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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B65D
管理番号 1175740
審判番号 訂正2006-39170  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-10-15 
確定日 2008-04-07 
事件の表示 実用新案登録第1839235号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求は、平成18年10月16日付けでなされたものであり、登録実用新案第1839235号(実願昭59-161589号(前特許出願日:昭和54年4月4日援用、昭和63年9月8日実用新案出願公告:実公昭63-33829号)の明細書(実用新案法第13条で準用する特許法第64条の規定により、平成1年7月31日付け手続補正書により補正がなされている。)を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。
これに対し、平成19年1月16日付け(発送:同年1月19日)で訂正拒絶理由を通知したところ、審判請求人は、同年2月10日付け(受付:同年2月11日)で、意見書及び手続補正書を提出し、同年5月10日付け(受付:同年5月11日)で意見書を提出した。

第2 平成19年1月16日付けの手続補正について
1.補正の内容
上記平成19年2月10日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正された訂正明細書の記載からみて、本件訂正審判による実用新案登録請求の範囲についての訂正を、訂正の対象から除外し、考案の詳細な説明の欄の訂正のみを求めるものに補正することを求めるものである。

2.補正の適否について
本件訂正による訂正の内容は、登録時の実用新案登録請求の範囲に記載された構成である、接着塗塗布面の態様やトレーの材質を限定することにより実用新案登録請求の範囲を減縮し、これに合わせて、考案の詳細な説明の欄における、上記した着塗塗布面の態様やトレーの材質の限定に対応しない実施例を図面とともに削除する等により、実用新案登録請求の範囲と考案の詳細な説明における実施例とを整合させるものであって、両訂正は一体不離のものとして解するのが相当である。
ところが、本件補正により、本件訂正の要旨が、考案の詳細な説明の欄の訂正及び図面を削除するのみのものとなった。
請求人は、上記平成19年2月10日付け及び5月10日付けの意見書において、(受付:同年5月11日)で意見書において、本件補正後の訂正は、審査の過程で付加した実施例を削除するものであり、実用新案登録請求の範囲を減縮するものであると主張している。
しかしながら、実用新案登録請求の範囲の認定は、特段の事情がない限り、実用新案登録請求の範囲の記載に基いてなされるべきであり、本件登録時の明細書をみても、上述した考案の詳細な説明の欄の訂正及び図面の削除のみにより、実用新案登録請求の範囲を、残存する実施例に限定して解釈しなければならないといった特段の事情は見当たらない。
してみると、実用新案登録請求の範囲をなんら訂正せず、考案の詳細な説明の欄における一部の実施例を図面とともに削除することが、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するものとは解することはできない。
したがって、本件補正により、実用新案登録請求の範囲の減縮という本件訂正審判における本来的の請求の趣旨が削除されることになるから、本件補正は、請求の要旨を変更するものといわざるを得ず、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定により、なおその効力を有するとされ、平成15年法律第47号第12条で改正された平成5年法律第26号附則第4条第2項の規定によって読み替えられる改正前の実用新案法(以下、「旧実用新案法」という。)第41条で準用する特許法第131条の2第1項の規定に違反するので、本件補正を採用することはできない。
なお、下記第5で後述するように、補正前の本件訂正自体は、訂正の目的、新規事項追加の有無、実用新案登録請求の範囲の拡張、変更の存否の面では適法なものであり、上記考案の詳細な説明の欄の訂正及び図面の削除により残存する実施例に対応する、本件訂正に係る訂正後の実用新案登録請求の範囲に係る考案については、下記第6で旧実用新案法第39条第1項第5項の規定に基いて、その進歩性を検討することとする。

第3 訂正拒絶理由の概要
上記平成19年1月16日付け(発送:同年1月19日)で通知した、訂正拒絶理由の概要は次のとおりである。
本件訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものと該当するが、訂正後の登録実用新案第1839235号の考案(以下、「訂正考案」という。)は、本件出願前に頒布された刊行物である、実願昭51-13482号(実開昭52-104756号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)、実願昭51-126274号(実開昭53-45102号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)及び本件出願前より周知の技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。
したがって、本件訂正は認められない。

第4 訂正の内容
上記のように、平成19年2月10日付けの手続補正書による手続補正は採用できないから、本件訂正による訂正の内容は、登録実用新案第1839235号(昭和63年9月8日実用新案出願公告(実公昭63-33829号))について、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲に、
「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され、その状態で接着剤を一括して塗布されたトレーと、
上記トレー内に置かれた被包装物と、
上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し、かつ、トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフィルムとからなり、
上記ストレッチフィルムは、その周縁を、トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とするストレッチフィルムによるトレー包装体。」とあるのを、
「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、周壁の上部外側全周に、上部外周縁に直接、形成された接着剤塗布面とを有し、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され、その状態で接着剤を一括して塗布されたPSP(ポリスチレンペーパー)製のトレーと、
上記トレー内に置かれた被包装物と、
上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し、かつ、トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフィルムとからなり、
上記ストレッチフィルムは、その周縁を、トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とするストレッチフィルムによるトレー包装体。」
と訂正することを訂正事項として含むものである。
なお、下線は訂正箇所を示す。

第5 訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、実用新案登録請求の範囲の 拡張、変更の存否
本件訂正による訂正事項は、登録時の実用新案登録請求の範囲に記載された「接着剤塗布面」に係る構成に、「上部外周縁に直接」形成するという限定を付加し、また、同「トレー」の材質に係る構成に、「PSP(ポリスチレンペーパー)製の」という限定を付加するものであり、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、上記「上部外周縁に直接」という限定事項及び、「PSP(ポリスチレンペーパー)製の」という限定事項はいずれも、本件の願書に添付した明細書に記載されており(前者については、実公昭63-33829号公報(平成1年7月31日付けで補正されている。)の第2頁右欄第3行?第8行、図面第7図及び第9図に、後者については、同公報の第3頁右欄第2行?第4行に記載されている。)、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実用新案登録請求の範囲を実質上拡張し、変更するものでもない。
そこで、訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載されている考案が、独立して実用新案登録を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

第6 独立登録要件について
1.訂正後の考案
訂正後の明細書及び図面の記載からみて、訂正後の登録実用新案第1839235号の考案(以下、「訂正考案」という。) は、上記第4に記載した、訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。

2.刊行物1記載の考案
刊行物1には次のように記載されている。
(a)「トレー嵌置受皿の外側面部に、上フイルムを熔断する抵抗線と、上フイルムを抵抗線に接触保持させるフイルム密着手段とを周方向に沿って設けてなるフイルム包装切断用テーブル。」(実用新案登録請求の範囲)
(b)「現在、肉、魚、加工品及び雑貨等の包装においては、トレーと熱可塑性合成樹脂樹脂フイルムとを用いて次の2通りの包装が行われている。第1に、第8図に示す如く真空包装機の下部ボツクス(1)内のテーブル(2)上に、被包装物(3)を盛ったトレー(4)を載せ、テーブルを下降させ、下部ボツクスの開口上面に上フイルム(5)を張り、上部ボツクス(6)を閉じ、ボツクス内を真空にすると共に、上フイルムを加熱板(7)によって成型温度に加熱軟化させ、真空化と加熱が完了した時点でテーブルを上フイルム面に上昇させ、上フイルムを被包装物に接触させ、テーブルの周縁と上部ボツクスの開口下面内側のフランジとにより上フイルムの周緑部を挟持させ、大気をボツクス内に導入して上フイルムを被包装物とトレーに形通りに密着させる。第2に、・・吸気孔より上フイルムの内側の空気を排気して上フイルムを大気圧により被包装物とトレーに形通りに密着成型させる。」(明細書第1頁下から7行?第2頁15行)
(c)「ところで、上記のテーブルは大きくし、トレーを多数載せ並べ、この上に1枚の上フイルムを被覆して多数一度に密着包装すると、作業能率がよいが、この場合上記包装後に上フイルムを各トレー間で切り離す必要がある。」(明細書第2頁第16行?同頁末行)
(d)「本考案は上記フイルム包装とフイルム切断とが簡単確実に行なわれるフイルム包装切断用テーブルを提供するものであって、その構成を図面にもとづいて説明すると次の通りである。第1図乃至第3図に示すように、長方形の金属板製の基板(14)上にトレー嵌置受皿(15)を多数格子状配列に形成する。この各受皿(15)は、トレー外周の傾斜と合致する内側面(16a)を有する電気絶縁性の枠体(16)の下部外側フランジ部(16b)を基板(14)上に定着して形成する。枠体(16)の基板(14)と直角状の外側面(16c)にフイルム熔断用抵抗線(17)を周方に張り巡らせる。この抵抗線(17)は枠体外側面(16c)に周方向に適当間隔で突設した止め輪(18)に挿通して若干突出させ、この両端部は枠体の1コーナー部に形成した端子取付部(16d)の各端子(19)(20)に接続する。」(明細書第3頁8行?第4頁3行)
(e)「第4図に示すように、各枠体(16)の外側面(16c)及びフランジ部(16b)の上面に上フイルム(25)の密着手段(26)を設ける。すなわち合成樹脂製の接着剤又は加熱上フイルムが密着する塗料或いはフイルムシート等の密着手段(26)を塗布又は粘着して設ける。」(明細書第4頁8?13行)
(f)「このテーブルは前述の第8図に示す真空包装機の下ボツクス内に収容し、この各受皿(15)に第4図に示すように被包装物(29)を入れたトレー(30)を上周縁が少し突出した状態に夫々嵌置して前述の包装作業を行なう。この場合、大気圧の導入時、各トレー(30)及び被包装物(29)上の加熱軟化した上フイルム(25)はそれらに凹凸形状通りに押付けられ延伸して密着被覆される。各トレーの周囲上の上フイルム(25)もコ字形の凹部又はL形の段部の塗料はフイルムシート(26)面に押付けら延伸してそれに密着し、上フイルム(25)は抵抗線(17)上に全周に亘り確実に接触する。」(明細書第5頁1?12行)。
(g)「従つて包装後に抵抗線(17)に通電させて発熱させると、この熱により凹状又はL形に形成されている上フイルム(25)が熱収縮を生じて抵抗線(17)との接触部から離れんとするがこれが密着保持手段(26)によって防止され、全周に亘り確実に熔断される。この後、各トレーを取り出すと共に、スクラツプフイルムを適当に剥離除去し、再び包装作業を行なう。」(明細書第5頁12行?末行)
(h)「包装フィルムとして通常使用されるオレフイン系フイルムの80?150ミクロン厚のものを熔断するには、」(明細書第6頁11?13行)

上記記載を踏まえ、刊行物1の第4図をみてみると、トレー(30)の一部分が描かれており、トレー(30)は、平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有し、当該周壁の上部外側全周に、上部外周縁に直接、上フイルム(25)を保持する保持面が形成されているということができる。
さらに、同図には、基板(14)上に形成されたトレー嵌置受皿(15)の中に、内部に被包装物(29)が置かれたトレー(30)が嵌置され、上フイルム(25)が被包装物に密着しつつトレー(30)の上面開口部をオーバーラップして被覆した状態にあるトレー包装体が描かれており、前記(f)、(g)、(h)の記載によれば、この被覆した状態にあるトレー包装体における上フイルム(25)は、その周縁を、前記保持面に保持させた位置に接近した下側で、抵抗線(17)の発熱により全周にわたって熔断つまり切断されるものと解することができる。

したがって、前記(a)?(h)の記載事項を第1?9図を参照しながら総合すると、刊行物1には、次の考案(以下、「刊行物1記載の考案」という。)が記載されているものと認められる。
「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、周壁の上部外側全周に、上部外周壁に直接形成された保持面を有するトレーと、
上記トレー内に置かれた被包装物と、
上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し、かつ、上記トレーの保持面に保持させた周縁を有する熱可塑性合成樹脂からなる上フイルムとからなり、
上記上フイルムは、その周縁を、トレーの保持面に保持した位置に接近した下側で全周に亘って切断してある、熱可塑性合成樹脂からなる上フイルムによるトレー包装体。」

3.刊行物2記載の考案
刊行物2には次のように記載されている。
(a)「本考案は皿状容器に肉又は魚等を入れて全体をプラスチックフィルム包装したパック製品に特に適した包装用容器に関する」(明細書第1頁13?15行)
(b)「然して、上記容器は第3図に示す如く、その上周縁を外側下方に曲折垂下させ、この垂下縁片部10’が十分な長さとなるように当初成型しておき、ついで第4図に示す如く、この垂下縁片部10’を適宜カール機によつて曲折内方に巻込ませて容器周側面3の上縁外側に丸みのある耳部10を形成するものである。」(明細書第4頁12?18行)
(c)「一方、上記耳部10は第5図に示す如く、容器複数枚の積合せた際、丸い耳部同士が重なり合う為容器間に空気Sを生じさせる役目を果し、積合せた容器を一枚々々剥しやすくする上で非常に効果的となり、スタツキング防止を完遂する。」(明細書第6頁3?7行)
(d)特に第4、5図を参照すると、耳部10の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直面となるものが図示されている。

そこで、前記(a)、(b)の記載事項及び耳部略図、容器積合せ状態の耳部略図を示す第4、5図の記載を総合すると、上下に連続する略垂直面はいわゆる柱の形状といえるので、刊行物2には、次の考案(以下、「刊行物2記載の考案」という。)が記載されているものと認められる。
「プラスチックフィルム包装したパック製品に用いられる容器であって、耳部を設け、容器を積み重ねた際、耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する容器。」

4.対比
そこで、訂正考案と刊行物1記載の考案とを対比すると、刊行物1記載の考案における「上フィルム」と訂正考案における「ストレッチフィルム」とは、「フィルム」の限りで一致する。
また、訂正考案においても、接着剤塗布面は、トレーの周壁の上部外側全周に、上部外周縁に直接形成されており、ストレッチフィルムは、その周縁が、トレーの周壁の上部外側面全周に接着により保持されているといえるから、両考案は、
「平坦な底板と、底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、周壁の上部外側全周に、上部外周縁に直接、形成された保持面とを有し
トレーと、
上記トレー内に置かれた被包装物と、
上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し、かつ、トレーの保持面に保持された周縁を有するフィルムとからなり、
上記フィルムは、その周縁を、トレーの保持面に密着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあるフィルムによるトレー包装体。」
で一致し、次の5点で相違する。
【相違点1】
訂正考案においては、トレーの周壁の上部外側全周に形成された保持面が、接着剤塗布面であって、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、各接着剤塗布面が、上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され、その状態で接着剤を一括して塗布されるものであるのに対し、引用刊行物1記載の考案は、トレーが接着剤塗布面を有さず、したがって、接着剤塗布面の形状についての言及がない点。
【相違点2】
トレーの材質が、訂正考案では、PSP(ポリスチレンペーパー)製であるのに対し、刊行物1記載の考案では、トレーの材質が明らかでない点。
【相違点3】
トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが、訂正考案では、ストレッチフィルムであるのに対し、刊行物1記載の考案では、熱可塑性合成樹脂フィルムである点。
【相違点4】
トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが、訂正考案では、トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するのに対し、刊行物1記載の考案では、トレーの周壁の上部外側面全周に保持させた周縁を有する点。
【相違点5】
トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が、訂正考案では、トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われるのに対し、刊行物1記載の考案では、トレーの保持面に保持した位置に接近した下側で行われる点。

5.相違点についての検討及び判断
そこで、以下、相違点1ないし5について検討する。
(1)相違点1について
相違点1に係る訂正考案の構成は、トレー周壁の上部外側全周に、上部外周縁に直接、形成された接着剤塗布面が形成されているという構成(以下、「本件接着剤塗布面構成」という。)、及び、未包装状態で多数個を積み重ねたとき、上部外側の一部が、上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されているという構成(以下、「本件形状構成」という。)という二つの構成とからなり、上記本件形状構成における「上部外側の一部」が、本件接着剤塗布面構成における「本件接着剤塗布面構成」をなし、これに接着剤が塗布されているのが訂正考案である。
ここで、本件接着剤塗布面構成は、トレーの周壁のいずれの面を接着剤塗布面として選定するかにかかわるものであり、一方、本件形状構成は、物品の形状、構造又はその組合せに係る考案として、トレー周壁の形状、構造にかかわるものであるから、接着剤塗布面構成の容易想到性が本件形状構成の容易想到性を前提とするものであったり、逆に、形状構成の容易想到性が本件接着剤塗布面構成の容易想到性を前提とするなど、両者を切り離して把握することが許されないとする特段の事情があるとはいえないから、両者それぞれについて検討する。

まず、本件接着剤塗布面構成について検討する。
刊行物1記載の考案は、トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆した上フイルムを、トレー周壁の上部外側全周に形成した保持面に保持させたものであり、その保持の態様を、被包装物の形状に沿って密着するように真空包装などにより成形されるものに限定して解釈しなければならない特段の事情は見当たらず、本件に係る出願の出願前より広く採用されている、単にフイルムによりトレーとトレーに載置された被包装物を覆うのみである場合も含み得ることは明白である。
後者の場合、真空成形などにより成形される場合に比べ、フィルムとトレーとの間の保持性が劣ることは明らかであり、トレー包装体に要求される仕様からみて、保持性を向上させるため、なんらかの手段を講じることは、当業者が当然に想起し得ることといえる。
このことは、上記第6、2に記載した刊行物1の記載(e)、(g)に、密着手段を設けることの目的として、抵抗線(17)を発熱させた際の熱収縮によって上フィルムが抵抗線(17)との接触部から離れることを防ぐことが挙げられ、上フィルムを枠体の外側面及びフランジ部の上面に対して保持させるに当たり、真空包装による成型だけでは十分ではなく、保持をより確実にするため、接着剤等の密着手段を必要とする場合があることが示唆されていることからも明白である。
そして、トレー包装体において、フィルムとトレーとの保持性を改良するために、トレー周壁の上部外側外周面一周に、接着剤塗布面を採用することは、例えば、特公昭50-17915号公報、実公昭39-38574号公報等にみられるように、本件に係る出願の出願時において、周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である。
以上を総合すれば、刊行物1記載の考案についても、フィルムとの密着性を改良するという課題は、当然内在し得るものであるから、刊行物1記載の考案における保持面を、周知技術1に基づき、本件接着剤塗布面構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得ることというべきである。

つぎに、本件形状構成について検討する。
前述のように、容器全体のトレイの形状としてトレーを積み重ねた際、トレーの外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する形状を採用することは、刊行物2に記載されている。
上記第6、3に記載した刊行物2の記載(c)によれば、刊行物2記載の考案は、上記の形状を採用することにより、容器を複数枚積合せた際、容器間に空気Sを生じさせ、スタツキング防止を図るものであるが、刊行物1記載の考案におけるトレーについても、製造過程ないし搬送の過程で積み重ねられる場合が当然想定され、その際、このトレーが、スタッキングを生じるおそれのある形状であることは明らかである。
したがって、刊行物1記載の考案と刊行物2記載の考案は共通する課題を有するものといえ、刊行物1記載の考案における、「周壁の上部外側全周に、上部外周壁に直接形成された保持面」の形状構成について、刊行物2記載の考案を適用して、容器を複数枚積合せた際、容器間に空気Sを生じさせるよう、外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈するものとすることも、当業者がきわめて容易に想到し得るものというべきである。

そして、本件接着剤塗布面構成と本件形状構成を同時に採用するとき、接着面として、トレー外側面のうち、底面と垂直をなす平坦面を選択することは、作業の容易性や接着強度の確保等を考慮するときは、むしろ、当然のことといい得る範囲の事項である。
すなわち、刊行物2に記載される技術的事項を前提に、刊行物1記載の考案、周知技術1、適宜の設計事項に接した当業者が、そこから本件接着剤塗布面構成及び本件形状構成を読み取り、これらを組み合せて、相違点1に係る本件考案の構成を想到することは、きわめて容易であるというべきである。

(2)相違点2について
トレーの材質にPSP(ポリスチレンペーパー)製を使用することは、例示するまでもなく周知の技術(以下、「周知技術2」という。)である。

(3)相違点3について
訂正考案における「ストレッチフイルム」につき、訂正考案の実用新案登録請求の範囲においては,「ストレッチフイルム」について、特に限定される記載はない。
ここで、「ストレッチフィルム」は、食品等を包装する際に用いられる軟質の塩化ビニルのほかに、比較的大きなものの包装に利用されるポリエチレンフィルムを含み、包装の用途等に応じて異なる厚み、材質のものが存在すると認められる。
また、「ストレッチフィルム包装」とは、フイルムを引っ張りながら包装を行うこと一般を意味するものと解される。したがって、「ストレッチフイルム」とは、フイルムを引っ張りながら包装することができるフイルムを意味するものというべきである。

また,刊行物2には、「従来一般にミートトレイ(通称)等皿状容器を用いたパック製品の包装作業は自動化したラインシステムで行われている。この作業は、容器に肉等被収納物が収納された後、予め適度の張り強度に微調整されて張られているフイルム下において容器を上昇させ、フイルム面を下から押上げて容器全体をフイルム内に包み込ませ、次いで下向コ状になつたフイルムを容器の下側において左右から交絞させて容器外周に張り付くように包着させ、その後で容器下側のフイルムの合わさり部をシールして製品とするものである」(1頁下5行?2頁6行)と記載されており、刊行物2記載の考案も、ストレッチフィルム包装したパック製品に用いられるものということができる。
してみると、刊行物1記載の考案は、熱可塑性合成樹脂フィルムをトレーにオーバーラップするものであるが、トレー包装体のフィルムとして、常温で延伸性のあるフィルム、すなわちストレッチフィルムを用いることは、例示するまでもなく、周知の技術(以下、「周知技術3」という。)であり、しかも、一般に、熱可塑性合成樹脂フィルムはストレッチフィルムを含み得るものであって、刊行物1記載の考案における「熱可塑性合成樹脂フィルム」が、ストレッチフィルムを排除していると認めるべき特段の事情も見当たらない。
よって、刊行物1記載の考案において、ストレッチフィルムを採用することは、当業者にとってきわめて容易に想到し得たものというべきである。

(4)相違点4及び5について
上記「(1)相違点1について」で示したように、トレーが、「周壁の上部外側面全周に、上部周縁に直接、形成された接着剤塗布面を有し」との構成に至ることは、当業者にとってきわめて容易である以上、同構成を有するトレーをフイルムで包装した場合に、相違点4に係る「トレーの(中略)フイルムが、トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有する」との構成に至ることは必然である。

また、刊行物1には、「上フイルム(25)は抵抗線(17)上に全周に亘り確実に接触する。・・・抵抗線(17)に通電させて発熱させると、この熱により・・・上フイルム(25)が・・・全周に亘り確実に熔断される。」(明細書5頁11?17行)との記載があり、この記載と刊行物1の第4図によれば、刊行物1記載の考案においては、フィルムとトレーの密着部に接近した下側で、フィルム周縁が抵抗線により全周にわたって切断されていると認めることができる。
そうであれば、刊行物1記載の考案が、本件接着剤塗布面構成に至った場合には、トレーのフィルム保持面が「トレーの接着剤塗布面」となり、接着位置に接近した下側で、フイルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が行われざるを得ないのであるから、相違点5に係る構成に至ることもまた必然である。

6.まとめ
したがって、訂正考案は、刊行物1、2に記載された考案及び周知技術1ないし3に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、旧実用新案法第3条第2項の規定により、その出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件訂正は、旧実用新案法第39条第1項第5項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-06-11 
結審通知日 2007-06-13 
審決日 2007-06-27 
出願番号 実願昭59-161589 
審決分類 U 1 41・ 856- Z (B65D)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 北川 清伸  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 関 信之
寺本 光生
登録日 1990-11-14 
登録番号 実用新案登録第1839235号(U1839235) 
考案の名称 ストレツチフイルムによるトレ-包装体  

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