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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) B65F
管理番号 1096421
判定請求番号 判定2003-60055  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2004-06-25 
種別 判定 
判定請求日 2003-07-22 
確定日 2004-05-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第2531230号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 イ号写真に示す「折り畳み可能な空き缶回収用袋」は、登録第2531230号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号写真(甲第4号証)に示すところの被請求人の製造・販売する商品名「自立折畳式ペットボトル回収容器」、商品番号020032Bの折り畳み可能な空き缶回収用袋(以下、「イ号物件」という。)が、実用新案登録第2531230号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2.本件考案の出願経過
本件判定請求書の「6.請求の理由」の項にも示されているように、本件考案の出願経過等の概略は、次のとおりである。
(1)出願:平成5年6月11日
(2)登録:平成9年1月10日
(3)実用新案登録異議申立:平成9年6月2日
(4)訂正請求:平成10年5月26日
(5)異議決定:平成10年6月26日

3.本件考案
本件考案は、平成10年5月26日付訂正請求書により訂正された明細書及び図面(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、その構成要件を分説すると、次のとおりである。
(a)上面が開口し、両側に持手を設けた軟質な方形の袋体より成る空き缶回収用袋に於いて、
(b)その袋体の材料は、軟質な網状体シートから構成され、本体の上縁四辺に夫々個別に芯材が設けられると共に、
(c)該本体の四隅に上下方向に夫々袋部が形成されると共に該袋部は袋体の側面に縫着され、袋部内に支柱が立設されており、
(d)本体の両側上方付近に透孔により形成した持手並びに透孔により形成した持手を設けた側面の下方付近にベルト状の持手を設けたことを特徴とする
(e)折り畳み可能な空き缶回収用袋。

4.イ号物件
請求人が提出した平成15年7月22日付判定請求書の「6 請求の理由」における「(4)イ号の説明」(同請求書第3頁第11?21行)及び平成16年3月17日付け判定の弁駁書、並びに被請求人が提出した平成15年9月19日付判定請求答弁書の「6.答弁の理由」における「(2)イ号物件の説明」(同答弁書第2頁第23行?第3頁第6行)、平成16年3月8日付け回答書及び同回答書添付の乙第3?10号証を参考にすると、イ号物件は、次の(A)?(E)の構成からなるものであって、同じく次の(F)に記載の寸法を備えた空き缶回収用袋であるとするのが相当と認める。

(A)上面が開口し、両側に持手を設けた軟質な方形の袋体より成る空き缶回収用袋に於いて、
(B)その袋体の材料は、軟質な網状体シートから構成され、本体の上縁四辺に夫々個別に芯材が設けられると共に、
(C)該本体の四隅に上下方向に夫々袋部が形成されると共に該袋部は袋体の側面に縫着され、袋部内に支柱が立設されており、
(D)本体の両側上方付近に透孔により形成した持手並びに透孔により形成した持手を設けた側面とは異なる側面の下方、かつ該異なる側面の左右の両端近くに二個のベルト状の持手を設けた
(E)折り畳み可能な空き缶回収用袋であって、
(F)正面の幅(L)が800mm×透孔を設けた側面の幅(W)が800mm×高さ(H)が800mmのサイズである折り畳み可能な空き缶回収用袋。

5.対比
(1)本件考案とイ号物件との対比
両者を対比すると、イ号物件が、本件発明の構成要件(a)?(c)及び(e)と文言上一致する構成(A)?(C)及び(E)を備えていることは明らかであるから、イ号物件は、本件発明の構成要件(a)?(c)及び(e)を明らかに充足するといえる(ちなみに、上記判定請求答弁書によると、被請求人は、イ号物件が本件考案の構成要件(a)?(c)及び(e)を充足することを争っていない)。
しかしながら、イ号物件の構成(D)は、本件考案の構成要件(d)と文言上一致するものではない。(ちなみに、請求人は文言解釈からも、イ号物件における「持手を設けた側面とは異なる側面の下方」が、本件考案における「持手を設けた側面の下方付近」に実質的に相当すると主張しているが、前者の「持手を設けた側面とは異なる側面」と後者の「持手を設けた側面」が構成上相違することは明らかであるし、当該イ号物件の構成(D)に相当するものが、本件考案の明細書及び図面には開示も示唆もされていないことが明らかであるから、実質的に相当するといえないことも明らかである。)

6.イ号物件が本件考案の構成要件(d)を充足するか否かについて
(6-1)当事者の主張
請求人は、「本件考案とイ号物件との実質的な相違は、ベルト状の持手が透孔により形成した持手を設けた側面にあるか、ベルト状の持手が透孔により形成した持手を設けた側面と異なる側面にあるかの相違」のみにあり、この異なる部分は本件考案の本質的な部分でなく、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成6年(オ)1083号)にて示された均等論が適用できるための5つの要件を満たす旨を主張する(同上判定請求書の第4頁第19?第6頁第18行参照)。
これに対して、被請求人は、上記異なる部分は本件考案の本質的な部分であるとともに、上記した均等の5つの要件のうち、4つの要件を満たさないと主張する(同上判定請求答弁書の第3頁第7行?第7頁第2行参照)。
そこで、上記した本件考案とイ号物件とが構成上異なる部分につき、均等論の適用の余地があるか否かについて検討する。

(6-2)均等論の適用の可否について
(6-2-1)均等論適用のための第1の要件(本件考案の本質的部分)について
(イ)「ベルト状の持手」を設けた技術的意義について
請求人である実用新案登録権者は、用語の技術的意義を考案の詳細な説明を参酌して、解釈すべきと主張する。
しかしながら、本件考案の訂正明細書を見ても、考案の詳細な説明には「ベルト状の持手」について「8は本体1の両側下方付近に設けたベルト状の持手である。」(同明細書の段落【0008】参照)との記載しかなく、「ベルト状の持手」に如何なる作用・効果を奏することを予定して、本体1の透孔の存在する両側の面の下方付近に当該「ベルト状の持手」を設けたのかについて、他に何らの記載も見出し得ないのであるから、考案の詳細な説明の記載事項を参酌してみても、その技術的意義を明確に把握することができない。
(ちなみに、本件考案は審査の過程で拒絶理由が通知されることなく実用新案登録されたものであるから、本件考案の出願経過を参酌して上記技術的意義を解釈することもできない。)
そこで、上記2.で示したように、本件考案の実用新案登録請求の範囲が訂正されることとなった実用新案登録異議申立事件の経過を参酌して、上記技術的意義を解釈することとする。

(ロ)実用新案登録異議申立事件の経過の参酌
平成10年5月26日付の訂正請求書とともに提出された同日付け意見書には、『請求項1に「本体の両側上方付近に透孔により形成した持手並びに透孔により形成した持手を設けた側面の下方付近にベルト状の持手を設ける」という要件を加えた。これは本件登録の空き缶回収用袋から空き缶をゴミ収集車に移す場合両手で透孔により形成した持手及びその反対面のベルト状の持手を持って行うことができる。ベルト状の持手を設けたことは手を袋の下に回す必要がないという利点がある。』という意見が記載されている。
上記意見書の主張によれば、本件考案において、「本体の両側上方付近に透孔により形成した持手」とともに「透孔により形成した持手を設けた側面の下方付近にベルト状の持手を設けた」こととしたのは、単に「手を袋の下に回す必要がないという利点」のみならず、「空き缶回収用袋から空き缶をゴミ収集車に移す場合両手で透孔により形成した持手及びその反対面のベルト状の持手を持って行うことができる」(注:下線は当審により付記した。)という作用・効果を奏することも期待したからであるということができる。
そして、上記ベルト状の持手に関する作用・効果の点は、公知技術と対比した場合の作用・効果について、「そこで、本件第1考案と甲第1号証に記載された考案とを比較すると、・・・本件第1考案の、本体の両側上方付近に透孔により形成される持手と下方付近に形成されるベルト状の持手とで構成される持手とは、自ずとその作用効果を異にするものと認められ、本件第1考案の持手は、甲第1号証記載の・・・に基づいて当業者がきわめて容易に想到し得るものとは到底いえない」(異議決定書第14頁)と、上記異議事件の異議決定において、その作用効果につき判断している事実とも符合するものである。
このことから、訂正された本件考案に進歩性を認めると判断された主たる要因は、本件考案における「本体の両側上方付近に透孔により形成される持手と下方付近に形成されるベルト状の持手」とで構成される持手が奏するところの「空き缶回収袋から空き缶をゴミ収集車に移す場合両手で透孔により形成した持手及びその反対面のベルト状をもって行うことができる。・・・」という同上意見書主張の作用効果が、上記異議申立の証拠となった公知技術における持手の構成が奏する作用効果とは異なるから、当該構成を容易といえないとした点にあったということができる。
そうとすると、本件考案において、「透孔により形成した持手」に加えて「透孔により形成した持手を設けた側面の下方付近にベルト状の持手を設けた」構成の技術的意義は、上記作用・効果を奏することを予定して設けられたものというべきであるし、かつまた、当該構成を備えていることが上記公知技術と比較した場合の本件考案の技術的特徴部分といえるのであるから、当該構成は、本件考案の本質的部分であるといわざるを得ない。
したがって、本件考案の構成要件(d)は、本件考案の本質的部分であるといえる。
なお、請求人は、上述した異議申立事件における訂正に際して、「両側に持手を設けた」という「記載に引っ張られるように」、「ベルト状の持手」もその両側という位置に記載することとなったものであり、両側という位置に本質的な意味はない旨(判定請求書の第5頁第13?19行参照)主張するが、一人の作業者が上面の開放した直方体形状の袋をその両手で保持・操作する際に、これをバランス良く保持・操作できることを考慮すれば、当該袋の対応する一対の面に持手及びベルト状の持手をそれぞれ配置することに合理的な意味があるといえるのであるから、これに本質的な意味はないとする上記主張を採用することはできない。

(6-2-2)均等論の適用のための第2の要件(置換可能性と作用効果の同一)について
上記意見書の主張によれば、本件考案の回収袋は、一人の作業者が同回収袋を両手で持つことを前提としたものであって、本件考案の構成要件(d)は、空き缶をゴミ収集車へ移す際に、一方の透孔を片方の手で支持したまま、その反対面の片手を透孔より外すとともに、当該外した側の片手を当該反対面に在るベルト状の持手へと移すことにより、当該持手の存在する一対の対向する面を両手で支えながら傾けるべき方向に袋を回転させることができるという作用、いいかえれば、透孔及びベルト状の持手の存在しない一対の対向する面を、同面に垂直な軸周りに回転させるようにして袋を傾けるという作用を奏することを予定して採用された構成であるといわざるを得ない。
次に、イ号物件の使用態様につき、検討する。
被請求人は、平成16年3月8日付け回答書にて、乙第4?10号証を用いて、イ号物件の使用態様が二人の作業者によるものであることを説明している。
ところで、イ号物件は、上記「4.イ号物件」の(F)にその諸寸法として示した大きさ(L800mm×W800mm×H800mm)を備えたものであるから、本件考案と同様な使用態様、すなわち一人の作業者がイ号物件を両手で使用する際の使用態様を仮に想定してみると、上方付近に在る一方の透孔と、それと反対面に在る透孔の面寄りに在って下方付近に在るベルト状持手とを、一人の作業者が両手で持つことになるが、この場合、作業者は、1mを大きく上回る距離((W)800mm、(H)800mm、(L/2)400mm)に亘って両手を広げた状態を維持する必要があるといえる。
ところが、仮に、このような状態で袋を両手で支持できたとしても、ベルト状の持手は透孔を設けた面とは異なる面に存在するのであるから、その形状を崩さないように両手で袋をバランス良く保持するには多少の工夫が必要となるであろうし、また、その両手を大きく広げた状態のまま、さらに袋本体を傾けて袋内の空き缶を排出する等の操作までも行うことが容易な操作であるということはできないし、却って、通常の作業者が一人で行う操作としては不自然な操作であるといわざるを得ない。
これらのことから、イ号物件は、被請求人がその使用態様を乙第4?10号証で示しているように、二人の作業者によって通常使用されることを想定して設計されたものであるというのが相当であり、このことは、イ号物件におけるベルト状の持手が、異なる側面に一つではなく、当該側面の左右の両端近くに二個設けられている事実とも整合する。
そうとすると、イ号物件は、二人の作業者がそれぞれの透孔を分担して持つことを想定して設計されたものといえるのであるから、イ号物件の構成(D)は、イ号物件の袋を傾ける場合、当該二人の作業者が、一方の手を透孔に、他方の手を透孔とは異なる面の下方に在るベルト状の持手に、それぞれ掛けることにより、当該透孔の存在する一対の対向する面を、同面に垂直な軸周りに回転させるようにして袋を傾けることができるという作用を奏することを予定して採用された構成であるというべきである。
(ちなみに、平成16年3月17日付け判定の弁駁書に添付された甲第5号証の写真にも、上記と同様の透孔とベルト状の持手の支持態様が示されている。なお、当該写真には一人の作業者しか写っていないものの、上述したように、その袋内に多数のペットボトルが集積された状態のイ号物件を、一人の作業者によって、その形状を崩さないで片側のみから保持することは困難であるといえるから、その他方の側も、他の作業者により同様の支持態様が通常為されることが推認できる。)
これに対して、上述したように、本件考案の回収袋は、一人の作業者が当該回収袋を両手で持つことを前提としたものといえるのであるから、本件考案の構成要件(d)は、透孔及びベルト状の持手の存在しない一対の対向する面を、同面に垂直な軸周りに回転させるようにして袋を傾けることができるという作用を奏することを予定して採用された構成であるといえる。
してみると、本件考案の構成要件(d)とイ号物件の構成(D)とは、その作用・効果において異なるものといわざるを得ないから、均等論適用のための第2の要件を欠くというべきである。

(6-3)まとめ
以上検討したように、イ号物件は、本件考案の構成要件(a)?(c)及び(e)を充足するといえるものの、本件考案の構成要件(d)を文言上充足するということができないし、かつまた、本件考案の構成要件(d)がイ号物件の構成「D」と構成上相違する部分は、本件考案の構成要件(d)が本件考案の本質的部分であって均等であるといえるために必要な第1及び第2の要件を欠くといえるから、均等の他の要件につき更に検討するまでもなく、イ号物件が本件考案と均等なものであるということはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲 [イ号写真]

判定日 2004-04-21 
出願番号 実願平5-36905 
審決分類 U 1 2・ 1- ZB (B65F)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 鈴木 美知子  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 岡田 孝博
一色 貞好
登録日 1997-01-10 
登録番号 実用新案登録第2531230号(U2531230) 
考案の名称 折り畳み可能な空き缶回収用袋  
代理人 木森 有平  
代理人 浅野 典子  
代理人 宇野 健一  
代理人 廣江 武典  

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