• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判    E21D
管理番号 1180855
審判番号 無効2007-400008  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-11-30 
確定日 2008-06-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第3097647号実用新案「ボルトナットを装着する金具を埋設したコンクリートブロック」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3097647号の請求項1及び4に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 実用新案登録第3097647号の請求項3に係る考案についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯・本件考案
本件実用新案登録第3097647号に係る考案は、平成15年5月7日に出願され、平成15年8月27日にその考案について実用新案登録の設定登録がされたものであり、本件請求項1、3及び4に係る考案は、実用新案登録請求の範囲の請求項1、3及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ボルト(4)ナット(3)装着用の金具(2)を予め保型材などと共に配置した型枠にポルトランドセメントと小径の蛇紋石や砂利などの骨材を混入して加水処理したモルタルを充填して固化したブロツク(1)であって、該ブロックは断面が略梯形状で所望の長さに成形され、両端面には握持用の凹部(5)を設ける一方、前記金具(2)は対腐食加工をした軽金属材からなり、底壁(7)より起立した両側壁8はボルト(4)が移動可能に挿入し得る幅間隔となした下溝(6)と前記両側壁(8)上端縁より外方に向かう段部(14)を延設し、両段部の両端縁より起立した両規制壁(15)はその両端開口より移動可能に挿入する六角ナット(3)の回動を阻止して狭(「挟」の誤記…当審注)持される幅間隔とされ、両規制壁(15)上端縁より、ブロック(1)の頂面と同一面で内方に向って延長した両係合壁16は六角ナット(3)の上面を係止すると共に両係合壁16の内側端縁の間隔はボルト(4)が移動可能に挿通できる幅間隔の開口(17)を有する上溝(13)が設けられていることを特徴とするボルトナットを装着する金具を埋設したコンクリートブロック。」
「【請求項3】
前記底壁(7)両端近傍に設けた開口(11)とアンカー釘孔(11A)にはアンカー釘(10)を打込んでブロックを地盤に固定することを特徴とする請求項1記載のボルトナットを装着する金具を埋設したコンクリートブロック。」
「【請求項4】
ブロックの上溝内に挿入配置した六角ナットに螺合して下溝内まで挿入したボルトの頭部は1個乃至複数個の透孔を有すアイボルトであることを特徴とする請求項1記載のボルトナットを装着する金具を埋設したコンクリートブロック。」

2.審判請求人の主張
審判請求人は、本件の実用新案登録請求の範囲の請求項1、3及び4に係る考案についての実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件請求項1、3及び4に係る考案は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された考案及び甲第5号証に記載された周知技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件請求項1、3及び4に係る実用新案登録は実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである旨主張し、証拠方法として次の甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

甲第1号証:実開平4-3198号公報及び実願平2-43898号(実開平4-3198号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開2000-28086号公報
甲第3号証:特開平9-147207号公報
甲第4号証:特開平10-54499号公報
甲第5号証:「絵とき 建築材料」廣瀬幸男 外4名共著、株式会社オーム社、平成14年8月10日改訂2版第1刷発行、40及び52ページ

3.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、「本件審判請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、本件実用新案登録の請求項1、3及び4に係る考案は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができない旨主張し、証拠方法として次の乙第1号証を提出している。

乙第1号証:「広辞苑」新村出編、岩波書店、1991年11月15日第4版第1刷発行 589、2098及び2099ページ

4.甲第1号証ないし甲第5号証の記載内容
(1)甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(1a)「コンクリート、合成樹脂等適宜な素材を用いて成形した取付け台1の上面部に、ボルト2の軸部2’基端を挿通し得る開口部4と、ボルト2の軸部2’に螺合するナット5を挿通し得る拡溝部6と、ボルト2の軸部2’を挿通し得る狭溝部7とを有する型材3を埋設一体化したことを特徴とする機器の取付け台。」(明細書1頁、実用新案登録請求の範囲の請求項1)、
(1b)「産業上の利用分野
本考案は、クーラー、エアーコンディショナー等の機器を設置する際に使用する取付け台に関するものである。」(同1頁下から1行?2頁3行)、
(1c)「従来の技術
従来のこの種のクーラー、エアーコンディショナー等の機器の取付け台は、第4図に示す如くコンクリート、合成樹脂等適宜な素材を用いて成形した取付け台11の上面部に、ボルト12の軸部12’を挿通し得る開口部13とボルトの頭部を挿通し得る溝部14とを有する断面矩形状の型材15を埋設一体化したものであって、型材15の溝部14内に上下を反転状態としたボルト12の頭部を挿通せしめて、ボルト12の軸部12’を型材15から上方に突出させた状態に組み込み、上向きのボルト12の軸部12’に機器Aに設けられた取付け用フランジBを挿通させた後、ナット16を螺合して締結固定する構成であった。」(同2頁4行?3頁1行)、
(1d)「考案が解決しようとする課題
然しながら、上記の従来の取付け台の構成にあっては、ボルトの軸部先端が取付け台から上方に突出することとなるため、危険であると共にボルトの軸部が風雨に直接さらされることから錆が発生し易く、またナットによる締結力を強固に確保するために、ボルトの頭部を拡幅してなる専用ボルトを使用しており、不経済である等の問題点があった。
本考案は、叙上の従来のこの種取付け台における問題点を解決すべく案出したものであって、取付け台の上方にボルトの軸部先端が突出することなく、常にボルトの軸部先端は取付け台における内方に向かい、取付け台の上方にはボルトの頭部のみが露出するに過ぎないよう工夫したもので、危険性が少なく安全で、錆にくく、使用ボルトの頭部のサイズも規制する必要がなく、一般汎用型の市販ボルトの使用を可能とする便利な機器取付け台を提供することを目的とするものである。」(同3頁2行?4頁4行)、
(1e)「作用
上記の構成になる本考案の使用方法を説明すると、型材1(「3」の誤記…当審注)における拡溝部6にナット5を嵌入しておき、ボルト2の軸部2’を先ずクーラー、エアーコンディショナー等の機器Aに設けられた取付け用フランジBの穿孔に上から下に挿通させた後に型材3の開口部4を経て前記した拡溝部6内のナット5に螺合させると、第2図に示す如くボルト2の軸部2’先端は取付け台1の内方たる型材3における狭溝部7内に収容され、取付け台1の上面部における機器Aの取付け用フランジBの上方にはボルト2の頭部2”のみが露出しているに過ぎない状態で以って締結固定することができる。」(同5頁1?14行)、
(1f)「該型材3は、アルミその他の金属或は強靱な合成樹脂等を素材として成形したもので、」(同6頁5?7行)。
(1g)第1図及び第2図には、次の図が記載され、取付け台1は断面が略梯形状であること、狭溝部7は、型材3底面部8より起立した両側壁により形成されていること、拡溝部6は、前記狭溝部7の両側壁上端縁より外方に向かって延設した両段部と、両段部の端縁より起立した両規制壁と、両規制壁上端縁より、取付け台1の上面部と同一面で内方に向って延長した両係合壁を有していること、両係合壁の内側端縁の間に開口部4が形成されていることが示され、第2図には、さらに、開口部4はボルト2の頭部2”の幅よりも狭いこと、ナット5は六角ナットであることが示されている。。

(1h)第3図には、取付け台1は断面が略梯形状で所望の長さを有していること、型材3の端部は、取付け台1の側面に開口していることが記載されている。

甲第1号証の上記記載及び図面の記載によれば、甲第1号証には、次の考案が記載されていると認められる。
「ボルト2の軸部及びナット5を挿通し得る型材3を埋設一体化しコンクリートを用いて成形した取付け台1であって、
該取付け台1は断面が略梯形状で所望の長さに成形され、
前記型材3はアルミその他の金属或は強靱な合成樹脂等の素材からなり、
底面部8より起立して、両側壁がボルト2が移動可能に挿入し得る幅間隔となした狭溝部7と、
前記狭溝部7の両側壁上端縁より外方に向かって延設した両段部と、両段部の端縁より起立し、六角ナット5を挿入可能な幅間隔とされた両規制壁と、両規制壁上端縁より、取付け台1の上面部と同一面で内方に向って延長し、六角ナット5の上面を係止する両係合壁を有し、両係合壁間にボルト2の軸部2’基端が移動可能に挿通できる幅間隔の開口部4を有する拡溝部6とから形成され、
ボルト2が、取付け台の拡溝部6内に挿入配置した六角ナット5に螺合して下溝内まで挿入し得る型材3を、その端部が、取付け台1の側面に開口するように埋設した、
コンクリートを用いて成形した取付け台1。」

(2)甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エアコンディショナ室外機等の載置物が載置される台座装置に関し、詳しくは載置物を固定する固定手段を備えた台座装置に関する。」、
(2b)「【0019】取手用凹部7は、図2に示すように、例えば案内レールの底面部6aに向けて斜めに凹となるように形成されて載置台本体5の長手方向の両側面5bにそれぞれ設けられており、台座装置1を移動/設置する際に指をかける取っ手として作用する。
【0020】したがって、台座装置1は、取手用凹部7が設けられていることから、取り扱いが安全且つ容易となり、移動等する際に落下させてしまったり、設置する際に指を挟んだりしてしまうといった危険を防止することができる。」。

(3)甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(3a)「【0004】図5は、従来の自動販売機の設置とアース接地状況を示したものである。図において、自動販売機本体1は、底部の四隅に設置するための脚2を設ける一方、設置台3は、自動販売機1を設置するためにコンクリートにより大地4上に打ち込まれる。これに対応する固定金具5は、一端側に脚2の下端が嵌まる脚穴5aを形成し、他端側にアンカボルト6が貫通するボルト穴5bを形成し、両端の先端脚5c,5dが設置面3aに接するようになっている。そして、スリーブ7を挿通させたアンカボルト6が固定金具5のボルト穴5bを介して設置台3のアンカボルト穴3bへ挿入し、ねじ部6aへ…ナット10を締付ける。」、
(3b)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、転倒防止のために図5に示すアンカボルト6と固定金具5による設置台3への設置は、多くの自動販売機について行われているが、感電等に対する認識不足や経済的負担等からアース接地工事がされている自動販売機は、あまり多くないという実情がある。」、
(3c)「【0012】図1乃至図3は、本発明の第1実施の形態を示す図であって、自動販売機本体1には、その底部四隅に設置するための脚2を設ける一方、設置台3は、自動販売機本体1を設置可能とするようにコンクリートを打って設置面3a上に固定金具5を固定するアンカボルト穴3bを形成している。…
【0015】まず、自動販売機を設置する際には、予め設置面3aとアンカボルト穴3bとを有する設置台3をコンクリートによって作っておく。…
【0016】次に、スリーブ7を挿通させたアンカボルト6を固定金具5のボルト穴5bから設置台3の設置面3aへ挿入し、…アンカボルト6を介して固定金具5が設置台3へ固定される。」、
(3d)「【0019】図4は、本発明の第2実施の形態を示すものである。図において、自動販売機本体1に設ける脚2が従来例で説明したと同様に固定金具5の脚穴5aに嵌まって、脚2の下端が設置台3の設置面3a上に当接し、さらに、固定金具5が端部の先端脚5c,5dが設置面3a上に当接している。固定金具5のボルト穴5bにはスリーブ7を挿通した先端の突部6cにアース接地機能を有し、胴部にテーパー部6bを持つアンカボルト6が設置台3に形成されるアンカボルト穴3bへ挿入され大地4へ打ち込まれている。…
【0021】以上の構成によって、自動販売機が傾くと脚2が固定金具5の脚穴5aの端縁で傾きを阻止され転倒が防止される。」。

(4)甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(4a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、支持台用殻体及び該殻体を備えた支持台並びに該支持台の製造方法に関する。」、
(4b)「【0020】図1乃至図3は、本発明の第一実施形態を示している。図1において、前後方向に延びた支持台Aは、支持台用殻体1と、その内部に供給されて固化したコンクリート2とを備えている」、
(4c)「【0022】前記殻体本体3は、図2に示すように、その縦断面がほぼ台形状であり、その前後両端部と下部とが開放されている。すなわち、前記殻体本体3は、前記案内溝4の左右両側に沿って前後方向に延びる細長い上面部7,7と、該上面部7,7と滑らかに連続して前後方向に延びる左右側面部8,8とを備えている。前記殻体本体3の上面部7,7上には、支持物の一例としての前記室外機5が載置される。」、
(4d)「【0037】図4および図5は、本発明の第二実施形態を示している。・・・
【0038】図4に示す支持台Bを構成する殻体本体23は、左右一対の案内レール27,27を着脱自在に支持する左右一対の案内レール支持部28,28を備えている。前記左右一対の案内レール27,27は、支持物(例えば、本実施形態では、配管材25または架台26)を位置可変に固定する固定手段22を案内する。」
(4e)「【0048】なお、前記配管材25の固定手段としては、前記のもののほか、図4に示したように、その下部に雄ねじ部37を有するとともにその上端に配管材保持部38を有する棒部材39と、前記雄ねじ部37と螺合する雌ねじ部を有して前記案内レール27,27間に遊嵌する下側押圧部材40と、前記棒部材39に挿通されて該棒部材39に設けた段部41によって上方への移動を規制された上側押圧部材42と、を備えてなる固定手段43を用いることもできる。」。
(4f)第4図には、次の図面が記載され、棒部材39の上端には配管材保持部38の下部が接続されていること、配管材保持部38の下部には、2個のボルト状部材が取り付けられていることが示されている。


(5)甲第5号証には、次のことが記載されている。
(5a)「20 コンクリートブロック」の「2.ブロックの材料,製法」の項
に、「製造に使用されるセメントはポルトランドセメント…などがある.」こと、「骨材の最大寸法は8mmとする.砂利,砂利,砕石,…などを使用する.」こと、製法として「スランプ値を低くして固練りとし,振動機で詰めた後に加圧成型する.水セメント比は40%程度またはこれ以下が多い.」こと(40頁左欄)、
(5b)「26 アルミニウム,ステンレス」の「1.アルミニウム」の項に、
アルミニウムの長所として「比重は約2.7で、軽量な金属である.」こと、
アルミニウムの短所として「・アスファルト,瀝青には侵食されないが,酸,アルカリに弱く,コンクリート面や土に接して使用すると腐食する.」こと、
アルミニウムの加工と用途として「a.陽極酸化皮膜:耐食性向上のために,硫酸やクロム酸液などで電気的に被膜(アルマイト)を作る方法で,着色もできる.」こと(52頁左欄)。

5.対比・判断
(5-1)本件考案1について
本件請求項1に係る考案(以下、「本件考案1」という。)と、甲第1号証記載の考案とを対比する。
甲第1号証記載の考案の「ボルト2」が本件考案1の「ボルト」に相当し、以下、「ナット5」が「ナット」又は「六角ナット」に、「取付け台1」が「ブロック」に、「型材3」が「金具」に、「アルミ」が「軽金属」に、「底面部8」が「底壁」に、「狭溝部7」が「下溝」に、「取付け台1の上面部」が「ブロックの頂面」に、「開口部4」が「開口(17)」に、「拡溝部6」が「上溝(13)」に、それぞれ相当する。
また、甲第1号証記載の考案において、ナット5は、幅の狭い開口部4から挿入することはできないから、取付け台1の側面に開口した型材3の端部から移動可能に挿入されることは明らかである。
さらに、甲第1号証記載の考案の「型材3を埋設一体化しコンクリートを用いて成形した取付け台1」と本件考案1の「金具を予め保型材などと共に配置した型枠にポルトランドセメントと小径の蛇紋石や砂利などの骨材を混入して加水処理したモルタルを充填して固化したブロツク」又は「金具を埋設したコンクリートブロック」とは、「金具を埋設しコンクリートを用いて成形したブロック」又は「コンクリートブロック」である点で共通する。
したがって両者は、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
ボルトナット装着用の金具を埋設しコンクリートを用いて成形したブロツクであって、該ブロックは断面が略梯形状で所望の長さに成形され、前記金具は軽金属材からなり、底壁より起立した両側壁はボルトが移動可能に挿入し得る幅間隔となした下溝と前記両側壁上端縁より外方に向かう段部を延設し、両段部の両端縁より起立した両規制壁はその両端開口よりナットを移動可能に挿入する幅間隔とされ、両規制壁上端縁より、ブロックの頂面と同一面で内方に向って延長した両係合壁は六角ナットの上面を係止すると共に両係合壁の内側端縁の間隔はボルトが移動可能に挿通できる幅間隔の開口を有する上溝が設けられているボルトナットを装着する金具を埋設したコンクリートブロック。
(相違点1)
金具を埋設しコンクリートを用いて成形したブロック又はコンクリートブロックが、本件考案1では「金具を予め保型材などと共に配置した型枠にポルトランドセメントと小径の蛇紋石や砂利などの骨材を混入して加水処理したモルタルを充填して固化した」ものであるのに対し、甲第1号証記載の考案は、具体的な材料、製法が不明な点。
(相違点2)
本件考案1は、「両端面には握持用の凹部を設ける」のに対し、甲第1号証記載の考案は、握持用の凹部を設けていない点。
(相違点3)
本件考案1では、「金具」は「対腐食加工」されているのに対し、甲第1号証記載の考案は、このような処理をされたものか否か不明な点。
(相違点4)
本件考案1は、両規制壁の幅間隔が、「六角ナットの回動を阻止して挟持される幅間隔」とされているのに対し、甲第1号証記載の考案は、両規制壁の幅間隔が、六角ナットの回動が阻止できるものか否か不明な点。
上記相違点について以下、検討する。

相違点1について検討すると、金具を埋設したコンクリートブロックを製造する場合、金具及び保型材(本件登録明細書【0015】参照)などを予め型枠に配置することは、普通に行われている技術事項にすぎないし、コンクリートブロックを、ポルトランドセメントと砂利、砕石などの骨材とを混合して加水処理したものを充填して固化して製造することは、例えば、甲第5号証の40頁に記載されているように周知慣用のことである。
ところで、本件考案1は、「砂利などの骨材を混入して加水処理したモルタルを充填して固化」とされているところ、「モルタル」はセメントと砂を混ぜたものであり、「コンクリート」はセメントと砂にさらに砂利を混ぜたものであるから、請求項1の「…砂利などの骨材を混入して加水処理したモルタル」という表現は必ずしも正確ではないが、結果として、コンクリートブロックを製造するのであるから、その製造材料は上記周知のものと実質的に相違はない。なお、蛇紋石はコンクリートの骨材の一つとして普通に用いられる材料である。
したがって、甲第1号証記載の考案において、コンクリートブロックの製造に、上記周知技術を採用して、相違点1の本件考案1に係る構成とすることは、当業者であればきわめて容易になし得ることである。

相違点2について検討すると、ボルトナットを装着する金具を埋設したコンクリートブロックにおいて、ブロックの移動や設置作業を容易にするために、ブロックの両端面に手を掛けるための凹部を設け、この凹部に指を挿入してブロックを持ち上げることは、甲第2号証に取手用凹部7として記載されているように公知であるから、甲第1号証記載の考案において、ブロックの移動等の作業を容易にするために甲第2号証記載の取手用の凹部を設ける技術を採用することは、当業者であればきわめて容易になし得ることである。
被請求人は、本件考案1の「握持用の凹部」は、下溝と上溝とで構成される嵩高の金具を埋設する関係上、金具を避けてブロックの重心より低い位置に設けられ、そのため吊り下げるのではなく、握持して、それも握持するために深くするのに対して、甲第2号証記載の「取手用凹部7」は、金具(案内レール6)の嵩高が低いので、重心より上の位置にあり、浅い凹部でよいことになり、両者は構成が異なる旨、主張する(答弁書8頁5行?9頁5行)。
しかし、本件考案1はブロック両端面における「握持用の凹部」の位置や、その深さを何ら限定しておらず、被請求人の上記主張は、実用新案登録請求の範囲の記載に基づかないものである。
また、本件登録明細書には、「握持用の凹部」について、「ブロツクは作業員が抱いて配置するとき取り落として隅角部が欠け落ちて不良品となることが多いが、隅切りと両手で握る凹部を設けることにより不良商品の発生が皆無となる」(段落【0009】)、「ブロック両端に設けた凹部を握持して運搬配設するので」(段落【0020】)と記載されているにすぎず、そのための深さや形状は何ら記載されていない。
一方、本件の【図1】には、凹部は横長であることが示され、【図3】には、凹部の上面は入口から奥に向かって下向きにやや傾斜した平面であり、下面は入口から奥に向かって上向きに傾斜した浅い平面であることが示されていること、ブロックは通常地面に設置されることからみて、「握持」とは、凹部に親指以外の指を掛け、ブロック上面を親指で押さえ、凹部より上方のブロックの端部を手で握ることと解される。
甲第2号証には「取手用凹部7」について、「指をかける取っ手として作用する」(記載事項(2b)参照)と記載されているだけであるが、ブロックを移動する際に、凹部に親指以外の指を掛け、ブロック上面を親指で押さえ、凹部より上方のブロックの端部を手で握ることができることは明らかであり、本件考案1の「握持用の凹部」と甲第2号証記載の「取手用凹部」とが構成において差異があるとすることはできない。

相違点3について検討すると、一般に、アルミなどの軽金属の金具に、アルマイトなどの対腐食加工をすることは、例えば、甲第5号証52頁に記載されているように、よく知られていることである。そして甲第1号証には、取付け台が風雨に直接さらされるものであり、ボルトについて錆を防止しようとすることが記載され、錆の防止を課題とするものであるから、甲第1号証記載の考案の「金具」についても錆の防止を図るために周知の「対腐食加工」を施すことは、当業者であればきわめて容易に想到しうることである。

相違点4を検討する。
甲第1号証には、上溝(拡溝部6)の両規制壁が、ナットの回動を阻止して挟持される幅間隔であることは、明確には記載されていないが、甲第1号証記載の考案において、ボルト2の頭部2”のみが露出しているに過ぎない状態で軸部2’を、上溝(拡溝部6)内のナット5に螺合させるためには、上溝内のナット5の回動を阻止することは、技術常識である。
そして、甲第1号証には、ナット5の回動を阻止する特別な部材は見当たらないことから、上溝(拡溝部6)の両規制壁は、ナットの回動を阻止して挟持する幅間隔とされていると認められ、相違点4に係る構成は、記載されているに等しいといえる。

請求人が、甲第1号証には、拡溝部6に対して「ナット5を嵌入しておき」との記載があり、拡溝部6がナットを嵌め込むような遊びの小さいサイズであることが示唆されている旨主張した(審判請求書7頁23?25行)のに対し、被請求人は、甲第1号証記載の「嵌入」について、必ずしもナットの挿通が回動を阻止するような間隔を有する拡溝部であるとは限らない旨(答弁書6頁6?9行)反論するが、前述検討のとおり、ナットの挿通が回動を阻止するような間隔を有する拡溝部は、甲第1号証に記載されているに等しい技術事項である。
仮にそうでないとしても、両規制壁をナットの回動を阻止して挟持される幅間隔とすることは当業者がきわめて容易になしうることである。

本件考案1の、作用効果について検討すると、コンクリートに混入した小径の骨材とブロック両端に設けた凹部を握持して運搬配設するのでブロックは切損したり、亀裂を生じたりすることが極めて少ない(段落【0020】)との効果は、ブロックをコンクリートで成形した甲第1号証記載の考案、及びブロック両端に設けた凹部を設ける甲第2号証記載の考案から予測することができるものである。
また、下溝が挿入されたボルトを起立状態を保持することができ、強力なボルト保持力を有する(段落【0021】)、ボルトは自在にねじ込まれて金具は損傷しない(段落【0022】)、上溝の両係合壁は挿通されたナットの抜け出し力を確実に係止する(段落【0023】)との作用効果は、甲第1号証記載の考案も有しているものであって、本件考案1の作用効果は、全体として甲第1号証及び甲第2号証記載の考案並びに周知技術から、当業者がきわめて容易に予測することができるものである。

以上のとおりであるから、本件考案1は、甲第1号証及び甲第2号証記載の考案並びに周知技術に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(5-2)本件考案3について
本件請求項3に係る考案(以下、「本件考案3」という。)と、甲第1号証記載の考案とを対比すると、上記(5-1)に示す一致点及び相違点の他に次の相違点を有する。
(相違点5)
本件考案3が「前記底壁両端近傍に設けた開口とアンカー釘孔にはアンカー釘を打込んでブロックを地盤に固定する」のに対し、甲第1号証記載の考案はこのような構成を有しない点。

上記相違点5を検討すると、甲第3号証には、自動販売機に設けられた固定金具5のボルト穴5bと、コンクリートからなる設置台3に形成されるアンカボルト穴3bとに、アンカボルト6が挿入され、アンカボルト先端が大地4へ打ち込まれることが記載されている。
ここで、甲第3号証記載のアンカボルト6は、固定金具5を介して自動販売機を固定するためのものである。
一方、甲第1号証記載の考案は、コンクリートブロックに埋設された金具に装着したナットに機器取り付け用のボルトを挿入して固定するものであるから、甲第3号証記載のアンカボルトの固定技術を適用する余地はない。
さらに、甲第3号証に記載の設置台3は、地面にコンクリ-トを打ちこんで形成するものであって(記載事項(3a)(3c)参照)、アンカー部材による固定を必要とするものではなく、甲第3号証には、設置台のみを地面に固定するためのアンカー部材を設けることは何ら示されていない。
したがって、本件考案3は、甲第1号証ないし甲第3号証記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。

(5-3)本件考案4について
本件請求項4に係る考案(以下、「本件考案4」という。)と、甲第1号証記載の考案とを対比すると、本件考案4の「ブロックの上溝内に挿入配置した六角ナットに螺合して下溝内まで挿入したボルト」は、甲第1号証記載の考案が有している構成であるから、両者は、上記(5-1)に示す相違点1ないし4の外に次の相違点を有する。
(相違点6)
本件考案4が「ボルトの頭部は1個乃至複数個の透孔を有すアイボルトである」のに対し、甲第1号証記載の考案はこのような構成を有しない点。

相違点1ないし4については、上記(5-2)で検討したとおりである。
次に、上記相違点6について検討する。
甲第4号証には、縦断面がほぼ台形状で所望の長さの支持台の上部に案内溝を設け、該案内溝には配管等の固定手段4を案内するようにした空調機等の支持台が記載され、固定手段は、その下部に雄ねじ部37を有するとともにその上端に配管材保持部38を有する棒部材39と、前記雄ねじ部37と螺合する雌ねじ部を有して前記案内レール27,27間に遊嵌する下側押圧部材40と、前記棒部材39に挿通されて該棒部材39に設けた段部41によって上方への移動を規制された上側押圧部材42とを備え、配管材保持部38の下部には、2個のボルト状部材が取り付けられることが記載されている。
一方、甲第1号証記載の考案は、クーラー、エアーコンディショナー等の機器を取り付けるものであるから、甲第1号証記載の考案においても、ボルトの頭部に配管等の支持部材を取付けようとすることは甲第4号証記載の考案からきわめて容易に想到することであり、その際、ボルトの頭部に支持部材を取付けるために、ボルトとして、頭部に支持部材取付け用の孔を有するアイボルトを用いることは当業者がきわめて容易になしうることである。
また、本件考案4の作用効果は全体として、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証記載の考案及び周知技術からきわめて容易に予測できるものである。
したがって、本件考案4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証記載の考案及び周知技術に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本件実用新案登録の本件考案1及び本件考案4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された考案及び周知技術に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録の本件考案1及び本件考案4についての実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
他方、本件実用新案登録の本件考案3は、審判請求人の提出した証拠に記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないから、本件考案3についての実用新案登録は、無効とすることができない。
審判に関する費用については、実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項においてさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、これを3分し、その1を請求人が負担し、残部を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-04-18 
結審通知日 2008-04-23 
審決日 2008-05-08 
出願番号 実願2003-2538(U2003-2538) 
審決分類 U 1 124・ 121- ZC (E21D)
最終処分 一部成立    
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 五十幡 直子
伊波 猛
登録日 2003-08-27 
登録番号 実用新案登録第3097647号(U3097647) 
考案の名称 ボルトナットを装着する金具を埋設したコンクリートブロック  
代理人 大岡 啓造  
代理人 佐藤 勝  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ