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審決分類 審判 全部申し立て   B43K
管理番号 1079807
異議申立番号 異議2001-72909  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2003-08-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-15 
確定日 2003-05-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 登録第2607191号「ボールペン」の請求項1、2に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 登録第2607191号の請求項1に係る実用新案登録を取り消す。
理由 1.手続の経緯
出願 平成 5年11月15日
設定登録 平成13年 2月 9日
異議の申立て 申立人 友野 宏 平成13年10月15日
申立人 ぺんてる株式会社 平成13年10月16日
申立人 三菱鉛筆株式会社 平成13年10月16日
申立人 吉葉芳彦 平成13年10月16日
取消理由通知 平成14年 7月26日
訂正請求書及び異議意見書 平成14年10月 7日
(訂正請求書取下げ 平成15年 1月23日)
上申書(株式会社サクラクレパス) 平成14年11月28日
取消理由通知 平成14年12月 3日
訂正請求書及び異議意見書 平成15年 1月23日

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
(1)訂正事項a
実用新案登録の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。
「ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であり、ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であることを特徴とするボールペン。」
なお、訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1には、「該インキ装着部内に」と記載されているが、「インキ装着部」という用語は実用新案登録明細書に記載がなく、上記請求項1の「ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、」との記載及び発明の詳細な説明の記載等からみて、「該インキ装着部」は「該インキ収納部」の明らかな誤記と認め、上記のように記載した。
(2)訂正事項b
実用新案登録請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項c
考案の詳細な説明の段落【0013】の記載を、下記のように訂正する。
「本考案は、上記した知見に基づくものであり、その特徴は、ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であり、ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であることを特徴とするボールペンである。」
なお、訂正明細書の考案の詳細な説明の段落【0013】には、「該インキ装着部内に」と記載されているが、上記「(1)訂正事項a」で述べたように、「該インキ装着部」は「該インキ収納部」の明らかな誤記と認め、上記のように記載した。
(4)訂正事項d
考案の詳細な説明の段落【0015】を削除する。
(5)訂正事項e
考案の詳細な説明の段落【0017】を、下記のように訂正する。
「またボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であると共に、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触していることを特徴とするボールペンでは、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触しており、ボールとボールハウスの座面との接触面積は小さい。そのため、筆記時のボールの回転を阻害する摩擦が少なく、ボールの回転は円滑である。」
(6)訂正事項f
考案の詳細な説明の段落【0018】を、下記のように訂正する。
「加えてボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であると共に、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触していることを特徴とするボールペンでは、ボールハウスがボールに対して僅かな隙間しか持たないので、ボールは、ボールハウス内径の方向にがたつかない。」
(7)訂正事項g
考案の詳細な説明の段落【0041】を削除する。
(8)訂正事項h
考案の詳細な説明の段落【0042】を削除する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、実用新案登録請求の範囲の請求項1において、「水性インキ」を「水性ゲルインキ」に限定すると共に、「ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であること」という事項を追加して、構成を限定しようとするものであり、
上記訂正事項bは、実用新案登録請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、
いづれも実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項c?hは、上記訂正事項a、bにより訂正された実用新案登録請求の範囲の記載と考案の詳細な説明の記載の整合を図るものであり、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正事項a?hは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.実用新案登録異議の申立てについての判断
3-1.本件考案
本件実用新案登録第2607191号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記「2-1.訂正の内容」の「(1)訂正事項a」参照。)。

3-2.引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消の理由(平成14年12月3日付け)で引用した、刊行物1(特開昭63-114695号公報)、刊行物2(特公昭52-32289号公報)には、以下の事項が記載されている。

〔刊行物1〕特開昭63-114695号公報
(1-a)
「(1)(i)一定量の少なくとも1種の疑似塑性樹脂および(ii)該樹脂のキャリャー媒質からなる筆記用インキ組成物であって、
(a)疑似塑性指数値0.02?0.18;
(b)0.1sec^(-1) の剪断速度における粘度25,000?120,000cP;および
(c)10,000sec^(-1) の剪断速度における粘度 6?26cP
を有する筆記用インキ組成物。
(2)疑似塑性樹脂がキサンタンガムならびに/あるいは本質的にグルクロン酸,グルコースおよびラムノースよりなるヘテロ多糖類からなる、特許請求の範囲第1項に記載の筆記用インキ組成物。
-略-
(11)キャリャー媒質が水および少なくとも1種の有機溶剤からなる、特許請求の範囲第1項ないし第9項のいずれかに記載の筆記用インキ組成物。」(1頁左下欄6行?2頁左上欄8行 特許請求の範囲)
(1-b)
「(20)(a)周囲圧力下にあり、あらかじめ定められた内径を持つキャビティを規定するインキ溜め(11);
(b)キャビティ内に配置された粘稠なフォロアー(12);
(c)上記の溜めと連絡するボールペン先アセンブリー(9)であって、該アセンブリーが環状のシート員子(seat member)および該シート員子内に回転可能な状態で取付けられたボールからなり、シート員子が中心内腔、およびシート員子の長さ方向に走行する複数の溝(7)を備え、それらの溝のうち少なくとも若干はシート員子の内表から外表へ半径方向に伸びているもの;ならびに
(d)キャビティ内に、粘稠なフオロアーとボールペン先アセンブリーとの間に配置された、ある容積(10)の筆記用インキ組成物であって、該組成物が
(i)疑似塑性指数値0.02?0.18;
(ii)0.1sec^(-1) の剪断速度における粘度25,000?120,000cP;および
(iii)10,000sec^(-1) の剪断速度における粘度 6?26cPを有するもの
からなるマーキング用具。」(2頁右上欄16行?右下欄1行 特許請求の範囲)
(1-c)
「本発明の目的は、ペーストインキボールペンの設計と簡潔性と液体インキボールペンの・・・低い抵抗とを組合わせたハイブリッドボールペン型マーキング用具を提供することである。
また本発明の目的は、低剪断条件下で粘度が高くかつ高剪断条件下で粘度が低いため上記のハイブリッド型マーキング用具に使用できるハイブリッド型筆記用インキ組成物を提供することである。」(4頁右下欄12?末行)
(1-d)
「本発明の他の目的は、高剪断条件下で一般の液体インキボールペン用インキよりも高い粘度を示し、これによって筆記に際してよりなめらかであり、かつ吸上作用がより低い筆記用インキ組成物を提供することである。」(5頁左上欄5?9行)
(1-e)
「本発明に包含されるハイブリッド型マーキング用具におけるボールと内腔の間のクリアランスは、好ましくは約0.010mmであり、一般的な許容差は0.004mmである。」(7頁左下欄下から2行?右下欄2行)
(1-f)
「本発明のマーキング用具に適したシート員子は第3Aおよび3B図に示すように、一般的な液体インキボールペン先の場合と同様にシート員子を半径方向に貫通して伸びた多数の溝7を保有する。」(8頁左上欄下から4行?右上欄1行)
(1-g)
「以下の具体例を参照して本発明をさらに説明する。各種筆記性について報告された値は、・・・0.65mmのアルミナセラッミックボールを装填したボールペンを用いて測定された。」(10頁右上欄9?13行)
(1-h)
「シート員子に設けられた溝7は、ボールペン先アセンブリー9の後側に設けられた穴に貫通している」点。(図面第3A図、第3B図)

上記(1-a)の記載からみて、「筆記用インキ組成物」は「水性ゲルインキ」である。
また、上記(1-e)及び(1-g)の記載から、ボールと内腔の間のクリアランスは0.006(0.010-0.004)?0.014(0.010+0.004)mmであり、内腔の直径は0.662(0.65+0.006×2)?0.678(0.65+0.014×2)mmとなる。 そうすると、内腔の直径はボール径の101.8(0.662÷0.65×100)%以上104.3(0.678÷0.65×100)%以下の範囲となる。
したがって、上記(1-a)?(1-h)の記載からみて、
刊行物1には、
「環状のシート員子(seat member)および該シート員子内に回転可能な状態で取付けられたボールからなるボールペン先アセンブリー9の後端側に、キャビティを規定するインキ溜め11が連絡され、該キャビティ内に水性ゲルインキが配置されたマーキング用具において、シート員子の内腔の直径がボール径の101.8%以上104.3%以下の範囲であり、シート員子に設けられた溝7は、ボールペン先アセンブリー9の後側に設けられた穴に貫通しているマーキング用具。」の考案(以下「刊行物1記載の考案」という。)が記載されていると認められる。

〔刊行物2〕特公昭52-32289号公報
(2-a)
「本発明によるボールペンには、糊状をした筆記用媒体(以下インキと称する)の容器と、この容器の一端に接続して、ボールの支持壁と受座を具備するボールハウジングを有し、」(1頁1欄30?33行)
(2-b)
「また糊状をした筆記用媒体という言葉は、37℃において、10ポイズ以上250ポイズ以下の粘性をもつインキを意味する。」(1頁2欄12?14行)
(2-c)
「従来のボールペンには次のような欠点がある。つまり、筆記用ポイント部を筆記用具の後端部より高い位置、すなわち筆記用ポイント部を上向きにした状態での筆記が不可能であるという点である。こうした現象の原因は、かかる状態で筆記する場合には、空気がボールとボール受座間の隙間に入り込み、そこから受座に設けられたダクトに流れ、ダクト内に入り込んでしまうためである。インキダクトに入った空気は気泡となって、ダクトからインキを押しのけるとともに、インキ筒と直結した中央供給ダクト内にまで、入ってしまう。その結果、すぐに、インキ柱と筆記用ポイント部間の接続は断たれてしまうので、筆記作業に必要な毛管作用はなくなってしまう。従って筆記用ポイント部を下向けにして使った時だけ、インキは自重で流下し、筆記用ポイント部(もっと詳しくいえばボールとボール受座の間の空間)にインキが充満するから、筆記作業の続行が可能となる。」(1頁2欄末行?2頁3欄18行)
(2-d)
「本発明においては、ボール受座に溝群が設けられているが、溝内にあるインキに対する毛管作用は非常に強く、溝からインキを押しのけるような作用をもつ空気が受座内に侵入するようなことがないため、インキ柱とボール間に空気が介入したりすることはないのである。従来のボールペンにおける溝は、その横断面がおよそ10000μ^(2)以上であるが、これでは、本発明によるボールペンにおいて得られるような上記の効果を生ぜしめることはできないのである。」(2頁3欄22?31行)
(2-e)
「ボール受座と反対側における筆記用ポイント部1の端にはインキ筒(図示せず)がある。このインキ筒とボール4の受座表面2,3で包囲される室とは、中央ダクト5′,5″によって接続されているが、受座に隣接する部分のダクト5′の直径は、インキ筒に隣接するダクト5″の直径よりも小としてある。」(2頁4欄28?35行)
(2-f)
「糊状のインキに入った容器と、この容器の一端に接続してボールの支持壁及びボール受座を構成するボールハウジングとからなり、・・・・・ボール受座に1000μ^(2)を最大限度とした横断面積の溝を複数本を備え、各溝を通してインキが前記インキ容器につながる中央供給ダクトから、ボール側面受座へ向けて流れるようにしたボールペン。」(3頁6欄11?22行 特許請求の範囲)
(2-g)
「ボール受座に設けられた溝は、ボールが収納された筆記用ポイント部1の後側に設けられたダクト5″に不貫通である」点。(図面1、2、4図)

上記(2-a)?(2-g)の記載からみて、
刊行物2には、
「ボールが収納された筆記用ポイント部1の後端側にインキ容器の一端が接続され、該インキ容器内に、37℃において、10ポイズ以上250ポイズ以下の粘性をもつインキが入ったボールペンにおいて、筆記用ポイント部1のボールハウジングのボール受座には溝が設けられ、当該溝は筆記用ポイント部1の後側に設けられたダクト5″に不貫通であるボールペン。」の考案(以下「刊行物2記載の考案」という。)が記載されていると認められる。

3-3.対比・判断
3-3-1.刊行物1記載の考案との対比・判断
本件考案と刊行物1記載の考案とを対比すると、
刊行物1記載の考案の「回転可能な状態で取付けられた」、「ボールペン先アセンブリー9」、「キャビティを規定するインキ溜め11」、「連絡」、「マーキング用具」、「シート員子の内腔の直径」は、それぞれ、本件考案の「収納された」、「ボールペンチップ」、「インキ収納部」、「充填」、「ボールペン」、「ボールハウス内径」に相当し、
刊行物1記載の考案における「シート員子の内腔の直径がボール径の101.8%以上104.3%以下の範囲であ」る点と、本件考案の「ボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であ」る点とは、数値範囲において重なっているから、
両者は、
「ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であるボールペン。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
〔相違点〕
本件考案では、「ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通である」のに対して、刊行物1記載の考案では、シート員子に設けられた溝7は、ボールペン先アセンブリー9の後側に設けられた穴に貫通している点。
上記相違点について検討する。
刊行物2には、「ボールが収納された筆記用ポイント部1にインキ容器の一端が接続され、該インキ容器内に、37℃において、10ポイズ以上250ポイズ以下の粘性をもつインキが入ったボールペンにおいて、筆記用ポイント部1のボールハウジングのボール受座には溝が設けられ、当該溝は筆記用ポイント部1の後側に設けられたダクト5″に不貫通であるボールペン。」の考案が記載されており、
刊行物2記載の考案の「ボールハウジング」、「ボール受座」、「ダクト5″」は、それぞれ、本件考案の「ボールハウス」、「座面」、「バック穴」に相当するから、上記相違点に係る本件考案の「ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通である」という構成は、刊行物2記載の考案が備えているものである。
そして、刊行物2記載の考案のボールペンに使用されるインキは、「37℃において、10ポイズ以上250ポイズ以下の粘性をもつ」もので、粘度が低いといえるから、ボールハウス内で粘度が変化して低くなる水性ゲルインキを使用する刊行物1記載の考案に、刊行物2記載の考案を適用して本件考案の構成とすることは、当業者にとって格別困難性を伴うものではない。
実用新案権者は、平成14年10月7日付け異議意見書において、
『本考案のボールペンは、ボールハウスの内径をボールの直径の101.6%以上103.6%以下とすることにより、ボールのがたつきを防止し、インキの流出量が安定し、書き味が良好となるものでありますが、かかる範囲では、溝がバック穴に貫通していると、開口からの空気の流入が発生しやすいものであります。
そして、これを改善すべく、「該インキ収納部内に水性インキが充填されたボールペン」であって、「ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通」という構成とし、水性ボールペンであっても「かすれにくい」という効果を有するものであります。』(3頁下から6行?4頁3行)と主張するが、
この主張は、本件実用新案登録明細書の記載に基づかないものであるから認めることができない。
仮に、上記主張が認められるとしても、刊行物2記載の考案は、「ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通である」という構成を備えるものであるから、刊行物1記載の考案に刊行物2記載の考案を適用して構成したものである本件考案は、上記主張する「かすれにくい」という効果を必然的に備えるものとなる。
したがって、本件考案は、上記刊行物1、2に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

3-3-2.刊行物2記載の考案との対比・判断
本件考案と刊行物2記載の考案とを対比すると、
刊行物2記載の考案の「筆記用ポイント部1」、「インキ容器」、「接続」、「入った」、「ボールハウジング」、「ボール受座」、「ダクト5″」は、それぞれ、本件考案の「ボールペンチップ」、「インキ収納部」、「装着」、「充填された」、「ボールハウス」、「座面」、「バック穴」に相当するから、
両者は、
「ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内にインキが充填されたボールペンにおいて、ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であるボールペン。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
〔相違点〕
本件考案では、インキは「水性ゲルインキ」であり、「ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であ」るのに対して、刊行物2記載の発明では、インキの種類、及び、ボールペンチップのボールハウス内径とボール径の関係は、不明である点。
上記相違点について検討する。
水性ボールペン用の「水性ゲルインキ」は周知(上記刊行物1の他に、特開昭59-74175号公報、特開平2-279777号公報参照。)であるから、粘度が低いインキを使用している刊行物2記載の考案において、インキをボールハウス内で粘度が変化して低くなる「水性ゲルインキ」に置き換えることは、当業者にとって格別困難性を伴うものではない。
また、水性ボールペンにおいて、「ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であ」る点も周知(上記刊行物1の他に、実願昭58-118893号(実開昭60-26878号)のマイクロフィルム参照。)であるから、刊行物2記載の考案において、該周知事項を適用することも当業者にとって格別困難性を伴うものではない。
実用新案権者は、平成15年1月23日付け異議意見書において、
『仮に、チキソトロピィ性を有するインキを刊行物2に記載のボールペンを適用したとするならば、かかるインキは溝を流動することができないものであります。すなわち、チキソトロピィ性を有するインキは、せん断速度が小さい条件では通常のインキより粘度が大きくなるものであります。そして、溝横断面面積が最大1000μ2 のような狭い溝をインキが流動する際には、せん断速度は小さくなります。したがって、刊行物2に記載のボールペンに、チキソトロピィ性を有するゲルインキを用いた場合には、溝を通じて流動し難く、本願のボールペンのように、溝を通じてインキが流動することできるものではありません。したがって、チキソトロピィ性を有するインキを使用すると、刊行物2に記載の溝は、本願の溝のように、インキをさせるための溝としては機能しないものであります。
したがって、刊行物2を、本件の実用新案登録の取消すために引用することは適当ではありません。』(2頁15行?下から2行)と主張している。
しかしながら、刊行物2記載の発明は、37℃において10ポイズ以上250ポイズ以下の粘度をもつインキを使用した場合に、溝の横断面積を1000μ^(2)を最大限度とするものであり、インキの粘度が異なれば溝の横断面積を粘度に応じて変えることは当業者にとって技術常識であるから、上記主張を採用することはできない。
したがって、本件考案は、上記刊行物1、2に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

3-4.むすび
以上のとおりであるから、本件考案は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
したがって、本件考案についての実用新案登録は拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第3条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
ボールペン
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ装着部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であり、ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であることを特徴とするボールペン。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ボールペンの構造に係るもので、特に水性のインキを使用したボールペンの構成に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年鮮明な色の線が描けることから、水性のインキを使用したボールペン(以下単に水性ボールペン)の需要が増大している。
【0003】
水性ボールペンの構造は、ボールペンチップの後端に筒状のインキ収納部が装着され、そのインキ収納部内に、水性のインキが充填されたものである。ここでボールペンチップの形状に注目すると、ボールペンチップは図7(a)(b)の如く、チップ本体100の外形は先端101が円錐状をしており、ボール102はボールハウス103内に挿入され、さらにボール102はチップ本体100の先端101で挟持されている。
【0004】
ボールペンチップの内側の構造は、先端に凹状のボールハウス103があり、後端にバック穴が開放されている。また中央の細穴110は、ボールハウス103とバック穴を貫通している。そして従来技術のボールペンでは、当該細穴110の中に中綿が配されており、中綿を介してインキ収納部のインキがボール102に供給されていた。またボールハウス103の座面105には放射状の溝107が設けられている。さらに従来技術のボールペンでは、ボールハウス103の座面105には、クレータ状の球面108が設けられていた。
【0005】
ここで従来技術におけるボールハウス103の座面105と、ボール102との接触関係に注目すると、両者は、面接触によって相互に当接するものであった。即ちボールハウス103の座面105には、前記したようにクレータ状の球面108が設けられているので、ボール102は、球面108に包囲され、広い面積でボールハウス103に接触するものであった。従来技術のボールペンは、このようにボール102をクレータ状の球面108と接触させることにより、ボール102の安定化を図っていた。
【0006】
また従来技術のボールペンでの、ボールハウス103の内径と、ボール102との寸法関係は、ボール102の直径に対してボールハウス103の内径が104%以上に設定されていた。
【0007】
ボールペンの製造方法について付言すると、概ね次の通りである。即ち線材を所定の長さに切断し、この線材にドリルでバック穴を設ける。次いで線材の外周加工により先端側にテーパーを形成し、そしてテーパー頂面からドリルを挿入してフロント穴を形成する。このフロント穴は、ボールハウス103として機能するものである。そして更にフロント穴中心部よりドリル加工によってバック穴にまで貫通した細穴110を設け、しかる後フロント穴の座面105に放射状の溝107を設けてチップを形成する。そしてチップのフロント穴、即ちボールハウス103内にボール102を収納する。そして次にボールハウス103の開口から突出したボール102を座面105に向かって叩き下す。
【0008】
この時ボール102の一部がボールハウス103の座面105に衝撃を与える。その結果ボールハウス103の座面105がクレータ状に窪み、球面108が形成される。次いでボールハウス103の開口をかしめる。この様にして作られたボールペンチップに中綿を装着し、さらにインキ収納部を取り付けて、水性ボールペンが完成される。
【0009】
【考案が解決しようとする課題】
ところで従来技術の水性ボールペンでは、上記した様にボールペンチップの細穴からインク収納部にかけて中綿が配されていたが、この様に中綿が配されたボールペンではインクの残量を目視することができない問題がある。そのため近年では、インクを改良することによって中綿を省略し、直接細穴を介してボールハウスと、インク収納部を連通させる構成が採用されている。しかしながら、上記したような中綿が無い構成のボールペンでは、インキ流出量の調整が困難であるという問題があった。即ち従来技術のボールペンは、製造ロットによってインキ流出量のばらつきが大きいと言う問題があった。
【0010】
ここでボールペンにおけるインキ流出量は書き味、筆跡、筆記距離、線幅などの品質特性に大きく影響し重要な項目である。
【0011】
また、同じく従来技術のボールペンでは、ボールハウス103の座面105にクレータ状の球面108があるため、ボール102と座面105との接触面積が大きく、そのためボール102が回転しにくく、書き味が悪いという問題があった。本考案は、上記した従来技術の問題点に鑑み、ボールの回転が良好であり、また適量のインキ流出量に調整することが容易であるボールペンの構造を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
そして、上記した目的を達成するため、本考案者らは多数のボールペンを試作し、ボールハウスの形状や、大きさとインキの流出量との関係を調査研究した。その結果、水性インキを充填したボールペンでは、ボールハウスの内径とボールとの大きさの関係によって、筆記時のインキの流出量が決まる事が判った。そして更に詳細にデータを分析した結果、ボールハウスの内径がボールの直径と、一定の関係に有る場合に、インキの流出量が安定することが判明した。更に水性インキでは、書き味の良否は、ボールの回転の円滑性と著しい相関があることが判った。
【0013】
本考案は、上記した知見に基づくものであり、その特徴は、ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ装着部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であり、ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であることを特徴とするボールペンである。
【0014】
【0015】
【0016】
【作用】
請求項1記載の考案では、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲に設定されており、実験の結果、水性ゲルインキの流出は円滑であり、且つ安定している。
【0017】
またボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であると共に、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触していることを特徴とするボールペンでは、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触しており、ボールとボールハウスの座面との接触面積は小さい。そのため、筆記時のボールの回転を阻害する摩擦が少なく、ボールの回転は円滑である。
【0018】
加えてボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であると共に、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触していることを特徴とするボールペンでは、ボールハウスがボールに対して僅かな隙間しか持たないので、ボールは、ボールハウス内径の方向にがたつかない。
【0019】
【実施例】
以下、本考案に係るボールペンならびにその製造方法の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本考案の具体的実施例のボールペンの断面図である。図2は、図1のボールペンで採用するボールペンチップの拡大正面断面図およびチップ本体のA-A断面図である。図3は、図2のボールペンチップの開口部の拡大断面図である。図4は、ボールペンチップの製造工程を示すボールペンチップの断面図である。図5は、ボールペンチップの製造工程を示すボールペンチップの要部断面図である。図6は、本考案のボールペンの効果を確認するために行った実験の結果を表すグラフである。
【0020】
図1において、1は本実施例のボールペンを示す。ボールペン1は、周知のそれと同様にボールペンチップ2の後端側に口プラ3を介してインキ収納管5が装着され、更にその外周にペン軸6が取り付けられたものである。そして口プラ3内には、インキの逆流を防止するために玉状の弁8が挿入されている。
【0021】
本実施例のボールペン1は、水性ボールペンであり、インキ収納管5内には水性インキ、特に水性ゲルインキ(図示せず)が貯められている。ここで水性インキ、および水性ゲルインキについて説明すると、これらはいずれも主溶媒として水を用いたインキである。即ち旧来の油性インキはフェニルセロソルブ、ベンジルアルコール等の有機溶媒が使用されているのに対して、水性ボールペンのインキは水を溶媒としている。またインキの粘度は、油性ボールペンでは10000?30000CPSの高粘度であるのに対し、水性ボールペンのインキはより低粘度であり、しかも水性ボールペンのインキは、粘度の挙動の相違により大きく二種類に分けられる。
【0022】
その一つはニュートン流動(流動の程度により粘度変化しない)をするインキで、具体的にはインキ収納管5とボールハウス内の粘度は同じであり、通常は粘度が50?2000CPSのものが使用されている。他の一つは、粘度がインキの流動によって変化する性質を有するものである。具体的には、インキ収納管5内では2000?8000CPSであるがボールハウス内では10CPS以下となるものであり、チキソトロピィ性インキとも称される。このチキソトロピィ性を有するゲル化剤を添加した水性インキを特に水性ゲルインキと称している。
【0023】
次に本実施例のボールペン1で採用するボールペンチップ2について説明する。本実施例で採用するボールペンチップ2は図1、図2のようにチップ本体11とボール15で構成されている。チップ本体11の外形は、先端側が円錐状をしており、他の部位は円柱状をしている。ボールペンチップ2の内側の構造は、先端側にボールハウス18があり、後側にバック穴12が開放されている。そしてボール15はボールハウス18内に挿入され、チップ本体11の先端17で挟持されている。
【0024】
そしてバック穴12は図の如く、ボールペン1の長手方向に対して、略垂直な平坦面20を有する形状を呈している。ボールハウス18の座面21には図2(b)のような中心から5条の放射状溝22が設けられている。この放射状溝22の中心は細穴23になっており、前記したバック穴12に貫通している。尚本実施例のボールペン1では、細穴23内に中綿は無い。
【0025】
放射状溝22の他の部分は有底であり、バック穴12までは貫通していない。即ちボールハウス18の座面21はバック穴12まで貫通することなく、途中で不貫通となっている。そしてここで特記するべき構成は、本実施例ではボールハウス18の座面21は、すり鉢状であり、その側面断面の線は、直線である。即ち本実施例で採用するボールハウス18の座面21には、クレータ状の窪みは存在しない。従って、本実施例のボールペン1では、ボール15は、ボールハウスの座面21に対して線接触している。
【0026】
次に実施例の特徴を成すボールハウス18の内径寸法について説明する。本実施例ではボールハウス18の内径Dをボールの直径dの101.6%以上103.6%以下の範囲に設定されている。またボールハウスの開口径は、ボール15の突出量hがボール15の直径の約3分の1になるように調製されている。ここでボール15の直径dは、通常0.60mmが採用される。従って、通例に従い、直径0.60mmのボールを採用すると、ボールハウスの内径Dは0.610?0.622mmに相当する。またボールハウスの開口径は、概ね0.566mm程度である。
【0027】
このようにボールハウスの内径Dを、ボール15の直径dの101.6%以上103.6%以下に設定することによって、ボール15とボールペンチップ2の周面24の間に0.005?0.011mm程度の僅少な隙間25が形成される。この隙間25は、ボール15が円滑に行われるのに充分であり、且つボール15をしっかりと保持してがたつきを防止することができる範囲のものである。さらに加えて隙間25を上記した範囲とすることにより、インキの流出量が安定し、書き味も良好となる。
【0028】
尚ボールハウスの内径Dはボール径の101.6%未満、即ち0.610mm未満ではインキの流出量が不安定であって調整が困難となる。また逆にボール径の103.6%を越える場合、即ち0.622mmを越えるものでは隙間25が大きすぎてチップ先端17でボール15を挟持しにくく、筆記時にボール15がずれて線がぶれる。加えてボールハウスの内径Dが0.622mmを越える場合は、インキ流出量も多量になって紙面を汚し、筆記具として適切ではない。
【0029】
従ってボールハウスの内径Dは上記ボール15の直径dの101.6%以上103.6%以下、即ち0.610mm以上0.622mm以下の範囲に設定しなければならない。また本実施例のボールペン1では、ボール15を上にしてボール15をボールハウス18の座面21に当接させた状態で、ボール15と、ボールハウス18の開口の間に、0.005乃至0.011mmの僅少の隙間S(図3参照)が形成されている。
【0030】
次に本実施例で採用するボールペンチップの好ましい製造方法について図4、図5を参照しつつ説明する。本実施例で採用するボールペンチップ2は図4の如く、所定長さに切断された線材30を素材として加工される。そして、ボールペンチップ2を製造する最初の工程では、所定長さに切断された線材30に図示しないドリルでバック穴12を設ける。ここでバック穴12は前述の如く長手方向に対して略垂直な平坦部20を有する形状を呈している。
【0031】
そして、線材30の先端側、即ちテーパーが設けられた側の頂面から図示しないドリルを挿入し、ボールハウスとなるフロント穴33が設けられる。
【0032】
次に線材30に外周加工が成され、図4の如く先端側にテーパーが形成される。さらにドリル35の錐先37をフロント穴33の中心部に当て、バック穴12まで貫通して細穴23を形成している。そしてフロント穴33の座面38に、図3の如き中心から5条の放射状溝22を形成する。この放射状の溝22はバック穴12まで貫通することなく途中で不貫通となっている。このようにして、図5に示すような軸方向に貫通穴を有し、一方の端部にボールハウスを形成するフロント穴が設けられたチップ40が成形される。
【0033】
次に上記の如きチップ40のフロント穴33に図5のようにボール15を収納する。次いで、チップ40の先端41をかしめる。ここで、肝心な事項は、チップの先端41をかしめる際に、フロント穴33の開口端とボール15との間に0.005?0.011mm程度の隙間を設けた状態のままでかしめる点である。その結果座面38にクレータは形成されず、ボール15がボールハウス18の座面38に対して線接触するボールペンチップ2が得られる。
【0034】
上記した製造方法で得られたボールペンチップ2は、ボールハウスの座面38にクレータが無いため、ボール15とボールハウスの座面38との接触面積が著しく減少し、ボール15の摩擦抵抗は小さい。その結果、ボールの回転が良くなり、併せて書き味も良好になる。
【0035】
次に、本実施例のボールペンの効果を確認するために行った実験について説明する。本考案者らは、本実施例のボールペンの効果を確認するため、ボールハウスの直径が異なる多数のボールペンチップを成形し、このボールペンチップを用いて多数の種類のボールペンを試作した。そしてこれらのボールペンについて、筆記状態におけるインキの流出量を測定した。図6はこの実験の結果を表すグラフである。図6のグラフでは、ボールハウスの直径が0.610mmの時のインキの流出量を100として表現している。このグラフを見て明らかであるように、ボールハウスの直径が0.600mmから0.610mmの間では、グラフの傾きが大きい。即ちボールハウスの直径がこの間にある時は、わずかの直径の相違で、インキの流出量が大きく変化する。
【0036】
これに対して、ボールハウスの直径が0.610以上になると、グラフの傾きは緩やかである。言い換えると、ボールハウスの直径が0.610以上になると、多少の直径変化に係わらず、インキの流出量の変化は少ない。またインクの総吐出量と言う観点から見ると、ボールハウスの直径が0.622を越えると、インキの吐出量が過度になり、インキのぼたつきが発生する。
【0037】
従って、ボールハウスの直径を0.610?0.622mmの範囲に設定すると、製造時に多少のロット間誤差があっても、狙いとするインキの流出量を確保することができる。
【0038】
つぎに、ボールハウスの直径が0.610?0.622mmであるボールペンチップであって、従来技術のように、座面に窪みがあるものと、本実施例のように、ボールが座面に線接触するものを試作し、書き味を試した。その結果、通常の上質紙に線を書く場合には、両者の間に有意差は認められなかった。しかしながら、ジアゾ感光紙、および感熱紙の様に滑り易い紙では、両者の間に差異があった。即ちこれらの紙に線を書く場合は、従来技術の様な座面に窪みがあるボールペンではボールが回転せず、線がかすれてしまう場合があった。また従来技術の様に、座面に窪みがあるものでは、上質紙に線を書く場合であっても、紙に手油が付着している場合は、線がかすれることがあった。これに対して本実施例の様にボールが座面に線接触するものでは、いずれの紙に書いた場合でも線がかすれることはなかった。
【0039】
またボールハウスの直径が0.622mmを越えるボールペンであって、座面に窪みが無いものを試作し、書き味を試したところ、インクの吐出量が過度であり、インキのぼたつきが多いものであった。またこのボールペンは、ボールの安定性が悪く、筆圧によってボールがボールハウス内で移動してしまうものであった。そのためこのボールペンでは、線がぶれてしまうことがあり、書き味は悪いものであった。
【0040】
【考案の効果】
以上の如く、本考案のボールペンは、ボールハウスの内径をボール径の101.6%以上103.6%以下に設定して、ボールとチップの間に僅少の隙間を設けたものである。このように所定の隙間を設けることにより、インキ流出量が安定し、書き味も良好にすることができる。またボールペンの製造ロットの差による書き味の相違を減少することができる効果がある。
【0041】
【0042】
【図面の簡単な説明】
【図1】
本考案の具体的実施例のボールペンの断面図である。
【図2】
図1のボールペンで採用するボールペンチップの拡大正面断面図およびチップ本体のA-A断面図である。
【図3】
図2のボールペンチップの開口部の拡大断面図である。
【図4】
ボールペンチップの製造工程を示すボールペンチップの断面図である。
【図5】
ボールペンチップの製造工程を示すボールペンチップの要部断面図である。
【図6】
本考案のボールペンの効果を確認するために行った実験の結果を表すグラフである。
【図7】
従来技術のボールペンで採用するボールペンチップの拡大正面断面図およびチップ本体のB-B断面図である。
【符号の説明】
1 ボールペン
2 ボールペンチップ
5 インキ収納管
11 チップ本体
15 ボール
18 ボールハウス
21,38 座面
D ボールハウスの内径
d ボールの直径
訂正の要旨 ▲1▼ 訂正事項a
実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、実用新案登録請求の範囲の請求項1を下記のように訂正する(以下、直接訂正した部分には下線を付す)。
「ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ装着部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であり、ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であることを特徴とするボールペン。」
▲2▼ 訂正事項b
実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、実用新案登録請求の範囲の請求項2を削除する。
▲3▼ 訂正事項c
考案の詳細な説明の段落[0013]を、不明りょうな記載の釈明を目的として、上記の訂正事項a(請求項1の訂正)に合わせ、次の様に訂正する。
「本考案は、上記した知見に基づくものであり、その特徴は、ボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ装着部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であり、ボールハウスの座面には溝が設けられ、当該溝はボールペンチップの後側に設けられたバック穴に不貫通であることを特徴とするボールペンである。」
▲4▼ 訂正事項d
考案の詳細な説明の段落[0015]を、不明りょうな記載の釈明を目的として、削除する。
▲5▼ 訂正事項e
考案の詳細な説明の段落[0017]を、不明りょうな記載の釈明を目的として、下記のように訂正する。
「またボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であると共に、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触していることを特徴とするボールペンでは、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触しており、ボールとボールハウスの座面との接触面積は小さい。そのため、筆記時のボールの回転を阻害する摩擦が少なく、ボールの回転は円滑である。」
▲6▼ 訂正事項f
考案の詳細な説明の段落[0018]を、不明りょうな記載の釈明を目的として、下記のように訂正する。
「加えてボールが収納されたボールペンチップの後端側にインキ収納部が装着され、該インキ収納部内に水性ゲルインキが充填されたボールペンにおいて、ボールペンチップのボールハウス内径がボール径の101.6%以上103.6%以下の範囲であると共に、ボールは、ボールペンチップのボールハウスの座面に対して線接触していることを特徴とするボールペンでは、ボールハウスがボールに対して僅かな隙間しか持たないので、ボールは、ボールハウス内径の方向にがたつかない。」
▲7▼ 訂正事項g
考案の詳細な説明の段落[0041]を、不明りょうな記載の釈明を目的として、削除する。
▲8▼ 訂正事項h
考案の詳細な説明の段落[0042]を、不明りょうな記載の釈明を目的として、削除する。
異議決定日 2003-03-17 
出願番号 実願平5-65964 
審決分類 U 1 651・ 121- ZA (B43K)
最終処分 取消    
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 白樫 泰子
鈴木 寛治
登録日 2001-02-09 
登録番号 実用新案登録第2607191号(U2607191) 
権利者 株式会社サクラクレパス
大阪府大阪市中央区森ノ宮中央1丁目6番20号
考案の名称 ボールペン  
代理人 藤田 隆  
代理人 黒田 博道  
代理人 藤田 隆  

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