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審決分類 審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 無効とする。(申立て全部成立) A01K
審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 無効とする。(申立て全部成立) A01K
管理番号 1055173
審判番号 無効2001-35263  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-06-22 
確定日 2002-02-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第2538358号実用新案「中通し釣竿」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第2538358号の請求項1ないし2に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
本件実用新案登録第2538358号(以下、本件登録という)は、平成3年2月4日に出願された実願平3-3581号の一部を平成8年1月19日に新たな実用新案登録出願としたものであって、平成9年3月7日にその実用新案権の設定の登録がなされ、この実用新案登録に対し、平成9年12月9日に実用新案登録異議申立がなされ、平成10年7月6日に訂正請求書が提出され、平成11年1月29日に「訂正を認める。請求項1ないし2に係る実用新案登録を維持する。」との決定がなされ、さらに、この実用新案登録に対し、平成13年6月22日に株式会社 シマノより無効審判が請求され、被請求人より平成13年10月1日に答弁書が提出されたものである。

2.本件考案
本件実用新案登録第2538358号の請求項1及び2に係る考案(以下、「本件請求項1、2の考案」という)は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりの、
「【請求項1】 繊維強化複合材料によって形成された竿管の概ね軸長方向に沿った竿管表面に、釣糸を外部から内部に導入する、前記軸長方向に長い長孔を設け、該長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成すると共に、該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり、リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが、前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていることを特徴とする中通し釣竿。
【請求項2】 前記長孔の縁部の強化繊維に織布を具備してなる請求項1記載の中通し釣竿。」
にある。

3.請求人の主張
請求人は、下記の証拠方法を提示し、本件請求項1及び2に係る実用新案登録は次の理由により平成5年法律第26号附則第4条第2項において読み替える旧実用新案法第37条第1項第2号の2の規定に該当するから、無効とされるべきである旨主張する。
(1)平成10年7月6日付け訂正請求書による訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないから、その訂正は、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用される、特許法第120条の4第2項ただし書き及び第3項の規定においてさらに準用される特許法第126条第2項?第4項の訂正に関する規定が、同付則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される、平成5年特許法第126条第1項の規定に違反してされたものである。(以下、「無効理由(1)」という)
(2)本件請求項1及び2の考案は、周知技術(甲第6?8号証)を考慮すると下記の甲第4及び5号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるから、上記訂正請求書による訂正は、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用される、特許法第120条の4第2項ただし書き及び第3項の規定においてさらに準用される特許法第126条第2項?第4項の訂正に関する規定が、同付則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される、平成5年特許法第126条第3項の規定に違反してされたものである。(以下、「無効理由(2)」という)
(3)本件請求項1及び2の考案は、本件出願前公知公用の「DIAFLUSH庄内」(甲第10号証等により立証)と同一、あるいは、その公知公用の「DIAFLUSH庄内」及び甲第4号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第1項第2号に該当し、あるいは、同法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるから、上記訂正請求書による訂正は、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用される、特許法第120条の4第2項ただし書き及び第3項の規定においてさらに準用される特許法第126条第2項?第4項の訂正に関する規定が、同付則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される、平成5年特許法第126条第3項の規定に違反してされたものである。(以下、「無効理由(3)」という)

(1)書証
甲第1号証:実用新案第2538358号登録公報(本件登録公報)
甲第2号証:平成9年異議第75933号実用新案登録異議決定公報(本件についての異議決定公報)
甲第3号証:実願平3-3581号(実開平4-100377号)のマイクロフイルム(原出願の公開公報)
甲第4号証:英国特許出願第2112612号公開公報
甲第5号証:実願昭62-50430号(実開昭63-158173号)のマイクロフイルム
甲第6号証:特開昭63-237725号公報
甲第7号証:特開昭64-39923号公報
甲第8号証:フランス特許第2006721号明細書
甲第9号証:New Tackle News(′89NFT新製品ニュース)「DIAFLUSH庄内」(1989年9月作成)NFT株式会社発行
甲第10号証「DIAFLUSH庄内」の制作図面、島野工業株式会社(請求人の当時の名称である)作成
甲第10号証の1:「DIAFLUSH庄内19尺」の全体の構成図面
甲第10号証の2:「DIAFLUSH庄内19尺」の各継ぎ竿のパターン(プリプレグ)の構成図面24
甲第10号証の3:前記甲第10号証の1及び2の「DIAFLUSH庄内19尺」の制作図面をもとに作成した釣糸導入孔部分の断面図(参考図)
甲第11号証:富士工業株式会社のカタログ「FUJITACKLES」((マルc)1989.7.10)(表紙、第25頁、裏表紙)
甲第12号証:シマノ株式会社の「ダイヤフラッシュ庄内19尺の1989.11.12?1991.5.20の販売実績」表
(2)人証
氏名 松本聖比古
住所 大阪府大東市深野北1-14-47-305号

4.被請求人の主張
被請求人は、下記の証拠方法を提示し、
上記無効理由(1)については、無効2000-35133の審決において、「これらの訂正は請求の範囲の減縮、不明りょうな記載の釈明に相当する」と判断されており(乙第1号証の4頁14?15行)、本件においても当然同じ判断がなされるべきものであり、また、
上記無効理由(2)については、出願当時「孔の周辺部の強度低下を防ぐ」という認識はあったとしても、それを周辺部の厚肉とする手法によるか、繊維の密度を高めるか等幾つかの選択肢があり、しかも、本件考案は、孔の周辺部の強度低下を防ぐとともに高い位置にある環状リングに負荷がかかっても強度的に保証するために、長孔の周辺部を肉厚としたものであり、このことは機械設計上の常套手段ではありえず、甲第4号証の竿管の長孔の周辺及び高い位置にある環状ガイドリングの負荷を受ける部分を厚肉として補強するという発想は甲第5号証からは得られないから、甲第4号証の中通し釣竿に、中通し竿ではなく、しかも高い位置にある環状ガイドリングを備えていない甲第5号証の釣竿の技術を適用しようとすること自体困難であり、本件請求項1の考案の効果は、甲第4号証、甲第5号証の考案及び周知技術からは予測されるものではなく、さらに、
上記無効理由(3)については、
甲第10号証の1及び3をみても、長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成した構成は見当たらず、甲第9号証の中通し竿は、中通しガイドを竿管の孔部に直接取付ける構造であり、本件考案の構成である、「環状ガイドリングが長孔近傍の竿管表面より高い位置にある」、「長孔の孔周辺部に肉厚部を一体に形成する」、「環状ガイドリングが厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されている」などの構成を備えておらず、また、本件考案の課題を備えていないから、甲第4号証の「送り目穴5」を取付けた個所に対応する個所を厚肉にするという発想がなく、甲第4号証のガイドに甲第9号証を組合わせることはできないし、仮に組み合わせたとしても本件考案を想到することはできず、本件請求項1の考案は、請求人が提示した証拠に記載された考案ではなく、また、これら考案から容易に想到できるものではない旨主張している。

乙第1号証:無効2000-35133号審決写し
乙第2号証:平成12年(行ケ)396号審決取消訴訟での平成13年2月23日付被告第1準備書面写し
乙第3号証:実公昭56-32045号公報(同被告第1準備書面に添付した乙第1号証)
乙第4号証:特開平2-20233号公報(同被告第1準備書面に添付した乙第2号証、無効2000-35133事件での甲第5号証)
乙第5号証:実願昭60-122344号(実開昭62-30569号)のマイクロフィルム(同被告第1準備書面に添付した乙第3号証)
乙第6号証:実願昭63-156434号(実開平2-78066号)のマイクロフィル(同被告第1準備書面に添付した乙第4号証)
乙第7号証:特開平2-303816号公報(同被告第1準備書面に添付した乙第5号証)
乙第8号証:特開昭51-28032号公報(同被告第1準備書面に添付した乙第6号証)
乙第9号証:平成13年6月7日付被告第2準備書面写し
乙第10号証:実願昭63-74403号(実開平1-178373号)のマイクロフィルム(無効2000-35133事件での甲第4号証)
乙第11号証:無効2000-35133事件での平成12年6月20日付答弁書写し

5.当審の判断
上記上記無効理由(1)及び(2)について検討する。
5-1.上記無効理由(1)について
請求人は、具体的には、
請求項1の考案において、「孔」を「長孔」と訂正するとともに、考案の効果において、「一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することが好ましいが、竿管に対して大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い孔を設ければ、その部位の強度が大きく低下することになるが、軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」(以下、「訂正事項A」という)を追加すること、及び
請求項1の考案において、「該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり、リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが、前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されている」を追加するとともに、考案の効果において、「また、リールからの釣糸を案内挿通させてからより低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが、前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されているため、リールから引出された釣糸を環状ガイドリングに挿通させてから長孔の中を経由して竿管に導入させて釣りを行う場合、釣糸を介して作用する環状ガイドリングヘの負荷はより低い位置の厚肉部領域に伝達されるが、ここが厚肉であるために釣糸導入部領域の強度が向上しており、強い。」(以下、「訂正事項B」という)を追加することは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において訂正するものではないと主張している。
ところで、登録明細書(甲第1号証参照)には以下の事項が記載されている。
(a)「本考案は、釣糸導入用の孔を設けた中通し釣竿の強度を向上させることを目的とする。また、孔の加工の際や釣りにおいて、孔の縁がささくれたり、裂けや割れの発生を防止することを目的とする。」(明細書段落【0004】)
(b)「管状ガイド47の後端には顎部53が形成され、該顎部が外枠筒37の端部に形成されている凹部55に挿入され、該管状ガイド47は接着或いは圧入によって外枠筒37に固定されている。また、凹部55には、例えば、炭化珪素、ジルコニア、アルミナ等の耐摩耗性材料からなる環状ガイドリング57が挿入固定されている。管状ガイド47の前端部51は、厚肉部25の細巾長孔35の先端に当接した後、竿管13の内側に突出している。また、管状ガイド47の前端の内面には、面取平面、或いは面取曲面が形成されている。」(明細書段落【0012】)
(c)「・・・また、管状ガイド47の外径は厚肉部25の外径の30%以下が好ましく、このようにすることにより、細巾長孔35の巾を小さくすることができ、竿管13の強度低下を防止できる。」(明細書段落【0013】)
(d)「以上のように構成された中通し釣竿では、竿管13に一体形成された厚肉部25に、竿管13の軸長方向に長径部を有する細巾長孔35を形成すると共に、厚肉部25の外側に外枠筒37を装着し、この外枠筒の後端部43から細巾長孔35に向けて傾斜して形成されるガイド孔45に、ほぼ直線状の管状ガイド47を挿通固定させ、この管状ガイドの後端部49を竿管13の外側に位置させ、前端部51を竿管13の内側に位置させたので、竿管13の釣糸導入部の剛性を従来より大幅に向上させることができると共に、釣糸導入部における釣糸の摺動抵抗を従来より大幅に低減することができる。」(明細書段落【0014】)
(e)「即ち、竿管13の先端部の継合部を除いた部分に細巾長孔35の形成される厚肉部25を形成し、この厚肉部に外枠筒37を装着し、この外枠筒37に管状ガイド47を挿通させるようにしたので、竿管13の釣糸導入部21の剛性を従来より大幅に向上することができる。特に管状ガイド47の外径を小さくすることにより、細巾長孔35の巾を小さくすることが可能となり、釣糸導入部21の剛性の大きな低下を防止することが可能となる。」(明細書段落【0015】)
(f)「また、以上のように構成される中通し釣竿では、管状ガイド47と竿管13とのなす角度を小さくすることが容易に可能であり、釣糸導入部21における釣糸19の摺動抵抗を従来より大幅に低減することができる。そして、上記形態例では、管状ガイド47の後端に環状ガイドリング57を配置し、前端には、面取部等を設けたので釣糸19の摺動抵抗をより低減させることができる。」(明細書段落【0016】)
上記訂正事項Aについて
登録明細書又は図面には、訂正事項Aについての直接的な記載は認められないので、訂正事項Aが登録明細書又は図面に記載した事項から当業者が一義的に導き出せる事項であるかについて検討する。
上記(c)ないし(e)の記載によると、管状ガイド47の外径を細くし、細巾長孔35の巾を小さくすることにより、釣糸導入部21の剛性の大きな低下を防止することができることは記載されているが、実用新案登録請求の範囲には、「軸長方向に長い長孔を設け」と記載されているのみで、その「長孔」の巾は限定されていないから、本件考案の「長孔」の巾が、「大きな円形の孔」の巾や「幅方向に長い孔」の巾よりも細巾であるとは認められない。そうすると、「軸長方向に長い長孔を設け」ることによって、大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い孔を設けるものと比べ、強度の低下が必ず防止できるとはいえないので、訂正事項Aはその内容が不明瞭であり、また、そのような不明瞭な記載が登録明細書又は図面に記載した事項から当業者が一義的に導き出せる事項とも認められない。
したがって、訂正事項Aを本件考案の効果とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものではなく、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において訂正するものではない。
上記訂正事項Bについて
登録明細書又は図面には、訂正事項Bについての直接的な記載は認められないので、訂正事項Bが登録明細書又は図面に記載した事項から当業者が一義的に導き出せる事項であるかについて検討する。
上記(d)の記載によると、管状ガイド47は、その後端部49が竿管13の外側に位置し、前端部51が竿管13の内側に位置しており、リールからの釣糸を案内挿通させてからより低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入させているといえる。
しかしながら、環状ガイドリング57については、「外枠筒37の端部に形成されている・・・凹部55には、例えば、炭化珪素、ジルコニア、アルミナ等の耐摩耗性材料からなる環状ガイドリング57が挿入固定されている。」(前記(b)の記載参照)、「上記形態例では、管状ガイド47の後端に環状ガイドリング57を配置し・・・たので釣糸19の摺動抵抗をより低減させることができる。」(前記(f)の記載参照)と記載されており、環状ガイドリング57は、外枠筒37の端部に形成されている凹部55に挿入固定されており、竿管13の外側に設けられているのみであり、リールからの釣糸を案内挿通させてからより低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入させているということはできないから、訂正事項Bにおける「リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリング」及び「リールからの釣糸を案内挿通させてからより低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリング」は登録明細書又は図面に記載した事項から当業者が一義的に導き出せる事項とは認められない。
したがって、訂正事項Bの訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内において訂正するものではない。
以上のように、平成10年7月6日付け訂正請求書における上記訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものではなく、また、実用新案登録明細書又は図面に記載した事項の範囲内において訂正するものではないから、当該訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に違反してされたものである。

5-2.上記無効理由(2)について
5-2-1.甲号証記載の発明
甲第4号証には、釣り竿用の釣り糸の糸通しに関する改良点に関し、
「(57)中空釣り竿2の内部に手が届くことを可能とする釣り糸入り口部材4に、円形軸受表面をAのところで定める送り目穴5が備えられており、さらに軸受表面がBとCのところに提供されている。円錐状釣り糸ガイド8がその釣り糸の次に存在する軸受表面を定め、その後に、釣り竿の内部の全長に沿ってさらなる釣り糸ガイドが続いている。」(翻訳書の要約の項)と、
「図1に示す釣り糸差込ユニットは、ロッドブランクを把持する強化部分3によって、当接端の近傍で、ロッドブランク2のある部分に固定されているモールディング1を備えている。このモールディング1は、釣り糸6を送る際に通る成形された送り目穴5を保持する分離保持部材4を受容する。釣り糸は図2に示すように開口7からロッドブランク2に差し込まれる。ロッドブランク2の内部の開口部7の直後のところに、円錐形状のガイド8が釣り竿全長にわたって離間されている他のガイドとは別に、釣り糸6を誘導し釣り糸がロッドブランク2の内部表面と接触しないように離して保持している。
釣り糸を釣り竿の中を送るために、釣り糸6の端を釣り糸通し装置10の目穴9を介して結ぶ。次に、釣り糸通し装置が送り目穴5と開口7と釣り糸ガイド8を介してロッドブランク中に挿入する。」(翻訳書4頁5?14行、公報2頁左欄13?29行)と記載されている。
また、第2図(断面図)には、ロッドブランク2の径より軸方向に長い開口7が設けられていることが示されており、さらに、当業者が図1、2をみると、ここに記載されている釣竿はリール竿とみるのが一般的である。
甲第5号証には、釣竿に関し、
「第1図、第2図は第1実施例で、釣竿は中空釣竿1の上面と下面に夫々孔1a、1bを貫通するように上面に対し下面は軸線方向にずらして穿設され、この孔1a、1bにパイプ2が挿通されてパイプ2の両端が鳩目のように鍔状に押し広げられて抜け止めされている。」(2頁下から5行?3頁1行)、
「前記孔1a、1bが穿設された位置の中空釣竿1は補強のため大径に形成されている。」(3頁12?13行)と記載されている。
甲第6号証には、
「高強度繊維補強のプリプレグを公知のように捲回形成したテーパー竿1の外周部には適宜の間隔をおいて複数の肉盛部2、2′を一体に形成する。
この肉盛部2、2′の形成は、テーパー竿1を構成するプリプレグを芯金に捲着した上部に肉盛部形成用の同材質のプリプレグを更に捲着して全周面をテーピングして熱硬化処理する。」(2頁右上欄2?9行)と記載されている。
甲第7号証には、
「釣竿の製造方法はポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性合成樹脂を合浸した炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維補強素材を公知のように芯金に捲回又は型で形成し、第1図のように中空又は中実のテーパー竿1の外周に適宜の間隔をおいて複数の肉盛部2を一体に形成する。この肉盛部2の形成は、第1例としてテーパー竿1が中空又は中実に関係なく熱硬化処理されたテーパー竿1の外周にテーパー竿1の形成素材と同質素材のプリプレグを捲回してその外側外周にテーピングを施して熱硬化処理をおこなって形成する。第2例は中空テーパー竿1の時、テーパー竿1の熱硬化処理する前に肉盛部位置にプリプレグを港回してテーピングを施した後熱硬化処理を行って形成する。」(2頁左上欄12行?右上欄8行目)と記載されている。
甲第8号証には、釣り竿及び同等物のためのリングに関し、
「本発明の別の目的は、中空の筒状ガラスファイバーブランクの周囲に巻いて固定されるガラスファイバー補強部品を構成することにあり、この補強部品は、補強部品を形成するガラスファイバー布の粒子に対して横方向にカットされるので、ファイバーの大部分は、巻きつけられたとき、釣り竿のブランクの周囲あるいは釣り竿のブランクに対してほぼ横で、かつ釣り竿のブランクの長手方向の軸に対してほぼ横に伸び、それによって釣り竿の耐性が高められる。」(翻訳文の1頁10?15行)、
「本発明の継ぎ目またはリンクを形成する場合、未焼成の筒状ガラスファイバーブランク16は、ガラスファイバー布(une etoffe)からなる補強部品18を備える。好適には、ガラスファイバー布は、平に置いたときに、図3に明らかに示されているように角錐形である。しかしながら、平らな補強部品18は、場合によっては図3の破線が示すように3角形であってもよい。補強部品は、図2に明らかに示されているように、ブランク16の周囲に少なくとも2回巻きつけるのに十分な寸法を有する。」(翻訳文の4頁7?13行)と記載されている。
特開昭50-18281号公報には、
「炭素繊維を一定方向に配列したガラス繊維との混合織布又は炭素繊維の織布を熱硬化性樹脂溶液に浸漬し半乾燥させ、・・・柄竿杆の構造」(特許請求の範囲)と記載されている。
5-2-2.対比・判断
5-2-2-1.本件請求項1の考案について
本件請求項1の考案と甲第4号証に記載の考案との対比すると、甲第4号証に記載の考案の「ロッドブランク2」、「開口7」及び「送り目穴5」が、本件請求項1の考案の「竿管」、「長孔」及び「環状ガイドリング」に相当し、本件請求項1の考案と甲第4号証に記載の考案とは、共に「環状ガイドリングが、長穴の周囲の領域に取付けられた部材を介して支持されている」といえるから、両者は、
竿管の概ね軸長方向に沿った竿管表面に釣糸を外部から内部に導入する、前記軸長方向に長い長孔を設け、該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり、リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが、前記長穴の周囲の領域に取付けられた部材を介して支持されている中通し釣竿である点で一致し、
(1)竿管が、本件請求項1の考案では、「繊維強化複合材料によって形成され」ているのに対して、甲第4号証に記載の考案では、その材料が不明である点、
(2)本件請求項1に係る考案では、長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成すると共に、環状ガイドリングが、前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されているのに対して、甲第4号証に記載の考案では、長孔(開口7)の孔周辺部に厚肉部を一体に形成していない点
で構成が相違している。
上記相違点について検討する。
(1)の相違点について
中空の釣竿を繊維強化複合材料によって形成することは一般的であり(甲第6?8号証、特開昭50-18281号公報参照)、甲第4号証に記載の考案の竿管を繊維強化複合材料によって形成することは当業者がきわめて容易に想到できることである。
(2)の相違点について
中空竿管において、孔を開口した部分の周辺部を厚肉にすることにより補強するという技術思想が甲第5号証に記載されているので、甲第4号証に記載の考案において、開口7の周辺部を厚肉にすることにより補強することは当業者がきわめて容易に想到できることであり、その際、釣竿を一般的に形成している繊維強化複合材料によって一体形成して厚肉部とし、厚肉化された領域に環状ガイドリングが取付けられた部材を支持するように構成することは当業者が適宜できることである。
そして、本件請求項1に係る考案が奏する効果は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された考案並びに周知技術より予測される程度のことであって格別顕著なものではない。
したがって、本件請求項1に係る考案は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。
5-2-2-2.本件請求項2に係る考案について
本件請求項2に係る考案と甲第4号証に記載の考案との対比すると、両者は、上記「5-2-2-1.本件請求項1に係る考案について」における(1)及び(2)の相違点に加え、
(3)本件請求項2に係る考案では、「長孔の縁部の強化繊維に織布を具備して」いるのに対して、甲第4号証に記載の考案では、その材料が不明である点、
で構成が相違しているが、その余の構成は一致している。
(1)及び(2)の相違点については、上記「5-2-2-1.本件請求項1に係る考案について」に記載されたとおりの理由により当業者がきわめて容易に想到することができたものであり、(3)の相違点については、釣竿管を補強繊維の織布に熱硬化性合成樹脂を含浸せしめたプリプレグを熱硬化して形成することは周知であり(例えば、特開昭50-18281号公報参照)、また、釣竿の補強用厚肉部に織布を用いることも周知である(例えば、甲第8号証参照)ので、甲第4号証に記載の考案において、長孔の縁部の強化繊維を織布とすることは当業者がきわめて容易に想到できることである。
そして、本件請求項2に係る考案が奏する効果は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された考案並びに周知技術より予測される程度のことであって格別顕著なものではない。
したがって、本件請求項2に係る考案は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。
よって、本件請求項1及び2に係る考案は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるから、平成10年7月6日付け訂正請求書による訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に違反してされたものである。

5-3.むすび
以上のとおりであり、本件請求項1ないし2に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号の2に該当する。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-12-18 
結審通知日 2001-12-21 
審決日 2002-01-10 
出願番号 実願平8-541 
審決分類 U 1 112・ 856- Z (A01K)
U 1 112・ 831- Z (A01K)
最終処分 成立    
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 二宮 千久
村山 隆
登録日 1997-03-07 
登録番号 実用新案登録第2538358号(U2538358) 
考案の名称 中通し釣竿  
代理人 關 健一  
代理人 小林 茂雄  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  

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