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審決分類 審判    B66F
管理番号 1046971
審判番号 無効2000-40028  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-11-27 
確定日 2001-08-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第3068056号実用新案「自動車用油圧式ジャッキ」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3068056号の請求項1ないし4に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 【1】手続の経緯
本件実用新案登録第3068056号の請求項1?4に係る考案についての出願は、平成11年10月7日に出願されたものであって、その請求項1?4に係る考案に対して、平成12年2月2日にその実用新案権の設定がなされたものである。
そして、この請求項1?4に係る考案に対して、大大工業股▲ふん▼有限公司から実用新案登録の無効の審判がなされ、被請求人(本件実用新案権者)からの答弁書が提出された後、平成13年4月10日付けで無効理由通知がなされ、これに対して被請求人から意見書が提出されたものであって、この無効審判事件に対して、平成13年5月24日に特許庁審判廷において第1回口頭審理がなされたものである。

【2】請求項1?4に係る考案
本件実用新案登録の請求項1?4に係る考案(以下、「本件考案1」?「本件考案4」という。)は、本件実用新案登録に係る願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 左右の両側板の間に後端を取り付けた持上げアームを、両側板の間に取り付けた油圧式駆動機構で回転すると、持上げアーム前端に取り付けた受部材がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する自動車用油圧式ジャッキにおいて、
持上げアームは、下降した状態で、上面が前下がりに傾斜する構成にし、受部材は、昇降状態に拘わらず、上端が持上げア一ムの前端より高く位置する構成にし、両側板は、持上げアームの後半部を挟む部分では、下降した持上げアームの後半部上面の高さに一致させ、その部分の上端を前下がりに傾斜させ、持上げアームの前半部を挟む部分では、下降した受部材の上端とほぼ同じ高さにし、その部分の上端をほぼ水平ないし前下がりの緩い傾斜にし、また、両側板は、持上げアームの後半部と前半部を挟む部分の上端に補強用の折り曲げ片を設けたことを特徴とする自動車用油圧式ジャッキ。
【請求項2】 左右の両側板の間に掛け渡したアーム軸に持上げアームの後上端を取り付け、持上げアームの前端に取り付けた受台軸に受台を取り付け、受台に取り付けた軸にリンク棒の前端を取り付け、リンク棒の後端を、側板に取り付けた軸に取り付け、受台の上に、自動車の車体下面に当る受部材を取り付け、持上げアームをアーム軸の回りに回転して受台を上後方に移動すると、受部材がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する平行クランク機構を構成し、両側板の間に油圧式駆動機構を取り付け、油圧式駆動機構の前端に突出したピストンの前端を持上げアームの後下端に連結し、油圧式駆動機構のピストンが押し出されると、持上げアームがアーム軸の回りに回転して受部材がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する構成にした自動車用油圧式ジャッキにおいて、
持上げアームは、下降した状態で、上面が前下がりに傾斜する構成にし、受部材は、昇降状態に拘わらず、上端が持上げアームの前端より高く位置する構成にし、両側板は、持上げアームの後半部を挟む部分では、下降した持上げアームの後半部上面の高さに一致させ、その部分の上端を前下がりに傾斜させ、持上げアームの前半部を挟む部分では、下降した受部材の上端とほぼ同じ高さにし、その部分の上端をほぼ水平ないし前下がりの緩い傾斜にし、また、両側板は、持上げアームの後半部と前半部を挟む部分の上端に補強用の折り曲げ片を設けたことを特徴とする自動車用油圧式ジャッキ。
【請求項3】 両側板は、下端に補強用の折り曲げ片を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用油圧式ジャッキ。
【請求項4】 受部材の最低地上高を85mm位にし、側板の最大地上高を130mm位にしたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の自動車用油圧式ジャッキ。」

【3】請求人の主張および提出した証拠方法
(1)請求人の主張
請求人は、「実用新案登録第3068056号の実用新案登録を無効にする、審判請求費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、「本件実用新案登録の請求項1、2に係る考案は、甲第1号証に記載された考案であり、請求項3に係る考案は、甲第1号証に記載された考案であるか、あるいは甲第1号証及び甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、請求項4に係る考案は、甲第1号証に記載された考案であるか、あるいは甲第1号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、これらの考案は、実用新案法第3条第1項あるいは第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案である。よって、上記請求項1?4に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号により無効とすべきである。」旨主張している。
(2)請求人の提出した証拠方法
請求人は上記主張を立証するために、以下の証拠方法を提出している。
・甲第1号証;米国特許第5,755,099号明細書
・甲第2号証;甲第1号証の「発明の要約」の訳文
・甲第3号証;通信販売カタログ「SEARS1991-92年版」(工業所有権総合情報館,平成3年11月20日受け入れ、受入番号;HD03022152号)

【4】無効理由通知の概要、及び引用刊行物
(無効理由通知の概要)
ところで、本件実用新案登録の請求項1?4に係る考案に対して、当審は平成13年4月10日付けで無効理由通知を被請求人に通知したが、その無効理由通知の概要は、「本件実用新案登録の請求項1、2に係る考案は、刊行物1に記載された考案に基づいて、請求項3に係る考案は、刊行物1及び刊行物2に記載された考案に基づいて、請求項4に係る考案は、刊行物1、あるいは、刊行物1及び刊行物2に記載された考案に基づいて、それぞれ、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、これらの考案は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案である。」というものであり、上記無効理由通知にて引用した刊行物1及び2は、以下に示すものである。
(引用刊行物)
刊行物1;実願昭54-101414号(実開昭56-20992号)のマイクロフィルム
刊行物2;実願昭61-33967号(実開昭62-147691号)のマイクロフィルム
(その記載事項)
上記刊行物1の明細書には、「近時、自動車の低床化に伴い、受金の支持面の最小高をより低くすることが要求されている。本考案は、従来のものと殆んど構造を変えることなく、支持面の高さを低くし、かつ必要に応じて、その高さを簡単に変化しうるようにした自動車用ガレージジャッキに関するもので、以下図面に基いて説明する。
前後方向を向き、かつ概ね平行をなす2枚の側板(1)(1)の間の前部に配設され、後部上端を左右方向の枢軸(2)をもって枢支された、側面形が下向鈍角状を呈するアーム(3)の、前記枢軸(2)より後方へ突出する下端部には、前後方向を向く油圧式伸縮装置(4)におけるピストンロッド(5)の前端が、左右方向を向く枢軸(6)をもって枢着されている。かくしてアーム(3)は、油圧式伸縮装置(4)のピストンロッド(5)の出入に伴い枢軸(2)まわりに回動させられて、その前部を上下に移動させる。アーム(3)の前端左右部に形成された左右方向をなす軸筒(7)(7)には、水平板状をなす受金(8)の後部より、受金(8)と概ね同一平面内において、左右方向に突設した突軸(9)(9)が、それぞれ枢支されている。受金(8)の前部両側より垂下した耳片(10)(10)には、左右方向をなす枢軸(11)が貫挿され、該枢軸(11)の両端には、それぞれ、リンクロッド(12)の前端が枢支されている。各リンクロッド(12)の後端は、側板(1)の内面に重合し、軸ピン(13)をもって、側板(1)に枢支されている。受金(8)の中央部には垂直孔(14)が穿設され、これに、上面を所要形状とした適宜厚さの受具(15)の中央部より垂下する支軸(16)を嵌入することにより、受金(8)の上面に受具(15)を取付けうるようにしてある。」(第1頁第13行?第3頁第6行)との記載があり、この記載事項及び図面の記載事項からみて、刊行物1には、
「左右の両側板1の間に後端を取り付けたアーム3を、両側板1の間に取り付けた油圧式伸縮装置4で回転すると、アーム3前端に取り付けた受具15がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する自動車用ガレージジャッキにおいて、アーム3は、下降した状態で、上面が前下がりに傾斜する構成にし、両側板1は、アーム3の後半部を挟む部分では、下降したアーム3の後半部上面の高さよりわずかに高くし、その部分の上端を前下がりに傾斜させ、アーム3の前部の先端をわずかに挟む部分では、その部分の上端をほぼ水平にした自動車用ガレージジャッキ」(以下、「考案A」という。)が、また、
「左右の両側板1の間に掛け渡した枢軸2にアーム3の後上端を取り付け、アーム3の前端に取り付けた軸筒7に受金8を取り付け、受金8に取り付けた枢軸11にリンクロッド12の前端を取り付け、リンクロッド12の後端を、側板1に取り付けた軸ピン13に取り付け、受金8の上に、自動車の車体下面に当る受具15を取り付け、アーム3を枢軸2の回りに回転して受金8を上後方に移動すると、受具15がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する平行クランク機構を構成し、両側板1の間に油圧式伸縮装置4を取り付け、油圧式伸縮装置4の前端に突出したピストンロッド5の前端をアーム3の後下端に連結し、油圧式伸縮装置4のピストンロッド5が押し出されると、アーム3が枢軸2の回りに回転して受具15がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する構成にした自動車用ガレージジャッキにおいて、アーム3は、下降した状態で、上面が前下がりに傾斜する構成にし、両側板1は、アーム3の後半部を挟む部分では、下降したアーム3の後半部上面の高さよりわずかに高くさせ、その部分の上端を前下がりに傾斜させ、アーム3の前部の先端をわずかに挟む部分では、その部分の上端をほぼ水平にした自動車用ガレージジャッキ」(以下、「考案B」という。)が、
記載されているものと認められる。
そして、刊行物1の上記記載によれば、自動車の低床化に伴い、受部材の支持面の最小高をより低くすることが、本件出願時において解決すべき技術課題であった、と窺える。
また、上記刊行物2の図面の第1図等に記載される自動車用油圧ジャッキの側板の上下端に設けられた折り曲げ片(フランジ)が側板の強度を補強するものであることは、当業者にとって技術常識であるから、刊行物2には、自動車用油圧ジャッキの両側板の上端と下端に補強用の折り曲げ片を設けることが、記載乃至示唆されているものと認められる。
さらに、刊行物2には、第6図の記載からみて、両側板を、持上げアームの後半部を挟む部分では、下降した持上げアームの後半部上面の高さに一致させることが記載されているものと認められる。

【5】無効理由通知に対する被請求人の主たる主張
当審が通知した平成13年4月10日付け無効理由通知に対して、被請求人は、平成13年5月14日付けで提出した意見書において、特に、以下のように主張する。
(1)『刊行物1は、「ジャッキの高さを強度の低下が問題になる程に低くする」ことや「ジャッキの高さを強度の低下が問題になる程に低くするに当り、ジャッキの強度を低下させずに維持する」ことについては、何も言及していない。従って、刊行物1は、本件考案の「油圧式ジャッキを、強度を維持しつつ高さを大幅に低くする課題」を開示してはいない。示唆してもいない。』(意見書第4頁下から第3行?第5頁第2行)、
(2)『刊行物1の考案においては、第1図に示されているように、側板1は、アーム3の前半部を挟む部分では、その前端を除く大部分の上端が水平でもなく、緩い傾斜でもなく、アーム3の後半部を挟む部分の前部と同一の傾斜角度で前下がりに傾斜している。受具15との相対位置関係は、明らかではない。従って、刊行物1の考案は、「両側板の、持上げアームの前半部を挟む部分を、下降した受部材上端とほぼ同じ高さにし、その部分の上端をほぼ水平ないし前下がりの緩傾斜にした」本件考案の第3特徴点がない。本件考案において、両側板の、持上げアームの前半部を挟む部分を、仮に、刊行物1の第1図に示されているように、持上げアームの後半部を挟む部分と同一の傾斜角度で前下がりに傾斜させると、両側板の、持上げアームの前半部を挟む部分は、低くなって弱くなってしまう。「ジャッキを、強度を維持しつつ高さを低くする」本件考案の技術思想は、消滅してなくなってしまう。』(意見書第6頁第8?19行)

【6】対比・判断
(本件考案1について)
そこで、本件考案1と刊行物1記載の考案Aを対比すると、引用例1における「側板1」、「アーム3」、「油圧式伸縮装置4」、「受具15」、「自動車用ガレージジャッキ」は、それぞれ、本件考案1の「側板」、「持上げアーム」、「油圧式駆動機構」、「受部材」、「自動車用油圧式ジャッキ」に相当するから、両者は、
「左右の両側板の間に後端を取り付けた持上げアームを、両側板の間に取り付けた油圧式駆動機構で回転すると、持上げアーム前端に取り付けた受部材がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する自動車用油圧式ジャッキにおいて、持上げアームは、下降した状態で、上面が前下がりに傾斜する構成にし、両側板は、持上げアームの後半部を挟む部分では、その部分の上端を前下がりに傾斜させ、前方の部分では、その上端をほぼ水平にした自動車用油圧式ジャッキ」、
の点で一致し、以下の相違点(イ)?(ニ)で相違する。
そして、この相違点については、請求人及び被請求人の間に争いはない。(第1回口頭審理調書の当事者双方の陳述の要領の箇所を参照)
・相違点(イ);
本件考案1の受部材は、昇降状態に拘わらず、上端が持上げアームの前端より高く位置するのに対し、刊行物1記載の考案では、受部材の上端が持上げアームの前端に対してどのように位置するのか、明らかでない点。
・相違点(ロ);
本件考案1の両側板は、持上げアームの後半部を挟む部分では、下降した持上げアームの後半部上面の高さに一致させているのに対し、刊行物1記載の考案Aでは、そのようになっておらず、下降した持上げアームの後半部上面の高さより高くなっている点。
・相違点(ハ);
本件考案1の両側板は、持上げアームの前半部を挟む部分では、下降した受部材の上端とほぼ同じ高さにし、その部分の上端をほぼ水平にしたものであるのに対し、刊行物1記載の考案Aでは、両側板は、持上げアームの前部の先端をわずかに挟む部分で、その部分の上端をほぼ水平にしたものであり、また、両側板は、そのわずかに挟む部分で、下降した受部材の上端とほぼ同じ高さであるのか、明らかでない点。
・相違点(ニ);
本件考案1の両側板は、持上げアームの後半部と前半部を挟む部分の上端に補強用の折り曲げ片を設けたものであるのに対し、刊行物1記載の考案Aでは、そのような補強用の折り曲げ片を設けていない点。
そこで、上記各相違点について検討する。
・相違点(イ)について;
自動車用油圧ジャッキにおいて、受部材は、昇降状態に拘わらず、上端が持上げアームの前端より高く位置させるものであることは、当業者にとって設計上の技術常識にすぎないから、刊行物1記載の自動車用油圧ジャッキも、その受部材は、昇降状態に拘わらず、上端が持上げアームの前端より高く位置するものであることは、当業者がきわめて容易に想到し得るものである。
・相違点(ロ)について;
両側板を、持上げアームの後半部を挟む部分では、下降した持上げアームの後半部上面の高さに一致させようとすることは、一致させない場合と較べて、格別技術的意味のある事項とはいえず、しかも、当該事項は、刊行物2に記載されている事項であることも考慮するならば、この点は、当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度の設計事項にすぎないものというべきである。
・相違点(ハ)について;
刊行物1によれば、自動車の低床化に伴い、受部材の支持面の最小高をより低くすることが、自動車用油圧式ジャッキの技術分野において解決すべき技術課題であったものと認められる。そして、そのような技術課題を達成するためには、油圧式ジャッキの自動車床下へ押し込む部分全体を、すなわち、受部材であるとか、持上げアームであるとか、側板であるとかを全て、低くすることは、当業者が必然的に考慮しなければならない自明の技術事項であり、その際、油圧式ジャッキの側板を含む各部分の強度を、持ち上げる自動車の重量に充分耐え得る強度に設定しなければならないことは、当業者にとって技術常識である。
したがって、刊行物1には、油圧式ジャッキの強度を維持しつつ、油圧式ジャッキの高さを低くする課題が示唆されていると云うべきである。
そして、本件考案1においても、また、刊行物1記載の考案Aにおいても、両側板の上端は、持上げアームの後半部を挟む部分では、前下がりに傾斜させ、持上げアームの(前半部ではないが、)前部の先端を挟む部分ではほぼ水平にしている点で相違はない。
また、低床化した自動車の床下の奥へ油圧ジャッキをより深く押し込みたい場合には、側板の強度が許す範囲内で、側板の水平部分をなるべく長くし、前下がりの傾斜部分を後退させるようにすることは、当業者がきわめて容易に想到し得る程度のことであり、しかも、そのように刊行物1の第1図に示される側板の水平部分を、強度を維持しつつ、後端側へ延ばしてより長くすれば、刊行物1記載の考案Aの両側板は、持上げアームの前半部を挟むものとなるから、相違点(ハ)の前半における本件考案1の構成は、刊行物1記載の考案Aに基づいて当業者がきわめて容易になし得るものと認められる。
また、低床化した自動車の床下の奥へ油圧ジャッキをより深く押し込みたい場合に、受部材が自動車の床下に引っ掛からないように、下降した受部材の上端の高さを両側板と同じ高さにし、もって受部材の上端が油圧ジャッキを押し込む際の邪魔にならないようにすることは、押し込みの邪魔となる部分を出来るだけなくすという程度の技術事項にすぎないから、この点は、当業者がきわめて容易に想到し得るものというべきである。
したがって、上記【5】の箇所で述べた無効理由通知に対する被請求人の主たる主張は、採用できない。
・相違点(ニ)について;
油圧ジャッキの両側板の上端に補強用の折り曲げ片を設けることは、一例として、刊行物2に記載されているように、本件出願前、当業者にとって周知の事項にすぎない。
それゆえ、刊行物1記載の考案Aの両側板に、上記周知事項を適用し、もって、刊行物1記載の考案Aの両側板の持上げアームを挟む部分の上端に、補強用の折り曲げ片を設けることは、当業者がきわめて容易になし得たものである。
したがって、本件考案1は、刊行物1記載の考案Aに基づいて当業者がきわめて容易になし得たものである。
(本件考案2について)
次に、本件考案2と刊行物1記載の考案Bとを対比すると、引用例1における「側板1」、「アーム3」、「油圧式伸縮装置4」、「受具15」、「自動車用ガレージジャッキ」、「枢軸2」、「軸筒7」、「受金8」、「枢軸11」、「リンクロッド12」、「軸ピン13」、「ピストンロッド5」は、それぞれ、本件考案1の「側板」、「持上げアーム」、「油圧式駆動機構」、「受部材」、「自動車用油圧式ジャッキ」、「アーム軸」、「受台軸」、「受台」、「(受台に取り付けた)軸」、「リンク棒」、「(側板に取り付けた)軸」、「ピストン」に相当するから、両者は、
「左右の両側板の間に掛け渡したアーム軸に持上げアームの後上端を取り付け、持上げアームの前端に取り付けた受台軸に受台を取り付け、受台に取り付けた軸にリンク棒の前端を取り付け、リンク棒の後端を、側板に取り付けた軸に取り付け、受台の上に、自動車の車体下面に当る受部材を取り付け、持上げアームをアーム軸の回りに回転して受台を上後方に移動すると、受部材がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する平行クランク機構を構成し、両側板の間に油圧式駆動機構を取り付け、油圧式駆動機構の前端に突出したピストンの前端を持上げアームの後下端に連結し、油圧式駆動機構のピストンが押し出されると、持上げアームがアーム軸の回りに回転して受部材がその姿勢を維持したまま上後方に上昇する構成にした自動車用油圧式ジャッキにおいて、持上げアームは、下降した状態で、上面が前下がりに傾斜する構成にし、両側板は、持上げアームの後半部を挟む部分では、その部分の上端を前下がりに傾斜させ、前方の部分では、その上端をほぼ水平にした自動車用油圧式ジャッキ」、
の点で一致するが、上記相違点(イ)?(ニ)と同様の点で、相違するだけである。
そして、これらの相違点に対する判断は、本件考案1について検討した上記箇所で述べた理由と全く同じであるから、本件考案2は、刊行物1記載の考案Bに基づいて当業者がきわめて容易になし得たものである。
(本件考案3について)
次に、本件考案3と刊行物1記載の考案A又は考案Bを対比すると、本件考案3は、本件考案1又は2の事項に、「両側板の下端に補強用の折り曲げ片を設けた」事項を新たに付加したものであるから、両者は、上記相違点(イ)?(ニ)と同様の相違点の外に、下記の相違点(ホ)で新たに相違するが、その余の点では一致する。
・相違点(ホ);
本件考案3の両側板は、下端に補強用の折り曲げ片を設けたものであるのに対し、刊行物1記載の考案A又は考案Bでは、そのような折り曲げ片を具備していない点。
上記相違点(イ)?(ニ)と同様の相違点に対する判断については、上記本件考案1又は2を検討した箇所で述べた理由と同じであるから、上記相違点(ホ)についてのみ検討する。
・相違点(ホ)について;
油圧ジャッキの両側板の下端に補強用の折り曲げ片を設けることは、上記刊行物2に記載されている。
そして、刊行物1記載の考案A又は考案Bも、刊行物2記載の考案も、油圧式ジャッキという同一の技術分野に属する考案であるから、刊行物1記載の考案A又は考案Bに、刊行物2記載の考案を適用し、もって、刊行物1記載の考案A又は考案Bの両側板の下端に補強用の折り曲げ片を設けることは、当業者がきわめて容易になし得るものと認められる。
したがって、本件考案3は、(a)刊行物1記載の考案A及び刊行物2記載の考案、又は、(b)刊行物1記載の考案B及び刊行物2記載の考案、に基づいて当業者がきわめて容易になし得たものである。
(本件考案4について)
さらに、本件考案4と刊行物1記載の考案A又は考案Bを対比すると、本件考案4は、本件考案1?3の各事項に、「受部材の最低地上高を85mm位にし、側板の最大地上高を130mm位にした」事項を新たに付加した考案である。
そして、両者は、上記相違点(イ)?(ホ)と同様の相違点の外に、下記の相違点(ヘ)で新たに相違するが、その余の点では一致する。
・相違点(ヘ);
本件考案4は、受部材の最低地上高を85mm位にし、側板の最大地上高を130mm位にしたでものであるのに対し、刊行物1記載の考案A又は考案Bでは、地上高について、そのような数値限定はない点。
上記相違点(イ)?(ホ)と同様の相違点に対する判断については、上記本件考案1?3について検討した箇所で既に述べた理由と同じであるから、上記相違点(ヘ)についてのみ以下検討する。
・相違点(ヘ)について;
本件考案4における相違点(ヘ)の数値限定は、ジャッキが使用される車の床高さ等を考慮し、当業者であれば通常の創作能力をもって、改良を行うために適宜考える程度の設計事項にすぎない。
したがって、本件考案4は、(a)刊行物1記載の考案A、(b)刊行物1記載の考案B、(c)刊行物1記載の考案A及び刊行物2記載の考案、又は、(d)刊行物1記載の考案B及び刊行物2記載の考案、に基づいて当業者がきわめて容易になし得たものである。
なお、被請求人は、『本件は実用新案登録であるので、特許の進歩性と異なり、「きわめて容易であるか否か」という進歩性の判断をすべき。』(第1回口頭審理調書参照)と主張する。
しかし、「容易であるか否か」という発明の進歩性の判断と、「きわめて容易であるか否か」という考案の進歩性の判断との間に、本質的な相違を設けなければならないという合理的な根拠はなんら見当たらないので、上述した判断を覆すに足る理由とはならないものと認められる。

【7】むすび
以上のとおりであるから、本件考案1?4の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるから、実用新案法第37条第1項第2号に該当する。
したがって、【3】の箇所で記述した請求人の主張を検討するまでもなく、本件考案1?4の実用新案登録は、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-06-08 
結審通知日 2001-06-22 
審決日 2001-07-03 
出願番号 実願平11-7662 
審決分類 U 1 111・ 121- Z (B66F)
最終処分 成立    
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 西川 恵雄
清田 栄章
登録日 2000-02-02 
登録番号 実用新案登録第3068056号(U3068056) 
考案の名称 自動車用油圧式ジャッキ  
代理人 横山 正治  
代理人 山口 朔生  
代理人 河西 祐一  
代理人 水野 桂  

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