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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1041562
審判番号 審判1999-11756  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-07-15 
確定日 2001-07-13 
事件の表示 平成 5年実用新案登録願第 58274号「送受信機」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 6月 2日出願公開、実開平 7- 29937]について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 A 本願考案
本件審判請求に係る実用新案登録願は平成5年10月1日になされており,明細書及び図面の記載からみて,
その実用新案登録請求の範囲の欄の請求項1の記載に係る考案(以下,「本願考案」という)の目的,効果は,「作業性の向上を図ること」,「安全性に優れ,装着が容易で」あること,「送信音声信号のS/N比の低下を防止し得る」ことであり,
本願考案の構成は,
互いに異なる周波数の送信周波数および受信周波数を使用して同時送受信を可能に構成された送信部および受信部を有する送受信機本体が組み込まれると共に人の耳の後ろ側の頭骨にも当接するイヤーパッドがそれぞれ設けられた2つのイヤーカップを有するヘッドセットと,一方の前記イヤーカップにおける前記頭骨に対向する部位に設けられてその頭骨の振動をピックアップして音声信号として前記送信部に出力する骨導マイクロホンと,他方の前記イヤーカップに設けられて前記受信部からの受信音を出力するスピーカとを備えた送受信機であって,
前記一方のイヤーカップの前記イヤーパッドには,当該イヤーパッド内部のスポンジを底部とする凹部が前記頭骨に対向する部位の表面側に形成され,前記骨導マイクロホンは,前記ヘッドセットの装着状態において,前記イヤーパッドの前記頭骨に対向する部位の表面とほぼ面一になるように前記凹部に配設されていることを特徴とする送受信機,
である。(実用新案登録請求の範囲の欄或いは【課題を解決するための手段】の欄の記載参照)
なお,請求項1には,「人の耳の後ろ側の頭骨に当接するイヤーパッド」と記載されているが,明細書及び図面の記載からみて,「イヤーパッド」は「人の耳の後ろ側の頭骨に」のみ「当接する」のでなく人の耳を覆って周囲の頭部にも当接するので,前記記載は「人の耳の後ろ側の頭骨にも当接するイヤーパッド」の誤記と認められる。
B 刊行物記載の考案
1 原査定の理由において提示された,実願昭63-47877号(実開平1-151636号公報)のマイクロフィルム(平成1年10月19日特許庁発行,以下「刊行物1」という。第1図参照)には,
送信部および受信部を有する「無線送受信回路4」が組み込まれると共に人の耳の(上側や)後ろ側の頭骨にも当接する「リング状緩衝体6」がそれぞれ設けられた2つの「イヤーカップ1a,1b」を有するヘッドセットと,一方の前記「イヤーカップ1b」における人の耳の上側の頭骨に対向する部位に設けられてその頭骨の振動をピックアップして音声信号として前記送信部に出力する「骨伝導マイク5」と,他方の前記「イヤーカップ1a」に設けられて前記受信部からの受信音を出力する「スピーカ2」とを備えた送受信機であって,
前記一方の「イヤーカップ1b」の前記「リング状緩衝体6」には,当該「リング状緩衝体6」内部の凹部が人の耳の上側の頭骨に対向する部位の表面側に形成され,前記「骨伝導マイク5」は,前記凹部に配設されている送受信機,
であって,
作業性の向上を図ることができ,安全性に優れ,装着が容易であることができ,送信音声信号のS/N比の低下を防止し得ることができる,
という考案が記載されている。
ここで,上記考案を本願考案の用語で表現する。
上記考案の「イヤーカップ1a,1b」,「骨伝導マイク5」,「スピーカ2」は,夫々本願考案の「イヤーカップ」,「骨導マイクロホン」,「スピーカ」と同義であり,
上記考案の「無線送受信回路4」,「リング状緩衝体6」は,夫々本願考案の「送受信機本体」,「イヤーパッド」と等価であることを考慮すると,
刊行物1には,
送信部および受信部を有する送受信機本体が組み込まれると共に人の耳の後ろ側の頭骨にも当接するイヤーパッドがそれぞれ設けられた2つのイヤーカップを有するヘッドセットと,一方の前記イヤーカップにおける人の耳の上側の頭骨に対向する部位に設けられてその頭骨の振動をピックアップして音声信号として前記送信部に出力する骨導マイクロホンと,他方の前記イヤーカップに設けられて前記受信部からの受信音を出力するスピーカとを備えた送受信機であって,
前記一方のイヤーカップの前記イヤーパッドには,当該イヤーパッド内部の凹部が人の耳の上側の頭骨に対向する部位の表面側に形成され,前記骨導マイクロホンは,前記凹部に配設されている送受信機,
であって,
作業性の向上を図ることができ,安全性に優れ,装着が容易であることができ,送信音声信号のS/N比の低下を防止し得ることができる,
という考案(以下,「第1の考案」という)が記載されている。
2 同様に,原査定の理由において提示された,特開平4-357798号公報(平成4年12月10日特許庁発行,以下「刊行物2」という)には,
第1実施例としての「振動ピックアップ1」を,人の耳の周囲,特に「上部側頭部4」及び「下部側頭部5」の頭骨に直接接触するように設け,「インナーパッド7」の「凹部23」に「緩衝材8」或いは「緩衝支持体14,15,17」を介して収納した「送話器」,
の考案(以下,「第2の考案」という)が記載されている。
C 本願考案の創作可能性
本願考案(以下,「前者」という)と刊行物1に記載された第1の考案(以下,「後者」という)とを比較すると,
両者が,
作業性の向上を図ること,安全性に優れ,装着が容易であること,送信音声信号のS/N比の低下を防止し得ること,を目的,効果とし,
送信部および受信部を有する送受信機本体が組み込まれると共に人の耳の後ろ側の頭骨にも当接するイヤーパッドがそれぞれ設けられた2つのイヤーカップを有するヘッドセットと,一方の前記イヤーカップにおける人の耳の周囲の頭骨に対向する部位に設けられてその頭骨の振動をピックアップして音声信号として前記送信部に出力する骨導マイクロホンと,他方の前記イヤーカップに設けられて前記受信部からの受信音を出力するスピーカとを備えた送受信機であって,
前記一方のイヤーカップの前記イヤーパッドには,当該イヤーパッド内部の凹部が人の耳の周囲の頭骨に対向する部位の表面側に形成され,前記骨導マイクロホンは,前記凹部に配設されている送受信機,
を構成要件としている点で一致しており,
(1) 前者が,互いに異なる周波数の送信周波数および受信周波数を使用して同時送受信を可能に構成しているのに対して,後者が,同時送受信が可能であるか否か及び送受信周波数について明らかにしていない点,
(2) 前記骨導マイクロホンを設ける人の耳の周囲の頭骨の部位として,前者が,後ろ側としているのに対して,後者が上側としている点,
(3) 前記凹部の底部を,前者が,スポンジとしているのに対して,後者がその構成を明らかにしていない点,
(4) 前記骨導マイクロホンを,前者が,前記ヘッドセットの装着状態において,前記イヤーパッドの前記頭骨に対向する部位の表面とほぼ面一になるように配設しているのに対して,後者がその配設を明らかにしていない点,
で相違している。
従って,本願考案は,刊行物1に記載された第1の考案において,(1)′互いに異なる周波数の送信周波数および受信周波数を使用して同時送受信を可能に構成し,(2)′前記骨導マイクロホンを設ける人の耳の周囲の頭骨の部位として,上側とする代わりに後ろ側とし,(3)′前記凹部の底部をスポンジとし,(4)′前記骨導マイクロホンを,前記ヘッドセットの装着状態において,前記イヤーパッドの前記頭骨に対向する部位の表面とほぼ面一になるように配設して,考案をすることができたものである。
D 本願考案の創作容易性
上記(1)′?(4)′について検討する。
(1)′について,
互いに異なる周波数の送信周波数および受信周波数を使用して同時送受信を可能に構成された送受信装置は,原審の拒絶理由で指摘されたように周知である(提示された特開昭58-81343号公報(引用文献2)にも,送信周波数(fT)および受信周波数(fR)と記載されている)ので,
刊行物1に記載された第1の考案において,
互いに異なる周波数の送信周波数および受信周波数を使用して本願考案のように同時送受信を可能にすることは,当業者がきわめて容易になし得たことである。
(2)′について,
「振動ピックアップ1」(本願考案の「骨導マイクロホン」と等価である)を,人の耳の「上部側頭部4」(刊行物1記載の第1の考案の「上側」と同義である)及び「下部側頭部5」(本願考案の「後ろ側」と同義である)の頭骨に設けた「送話器」は,刊行物2に第2の考案として記載されているので,
刊行物1に記載された第1の考案において,
前記骨導マイクロホンを設ける人の耳の周囲の頭骨の部位として,上側とする代わりに後ろ側として本願考案のようにすることは,当業者がきわめて容易になし得たことである。
(3)′について,
「振動ピックアップ1」を「インナーパッド7」(本願考案の「イヤーパッド」と等価である)の「凹部23」(本願考案の「凹部」と同義である)に「緩衝材8」或いは「緩衝支持体14,15,17」を介して収納した「送話器」は,刊行物2に第2の考案として記載されており,
緩衝材或いは緩衝支持体としてスポンジは例示するまでもなく周知であるので,
刊行物1に記載された第1の考案において,
前記凹部の底部をスポンジとして本願考案のようにすることは,当業者がきわめて容易になし得たことである。
(4)′について,
「振動ピックアップ1」を頭骨に直接接触するように設けることは,刊行物2に第2の考案として記載されており(そもそも,頭骨の振動をピックアップして音声信号として出力するという原理の骨導マイクロホンを,頭骨に直接接触するように設けることは,自明事項である),又,刊行物1記載のイヤーパッドは,外部からの騒音を遮蔽するため頭皮に直接接触するように設けられていることが自明であることを考慮すると,
刊行物1記載の第1の考案のように,イヤーパッドの凹部に骨導マイクロホンを設ける際,イヤーパッドと骨導マイクロホンの双方を共に頭皮・頭骨に直接接触するように設けること,言い換えるとイヤーパッドと骨導マイクロホンの双方をほぼ面一になるように配設することは,当業者がきわめて容易になし得たことであるので,
刊行物1に記載された第1の考案において,
前記骨導マイクロホンを,前記ヘッドセットの装着状態において,前記イヤーパッドの前記頭骨に対向する部位の表面とほぼ面一になるように配設して本願考案のようにすることは,当業者がきわめて容易になし得たことである。
E 出願人の主張,その他の検討
出願人の平成11年10月18日付け手続補正書で補正された審判請求書の6.理由(3)に於ける主張について検討する。
1 出願人は,骨導マイクロホンを設ける位置が,本願考案は「人の耳の後ろ側の頭骨に対抗する部位」であるのに対して,引用文献4(刊行物2)記載の考案は「後頭部よりの下部側頭部5全域に対抗する任意の部位」である点で相違する旨主張している。
しかし,両部位がどの様に相違するか出願人はその実質的な違いを明確にしていない。
引用文献4(刊行物2)の下部側頭部5が「人の耳の後ろ側」に位置し(図2参照),且つ引用文献4(刊行物2)の「振動ピックアップ1」(骨導マイクロホン)が頭骨に対抗する部位に設けられることが明らかであることを考慮すると,引用文献4(刊行物2)もまた骨導マイクロホンを設ける位置が「人の耳の後ろ側の頭骨に対抗する部位」であることは明らかである。
従つて,出願人の前記主張は失当である。
2 出願人は,骨導マイクロホンを設ける対象が,引用文献1(刊行物1)記載の考案はヘッドセットのイヤーカップであるのに対して,引用文献4(刊行物2)記載の考案はヘルメット3である点で相違するので,引用文献4(刊行物2)記載の骨導マイクロホンの取付位置を引用文献1(刊行物1)記載のヘッドセットのイヤーカップに採用できない,旨主張している。
しかし,引用文献4(刊行物2)のヘルメット3と引用文献1(刊行物1)のヘッドセットのイヤーカップは,頭骨の振動をピックアップして音声信号として出力する骨導マイクロホンを頭骨に直接接触させる手段である点で共通するので,その取付位置を他方に適用できることは明らかである。
従つて,出願人の前記主張は失当である。
3 出願人は,引用文献4(刊行物2)に「下部側頭部5に設けるのが好ましい」と記載されているが,フルフェイスタイプまたはジェットタイプのヘルメットの場合,通常下部側頭部5に作用することはあり得ず,前記記載は事実に反するので,この事実に反する記載を適用して容易であるとすることは不当である,旨主張している。
しかし,引用文献4(刊行物2)記載のヘルメットは「頭部2に対し,図3に示すように側頭部を押圧して挟むように作られている」(刊行物2の第3頁第3欄第26行?第28行)ものであり,それ故「頂部よりも上部側頭部4もしくは下部側頭部5の方がヘルメット3の押圧力を利用してより効果的に音声振動を収集することができる」(同欄第29行?第32行)ので,「図2に示すように,上部側頭部4もしくは下部側頭部5に設けるのが好ましい」(同欄第24行?第26行)ものである。そして,その様なヘルメットは技術的に可能であると認められる。
従って,下部側頭部5に作用することはあり得ず,引用文献4(刊行物2)記載は事実に反すると言う出願人の前記主張は根拠が無い。
出願人は,引用文献4(刊行物2)の前記記載を無視しヘルメットを下部側頭部5に作用しないものに限定した上で前記主張を為しており,出願人の前記主張は曲解であると言わざるを得ない。
引用文献4(刊行物2)が想定したヘルメットについて,下部側頭部5に作用することはあり得ない理由を明確にするべきである。
従つて,出願人の前記主張は失当である。
F 結び
以上A?E項を総合して判断すると,実用新案登録請求の範囲の欄の請求項1の記載に係る考案は,刊行物1に記載された第1の考案に基づき刊行物2に記載された第2の考案を用いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるので,実用新案法第3条第2項の規定により,本件審判請求人である本願出願人は実用新案登録請求の範囲の欄の請求項1の記載に係る考案について実用新案登録を受けることができない。
よって,結論の通り審決する。
審理終結日 2001-03-06 
結審通知日 2001-03-16 
審決日 2001-05-28 
出願番号 実願平5-58274 
審決分類 U 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 清水 稔溝本 安展  
特許庁審判長 松野 高尚
特許庁審判官 広岡 浩平
橋本 正弘
考案の名称 送受信機  
代理人 酒井 伸司  

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