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審決分類 審判 全部申し立て   F16J
管理番号 1050176
異議申立番号 異議1999-74559  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2002-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-02 
確定日 2001-10-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 登録第2596198号「ガスケット」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 登録第2596198号の請求項1に係る実用新案登録を維持する。
理由 I.手続の経緯

本件実用新案登録第2596198号(以下、「本件実用新案登録」という。)の請求項1に係る考案についての出願は、平成4年1月14日に実用新案登録出願され、平成11年4月2日にその実用新案権の設定登録がなされ、平成11年12月2日に実用新案登録異議申立人・石川ガスケット株式会社(以下、「申立人」という。)より実用新案登録異議申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年7月16日に訂正請求がなされたものである。


II.訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
(1)訂正事項a
本件実用新案登録に係る願書に添付された明細書(以下、「登録明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載について、
「【請求項1】中空部(2a)が形成された一の部材(2)と、中空部(3a)が形成された他の部材(3)との間に配設され、前記中空部(2a)(3a)が連通した状態で両部材(2)(3)間をシールするガスケットであって、
薄板状のガスケット本体(1a)(21a)に前記中空部(2a)(3a)に合致する開口部(5)(25)を形成するとともに、該開口部(5)(25)の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第1のビード部(7)(27)を形成し、さらに、ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部を前記第1のビード部(7)(27)よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部(7)(27)と同じ高さでかつガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第2のビード部(8)(28)を形成したことを特徴とするガスケット。」とあるのを、
「【請求項1】中空部(2a)が形成された一の部材(2)と、中空部(3a)が形成された他の部材(3)との間に配設され、前記中空部(2a)(3a)が連通した状態で両部材(2)(3)間をシールするガスケットであって、
薄板状のガスケット本体(1a)(21a)の中央部側に前記中空部(2a)(3a)に合致する開口部(5)(25)を形成するとともに、該開口部(5)(25)の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第1のビード部(7)(27)を形成し、さらに、ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部を前記第1のビード部(7)(27)よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部(7)(27)と同じたかさでかつガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第2のビード部(8)(28)を形成すると共に、前記第1のビード部(7)(27)と前記第2のビード部(8)(28)との間に位置するガスケット本体(1a)にボルト穴(6)を設けたことを特徴とするガスケット。」と訂正する。
なお、アンダーラインは、対比の便のため、当審で付したものである。
(2)訂正事項b
登録明細書の段落【0008】の記載について、
「【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するためにこの考案は、中空部が形成された一の部材と、中空部が形成された他の部材との間に配設され、前記中空部が連通した状態で両部材間をシールするガスケットであって、薄板状のガスケット本体に前記中空部に合致する開口部を形成するとともに、該開口部の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体と平行をなす第1のビード部を形成し、さらに、ガスケット本体の外周縁部を前記第1のビード部よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部と同じ高さでかつガスケット本体と平行をなす第2のビード部を形成した手段を採用したものである。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するためこの考案は、中空部が形成された一の部材と、中空部が形成された他の部材との間に配設され、前記中空部が連通した状態で両部材間をシールするガスケットであって、薄板状のガスケット本体の中央部側に前記中空部に合致する開口部を形成するとともに、該開口部の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体と平行をなす第1のビード部を形成し、さらに、ガスケット本体の外周縁部を前記第1のビード部よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部と同じたかさでかつガスケット本体と平行をなす第2のビード部を形成すると共に、前記第1ビード部と前記第2ビード部との間に位置するガスケット本体にボルト穴を設けた手段を採用したものである。」と訂正する。
(3)訂正事項c
登録明細書の段落【0030】の記載について、
「さらに、ガスケットに対して取付けボルトを垂直に挿入することができ、取付けボルトの挿入、ガスケットの取付けが容易で、作業性が向上するという優れた効果を有するものである。」とあるのを、
「ボルト穴を第1ビード部と第2ビード部との間に位置させる態様とした為、一の部材が第1ビード部と第2ビード部とにより安定して支持されるため、ガスケットに対し取り付けボルトを垂直に挿入することができ、取り付けボルトの挿入、ガスケットの取り付けが容易で、作業性が向上するという優れた効果を有するものである。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
「の中央部側に」を付加することは、開口部(5)(25)の位置をより限定的に特定するものであり、「前記第1の…と前記第2の…との間に位置するガスケット本体(1a)にボルト穴(6)を設けた」を付加することは、ボルト穴(6)の位置をより限定的に特定するものであることからみて、訂正事項aは、全体として実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、この訂正事項aは、訂正前の登録明細書の段落【0022】の記載「そして、このガスケット21は方形状のガスケット本体21aの中央部に前記中空部に合致する開口部25が3箇所設けられ、四隅にボルト穴26が設けられている。」及び訂正前の本件実用新案登録に係る願書に添付された図面(以下、「登録図面」という。)の記載(「図1、図3、図4から、第1のビード部(7)(27)と第2のビード部(8)(28)との間に位置するガスケット本体(1a)にボルト穴(6)を設けたことが看取できる。」)からみて、いわゆる新規事項の追加に該当せず、さらに、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正事項aと整合を図るために該訂正事項aとほぼ同様に訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項aと同様に、いわゆる新規事項の追加に該当せず、さらに、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)訂正事項cについて
訂正前の登録明細書に「ガスケットに対して取付けボルトを垂直に挿入することができる」と記載されていて、その要因が「ボルト穴を第1ビード部と第2ビード部との間に位置する」ようにしたことにあることは、明らかであるから、この訂正に係る事項は、訂正前の登録明細書及び登録図面の記載から当業者が直接かつ一義的に導き出せる事項であると認められる。
してみると、訂正事項cは、訂正事項aと整合を図るための訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いわゆる新規事項の追加に該当せず、さらに、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(4)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合する。

3.独立実用新案登録要件の判断
(1)訂正明細書に記載された発明
訂正明細書に記載された請求項1に係る考案(以下、「訂正考案」という。)は、その明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1.(1)訂正事項a参照)。
(2)引用例
申立人が証拠として提示し、当審において通知した取消しの理由に引用した刊行物は、次のとおりである。
イ.甲第1号証:実願昭63-85852号(実開平2-9371号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)
ロ.甲第2号証:実願昭62-13125号(実開昭63-121863号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)
(3)引用例に記載された考案
イ.引用例1
引用例1には、その記載全体からみて、次のような考案(以下、「引用考案1」という。)が記載されていると認めることができる。
「エンジンからの排気通路(中空部(2a))が形成されたエンジン側のフランジ(一の部材(2))と、排気浄化器等への排気通路(中空部(3a))が形成された排気浄化器等側のフランジ(他の部材(3))との間に配設され、前記エンジンからの排気通路及び排気浄化器等への排気通路(中空部(2a)(3a))が連通した状態でエンジン側のフランジ及び排気浄化器等側のフランジ(両部材(2)(3))間をシールするメタルガスケット(ガスケット)であって、
薄板状の内周側平坦部7と外周側平坦部10からなるメタルガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))の内周側平坦部7(中央部側)に前記エンジンからの排気通路及び排気浄化器等への排気通路(中空部(2a)(3a))に合致する通孔3(開口部(5)(25))を形成するとともに、該通孔3(開口部(5)(25))の周縁部を所定の傾斜角で起立させた内周側ビード5aに続いてメタルガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))と平行をなす中間平坦部8を形成し、さらに、メタルガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))の外周側平坦部10を前記内周側ビード5aよりも小さい傾斜角で起立させた外周側ビード5bに続く中間平坦部8を前記内周側ビード5aに続く中間平坦部8と同じたかさで連続して一体的に形成すると共に、前記外周側ビード5bの外周側平坦部10(ガスケット本体(1a))に小通孔4(ボルト穴(6))を設けたメタルガスケット(ガスケット)。」
なお、( )内の記載は、引用考案1の構成要件に相当する訂正考案の構成要件を示す。
ロ.引用例2
引用例2には、その記載全体からみて、次のような考案(以下、「引用考案2」という。)が記載されていると認めることができる。
「シリンダボア孔2に対応する孔(中空部(2a))が形成されたシリンダヘッド4(一の部材(2))と、シリンダボア孔2(中空部(3a))が形成されたシリンダブロック5(他の部材(3))との間に配設され、前記シリンダボア孔2に対応する孔及びシリンダボア孔2(中空部(2a)(3a))が連通した状態でシリンダヘッド4及びシリンダブロック5(両部材(2)(3))間をシールする金属製シリンダヘッドガスケット(ガスケット)であって、
薄板状の金属製シリンダヘッドガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))の中央部側に前記シリンダボア孔2に対応する孔及びシリンダボア孔2(中空部(2a)(3a))に合致する開口部(開口部(5)(25))を形成するとともに、該開口部(開口部(5)(25))の周縁部を所定の傾斜角で起立させて断面形状三角形のビード3を形成し、さらに、金属製シリンダヘッドガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))の外周縁部を起立させて、前記金属製シリンダヘッドガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))と平行をなすビード21を形成すると共に、前記断面形状三角形のビード3と前記ビード21との間に位置する金属製シリンダヘッドガスケットの本体(ガスケット本体(1a))にボルト孔22(ボルト穴(6))を設けた金属製シリンダヘッドガスケット(ガスケット)。」
なお、( )内の記載は、引用考案2の構成要件に相当する訂正考案の構成要件を示す。
(4)訂正考案と引用考案との対比
訂正考案と引用考案1とを対比すると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認めることができる。
<一致点>
中空部(2a)が形成された一の部材(2)と、中空部(3a)が形成された他の部材(3)との間に配設され、前記中空部(2a)(3a)が連通した状態で両部材(2)(3)間をシールするガスケットであって、
薄板状のガスケット本体(1a)(21a)の中央部側に前記中空部(2a)(3a)に合致する開口部(5)(25)を形成するとともに、該開口部(5)(25)の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体(1a)(21a)と平行をなすビード部を形成し、さらに、ガスケット本体(1a)(21a)の前記開口部(5)(25)の周縁部より外周縁部側を前記ビード部よりも小さい傾斜角で起立させて、前記ビード部と同じたかさでかつガスケット本体(1a)(21a)と平行をなすビード部を形成すると共に、前記ガスケット本体(1a)にボルト穴(6)を設けたガスケット。
<相違点>
イ.ビードの態様について、訂正考案では、「開口部(5)(25)の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第1のビード部(7)(27)を形成し、さらに、ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部を前記第1のビード部(7)(27)よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部(7)(27)と同じたかさでかつガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第2のビード部(8)(28)を形成する」としているのに対し、引用考案1では、「通孔3(開口部(5)(25))の周縁部を所定の傾斜角で起立させた内周側ビード5aに続いてメタルガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))と平行をなす中間平坦部8を形成し、さらに、メタルガスケットの本体(ガスケット本体(1a)(21a))の外周側平坦部10を前記内周側ビード5aよりも小さい傾斜角で起立させた外周側ビード5baに続く中間平坦部8を前記内周側ビード5aに続く中間平坦部8と同じたかさで連続して一体的に形成する」としている点(以下、「相違点イ」という。)。
ロ.ボルト穴の位置について、訂正考案では、「第1のビード部(7)(27)と第2のビード部(8)(28)との間に位置するガスケット本体(1a)にボルト穴(6)を設けた」としているのに対し、引用考案1では、「外周側ビード5baの外周側平坦部9に小通孔4(ボルト穴(6))を設けた」としている点(以下、「相違点ロ」という。)。
以下、これらの相違点について検討する。
<相違点の検討>
イ.相違点イについて
この相違点は、ビードの形態と場所の相違、すなわち、訂正考案では、特定の箇所である「開口部(5)(25)の周縁部」と「ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部」の異なる二つの箇所にそれぞれ、「第1のビード部(7)(27)」と「第2のビード部(8)(28)」の二つのハーフビードを具備しているのに対し、引用考案1では、訂正考案1と一部共通する一つの箇所である「通孔3(開口部(5)(25))の周縁部」に、訂正考案1と別異の一つのフルビードを具備するという相違である。
確かに、ハーフビードとフルビードは、それ自体、置換性のあるものと解されるが、引用考案1における「通孔3(開口部(5)(25))の周縁部」の「二つの傾斜角の異なるフルビード」をハーフビードに置換しようとすれば、同じ箇所に傾斜角の異なる二つのハーフビードを形成することが必要であるが、そのようなことは物理的に不可能である。
また、そうだからといって、一方のハーフビードを訂正考案1の「ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部」に相当する「外周側ビード5bに続く中間平坦部8」に設けると、加圧の箇所が引用考案1と異なるようになって、引用考案1が奏することができる作用効果を奏することができなくなるので、この場合、引用考案1のフルビードをハーフビードと置換することを妨げる特段の事情があるといえる。
そうだとすると、引用考案1に引用考案2のハーフビードである「ビード21」の技術思想を適用する余地がない。
してみると、この相違点イは、格別のものというべきである。
ロ.相違点ロについて
引用考案1の「小通孔4(ボルト穴(6))」の位置を、訂正考案1の相違点ロに係る構成要件のようにしようとすれば、引用考案1の「中央平坦部8」に「小通孔4(ボルト穴(6))」を設ける必要があるが、「小通孔4(ボルト穴(6))」の位置が変われば、ガスケットに係る面圧の状況が変わって、引用考案1において「内周側ビード5aの傾斜角と外側ビード5bの傾斜角」の関係を特定していることの意味がなくなって、期待される作用効果を奏することができなくなるので、この場合、引用考案1の「中央平坦部8」に「小通孔4(ボルト穴(6))」を設けることを妨げる特段の事情があるといえる。
そうだとすると、引用考案1に引用考案2のガスケット本体とボルト穴の位置関係「ビード3とビード21との間に位置する金属製シリンダヘッドガスケットの本体にボルト孔22を設ける」の技術思想を適用する余地がない。
してみると、この相違点ロは、格別のものというべきである。
また、視点を変えて、引用考案2における「ビード3」をハーフビードに置換できるか否か検討しても、引用考案2は、該「ビード3」を特定の構成とすることにより特徴的な作用効果を奏するとするものであるので、これをハーフビードにすることを妨げる特段の事情があるといえる。
したがって、訂正考案1は、引用考案1及び引用考案2に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものとすることができない。
なお、申立人が平成13年7月13日付けの回答書に添付した資料(特開昭61-255250号公報、特開昭62-261755号公報、特開平3-156154号公報)を参照しても、上記認定を覆す根拠が見当たらない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、訂正考案は、引用考案1及び引用考案2に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものとすることができなく、実用新案法第3条第2項の規定を根拠として、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない考案とすることができないから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合する。

4.訂正の適否についての判断のむすび
以上、上記2.及び3.で説示のとおりであるから、上記訂正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。


III.実用新案登録異議申立てについての判断

1.申立ての理由の概要
本件実用新案登録の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、本件考案に係る出願の日前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案(「引用考案1」及び「引用考案2」」)に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、旧実用新案法第3条第2項(平成6年法律第116号附則第9条第2項によって準用する特許法第113条第1項第2号)に該当するから、本件考案の実用新案登録を取り消すべきである。

2.判断
本件考案は、前記「II.訂正の適否についての判断」で説示したように、願書に添付した明細書が訂正明細書のとおりに訂正することが認められるものであるから、訂正考案と同じである。
そして、訂正考案は、前記「II.3.独立実用新案登録要件」で説示したように、引用考案1及び引用考案2に基づいて当業者がきわめて容易に考案したものとすることができないものである。
してみると、本件考案は、訂正考案と同じ理由により、引用考案1及び引用考案2に基づいて当業者がきわめて容易に考案したものとすることができないというほかない。

3.むすび
以上のとおりであるから、実用新案登録異議申立ての理由によっては、本件考案の実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に同実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
ガスケット
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 中空部(2a)が形成された一の部材(2)と、中空部(3a)が形成された他の部材(3)との間に配設され、前記中空部(2a)(3a)が連通した状態で両部材(2)(3)間をシールするガスケットであって、薄板状のガスケット本体(1a)(21a)の中央部側に前記中空部(2a)(3a)に合致する開口部(5)(25)を形成するとともに、該開口部(5)(25)の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第1のビード部(7)(27)を形成し、さらに、ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部を前記第1のビード部(7)(27)よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部(7)(27)と同じたかさでかつガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第2のビード部(8)(28)を形成すると共に、前記第1ビード部(7)(27)と前記第2ビード部(8)(28)との間に位置するガスケット本体(1a)にボルト穴(6)を設けたことを特徴とするガスケット。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この考案はガスケットに関し、特に、シール性および取付け時の作業性の向上したガスケットに関するものである。
【0002】
【従来技術および解決しようとする課題】
従来、中空部が形成された一の部材と他の部材との間をシールするガスケットにあっては、図6、図7に示すようなものが知られている。
【0003】
すなわち、図6に示すガスケット51は金属製の薄板からなり、方形状のガスケット本体51aの中央部に一の部材52の中空部52aおよび他の部材53の中空部53aに合致する開口部55が3箇所設けられ、四隅にボルト穴56が設けられている。
また、前記開口部55の周縁部は図7に示すように、斜めに起立してビード部57を形成している。
【0004】
そして、このガスケット51は、図8に示すように、その開口部55を両部材52、53の中空部52a、53aに合致させた状態で一の部材52と他の部材53との間に配設され、四隅のボルト穴56で取付けボルト54によってボルト締めされて両部材52、53間をシールするようになっている。
【0005】
しかしながら、取付けボルト54とビード部57との距離が離れていると、面圧がガスケット51に対して垂直にかからず不均一となりシール性が低下して、低面圧部から中空部52a、53aを流通する流体が洩れるという問題点を有していた。
【0006】
また、ガスケット51を部材52、53間に取付ける際、部材52、53に対してガスケット51が斜めになるため、取付けにくく、取付けボルト54も挿入しにくいため作業性が悪いという問題点も有していた。
【0007】
この考案は前記のような従来のもののもつ問題点を解決したものであって、シール性および取付け時の作業性が向上したガスケットを提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するためこの考案は、中空部が形成された一の部材と、中空部が形成された他の部材との間に配設され、前記中空部が連通した状態で両部材間をシールするガスケットであって、薄板状のガスケット本体の中央部側に前記中空部に合致する開口部を形成するとともに、該開口部の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体と平行をなす第1のビード部を形成し、さらに、ガスケット本体の外周縁部を前記第1のビード部よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部と同じたかさでかつガスケット本体と平行をなす第2のビード部を形成すると共に、前記第1ビード部と前記第2ビード部との間に位置するガスケット本体にボルト穴を設けた手段を採用したものである。
【0009】
【作用】
この考案は上記の手段を採用したことにより、ガスケットを両部材間に配設して取付けボルトを締めると、開口部の周縁部の第1のビード部およびガスケットの外周縁部の第2のビード部は同じ高さに形成されているため、第1のビード部および第2のビード部にかかる面圧は垂直かつ均一になり、シール性が向上する。
【0010】
また、前記開口部の周縁部の第1のビード部の傾斜はガスケットの外周縁部の第2のビード部の傾斜よりも大きくなっているため、開口部の周縁部の第1のビード部のバネ定数はガスケットの外周縁部の第2のビード部のバネ定数よりも大きくなり、開口部の周縁部のシール性が確保される。
【0011】
さらに、ガスケットに対して取付けボルトを垂直に挿入することができ、取付けボルトの挿入、ガスケットの取付けが容易である。
【0012】
【実施例】
以下、図面に示すこの考案の実施例について説明する。
図1、図2にはこの考案によるガスケットの第1の実施例が示されていて、図1にはガスケットの平面図、図2には図1の拡大断面図が示されている。
【0013】
図1、図2に示すガスケット1は、中空部2aが形成された一の部材2と中空部3aが形成された他の部材3との間を前記中空部2a、3aを連通させた状態でシールするガスケット1であって、金属製の薄板から形成されている。
【0014】
そして、このガスケット1は方形状のガスケット本体1aの中央部に前記中空部2a、3aに合致する開口部5が設けられ、四隅にボルト穴6が設けられている。
また、図2に示すように、前記開口部5の周縁部は斜めに起立してガスケット本体1aと平行する第1のビード部7を形成しているとともに、ガスケット1の外周縁部も斜めに起立してガスケット本体1aと平行する第2のビード部8を形成している。
【0015】
そして、前記内周側の第1のビード部7の傾斜角θ1は外周側の第2のビード部8の傾斜角λ1よりも大きくなっている。
すなわち、内周側の第1のビード部7の高さはh1と外周側の第2のビード部8の高さH1とは同じであるが、内周側の第1のビード部7の斜面の幅w1は外周側の第2のビード部8の斜面の幅W1よりも短くなっている。
【0016】
上記のように構成されたガスケット1は、図3に示すようにその開口部5を両部材2、3の中空部2a、3aに合致させた状態で一の部材2と他の部材3との間に配設され、四隅のボルト穴6で取付けボルト4によってボルト締めされて両部材2、3間をシールする。
【0017】
そして、このガスケット1を両部材2、3間に配設してボルト締めすると、内周側の第1のビード部7の高さh1と外周側の第2のビード部8の高さH1とは同じに形成され、ガスケット本体1aと第1のビード部7および第2のビード部8とは平行となっているため、第1のビード部7および第2のビード部8には面圧が垂直かつ均一にかかり、シール性が向上する。
【0018】
また、前記内周側の第1のビード部7の傾斜角θ1は外周側の第2のビード部8の傾斜角λ1よりも大きくなっているため、内周側の第1のビード部7のバネ定数は外周側の第2のビード部8のバネ定数よりも大きくなり、開口部5のシール性が確保される。
【0019】
さらに、ガスケット1に対して取付けボルト4を垂直に挿入して組付けることができ、取付けボルト4の挿入、ガスケット1の取付けが容易で、作業性が向上する。
【0020】
図4、図5にはこの考案によるガスケットの第2の実施例が示されていて、図4にはガスケットの平面図、図5には図4の拡大断面図が示されている。
【0021】
図4、図5に示すガスケット21は、前記第1の実施例と同様に中空部が形成された一の部材と中空部が形成された他の部材との間を前記中空部を連通させた状態でシールするガスケット21であって、金属製の薄板から形成されている。
【0022】
そして、このガスケット21は方形状のガスケット本体21aの中央部に前記中空部に合致する開口部25が3箇所設けられ、四隅にボルト穴26が設けられている。
また、前記開口部25の周縁部は図5に示すように、斜めに起立してガスケット本体21aに平行する第1のビード部27を形成しているとともに、ガスケット21の外周縁部も斜めに起立してガスケット本体21aに平行する第2のビード部28を形成している。
【0023】
そして、前記内周側の第1のビード部27の傾斜角θ2は外周側の第2のビード部28の傾斜角λ2よりも大きくなっている。
すなわち、内周側の第1のビード部27の高さh2と外周側の第2のビード部28の高さはH2とは同じであるが、内周側の第1のビード部27の斜面の幅w2は外周側の第2のビード部28の斜面の幅W2よりも短くなっている。
【0024】
上記のように構成されたガスケット21は、第1の実施例と同様にその開口部25を両部材の中空部に合致させた状態で両部材間に配設され、四隅のボルト穴26で取付けボルトによってボルト締めされて両部材間をシールする。
【0025】
そして、このガスケット21を両部材間に配設してボルト締めすると、内周側の第1のビード部27の高さh2と外周側の第2のビード部28の高さH2とは同じに形成され、ガスケット本体21aと第1のビード部27および第2のビード部28とは平行となっているため、第1のビード部27および第2のビード部28には面圧が垂直かつ均一にかかり、シール性が向上する。
【0026】
また、前記内周側の第1のビード部27の傾斜角θ2は外周側の第2のビード部28の傾斜角λ2よりも大きくなっているため、内周側の第1のビード部27のバネ定数は外周側の第2のビード部28のバネ定数よりも大きくなり、開口部25のシール性が確保される。
【0027】
さらに、ガスケット21に対して取付けボルトを垂直に挿入して組付けることができ、取付けボルトの挿入、ガスケット21の取付けが容易で、作業性が向上する。
【0028】
【考案の効果】
この考案は前記のように構成したことにより、第1のビード部および第2のビード部にかかる面圧を垂直かつ均一にすることができることになる。したがって、ボルトの締付部近傍の外周縁部およびボルトの締付部から離れる開口部の周縁部の両方において、良好なシール性を確保する事ができる。
【0029】
また、第1のビード部の傾斜角を第2のビード部の傾斜角よりも大きくしたことにより、第1のビード部のバネ定数を第2のビード部のバネ定数よりも大きくすることができることになる。したがって、ボルトの締付部から離れている開口部の周縁部においても、良好なシール性を確保することができることになる。
【0030】
ボルト穴を第1ビード部と第2ビード部との間に位置させる態様とした為、一の部材が第1ビード部と第2ビード部とにより安定して支持されるため、ガスケットに対し取り付けボルトを垂直に挿入することができ、取り付けボルトの挿入、ガスケットの取り付けが容易で、作業性が向上するという優れた効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この考案によるガスケットの第1の実施例を示す概略図である。
【図2】
図1のA-A断面図である。
【図3】
部材間にこの考案によるガスケットを配設した状態を示す概略断面図である。
【図4】
この考案によるガスケットの第2の実施例を示す概略図である。
【図5】
図4のB-B断面図である。
【図6】
従来のガスケットを示す概略断面図である。
【図7】
図6のC-C断面図である。
【図8】
部材間に従来のガスケットを配設した状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1、21、51……ガスケット
1a、21a、51a……ガスケット本体
2、52……一の部材
2a、3a、52a、53a……中空部
3、53……他の部材
4、54……取付けボルト
5、25、55……開口部
6、26、56……ボルト穴
7、27……第1のビード部
8、28……第2のビード部
57……ビード部
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)訂正事項a
本件実用新案登録に係る願書に添付された明細書(以下、「登録明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載について、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】中空部(2a)が形成された一の部材(2)と、中空部(3a)が形成された他の部材(3)との間に配設され、前記中空部(2a)(3a)が連通した状態で両部材(2)(3)間をシールするガスケットであって、
薄板状のガスケット本体(1a)(21a)に前記中空部(2a)(3a)に合致する開口部(5)(25)を形成するとともに、該開口部(5)(25)の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第1のビード部(7)(27)を形成し、さらに、ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部を前記第1のビード部(7)(27)よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部(7)(27)と同じ高さでかつガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第2のビード部(8)(28)を形成したことを特徴とするガスケット。」とあるのを、
「【請求項1】中空部(2a)が形成された一の部材(2)と、中空部(3a)が形成された他の部材(3)との間に配設され、前記中空部(2a)(3a)が連通した状態で両部材(2)(3)間をシールするガスケットであって、
薄板状のガスケット本体(1a)(21a)の中央部側に前記中空部(2a)(3a)に合致する開口部(5)(25)を形成するとともに、該開口部(5)(25)の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第1のビード部(7)(27)を形成し、さらに、ガスケット本体(1a)(21a)の外周縁部を前記第1のビード部(7)(27)よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部(7)(27)と同じたかさでかつガスケット本体(1a)(21a)と平行をなす第2のビード部(8)(28)を形成すると共に、前記第1のビード部(7)(27)と前記第2のビード部(8)(28)との間に位置するガスケット本体(1a)にボルト穴(6)を設けたことを特徴とするガスケット。」と訂正する。
(2)訂正事項b
登録明細書の段落【0008】の記載について、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するためにこの考案は、中空部が形成された一の部材と、中空部が形成された他の部材との間に配設され、前記中空部が連通した状態で両部材間をシールするガスケットであって、薄板状のガスケット本体に前記中空部に合致する開口部を形成するとともに、該開口部の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体と平行をなす第1のビード部を形成し、さらに、ガスケット本体の外周縁部を前記第1のビード部よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部と同じ高さでかつガスケット本体と平行をなす第2のビード部を形成した手段を採用したものである。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するためこの考案は、中空部が形成された一の部材と、中空部が形成された他の部材との間に配設され、前記中空部が連通した状態で両部材間をシールするガスケットであって、薄板状のガスケット本体の中央部側に前記中空部に合致する開口部を形成するとともに、該開口部の周縁部を所定の傾斜角で起立させてガスケット本体と平行をなす第1のビード部を形成し、さらに、ガスケット本体の外周縁部を前記第1のビード部よりも小さい傾斜角で起立させて、前記第1のビード部と同じたかさでかつガスケット本体と平行をなす第2のビード部を形成すると共に、前記第1ビード部と前記第2ビード部との間に位置するガスケット本体にボルト穴を設けた手段を採用したものである。」と訂正する。
(3)訂正事項c
登録明細書の段落【0030】の記載について、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「さらに、ガスケットに対して取付けボルトを垂直に挿入することができ、取付けボルトの挿入、ガスケットの取付けが容易で、作業性が向上するという優れた効果を有するものである。」とあるのを、
「ボルト穴を第1ビード部と第2ビード部との間に位置させる態様とした為、一の部材が第1ビード部と第2ビード部とにより安定して支持されるため、ガスケットに対し取り付けボルトを垂直に挿入することができ、取り付けボルトの挿入、ガスケットの取り付けが容易で、作業性が向上するという優れた効果を有するものである。」と訂正する。
異議決定日 2001-09-21 
出願番号 実願平4-977 
審決分類 U 1 651・ 121- YA (F16J)
最終処分 維持    
前審関与審査官 柴沼 雅樹  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 清田 栄章
栗田 雅弘
登録日 1999-04-02 
登録番号 実用新案登録第2596198号(U2596198) 
権利者 エヌオーケー株式会社
東京都港区芝大門1丁目12番15号
考案の名称 ガスケット  
代理人 野口 賢照  
代理人 高塚 一郎  
代理人 小川 信一  
代理人 斎下 和彦  
代理人 高塚 一郎  

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