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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F04D
管理番号 1067656
審判番号 審判1998-35161  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-04-15 
確定日 2002-10-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第2148998号「水中モータポンプ」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成11年9月17日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11(行ケ)年第388号平成13年3月6日判決言渡、平成11(行ケ)年第380号平成14年2月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第2148998号の請求項1及び2に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 I.手続の経緯

(1)実用新案登録第2148998号の請求項1ないし6に係る考案(以下、それぞれ、「本件考案1ないし6」という。)の実用新案登録は、平成元年12月26日に実用新案登録出願(平成元年実用新案登録願第148585号)され、平成7年6月21日の出願公告(平成7年実用新案登録出願公告第27436号)を経て、平成9年10月3日に実用新案権の設定の登録がされたものである。
(2)これに対し、平成10年4月15日に、株式会社鶴見製作所(以下、「請求人」という。)より、本件考案1及び2の実用新案登録を無効にすることについて審判が請求された。
(3)平成10年審判第35161号事件として審理され、平成10年11月18日(発送日は、平成10年11月20日。)付けで本件考案1の実用新案登録を無効とするとの無効理由の通知がなされ、その指定期間内である平成11年1月18日に願書に添付した明細書の訂正が請求された。
(4)平成11年9月17日に、該訂正を認めないとした上で、「本件考案1の実用新案登録を無効とする。本件考案2の実用新案登録についての審判請求は、成り立たない。」旨の審決がなされた。
(5)この審決に対し、東京高等裁判所において、「特許庁が平成10年審判第35161号事件について平成11年9月17日にした審決のうち『本件考案1の実用新案登録を無効とする。』とした部分を取り消す。」旨の判決[平成11年(行ケ)第388号、平成13年3月6日判決言渡]がなされ、さらに、その後、「特許庁が平成10年審判第35161号事件について平成11年9月17日にした審決のうち『本件考案2の実用新案登録についての審判請求は、成り立たない。』とした部分を取り消す。」旨の判決[平成11年(行ケ)第380号、平成14年2月28日判決言渡]がなされた。
(6)上記判決が確定し、さらに審理が行われ、平成14年5月20日(発送日は、平成14年5月24日。)付けで訂正拒絶の理由が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会が与えられたが、その指定期間内に何らの応答もされなかった。


II.請求人の主張

請求人の主張の概要は、次の「1.本件考案1及び2の実用新案登録を無効とする理由」を理由として、「本件考案1及び2の実用新案登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求めるというものである。

1.本件考案1及び2の実用新案登録を無効とする理由
(1)本件考案1は、甲第1及び2号証に示されるような本件考案1の出願前に頒布された刊行物に記載された考案及び周知慣用技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、本件考案1の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して登録されたものであるから、実用新案法第37条第1項第1号により無効とすべきものである。
(2)本件考案2は、甲第1、2及び3号証に示されるような本件考案2の出願前に頒布された刊行物に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、本件考案2の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して登録されたものであるから、実用新案法第37条第1項第1号により無効とすべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特公昭49-47321号公報
甲第2号証:実願昭58-77973号(実開昭59-182694号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭61-192312号(実開昭63-98497号)のマイクロフィルム
甲第4号証:「図解 鋳物用語辞典」日本鋳物協会編、日刊工業新聞社発行[昭和49年6月30日 2版]、第180頁
甲第5号証:「鋳物の現場技術」千々岩健児著、日刊工業新聞社発行[1990年1月30日]、第56?61頁、第95頁、第108?109頁、第136?137頁
甲第6号証:特公昭49-47323号公報
甲第7号証:実開昭57-126591号公報
甲第8号証:実開昭60-32586号公報
なお、審判請求書の証拠方法の欄において、甲第2号証及び甲第3号証は、いずれも公開公報と記載されているが、添付資料等を参酌すると、上記のとおりと認めることができる。


III.被請求人の主張

被請求人の主張の概要は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求めるというものである。


IV.訂正の適否についての検討及び判断

1.訂正の内容
被請求人が求めた訂正の内容は、平成11年1月18日付けの訂正請求書及び該請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、次の訂正事項a?dのとおりであると認められる。
(1)訂正事項a
実用新案登録請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴とする水中モータポンプ。」(以下、「訂正前請求項1」という。)と記載されているのを、
「【請求項1】下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する半側流型水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴とする半側流型水中モータポンプ。」(以下、「訂正後請求項1」という。)と訂正する。
(2)訂正事項b
実用新案登録請求の範囲の請求項2について、
「【請求項2】弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の水中モータポンプ。」(以下、「訂正前請求項2」という。)と記載されているのを、
「【請求項2】弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の半側流型水中モータポンプ。」と訂正する。
(3)訂正事項c
実用新案登録請求の範囲の請求項3?6について、
「【請求項3】弾性体リングの内径d1,同外径d2,羽根車の外径D2,翼幅B2の間の関係を
0.8D2≦d1<d2≦1.2×(D2+2B2)
としたことを特徴とする請求項1記載の水中モータポンプ。
【請求項4】弾性体リングによって、下部側ケーシングのボリュート水切り部を押さえ込むようにしたことを特徴とする請求項1記載の水中モータポンプ。
【請求項5】内径側を中間ケーシングに強制的に嵌め込まれた弾性体リングの外周部に対応する嵌合部を、下部側ケーシングに設け、中間ケーシングと下部側ケーシングの位置決めを容易にしたことを特徴とする請求項1又は2記載の水中モータポンプ。
【請求項6】弾性体リングの外周部のうち、下部側ケーシングと嵌め合う部分にテーパ状の面取りを設けたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか1記載の水中モータポンプ。」と記載されているのを、
「【請求項3】弾性体リングの内径d1,同外径d2,羽根車の外径D2,翼幅B2の間の関係を
0.8D2≦d1<d2≦1.2×(D2+2B2)
としたことを特徴とする請求項1記載の半側流型水中モータポンプ。
【請求項4】弾性体リングによって、下部側ケーシングのボリュート水切り部を押さえ込むようにしたことを特徴とする請求項1記載の半側流型水中モータポンプ。
【請求項5】内径側を中間ケーシングに強制的に嵌め込まれた弾性体リングの外周部に対応する嵌合部を、下部側ケーシングに設け、中間ケーシングと下部側ケーシングの位置決めを容易にしたことを特徴とする請求項1又は2記載の半側流型水中モータポンプ。
【請求項6】弾性体リングの外周部のうち、下部側ケーシングと嵌め合う部分にテーパ状の面取りを設けたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか1記載の半側流型水中モータポンプ。」と訂正する。
(4)訂正事項d
考案の詳細な説明について、
「水中モータポンプ」と記載されている(公告公報の第3欄第42行目、第4欄第16?17行目、同第21行目、第6欄第37行目、第8欄第33行目参照)のを、
「半側流型水中モータポンプ」と訂正し、
また、「一方、下部ケーシング3Bが上方に開放されて…」と記載されている(公告公報の第4欄第5行目参照)のを、
「一方、半側流型水中モータポンプにおいて下部ケーシング3Bが上方に開放されて…」と訂正する。
なお、下線は、対比の便のため、当審で付したものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否について
(1)訂正事項aについて
該訂正事項aは、遮蔽の対象が、訂正前請求項1において単に「水流」であったものを訂正後請求項1において「羽根車から吐出される水流」と限定すると共に、水中モータポンプの形式が、訂正前請求項1において特に限定されていなかったものを訂正後請求項1において「半側流型」であると限定するのであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、訂正前の明細書に、水中モータポンプの形式について「半側流形」と記載されていて「半側流型」と用語が異なるものの「半側流型」を意味するものと解することができるので、該訂正事項aは、新規事項の追加に該当せず、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項b及びcについて
該訂正事項b及びcは、訂正事項aと実質的に同じであるから、訂正事項aと同じ理由により、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項dについて
該訂正事項dは、訂正事項a?cによる実用新案登録請求の範囲の記載と考案の詳細な説明の記載の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.独立実用新案登録要件について
(1)訂正後の本件考案1及び2
訂正後の本件考案1及び2は、訂正後の願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、該明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認める(以下、それぞれ「訂正考案1及び2」という。上記1.(1)の訂正後請求項1及び2参照)。
(2)引用する刊行物に記載された考案
(2-1)特公昭49-47321号公報(以下、「引用例1」という。)
訂正考案1及び2に係る出願前に頒布された刊行物である引用例1には、次のような技術的事項が記載されている。
イ.「この発明は、ポンプ、特に固定粒子を含む液体を運ぶように設計された遠心型のポンプに関するものである。」(第1欄第23?25行)
ロ.「第1図において、10はポンプハウジングを示し、…ポンプ室16は、羽根車18を有し、この羽根車は…公知の型の羽根20を有する。案内羽根わん状体24は羽根20が作用する通路を限定し、また一般に26で示されているポンプハウジングカバーと共に、排出通路28を形成し、この排出通路は上昇通路30に続く。…軸22は、電動モータの回転子34を支持し、…38は、電動モータの固定子を示す。」(第3欄第26?40行)
ハ.「ポンプハウジングカバー26は、金属で造られた円板要素44からなり、この円板要素はハウジングの仕切40にはめ込まれ、ねじ46でもって固定される。」(第3欄第43行?第4欄第2行)
ニ.「更にポンプハウジングカバー26は、ゴムまたは類似の弾性材料の円板62を有し、この円板62は肩64を有し、羽根車18はこの肩に導入される。円板62は、第1図にて上に面するその後面を、金属円板66でもって補強され、金属円板66は円板の前記後面に加硫時に焼付けられる。」(第4欄第17?22行)
ホ.「円板62は、カバー要素44の上を半径方向に拡がり、環状突起部68(第3図)を有し、この環状突起部は要素44の外縁に設けられた溝にはめ込まれる。」(第4欄第24?27行)
ヘ.「羽根車18および円板62は、水中の固定粒子に触れるから、連続的に摩耗作用を受ける。たとえ円板62がこれに関して特に耐摩耗性の大きいゴム材料で造られていても、前に述べた事は本当である。しかしながらこれらの要素は、簡単に取はずされ、新しいものと交換できる。」(第6欄第8?13行)
ト.「水中の固定粒子の作用を受ける案内羽根わん状体24および摩耗リング32は、前記粒子の摩耗作用に対して大きな耐摩性を有するゴムのような材料で造られる。また、下部底部分12を取はずしてからこれら成分を交換すると便利である。」(第6欄第18?23行)
これらの記載事項等からみて、引用例1には、次のとおりの考案(以下、「引用考案1」という。)が記載されていると認めることができる。
「円板要素44からなるポンプハウジングカバー26と案内羽根わん状体24を使用する固体粒子を含む液体のポンプにおいて、円板要素44の下面に、該円板要素44を電動モータを内蔵するポンプハウジング10の仕切40に取付けるねじ46を覆って、耐摩耗性の大きいゴム材料からなる交換可能な円板62を嵌め込んだ固体粒子を含む液体のポンプ。」
(2-2)実願昭58-77973号(実開昭59-182694号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)
訂正考案1及び2に係る出願前に頒布された刊行物である引用例2には、次のような技術的事項が記載されている。
イ.「水中ポンプ、就中土木用ポンプに関する。土木用ポンプにおいて、取扱液は砂等を多く含むので摩耗に強いポンプが要求される。」(明細書第2頁第6?9行)。
ロ.「この考案は羽根車前面の開放されたセミオープンの羽根車を用いた水中ポンプにおいて羽根車主板背面と対向する中間ケーシング部分及び該ケーシング部分に現われているボルトの摩耗を防止したものを提供することを目的とする。」(明細書第3頁第11?15行)。
ハ.「1.羽根車前面が開放されたセミオープンの羽根車を備えた水中ポンプにおいて、ポンプケーシングに接合固定され且つポンプケーシングとモータフレームを中継してモータフレームとボルトにて締結した中間ケーシングの羽根車の主板背面と対向する側に耐摩性部材からなる保護材を設けた水中ポンプ。
2.モータフレームと中間ケーシングを締結するボルト部分を耐摩性部材からなる保護材で囲うようにした実用新案登録請求の範囲第1項記載の水中ポンプ。」(明細書第1頁第5?15行)。
ニ.「この考案は羽根車前面の開放されたセミオープンの羽根車を備えた水中ポンプの該羽根車主板背部にあり、ポンプケーシングとモータフレームを中継して締結する中間ケーシングのポンプ側の面を耐摩性部材の保護材で蔽ったものであり、実施の態様として、ポンプケーシングと中間ケーシングにより挟持されるように前記保護材被覆を設けたもので…ある。そして保護材としては例えば硬質ゴムを用いたものである。」(明細書第3頁第16行?第4頁第7行)。
ホ.「以下、この考案の実施例を図面に従って説明する。…ポンプケーシング1は保護材2を介して中間ケーシング3に接合しており、中間ケーシング3とポンプケーシング1の周縁部複数個所において中間ケーシング3、保護材2のボルト穴を挿通するボルト4をポンプケーシング1のめねじにねじ込み固定してある。中間ケーシング3には密封輪5を介してモータフレーム6が嵌入して保護材2の穴7を頭部まで挿通するボルト8によりモータフレーム6と中間ケーシング3が固定されている。」(明細書第4頁第8?19行)。
ヘ.「保護材2は中間ケーシング3の羽根車26の主板26aの背面に対向する側に設けられる。…保護材2の上面は中間ケーシング3に接している。ここで保護材2は砂等の研削作用に抗して耐摩耗性のある材料、例えば硬質ゴムが好適であるが硬質合成樹脂でもよい。…ポンプケーシング1に接する平面2cは二点鎖線Bで示される外側がポンプケーシング1と中間ケーシング3の水密を計るパッキン部31であり、内側はボルト8の頭部の頭の嵌入する前述した穴7を備え穴7の周囲を形成するようにポンプケーシング1面と接するボルト頭保護部32を形成している。」(明細書第6頁第16行?第7頁第16行)。
ト.第1図の表示、上記記載事項ホ、ヘ及び技術常識からみて、第1図から、「水中モータポンプが、いわゆる半側流型のものであり、ポンプケーシング1が、製造上の中子を必要とする形状をしていること」が看取できる。
チ.「取扱液中に砂、砂利のようなものが多いとか、水溜の残水が少なくなると大量の砂、砂利等が羽根車26の主板26aの背面にて流動する。そして保護材2の面に作用するが保護材2が耐摩性材料を用いているために摩耗が少ない。中間ケーシング3をモータフレーム6に固定するボルト8のボルト頭は穴7中に納められているので取扱液体中の砂等が流れ乍ら衝突するというようなことがないので該ボルト頭は摩耗しない。」(明細書第9頁第12?20行)。
リ.「(1)羽根車主板と対向する面に保護材を設けたから、中間ケーシングの摩耗が防止できる。(2)中間ケーシングとモータフレームを締結するボルトのボルト頭を保護材で取扱液体から遮断するようにしたから、該ボルト頭の摩耗は生ぜず、中間ケーシングとモータフレームの分解は容易である。」(明細書第11頁第7?13行)。
これらの記載事項等からみて、引用例2には、次のとおりの考案(以下、「引用考案2」という。)が記載されていると認めることができる。
「互いに接合されたポンプケーシング1と中間ケーシング3を使用する半側流型水中ポンプにおいて、中間ケーシング3の下面に、該中間ケーシング3をモータフレーム6に取付けるボルト8を取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するということがないように、硬質ゴム等の耐摩耗性のある材料からなる保護材2を設けた半側流型水中ポンプ。」
(2-3)実願昭61-192312号(実開昭63-98497号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)
訂正考案1及び2に係る出願前に頒布された刊行物である引用例3には、次のような技術的事項が記載されている。
イ.「中間ケーシングに弾性材製の上部ケーシングと、弾性材製で下部ケーシングカバーで覆われた下部ケーシングと、それら上部ケーシング及び下部ケーシングを覆うようにストレーナとを取付けた水中ポンプにおいて、ストレーナ、下部ケーシングおよび上部ケーシングをストレーナと下部ケーシングカバーとの間に設けたディスタンス体を介し同種複数本のボルトで中間ケーシングに共締め固着したことを特徴とする水中ポンプ。」(明細書第1頁第5?13行)
ロ.「第1図および第2図において、ストレーナ7には複数個の凹座11が形成され、凹座11の内方には下部ケーシングカバー6に当接するディスタンス体であるディスタンスカラー12が溶着またはカシメ加工により固着されている。そして、ストレーナ7、下部ケーシング5および上部ケーシング4は中間ケーシング3に螺合する同種複数本のボルト13により中間ケーシング3に共締め固着されている。従って、ストレーナ7はディスタンスカラー12を介して下部ケーシングカバー6を押圧し、下部ケーシング5と上部ケーシング4との間のシールを図るようになっている。なお、上記構成において、ディスタンスカラー12はストレーナ7に固着するかわりに、下部ケーシングカバー6に溶接またはカシメ加工により固着してもよい。このように構成されているので、ボルト13を外すだけで、ストレーナ7、下部ケーシング5、上部ケーシング4を簡単に外し、ポンプ部の分解、点検を容易、迅速に行うことができる。また、ボルト13のねじ部は、ディスタンスカラー12により水からシールされているので、泥、砂等がねじ溝に入り込んで中間ケーシング3から外しにくくなることはない。」(第4頁第14?17行)
ハ.第1図には水中ポンプの要部の側断面図として、ボルト13がストレーナ7の周辺端部に形成された凹座11に位置し、下部ケーシングカバー6に当接するディスタンスカラー12を貫通して、ストレーナ7、下部ケーシング5および上部ケーシング4を中間ケーシング3に螺合していることが図示されている。
ニ.第2図には第1図の直行断面図として、上部ケーシング4の内径側の上部に突出部が設けられており、中間ケーシング3の上部ケーシング4に面する部分に、該突出部と対応する形状の凹部が設けられていることが図示されている。
これらの記載事項によると、引用例3には、上部ケーシング4の内径側に設けられた突出部がOリング状の突起であること、中間ケーシング3側に設けられた凹部が環状溝であること、及び上記突出部を上記凹部に強制的に嵌め込むことによって、弾性材製の上部ケーシング4を中間ケーシング3へ固定するものであることについて、直接の記載はない。しかしながら、ケーシングとは、ポンプ等で、機械の内部を密閉するために被覆、容器、囲いなどの役目をする部分のことであること(工業教育研究会編・図解機械用語辞典・第3版参照)、上部ケーシングの全体の形状自体について同刊行物に特段の記載のないことを前提に、同引用例3の上記記載並びに第1図及び第2図をみれば、同引用例3記載の水中ポンプにおいて、中間ケーシング3は、インペラ1の回転軸を囲む環状のものであることも、上部ケーシング4は、中間ケーシング3に密着して、これと対応する環状の孔を有する形状をしていることも自明なことというべきである。また、これを前提にした場合、同刊行物においては、弾性材製の上部ケーシングは、その内側に環状突起を有し、中間ケーシングは、その中央部側面に前記突起に対応する形状の環状溝である凹部を有しており、かつ、上記弾性材製の上部ケーシングの内側の突起は、当然に、Oリング状の突起である、と理解することができるというべきである。
そして、a)弾性材製の上部ケーシングの内側に環状突起を有し、中間ケーシングの中央部側面に前記突起に対応する形状の環状溝を有していれば、これらを嵌合させることにより両者を固定する作用が生じることは明らかであること、b)引用例1によれば、該引用例1は、昭和43年出願の公告公報であり、そこには、ポンプにおいて、弾性材製の円板外径側に環状突起部を設け、この環状突起部をポンプハウジングカバーを形成する円板要素の外縁に設けられた溝に嵌め込むことによって位置を保持することが示されていることが認められ、この事実によれば、弾性材製の環状突起部を円板要素の溝に嵌め込むことで、弾性を利用して固定することは、水中ポンプ(排水ポンプ)の分野において通常行われていることであるといえること、c)引用例3の第1図、第2図によれば、引用例3記載の考案では、ボルト13がストレーナ7の周辺端部にあって上部ケーシング4は周辺部分で中間ケーシング3に螺合しているから、中央部分で両者を固定する機能が必要であると認められること、を総合するならば、引用例3記載の前記上部ケーシングの内側の環状突起と、中間ケーシングの中央部側面に環状溝とは嵌合して両者を固定する作用を行っていると解するのが相当である。
以上述べたところによれば、引用例3には、訂正考案2の構成要件の一つである、「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにした」構成が開示されているというべきである。(平成11年(行ケ)380号、平成14年2月28日に言渡しのあった判決参照)
(3)訂正考案1と引用考案2との対比及び判断
訂正考案1と引用考案2とを対比すると、引用考案2の「中間ケーシング3」は、その技術的意義において、訂正考案1の「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」に相当し、以下同様に、「ポンプケーシング1」は「下部側ケーシング」に、「互いに接合されたポンプケーシング1と中間ケーシング3」は「上下分割型ケーシング」に、「半側流型水中ポンプ」は「半側流型水中モータポンプ」に、「モータフレーム6」は「モータ」に、「ボルト8」は「ボルト部」に、それぞれ相当すると認められる。
また、訂正考案1の「ボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように」と引用考案2の「ボルト8を取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するということがないように」は、「ボルト部を水流から遮蔽するように」の限度で一致し、訂正考案1の「ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだ」と引用考案2の「硬質ゴム等の耐摩耗性のある材料からなる保護材2を設けた」は、「ゴムのような耐摩耗性の弾性体を設けた」の限度で一致すると認められる。
してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
上下分割型ケーシングを使用する半側流型水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体を設けた半側流型水中モータポンプ。
<相違点>
イ.訂正考案1では、「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシング」となっているのに対し、引用考案2では、「互いに接合されたポンプケーシング1と中間ケーシング3(上下分割型ケーシング)」となっている点(以下、「相違点イ」という。)。
ロ.訂正考案1では、「ボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだ」となっているのに対し、引用考案2では、「取付けるボルト8(ボルト部)を取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するということがないように、硬質ゴム等の耐摩耗性のある材料からなる保護材2を設けた」となっている点(以下、「相違点ロ」という。)。
次いで、これらの相違点について検討する。
<相違点の検討>
イ.相違点イについて
下部側ケーシング等の腕状の製品の製造において中子を不要とするには、該ケーシング等の製品の内側の形状を凹凸のないものとして開口部の内径を他の部分の内径より狭くしないことが必要であることは、鋳物技術の分野において周知の技術的事項であり、また、中子を不要とすることにより製造上の利点があることも周知の技術的事項である。
したがって、水中モータポンプの下部側ケーシングの製造において、該下部側ケーシングの内側の形状を凹凸のないものとして開口部の内径を他の部分の内径より狭くしないでよいものであれば、中子を不要とする鋳物技術を採用することは、当業者にとってきわめて容易に想到できることというべきである。
そして、周知の引用例3及び特開昭59-110896号公報の記載によると、水中モータポンプにおいて、下部側ケーシングの内側の形状を凹凸のないものとして開口部の内径を他の部分の内径より狭くしないことが可能であることは、当業者にとってきわめて容易に予測できるものといえる。
また、引用考案2において、少なくともボルト部との関係を問わない限りでは、下部側ケーシングとしてその製造上の中子が不要なものを採用することを妨げるような特段の事情は、見当たらない。
さらに、下部側ケーシングの開口部とボルト部の関係を「ボルト部の位置が下部側ケーシングの開口部に露出する恐れのある場所にある」と限定的に解釈しても、該構成は、後述するように引用考案1の技術思想からみても格別なものではないので、引用考案2において、下部側ケーシングとしてその製造上の中子が不要なものを採用することを妨げるような特段の事情は、見当たらない。
してみると、相違点イに係る訂正考案1の構成は、引用考案2及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきである。
ロ.相違点ロについて
引用例2の第5図に記載された水中ポンプ、すなわち、引用考案2の一実施例において、下部側ケーシングに相当するポンプケーシング1を、製造上の中子を不要とするものにすると、ボルト部に相当するボルト8が、取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するということがないように設けた保護材2又は下部側ケーシングの一部によって保護されなくなる恐れがある。
しかしながら、引用例2には、「保護材2はボルト8のボルト頭に汚水が行かないように該ボルト頭の主軸17側に面する側にポンプケーシング1と接するように突状35をめぐらす。」(明細書第11頁第1?4行)にみられるように、保護材2によりボルト8のボルト頭を取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突することから遮断することを強く示唆する記載があることから、引用考案2は、ボルト部に相当するボルト8を、ゴムのような耐摩耗性の弾性体自体で取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するのを防止するようにすることを排除するものではないと解される。
また、引用考案1は、ポンプケーシングの上側内面に位置するねじ46を固体粒子を含む液体との接触を遮蔽するように耐摩耗性の大きいゴム材料で作られた円板62を交換可能に設ける技術思想を含むものである。
さらに、ゴム材料で作られたリング状の部材を交換可能に取り付ける際、他部材に嵌め込むようにすることは、周知の技術的事項であって、かつ、引用例3に、水中モータポンプの中間ケーシングに弾性材製のリング状部材である上部ケーシングを嵌め込むようにすることが記載されていることからみて、水中モータポンプの中間ケーシングに弾性材製のリング状部材を嵌め込むようにすることに格別な困難性は見当たらない。
してみると、相違点ロに係る訂正考案1の構成は、引用考案2に引用考案1の技術思想及び周知の技術的事項を適用することにより、当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。
また、訂正考案1が奏する効果も、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる範囲を超えるものとは認めがたい。
したがって、訂正考案1は、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。
(4)訂正考案1と引用考案1との対比及び判断
訂正考案1と引用考案1とを対比すると、引用考案1の「固体粒子を含む液体のポンプ」は、その技術的意義において、訂正考案1の「半側流型水中モータポンプ」に相当し、以下同様に、「電動モータを内蔵するポンプハウジング10の仕切40」は「モータ」に、「ねじ46」は「ボルト部」に、「耐摩耗性の大きいゴム材料」は「ゴムのような耐摩耗性の弾性体」に、「円板62」は「リング」に、それぞれ相当すると認められる。
また、訂正考案1の「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシング」と引用考案1の「円板要素44からなるポンプハウジングカバー26と案内羽根わん状体24」は、「上下の部材からなる覆い体」の限度で一致し、訂正考案1の「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」と引用考案1の「円板要素44」は、「上側の覆い体」の限度で一致し、訂正考案1の「ボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように」と引用考案1の「ボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように」は、「ボルト部の損傷を防止するように覆って」の限度で一致すると認められる。
してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
上下の部材からなる覆い体を使用する半側流型水中モータポンプにおいて、上側の覆い体の下面に、該上側の覆い体をモータに取付けるボルト部の損傷を防止するように覆って、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだ半側流型水中モータポンプ。
<相違点>
イ.訂正考案1では、「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシング」となっているのに対し、引用考案1では、「円板要素44からなるポンプハウジングカバー26と案内羽根わん状体24」となっている点(以下、「相違点ホ」という。)。
ロ.訂正考案1では、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」となっているのに対し、引用考案1では、「円板要素44」となっている点(以下、「相違点ヘ」という。)。
ハ.訂正考案1では、「ボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように」となっているのに対し、引用考案1では、「ねじ46(ボルト部)を覆って」となっている点(以下、「相違点ト」という。)。
次いで、これらの相違点について検討する。
<相違点の検討>
イ.相違点ホについて
下部側ケーシング等の腕状の製品の製造において中子を不要とするには、該ケーシング等の製品の内側の形状を凹凸のないものとして開口部の内径を他の部分の内径より狭くしないことが必要であることは、鋳物技術の分野において周知の技術的事項であり、また、中子を不要とすることにより製造上の利点があることも周知の技術的事項である。
したがって、水中モータポンプの下部側ケーシングの製造において、該下部側ケーシングの内側の形状を凹凸のないものとして開口部の内径を他の部分の内径より狭くしないでよいものであれば、中子を不要とする鋳物技術を採用することは、当業者にとってきわめて容易に想到できることというべきである。
そして、周知の引用例3及び特開昭59-110896号公報の記載によると、水中モータポンプにおいて、下部側ケーシングの内側の形状を凹凸のないものとして開口部の内径を他の部分の内径より狭くしないことが可能であることは、当業者にとってきわめて容易に予測できるものといえる。
また、引用考案1において、下部側ケーシングとしてその製造上の中子が不要なものを採用することを妨げるような特段の事情は、見当たらない。
してみると、相違点ホに係る訂正考案1の構成は、引用考案1及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきである。
ロ.相違点へについて
引用考案1の「円板要素44」は、ケーシングの機能を有し、上側に位置することが明らかであり、また、ポンプケーシングを「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシング」で構成した際、該「円板要素44」を「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」と構成することを妨げる特段の事情も見当たらない。
また、引用考案2は、半側流型水中モータポンプにおいて、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」を設けるものである。
してみると、相違点ヘに係る訂正考案1の構成は、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきである。
ハ.相違点トについて
水中ポンプにおいて、水流に曝される箇所が摩耗することが周知の技術的事項であるから、当業者にとって、ボルト部が羽根車から吐出される水流に曝される場合、そのボルト部を耐摩耗性のある部材で覆うか、ボルト部の位置を変更することは極自然なことと考えられる。
また、引用考案1において、ねじ46(ボルト部)をその損傷を防止するように覆っていると解されるのであるから、引用考案1を該ねじ46(ボルト部)が羽根車から吐出される水流に曝されるような構成に変更する必要性があった場合も、ねじ46(ボルト部)をその損傷を防止するように覆っている態様を格別変更する必要性がないことは、当業者にとってきわめて容易に予測できることにすぎない。
ただ、ねじ46(ボルト部)が羽根車から吐出される水流に曝されるようにした場合、耐摩耗性のある部材の材質等をポンプの使用態様、コスト等を考慮して多少の変更を加えることがあるかもしれないが、これも、当業者にとってきわめて容易に実施できる設計的事項にすぎない。
してみると、相違点ヘに係る訂正考案1の構成は、引用考案1及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきである。
また、訂正考案1が奏する効果も、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる範囲を超えるものとは認めがたい。
したがって、訂正考案1は、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定によりなおその効力を有するとされ、同条第2項の規定により読み替えられる昭和62年法律第27号により改正された実用新案法第40条第5項において準用する同法第39条第3項の規定に違反するので、当該訂正は認められない。


V.無効理由についての検討及び判断

1.本件考案1及び2
本件考案1及び2は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、該明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認める(上記IV.1.(1)及び(2)の訂正前請求項1及び2参照)。

2.無効理由に引用された刊行物に記載された考案
(1)甲第1号証:特公昭49-47321号公報(「引用例1」)
請求人が証拠として提示した甲第1号証は、上記「IV.3.独立実用新案登録要件について」において引用した引用例1であって、該引用例1には、前示のとおり、引用考案1が記載されていると認めることができる。
(2)甲第2号証:実願昭58-77973号(実開昭59-182694号)のマイクロフィルム(「引用例2」)
請求人が証拠として提示した甲第2号証は、上記「IV.3.独立実用新案登録要件について」において引用した引用例2であって、該引用例2には、前示のとおり、引用考案2が記載されていると認めることができる。
(3)甲第3号証:実願昭61-192312号(実開昭63-98497号)のマイクロフィルム(「引用例3」)
請求人が証拠として提示した甲第3号証は、上記「IV.3.独立実用新案登録要件について」において引用した引用例3であって、該引用例3には、前示のとおり、「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにした」構成が開示されていると認めることができる。

3.本件考案1について
本件考案1は、訂正考案1より構成要件の限定が少ないものであるから、本件考案1と引用考案2とを対比すると、引用考案2の「中間ケーシング3」は、その技術的意義において、本件考案1の「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」に相当し、以下同様に、「ポンプケーシング1」は「下部側ケーシング」に、「互いに接合されたポンプケーシング1と中間ケーシング3」は「上下分割型ケーシング」に、「水中ポンプ」は「水中モータポンプ」に、「モータフレーム6」は「モータ」に、「ボルト8」は「ボルト部」に、それぞれ相当すると認められる。
また、本件考案1の「ボルト部を水流から遮蔽するように」と引用考案2の「ボルト8を取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するということがないように」は、「ボルト部を水流から遮蔽するように」の限度で一致し、本件考案1の「ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだ」と引用考案2の「硬質ゴム等の耐摩耗性のある材料からなる保護材2を設けた」は、「ゴムのような耐摩耗性の弾性体を設けた」の限度で一致すると認められる。
してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体を設けた水中モータポンプ。
<相違点>
イ’.本件考案1では、「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシング」となっているのに対し、引用考案2では、「互いに接合されたポンプケーシング1と中間ケーシング3(上下分割型ケーシング)」となっている点(以下、「相違点イ’」という。)。
ロ’.本件考案1では、「ボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだ」となっているのに対し、引用考案2では、「取付けるボルト8(ボルト部)を取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するということがないように、硬質ゴム等の耐摩耗性のある材料からなる保護材2を設けた」となっている点(以下、「相違点ロ’」という。)。
次いで、これらの相違点について検討する。
<相違点の検討>
イ.相違点イ’について
該相違点イ’は、訂正考案1と引用考案2との対比における相違点イと実質的に同じである。
してみると、相違点イ’に係る本件考案1の構成は、上記「相違点イについて」の検討における理由と同じ理由により、引用考案2及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきである。
ロ.相違点ロ’について
引用例2の第5図に記載された水中ポンプ、すなわち、引用考案2の一実施例において、下部側ケーシングに相当するポンプケーシング1を、製造上の中子を不要とするものにすると、ボルト部に相当するボルト8が、取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するということがないように設けた保護材2又は下部側ケーシングの一部によって保護されなくなる恐れがある。
しかしながら、引用例2には、「保護材2はボルト8のボルト頭に汚水が行かないように該ボルト頭の主軸17側に面する側にポンプケーシング1と接するように突状35をめぐらす。」(明細書第11頁第1?4行)にみられるように、保護材2によりボルト8のボルト頭を取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突することから遮断することを強く示唆する記載があることから、引用考案2は、ボルト部に相当するボルト8を、ゴムのような耐摩耗性の弾性体自体で取扱液中の砂等が流れ乍ら衝突するのを防止するようにすることを排除するものではないと解される。
また、引用考案1は、ポンプケーシングの上側内面に位置するねじ46を固体粒子を含む液体との接触を遮蔽するように耐摩耗性の大きいゴム材料で作られた円板62を交換可能に設ける技術思想を含むものである。
さらに、ゴム材料で作られたリング状の部材を交換可能に取り付ける際、他部材に嵌め込むようにすることは、周知の技術的事項であって、かつ、引用例3に、水中モータポンプの中間ケーシングに弾性材製のリング状部材である上部ケーシングを嵌め込むようにすることが記載されていることからみて、水中モータポンプの中間ケーシングに弾性材製のリング状部材を嵌め込むようにすることに格別な困難性は見当たらない。
してみると、相違点ロ’に係る本件考案1の構成は、引用考案2に引用考案1の技術思想及び周知の技術的事項を適用することにより、当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。
また、本件考案1が奏する効果も、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる範囲を超えるものとは認めがたい。
したがって、本件考案1は、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、実用新案登録を受けることができないものである。
さらに、本件考案1は、上記「IV.3.(4)訂正考案1と引用考案1との対比及び判断」における理由とほぼ同じ理由により、引用考案1、2及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものともいえるので、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、実用新案登録を受けることができないものである。

4.本件考案2について
本件考案2は、本件考案1にさらに構成要件を付加したものであるから、本件考案2と引用考案2とを対比すると、両者は、本件考案1と引用考案2との対比における一致点と同じ点で一致し、本件考案1と引用考案2との対比における相違点イ’及びロ’に加えて、次のとおりの点で相違する。
<加わる相違点>
ハ.引用考案2では、「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにした」となっているのに対し、引用考案2では、そのような構成となっているのか否か不明である点(以下、「相違点ハ」という。)。
次いで、これらの相違点について検討する。
<相違点の検討>
イ.相違点イ’及びロ’について
これらの相違点イ’及びロ’は、上記3で検討したように、いずれも格別なものではない。
ロ.相違点ハについて
引用例3には、該相違点ハに係る本件考案2の構成要件である「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにした」構成が開示されていることは、前示のとおりである。
そして、引用考案2にこのような技術的事項を適用することを妨げる特段の事情も見当たらない。
また、本件考案2が奏する効果も、引用考案1、2、引用例3に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる範囲を超えるものとは認めがたい。
したがって、本件考案2は、引用考案1、2、引用例3に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
さらに、本件考案2は、上記「IV.3.(4)訂正考案1と引用考案1との対比及び判断」における理由とほぼ同じ理由及び上記「相違点ハについて」の検討における理由と実質的に同じ理由により、引用考案1、2、引用例3に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものともいえるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件考案1及び2の実用新案登録は、いずれも、その実用新案登録が特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)による改正前の実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであるから、実用新案法第37条第1項第1号に該当するので、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1999-08-30 
結審通知日 1999-09-10 
審決日 1999-09-17 
出願番号 実願平1-148585 
審決分類 U 1 122・ 121- ZB (F04D)
最終処分 成立    
前審関与審査官 唐 強  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 氏原 康宏
亀井 孝志
登録日 1997-10-03 
登録番号 実用新案登録第2148998号(U2148998) 
考案の名称 水中モータポンプ  
代理人 本田 紘一  
代理人 近藤 惠嗣  

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