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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない H01R
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない H01R
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認める。無効としない H01R
管理番号 1043332
審判番号 審判1996-19004  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1996-11-06 
確定日 2001-04-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の登録第1897697号「ジヤンパ-用チツプ部品」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成10年4月24日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成10年(行ケ)第178号、平成11年10月13日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 I.手続の経緯

(1)実用新案登録第1897697号に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、昭和61年3月14日に出願され、平成4年4月7日に設定登録されたものである。
(2)これに対して、平成8年11月6日に、アオイ電子株式会社(以下、「請求人」という。)より、本件考案の実用新案登録を無効にする旨の審判の請求がされ、平成8年審判第19004号事件として特許庁に係属したところ、実用新案権者であるローム株式会社(以下、「被請求人」という。)より、平成9年2月28日及び平成9年10月28日に、明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求(以下、それぞれ「第1訂正請求」及び「第2訂正請求」といい、第1及び第2訂正請求に係る訂正をそれぞれ「第1訂正」及び「第2訂正」という。)がされ、審理された結果、平成10年4月24日に、第1訂正及び第2訂正を認めないとしたうえで、「登録第1897697号実用新案の登録を無効とする。」との審決がされた。
(3)この審決に対し、東京高等裁判所において、「特許庁が、平成8年審判第19004号事件について、平成10年4月24日にした審決を取り消す。」との判決[平成10年(行ケ)第178号、平成11年10月13日判決言渡]がされた。
(4)請求人より、平成12年2月15日に、第2訂正は認められるべきでない旨の審判事件弁駁書(第2回)が提出され、その副本が被請求人に指定期間付きで送付されたところ、被請求人より、その指定期間内である平成12年6月19日に、明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求(以下、「第3訂正請求」といい、第3訂正請求に係る訂正を「第3訂正」という。)がされ、その後、被請求人より、第1訂正請求及び第2訂正請求は取り下げられた。


II.請求人の主張

請求人の主張の概要は、次の「1.請求人適格について」のように請求人適格を備えているとした上で、「2.第3訂正の独立実用新案登録要件について」のように、第3訂正が認められないことを前提とし、次の「3.無効理由について」のように、(1)及び(2)を理由として、「本件考案の実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」というものである。

1.請求人適格について
請求人は、電子部品を製造販売しており、被請求人と同業者であり、請求人は被請求人と利害関係がある。したがって、請求人は請求人適格を備えている。(平成9年6月27日付けの弁駁書第2頁第3?5行参照)

2.第3訂正の独立実用新案登録要件について
イ.第3訂正請求に添付した訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案(以下、「訂正考案」という。)は、甲第1号証?甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証の刊行物に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案登録出願の際、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、同法第39条第3項の規定に違反するので、第3訂正は認められないものである。(平成12年8月24日付けの弁駁書第2頁第22?27行参照)
ロ.甲第3号証の刊行物には、基体(アルミナ基板2)の両側縁間にわたって連続して一体に延びる導電部3を備えたジャンパー用チップ部品が開示されている。」(平成12年2月15日付けの弁駁書第3頁第19?28行参照)
ハ.甲第4号証の刊行物には、基体(絶縁基板21)表面に複数の互いに独立した導電部(導体層27?30)を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体となる電極部(22?26、22’?26’)を互いに隣接する電極部と電気的に独立して基体側面に並設したジャンパー用電子部品が開示されている。(平成12年2月15日付けの弁駁書第3頁第29行?第4頁第12行参照)
ニ.そもそも、考案者の創作に至る思索過程は自由であって、甲第6号証の刊行物が示されたからといって、被請求人の主張のように、訂正考案の推考プロセスがa、bの2段階プロセスを経なければならない必然性及び根拠は何もなく独自の見解を展開しているにすぎないものである。(平成12年8月24日付けの弁駁書第3頁第17行?第4頁第6行参照)
ホ.被請求人の甲第6号証の刊行物に関する主張は、同刊行物に記載のプリント配線板について単に主観的評価をしているだけであり、
「絶縁基板上に2種のペーストにより回路パタンとしての導体部分を上下二層にして設け、そのうち、基板側の下層は導電性の良好な銀ペーストで形成し、上層は銀粉にパラジュム粉等の金属粉末を混合した半田付け性の良好な混合ペーストで形成しているため、半田付け性、導電率及びコストのいずれの点においても優れたプリント配線板を提供することができる。」なる記載から上下逆にするという着想は得ることができないと被請求人は主張をしているが、該主張は訂正考案が進歩性を有する理由にならないものである。
何故ならば、本件無効審判の審決取消請求事件の原告第3回準備書面(甲第7号証)において、
「被告は、『本件考案の公告公報(甲第2号証)の第3図に示す基板へのはんだ付けによる装着状態を見ると、はんだ16は基体の側面電極部11にフィレを形成してはんだ付けされているだけで、第2の金属膜8が形成されていない第1の金属膜7の部位である連絡部7bがはんだ付けの付着性とどのように関わっているのか全く不明である』と疑義を呈しているが、ジャンパー用チップ部品のようなチップ型電子部品を基板にはんだ付けする場合、ハンダが基体の上面(導電部の端部)まで被ることがあるのは、例えば参考資料1から明らかなように技術的に常識であり、公告公報の第3図においてはんだ16が側面電極部11のみに付着した状態が表示されていることとはなんら矛盾しない。
すなわち、参考資料1は、日本マイクロエレクトロニクス協会編「IC化実装技術」(1984年(昭和59年)株式会社工業調査会発行)の抜粋であるが、この参考資料1の117頁の図5.20及び図5.21には、チップ部品についての一般的なはんだ付け方法であるハンダリフロー法やハンダディップ法でチップ部品をはんだ付けするにおいて、はんだがチップ部品の上面まで被っている状態が明瞭に表示されており、本件考案は、この参考資料1に記載されているような状態までをも想定して、第1の金属膜にはんだの付着性という機能を保持せしめたものである。そして、審決は、チップ部品のはんだ付けに関する技術常識を明細書から看取できることを前提として、はんだの付着性という目的を明細書から把握できることを認めたのである。
なお、例えば甲第4号証(実開昭59-26201号のマイクロフィルムフィルム)の図面を見ると、上面電極9、10の端部が露出しているが、これも参考資料1の図のような状態でハンダが被ることがあるからに他ならない。」と自認している。
してみると、訂正考案は、チップ部品のはんだ付けに関する技術常識レベルに達している当業者が甲第6号証の刊行物に記載の事項を見れば、きわめて容易に推考できる程度のものであって被請求人の同刊行物に対する前記主張は根拠のないものである。(平成12年8月24日付けの弁駁書第4頁第7行?第5頁第17行参照)。

3.無効理由について
(1)無効理由1
本件考案は、甲第1号証の刊行物に記載された考案であるから実用新案法第3条第1項第3号に該当するので、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号により無効とすべきものである。
(2)無効理由2
本件考案は、甲第1号証の刊行物に記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから実用新案法第3条第2項に該当し、その実用新案登録は、同法第37条第1項第2号により無効とすべきものである。

4.請求人が提示した証拠方法
甲第1号証:実願昭57-121274号(実開昭59-26201号)の願書に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和59年2月18日 特許庁発行)
甲第2号証:特開昭57-24273号公報
甲第3号証:特開昭56-73493号公報
甲第4号証:特開昭56-35500号公報
甲第5号証:被請求人が平成2年11月9日付けで提出した意見書
甲第6号証:実願昭54-58748号(実開昭55-159573号)の願書に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和55年11月16日 特許庁発行)
甲第7号証:東京高等裁判所平成10年(行ケ)第178号準備書面(原告第3回)


III.被請求人の主張

被請求人の主張の概要は、次の「1.請求人適格について」のように、無効事由の判断をするまでもなく本件審判請求は却下されるべきであるとし、請求人適格が認められたとしても、次の「2.無効理由について」のような事項を理由として、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」というものである。

1.請求人適格について
請求人は、いかなる法律的利益に基いて本件審判を請求しているのかを明らかにしておらず、請求人は請求適格を備えていないと解するのが妥当であるから、本件審判の請求は、実体審理に至るまでもなく、実用新案法第41条で準用する特許法第135条の規定に基いて却下されるべきものである。(平成9年2月28日付の答弁書第2頁第19行?第3頁第14行参照)

2.無効理由について
イ.甲第1号証の刊行物には、ジャンパー用チップ部品に関しての記載があるが、いずれも抵抗体2,7,8に導電体を置き換えることによってジャンパー用チップ部品に使用するもので、セラミック基体1,6の上面に一対の上面電極3,4,9,10,11,14,15が離反した状態で形成されていることを前提として、互いに離反した一対の電極3,4,9,10,11,14,15を繋ぐように導電体を設けることによってジャンパー用チップ部品となすことが記載されているのみであるから、換言すると、2つの電極と1つの導体部とによって一つの導電部を形成することが開示されているのみであるから、甲第1号証の刊行物には、訂正考案における『各導電部を、基体の両側縁間にわたって連続して一体に延びるように形成する』の点は全く記載されていないのである。
そして、甲第1号証の刊行物の手段で導電部を形成することによってジャンパー用チップ部品と成した場合には、一対の電極3,4,9,10,11,14,15とこれに重なる導電体との重なり具合の違い等によって導電率が不均一になる虞があるばかりか、基体表面に1層だけの導電部を形成する場合であっても、一対の電極3,4,9,10,11,14,15を設ける工程と導電体を設ける工程とを別々に行わねばならないため、製造の手間がかかる問題がある(なお、甲第1号証のものを本件考案の実施例のように二層に形成する場合には、一対の電極3,4 …と導電体とを設ける工程に加えて、更に上層の導電体を設ける工程を要するため、この場合も本件考案に比べて製造の手間がかかることになる)。
これに対して訂正考案のように、導電体が基体の両側緑間にわたって一体に連続して延びるように形成すると、基体表面に重なった部位が単一体であるため、各導電部の導電率を均一化できると共に、基体表面に1層の導電部を形成することを単一の工程で行うことができて製造の手間を省くことができるのであり、このような利点を保持した状態の下で、明細書に記載した種々の効果を奏することになる。よって、訂正考案は、甲第1号証の刊行物には記載されていない特有の構成を備えると共に、同刊行物記載のものからは予測できない顕著な効果を奏するものである。
従って、訂正考案は甲第1号証の刊行物に記載された考案と同一ではないし、同刊行物記載の考案に基いてきわめて容易に考案できたものでもない。(平成9年2月28日付の答弁書第4頁第5行?第5頁第19行参照)
ロ.甲第1号証及び甲第6号証の両刊行物から訂正考案に至るには、両刊行物に接した当業者は、
a.プリント基板の配線パターン(導電部)を構成する2つのペースト層(金属膜)の重なり関係を上下逆にして、銀-パラジウム等の混合ペーストからなる金属膜を下層として、銀ペーストからなる金属膜を上層とする、
b.上層である銀ペーストからなる金属膜を、下層である混合ペーストからなる金属膜の両端部のみ除いた部位に重ねて形成する、
という2段階の推考プロセス(或は着想)を経ることにより、甲第6号証の刊行物の技術内容を訂正考案に適合するように加工・改変し、その加工・改変された技術を甲第1号証の刊行物刊記載の導電体に置き換える、という創作プロセスを経ることになる。
そして、両刊行物及び周知技術に基いて訂正考案が容易に考案できたというためには、上記a、bの2連の推考プロセスを当業者が特段の思索なしに行えることが必要であり、そのためには、上記a、bの推考プロセスを当業者に直観させる起因となる動機付け、誘因、或は示唆が両刊行物又は周知技術に存在していることが必要である。
結局、甲第1号証及び甲第6号証の両刊行物及び周知技術に接した当業者は、単なる設計変更程度の思索では、せいぜい、導電部の全長を下層の銀ペーストから金属膜と上層の混合ペーストからなる金属膜との重層構造にする程度の構成を予測するに過ぎず、本件考案の構成にきわめて容易に想到することなどできないのである。
以上のように、本件考案が両刊行物及び周知技術には記載されていない特有の構成を有すること、その特有の構成を予測させる動機付けや起因、契機は両刊行物及び周知技術にはまったく存在しないこと、本件考案はその特有の構成によって両刊行物から予測できない格別顕著な効果を奏することを総合すると、本件考案が両刊行物及び周知技術に基いてきわめて容易に想到できたものではないことは明らかであり、実用新案法上の進歩性を備えていると言える。(平成12年6月19日付の訂正請求書第7頁第22行?第10頁第13行参照)

3.被請求人が提示した証拠方法
乙第1号証:特許法概説[第11版]吉藤幸朔著、株式会社有斐閣発行
乙第2号証:昭和54年(行ケ)第111号判決
乙第3号証:昭和56年(行ケ)第86号判決
乙第4号証:昭和56年(行ケ)第123号判決


IV.当審の判断

1.訂正の適否について(訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び実用新案登録請求の範囲の拡張・変更の存否)
第3訂正請求に係る訂正請求書及び同請求書に添付した全文訂正明細書によると、第3訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正の内容
イ.訂正事項a
本件考案の実用新案登録に係る願書に添付した明細書(以下、「実用新案登録明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載を、次のように訂正する。
「(1)基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品であって、
前記各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されているジャンパー用チップ部品。」
ロ.訂正事項b
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「基体表面に複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体となる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体側面には、各電極を区切る凹部を設けている。」(公告公報第3欄第15?20行参照)という記載を、「基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品であって、前記各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されている。」と訂正する。
ハ.訂正事項c
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「また、導電部間の距離が一定となり、導電部間の静電容量を基板ごとに一定にすることができる。さらに、基体側面に、各電極を区切る凹部を設けているので、はんだ付けされたフィレの確認が容易となる上、電極間の短絡も起きにくくなる。」(公告公報第3欄第27?32行参照)という記載を、「また、導電部間の距離が一定となり、導電部間の静電容量を基板ごとに一定とすることができる。さらに、基体側面に、各電極を区切る凹部を設けているので、はんだ付けされたフィレの確認が容易となる上、電極間の短絡も起きにくくなる。しかも、導電部は、基体の表面に形成した銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に第2の金属膜を重層して形成したものであるため、導電部の抵抗値を低く抑えることができる。また、第2の金属膜は第1の金属膜の両端を除いた部位に形成されているので、基板へのジャンパー用チップ部品のはんだ付けを確実ならしめることができる。」と訂正する。
ニ.訂正事項d
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「各導電部6は、基体表面3に形成される銀-パラジウム合金よりなる第1金属膜7上に、銀よりなる第2金属膜8が重ねて形成されている(第2図参照)。」(公告公報第3欄第41?44行参照)という記載を、「各導電部6は、基体表面3にその両側縁3a間にわたって連続して延びるように形成された銀-パラジウム合金よりなる第1金属膜7上に、銀よりなる第2金属膜8が重ねて形成されている(第2図参照)。」と訂正する。
ホ.訂正事項e
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「もちろん、電極部11、……、11形成時の位置決め精度が高い水準に維持できる場合には、このような凹部10、……、10は必要でない。」(公告公報第3欄第41?44行参照)という記載を削除する。
ヘ.訂正事項f
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「また、導電部6も、上記実施例に示すような二層の金属膜に限られず、またその形状等も適宜設計変更可能である。」(公告公報第5欄第19?21行参照)という記載を削除する。
ト.訂正事項g
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「(ヘ)考案が解決しようとする課題」(公告公報第5欄第22行参照)という記載を、「(ヘ)考案の効果」と訂正する。
チ.訂正事項h
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「基体表面に複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極を区切る凹部を設けてなるものであるから、」(公告公報第5欄第23行?第6欄第2行参照)という記載を、「基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるものであるから、」と訂正する。
リ.訂正事項i
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「また、はんだ付けされたフィレの確認が容易になる上に、電極間の短絡も起きにくくなる。」(公告公報第5欄第23行?第6欄第2行参照)という記載を、「また、はんだ付けされたフィレの確認が容易になる上に、電極間の短絡も起きにくくなる。しかも、導電部は、基体の表面に形成した銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に第2の金属膜を重層して形成したものであるため、導電部の抵抗値を低く抑えることができる。この場合、第2の金属膜は、第1の金属膜の両端を除いた部位に形成されているので、ジャンパー用チップ部品のはんだ付けを確実ならしめることができる一方、第2の金属膜は電気抵抗率が小さいため、導電部としての電気抵抗値を低く抑えることができる。」と訂正する。
(2)検討及び判断
訂正事項aは、実用新案登録明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された事項にさらに構成を特定する事項を付加するものであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項b、d及びhは、訂正事項aによる実用新案登録請求の範囲の記載と考案の詳細な説明の記載の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項c及びiは、訂正事項aによる実用新案登録請求の範囲の減縮に伴って、該減縮に係る構成による効果を整理して記載したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項e及びfは、訂正事項aによる実用新案登録請求の範囲の減縮に伴って、不要となった記載を削除したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項gは、実用新案登録明細書の記載全体から該当個所の記載が「考案の効果」を意味することが明らかであるから、誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項aないしiは、いずれも、本件考案の実用新案登録に係る願書に添付した明細書及び図面に実質的に記載されていた事項であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.訂正の適否について(独立実用新案登録要件の存否)
(1)訂正考案
第3訂正請求に係る考案(「訂正考案」)は、第3訂正請求の訂正請求書に添付した全文訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「(1)基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品であって、
前記各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されているジャンパー用チップ部品。」
(2)甲第1号証の刊行物に記載された考案
甲第1号証の刊行物には、以下のような記載がある。
イ.「セラミック基板の上面に複数の抵抗体または導電体を設け、この抵抗体または導電体の両端に電極を設け、上記セラミック基板にスリットを設けて隣接する上記電極を分離したチップ部品。」(実用新案登録請求の範囲)
ロ.「……チップ部品の一例であり、セラミック基板1の上面に抵抗体2を設け、……抵抗体2の代りに導電体とすればジャンパー線の代りとして使用できる。」(明細書第1頁第14?19行)
ハ.「セラミック基板6にはスリット13が設けられ電極9と10とを分離している。このようにスリット13を設けることによって半田付時に両者が接続状態になることはなく、……抵抗体7,8のどちらか一方を導電体にしてもよいし、両方とも導電体にしてもよい。……電極11を電極14,15に分割し、間にスリット16を設けてもよい。」(明細書第2頁第17?第3頁第6行)
これらの記載事項からみて、甲第1号証の刊行物には、次のような考案(以下、「甲1考案」という。)が記載されていると認めることができる。
「セラミック基板6の上面に、複数の導電体8を並設し、これら導電体8のそれぞれの両端に導電体8と一体になる電極9,10を、互いに隣接するものと電気的に独立して、セラミック基板6の側面に並設し、かつ前記セラミック基板6の両側面には、各電極9,10を分離するスリット13,16を設けてなるジャンパー線の代りとして使用できるチップ部品であって、
前記各導電体8は、前記電極9,10間にわたって連続してセラミック基板6の表面に形成されているジャンパー線の代りとして使用できるチップ部品。」
(3)訂正考案と甲1考案の対比及び判断
訂正考案と甲1考案を対比すると、甲1考案の「セラミック基板6の上面」は訂正考案の「基体表面」に相当し、同様に、「複数の導電体8」は「複数の互いに独立な導電部」に、「電極9,10」は「電極部」に、「セラミック基板6の側面」は「基体側面」に、「セラミック基板6の両側面」は「基体の両側面」に、「電極9,10を分離するスリット13,16」は「電極部を区切る凹部」に、「ジャンパー線の代りとして使用できるチップ部品」は「ジャンパー用チップ部品」に、それぞれ相当すると認められるので、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品。
<相違点>
訂正考案では、「各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されている」のに対し、甲1考案では、「各導電部は、前記電極部間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成されている」点。
以下、この相違点について検討する。
<相違点の検討>
まず、甲第6号証の刊行物に記載事項について検討するに、同刊行物には、以下のような記載がある。
イ.「絶縁基板上に形成される回路パタンとしての導体部分が導電性の良好な銀ペーストと、その上に形成された銀粉にパラジュム粉等の金属粉末を混合した半田付け性の良好な混合型ペーストとからなることを特徴とするプリント配線板。」(実用新案登録請求の範囲)
ロ.「混合型ペーストの場合、パラジュム粉或いは白金粉の存在により銀の半田への移行が抑えられるため、半田付け性が著しく改善される。これがため、現在最も一般的に使用されているのが、この混合型ペーストである。……これらの金属は銀に比べて電気導電性が劣るため導体部分の導伝率が低下することになるわけであるが、現在のところ、半田付け性に重点をおき、これらコスト及び導電率を多少犠牲にして使用しているのが現状である。」(明細書第2頁第2?16行)
ハ.「上記の構成において、導体部分の上層は混合型ペーストからなるため、従来と略同等の半田付け性を確保することができる。この場合、上述のように上層が下層の全面を積極的に被うようにすれば、半田付けの際、銀導体部分と半田は全く触れることができなくなるためより一層、半田付け性がよくなる。また、この混合型ペーストを用いても、上層に薄く設けるのみで、下層は銀ペーストからなるため、混合型ペーストの使用量は節減ができコストの低減が図れると同時に銀導体部により導電率の低下を防止することができる。」(明細書第4頁第19行?第5頁第9行)
これらの記載事項によると、甲第6号証の刊行物には、「絶縁基板上に形成される回路パタンとしての導体部分を銀粉にパラジュム粉の金属粉末を混合した半田付け性の良好な混合型ペーストからなるようにしたプリント配線板」において、「混合型ペーストの使用量を節減してコストの低減が図れると同時に導電率の低下を防止する」ために、「半田付けの際、半田が全く触れることができない位置」である「混合型ペーストの下側」に重層して「銀ペーストからなる下層」を設ける技術思想からなる考案が記載されていると認めることができる。
次いで、この技術思想を甲1考案に適用することについて検討する。
甲1考案の導電体7,8は、その上面がガラスコート12で覆われていることからみて、その上面を半田付けに使用するものではないので、甲1考案において、導電体7,8をコスト及び導電率を多少犠牲にしなければならない半田付け性の良好な混合型ペーストに置き換えることも、半田付け性の良好な混合型ペーストの下側に銀ペーストからなる下層を重層したものに置き換える必要性もない。
ただ、ジャンパー用チップ部品を基板上に半田付けする際、ジャンパー用チップ部品の電極部に近接した上面、すなわち、ジャンパー用チップ部品の上面の両端部を半田付けに使用することは、実願昭58-125181号(実開昭60-32769号)のマイクロフィルム及び甲第7号証の記載からみて、従来周知の技術的事項と認められることから、甲1考案のジャンパー用チップ部品においても、電極9,10の上面の少なくとも一部を半田付けに供するものと推測することができる。
そうすると、甲1考案に甲第6号証の刊行物に記載された技術思想を適用しても、電極9,10の上面の半田付け性を改善することの動機付けにとどまり、相違点に係る訂正考案の構成をきわめて容易に想到できるとすることに合理的な理由が見当たらない。
なお、請求人は、甲第3号証及び甲第4号証を提示して、「甲第3号証の刊行物には、基体(アルミナ基板2)の両側縁間にわたって連続して一体に延びる導電部3を備えたジャンパー用チップ部品が開示されている。」旨(III.請求人の主張 2.ロ.)及び「甲第4号証の刊行物には、基体(絶縁基板21)表面に複数の互いに独立した導電部(導体層27?30)を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体となる電極部(22?26、22’?26’)を互いに隣接する電極部と電気的に独立して基体側面に並設したジャンパー用電子部品が開示されている。」旨(III.請求人の主張 2.ハ.)主張しているが、いずれも、「ジャンパー用チップ部品において、導電部を、基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成すること」を開示するにとどまり、ジャンパー用チップ部品において、その基体の両側縁に近接した箇所の半田付け性に重点をおき、コスト及び導電率を多少犠牲にして使用して、導電部を銀-パラジウム合金よりなる金属膜で形成するなどの技術的事項を示すものでもないので、これをもって、相違点に係る訂正考案の構成をきわめて容易に想到できたことの根拠とすることができない。
さらに、甲第3号証及び甲第4号証の刊行物に記載されるような、「ジャンパー用チップ部品において、導電部を、基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成したもの」に対して、甲1考案の技術思想及び甲第6号証の刊行物に記載された技術思想を適用することについて検討するに、特に、甲第6号証の刊行物に記載された技術思想を適用することについて検討するに、上面の半田付け性を考慮するば、導電体の上面に半田付け性の良好な金属膜を形成することが自然であること、伝導率を考慮すれば、比較的安価で伝導率の良好な金属膜を途中で止めることが不自然であることを総合してみると、甲第6号証の刊行物に記載された技術思想を適用しても、銀-パラジウム合金よりなる金属膜を下側にする必然性はなく、まして、半田付け性の悪い伝導率の良好な金属膜を上側にしたうえで、それを途中で止める必然性もないので、相違点に係る訂正考案の構成は、甲第3号証及び甲第4号証の刊行物に記載されるようなジャンパー用チップ部品の考案に甲1考案の技術思想及び甲第6号証の刊行物に記載された考案の技術思想を適用することにより当業者にとってきわめて容易に想到できたものでもない。
そして、訂正考案は、相違点に係る訂正考案の構成により、ジャンパー用チップ部品において半田付けの確実性を損なうことなく電気抵抗を抑制するという顕著な効果を奏することができるものと認められる。
したがって、訂正考案は、甲第1号証?甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証の刊行物に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないので、実用新案登録出願の際、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものとすることができない。

以上のとおりであるから、上記第3訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項で読み替える、同法律により改正される前の実用新案法第40条第2項の規定及び同法40条第5項で準用する同法第39条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.無効理由1及び2について
(1)本件考案
実用新案登録第1897697号に係る考案(「本件考案」)は、第3訂正が上記1.及び2.の「訂正の適否について」において説示したとおり認められるものであるから、第3訂正請求に添付した訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案、すなわち、訂正考案である。
(2)判断
本件考案は、訂正考案であって、当該訂正考案が上記2.の「訂正の適否について(独立実用新案登録要件の存否)」において説示したとおり、甲第1号証?甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証の刊行物に記載された考案と相違している上にそれらに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないので、同様な理由で、甲第1号証?甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証に記載された考案のいずれとも同一でないばかりか、それらの考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。
(3)むすび
したがって、本件考案の実用新案登録は、請求人が主張した請求の理由及び証拠によっては無効とすることができない。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
ジャンパー用チップ部品
(57)【実用新案登録請求の範囲】
(1).基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品であって、
前記各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されているジャンパー用チップ部品。
【考案の詳細な説明】
(イ)産業上の利用分野
この考案は、プリント基板上の複数の導電部間の接続に使用されるジャンパー用チップ部品に関する。
(ロ)従来の技術
従来、チップ部品が装着される基板においては、限られた面積の基板上に多くの部品を装着するために、配線パターンが複雑化し、導体部を交叉させねばならない場合があった。この場合には、一方の導体部を分断し、他の導体部はそのまま通し、この他の導体部をまたぐように、ジャンパー用チップ部品を基板上の交叉部分に装着して、前記分断された導体部を電気的に接続する方法が採られている。
上記ジャンパー用チップ部品としては、例えば実開昭48-106451号公報記載のものが知られている。このジャンパー用チップ部品は、絶縁体よりなる基体表面に導電部を形成し、この基体表面に連接し、互いに対抗しあう基体側面に、それぞれ電極部を形成してなるものである。
(ハ)考案が解決しようとする課題
上記従来のジャンバー用チップ部品は、1つの導体部が分断されてできる一対の導体部間を接続するものであり、1個で1つの電気的接続が行われるものであった。しかるに、複数の導体部が並設されている場合に、これら導体部を分断して、他の導体部を通すように配線パターンが設計される場合があった。この場合には、分断された導体部間を接続するためには、1つずつ上記ジャンパー用チップ部品を基板上に装着しなければならず、手間がかかる不都合があった。
また、基板上に一つずつジャンパー用チップ部品を装着する際に、これらを互いに密着させて装着すると、相隣るもの同士で電極部又は導電部が接触し、回路が短絡される危険があった。このため、各ジャンパー用チップ部品間に距離をとって装着せねばならず、装着のための基板上のスペースが大きくなる不都合もあった。
さらに、ジャンパー用チップ部品の装着位置に多少のずれがあるため、各ジャンパー用チップ部品の距離が基板ごとによって異なり、ジャンパー用チップ部品の導電部間の静電容量が一定とならない不都合もあった。
この考案は、上記不都合に鑑みなされたものであり、基板への装着の手間が省け、基板上に必要とされる装着のためのスペースが小さく、導電部間の静電容量が基板ごとに一定となるジャンパー用チップ部品の提供を目的としている。
(ニ)課題を解決するための手段及び作用
上記不都合を解決するための手段として、この考案のジャンパー用チップ部品は、基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品であって、
前記各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されている。
したがって、基板上に並設された複数の導体部が、他の導体部を通すため分断されている場合であっても、これら複数の分断された導体部を1個のジャンパー用チップ部品で一度に接続することが可能となる。また、複数の導電部が一つの基体上に形成されるため、全体を小型化でき、その基板上の装着スペースを小さくできる。また、導電部間の距離が一定となり、導電部間の静電容量を基板ごとに一定とすることができる。さらに、基体側面に、各電極を区切る凹部を設けているので、はんだ付けされたフィレの確認が容易となる上、電極間の短絡も起きにくくなる。
しかも、導電部は、基体の表面に形成した銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に第2の金属膜を重層して形成したものであるため、導電部の抵抗値を低く抑えることができる。また、第2の金属膜は第1の金属膜の両端を除いた部位に形成されているので、基板へのジャンパー用チップ部品のはんだ付けを確実ならしめることができる。
(ホ)実施例
この考案の1実施例を、第1図ないし第4図に基づいて以下に説明する。
第1図は、この実施例にかかるジャンパー用チップ部品の外観斜視図である。2は、セラミック等の絶縁体よりなる基体であり、その基体表面3には、導電部6,……、6が、基体表面3長手方向に等間隔をおいて並設されている。
各導電部6は、基体表面3にその両側縁3a間にわたって連続して延びるように形成された銀-パラジウム合金よりなる第1金属膜7上に、銀よりなる第2金属膜8が重ねて形成されている(第2図参照)。このように導電部6を重層構造としているのは、導電部6の電気的抵抗を減少させるためである。銀-パラジウム合金は、はんだの付着性がよい等、取扱いの面で利点があるが、その抵抗率は比較的高い。そこで、銀-パラジウム合金よりなる第1金属膜7上に、抵抗率の低い銀よりなる第2金属膜8を重ねて形成し、導電部6の抵抗値を低く抑えている。
前記第1金属膜7、……、7の両側部7a,……7aよりは、連絡部7b、……、7bが側方に延伸し、基体表面3の側縁3a、……、3aに達している(第1図参照)。前記第1金属膜7、……、7及び第2金属膜8、……、8は、基体表面3に形成されるガラス層の保護膜9により、被覆保護される。
基体3の側面4・4には、電極部11、……、11が印刷等の手段により形成される。各電極部11は、基体表面側縁3aにおいて、前記第1金属膜7の連絡部7bと一体とされる。
基体側面4・4の電極部11、……、11間には、半円形の凹部10、……、10が設けられている。もし凹部10、……、10がなく、基体側面4が平端な場合には、電極部11……、11を印刷形成する際に、第4図に示すような電極部11、……、11の位置ずれ(基体2長手方向)が発生した場合、以下に述べるような不都合が生じた。第4図に示す状態では、一つの電極部11に対して2つの相隣る導電部6・6の連絡部7b・7bが連接している。斯かる状態のものを基板に装着すれば、基板上の配線パターンが短絡されてしまう。そこで、凹部10、……、10を基体側面4・4に列設しておけば、電極部11、……、11が位置ずれした状態で形成されても、上記短絡を防止することができる。
第3図は、この実施例に係るジャンパー用チップ部品1の基板13への装着状態を示す斜視図である。
基板13表面には、導体部14、……、14が並設されている。これら導体部14、……14は、同じく基板13表面に形成される他の導体部15を通すために分断され、分断導体部14a、……、14a(第3図中手前側)及び分断導体部14b、……、14b(第3図中奥側)となる。
前記ジャンパー用チップ部品1を基板13上に装着するには、基体2がその幅員方向に前記導体部15をまたぐと共に、各電極部11の下端11a、……、11aが分断導体部14a、……、14a・14b、……、14bに接するように載置し、はんだ16、……、16により、電極部11、……、11と分断導体部14a,……、14a・14b、……、14b間をはんだ付けする。
分断導体部14a及び分断導体部14bは、電極部11-導電部6-電極部11によって電気的に接続され、導体部14に電流を流すことが可能となる。
なお、上記実施例においては、ジャンパー用チップ部品1として、導電部6が4つ設けられている、いわゆる4連のものを示しているが、これに限定されるものではなく、2以上の任意数導電部を並設したものとすることが可能である。
(へ)考案の効果
この考案のジャンバー用チップ部品は、基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるものであるから、プリント基板等の分断された並設の多数回路をジャンピングするのに、各導電部の電極をプリント基板等のパターンに一度に接続することが可能となり、接続の際に回路毎に個別のジャンパー用チップ部品を用意したり、連結線を切断する等の手間が省け一度に多回路を簡単にジャンピング接続し得る利点を有する。
また、1個ずつジャンパー用チップ部品を装着する場合よりも、その装着に必要な基板上のスペースを小さくすることができ、また、各導電部間の距離が常に一定であり、導電部間の静電容量が基板ごとに一定である利点も有している。
また、はんだ付けされたフィレの確認が容易となる上に、電極間の短絡も起きにくくなる。
しかも、導電部は、基体の表面に形成した銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に第2の金属膜を重層して形成したものであるため、導電部の抵抗値を低く抑えることができる。この場合、第2の金属膜は、第1の金属膜の両端を除いた部位に形成されているので、ジャンパー用チップ部品のはんだ付けを確実ならしめることができる一方、第2の金属膜は電気抵抗率が小さいため、導電部としての電気抵抗値を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、この考案の1実施例に係るジャンバー用チップ部品の外観斜視図、第2図は、第1図中II-II線におけるジャンパー用チップ部品の断面図、第3図は、同ジャンパー用チップ部品の一部を破断して示す基板への装着状態を説明するための斜視図、第4図は、同ジャンパー用チップ部品の基体側面に凹部を設けない状態を示す要部斜視図である。
2:基板、3:基体表面、4・4:基体側面、6、…、6:導電部、11、……、11:電極部。
訂正の要旨 訂正の要旨
イ.訂正事項a
本件考案の実用新案登録に添付した明細書(以下、「実用新案登録明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載を、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、次のように訂正する。
「(1)基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品であって、
前記各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されているジャンパー用チップ部品。」
ロ.訂正事項b
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「基体表面に複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体となる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体側面には、各電極を区切る凹部を設けている。」(公告公報第3欄第15?20行参照)という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるジャンパー用チップ部品であって、前記各導電部は、前記基体の両側縁間にわたって連続して延びるように基体の表面に形成された銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に、当該第1の金属膜よりも電気抵抗率の小さい第2の金属膜を重層して形成してなり、前記第2の金属膜は、前記第1の金属膜の両端部を除いた部位に形成されている。」と訂正する。
ハ.訂正事項c
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「また、導電部間の距離が一定となり、導電部間の静電容量を基板ごとに一定にすることができる。さらに、基体側面に、各電極を区切る凹部を設けているので、はんだ付けされたフィレの確認が容易となる上、電極間の短絡も起きにくくなる。」(公告公報第3欄第27?32行参照)という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「また、導電部間の距離が一定となり、導電部間の静電容量を基板ごとに一定とすることができる。さらに、基体側面に、各電極を区切る凹部を設けているので、はんだ付けされたフイレの確認が容易となる上、電極間の短絡も起きにくくなる。しかも、導電部は、基体の表面に形成した銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に第2の金属膜を重層して形成したものであるため、導電部の抵抗値を低く抑えることができる。また、第2の金属膜は第1の金属膜の両端を除いた部位に形成されているので、基板へのジャンパー用チップ部品のはんだ付けを確実ならしめることができる。」と訂正する。
ニ.訂正事項d
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「各導電部6は、基体表面3に形成される銀-パラジウム合金よりなる第1金属膜7上に、銀よりなる第2金属膜8が重ねて形成されている(第2図参照)」(公告公報第3欄第41?44行参照)という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「各導電部6は、基体表面3にその両側縁3a間にわたって連続して延びるように形成された銀-パラジウム合金よりなる第1金属膜7上に、銀よりなる第2金属膜8が重ねて形成されている(第2図参照)」と訂正する。
ホ.訂正事項e
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「もちろん、電極部11、……、11形成時の位置決め精度が高い水準に維持できる場合には、このような凹部10、……、10は必要でない。」(公告公報第3欄第41?44行参照)という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する。
へ.訂正事項f
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「また、導電部6も、上記実施例に示すような二層の金属膜に限られず、またその形状等も適宜設計変更可能である。」(公告公報第5欄第19?21行参照)という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する。
ト.訂正事項g
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「(へ)考案が解決しようとする課題」(公告公報第5欄第22行参照)という記載を、誤記の訂正を目的として、「(へ)考案の効果」と訂正する。
チ.訂正事項h
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「基体表面に複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極を区切る凹部を設けてなるものであるから、」(公告公報第5欄第23行?第6欄第2行参照)という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「基体表面に、複数の互いに独立な導電部を並設し、これら導電部のそれぞれの両端に導電部と一体になる電極部を、互いに隣接するものと電気的に独立して、基体側面に並設し、かつ前記基体の両側面には、各電極部を区切る凹部を設けてなるものであるから、」と訂正する。
リ.訂正事項i
実用新案登録明細書の考案の詳細な説明の欄における「また、はんだ付けされたフィレの確認が容易になる上に、電極間の短絡も起きにくくなる。」(公告公報第5欄第23行?第6欄第2行参照)という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「また、はんだ付けされたフィレの確認が容易になる上に、電極間の短絡も起きにくくなる。しかも、導電部は、基体の表面に形成した銀-パラジウム合金よりなる第1の金属膜上に第2の金属膜を重層して形成したものであるため、導電部の抵抗値を低く抑えることができる。この場合、第2の金属膜は、第1の金属膜の両端を除いた部位に形成されているので、ジャンパー用チップ部品のはんだ付けを確実ならしめることができる一方、第2の金属膜は電気抵抗率が小さいため、導電部としての電気抵抗値を低く抑えることができる。」と訂正する。
審理終結日 1998-04-08 
結審通知日 1998-04-17 
審決日 1998-04-24 
出願番号 実願昭61-37994 
審決分類 U 1 112・ 113- YA (H01R)
U 1 112・ 121- YA (H01R)
U 1 112・ 832- YA (H01R)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 矢田 歩高橋 武彦  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 酒井 進
和田 雄二
常盤 務
秋月 均
登録日 1992-04-07 
登録番号 実用新案登録第1897697号(U1897697) 
考案の名称 ジヤンパ-用チツプ部品  
代理人 西 博幸  
代理人 石井 暁夫  
代理人 東野 正  
代理人 石井 暁夫  
代理人 西 博幸  
代理人 東野 正  
代理人 澁谷 孝  

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