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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B44C
管理番号 1132638
審判番号 訂正2004-39154  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2006-04-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-07-02 
確定日 2006-03-24 
事件の表示 実用新案登録第2534772号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1.手続の経緯
(1)実用新案登録第2534772号の請求項1に係る考案の実用新案登録は、平成4年5月14日に実用新案登録出願(平成4年実用新案登録願38553号)、平成9年2月13日に実用新案権の設定の登録がなされたものである。
(2)これに対し、平成10年4月7日に、極東産機株式会社(以下、「無効審判請求人」という。)より本件実用新案登録を無効とすることについて審判請求(無効第10年審判第35147号、以下、単に「無効審判請求」という。)がなされた。
(3)その後、平成10年5月21日に上記(2)の審判請求書の副本が実用新案権者であるヤヨイ化学工業株式会社(以下、「本件請求人」という。)に送達され、平成10年7月21日に訂正請求がなされた。
(4)平成11年6月23日に、本件無効審判請求につき、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」旨の審決がなされ、平成11年8月12日に、無効審判請求人により東京高等裁判所に訴えが提起された(平成11年行ケ第263号)。
(5)平成15年3月27日に、「特許庁が平成10年審判第35147号事件について平成11年6月23日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決が言い渡され、本件請求人により平成15年4月10日に最高裁判所に上告及び上告受理の申立てがなされたが、平成15年9月26日に、上告については棄却、上告受理の申立てについては不受理の決定がなされた。
(6)本件請求人により平成15年4月24日に「実用新案登録第2534772号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正する」旨の訂正審判請求(訂正2003-39080号、以下「先の訂正審判請求」という。)がなされた。
(7)先の訂正審判請求に対して、平成15年7月16日(発送(再送);平成15年7月29日)付けで訂正拒絶理由の通知がなされると、本件請求人は、平成15年8月6日に意見書及び手続補正書を提出した。
(8)平成15年10月20日付けで、先の訂正審判請求に対して「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされたところ、本件請求人により、これを不服として、平成15年11月10日に東京高等裁判所に訴え(平成15年(行ケ)第493号)が提起されたが、この訴えは、平成16年3月22日付けで、取り下げられた。
(9)上記(8)の審決後の平成15年11月16日に、上記(3)の訂正請求に対して、訂正拒絶理由の通知がなされたところ(発送:平成15年12月1日)、平成16年1月29日に、本件請求人により、意見書が提出された。
(10)平成16年5月21日に、上記(2)の無効審判の請求に対して、「登録第2534772号の実用新案登録を無効にする。審判費用は、被請求人の負担とする。」旨の審決がなされたところ、平成16年6月15日に本件請求人により、これを不服として、東京高等裁判所に訴えが提起された(平成16年行ケ第271号)。
(11)平成16年7月2日に本件請求人により「実用新案登録第2534772号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める」との審決を求めて、本件訂正審判請求がなされた。
(12)本件訂正審判請求に対して、平成16年8月19日(発送:平成16年8月24日)付けで訂正拒絶理由の通知がなされると、本件請求人は、平成16年9月15日、同年9月28日に意見書を提出した。

2.訂正の内容
本件訂正請求で請求された訂正の内容は、訂正請求書及び訂正明細書の記載からみて、概略、次の訂正事項(1)、(2)のとおりである。
(1)訂正事項(1)
実用新案登録請求の範囲の請求項1について、実用新案登録時の明細書(以下、「原明細書」という。)に、
「モータにより連動して回転駆動される複数のロールによりシート状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ、糊桶内の糊を糊付けロールにより前記壁装材の裏面に連続的に転写塗布する自動壁紙糊付機において、
入側ピンチロールの下側ロールを、フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によって軸受したことを特徴とする自動壁紙糊付機。」(以下、「訂正前の請求項1」という。)とあるのを、
「モ-タにより連動して回転駆動される複数のロ-ルによりシ-ト状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ、本体部に内蔵された糊桶内の糊を糊付ロ-ルにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機において、
前記本体部は、内部に左右の軸受板としての一対のフレーム側板を有し、 前記フレーム側板に、前記糊付けロ-ルと下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルが軸受され、下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置されて、互いに内側に向かう回転方向となっており、 前記下側ピンチロ-ルは、前記フレ-ム側板に設けられた長穴又はU字穴を介して軸受されるもので、前記糊付けロール及びドクターロールを回転させながら洗浄する際に、前記下側ピンチロールを前記長穴又はU字穴を介して前記ドクターロールとの間隔を広げる方向に移動させることにより、下側ピンチロールへの回転伝達を解除自在としたことを特徴とする自動壁紙糊付機。」(以下、「訂正後の請求項1」という。)
と訂正する。
なお、下線は、訂正個所を明確にするために当審で付したものである。

(2)訂正事項(2)
上記訂正事項(1)に伴い、原明細書の考案の詳細な説明における「課題を解決するための手段」(段落【0007】)の記載を、訂正明細書のとおりに訂正する(記載省略)。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について
訂正後の請求項1と訂正前の請求項1とを対比すると、訂正前の請求項1における「糊桶」に「本体部に内蔵された」との限定を加え、「前記本体部は、内部に左右の軸受板としての一対のフレーム側板を有」するものとするとともに、訂正前の請求項1に記載された構成である「複数のロール」に関して、「フレーム側板に、前記糊付けロ-ルと下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルが軸受され、下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置されて、互いに内側に向かう回転方向となっており」との構成を付加し、さらに「糊付けロール及びドクターロールを回転させながら洗浄する際に、前記下側ピンチロールを前記長穴又はU字穴を介して前記ドクターロールとの間隔を広げる方向に移動させることにより、下側ピンチロールへの回転伝達を解除自在とした」という構成が付加されている。
また、訂正前の請求項1における「入側ピンチロールの下側ロール」を、原明細書の記載に整合させて「下側ピンチロール」とするものである。
したがって、上記訂正事項(1)に係る訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項(2)は訂正事項(1)による実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る訂正に適合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項(1)、(2)に係る訂正は、原明細書の段落【0005】、【0009】、【0015】、【0020】?【0022】などの記載によれば、新規事項を追加するものではなく、かつこれらの訂正は、実用新案登録請求の範囲を実質上拡張するものでも、変更するものでもない。
そこで訂正後の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案(以下、「本件訂正考案」という。)が、実用新案登録出願の際、独立して実用新案登録を受けることができるものであるか否かについて次に検討する。

4.独立実用新案登録要件について
(1)本件訂正考案
本件訂正考案は、訂正後の請求項1に記載されたとおりのものであると認められる。

(2)引用する公然実施をされた考案及び刊行物に記載された考案
(2-1)β-MAX2
上記1、(12)の訂正拒絶理由で引用した、極東産機株式会社昭和63年9月1日発行「総合カタログ、インテリア業務用、NO.3」(無効審判請求における甲第3号証、以下「資料1」という。)、極東産機株式会社作成「フルチョイス糊付機 β-MAX2の取扱説明書(昭和58年版)」(無効審判請求における甲第4号証、以下「資料2」という。)、室内装飾新聞社昭和63年8月1日発行「室内装飾新聞」(無効審判請求における甲第5号証、以下「資料3」という。)、及び平成11年2月9日に実施された証人調べの証人調書(以下、「調書」という。)によると、資料1、資料2に示されたβ-MAX2という糊付機(以下、単に「β-MAX2」という。)は、本件の実用新案登録出願前において日本国内において公然実施をされた考案であると認められる(特に調書第4頁?第5頁における004-010の質疑応答参照)。
そして、資料1、資料2及び調書には、β-MAX2に関して、次のような事項が記載されているものと認められる。
(a)「・・・・・ベーターマックスII型があれば、通常は自動(家庭用AC100V)で。現場で電気が使えない、停電した-自動車用バッテリー(DC12V)から、もしくは手動で。・・・・・」(資料1第23頁)
(b)資料1第23頁左下方の2枚の写真、同303頁(無効第10年審判第35147号において本件請求人が提出した平成11年2月10日付けの物件提出書に添付された乙第3号証参照)の下方の図、資料2の第8頁第6図、第9頁第7図、第14頁第14図及び調書第5頁における014の質疑応答「自動でも手動でも出来るということで、送り出しローラーというものがありまして、そのローラーが自動糊付け機として使用する時は、モーターで駆動されてクロスを上の検尺ローラーとの間でピンチローラーにしてクロスを送りだします。・・・」を総合すると、次のことがわかる。
(b-1)送リ出シローラーが糊箱の側壁上部に突設された保持部に設けられた上部開放穴によって軸受され、糊付ローラーが糊箱の側壁に軸受されていること。
(b-2)送リ出シローラー、糊付ローラーによりクロス原反を、所定の経路に沿って移動させつつ、本体内部の糊箱内の糊を糊付ローラーにより前記クロス原反の裏面に連続的に塗布すること、及び送リ出シローラーとドクターローラーは互いに回転方向が逆になるものであり、内側に向かう回転方向となっていること。
(b-3)送リ出シローラーを駆動する歯車11が、ドクターローラーを駆動する歯車12に斜め上方において噛み合い、ドクターローラーを駆動する歯車12が糊付ローラーを駆動する歯車10にほぼ水平位置で噛み合っていること。したがって、送リ出シローラーを糊箱の側壁上部に突設された保持部に設けられた上部開放穴を介して上方に、すなわちドクターローラーとの間隔を広げる方向に移動させることにより、送リ出シローラーを駆動する歯車11への回転伝達のみが解除されること。
(c)「糊の掃除は第14図のように糊抜キ蓋を外し本体の残った糊を抜いて下さい。
糊切(2)、ナラシローラー(1)、糊付ローラー、送り出しローラーの順序で、本体より外して下さい。・・・」(資料2の第14頁)
(d)送リ出シローラーとドクターローラーは互いの間隔が概略15mm-20mmであること、すなわち互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあること(調書第20頁における113の質疑応答)。

以上を総合すると、β-MAX2は、次のとおりの考案であると認められる。
「モータにより連動して回転駆動される複数のローラーによりクロス原反を、所定の経路に沿って移動させつつ、本体部内部の糊箱内の糊を糊付ローラーにより前記クロス原反の裏面に連続的に塗布する手動型と自動型の切替型のクロス原反糊付機において、
前記本体部は、内部に左右の軸受け板としての一対の前記糊箱の側壁を有し、
前記側壁に糊付ローラーとドクターローラーが軸受され、送リ出シローラーが前記側壁上部に突設された保持部に軸受され、送リ出シローラーとドクターローラーは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置されて、互いに内側に向かう回転方向となっており、
前記送リ出シローラーは、前記保持部に設けられた上部開放穴を介して軸受されるもので、前記送リ出シローラを前記上部開放穴を介してドクターローラーとの間隔を広げる方向に移動させることにより、送リ出シローラへの回転伝達を解除自在とした手動型と自動型の切替型のクロス原反糊付機。」

(2-2)実願昭57-78272号(実開昭58-178367号)のマイクロフィルムに記載された周知技術
上記1、(12)の訂正拒絶理由で引用した、本件出願前に頒布された刊行物である実願昭57-78272号(実開昭58-178367号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献」という。)には、次のような記載が図面とともになされている。
(a)「上記の糊付機は、フレームに糊付ローラを回動自在に支持し、このローラを駆動機によって回転させると共に、ローラの直下に糊箱を抜差自在に配置し、糊箱内の糊を糊上げローラで糊付ローラの表面に付着させるようにし、フレームに設けた送りローラでクロスを移動させ、押えローラでこのクロスを糊付ローラに接触させて糊の転写を行い、この後回転する均しローラで糊の塗着面を均一にするようにしたものである。」
(第1頁19行?第2頁7行)
(b)「両側本体フレーム1間に抜差自在となるように配置される糊箱4は両端部に設けられたフランジ5がガイド上に載って支持され、この糊箱4の内部に糊上げローラ6が回動自在に架設され、糊上げローラ6の糊箱外部に突出する軸に歯車7が固定されている。
両本体フレーム1間の上部でクロスAが進入する位置に、送りローラ8とその上部にカウンターローラ9とが架設され、一方の本体フレーム1には、第1図のように、モータ(図示省略)と連動した駆動ギヤ10と、・・・・・・
前記両本体フレーム1の段部3に納まるように形成された両側で一対となるローラフレーム16は、ステー17と固定軸18によって対向状に結合され、両ローラフレーム16間に糊付ローラ20と、ドクターローラ21及び均しローラ22が各々平行する状態で架設されている。」(第3頁13行?第4頁14行)

これらの記載及び図面を総合すると引用文献には、次のような技術が周知技術として記載されているものと認められる。
「モータにより連動して回転駆動される複数のロ-ラによりクロスを所定の経路に沿って移動させつつ、本体部内の糊箱4内の糊を糊付ローラ20により前記クロスの裏面に連続的に塗布する糊付機において、
前記本体部は、内部に左右の軸受板としての一対の両側本体フレーム1と、該両側本体フレーム1の段部3に納まるように形成された両側で一対となるローラフレーム16とを有し、
前記ローラフレーム16に、糊付ローラ20及びドクターローラ21が架設され、
送りローラ8は前記両側本体フレーム1間に架設されている糊付機。」

(3)本件訂正考案とβ-MAX2との対比
そこで、本件訂正考案とβ-MAX2とを対比する。
(a)β-MAX2の「ローラー」は、その機能に照らして、本件訂正考案の「ロール」に相当し、以下同様に「送リ出シローラー」は「下側ピンチロール」に、「糊箱」は「糊桶」に、それぞれ相当する。
(b)資料1及び資料2を総合すれば、β-MAX2がインテリア業務用のクロス原反の糊付機であり、本件訂正考案の「シート状壁装材」の実施例として、本件訂正明細書にも「壁装材(クロス)」、「クロスロール27」等と記載されていることから、β-MAX2における「クロス原反」も、「シート状壁装材」に含まれ、β-MAX2のクロス原反糊付機も壁紙糊付機といえる。
(c)β-MAX2は、手動型と自動型を切り替えることができる糊付機であるが、この糊付機は、自動壁紙糊付機としての構成を含むことは明らかであるから、β-MAX2の「糊付機」も「自動壁紙糊付機」といえる。
(d)β-MAX2において、「糊箱」は本体部内部にあるから、本体部に内蔵されたものといえる。
(e)β-MAX2においては、送リ出シローラー(下側ピンチロール)は、糊箱の側壁上部に突設された保持部の上部開放穴に軸受けされているが、この上部開放穴の下端は、送リ出シローラーを軸受けするため、半円形状となっており、資料2の第14頁には、送リ出シローラーを取り外すことが記載されているから、この上部開放穴は、上方に該半円形状の直径に相当する幅の開口と少なくとも送リ出シローラーを軸受するに足りる所定の深さを有しているものといえる。
そして本件訂正考案における「U字穴」とβ-MAX2における「上部開放穴」とを対比すると、本件訂正明細書においてU字穴の深さについて特定されているわけではなく、訂正後の請求項1における「長穴又はU字穴」の記載は、単に択一的に選択される構成を並記するものであり、それによりU字穴の深さが特定されると解すべき根拠とはならない。
現に、訂正明細書段落【0021】、【0022】等の記載によれば、本件訂正考案において、「U字穴」を採用した場合には、洗浄に際して下側ピンチロールを取り外すものと解されるから、下側ピンチロールあるいは送リ出シローラーを取り外せるという機能からみて、本件訂正考案の「U字穴」とβ-MAX2の「上部開放穴」にはなんら差違はない。
さらに当該技術分野において、「U字穴」が特定の深さを有する穴であると、当業者において広く理解されていることを認めるべき証拠もない。
したがって、β-MAX2の「上部開放穴」のように、下端が半円形状となっており、上方に該半円形状の直径に相当する幅の開口と所定の深さを有する穴を、一般的にU字穴と称することができるから、β-MAX2における「上部開放穴」もU字穴ということができる。
(f)β-MAX2の(糊箱の)「側壁」及び「側壁上部に突設された保持部」は、いずれも本体部が内部に有する左右の軸受板としての一対の側板であるということができるから、(本体部が内部に有する)「左右の軸受板としての一対の側板」である限りにおいて、本件訂正考案の「左右の軸受板としての一対のフレーム側板」と一致している。

以上を総合すると、本件訂正考案とβ-MAX2とは、
「モ-タにより連動して回転駆動される複数のロ-ルによりシ-ト状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ、本体部に内蔵された糊桶内の糊を糊付ロ-ルにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機において、
前記本体部は、内部に左右の軸受板としての一対の側板を有し、
前記側板に、前記糊付けロ-ルと下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルが軸受され、下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置されて、互いに内側に向かう回転方向となっており、
前記下側ピンチロ-ルは、前記側板に設けられたU字穴を介して軸受されるもので、前記下側ピンチロールを前記U字穴を介して前記ドクターロールとの間隔を広げる方向に移動させることにより、下側ピンチロールへの回転伝達を解除自在とした自動壁紙糊付機。」
で一致し、次の2点で一応相違する。
〈相違点1〉
本件訂正考案においては、「前記本体部は、内部に左右の軸受板としての一対のフレーム側板を有し、前記フレーム側板に、前記糊付けロ-ルと下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルが軸受」され、下側ピンチロ-ルは「前記フレ-ム側板に設けられた長穴又はU字穴を介して軸受されるもの」であるのに対して、β-MAX2においては、「前記糊箱は、左右の軸受け板としての一対の側壁を有し、前記側壁に糊付ローラーとドクターローラーが軸受され、送リ出シローラーが前記側壁上部に突設された保持部に軸受され」、送リ出シローラー(下側ピンチロール)を軸受するU字穴が「前記保持部に設けられた上部開放穴」である点。
〈相違点2〉
下側ピンチロールをU字穴を介してドクターロールとの間隔を広げる方向に移動させることにより、下側ピンチロールへの回転伝達を解除自在する点に関して、本件訂正考案においては、「前記糊付けロール及びドクターロールを回転させながら洗浄する際に」としているのに対して、β-MAX2においては、このような特定がなされていない点。

(4)相違点についての検討及び判断
(4-1)相違点1について
訂正後の請求項1には、本体部内部の「左右の軸受板としての一対のフレーム側板」の具体的構成や「本体部に内蔵された糊桶」との関係などについて特定されているわけではなく、本件の願書に添付された図1、図6などにおける糊箱の側壁とフレーム側板の位置関係を参酌すると、本件訂正考案の相違点1に係る構成は、例えば、糊箱の側壁とフレーム側板とが、一体的に設けられているようなものを含み得るものと解すべきである。
そして、β-MAX2においては、糊箱の側壁に糊付ローラーとドクターローラーが軸受され、糊箱の側壁を一対の側板として、左右の軸受板の機能を兼用させているが、このような二つの機能部品を一方の機能部品に兼用させるか、あるいは両者を別個に設けるかは、当業者が適宜なし得る程度の設計的事項に属するものと解されるところ、送リ出シローラーについては、糊箱の側壁上部に突設された保持部の上部開放穴に軸受されている。
してみると、相違点1を実質的な相違点ということはできない。
一方、引用文献に記載された周知技術(以下、単に「周知技術」いう。)とを対比すると、後者の「糊付ローラ20」、「ドクターローラ21」、「送りローラ8」及び「架設され」は、その機能や技術的意義に照らして、前者の「糊付けロ-ル」、「ドクタ-ロ-ル」、「下側ピンチロ-ル」及び「軸受され」のそれぞれに相当し、後者の「本体フレーム」及び「ローラフレーム」も、左右の軸受板としての一対のフレーム側板ということができる。
そして、周知技術も自動壁紙糊付機であることは明らかであるから、周知技術は、「自動壁紙糊付機において、本体部は内部に左右の軸受板としての一対のフレーム側板を有し、フレーム側板に、糊付けロ-ルと下側ピンチロ-ルとドクタ-ロ-ルが軸受される自動壁紙糊付機。」であるということができる。
β-MAX2と周知技術は、ともに自動壁紙糊付機に関するものであるから、β-MAX2に周知技術を適用し、左右の軸受け板としての一対の糊箱の側壁及びこの側壁上部に突設された保持部を、本体部内部の「左右の軸受板としての一対のフレーム側板」とし、本件訂正考案の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得ることであるということもできる。
なお、本件請求人は、審判請求書の第9頁24頁?第10頁22行や平成16年9月15日付けの意見書第6頁6行?第8頁12行などにおいて、本件訂正考案の「U字穴」は、β-MAX2の上部開放穴と比較して、深く幅狭に形成され、一定のストロークを有するものである旨主張しているが、前述のとおり、β-MAX2の上部開放穴もU字穴と称することができることは明らかであり、訂正後の請求項1の記載、及び訂正明細書の全記載をみても、本件訂正考案の「U字穴」の深さや幅に関して特定されておらず、β-MAX2の上部開放穴と異なるものと解することはできない。

(4-2)相違点2について
本件訂正考案の相違点2に係る「前記糊付けロール及びドクターロールを回転させながら洗浄する際に」は、糊付けロール及びドクターロールを回転させながら洗浄を行い得るということにとどまり、物品の形状、構造又はその組み合わせに係る考案として、それ以上の構成を特定するものではない。
そして、上記β-MAX2に係る記載事項(b-3)に示したとおり、β-MAX2においても、送リ出シローラーを駆動する歯車11が、ドクターローラーを駆動する歯車12に斜め上方において噛み合い、ドクターローラーを駆動する歯車12が糊付ローラーを駆動する歯車10にほぼ水平位置で噛み合っているから、送リ出シローラーを糊箱の側壁上部に突設された保持部に設けられた上部開放穴を介して上方に、すなわちドクターローラーとの間隔を広げる方向に移動させることにより、送リ出シローラーを駆動する歯車11への回転伝達のみが解除されることは明らかである。
してみれば、β-MAX2においても、送リ出シローラーのみを回転伝達から解除して、糊付ローラー及びドクターローラーを回転させることができるものと解するのが相当であり、資料2に糊付ローラー、送リ出シローラー等を外して糊の掃除を行うと記載されているからといって、送リ出シローラーのみを回転伝達から解除した状態で、糊付ローラー及びドクターローラーを回転させながら洗浄を行い得ないとする根拠は見当たらない。
したがって、相違点2を実質的な相違点ということはできない。
また、円筒体等の回転体表面を洗浄するために、回転体を回転させながら行うことは、ごく普通になされていることと解されるところ、本件訂正明細書【0005】に記載されているように、自動壁紙糊付機において、洗浄のために各ロールを回転状態にすることは、本件出願前から行われていた周知技術といえるから、β-MAX2に接した当業者にとって、通常洗浄の必要のない送リ出シローラーのみを回転伝達から解除した状態で、糊付ローラー及びドクターローラーを回転させながら洗浄し、本件訂正考案の相違点2に係る構成とすることは、きわめて容易に想到し得ることということもできる。

(5)独立実用新案登録要件についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正考案は、本件出願前に公然実施をされた考案であるβ-MAX2と同一であるので、平成5年法改正前の実用新案法第3条第1項の規定により、独立して実用新案登録を受けることができない。
また、本件訂正考案は、本件出願前に公然実施をされた考案であるβ-MAX2及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものでもあるので、平成5年法改正前の実用新案法第3条第2項の規定により、独立して実用新案登録を受けることができないということもできる。

5.むすび
以上のとおり、本件訂正考案は、実用新案登録出願の際、独立して実用新案登録を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47号)附則第12条の規定により改正された、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号、以下「平成5年改正法」という。)附則第4条第1項の規定によりなおその効力を有するとされ、平成5年改正法附則第4条第2項において平成5年改正前の実用新案法第39条から第41条までを読み替えたものとして規定された、第39条第5項(平成15年法律第47号附則第12条の読み替え表「39条から41条まで」の欄を参照)に規定された要件を満たしていない。
よって結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-11-02 
結審通知日 2004-11-05 
審決日 2004-11-18 
出願番号 実願平4-38553 
審決分類 U 1 41・ 856- Z (B44C)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 清田 栄章
長谷川 一郎
登録日 1997-02-13 
登録番号 実用新案登録第2534772号(U2534772) 
考案の名称 自動壁紙糊付機  
代理人 広川 浩司  
代理人 村田 幹雄  
代理人 佐藤 正年  
代理人 島田 康男  
代理人 佐藤 年哉  

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