7、7を各径小部4、4従って筒形端子2、2に電気的且つ機械的(抜脱不能)に接続するものである。(公報第3頁第8行目?同第4頁第10行目)」と記載され、
(2)、同甲第2号証(実願昭47-28501号(実開昭48-105038号)のマイクロフィルム)は、「固定抵抗器」に関し、「本考案は一端に両リード線を通す溝又は穴を設けた部分と、凹部を持つ磁器筐体に、抵抗体素子の両端に嵌合されたリード端子の一方のリード線をコの字状に折り曲げて凹部に収容するので一方向に2本のリード線を取り出す他は全部磁器筐体内に納まる。収容後凹部間隙には耐熱性充填材を注入して成形されるので機械的、電気的に安定した一方向リード型固定抵抗器である。(公報第1頁第19行目?同第2頁第7行目)」と記載され、
(3)、同甲第3号証(米国特許第2053933号明細書)には、「電気ヒータ」に関し、「巻芯の上に抵抗線を巻き終わると、抵抗線の端部に適当なターミナル13がターミナルコネクタ部材14によって接続される。コネクタ部材14は、図示のように筒状の形状を有しており、その口径が段階上となっている。この口径は、抵抗巻線を巻いた巻芯の端部を受容する大きな口径部14aと、ターミナル13を受容する小さな口径部14bを備えている。各ターミナル13とヒータを組み立てるに当たって、ターミナルを取り付けるべき抵抗線が巻かれた巻芯の端部は、コネクタ部材14の中空部14aに挿入される。次にコネクタ部材の直径が縮小され、コネクタと巻線抵抗の終端部とが良好な機械的及び電気的接触を得られるようにプレスされる。この圧縮段階は、コネクタをローリング又はスエージングにより行うことが出来る。(公報第2頁左欄第13?35行目)」及び「その後、ターミナル13は、コネクタ部材に設けられた中空部14b内に挿入され、この部分は、ターミナルがコネクタと確実に接続されるようにスクエアダイを用いてスエージされる。(公報第2頁左欄第52?56行目)」と記載されている。
[5]本件考案と甲第2号証のものとの対比
(1)、本件考案の明細書には、目的に関し、「従来、固定抵抗器に被覆電線を接続して使用する場合、第1図のように一般の固定抵抗器1より外部に出ている端子2に、被覆電線3を結線した端子2に適合挿入できる接続金具4を介して、接続している。ところが、この接続部分の絶縁性や耐湿性を確保するため、第2図のように接続部分に絶縁チューブ5を被せ、さらにその上に耐湿性保護材料6を塗布しており、この接続作業に多大な費用を要している。
本考案は、前記従来の欠点を除去するものであり、抵抗素子は従来の技術が使用でき、しかも簡単な構成で抵抗素子と被覆電線を接続することができ、さらに抵抗素子と被覆電線の接続部がセラミックケースの中に絶縁保護されているので、外部で接続作業をする不便を改善し、併せて安価に固定抵抗器と被覆電線が接続できるようにすることを目的としている。(平成2年1月19日付け手続補正書第2頁第17行目?同第3頁第14行目)」と記載され、その効果につき、「本考案の固定抵抗器によれば、大小2つの外径、内径を背中合わせにもつ金属キャップを介して抵抗素子と被覆電線が接続されているので従来のような、接続金具を用いる必要がない。(平成2年1月19日付け手続補正書第6頁第2?6行日)」及び「また、このようなキャップを介して抵抗素子と被覆電線が接続されるに当たり、それぞれの径の圧接におけるつぶし代を任意に選べ相互の圧接におけるひずみや引けの影響を抑えることができ、キャップの段差部を基準線として圧接時の位置合わせができる。(平成3年6月19日付け手続補正書第2頁第4?9行目)」と記載されている。
なお、「さらに、キャップの大径部と小径部との間に大小の段差が設けられることになるので、セラミックケース内部に凸部または前記キャップと逆の段差を設けることにより、前記キャップの段差部とによって、抵抗素子が所定の位置に確実に収納でき、これにより活電部であるキャップの端部とセラミックケースの端部との間の必要な絶縁距離を正確に保つことができる。」の事項は、後述する理由により本件特有の効果として認めることが出来ないので省略した。
(2)、これら記載に基づけば、本件考案は、抵抗素子と被覆電線の接続時の技術的問題を解決するという課題のもと、実用新案登録請求の範囲第1項記載の構成を採用し、前記特有の効果を奏するものであり、本件考案と比較するための近接技術としては、抵抗体1とリード線3とを接続する端子2を有し、磁器筐体5内に充填剤によって封止される技術を開示する甲第2号証記載のものが他のものに比べ適正であるため、本件考案と甲第2号証記載のものとを比較する。
(3)、甲第2号証記載の端子2については、「抵抗体1の両端に嵌合される」としか記載されていないが、図面の形状及び端子としての機能を併せみれば、該端子2は、具体的形状は異なるも本件考案の「筒状の金属キャップ」に相当し、また磁器筐体5は、特に第1図(A)及び(B)、さらには第2図(B)によれば、本件考案の「上面に開口部を有しかつ長手方向の両端面に前記開口部から中間部に亘って溝を設けた矩形のセラミックケース」に相当するため、両者は、「筒状の金属キャップを備えた抵抗器本体からなり、その抵抗器本体を、上面に開口部を有しかつ長手方向の端面に前記開口部から中間部に亘って溝を設けた矩形のセラミックケースに挿入し、前記開口部を絶縁材料で封止するとともに、前記セラミックケースの端面の溝を通して電線を外部に引出した固定抵抗器。」の点で一致し、次の2点で相違する。
▲1▼金属キャップの具体的形状及びその接合手段につき、本件考案は、「内径および外径が大きい大径部と内径および外径が小さい小径部とを背中合せに有する一体成形された筒状の金属キャップを備え、その金属キャップの大径部内に抵抗素子を、前記小径部内に芯線を露呈させた被覆電線をそれぞれ別別に挿入し、前記金属キャップの大径部と抵抗素子および前記金属キャップの小径部と被覆電線の芯線部を圧接により接合して抵抗器本体を構成した」という事項を有するのに対し、甲第2号証記載のものは、筒形状であり、抵抗体1の両端に嵌合されるとしか記載されていない点。
▲2▼本件考案は、「セラミックケースの長手方向の両端面の溝を通して被覆電線を外部に引出して」いるのに対し、甲第2号証のものは、「セラミックケースの長手方向の一端面の溝を通してリード線を外部に引出して」いる点。
[6]本件考案と甲各号証との検討
(1)、一般に、ある発明の進歩性を、ある引用例に記載されたものに他の引用例に記載される技術を適用することによって判断する場合には、それぞれの引用例に記載される技術の関連性等、動機づけの有無が重要な要素となることは、広く知られた事項である(特許庁発行「特許・実用新案 審査基準」、第II部特許要件、第2章新規性進歩性、2、5進歩性の判断の手法、第12?13頁参照)。
(2)、そこで相違点1について検討すると、甲第3号証記載のものは、前記[4](3)記載のとおりであるところ、ターミナル13はリード線ではないが一種の導電部材であり、コネクタ部材14との圧接により電気的に導通されるという機能を奏するものであり、また一方、甲第2号証記載のリード線3も導電部材であると共に、端子2との間で導通状態にあることを踏まえると、2つの証拠間には、充分技術的関連性を有し、当業者にとって両者間の技術の転用を容易に推認し得るものである。してみると、甲第3号証記載のコネクタ部材14を甲第2号証記載の端子2に代えて用いることは、当業者にとってきわめて容易になし得るものということが出来る。しかしながら、前記転用をなしたとしても、甲第3号証記載のコネクタ部材14は、その外径が筒状で、同一外径をなすものであり、依然として本件考案の金属キャップとは、その外径形状において相違するものであり、本件考案は、その外径形状、即ち外径が大きい筒状の大径部と外径が小さい筒状の小径部とからなる形状を採用することにより、前記[5](1)で記載した特有の効果を奏しており、更にその明細書には明示はないが、本件考案は、外径がかなり小径でもよいようなリード線と、外径がリード線に比べればかなり大径でもよいような抵抗素子とを対象にするものであり、例えば外径が非常に小径なリード線と、外径がリード線に比べ非常に大径な抵抗素子を、外径が同一の金属キャップで接合するような場合には、抵抗素子部分の圧接については格別問題はないが、リード線部分の圧接には、その部分の肉厚がかなり厚くなり圧接が困難になり、時には不可能な事態をも招く恐れもあり、本件考案のような形状を採用することにより、そのような恐れをなくすることが出来るという技術的意義をも予測可能であることに鑑み、甲第2号証記載のものに甲第3号証記載のコネクタ部材14に関する技術を適用しても本件考案がきわめて容易に出来たとすることは出来ない。
(3)、次に甲第1号証記載のものを検討すると、甲第1号証記載のものは、前記[4](1)記載の通りであるところ、該甲第1号証記載の筒形端子2は、その形状において一見本件考案の金属キャップに似てはいるが、この筒形端子2は、小径部をリード線に圧接してなるも、大径部はガラス製保護管1に嵌着してなるものであり、且つ大径部は保護管1に対して圧接されるものでも、保護管1との問で電気的に導通されるものでもない。すなわち、筒形端子2を大径部及び小径部からなる図面通りの形状として捉えるならば、この筒形端子2は、リード線と導電部材とを接続するものではなく、さらには接合手段においても異なるものである以上、甲第2号.征記載の端子2或いは甲第3号証記載のコネクタ部材14と比べ動機づけとなり得る技術的関連性を認めることが出来ず、また他の動機づけとなる事項も認められないため、この筒形端子2を甲第2号証記載の端子2に代えて用いることは、当業者にとってきわめて容易になし得るとすることは出来ない。寧ろ甲第1号証記載の筒形端子2の形状を甲第2号証記載のものとの技術的関連性からみれば、ヒューズ線6が抵抗素子であり、且つその明細書に記載される「6は可溶体としてのヒューズ線で、これは両端部を前記筒形端子2、2の径小部4、4の基端部側における開口部分に半田付けにより夫々固着し、以って両筒形端子2、2に電気的に接続している。(公報第3頁第14?18行)」の事項に基づけば、ほぼ同一径からなる小径部分の形状としてとらえ、別言すれば、大径部分は単なる付属的なものとしてとらえるべきであり、該第1号証記載のものは、甲第3号証記載のものと類似のものにすぎないものである。そのため、甲第2号証記載の端子2に代えて甲第3号.征記載のコネクタ部材14を適用するに際して、甲第3号証記載のコネクタ部材14に甲第1号証記載の筒形端子2の形状に関する技術を適用して変更し、その変更した形状からなるコネクタ部材を更に適用したものにすぎないとする判断、又は甲第2号証記載の端子2に代えて、甲第1号証記載の筒形端子2を適用するに際して、該筒形端子2の大径部3に、甲第3号証記載のコネクタ部材14の大径部に採用される圧接技術を適用して変更し、その変更した筒形端子2を更に適用したものにすぎないとする判断は、共に採用することは出来ない。
即ち相違点1は、当業者にとってきわめて容易に推考できたとすることが出来ない。
そして、前記[5](1)で記載した目的及び効果の記載内容に照らし、相違点1についての構成は、本件考案の重要な要素をなすものであり、相違点2について検討するまでもなく充分進歩性を有するものである。
[7]本件公告後補正の問題点の主張に対して
請求人は、平成9年1月20日付け審判弁駁書において、平成2年1月19日付け手続補正書にて補正された効果についての記載中「さらに、キャップの大径部と小径部との間に大小の段差が設けられることになるので、セラミックケース内部に凸部または前記キャップと逆の段差を設けることにより、前記キャップの段差部とによって、抵抗素子が所定の位置に確実に収納でき、これにより活電部であるキャップの端部とセラミックケースの端部との間の必要な絶縁距離を正確に保つことができる。」とする事項は、願書に添付された明細書の要旨を変更するものであり、この補正がなされなかった考案について実用新案登録がなされたものとみなすべきと主張するので検討すると、前記効果に関する記載内容は、「セラミックケース内部に凸部またはキャップと逆の段差を設ける」という事項の存在を前提として述べられているものであり、実用新案請求の範囲第1項には、それら慕項につき何等記載されていないことに鑑み、前記事項を本件考案特有の効果として認めることが出来ず、該事項が存在するとしても即本件考案の要旨が変更されたとすることができないため、請求人の前記主張を採用することができない。
[8]むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件登録実用新案を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1997-02-19 
結審通知日 1997-02-28 
審決日 1997-03-12 
出願番号 実願昭58-56863 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (H01C)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 小林 秀美  
特許庁審判長 玉城 信一
特許庁審判官 深井 弘光
早野 公恵
登録日 1993-08-27 
登録番号 実用登録第1981396号(U1981396) 
考案の名称 固定抵抗器  
代理人 役 昌明  
代理人 金平 隆  
代理人 大橋 公治  
代理人 平野 雅典  

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