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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て一部成立) B32B
管理番号 1048628
審判番号 無効2000-35611  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-11-07 
確定日 2001-10-15 
事件の表示 上記当事者間の登録第2580980号実用新案「内容物透視性と保存性とを有する外包袋」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2580980号実用新案の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 登録第2580980号実用新案の請求項2?5に係る考案についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その5分の4を請求人の負担とし、5分の1を被請求人の負担とする。
理由 1.手続きの経緯
本件登録第2580980号実用新案(請求項の数5)は、平成5年5月24日に出願され、平成10年7月3日に設定登録がなされ、実用新案登録異議申立人・三菱瓦斯化学株式会社により実用新案登録異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月28日に訂正請求がなされ、その訂正が認容されて実用新案登録維持の決定がなされたところ、前記実用新案登録異議申立人と同一人である三菱瓦斯化学株式会社(以下、「請求人」という。)により平成12年11月7日に実用新案登録無効審判請求がなされ、それを受け、平成13年8月10日に口頭審理がなされたものである。
そして、その請求項1?5に係る登録実用新案(以下、請求項m(m=1?5)に係る考案を「考案m」という。)は、訂正後の明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ガスバリヤー層、酸素吸収剤配合樹脂中間層及びヒートシール性樹脂内層(多孔性のものを除く)から成り、酸素吸収剤配合樹脂中間層がガスバリヤー層よりも内側に位置する第一の積層シートと、耐ピンホール性樹脂層、ガスバリヤー層及びヒートシール性樹脂内層を備えた透明な第二の積層シートとを、ヒートシール性樹脂層同士が対面するように重ね合わせ、ヒートシールにより製袋して成ることを特徴とする内容物透視性と保存性とを有する加熱殺菌可能な外包袋。
【請求項2】上記第一の積層シートの中間層が吸水性の熱可塑性樹脂から成る請求項1記載の外包袋。
【請求項3】上記第一の積層シートの中間層に吸水剤が配合されている請求項1記載の外包袋。
【請求項4】上記第一の積層シートのヒートシール性樹脂内層が白色に着色されている請求項1記載の外包袋。
【請求項5】上記第一の積層シートのヒートシール性樹脂内層に吸水剤が配合されている請求項1記載の外包袋。」

2.請求人の主張
これに対し、請求人は、甲第1号証(特開昭62-221352号公報)、甲第2号証(特公昭62-1824号公報)、甲第3号証(特開昭63-168348号公報)、甲第4号証(特開平1-278335号公報)、甲第5号証(特開平2-56547号公報)(以下、甲第n号証(n=1?5)を「甲n」、該甲号証記載の考案を「甲n考案」という。)を添付した平成12年11月7日付審判請求書及び平成13年8月10日付口頭審理陳述要領書を提出し、
1)考案1は、甲1?3考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、請求項1に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであり、
2)考案2は、甲1?3考案及び甲4考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、請求項2に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであり、
3)考案3は、甲1?3考案及び甲4考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、請求項3に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであり、
4)考案4は、甲1?3考案及び甲5考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、請求項4に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであり、
5)考案5は、甲1?3考案及び甲4考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、請求項5に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであるから、
請求項1?5に係る実用新案登録は、同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものである、
と主張する。

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、平成13年2月16日付審判事件答弁書及び平成13年8月10日付口頭審理陳述要領書を提出し、
請求人の主張する理由及び提出された証拠のいずれによっても、前記請求項1?5に係る実用新案登録を無効とすることはできない、
と主張する。

4.当審の判断
4の1.甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.「耐熱性を有する柔軟なプラスチック材料で形成された少なくとも一つ以上の排出口を有する容器であって酸素によって変質しやすい成分を含む薬液を充填したものと脱酸素剤をともに、少なくとも前記脱酸素剤の周囲に空間が存在するように高い酸素ガス非透過性を有する包装材料に封入し、前記薬液中において薬液を変質させない酸素濃度にしたことを特徴とする酸素による薬液の変質を防止する薬液入りプラスチック容器。」(特許請求の範囲第1項)、
イ.「本発明は、……高圧蒸気滅菌及び長期に渡って薬液の変質することのない薬液入りプラスチック容器……に関する。」(3頁左上欄12?15行)、
ウ.「前記耐熱性と高い酸素ガス非透過性を有する包装材料は、エチレン-ビニルアルコール共重合体……の層を有する三層ラミネートフィルム……がある。……また、前記……三層ラミネートフィルムは、透明であるので包装材料内の薬液の異物検査や変質度合いの検査等を容易に行うことができるが、その酸素ガス非透過性能は湿度による影響を受けやすい。……この三層ラミネートフィルムの外層は、ポリアミド樹脂等の耐熱性があり比較的水蒸気透過性の高い樹脂をラミネートすることが好ましい。……この内層には未延伸ポリプロピレンフィルム……をラミネートすることが好ましく、熱溶着性が良好となる。」(5頁左上欄7行?同頁左下欄1行)、
エ.「また、包装材料として、上述の三層ラミネートフィルムを片面に……用い、一方他の面……には上述のエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムのかわりにアルミニウム層を有するラミネートフィルムを用いてもよい。このようにすれば、包装材料の片面……が透明になるので、包装材料内の薬液の異物検査や変質度合いの検査等を容易に行うことができ、また酸素ガス非透過性能の湿度による影響を少なくすることができる。」(5頁左下欄10行?同頁右下欄2行)、
オ.「実施例1 必須アミノ酸を主成分とする……輸液を……ポリエチレン製のバッグに充填した。………この薬液入りバッグを、二軸延伸ナイロンフィルム……を外層としエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム……を中間層とし未延伸ポリプロピレンフィルムを内層とする三層ラミネートフィルムで包装した。このとき、脱酸素剤……を同封……した。この包装材料で包装された薬液入りバッグを115℃で40分間高圧蒸気滅菌をした。……このようにして、所望の薬液入りプラスチック容器を破袋することなく得た。」(7頁右下欄6行?8頁左上欄9行)、
カ.「[発明の効果]
(1)滅菌中及び滅菌後の保存中に酸素による容器内の薬液の変質を防止し、安定な状態で薬液を保存することができる。
(2)プラスチック製であるので、軽く運搬に便利である。
(3)柔軟な薬液入りプラスチック容器は、クローズドシステムに用いることができ、空気感染を防止できる。
(4)包装材料は透明性を有するので、異物検査や保存状態の観察等を行うのが容易である。」(8頁左下欄下から4行?同頁右下欄7行。ただし、上記「( )」内の数字は、現実には丸付き数字で表記されている)。
キ.脱酸素剤が小袋状で封入されていることを示す、上記薬液入りプラスチック容器の実施例の正面図に相当する第1?3a図(図中、14,24,34が脱酸素剤)。
b.甲2
ク.「酸素ガス透過性を有する樹脂Pに還元性物質を主剤とする脱酸素剤dを配合して成形してなる層(P+d)と、酸素ガス遮断性を有する層Vとを積層した構成を有する包装用多層構造物。」(特許請求の範囲第1項)、
ケ.「近時食品、医薬品の品質保持……を目的とした次のような技術が提案されている。
(イ)真空包装)
……
(ハ)脱酸素剤を袋に入れて食品等の内容物と共に包装容器(袋……など)内に封入する方法
さて、……(ハ)の方法は……次の如き難点がある。
即ち公知の脱酸素剤ではいずれも食品、医薬等と接触することは好ましくないので予め脱酸素剤を袋詰めにして食品等の内容物と共に包装容器内に封入しなければならないが、このような封入操作は自動包装の大きな妨げになり、実用化に支障となるのである。
本発明は、上記のような従来の問題点を解決することを目的になされたものである。」(1頁1欄19行?同頁2欄15行)、
コ.「まずV/(P+d)の層構成を有する2層構造物は、V層が外側、(P+d)層が内側になるように袋……等の包装容器を形成すれば、包装容器内部の空気中の酸素は(P+d)層のdに吸収されてすみやかに減少し、ついには0.1%以下にまでなる。一方外部の空気中の酸素はV層にはばまれて内部に滲透することができず、仮に微量浸透しても(P+d)層の所でdにキャッチされてしまう。これにより包装容器内部は長期間無酸素条件下に保たれるので、食品、医薬品の保存……等に卓効を奏するようになる。」(3頁5欄7?18行)、
サ.「以上述べたV/(P+d)の2層構造には、さらに……他の層を付加することができる。……代表的な構成を例示すれば、
V/(P+d)/X
の構成において、X層として……ヒートシール性を有する樹脂層を設け、これを内側にすれば製袋に際しヒートシールが円滑にできること、内容物……と脱酸素剤とが接触しないことなど実用上極めて大きな効果が奏される。」(3頁5欄41行?同頁6欄10行)、
シ.上記Vとして、エチレン含量36モル%、酢酸ビニル成分のケン化度98.9モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、(P+d)として、変性低密度ポリエチレン(P)と還元鉄系脱酸素剤(d)との重量比1:1の混合物、Xとして、低密度ポリエチレンを使用してなる多層構造物を作成し、ヒートシール層(=X)を内側にしてヒートシール法により袋を作成したこと(4頁7欄14?27行、同頁8欄26?33行。例1及び例3要約)。
c.甲3
ス.「(1)……エチレン-ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア層の保護層として水分により脱酸素機能を有する脱酸素剤を混入した酸素吸収層を接着剤層を会して設けた多層構造体。」(特許請求の範囲。ただし、前後の記載より、上記「会して」は「介して」の誤記と解される。)、
セ.「エチレン-ビニルアルコール系樹脂は、乾燥状態では高いガスバリア性を示すが水分依存性が高く、水分の影響によるガスバリア性の低下が著しいものである。そのため、エチレン-ビニルアルコール系樹脂を使用する場合、その両側を防湿性の優れたポリオレフィン層を設けた多層構造体として使用されている。このような多層構造体をとってもレトルト殺菌のように苛酷な条件で使用すると中間に位置するエチレン-ビニルアルコール系樹脂が水分に曝され、ガスバリア性の低下は免がれないものであった。」(2頁右上欄3?14行)、
ソ.「本発明は、上記欠点を解消し、レトルト殺菌等の加熱殺菌等で侵入する水分を利用し、侵入する酸素を内部まで到達しないように……した容器、フィルム等の多層構造体を提出することを目的とする。」(2頁左下欄18行?同頁右下欄4行)、
タ.「(作用) レトルト殺菌時に外側から水分が侵入して、ガスバリア層のガスバリア性が低下しても、侵入した水分により酸素吸収層の脱酸素剤が、酸素を吸収し、ガスバリア性の低下を補うことができる。」(3頁左上欄8?12行)、
チ.「<実施例1> 共押出し多層シート製造装置により、……総厚520μの4種7層の多層シートを得た。この時、ガスバリア層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物……、酸素吸収層は、ポリプロピレンに硫酸第一鉄、水酸化カルシウムからなる脱酸素剤を……配合したものである。また、……最外層は、ポリプロピレンからなる。……得られた多層シートの各層の厚さは、……多層のポリプロピレン(100μ)/酸素吸収層(100μ)/接着剤層(40μ)/ガスバリア層(40μ)/接着剤層(40μ)/酸素吸収層(100μ)/内層のポリプロピレン(100μ)であった。」(3頁左上欄16行?同頁左下欄8行)、
ツ.「得られた多層シートを……円柱トレイ容器に成形し、……二軸延伸ポリエステル(12μ)/アルミ箔(9μ)/ポリプロピレン(50μ)の構成からなる基材により密封した。次に、この密封した容器を熱水式レトルト殺菌装置により、120℃、30分間のレトルト殺菌を行い、内容物の色の濃度変化を……測定した。」(3頁左下欄9?20行)、
テ.「以上の結果より、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物をガスバリヤー層とするレトルト殺菌用多層容器材料として、外層および内層をポリオレフィン樹脂として、ポリオレフィン樹脂中に脱酸素剤を共存させた酸素吸収層を設けることにより、レトルト殺菌による酸素ガスバリヤー性の低下度合が小さな多層構造体が得られることを確認した。」(4頁左上欄下から6行?同頁右上欄2行)。
d.甲4
ト.「(1)20℃及び0%RHでの酸素透過係数が10^(-12)cc・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下で且つ20℃及び100%RHでの水分吸着量が0.5%以上であるガスバリヤー性樹脂に脱酸素剤及び吸水剤を配合した樹脂組成物の層を備えていることを特徴とするプラスチック多層容器。」(特許請求の範囲の請求項1)、
ナ.「(7)前記樹脂組成物の層の両側に耐湿性熱可塑性樹脂の層が設けられている請求項1記載の多層容器。」(同請求項7)、
ニ.「ガスバリヤー性樹脂の最も適当な例としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体を挙げることができ」(5頁左上欄13?15行)、
ヌ.「本発明において、吸湿性ガスバリヤー性樹脂中に脱酸素剤を配合し、この樹脂層に隣接して吸水剤配合樹脂層を設ける場合、吸水剤を配合する熱可塑性樹脂は、前述したガスバリヤー性樹脂、耐湿性樹脂或いは接着剤樹脂……の何れであってもよく、……また、吸水剤は、前述した耐湿性樹脂や接着剤樹脂にも含有させ得ることが了解されよう。」(6頁右上欄10行?同頁左下欄3行)、
ネ.「本発明によれば、吸湿性ガスバリヤー性樹脂層中に、脱酸素剤と吸水剤とを組合せで配合するか、或いは吸湿性ガスバリヤー性樹脂層中に脱酸素剤を配合すると共に、これと隣接するように吸水剤含有樹脂層を設けることにより、熱殺菌のように水分と熱とが同時に作用し、酸素バリヤー性樹脂の本来の酸素バリヤー性が著しく低下する条件下においても、吸湿による水分補給と熱とにより活性化された脱酸素剤が器壁を通過しようとする酸素を有効に捕捉して、その透過を防止し、容器内の酸素濃度を著しく少ないレベルに抑制することが可能となり、しかもその後の経時における酸素透過も少ないレベルに抑制することが可能となった。」(6頁右下欄17行?7頁左上欄10行)。
e.甲5
ノ.「酸素吸収物質を含有したフレキシブルシートの一方の面には酸素透過度50cc/m^(2)・24時間・atm未満かつ水蒸気透過度10g/m^(2)・24時間以下のフレキシブルシートを、他方の面には酸素透過度が50cc/m^(2)・24時間・atm以上のフレキシブルシートを積層したことを特徴とする写真感光材料用包装材料。」(特許請求の範囲の請求項1)、
ハ.「本発明は写真感光材料を脱酸素、防湿、遮光、ガスバリヤ状態で密封包装する包装材料に関するものである。」(1頁左下欄13?15行)、
ヒ.「易酸素透過性フレキシブルシートは、……その最内層がヒートシールが可能であることが好ましく、……かつエチレン共重合体樹脂を含むことがヒートシール適性の点で好ましい。……易酸素透過性フレキシブルシートとして最も好ましいのは、L-LDPEと遮光性物質を含む遮光性ポリオレフィン樹脂フィルムである。」(6頁左上欄14行?同頁右上欄11行)、
フ.「本発明の包装材料では、遮光性を確保するために遮光性を有する層を少なくとも1層具備している。この遮光性を有する層は、難酸素透過性、吸水性、及び易酸素透過性の3フレキシブルシートのそれぞれまたはいづれかのフレキシブルシートであっても、接着剤層であっても、本発明に必須の上記フレキシブルシート以外のさらに積層される各種フレキシブルシートであってもよい。遮光性を有するようにするためには、遮光性物質を添加して行う。……遮光性物質としては、……酸化チタン……等が挙げられる。」(8頁左下欄2行?同頁右下欄2行)、
ヘ.「本発明の包装材料は……写真感光材料以外に水分や光や酸素等により品質劣化が起こる食料品や医薬品……等の感光物質の包装袋としても好適である。」(10頁右上欄16行?同頁左下欄5行)、
ホ.酸素吸収性フレキシブルシート1の一方の面に易酸素透過性フレキシブルシートとしてのエチレン共重合体樹脂フィルム2aが接着剤層3を介して積層され、他方の面に難酸素透過性フレキシブルシートとしての、フレキシブルシート4に金属薄膜加工層5を加工した金属薄膜加工フレキシブルシート6が接着剤層3を介して積層され、該フィルム2a中に遮光性物質が含まれている、上記包装材料(10頁右下欄16行?11頁左上欄3行及び16頁第1図)。
4の2.対比・判断
a.考案1について
考案1(前者)と甲1考案(後者)とを対比すると、先ず、後者の「薬液入りプラスチック容器」(前記ア参照)における「高い酸素ガス非透過性を有する包装材料」(同)は、該容器の高圧蒸気滅菌(前記イ、オ参照)、すなわち、加熱殺菌に用いられるのであるから、明らかに「加熱殺菌可能な外包袋」に相当する。
そして、該包装材料は、具体的には[ポリアミド樹脂外層/エチレン-ビニルアルコール共重合体中間層/未延伸ポリプロピレン内層]からなる透明な三層ラミネートフィルムからなる(前記ウ、オ参照)ところ、
該フィルムのポリアミド樹脂外層、エチレン-ビニルアルコール共重合体中間層、未延伸ポリプロピレン内層は、順次、前者の「第二の積層シート」の「耐ピンホール性樹脂層」(本件実用新案登録公報段落【0016】参照)、「ガスバリヤー層」(同【0015】参照)、「ヒートシール性樹脂内層」(同【0014】を引用した【0016】参照)に相当するから、該フィルムは、前者の「第二の積層体」そのものに相当し、
同時に、該フィルムの前記外層、中間層、内層は、順次、前者の「第一の積層シート」の「保護層」(同【0013】参照。ただし、該保護層については請求項1には記載されていない。)、「ガスバリヤー層」(同段落【0012】をみても、前者の該積層シートのガスバリヤー層素材は何ら特定されていない一方、エチレン-ビニルアルコール共重合体は当業界で周知慣用の代表的ガスバリヤー層素材である。)、「ヒートシール性樹脂内層(多孔性のものを除く)」(【0014】参照)に相当するから、該フィルムは、前者の「第一の積層シート」から酸素吸収剤配合樹脂中間層を除いたものに相当する。
そして、甲1中には明記を欠くものの、ヒートシール性樹脂内層を有する2つのラミネートフィルムを包装用途に用いる場合、該内層同士が対面するように重ね合わせ、ヒートシールにより製袋することは当業者に自明の技術事項と解される。
以上をまとめると、結局、考案1(前者)と甲1考案(後者)とは、
「ガスバリヤー層及びヒートシール性樹脂内層(多孔性のものを除く)を含む一番目の積層シートと、耐ピンホール性樹脂層、ガスバリヤー層及びヒートシール性樹脂内層を備えた透明な第二の積層シートとを、ヒートシール性樹脂層同士が対面するように重ね合わせ、ヒートシールにより製袋して成る加熱殺菌可能な外包袋。」
に係る点で一致し、
「前者では、一番目の積層シートとして、ガスバリヤー層、酸素吸収剤配合樹脂中間層及びヒートシール性樹脂内層(多孔性のものを除く)から成り、酸素吸収剤配合樹脂中間層がガスバリヤー層よりも内側に位置する第一の積層シートを用いる一方、後者では、一番目の積層シート中に該酸素吸収剤配合樹脂中間層は存在せず、外包袋内に小袋状脱酸素剤がその周囲に空間が存在するように封入されている」
点で相違する。
以下、上記相違点について検討する。
甲2には、内容物の品質保持のため、包装袋内に袋詰めした脱酸素剤を入れる技術が従来から知られていたものの、該公知技術には脱酸素剤の袋詰め封入操作が自動包装の大きな妨げになり、実用的に支障となる問題点があった(前記ケの(ハ)参照)ところ、該問題点は、小袋状脱酸素剤の使用に代え、1)例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(=エチレン-ビニルアルコール共重合体)である酸素ガス遮断性を有する層V、すなわち、ガスバリヤー層、2)酸素ガス透過性を有する樹脂Pに還元性物質を主剤とする脱酸素剤dを配合して成形してなる層(P+d)、すなわち、酸素吸収剤配合樹脂中間層、3)ヒートシール性樹脂内層X、の3層を、
V/(P+d)/X
の多層構造、すなわち、「ガスバリヤー層、酸素吸収剤配合樹脂中間層及びヒートシール性樹脂内層(多孔性のものを除く)から成り、酸素吸収剤配合樹脂中間層がガスバリヤー層よりも内側に位置する積層シート」(=考案1の第一の積層シートそのもの)の形態とすることにより解決できること(前記ク、コ?シ参照)が明示されている。
ここで、甲2指摘の小袋状脱酸素剤を用いる場合の自動包装上の支障という問題点が、同じく小袋状脱酸素剤を用いる甲1考案にも存在することは当業者であればただちに理解するところであり、甲2考案は、上記のとおり、ガスバリヤー層とヒートシール性樹脂内層との間に酸素吸収剤配合樹脂中間層を配するという、該問題点の解決策をも教えている。
そして、上記解決策が同じ問題点を有する「外包袋」には適用できないとする特別の阻害要因も見出せない。
その事実は、甲3考案において、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなるガスバリヤー層とヒートシール性樹脂内層との間に酸素吸収剤配合樹脂中間層を配した多層構造体が、現実にレトルト殺菌用包装材料として使用されている(前記ス?テ参照。なお、前記チ中の内層ポリプロピレンがヒートシール性樹脂内層に相当することは、技術常識からして当業者に自明と解される。)ことからも首肯される。
そうすると、甲1考案について、小袋状脱酸素剤使用時の自動包装に絡む前記問題点の解決を図る目的で、該考案の前記三層ラミネートフィルムが透明であることによる利点乃至効果(前記カの(4)参照)を担保すべく、透明な第二の積層シートを用いる点はそのままにして、すなわち、前記考案1と甲1考案とで一致する構成において、小袋状脱酸素剤使用に代え、その一番目の積層シートとして、甲2?3考案が教示する「ガスバリヤー層、酸素吸収剤配合樹脂中間層及びヒートシール性樹脂内層(多孔性のものを除く)から成り、酸素吸収剤配合樹脂中間層がガスバリヤー層よりも内側に位置する第一の積層シート」を用いることは、当業者が格別の創意工夫を要さず想到できることというほかはない。
この点に関し、被請求人は、「小袋状脱酸素剤を用いる甲1考案の出願時点で、既に該脱酸素剤に代え、前記多層構造物を用いる甲2考案が公知になっていたのであるから、甲1考案においても、小袋状脱酸素剤の代わりに甲2記載の多層構造物を用いるのが当然と考えられるにもかかわらず、甲1考案では、煩雑な工程を踏んでまで該脱酸素剤を用いているのであるから、甲1?甲2考案を組み合わせることは、きわめて容易なことではない」(前記口頭審理陳述要領書5頁6?13行)旨、主張する。
しかしながら、前記のとおり、共に考案1の出願前公知の甲1、2を通してみれば、甲1考案に甲2考案と同様の小袋状脱酸素剤の自動包装の難しさという技術的問題点が厳存することが明らかな状況下、その解決策が甲2考案により提示されていれば、該解決策を甲1考案についても採用・試行することは当業者としてむしろ当然といえるから、これに反する被請求人の主張は、妥当なものとはいえない。
ところで、被請求人は、考案1の作用・効果について、
(a)外包袋外側からの酸素の侵入を防止すると共に、脱酸素剤配合樹脂層により外包袋内の酸素を有効に捕捉して外包袋内の残存酸素等の量を低減して、内容物の変質を有効に防止でき、内容物の保存性に優れていること、
(b)脱酸素剤を外包袋を構成する積層体の一つの層に配合して設けているために、脱酸素剤を外包袋内に入れるための特別な工程が不要であり、包装作業が容易であると共に、脱酸素剤が誤って服用される恐れがないこと、
(c)第二の積層体が透明性を有しているので、外包袋を開封しなくても内容物の状態を把握できること、
(d)水分と熱とが同時に作用する条件下で行われる加熱殺菌やレトルト殺菌において、(水分が)脱酸素剤の小袋に滲み込んで脱酸素成分が滲み出す恐れがないこと、
(e)加熱殺菌等によって生じた外包袋内の水分が第一の積層シートの酸素吸収剤の酸素捕捉に使用され、外包袋内の水分が速やかに消失するため、本件考案の外包袋内においては水滴が存在しない状態が通常であり、外包袋内に水滴が存在する場合は、輸液容器に漏洩が生じていることが一目でわかること、
を挙げている(同陳述要領書2頁18行?3頁3行)ので、以下、それらについて検討する。
先ず、(a)のうち、外包袋外側からの酸素侵入防止(a-1)は、第一の積層シートと第二の積層シートの双方にガスバリヤー層が配された、前記考案1と甲1考案との一致する構成によって既に奏せられる効果であり(必要があれば、甲2の前記コをも参照のこと)、脱酸素剤配合樹脂層による外包袋内の残存酸素量の低減による内容物の変質防止(a-2)も、甲2の前記コ、甲3の前記ソ、タ、テ等の開示から予測できる効果にすぎない。
また、(b)及び(d)は、いずれも、小袋状脱酸素剤の使用に代え、前記の理由で甲1?3考案からきわめて想到容易な脱酸素剤配合樹脂層の採用に伴い当然奏される効果であり、さらに、(c)についても、(a-1)と同様、同じく透明な第二の積層シートを用いる、前記考案1と甲1考案との一致する構成によって既に奏せられる効果にすぎない。
そして、被請求人のもっとも強調する「本件考案の外包袋内においては水滴が存在しない状態が通常であり、外包袋内に水滴が存在する場合は、輸液容器に漏洩が生じていることが一目でわかる」旨の効果(e)については、小袋状脱酸素剤使用時の自動包装時の支障解決という、繰り返し述べた別の動機から甲1?3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得る構成を採用することにより、ただちに追認できる程度のものにすぎず〔なお、該効果は、「加熱殺菌等によって生じた外包袋内の水分が第一の積層シートの酸素吸収剤の酸素捕捉に使用され」ることを契機に発現されるものである(前記(e)参照)ところ、甲3にも「レトルト殺菌時に侵入する水分により、酸素吸収層(=酸素吸収剤配合樹脂中間層)中の脱酸素剤が酸素捕捉を行う」旨記載されている(前記タ参照)点は、注目に値する。〕、それをもって格別顕著な効果ということはできない。
以上のとおりであるから、考案1は、甲1?3考案に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものというほかはない。
b.考案2について
請求人は、考案2は「上記第一の積層シートの中間層が吸水性の熱可塑性樹脂から成る」旨規定するものの、甲4には、ガスバリヤー性樹脂に脱酸素剤及び吸水剤を配合した樹脂組成物の層を中間層とするプラスチック多層容器が記載されているから、考案2には進歩性がない、と主張する。
しかしながら、考案2では「酸素吸収剤配合の中間層が有効に水分を吸収できるように、それ自体吸水性を有する樹脂」(本件実用新案登録公報段落【0010参照】)を用いるところ、甲4ではガスバリヤー層自体に脱酸素剤及び吸水剤が配合されているにすぎず(前記ト?ネ参照)、甲1?4のいずれにも、ガスバリヤー層とは別途に存在する、酸素吸収剤配合樹脂中間層を吸水性の熱可塑性樹脂とすることについては記載も示唆もされていない。
これを請求人が前記口頭審理陳述要領書に添付した表1でいうと、甲4の教示からは、甲2?3考案の「第一のシート」における「酸素吸収剤配合中間層」ではなく、高々、該表中の甲1?3考案の「第一のシート」における「ガスバリヤー層(EVOH等)」に脱酸素剤及び吸水材を配合する構成が導かれるだけにすぎない。
一方、考案2は、上記必須の構成を具備することにより、明細書記載の所期の効果を奏するものと認められる。
してみると、考案2は、考案1?4に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということはできない。
c.考案3について
請求人は、考案3の「上記第一の積層シートの中間層に吸水剤が配合されている」旨の必須の構成は、甲4に本件考案の第一の積層シートの中間層に相当する層に吸水剤を配合したことが記載されているから、当業者がきわめて容易に想到できる、と主張する。
しかしながら、考案2について上述(4の2のb参照)のとおり、甲4考案で吸水剤が配合されるのは「酸素吸収剤配合樹脂中間層」ではなく、「ガスバリヤー層」なのである(前記ト?ネ参照)から、考案2についてと同様、甲4考案からは、上記考案3の必須の構成を導き出すことはできない。
一方、考案3は、上記必須の構成を具備することにより、明細書記載の所期の効果を奏するものと認められる。
そうすると、甲1?4考案によっては考案3の進歩性を否定することはできない。
d.考案4について
請求人は、考案4(前者)の「上記第一の積層シートのヒートシール性樹脂内層が白色に着色されている」旨の必須の構成の想到容易性に関し、甲5考案(後者)を引用する。
しかしながら、後者でヒートシール性樹脂内層(前記ヒ、ホ参照)に配合され得る酸化チタン(前記フ参照)は、代表的な白色顔料ではあるものの、あくまで遮光性を有する層を形成する遮光性物質として機能するものである(前記ハ、フ、ホ参照)から、それをヒートシール性樹脂内層に配合する場合には、当然、包装袋全体を遮光性にすべく、第一、第二の積層シートの区別なく、包装材料たる多層フィルムの内層全体に配合するのが当然と解される。
そうすると、甲4考案からは、第二の積層シート(考案4が引用する考案1の構成参照)は透明にしたまま(したがって、第二の積層シートのヒートシール性樹脂内層には白色顔料は配合されない。)、特に第一の積層シートのヒートシール性樹脂内層のみを白色に着色しようとする技術思想は、導き出し得ない。
一方、前者は、上記必須の構成の採用により、甲5考案のいう遮光性層の形成とはかけ離れた、「酸素吸収剤配合中間層が酸素吸収剤によって着色されているためにこれを隠蔽し、また内容物の色等を容易に把握できるように」(同登録公報段落【0014】参照)するという、明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、甲1?3考案及び甲5考案によっては考案4の進歩性を否定することはできない。
e.考案5について
請求人は、考案5の「上記第一の積層シートのヒートシール性樹脂内層に吸水剤が配合されている」旨の必須の構成は、甲4に、甲4考案に係る多層容器(前記ト参照)を構成する耐湿性樹脂内層(=ヒートシール性樹脂内層)に吸水剤を配合させ得ることが記載されている(前記ヌ参照)以上、当業者がきわめて容易に想到できたもの、と主張する。
しかしながら、考案2についての対比・検討(4の2のb参照)で既述のとおり、甲4考案は、先ずガスバリヤー層そのものに脱酸素剤を配合することを前提とし、該ガスバリヤー層中に吸水剤を同時に配合しない場合、ガスバリヤー層と隣接する層(ある場合には、ヒートシール性樹脂内層)中に吸水剤を配合すべきものとしている。
そうすると、そもそも、脱酸素剤がガスバリヤー層ではなく樹脂中間層に配合されている点で甲4考案とは前提が相違する、甲1?3考案から導き出される考案に、甲4考案の知見がただちに組み合わせられるということはできない。
一方、考案5は、該必須の構成を具備することにより、明細書記載の所期の効果を奏するものと認められる。
してみれば、甲1?4考案によっては考案5の進歩性を否定することはできない。

5.むすび
したがって、考案1に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものに該当し、同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
一方、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、考案2?5に係る実用新案登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審決日 2001-08-31 
出願番号 実願平5-27076 
審決分類 U 1 112・ 121- ZC (B32B)
最終処分 一部成立    
前審関与審査官 野村 康秀平井 裕彰  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 喜納 稔
蔵野 雅昭
登録日 1998-07-03 
登録番号 実用新案登録第2580980号(U2580980) 
考案の名称 内容物透視性と保存性とを有する外包袋  
代理人 東平 正道  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 大谷 保  
代理人 鈴木 郁男  

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