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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) B66C
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B66C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) B66C
管理番号 1070555
審判番号 無効2002-35055  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-02-15 
確定日 2002-12-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第2133468号実用新案「ホイ-ルクレ-ン」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2133468号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
(1)本件実用新案登録第2133468号は、昭和62年3月9日の実用新案登録出願(実願昭62-34326号)について、その拒絶査定に対する審判(平成4年審判第10035号)において平成7年3月22日に出願公告(実公平7ー12387号)がされ、平成8年4月23日付で登録異議の決定および審決がされた後、平成8年9月10日に実用新案登録権の設定登録がなされたものである。
(2)これに対して、請求人株式会社加藤製作所は、平成14年2月15日付けで、「本件実用新案登録第2133468号を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする。」ことを求める無効審判を請求し、平成14年4月11日付けで手続補正書及び回答書、平成14年8月23日付けで証拠説明書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書、並びに、平成14年9月27日付けで上申書を提出した。
(3)被請求人は、平成14年6月4日付けで答弁書、平成14年8月22日付けで回答書、平成14年9月6日付けで口頭審理陳述要領書、平成14年9月17日付けで上申書を提出した。

2.請求人の主張の概要
請求人は、下記に示す甲第1?5、7?16号証を提示し、以下に示す旨の理由により無効にされるべきであると主張している。
(1)平成6年8月1日付けの手続補正書(甲第1号証の2)の第3図では、ガイドシーブ軸19とウィンチドラム14,15との間に隙間が存在し、願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証の1)の第2図と対比すると、平成6年8月1日付けの手続補正書(甲第1号証の2)の第3図では、ウィンチドラムが右側に変位している。
してみると、平成6年8月1日付け、及び、平成6年10月17日付けの手続補正書(甲第1号証の2、3)により補正された後の本考案における、「ウィンチドラムがブーム基端に最大限に近接して」いることに関して、「最大限に近接」の実態が変更され、また、平成6年8月1日付け、平成6年10月17日付けの手続補正書(甲第1号証の2、3)には「第3図は第2図の拡大図」と記載されているが、本考案が第2,3図のいずれを対象にするのか不明である。
したがって、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正である、平成6年8月1日付け、及び、平成6年10月17日付けの手続補正書による補正(甲第1号証の2、3)は、明細書又は図面の要旨を変更したもので、旧実用新案法第9条第1項により準用される旧特許法第42条(「40条」の誤記と認める。)の規定により、本件考案に係る出願は、平成6年8月1日付けの手続補正書が提出された時にしたものとみなされるから、本件考案は、平成6年8月1日前に頒布された刊行物である甲第1号証の1(実願昭62-34326号(実開昭63-142386号)のマイクロフィルム)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
よって、本件考案についての実用新案登録は、旧実用新案法第3条第2項の規定に違反して違反してなされたものであるから、同実用新案法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「無効理由1」という。)
(2)願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証の1)には、「ガイドシーブおよびウィンチドラムをブーム基端に最大限に近接して」いることに関して、「最大限に近接」の限界に係る具体的記載はない。また、願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証の1)の第2図では、ウィンチドラム14,15の右側縁はブームフットピン13aの右側縁より右側に位置するものと記載され、一方、平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)により補正された第3図では、ウィンチドラム14,15の右側縁はブームフットピン13aの右側縁より左側に位置するものと記載され、両者の間で、ウィンチドラムの右側縁とブームフットピンの右側との前後方向位置関係が逆である。さらに、願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証の1)の第1図と平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)により補正された第1図とでは、ガイドシーブ16,17の後端位置と上部旋回体の後端位置との前後方向の相対位置が変化しているから、ウィンチドラム、ガイドシーブがブーム基端に「最大限に近接」することの実態が変更している。
したがって、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後にした補正である、平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)による補正は、明細書又は図面の要旨を変更したもので、旧実用新案法第9条第1項により準用される旧特許法第40条(「42条」の誤記と認める。)の規定により、その補正がされなかった出願について実用新案登録されたものとみなされるから、本件考案は、その出願前頒布された刊行物である甲第1号証の1(実願昭62-34326号(実開昭63-142386号)のマイクロフィルム)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
よって、本件考案についての実用新案登録は、旧実用新案法第3条第2項の規定に違反して違反してなされたものであるから、同実用新案法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「無効理由2」という。)
(3)本願の明細書及び図面には、ガイドシーブ、ウィンチドラムをブーム基端にどの程度近接させるかの限界に係わる具体的記載がないから、「ガイドシーブおよびウィンチドラムをブーム基端に最大限に近接して」における「最大限に近接」の限界が明らかでない。
したがって、本件考案の明細書、図面の記載では、「ガイドシーブおよびウィンチドラムをブーム基端に最大限に近接して」いること、また同様に、「ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置とが前後方向にほぼ一致していること」が不明確である。
よって、本件考案についての実用新案登録考案は、旧実用新案法第5条第4項、第6項(請求の趣旨から、「3、4項」の誤記と認める。)に規定する要件をみたしていない実用新案登録出願に対してなされたものであるから、同実用新案法第37条第1項第4号(「第3号」の誤記と認める。)に該当し、無効とすべきものである。(以下、「無効理由3」という。)
(4)本件考案は、その出願前に頒布された刊行物である甲第2号証又は甲第7号証記載の発明、及び、甲第3?5、9、10、12、13(「14」の誤記と認める)号証に記載の周知の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
よって、本件考案についての実用新案登録考案は、旧実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同実用新案法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「無効理由4」という。)
[証拠方法]
甲第1号証:実公平7-12387号公報(本件実用新案出願公告公報)
甲第1号証の1:実願昭62-34326号(実開昭63-142386号)のマイクロフィルム
甲第1号証の2:平成6年8月1日付け手続補正書
甲第1号証の3:平成6年10月17日付け手続補正書
甲第1号証の4:平成7年12月26日付け手続補正書
甲第2号証:建設機械、264.Vol.23、No.3、日本工業出版社、62年3月1日発行、第94頁?第96頁
甲第2号証の1:甲第2号証の第96頁の組立図の拡大図に赤字、赤線を追記したもの
甲第3号証:工業時事通信 建設機械版、2347号、工業時事通信社、昭和60年6月6日発行、第6頁、第21頁
甲第3号証の1:甲第3号証の21頁の図面の拡大図に赤字、赤線を追記したもの
甲第4号証:実願昭60-61024号(実開昭61-178776号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭59-2730号(実開昭60-114187号)のマイクロフィルム
甲第7号証:「TADANO ラフターラインクレーンTR-250M」のカタログ、株式会社多田野鉄工所作成
甲第7号証の1:「TADANO TR-250M」のカタログ、株式会社多田野鉄工所作成
甲第7号証の2:甲第7号証の要部写真の拡大図
甲第7号証の3:甲第7号証の2に部分名称、符号を追記したもの
甲第7号証の4:甲第7号証の要部写真に撮影位置及び撮影方向を追記したもの
甲第8号証:「TADANO ラフターラインTR-400M」のカタログ、株式会社多田野鉄工所作成
甲第8号証の1:「TADANO TR-400M」のカタログ、株式会社多田野鉄工所作成
甲第9号証:工業時事通信 建設機械版、2403号、工業時事通信社、昭和61年1月13日発行、第20頁
甲第9号証の1:甲第9号証の第20頁の拡大図に赤字、赤線を追記したもの
甲第10号証:実願昭58-94892号(実開昭60-3155号)のマイクロフィルム
甲第11号証:建設機械、264.Vol.23、No.3、日本工業出版社、昭和62年3月1日発行、第94頁?第96頁、昭和62年3月2日付け国会図書館受入れの押印がされたもの
甲第12号証:「DEMAG BETRIEBSANLEITUNG HC50」のカタログ
甲第12号証の1:甲第12号証要部に訳文、赤字符号を追記したもの
甲第13号証:甲第12号証カタログの株式会社加藤製作所への納品書コピー
甲第14号証:「DEMAG ERSATZTEILE HC50」のカタログ
甲第14号証の1:甲第14号証要部に訳文、赤字符号を追記したもの
甲第15号証:甲第14号証カタログの株式会社加藤製作所への納品書コピー
甲第16号証:平成14年8月9日付けの株式会社加藤製作所設計第一課課長尾城正博作成の報告書
なお、これらの各証拠の成立について、当事者間に争いはない(第1回口頭審理調書の「被請求人3」の項を参照。)

3.被請求人の主張の概要
(1)〈無効理由1について〉
平成6年8月1日付けの手続補正書(甲第1号証の2)の第3図でガイドシーブ軸19とウィンチドラム14,15との間に隙間が存在しても、ガイドシーブ、ウィンチドラムとブーム基端との相対位置関係は変化していないから、平成6年8月1日付け、及び、平成6年10月17日付けの手続補正書(甲第1号証の2、3)による補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものではない。
(2)〈無効理由2について〉
平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)の第1図、第3図が願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第1号証の1)の第1図、第2図と比較して微妙に変化していたとしても、ガイドシーブ、ウィンチドラムとブーム基端との相対位置関係には関係がないから、平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)による補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものではない。
(3)〈無効理由3について〉
「最大限近接して」は「できるだけ前方位置に取付けている」ものであり、「ガイドシーブ16,17およびウィンチドラム14,15は、ブーム13起伏時にブーム13基端と接触しない範囲でブーム13基端に最大限に近接して上部旋回体12に取付けられている」は、その記載されたとおりの構成であって、本件考案の解釈上不明瞭なところはない。
(4)〈無効理由4について〉
(イ)甲各号証の成立性、甲第2、3、9号証が本件考案の出願前に頒布された刊行物であることを認め、甲第12、14号証が本件考案の出願前に頒布された刊行物であることについて争わない。(平成14年9月6日付け口頭審理調書)
(ロ)甲第7号証に関して、請求人はそれが本件出願前頒布された刊行物であると主張するが、その根拠が認められない。カタログ類に何らかの年月表示が存在する場合、印刷年月であることが一般的だから、甲第7号証末尾に記載の「・・・86-11・・・」が何らかの年月を示すものであっても、発行年月とは認めがたく、また、甲第16号証の記載内容の信憑性は低い。(平成14年9月6日付け口頭審理陳述要領書)
(ハ)甲第3、9、12、14号証記載のホイールクレーンが、(A)の構成を備えているとの見解には異論がない。(平成14年8月23日付け回答書、平成14年9月17日付け上申書)
(ニ)甲第12号証には、ブーム基端とガイドシーブとの相対的位置関係が開示されていない。(平成14年9月17日付け上申書)
(ホ)本件考案と甲第2号証又は甲第7号証記載の考案とは、(A)、(C)、(D)、(E)の構成で相違する。
ブーム長を大きくすること、及び、後端旋回半径を小さくすることは、ホイールクレーンにおいてごく当たり前の事項に過ぎないが、上記2つの事項を両立するために上部旋回体後部における各構成要素の配置をどのように工夫すべきかという課題は、本件出願当時に周知ではない。また、後端旋回半径を小さく抑えながら大きなブーム長を確保するという課題を解決する手段として、(A)の構成を採ることは、甲第3号証等の記載からきわめて容易に想到できるものではなく、また、甲第3号証等に記載の(A)の構成と甲第2号証記載の考案とを組み合わせることは、両者を結び付ける動機付けが存在しないから、きわめて容易に想到できるものではない。
(A)の構成を欠く甲第2号証記載の考案では、ブーム起立時にブーム基端とガイドシーブとの干渉を避けるため、ブーム倒伏時にブーム基端からガイドシーブを大きく後方に離間させなければならず、よってガイドシーブをブーム基端に近接させることはできない。本件考案のように、(A)の構成と他の(B)?(E)の構成とを組み合わせることによりはじめて、ブーム基端とガイドシーブとをブーム起伏状態にかかわらず常に「最大限近接」させることができるのであり、その結果として上部旋回体の後端旋回半径を抑えながらブーム長さの著しい増大を図るとの格別の効果を奏するものである。
したがって、本件考案は、甲第2号証又は甲第7号証記載の考案、及び、周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものではない。(答弁書、平成14年9月17日付け上申書)

4.無効理由1についての当審の判断
願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第1号証の1)の第2図と平成6年8月1日付けの手続補正書(甲第1号証の2)の第3図では、ガイドシーブ軸19の前後方向右端とウィンチドラム14,15の前後方向左端との相対位置関係に若干の相違があるともみることができる。
しかしながら、上記図面が、本件考案の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであって、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らないこと、また、仮に、ガイドシーブ軸とウィンチドラムとの相対的位置関係が変化しているからといって、ガイドシーブ、ウィンチドラムとブーム基端との相対位置関係が変化しているとはいえないこと、実用新案登録請求の範囲の記載に実質上の変化はないことからみて、平成6年8月1日付け、及び、平成6年10月17日付けの手続補正書(甲第1号証の2、3)による補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものと認めることができない。
したがって、本件考案に係る出願は、平成6年8月1日付けの手続補正書(甲第1号証の2)が提出されたときにされたものとみなすことができなく、「平成6年8月1日付け、及び、平成6年10月17日付けの手続補正書による補正が明細書又は図面の要旨を変更したものである」ことを前提とする無効理由1によっては、本件考案についての実用新案登録を無効とすることができない。

5.無効理由2についての当審の判断
前示のとおり本件の実新案登録出願は、要旨変更の有無の判断をするまでもなく、昭和62年3月9日に出願されたものであるから、無効理由1についての判断の理由と同じ理由により、無効理由2によっては、本件考案についての実用新案登録を無効とすることができない。
なお、平成7年12月26日付け手続補正書による補正の要旨変更の有無について付言すると、願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証の1)の第2図と平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)により補正された第3図とでは、ウィンチドラム14,15の右側縁とブームフットピン13aとの相対位置関係に、また、願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証の1)の第1図と平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)により補正された第1図とでは、ガイドシーブ16,17の後端位置と上部旋回体の後端位置との前後方向の相対位置に、若干の相違があるともみることができる。
しかしながら、上記図面が、本件考案の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであって、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らないこと、また、実用新案登録請求の範囲の記載に実質上の変化はないことからみて、平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)による補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものと認めることができない。
したがって、平成7年12月26日付けの手続補正書(甲第1号証の4)による補正がされなかった出願に対して実用新案登録されたとみなすことができない。

6.無効理由3についての当審の判断
ガイドシーブ及びウィンチドラムは、「ブーム起伏時にブーム基端と接触しない範囲でブーム基端に最大限に近接」するから、ガイドシーブ及びウィンチドラムとブーム基端との間には隙間が存在すると認められる。
ところで、「最大限に近接」に関して、被請求人は、
「ウィンチドラム14,15およびガイドシーブ16,17は、ともに、ブーム起伏時にブーム基端と接触(干渉)しない範囲で、ブーム基端に対して最大限に近接して、すなわち、できるだけ前方位置に取付けている。」(甲第1号証第6欄1行?4行)、
「本願図面の第1図においては、・・・ウィンチドラム14,15と倒伏状態のブーム13の基端との間に比較的大きな隙間が残されており、この「最大限近接」の要件と矛盾するかのように見えます。しかし、現実問題として、ウィンチドラム14,15とブーム基端との間には、メンテナンスや油圧配管等のために一定の隙間を確保する必要があり、第1図においても、この現実に合わせてウィンチドラム14,15とブーム基端との間に隙間を残した状態で図示したものであります。すなわち、構成要件(D)における「ウィンチドラムを、ブーム起伏時にブーム基端と接触しない範囲でブーム基端に最大限に近接して取付ける」とは、厳密にいえば、「ウィンチドラムを、ブーム起伏時にブーム基端と接触せず、かつ、ブーム基端との間に必要隙間のみが残される状態で取付ける」ことを意味します。」(平成7年12月26日付けの実用新案登録異議申立人星秀之に対する答弁書第5頁9行?20行)、
「必要とされる連結補強板等が介在されているもののその寸法はブーム全長からみて微々たるものであり「最大限に近接」していることに何ら変わりなく、・・・構成要件Dを充足している」(請求人の提示した参考資料3の第2頁20行?第3頁4行)と述べているが、
ガイドシーブ及びウィンチドラムとブーム基端との間の隙間の上限値、すなわち、ガイドシーブ及びウィンチドラムをブーム基端にどの程度近接させるかの限界について、本願明細書又は図面には何ら記載がなく、しかも、被請求人の上記主張でも明らかにされていない。
してみると、本願明細書又は図面において、「ガイドシーブおよびウィンチドラムをブーム基端に最大限に近接して」との記載は、その技術的意義について理解できるものの、その外延が不明確であるといわざるを得ない。
また、ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置とが前後方向に「ほぼ一致」していることから、ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置との間には「前後方向のずれ」を許容するものと認められる。
ところで、「ほぼ一致」に関して、図面には、
「ガイドシーブ16,17の後端位置とカウンタウエイト20の後端位置とはカウンタウエイトの厚み分だけずれていること」が示されており(第2?3図)、
また、被請求人は、
「前後方向にほぼ一致(完全一致または僅かのずれをもっておよそ一致)」(甲第1号証第6欄13行?15行)、
「実際問題として、ガイドシーブ16,17およびカウンタウェイト20には加工誤差や取付誤差がつきものであります。また、他の構造物の加工誤差、取付誤差の影響を受けてこれらを設計通りの位置に設置できないこともあります。さらに、カウンタウェイト20が本願図面の第2,3図のように円弧状に湾曲している場合で、かつ、ガイドシーブ16,17が軸19上を左右に移動する構成をとった場合に、同シーブ16,17の左右位置によってカウンタウェイト背面との前後方向位置関係が変わり、シーブ後端がウェイト背面と一致したり、外側に突出したり、あるいは内側に引っ込んだりすることになります。このような事情から、ガイドシーブ後端位置をカウンタウェイト背面と一致させることを理想としながら、現実にはこれらがわずかにずれることもあり、この現実を考慮して、構成要件(E)として、「ガイドシーブの後端位置と、上部旋回体の後端位置とが前後方向にほぼ一致していること」と表現したものであります。」(平成7年12月26日付け実用新案登録異議申立人株式会社小松製作所に対する答弁書第7頁16行?第8頁1行)と述べているが、
ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置との間の「前後方向のずれ」の上限値について、本願明細書又は図面には何ら記載がなく、しかも、被請求人の上記主張でも明らかにされていない。
してみると、本願明細書又は図面において、「ガイドシーブの後端位置と、上部旋回体の後端位置とが前後方向にほぼ一致している」との記載も、その技術的意義について理解できるものの、その外延が不明確であるといわざるを得ない。
したがって、本件考案の出願は、旧実用新案法第5条3、4項に規定する要件を満たしていないと認められる。

7.無効理由4についての当審の判断
(1)本件考案
本件考案の要旨は、平成4年2月15日付け、平成4年6月19日付け、平成6年8月1日付け、平成6年10月17日付け、及び、平成7年12月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。なお、本件考案の構成のうち、「最大限に近接」及び「前後方向にほぼ一致」との記載の外延が不明確なことは、上記6.で述べたとおりであるが、その技術的意義は理解できる。
「下部走行体上に上部旋回体が搭載され、この上部旋回体にブームがブームフットピンを中心として起伏自在に枢着され、上部旋回体には、クレーン走行時の運転室とクレーン作業時の操縦室とを兼ねるキャビンと、ブーム基端よりも後方位置においてロープを繰り出す2つのウィンチドラムと、ブーム基端よりも後方かつ上記ウィンチドラムよりも上方位置においてウィンチドラムからのロープを上記ブームの背面側にブーム基端部から導く2つのガイドシーブとが設けられるホイールクレーンにおいて、下記の条件を満足することを特徴とするホイールクレーン。
(A)ブームフットピンが、ブーム基端部におけるブーム背面側の端部に取付けられていること。
(B)このブームフットピンが、上記下部走行体におけるリアアクスルの中心より後方位置において、上記旋回体に取付けられていること。
(C)上記ガイドシーブおよびウィンチドラムが、それぞれ左右同軸配置となっていること。
(D)これらガイドシーブおよびウィンチドラムは、ブーム起伏時にブーム基端と接触しない範囲でブーム基端に最大限に近接して上部旋回体に取付けられていること。
(E)上記ガイドシーブの後端位置と、上部旋回体の後端位置とが前後方向にほぼ一致していること。」(以下、「本件考案」という。)

(2)甲各号証記載の考案(事項)
甲第2号証(建設機械264、VOL.23、No.3、日本工業出版社、昭和62年3月1日発行、第94?第96頁)は、証拠記載全体からみて、本件実用新案登録出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物と認めることができ、その、
(イ)「TR-250M 特長
1. クラスNo.1。ジブ付ブーム長さと吊り上げ能力 ジブ付ブーム長さは41.3mとクラス最長。・・・
2. 12.8mの広角オフセットジブと83°の起伏角。・・・クラス最大83°の起伏角度とあいまって、狭い作業空間の良さは格別。より接近した、ふところの深い作業に、手許作業に、圧倒的な威力を発揮する。
3. 3.1mのテールスィング 旋回台テールスィングは、3.1mといっそうコンパクト。・・・
14.・・・主巻・補巻が単独レバーで操作できる2モータ2ドラムウインチ」(第94頁右欄下から4行?第95頁右欄36行)、及び、
主要部の寸法が付された組立図(第96頁)からみて、甲第2号証には、
『下部走行体上に上部旋回体が搭載され、この上部旋回体にブームがブームフットピンを中心として起伏自在に枢着され、上部旋回体には、クレーン走行時の運転室とクレーン作業時の操縦室とを兼ねるキャビンと、ロープを繰り出す2つのウィンチドラムと、ブーム基端よりも後方においてウィンチドラムからのロープを上記ブームの背面側にブーム基端側から導く2つのガイドシーブとが設けられるホイールクレーンにおいて、下記の条件を満足することを特徴とするホイールクレーン。
(A’)ブームフットピンが、ブーム基端部に取付けられていること。
(B)このブームフットピンが、上記下部走行体におけるリアアクスルの中心より後方位置において、上記旋回体に取付けられていること。
(C’)上記ガイドシーブが、左右同軸配置となっていること。
(D’)これらガイドシーブおよびウィンチドラムは、上部旋回体に取付けられていること。』の考案(以下、「甲第2号証記載の考案」という。)が記載されているものと認められる。

甲第3号証(工業時事通信 建設機械版、2347号、工業時事通信社、昭和60年6月6日発行、第6頁、第21頁)は、証拠記載全体からみて、本件実用新案登録出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物と認めることができ、該甲第3号証には、
(ロ)「最大ブーム長さ28.0m,最大地上揚程41.0mとクラス最長,高所作業に威力を発揮。・・・後端旋回半径が3.2mと小さく,狭い現場や混み入った場所でも旋回でき,スムーズな作業が行なえる。」(第6頁右欄10行?15行)と記載されており、
また、その図面の記載からみて、
『ホイールクレーンにおいて、ブームフットピンが、ブーム基端部におけるブーム背面側の端部に取付けられていること』が記載されているものと認められる。

甲第5号証(実願昭59-2730号(実開昭60-114187号)のマイクロフィルム)の、
「トラッククレーン、クローラクレーン等のクレーンにおけるウインチには、主巻と補巻の二個のドラムが装備されている。従来、この種のウインチにおいて、主巻と補巻の各ドラムを互いに平行な二本のドラム軸に独立して配置したものがあるが、この二軸タイプでは占有スペースが大きくなり、他の機器との関係で設置時に種々の制約を受ける等の問題がある。このスペース上の問題を解決するために、一本のドラム軸に二個のドラムを支持させた一軸タイプのものがある」(明細書第1頁14行?第2頁4行)、
「図において、1は補巻ドラム、3は主巻ドラムであり、両ドラム1,2は、一本の共通のドラム軸3上に相隣接して配置され、かつ、互いに独立して回動できるように支持されている。」(明細書第3頁7行?10行)との記載、及び図面の記載からみて、甲第5号証には、
『トラッククレーン、クローラクレーン等のクレーンにおけるウインチの2つのドラムを、スペース上の問題を解決するために、左右同軸配置とすること』が記載されているものと認められる。

甲第9号証(工業時事通信 建設機械版、2403号、工業時事通信社、昭和61年1月13日発行、第20頁)及び甲第14号証(「DEMAG ERSATZTEILE HC50」のカタログ)は、証拠記載全体からみて、本件実用新案登録出願の出願前に日本国内及びドイツ国内でそれぞれ頒布された刊行物と認めることができ、それらの図面から、
『ホイールクレーンにおいて、ブームフットピンが、ブーム基端部におけるブーム背面側の端部に取付けられていること』が看取できる。

甲第12号証(「DEMAG BETRIEBSANLEITUNG HC50」のカタログ)は、証拠記載全体からみて、本件実用新案登録出願の出願前にドイツ国内で頒布された刊行物と認めることができ、その図面から、
『ホイールクレーンにおいて、ブームフットピンが、ブーム基端部におけるブーム背面側の端部に取付けられていること』、及び、
『ホイールクレーンにおいて、ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置との前後方向のずれがカウンタウェイトの厚みより小さいこと』が看取できる。

(3)対比
本件考案と甲第2号証記載の考案とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〈一致点〉『下部走行体上に上部旋回体が搭載され、この上部旋回体にブームがブームフットピンを中心として起伏自在に枢着され、上部旋回体には、クレーン走行時の運転室とクレーン作業時の操縦室とを兼ねるキャビンと、ロープを繰り出す2つのウィンチドラムと、ブーム基端よりも後方においてウィンチドラムからのロープを上記ブームの背面側にブーム基端側から導く2つのガイドシーブとが設けられるホイールクレーンにおいて、下記の条件を満足する、するホイールクレーン。
・ブームフットピンが、ブーム基端部に取付けられていること。
・ブームフットピンが、上記下部走行体におけるリアアクスルの中心より後方位置において、上記旋回体に取付けられていること。
・ガイドシーブが、左右同軸配置となっていること。
・ガイドシーブおよびウィンチドラムは、上部旋回体に取付けられていること』
〈相違点1〉『本件考案は、ウィンチドラムがブーム基端よりも後方位置においてロープを繰り出し、ガイドシーブがウィンチドラムよりも上方位置に配置されているのに対して、甲第2号証記載の考案は、そのようなことが明らかではない点』
〈相違点2〉『本件考案は、ブームフットピンを、ブーム基端部におけるブーム背面側の端部に取付けているのに対して、甲第2号証記載の考案は、そのようになっていない点』
〈相違点3〉『本件考案は、ウィンチドラムが左右同軸配置となっているのに対して、甲第2号証記載の考案は、左右同軸配置か否かが明らかではない点』
〈相違点4〉『本件考案は、ガイドシーブおよびウィンチドラムが、ブーム起伏時にブーム基端と接触しない範囲でブーム基端に最大限に近接して上部旋回体に取付けられているのに対して、甲第2号証記載の考案は、そのように取付けられているか否かが明らかではない点』
〈相違点5〉『本件考案は、ガイドシーブの後端位置と、上部旋回体の後端位置とが前後方向にほぼ一致しているのに対して、甲第2号証記載の考案は、そのように設けられているか否かが明らかではない点』

(4)当審の判断
上記相違点等について、以下検討する。
〈本件考案の課題について〉
本件考案の課題は、「後端旋回半径を小さくおさえつつ、ブームフット取付点をできるだけ後方に位置させてブームの長尺化を実現することができるホイールクレーンを提供する」(本件考案の明細書の「考案の目的」を参照。)ことにあると認められるが、このような課題は、甲第2号証、甲第3号証に記載されていることからみて(上記の摘記事項(イ)、(ロ)を参照)、本件考案の出願前にホイールクレーンの技術分野で周知の課題である。なお、この点は被請求人も認めている(「3.被請求人の主張の概要(4)(ホ)」を参照)。
〈相違点1について〉
甲第2号証におけるブーム基端とガイドシーブとの配置位置、及び、ロープがガイドシーブの下方へ張設される構造からみて、甲第2号証記載のホイールクレーンにおけるウィンチドラムの設置位置は、ブーム基端よりも後方でガイドシーブの下方である蓋然性が高く、しかも、そのように設けることを妨げる事情もないことから、甲第2号証記載の考案の相違点1に係るウィンチドラムの配置位置を本件考案のように設けることは、当業者がきわめて容易になし得ることである。
〈相違点2について〉
ブームフットピンを、ブーム基端部におけるブーム背面側の端部に取付けたホイールクレーンは、甲第3、9、12、14号証に示されている(なお、この点に関して、請求人、被請求人の間に争いはない)。
ところで、ブームフットピンのブーム基端部における取付け位置を、ブーム背面側の端部とすれば、それ以外の部位に取付ける場合よりも、ブーム起立時におけるブーム基端の最後端位置の後ろ側への変動が小さく、ブーム基端とガイドシーブとの間隔を小さくできることは、当業者がきわめて容易に認識し得る事項である。
してみると、甲第2号証記載の考案において、後端旋回半径を小さく、かつ、ブームの長尺化を実現するという周知の課題を達成しようとして、甲第3、9、12、14号証に示されている上記構造を採ることは、当業者がきわめて容易になし得ることと認められる。
〈相違点3について〉
甲第5号証には、『トラッククレーン、クローラクレーン等のクレーンにおけるウインチの2つのドラムを、スペース上の問題を解決するために、左右同軸配置とすること』が記載されているものと認められるから、甲第2号証記載の考案において、後端旋回半径を小さく、かつ、ブームの長尺化を実現、すなわち、クレーンの構成部位の前後方向の必要スペースを小さくしようとして、甲第2号証記載の考案と同一の技術分野に属する甲第5号証記載の事項を組み合わせて、甲第2号証記載の考案の相違点3に係る構成を本件考案のようにすることは、当業者がきわめて容易になし得ることである。
〈相違点4について〉
ホイールクレーンの構成部位間に前後方向の隙間があれば、前後方向の必要スペースが大きくなること、そのような隙間をできるだけ小さくすれば、前後方向の必要スペースを小さくできることは、当業者にとってきわめて容易に認識し得ることであるから、後端旋回半径を小さく、かつ、ブームの長尺化を実現するという周知の課題を達成するために、甲第2号証記載の考案において、ガイドシーブとブーム基端との隙間、及び、ウィンチドラムとブーム基端との隙間をできるだけ小さくすることは、当業者がきわめて容易に想到し得ることと認められる。
〈相違点5について〉
ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置との間にずれのない方が、ホイールクレーンの前後方向に無駄なスペースを設けないようにし得ること、甲第12号証に、ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置との前後方向のずれをカウンタウェイトの厚みより小さく設けたホイールクレーンが示されていることからみて、後端旋回半径を小さく、かつ、ブームの長尺化を実現するという周知の課題を達成するために、甲第2号証記載の考案において、ガイドシーブの後端位置と上部旋回体の後端位置との間のずれをできるだけ小さくしようとすることは、当業者がきわめて容易に想到し得ることと認められる。
〈作用効果について〉
後端旋回半径を小さく、かつ、ブームの長尺化を実現することが、そもそもホイールクレーンの技術分野において周知の課題であることから、このような課題を達成するには、クレーンの構成部位の前後方向の必要スペースを小さくしようとすることは、当業者にとってごく自然なことと認められる。そして、必要スペースを小さくするために、隣接する部材間の間隙をつめたり、部材自体の方向を変更することは、各種装置のコンパクト化手段として広く実施されていることにすぎない。なお、被請求人は、構成要件(A)?(E)は一体不可分の関係にあると主張するが、それらの構成要件はいずれも単独でも、クレーンの構成部位の前後方向の必要スペースを小さくし得る作用を発揮するものと認められるから、当該被請求人の主張は採用できない。
そして、本件考案の構成要件(A)?(E)による、後端旋回半径及びブームの長尺化の点での作用効果は、甲第2号証記載の考案、甲第5号証記載の事項、及び、周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではないと認められる。

したがって、本件考案は、甲第2号証記載の考案、甲第5号証記載の事項、及び、周知の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるので、旧実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

8.むすび
以上のとおりであるから、本件考案についての実用新案登録は、旧実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされるとともに、同実用新案法第5条第3項、第4項に規定する要件をみたしていない実用新案登録出願に対してなされたものであるから、同実用新案法第37条第1項第1号及び第3号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-10-07 
結審通知日 2002-10-10 
審決日 2002-10-30 
出願番号 実願昭62-34326 
審決分類 U 1 112・ 532- Z (B66C)
U 1 112・ 531- Z (B66C)
U 1 112・ 121- Z (B66C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋田 修  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 氏原 康宏
舟木 進
登録日 1996-09-10 
登録番号 実用新案登録第2133468号(U2133468) 
考案の名称 ホイ-ルクレ-ン  
代理人 植木 久一  
代理人 小谷 悦司  
代理人 御園生 芳行  
代理人 村松 敏郎  
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