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審決分類 審判 全部申し立て   B27B
管理番号 1070568
異議申立番号 異議2002-70559  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2003-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-27 
確定日 2002-11-20 
異議申立件数
事件の表示 登録第2607480号「電気マルノコにおける騒音防止構造」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2607480号の請求項1に係る実用新案登録を取り消す。
理由 第1 本件考案
実用新案登録第2607480号(平成5年11月16日に出願された実願平5-61626号の一部を平成5年法律第26号による改正前の実用新案法第9条第1項で準用する特許法第44条第1項の規定により平成11年10月5日に新たな実用新案登録出願として分割、平成13年6月22日設定登録。)の請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
駆動モータの出力軸に、該駆動モータ冷却用の遠心ファンが付設され、鋸刃を回転可能に支持するスピンドルが前記駆動モータの出力軸に対して平行に配置された電気マルノコにおいて、前記遠心ファンの風下側となる通風方向前方を閉塞する壁部には複数のスリットを形成し、このスリットを経て前記遠心ファンにより発生した風がブレードケース内に吹き出される構成とし、
前記スリットを区画形成する仕切り壁は、前記遠心ファンの回転軸線を中心として放射状に配置したことを特徴とする騒音防止構造。」

第2 実用新案登録異議申立ての理由及び当審で通知した取消しの理由の概要
1 実用新案登録異議申立ての理由の概要
実用新案登録異議申立人井沢博は、本件の分割前の出願の出願日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第1号証(米国特許第2989995号明細書)、甲第2号証(西独国実用新案第7709222号明細書)、甲第3号証(実願昭54-15060号(実開昭55-115808号)のマイクロフィルム)及び甲第4号証(実願昭61-141931号(実開昭63-48365号)のマイクロフィルム)、並びに、本件出願の平成13年1月24日付け意見書である甲第5号証を提出し、本件考案は、甲第1?4号証記載の考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるので、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定により拒絶をすべき実用新案登録出願に対してなされたものであり、取り消されるべきである旨主張し、
また、本件出願の平成11年10月8日付け手続補正書による補正は明細書の要旨を変更するものであり、出願日は平成11年10月8日に繰り下がるので、本件考案は本件の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第6号証(実願平5-61626号(実開平7-31301号)のCD-ROM)に記載された考案であり、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第1項の規定により拒絶をすべき実用新案登録出願に対してなされたものであり、取り消されるべきである旨主張している。
2 当審で通知した取消しの理由の概要
当審で通知した取消しの理由の概要は、本件考案は、上記甲第1号証、甲第2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるので、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定により拒絶をすべき実用新案登録出願に対してなされたものであり、取り消されるべきであるというものである。

第3 甲第1、2号証記載の考案乃至技術的事項
1 甲第1号証記載の考案乃至技術的事項
甲第1号証には、電気マルノコに関し、以下の技術的事項が記載されていると認める。
(1)図1に関し、
ギアハウジング11内に、電気モータ15、回転軸16、冷却用のファン37、鋸軸24が収納されていること。
電気モータ15の回転軸16にファン37が付設されていること。
鋸刃27は鋸軸24を中心に回転可能に支持され、この鋸軸24は回転軸16に対して平行に配置されていること。
ファン37の風下側となる通風方向前方にブレードガード12があり、該ブレードガード12内に鋸刃27が収納されていること。
ブレードガード12のギアハウジング11と連結される部分に空気出口用の開ロ22が設けられていること。
(2)図2に関し、
空気出口用の開ロ22は、リブメンバー34により複数個に区画形成されたものであること。

上記記載事項からすると、甲第1号証には、以下の考案が記載されていると認める。
電気モータ15の回転軸16に、冷却用のファン37が付設され、鋸刃27を回転可能に支持する鋸軸24が前記電気モータ15の回転軸16に対して平行に配置された電気マルノコにおいて、前記ファン37の風下側となる通風方向前方のブレードガード12の連結部分には、複数の空気出口用の開ロ22を形成し、この開口22を経て前記ファン37により発生した風がブレードガード12内に吹き出される構成とし、前記開口22は、リブメンバー34により区画形成されている電気マルノコの構造。

2 甲第2号証記載の技術的事項
甲第2号証には、以下のとおり記載されている。
(1)実用新案登録請求の範囲(訳文第1頁第4?20行)
「1.モータ軸に支承されていて空気案内リングと協働するラジアルファン羽根車と、モータハウジングに定置に配置された鋸刃ハウジングとを備える手動丸鋸において、ラジアルファン羽根車(15)の、モータ(16)と反対の方を向いている側に、鋸刃ハウジング(3)まで通じる閉じた空気案内通路(22)が設けられることを特徴とする手動丸鋸。
2.空気案内通路(22)が、モータハウジング(1)に付設されていて変速ギヤを収容している中間ハウジング(2)の一部である、手動丸鋸。
3.中間ハウジング(2)が、ラジアルファン羽根車(15)の領域で、内部に空気案内リング(19)が配置されたモータハウジング(1)に付設されている、手動丸鋸。
4.空気案内リング(19)が、後方に向かって湾曲した羽根を有するラジアルファン羽根車(15)の手前のところでもっとも狭い流れ断面を有している、手動丸鋸。
5.ラジアルファン羽根車(15)の方を向いている、空気案内リング(19)の方向転換部(21)が、ハウジング側で、中間ハウジング(2)の内部にある空気案内通路(22)に移行している、手動丸鋸。
6.ラジアルファン羽根車(15)が、後方に向かって湾曲した羽根(18)を取り付けるために、モータ(16)から見て後方へテーパ状に高くなった中央部(17)を有している、手動丸鋸。」
(2)明細書第1頁下から第7行?第2頁第18行(訳文第2頁第8?23行)
「本考案の課題は、最善の冷却性能を備えていながら最小限の騒音発生しか生じないように、手動丸鋸を構成することである。この課題を解決する本考案の要諦は、ラジアルファン羽根車の、モータと反対の方を向いている側に、鋸刃ハウジングまで通じる閉じた空気案内通路が設けられることである。それによって本考案によれば、冷却空気は半径方向外側に向かって吹き出されるのでなく、ほぼ軸方向に方向転換されてから空気案内通路の中を流れ、広い横断面に分散した状態で、鋸刃ハウジングのところから外に出る。このような構成によって騒音の発生がきわめて少なくなることが判明している。この新たな手動丸鋸は、作業騒音がきわめて低いことを特徴とする。
一つの好ましい実施形態は、空気案内通路が、モータハウジングに付設されていて変速ギヤを収容している中間ハウジングの一部である場合に得られる。この中間ハウジングは、ラジアルファン羽根車の領域で、内部に空気案内リングが配置されたモータハウジングに接していてよく、この空気案内リングは、最初は半径方向に送出される空気の所望の方向転換が達成されるように構成される。この目的のために、ラジアルファン羽根車そのものが、後方に向かって湾曲した羽根と、モータから見て若干後方に向かってテーパ状に高くなっている固定円板とを有していると有利である。この構成要件も、騒音の少ない作業状態を促進するのに役立つ。」
(3)明細書第2頁第19行?第3頁末行(訳文第2頁第24?第3頁末行)
「本考案が一つの実施例を使って図面に描かれており、以下の記述でこれについて説明する。
図面では、モータハウジング1が中間ハウジング2および鋸刃ハウジング部分3と組み合わされて手動丸鋸が出来あがっており、この手動丸鋸の鋸刃4は公知のやり方で駆動軸5に取り付けられている。駆動軸は歯車6を介して、中間ハウジング2では軸受8によって保持されるとともにモータハウジング1では軸受9によって保持されたモータ軸10の一部であるピニオン7と接続されている。このモータ軸には、モータハウジング1に保持されたステータ巻線12と協働するロータ巻線11が、公知のやり方で配置されている。軸受9の側には、モータハウジング1の端壁にスリット13が設けられており、このスリットを通って冷却空気が矢印14の方向にモータハウジングに吸い込まれる。このことは、ラジアルファン羽根車15がモータ軸10に定置に配置されていることによって行われ、このラジアルファン羽根車は、後方に向かって湾曲した羽根18を取り付けるために、モータ16から見て若干テーパ状に後方に向かって高くなった円板部17を備えている。このラジアルファン羽根車15は、空気案内リング19と協働する。この空気案内リングは、ラジアルファン羽根車15の直前のところにもっとも狭い横断面を有するとともに、この横断面部まで若干先細になっている吸込部20と、羽根18と協働する方向転換部21とを有している。方向転換部21は、モータハウジング1および中間ハウジング2の上側部分で、ほぼ軸方向に延びる空気案内通路22に連通しており、この空気案内通路は鋸刃ハウジング3の内部にまで導入されていて、そこでラジアルファン羽根車15から送出される冷却空気が比較的広い出口断面を介して出られるようになっている。
本考案による構成は、モータのステータ12およびロータ11の集中的な優れた冷却が可能であり、それにもかかわらず、ラジアルファン羽根車をもつ通常の手動丸鏡の場合に知られているような騒音の発生が起こらないという利点を備えている。その理由は、冷却空気がラジアルファン羽根車15の領域で通常の場合のように半径方向でスリットを通って外部に出ていくのではなく、方向転換させられてから鋸刃ハウジングを通って出ていくことにある。ラジアルファン羽根車そのものの構成や、空気案内リング19の構成も、騒音発生の低減に大きく貢献している。」

第4 対比、当審の判断
1 対比
本件考案と甲第1号証記載の考案を対比する。
甲第1号証記載の考案における「電気モータ15」、「回転軸16」、「鋸刃27」、「鋸軸24」、「ブレードガード12の連結部分」、「ブレードガード12」、「空気出口用の開口22」、「リブメンバー34」が、それぞれ、本件考案における「駆動モータ」、「出力軸」、「鋸刃」、「スピンドル」、「通風方向前方を閉塞する壁部」、「ブレードケース」、「スリット」、「仕切り壁」に相当し、甲第1号証記載の考案における「ファン37」が、「電気モータ15」を冷却するためのものであることは当業者に明らかである。

したがって、本件考案と甲第1号証記載の考案は、以下の点で一致する。
駆動モータの出力軸に、該駆動モータ冷却用のファンが付設され、鋸刃を回転可能に支持するスピンドルが前記駆動モータの出力軸に対して平行に配置された電気マルノコにおいて、前記ファンの風下側となる通風方向前方を閉塞する壁部には複数のスリットを形成し、このスリットを経て前記遠心ファンにより発生した風がブレードケース内に吹き出される構成とし、前記スリットは仕切り壁により区画形成されている電気マルノコの構造。
そして、以下の点で相違する。
相違点1:本件考案では、ファンが遠心ファンであるのに対し、甲第1号証記載の考案では、ファンが遠心ファンであるかどうか明らかでない点。
相違点2:本件考案では、複数のスリットを区画形成する仕切り壁が、ファンの回転軸線を中心として放射状に配置されているのに対し、甲第1号証記載の考案では、そうなっていない点。
相違点3:本件考案は、騒音防止のための構造であるのに対し、甲第1号証記載の考案では、その目的が特定されていない点。

2 当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
電気マルノコの駆動モータの冷却用のファンとして、遠心ファンの一つであるラジアルファンを使用することは、甲第2号証に記載されているように周知の技術的事項であるから、甲第1号証記載の考案において、ファンとして、ラジアルファン、即ち、遠心ファンを使用することは、当業者であればきわめて容易に想到したことである。
(2)相違点2について
冷却用のファンを遠心ファンとするか別の形式のファンとするかに拘わらず、ファンにより発生させた風を通過させるスリットを円状の壁部に形成する際に、スリット同士を互いに平行とするか、ある軸から放射状に配置されたものとするかは、当業者が適宜決めるべき設計事項である。
また、放射状に配置するための基準となる軸をファンの回転軸線とすることは、ファンの回転により風を発生させていることから、当業者にとって、ごく自然のことにすぎない。
したがって、甲第1号証記載の考案において、複数のスリットを区画形成する仕切り壁の配置を設計変更するに際し、仕切り壁をファンの回転軸線を中心として放射状に配置することは、当業者であれば普通に選択することができる構成である。
(3)相違点3について
甲第1号証記載の考案も、冷却風がブレードケース内に吹き出されていることから、騒音防止の効果を有することは明らかであり、その構造は騒音防止構造ということができる。
よって、この点は、実質的な相違点ではない。

そして、本件考案の騒音防止の効果は、平成14年7月22日付け意見書の記載をみても、格別なものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件考案は、甲第1、2号証記載の考案乃至技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
したがって、本件考案についての実用新案登録は拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第3条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
異議決定日 2002-09-30 
出願番号 実願平11-7599 
審決分類 U 1 651・ 121- Z (B27B)
最終処分 取消    
前審関与審査官 大河原 裕丸山 英行藤井 新也  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 加藤 友也
鈴木 孝幸
登録日 2001-06-22 
登録番号 実用新案登録第2607480号(U2607480) 
権利者 株式会社マキタ
愛知県安城市住吉町3丁目11番8号
考案の名称 電気マルノコにおける騒音防止構造  
代理人 中村 敦子  
代理人 池田 敏行  
代理人 岡田 英彦  
代理人 岩田 哲幸  

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