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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E05D
管理番号 1043344
審判番号 審判1999-35697  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-11-29 
確定日 2001-07-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第2586793号実用新案「調整蝶番」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第2586793号の請求項1ないし3に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件実用新案登録第2586793号の請求項1ないし3に係る考案(実願平5-72379号の一部を実願平7-13051号として新たに出願、平成10年10月2日設定登録。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項によって特定された次のとおりのものである。
「【請求項1】 一方の羽根板(1)と、軸芯(12)を介して、回動自在に連結された他方の羽根板(6)を有し、
該一対の羽根板の少なくとも一方(6)は、作動孔(23)を有する位置調整部と、該位置調整部を収容する収容手段と、該収容手段内に配置され、かつ、該作動孔(23)と共働する、偏心軸(26)を備えた調整カム(24)を有し、
該調整カム(24)の偏心軸(26)を回動させることにより、扉の前後方向に該収容手段を移動可能としたことを特徴とする調整蝶番(47)。
【請求項2】 該位置調整部が調整板(20)である請求項1に記載の調整蝶番。
【請求項3】 該収容手段が調整匣(27)である請求項1または2記載の調整蝶番。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件実用新案登録を無効とする、との審決を求め、その理由として、以下のものを挙げている。
(2-1)無効理由(i)
本件実案の登録請求の範囲第1項には、「扉の前後方向に該収容手段を移動可能としたことを特徴とする調整蝶番」との記載がある。しかし一方、その詳細な説明中には「各取着孔28を介してビスなどで調整匣27(収容手段)を扉枠などに固定取着する」(登録公報(3)頁6欄50行ないし(4)頁7欄1行)とあり、この記載によれば収容手段は移動可能ではない。請求項2及び3は同1項の実施態様項であり、同じく詳細な説明と対応していない。したがって、本件登録実用新案に係る考案は、その請求の範囲と詳細な説明とが対応していない。よって、本件実案は実用新案法5条4項、同6項1号に違反して登録されたものである。
(2-2)無効理由(ii)
本件登録実用新案に係る考案は、その出願前に出願され、出願後に公開された出願の当初明細書(甲第1号証)に記載された発明と同一であるから、本件実案は実用新案法3条の2に違反して登録されたものである。
(2-3)無効理由(iii)
本件登録実用新案に係る考案は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証ないし甲第5号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、本件実案は実用新案法3条2項に違反して登録されたものである。

3.請求人が提出した甲第1号証ないし甲第5号証
(3-1)甲第1号証:特願平5-136058号(特開平6-346654号公報)
摘記省略。
(3-2)甲第2号証:実願平3-112072号(実開平5-52159号)のCD-ROM
「【0032】
次に固定ブロック3の凹孔5に形成した凹孔10内の一端、すなわち内側の壁面にストッパ22を収容し、その際カム軸25の円筒面を上記壁面に押し当て、その平坦面と凹孔10内の他端との間にスプリング26を収容し、カム24を図5上反時計方向へ付勢して、その先端部を常時は係合部56a,57aの移動域に位置付ける。
【0033】
この後、調整板13を凹孔5に収容し、該板13に形成した透孔21にストッパ22の端部を収容するとともに、凸部15に形成したネジ孔16に調整ネジ17をねじ込み、これを通孔7に挿入して、凹部18から突出する螺軸端部に座金19を取付け、該軸端を適宜手段でカシメて、調整板13と一体に固定ブロック3の定位置で回動可能に連結する。・・・
【0035】
そして、固定ブロック3の表面にカバープレート27を収容し、通孔32とストッパ22の端面、および開口窓33と凸部15とを位置合わせしたところで、ビス孔30を介してビス29をネジ孔12にねじ込み、該プレート27を固定ブロック3に固定する。」、
「【0038】
このような状況の下でドア1を縦枠34に取り付ける場合は、切欠部9を羽根板43に向けてドア1を保持し、これを図9および図10の矢視方向へ移動して、切欠部9に羽根板43の先端部を押し込む。
【0039】
このようにすると、係合片56,57が調整板13上を移動し、一方の係合片56の係合部56aがストッパ22のカム24と当接する。
この後、ドア1を一層強力に押し込むと、カム24がスプリング26の弾性に抗して、図10上時計方向へ押し回され、係合片56の進路を開放する。
【0040】
このため、係合片56,57が更に奥部へ進入し、それらの係合部56a,57aが段部14の係合部14a,14aと係合し、かつその先端がストップガイド20に当接したところで、停止する。
【0041】
上記羽根板43の停止と前後して、係合溝58がカム24の周辺に移動し、係合部56aとカム24との係合が解かれて、カム24がスプリング26の復元力で原位置に復帰回動してロック溝58と係合し、羽根板43の抜け止めを行なう」、
「【0047】
次に閉扉時における図12の状態から、ドア1を縦枠34に対し側方へ移動調整する場合は、調整ネジ17を所定方向、例えば反時計方向へ回動操作する。
このようにすると、調整板13が調整ネジ17の螺軸に沿って凹孔5の底部側へ移動し、該板13と一体の段部14が同動して、該段部14に係合した羽根板43の一端を同方向へ引き寄せる。
【0048】
このため、羽根板43が側壁8の端面を支点に図12上反時計方向へ回動し、その基端部、つまり舌片47と係合下の係止ナット45が、スクリューシャフト40の回りを反時計方向へ回動し、その移動量e分ドア1が縦枠34から離間して側方へ移動調整される。・・・」。

(3-3)甲第3号証:米国特許第2,611,921号明細書
「ヒンジリーフ4は、取付部材5の凹部によって形成される対応のガイドシート14内で移動可能である。此のガイドの縁部20は、対応の斜め縁部を備えたヒンジリーフ4がガイド内で移動しても取付部材が相互に外れないように斜めに形成されている。」(3欄3ないし11行、訳文2頁12ないし15行)、
「ヒンジリーフ4の中央には矩形孔15が設けられており、ねじ17用の偏心孔を持つ八角板16がこの矩形孔15に収容される。このねじ17により、八角板は取付部材5に保持され、取付部材は窓枠、ドア枠、側柱などに保持される。ねじ17を緩めて八角板16を所望の位置に回すと、取付部材すなわち板5に対してヒンジリーフ4を様々な位置に調節して、ヒンジの横方向調節が可能となる。」(3欄14ないし25行、訳文2頁16ないし21行)、
「ヒンジリーフ4と取付板5とは、孔18から突出するねじによって装着された被覆板(図示せず)で覆われている。」(3欄34ないし38行、訳文2頁24ないし25行)、
「ヒンジリーフ2と、ヒンジピン8を介して回動自在に連結されたヒンジリーフ4とを有する相互移動自在な調節部材を備えたヒンジ」(fig.1)。

(3-4)甲第4号証:欧州特許公開第0497107A1号公報
「取付板4は、コーナーヒンジアングル6に接続され、同様に簡略に図示されているコーナーヒンジアングル6に配置された、図示されていないねじによって固定される。」(2頁2欄33ないし37行、訳文3頁5ないし7行)、
「面圧調節は、コーナーヒンジアングル6に回転を可能として接続された、回転軸に対して偏心で配置される外周部を持つ2つの円筒ピン11,12により、行なわれる。それぞれの円筒ピンは、これらを取り囲む、コーナーヒンジアングル6の所属する辺に向かって延びている2つの長穴13、14と協働する。それぞれの円筒ピン11,12を互いに反対方向に回転した場合は、コーナーヒンジアングルと取付板間の平行移動が実現される。これにより、窓枠5と窓7間の密封間隔15が変化する。」(2頁2欄48行ないし3頁3欄2行、訳文3頁13ないし18行)。

(3-5)甲第5号証:欧州特許公開第0259618A2号公報
「調整機構は、図示の実施形態において、ヒンジ管状本体部32''に溶接された、偏心ボルト26が貫通できる1つの長穴22を有している蝶板21により、構成されている。この偏心ボルト26は、カバープレート23に回転を可能として取り付けられている。またこのカバープレート23には、リセス28が成形加工されており、蝶板21をその中に押し込んで、そこに変位を可能として収容できるようになっている。」(3頁3欄47ないし55行、訳文4頁12ないし17行)、
「長穴22は、偏心輪の直径に応じた幅と、偏心輪の行程の2倍分、さらに余分に延びている長さとを有している。この長穴内を転動される偏心輪(図3Aの回転方向矢印)は、長穴に対して横向きの偏位運動を生じるようになっており、詳細には、1回転する都度、初期位置から片側に向かって1行程、さらに反対側に向かって1行程、往復した後で、再び初期位置(中央位置)に戻るようになっている。これにより蝶板は、矢印が示す回転方向に、ドアや窓のフレームに向かって押し動かされることになり、またこれに伴なって、扉はフレームから離れていく。このように図示の配列では、フレームに取り付けられた蝶板21が、扉に取り付けられたカバープレート23に対して、相対的に移動するようになっている。」(3頁4欄14ないし28行、訳文4頁26ないし34行)。

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、答弁書において、無効理由(i)ないし(iii)に対して次のように主張している。
(4-1)無効理由(i)に対して
「無効審判請求人(以下、「請求人」という)は、本件実用新案登録請求の範囲の「扉の前後方向に該収容手段を移動可能としたことを特徴とする調整蝶番」の記載中、「該収容手段を移動可能」という部分が考案の詳細な説明と対応していない、という(審判請求書3頁(3)(i))。
しかし、実際にはどちらの記載も正しく、互いに矛盾していない。一見、対応していないように見えるのは、どこを起点にして動作を観察して記載したかという視点の違いにすぎない。即ち、本件実用新案登録請求の範囲では、羽根板1を起点として収容手段の動きを「移動」と見ている。それに対して、詳細な説明では、本件蝶番を設定した状態に基づき、羽根板1の方が移動する、と記載した。・・・
したがって、本件実用新案の明細書及び登録請求の範囲の記載は、実用新案法第5条第4項、同第6項第1号に違反するようなものではない。」(答弁書3頁9ないし24行)。

(4-2)無効理由(ii)に対して
「本件考案の考案と、甲第1号証に記載された発明とは、
(マル1)甲第1号証発明において偏心カムに代えて円周カムが使用されている点、
及び、
(マル2)甲第1号証発明においては調整方向が扉の上下方向であるのに対して、本件考案の調整方向は扉の前後方向である点で相違している。
そして、調整方向が上下と前後で相違するという点は、「簡単な調整機構で扉の前後の調整操作が確実に行われる」という、考案の機能をも相違させるものであり、相違点としては重大なものである。・・・
よって、本件考案は、甲第1号証発明と実質的に同一ではなく、本件考案は実用新案法3条の2に違反して登録されたものでないことは明らかである。」(同書4頁3行ないし5頁6行)。

(4-3)無効理由(iii)に対して
(イ)「甲第2号証は、カムによる位置調整を行う蝶番ではなく、審判請求書8頁において「位置調整部」と名付けた部材はカムと共働して位置調整を行う機能を有するものではない。また、「収容手段」と名付けた部材はカムによって動く位置調整部の動く方向を規定するという機能を有するものではない。」(同書5頁18ないし21行)、
(ロ)「甲第3号証の発明では、カムを使用した場合のように、連続的に、あらゆる距離の位置調整ができるものではなく、八角板で用意された四つの距離の位置調整しか出来ず、また、位置調整を行う場合は、八角板を一旦矩形孔15から抜いて、八角板を回転させ、その後もう一度矩形孔に八角板をはめ込むという作業を行う必要があり、本件考案のドライバを回すだけというように、位置調整が簡単に行えるものではない。」(同書7頁6?11行)、
(ハ)「本件考案は、一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有する蝶番であるのに対して、甲第4号証の蝶番は、審判請求書11頁の記載(Aがない)及び図からも明らかなように、他方の羽根板を有しない蝶番であり、明らかに本件考案と蝶番の種類を異にする。」(同書7頁27行ないし8頁2行)、
(ニ)「本件考案は、一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有する蝶番であるのに対して、引用例4(甲第5号証)の蝶番は、審判請求書12,13頁の記載(Aがない)及び図3、10からも明らかなように、他方の羽根板を有しない蝶番であり、明らかに本件考案と蝶番の種類を異にする。
次に、甲第5号証において、カム26の回動による、羽根板21とカバープレート23の相対的な位置変化は、左右方向であり、前後方向に調整を行う本件考案とは、明らかに調整方向を異にする。・・・
甲第5号証の蝶番は、窓の扉等3を、ベースプレート25とカバープレート23の間に挟み込む構造となっている(図3、図10参照)。
このため、当然窓の扉等はそれ程厚いものであってはならない。これに対して、本件考案は、・・・その取り付けるドアはある程度の厚さがあることを前提にしている。したがって、甲第5号証の蝶番の構造を、本件考案が前提とする通常のドアのための蝶番に利用することはできない。
また、甲第5号証においては、取り付ける対象である窓の扉等3自体が収容手段の一部を形成しているが、本件考案では、扉自体が収容手段の一部を形成するということはなく、収容手段とこれを取り付ける扉とは別物である。・・・
そうすると、本件考案と甲第5号証とは、蝶番の種類、調整方向、及び考案の構造を異にしており、甲第5号証からして、本件考案には、新規性あるいは進歩性が認められないとする請求人の主張には理由がないのは明らかである。」(同書8頁17行ないし10頁3行)。
(ホ)「蝶番の技術分野における進歩性について
本件考案については、株式会社中尾製作所(以下「中尾」という。)から、特許庁に異議の申立てがなされていたが(乙第1号証)、これについては、平成11年11月2日、本件実用新案の請求項1ないし3に係る実用新案登録を維持する旨の決定が下された(乙第2号証)。
本件考案の出願前に公知であった蝶番によって、本件考案の進歩性が欠如することになるかという点について、かかる決定は、
(マル1)「一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有する蝶番」という蝶番の種類、
(マル2)「羽根板の少なくとも一方は、作動孔を有する位置調整部と、該位置調整部を収容する収容手段と、該収容手段内に配置され、かつ、該作動孔と共働する、偏心軸を備えた調整カムを有する」という考案の構造、
(マル3)「扉の取付位置を前後方向に調節機構として、作動孔と共働する偏心軸を備えた調節カムを採用する」という調整方向、
といった相違点を総合的に検討し、中尾があげた蝶番によっては、本件考案の進歩性が欠如することはないと判断している。・・・
以上からしても、本件において、請求人があげる引用例によって、本件考案の進歩性が欠如することがないのは明らかである。」(同書10頁5?25行)。

5.被請求人が提出した乙第1号証ないし乙2号証
(5-1)乙第1号証
株式会社中尾製作所による本件登録に対する実用新案登録異議申立書
乙号証に添付の甲号証
(甲第1号証):実願昭57-162232号(実開昭59-65172号)のマイクロフィルム
(甲第2号証):高橋金物(株)総合カタログATOM DATA LINE
(甲第3号証):ハーフェレ社総合カタログ ''The Complete H(aウムラウト)fele''
(甲第4号証):独国特許第3305272C2号明細書
(甲第5号証):独国特許第2460127C3号明細書
(甲第6号証):特開平4-70480号公報
(5-2)乙2号証
上記事件における異議決定

6.当審の判断
(6-1)実用新案法5条4項、同6項1号について(無効理由(i))
請求人は、本件の実用新案登録請求の範囲の請求項1には、「扉の前後方向に該収容手段を移動可能としたことを特徴とする調整蝶番」との記載があり、一方、その詳細な説明中には「各取着孔28を介してビスなどで調整匣27(収容手段)を扉枠などに固定取着する」(登録公報(3)頁6欄50行?(4)頁7欄1行)とあり、この記載によれば収容手段は移動可能ではないから、本件登録実用新案に係る考案は、その請求の範囲と詳細な説明とが対応していない、又、請求項2及び3は請求項1の実施態様項であり、同じく詳細な説明と対応していないと主張する。
確かに、考案の詳細な説明では、調整匣27(収容手段)を扉枠などに固定取着とあり、一見、収容手段は、移動不可能であるかのようにみえる。
しかし、収容手段を扉枠などに固定取着しても、蝶番自体は、調整カム(24)の回動により扉枠に対して移動可能であり、扉枠などに固定取着した収容手段は、蝶番に対して相対的には移動可能といえ、蝶番を基準にするか、扉又は扉枠を基準にするかの相違にすぎず、実用新案登録請求の範囲と考案の詳細な説明とが対応していないとまではいえないから、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(6-2)実用新案法3条2項について(無効理由(iii))
(請求項1)
本件請求項1に係る考案と甲第3号証記載の考案とを対比すると、甲第3号証記載の考案の「ヒンジリーフ2」、「ヒンジピン8」、「ヒンジリーフ4」、「相互移動自在な調節部材を備えたヒンジ」が、請求項1に係る考案の「一方の羽根板(1)」、「軸芯(12)」、「他方の羽根板(6)」、「調整蝶番(47)」にそれぞれ相当し、甲第3号証記載の考案の「ヒンジリーフ4」は、それ自体「位置調整部」としての機能を果たし、甲第3号証記載の「取付部材5」及び「図示しない被覆板」により「位置調整部」(ヒンジリーフ4)を収容しており、甲第3号証には、収容手段が記載されていると認められることから、両者は、「一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有し、該一対の羽根板の少なくとも一方は、位置調整部と、該位置調整部を収容する収容手段と、扉の前後方向に該収容手段を移動可能とした調整蝶番」である点で一致し、次の相違点(a)が認められる。

(a)扉の前後方向に収容手段を移動可能とする手段が、本件請求項1に係る考案は「収容手段内に配置され、かつ、該作動孔と共働する、偏心軸を備えた調整カムを有し、該調整カムの偏心軸を回動させる」ものであるのに対し、甲第3号証記載の考案が、「ねじ17を緩めて、ねじ17用の偏心孔を持つ八角板16を、作動孔(矩形孔15)内の所望の位置に回す」ものである点。

上記相違点(a)を検討すると、調整蝶番において、作動孔と共働する偏心軸を備えた調整カムを有し、該調整カムの偏心軸を回動させることにより、蝶番と扉との位置調整を図るものは、甲第4号証(円筒ピン11、12等)及び甲第5号証(偏心ボルト26等)に記載されているように公知であり、甲第3号証ないし甲第5号証記載の考案とは、同じ蝶番の技術分野に属する以上、甲第3号証記載の「収容手段を移動可能とする手段」(八角板16等)に替え、甲第4号証又は甲第5号証記載の「収容手段を移動可能とする手段」を採用して、本件請求項1に係る考案の構成とすることは、当業者であれば、きわめて容易に考案をすることができたものである。

(請求項2)
本件請求項2に係る考案と甲第3号証記載の考案とを対比すると、上記一致点、及び、位置調整部が調整板である点で一致し、上記相違点(a)で相違する他に、相違点はない。
そして、上記相違点(a)については、前述のとおり、当業者であれば、きわめて容易に考案をすることができたものである。
なお、仮に、本件の請求項2に係る考案の位置調整部が、実施例に記載されているように、他方の羽根板と調整板が別体のものだとしても、調整蝶番において、他方の羽根板(羽根板43)と調整板(調整板13)とが別体のものが、甲第2号証に記載されているように、公知である以上、この点に考案性はない。

(請求項3)
本件請求項3に係る考案と甲第3号証記載の考案とを対比すると、上記(請求項1)の項記載の一致点又は上記(請求項2)の項記載の一致点、上記相違点(a)、及び、次の相違点(b)が、認められる。

(b)位置調整部を収容する収容手段が、本件請求項3に係る考案は調整匣(27)であるのに対し、甲第3号証記載の考案は「取付部材5及び図示しない被覆板」である点。

上記相違点(a)については、前述のとおり、当業者であれば、きわめて容易に考案をすることができたものである。
上記相違点(b)を検討すると、調整蝶番において、位置調整部を収容する収容手段が「調整匣」であるものは、甲第2号証(固定ブロック3及びカバープレート27)及び甲第5号証(カバープレート23及びベースプレート25)に記載されているように公知であり、同じ蝶番の技術分野に属する以上、甲第3号証記載の「取付部材4及び図示しない被覆板」に替え、甲第2号証又は甲第5号証記載の「調整匣」を採用して、本件請求項3に係る考案の構成とすることは、当業者であれば、きわめて容易に考案をすることができたものである。

なお、付言すると、甲第5号証には、調整蝶番において、「作動孔と共働する偏心軸を備えた調整カムを有し、該調整カムの偏心軸を回動させることにより、蝶番と扉との位置調整を図る」、及び、「位置調整部を収容する収容手段が調整匣である」ことが記載されており、請求項3に係る考案は、甲第3号証記載の考案の「収容手段を移動可能とする手段」(八角板16等)と収容手段(取付部材4及び図示しない被覆板)に替え、甲第5号証記載の考案の「収容手段を移動可能とする手段」(偏心ボルト26等)と「調整匣」(カバープレート23及びベースプレート25)をそれぞれ採用することのみによっても、当業者であればきわめて容易に考案をすることができたものである。そして、請求項1及び請求項2は請求項3の上位概念であり、前記と同様の理由により、当業者であればきわめて容易に考案をすることができたものである。

(6-3)被請求人の主張について
(6-3-1)「作動孔と共働する偏心軸を備えた調整カム」について
被請求人は、(ハ)「本件考案は、一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有する蝶番であるのに対して、甲第4号証の蝶番は、・・・他方の羽根板を有しない蝶番であり、明らかに本件考案と蝶番の種類を異にする。」と主張し、(ニ)「本件考案は、一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有する蝶番であるのに対して、・・・甲第5号証・・・の蝶番は、・・・他方の羽根を有しない蝶番であり、明らかに本件考案と蝶番の種類を異にする。
次に、甲第5号証において、カム26の回動による、羽根板21とカバープレート23の相対的な位置変化は、左右方向であり、前後方向に調整を行う本件考案とは、明らかに調整方向を異にする。・・・そうすると、本件考案と甲第5号証とは、蝶番の種類、調整方向、及び考案の構造を異にしており」と主張し、(ロ)「甲第3号証の発明では、カムを使用した場合のように、連続的に、あらゆる距離の位置調整ができるものではなく、八角板で用意された四つの距離の位置調整しか出来ず、また、位置調整を行う場合は、八角板を一旦矩形孔15から抜いて、八角板を回転させ、その後もう一度矩形孔に八角板をはめ込むという作業を行う必要があり、本件考案のドライバを回すだけというように、位置調整が簡単に行えるものではない。」と主張する。
しかし、甲第4号証及び甲第5号証記載の考案は、本件考案と調整蝶番という上位概念では共通し、甲第4号証及び甲第5号証に記載されているように調整蝶番において「作動孔と共働する偏心軸を備えた調整カム」が公知である以上、甲第3号証記載の「ねじ17を緩めて、ねじ17用の偏心孔を持つ八角板16を、作動孔(矩形孔15)内の所望の位置に回すもの」を、甲第4号証又は甲第5号証記載の「作動孔と共働する偏心軸を備えた調整カム」に転換することに何ら阻害要件は見当たらず、当業者であれば、きわめて容易に考案をすることができたものである。

(6-3-2)「調整匣」について
被請求人は、(イ)「甲第2号証は、カムによる位置調整を行う蝶番ではなく、審判請求書8頁において「位置調整部」と名付けた部材はカムと共働して位置調整を行う機能を有するものではない。また、「収容手段」と名付けた部材はカムによって動く位置調整部の動く方向を規定するという機能を有するものではない。」と主張する。
確かに、甲第2号証記載のカム24は、位置調整を行う機能を有するものではないが、甲第2号証には、カム24とは別の構成として、本件考案と同様に、一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有し調整蝶番において、位置調整部(調整ネジ17)を収容する収容手段(固定ブロック3及びカバプレート27)が調整匣であるものが記載されている点では、本件考案の構成と異ならない。

また、被請求人は、(ニ)「本件考案は、一方の羽根板と、軸芯を介して、回動自在に連結された他方の羽根板を有する蝶番であるのに対して、・・・甲第5号証・・・の蝶番は、・・・他方の羽根を有しない蝶番であり、明らかに本件考案と蝶番の種類を異にする。・・・甲第5号証の蝶番は、窓の扉等3を、ベースプレート25とカバープレート23の間に挟み込む構造となっている・・・このため、当然窓の扉等はそれ程厚いものであってはならない。これに対して、本件考案は、・・・その取り付けるドアはある程度の厚さがあることを前提にしている。・・・ また、甲第5号証においては、取り付ける対象である窓の扉等3自体が収容手段の一部を形成しているが、本件考案では、扉自体が収容手段の一部を形成するということはなく、収容手段とこれを取り付ける扉とは別物である。・・・・・・したがって、甲第5号証の蝶番の構造を、本件考案が前提とする通常のドアのための蝶番に利用することはできない。」と主張する。
確かに、甲第5号証には、蝶番が他方の羽根板を有せず、窓の扉等3をベースプレート25とカバープレート23の間に挟み込む構造となっているものの、調整蝶番において、位置調整部(偏心ボルト26)を収容する収容手段が調整匣(ベースプレート25とカバープレート23)であるものが記載されている点では、本件考案の構成と異ならない。

したがって、本件考案と同一技術分野に属する甲第2号証又は甲第5号証記載の調整蝶番の調整匣を、甲第3号証記載の調整蝶番に採用することに何ら阻害要件はない。

なお、「本件考案は、・・・その取り付けるドアはある程度の厚さがあることを前提にしている。」、及び、「本件考案では、扉自体が収容手段の一部を形成するということはなく、収容手段とこれを取り付ける扉とは別物である。」との被請求人の主張は請求の範囲の記載に基づかない主張である。

(6-3-3)「本件特許に対する別件異議の申立て」について
被請求人は、(ホ)「本件考案(登録)については、・・・特許庁に異議の申立てがなされていたが(乙第1号証)、これについては、平成11年11月2日、本件実用新案の請求項1ないし3に係る実用新案登録を維持する旨の決定が下された(乙第2号証)。・・・以上からしても、本件において、請求人があげる引用例によって、本件考案の進歩性が欠如することがないのは明らかである」と主張をしている。
しかし、上記異議の申立ての申立人の証拠方法(実用新案登録異議の申立て(乙第1号証)添付の(甲第1号証)ないし(甲第6号証))は、本件無効審判の請求人の証拠方法(本件無効審判請求書添付の上記甲第1号証ないし甲第5号証)と、全て相違するから、本件考案が本件無効審判の請求人の証拠に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができないことの根拠にはなりえない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし請求項3に係る考案は、その出願前に頒布された甲第2号証ないし甲第5号証記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件請求項1ないし請求項3に係る考案は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項において更に準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-05-07 
結審通知日 2001-05-18 
審決日 2001-05-30 
出願番号 実願平7-13051 
審決分類 U 1 112・ 121- Z (E05D)
最終処分 成立    
前審関与審査官 南澤 弘明  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 伊波 猛
中田 誠
登録日 1998-10-02 
登録番号 実用新案登録第2586793号(U2586793) 
考案の名称 調整蝶番  
代理人 吉田 聡  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 岡本 昭二  
代理人 竹内 卓  
代理人 藤田 隆  
代理人 窪田 英一郎  

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