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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1058327
審判番号 不服2000-3421  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-03-10 
確定日 2002-04-30 
事件の表示 平成 5年実用新案登録願第 74496号「防黴袋」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 7月18日出願公開、実開平 7- 40545]について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 I 本願考案

本願は、平成5年12月29日の出願であって、その請求項1ないし2に係る考案は、平成11年3月23日付け手続補正書により補正された明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1?2に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】ペースト状または顆粒状のイソチオシアン酸アリル蒸気発散剤を自動的に封入したビニロンフイルム袋よりなることを特徴とする防黴袋。
【請求項2】イソチオシアン酸アリル蒸気発散剤がイソチオシアン酸アリルのアルコール溶液をペースト状又は顆粒状にしたものである請求項1記載の防黴袋。

II 当審の拒絶理由における引用刊行物

これに対して、当審において平成13年4月6日付けで通知した拒絶理由において引用した刊行物のうち刊行物1?4は次のとおりである。これらの刊行物はいずれも本願出願前に国内において頒布されたものである。
刊行物1:実公昭63-44375号公報
刊行物2:特開平2-303470号公報
刊行物3:特開平4-207179号公報
刊行物4:実願平2-38872号(実開平3-129083号)のマイクロフィルム

III 引用刊行物の記載内容

1 刊行物1には次のa?fの事項が図面とともに記載されている(旧字体は新字体に改めてある。)。
a 「ペースト状または顆粒状のアルコール蒸気発散剤を封入したビニロンフイルム袋よりなる防黴袋。」《実用新案登録請求の範囲》
b 「従来から、缶、箱またはプラスチックフイルム袋の中に包装された食品の黴の発生を防ぐために、防黴袋が用いられていた。この防黴袋としては不織布の袋の中にメタノール発散性の顆粒を充填したものを用いていた。しかし、この場合、不織布が破れて顆粒が食品の中に混入したり、顆粒が押しつぶされてメタノール液が滲出したり、子供が破って食べる恐れがあったりして好ましくない。《中略》本考案はこのような欠点を解消して、効果的に包装食品の防黴を達成することを目的とするものである。《中略》本考案に用いるビニロンフイルムは、ポリビニルアルコールを主体とするフイルムであり、熱水に溶解し、空気中の相対湿度45?80%に対して、約5?20程度の平衡吸湿率を有するものを好適に使用することができる。」《1欄9行?2欄1行》
c 「このビニロンフイルムは外部の湿度の高さに応じて水分を含浸しアルコール蒸気を通しやすくなる。この機構は、乾燥フイルムにおいて、アルコール蒸気は、ビニロンフイルムとの親和性に依存してフイルム中を伝播していたものが、水分を吸収したフイルムは水とアルコールの親和性が大きいため、アルコールがフイルム表面から多く吸収され、これが伝播して反対表面から発散しやすくなる。このようなフイルム中の吸収物質によりガス透過性が変化することはよく知られた物理的現象であり、本考案は、この現象を利用して、防黴剤の有効利用、効用時間の持続を副次的効果とするものである。」《2欄7行?19行》
d 「本考案のアルコールはメタノール、エタノール、プロパノール等の防黴作用を有するアルコールを用いることができる。」《3欄5行?7行》
e 「本考案の防黴袋は印刷機と製袋機との組み合わせにより連続的に製造できる。すなわち、ビニロンの連続的フイルムシートに一定間隔で長方形状にペースト状アルコール発散剤を塗布する。《中略》次いで、フイルムの流れ方向に沿ってペースト部分の上下をシールカットを行い、最後に流れに垂直な方向にシールカットしてペーストを封入した袋を製造する。顆粒を封入する時は、公知の自動封入装置を用いてシールカットと顆粒の添加を同時に行いながら本考案の防黴袋を作ることができる。」《3欄34行?4欄1行》
f 「実施例1 《中略》本考案の防黴袋を使用しないものには、食パン表面に3日後に黴点が発生し、本考案の防黴袋を入れた食パンの表面には30日を経過しても黴の発生は観察できなかった。」《4欄25行?36行》
g 「本考案の効果は、第一に従来の不織布袋の場合のような通気細孔がないため、防黴剤の液体が外に滲出しないことであり、取り扱いをあやまって強い力が袋にかかっても防黴剤が食品を汚染することがない利点があり、第二に同様の理由によりペースト状の防黴剤を使用することができる利点もある。さらに、不織布袋の場合よりも防黴剤の保持期間が長く、防黴剤作用が長時間持続する。」《4欄43行?5欄7行》
刊行物1の前記eの記載によれば、前記aにいう「ペースト状または顆粒状のアルコール蒸気発散剤」は、ビニロンフイルム袋の中に自動的に封入されてよいから、同刊行物の前記a、c?eの記載を総合すると、同刊行物には次の考案(以下「引用考案」という。)が記載されていると認められる。
【引用考案】ペースト状または顆粒状のアルコール蒸気発散剤を自動的に封入したビニロンフイルム袋よりなる防黴袋。

2 刊行物2の特許請求の範囲欄、2頁右下欄9行?末行、3頁左上欄8行?末行、4頁右上欄1行?13行、4頁左下欄10行?14行等の記載を総合すると、同刊行物には、一般式R-N=C=S(Rはアリル)で表されるイソチオシアネート化合物すなわちイソチオシアン酸アリルを防黴剤の揮発性有効成分として、これをフィルム状物で被包して用いることが記載されていると認められる。
なお、刊行物2には、イソチオシアン酸アリルが揮発性であることの明示はないが、これが揮発性であることは、次に示す刊行物3?4だけでなく、特開平4-208205号公報(2頁左上欄4行?5行の「イソチオシアン酸アリルは非常に揮発し易く」との記載)他多数の文献にも記載され、周知のことである。

3 刊行物3の2頁右上欄17行?左下欄9行には、「常温で油溶性の液状を呈し、揮発することによりガス体となる抗菌活性のイソチオシアン酸アリル」と記載されている。刊行物4の6頁10行?14行には、「イソチオシアン酸アリル《中略》を有効成分としているので、《中略》上記有効成分の揮発ガスにより」と記載されている。

IV 対比・判断

1 本願請求項1に係る考案と引用考案とを対比すると、両者は、次の一致点で一致し、相違点アでのみ相違する。
【一致点】ペースト状または顆粒状の蒸気発散剤を自動的に封入したビニロンフイルム袋よりなる防黴袋。
【相違点ア】蒸気発散剤が、本件考案ではイソチオシアン酸アリル蒸気発散剤であるのに対し、引用考案ではアルコール蒸気発散剤である点。

2 この相違点アについて検討する。
本願明細書の段落【0004】の記載や刊行物1の前記dの記載によれば、請求項1に係る考案や引用考案にいう「蒸気発散剤」とは、揮発性有効成分を含有する防黴剤を意味するものであると認められる。
刊行物1の前記gの記載によれば、このような揮発性有効成分を含有する防黴剤の1種であるアルコール蒸気発散剤を不織布袋に封入する代わりにビニロンフイルム袋に封入すると、これには不織布袋の場合のような通気細孔がないため、防黴剤の液体が外に滲出せず、取り扱いを誤まって強い力が袋にかかっても防黴剤が食品を汚染することがないばかりか、ペースト状の防黴剤を使用することができ、さらには、不織布袋の場合よりも防黴剤の保持期間が長く防黴作用が長時間持続するという利点があることが当業者に理解され、他方、揮発性有効成分を含有する防黴剤である蒸気発散剤は、同刊行物記載のアルコール蒸気発散剤以外にも存在することを当業者は当然知得しているから、刊行物1にいう液状の揮発性有効成分を含有するアルコール蒸気発散剤に代えて他の液状の揮発性有効成分を含有する防黴剤である蒸気発散剤をビニロンフイルム袋に封入することを試みることは、当業者ならば当然行うことにすぎないものということができる。
そして、刊行物2には、液状であるイソチオシアン酸アリルを揮発性有効成分として含有する防黴剤、つまり請求項1に係る考案にいう「イソチオシアン酸アリル蒸気発散剤」が記載されているから、前記のような当業者の試行過程において、揮発性有効成分を含有する防黴剤である蒸気発散剤として、引用考案におけるアルコール蒸気発散剤に代えてイソチオシアン酸アリル蒸気発散剤を選択する程度のことは、刊行物1?2の記載から当業者がきわめて容易に想到しうることである。
そして、その作用効果も、イソチオシアン酸アリル蒸気発散剤を使用した場合でも、アルコール蒸気発散剤を使用した場合と同様に、イソチオシアン酸アリル蒸気がビニロンフィルムを一定程度透過して防黴効果をもたらしたという程度のものにすぎず、このようなことは、試行さえすれば直ちに判明することであり、また、刊行物1の前記c、fの記載や刊行物2の記載から当業者が予測することのできないものではない。

3 請求人は、平成13年6月18日付け意見書の(3)(B)(iii)において、刊行物1にはイソチオシアン酸アリルを示唆する記載がなく、刊行物2には通気性のないビニロン製袋を示唆する記載がないから、両者の記載を結び付ける動機付けがない旨主張するが、刊行物1?2記載の考案は、いずれも食品の防黴技術に関するものであって技術分野に関連性があり、しかも、いずれも揮発性有効成分を含有する防黴剤を使用するものであって技術的課題や作用、機能にも共通性があるから、両考案を結び付ける動機付けは十分にある。そして、前説示したように、刊行物1の記載により、引用考案の防黴袋を知得した当業者ならば、さらに進んで、ビニロンフイルム袋に対するアルコール以外の揮発性防黴剤の適用を当然探求するはずであり、その探求過程において、刊行物2の記載により、揮発性防黴剤であるイソチオシアン酸アリルがフイルムで被包されて使用されていることを知れば、これを刊行物1記載のビニロンフイルム袋に封入することを着想することは、当業者にとって少しも困難なことではないのである。なお、請求人のいうように、刊行物1にイソチオシアン酸アリルを示唆する記載があったり、刊行物2にビニロン製袋を示唆する記載があったりすれば、請求項1に係る考案は、これらの刊行物に記載された考案ということになってしまう。
さらに、請求人は、請求項1に係る考案の作用効果が予想外の優れたものである旨主張するが、数ある蒸気発散性の抗菌・防黴剤の中から特にイソチオシアン酸アリルを選択してこれをビニロンフイルム袋と組み合わせたことによって、他の蒸気発散性の抗菌・防黴剤(引用考案のアルコールを含む。)を選択した場合に比べ、格別の作用効果をもたらすと認めるに足りる資料は何ひとつ存在しない。

4 したがって、本願請求項1に係る考案は、刊行物1?2に記載された考案に基づいて、本願出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるというほかはない。

V 審判請求人のその他の主張に対して

1 審判請求人は、平成13年6月18日付け意見書において、前記以外に主として次の(i)?(ii)のような主張をしている。
(i)イソチオシアン酸アリルが揮発性物質であると認定することは誤りである。〔意見書(3)(A)(iii)(b)〕
(ii)イソチオシアン酸アリル(又はこれとアルコール)とビニロンフイルム袋とを組み合わせたことによって、防黴袋の使用環境の湿度の大小に応じてイソチオシアン酸アリルのビニロンフイルム透過性が変化し、また、アルコールを用いた場合よりも袋の単位大きさ当りの防黴力が大きくなるという予測不可能な顕著な作用効果を奏する。〔意見書(3)(B)(iii)〕

2 しかし、前記主張は次のとおりいずれも失当である。
〔(i)の主張に対して〕
イソチオシアン酸アリルが揮発性であることは、前説示したように、刊行物3?4の前記摘示部分の記載他から明らかであり、また、前記意見書の(3)(A)(iii)(b)において「イソチオシアン酸アリルは、微量の蒸気で殺菌作用があるので、徐々に揮発する物性を利用して長期間の殺菌作用を達成できるものであります。揮発性であれば、短期間で殺菌作用は終わります。」として、請求人がすでに自認しているところでもある。
なお、イソチオシアン酸アリル(allyl isothiocyanate)は、本願明細書【0004】に記載されているとおり、融点(凝固点)-80℃、沸点151℃の常温で液体の物質であって天然のカラシ油等に含まれているものであり、他方、前記意見書添付の参考資料第1号にいう「イソチオシアン酸p-トリル」や「イソチオシアン酸フェニル」は、イソチオシアン酸アリルではなく、イソチオシアン酸アリール(aryl isothiocyanate)というべきものであって、両者は全く別の物質である。
〔(ii)の主張に対して〕
この主張を認めるに足りる資料はないが〔請求人は、前記意見書の(3)(B)(iii)〕において、ビニロンフイルムに対するイソチオシアン酸アリルの透過性の湿度による変化はアルコールの場合ほど顕著なものではない旨述べている。〕、仮にこの主張のとおりであるとしても、ビニロンフイルムに対するガス透過性の湿度依存性は刊行物1の前記cの記載から容易に予測されるところであり、また、袋の単位大きさ当りの防黴力は、防黴剤の単位量当りの殺菌・抗菌性の強さから必然的に定まるもので、試用によって直ちに判明することにすぎない。

VI むすび

以上のとおり、本願請求項1に係る考案は、本願出願前に国内において頒布された刊行物1?2に記載された考案に基づいて、本願出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
したがって、本願請求項2に係る考案について判断するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-02-21 
結審通知日 2002-02-26 
審決日 2002-03-11 
出願番号 実願平5-74496 
審決分類 U 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 溝渕 良一中島 成内山 隆史  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 祖山 忠彦
杉原 進
考案の名称 防黴袋  
代理人 内山 充  

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