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審決分類 審判    A47J
審判    A47J
審判    A47J
審判    A47J
管理番号 1249737
審判番号 無効2011-400001  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-08 
確定日 2011-12-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第3161431号実用新案「多機能ザル」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.手続の経緯
1.本件実用新案登録第3161431号の請求項1ないし5に係る考案(以下「本件考案1ないし5」という)についての出願は、平成20年6月2日に出願した特願2008-169547号の一部を平成22年5月17日に新たに特許出願した特願2010-113726号を、平成22年5月19日(優先権主張 平成19年6月20日)に実願2010-3300号として実用新案登録出願に変更したものであって、平成22年7月7日に設定登録がなされたものである。

2.平成23年2月8日付けで、アーネスト株式会社(以下「請求人」という)から、無効審判の請求がなされ、平成23年5月8日付けで生駒信子(以下「被請求人」という)から上申書が提出された。

3.平成23年2月8日、平成23年6月30日に、請求人から上申書が提出され、平成23年8月12日付けで請求人から口頭審理陳述要領書が、平成23年9月1日付けで被請求人から口頭審理陳述要領書が、それぞれ提出された。

4.平成23年9月8日に第1回口頭審理を行った。

5.平成23年9月15日(差出日:平成23年9月16日)に、被請求人から上申書が提出された。

6.平成23年9月21日に、請求人から上申書が提出された。

第2.本件考案

本件考案は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコンからなる一体成型体であり、且つ、
表面と裏面の防滑性が異なることを特徴とする多機能ザル。」(以下「本件考案1」という)

「【請求項2】
前記表面がシボ加工され、前記裏面が鏡面加工されることで表面と裏面に異なる防滑性が与えられていることを特徴とする請求項1に記載の多機能ザル。」(以下「本件考案2」という)

「【請求項3】
更に、前記側面部の厚さが0.7mm以上1.2mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多機能ザル。」(以下「本件考案3」という)

「【請求項4】
前記側面部の上部開口部が当該側面部よりも肉厚であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載の多機能ザル。」(以下「本件考案4」という)

「【請求項5】
更に、前記側面部の縦方向に縦リブを設けたことを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の多機能ザル。」(以下「本件考案5」という)

第3.請求人の主張
1.主張
請求人は、審判請求書において、「実用新案登録第3161431号の請求項1乃至5に記載された考案についての実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、審判請求書、口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書、及び上申書を総合すると、請求人が主張する無効理由は、概略次のとおりである。

(1)無効理由1(実用新案法第3条第2項違反)
本件考案1ないし5は、甲第1号証ないし甲第6号証及び甲第8号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

(2)無効理由2(実用新案法第5条違反)
a)本件実用新案の明細書は当業者が実施できる程度に明確に記載されたものではなく、実用新案法第5条第4項の規定に違反するものであるから、実用新案登録を受けることができないものであるとして、具体的に以下のような点を挙げている。
ア.「ひっくり返す」が通常と異なる意味で使用されているので意味が不明確。
イ.「硬度」の測定法の表示がないので、どの程度の硬度であるのか不明確。
ウ.「防滑性」の意味につき、明細書の記載において定義されておらず不明確。

b)本件実用新案登録請求の範囲の記載において、実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細な説明に記載したものではないから、本件実用新案登録は実用新案法第5条第6項第1号の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとして、具体的に以下のような点を挙げている。
ア.請求項1の記載における「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」ことにつき、シリコンの肉厚が請求項1において限定されていないので、例えばシリコンの肉厚が100mmのものも含むことになるので必ずしもそうはならない。

(3)無効理由3(実用新案法第7条7項違反)
本件考案1ないし5は、本件実用新案登録と同日に出願された特許出願(甲第7号証)に基づく特許の請求項1と実質的に同一であるから、本件実用新案登録は実用新案法第7条第7項の規定により実用新案登録を受けることができない。

2.証拠方法
請求人は、証拠方法として、審判請求書とともに以下のものを提出した。
(1)甲第1号証:特開2007-50252号公報
(2)甲第2号証:実願昭47-141947号(実開昭49-97150号)のマイクロフィルム
(3)甲第3号証:米国特許第6197359号明細書
(4)甲第4号証:英国特許出願公開第2319951号明細書
(5)甲第5号証:国際公開第2006/054168号
(6)甲第6号証:特開平11-236048号公報
(7)甲第7号証:特許第4625852号公報
(8)甲第8号証:実願昭52-84047号(実開昭54-13448号)のマイクロフィルム

さらに、請求人は、口頭審理陳述要領書とともに甲第5号証に記載されているザルの現物の写真として、添付図1を提出した。
しかしながら、第1回口頭審理において、「添付図1及び、それに関する主張 (請求人口頭審理陳述要領書第2頁第21行目?第3頁第11行目「(3)8頁D.(a)(キ)について」及び第5頁第5行目?第7行目「(9)15頁D.(d)について」)は,審判請求書の要旨を変更するものであり、実用新案法第38条の2第2項に規定する要件に該当しないので、これを許可しない」としたので、上記の添付図1、及びそれに関連する主張は、証拠として採用できない。

第4.被請求人の主張

1.主張
被請求人は、平成23年5月8日の上申書において「審判請求人の請求を棄却する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、上申書、口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書の内容を総合すると、被請求人の主張は、概略次のとおりである。

(1)請求人主張の無効理由1について
本件考案1ないし5は、甲第1号証ないし甲第6号証及び甲第8号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえず、実用新案法第3条第2項の規定に該当しない。

(2)請求人主張の無効理由2
a)について
ア.「ひっくり返す」の意味については、本件明細書段落【0030】?【0031】、【0036】の記載、図5,7の記載を参酌すれば、当業者であれば十分理解できる。

イ.「硬度」の測定方法を示さないときには、「デュロメータ」により計測したものと一般的には理解されるから、シリコンの硬度の測定方法の記載がないこと自体をもって記載不備であるとはいえない。

ウ.「防滑性」の意味につき、明細書に明確に記載されている。シボ加工にすれば鏡面加工のものより摩擦力は小さくなることを意味する。よって、記載は明確である。

b)について
「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」ことを、境界値が記載されていないことのみをもって、「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」ことができないものまで含むと解釈するのは無理がある。審判請求人のいう100mmの肉厚を有するものを含まないことは、常識から考えて明らかである。

(3)請求人主張の無効理由3について
本件考案1ないし5は、本件実用新案登録と同日に出願された特許出願(甲第7号証)に基づく特許の請求項1と実質的に同一ではなく、両者は、本件請求項1に係る考案において表裏面で「防滑性」が異なる点を有することにおいて少なくとも相違している。

2.証拠方法
被請求人は、平成23年9月15日付け(差出日:平成23年9月16日)の上申書とともに、「硬度」の表記について釈明するための資料として以下のものを提出した。
(1)乙第1号証:「株式会社パッキンランド」のホームページ
(http://www.packing.co.jp/SIRYOU/gomukoudo1.htm)を印刷したもの。

第5.当審の判断

1.無効理由1
(1)甲各号証に記載の考案
a)甲第1号証
甲第1号証の特開2007-50252号公報には、「シラスティック製水切りボール」に関して以下の記載がある。

ア.「【請求項1】
取っ手部分および本体部分を有する水切りボールであって、この本体部分の材料がシラスティックであることを特徴とする水切りボール。」

イ.「【0010】
この場合、前記シラスティック材料は、シリコンと架橋剤を混ぜ合わせるかもしくは触媒と反応させることによって、またはそれらの両方によって形成されるものであり、前記シラスティック材料は、アルケニルとシリコンとを結合することができるポリジオルガノシロキサンである。」

ウ.「【0033】
以上のように構成した本発明に係る水切りボール10では、その本体部分11をシラスティック材料から形成したから、水または他のいかなる溶媒にも溶解しないし、人体に無毒、かつ無味であって、その化学的特性において安定しており、腐食および高温酸素(hot oxygen)に対する耐性が高くて変形しにくく、弾性がある。」

以上のア.イ.ウ.の記載、及び図1ないし6の記載からみて、甲第1号証には、「取っ手部分及び本体部分を有し、本体部分の材料が、化学的特性において安定しており、腐食および高温酸素に対する耐性が高くて変形しにくく、弾性があるシラスティック製水切りボール」という考案(以下「甲第1号証の考案」という)が記載されている。

b)甲第2号証
甲第2号証の実願昭47-141947号(実開昭49-97150号)のマイクロフィルムには、「合成樹脂製ざる」に関して以下の記載がある。

エ.「合成樹脂製よりなる主ざる本体(1)の開口周壁(2)に着脱自在となるように副ざる本体(5)の外周係合突片(7)を嵌合して成る合成樹脂製ざる。」(明細書第1ページ第4?6行)

オ.「この考案は稍軟質性の合成樹脂製より成型した主ざると副ざるとの二個のざる体をセツトにしてなる合成樹脂製ざるに関するもので、その目的とする所は、主ざると副ざるとが各々別個にざるとして使用できると共に一方のざるが着脱自在の被蓋として兼用できるようにしたものである。」(明細書第1ページ第8?13行)

カ.第1図には、主ざる、副ざるの側面部の縦方向に骨組9,9′が設けられ、さらに、第4図には、主ざる、副ざるの開口部が肉厚になっている点が図示されている。

以上のエ.オ.カ.の記載、及び第1図ないし第4図の記載からみて、甲第2号証には「稍軟質性の合成樹脂製より成型した主ざると副ざるとの二個のざる体をセットにしてなるものにおいて、主ざると副ざるとが各々別個にざるとして使用できると共に一方のざるが着脱自在の被蓋として兼用できるようにし、主ざる、副ざるの側面部の縦方向に骨組が設けられ、さらに、各々の開口部が肉厚になっている合成樹脂製ざる」という考案(以下「甲第2号証の考案」という)が記載されている。

c)甲第3号証
甲第3号証の米国特許第6197359号明細書には、「製菓用の成型容器及び焼成型にシリコンを用いる方法」に関して以下の記載がある。

キ.”thanks to the characteristic properties of silicone, the operation of removing a product from the mould is very simple owing to the elasticity that the silicone confers upon the mould or baking receptacle. Users can thus effectively handle said mould or baking receptacle in order to remove the food product from the mould, in the secure knowledge that the mould will recover its initial shape. ”(明細書第2欄第27?33行)
「シリコンの有する性質のおかげで、製品を型より取り除くことが、シリコンによる型や焼成容器の柔軟性により、きわめて簡単なものとなる。使用者は、このように能率的に、型が元の形に戻ることを確信しつつ、型から食品を除くために前記の型や焼成容器を扱うことができる。」(当審仮訳)

ク.”A method for baking a food product comprising the steps of:
providing a flexible and foldable mold formed substantially in its entirety of a silicone elastomer material obtained by cross-linking with platinum;
depositing a food product to be baked into the mold;
placing the mold containing the food product to be baked in an oven at a baking temperature for a predetermined time until the food product is baked;
removing the mold containing the baked food product from the oven; and
removing the baked food product from the mold.”(明細書第4欄第33?44行)
「食品を焼成する方法であって、プラチナで架橋したシリコンエラストマから実質全体がなる、柔軟で折りたためる型を供給し、食品を焼成するべく型に入れ、食品が焼成されるまで、予め決まった温度で決められた時間オーブンに置き、食品が入った型をオーブンから出して、食品を型から取り除く方法。」(当審仮訳)

以上のキ.ク.の記載からみて、甲第3号証には「プラチナで架橋したシリコンエラストマから実質全体がなる柔軟で折りたためるものであって、焼成した食品を容器より取り除くことが、シリコンによる型の柔軟性により、きわめて簡単なものとなる食品を焼成するための焼成容器」という考案(以下「甲第3号証の考案」という)が記載されている。

d)甲第4号証
甲第4号証の英国特許出願公開第2319951号明細書には、「混合ボール」に関して以下の記載がある。

ケ.”A container 1, within which materials are mixable, of such construction and form that the container is both flexible and capable of being turned inside-out to facilitate discharge of a mixed content 9, and to provide in the turned inside-out condition a container within which materials are mixable. The container may be formed of rubber or plastics material having smooth surfaces, and comprising a flat base 4 and side wall 5.”(カバーページの要約欄)
「内部で材料を混合することができる容器1であって、その構造と形状において容器は、柔軟性があり、混合した後の内容物9を排出するのを容易とするために内側を外側に反転することができ、反転させた状態において、材料を混合することができるものである。その容器は、平滑な表面を備えたゴムかプラスチック材料からなり、平坦な底部4及び側壁5からなるものである。」(当審仮訳)

コ.”This process is schematically illustrated in Figures 6 and 7. Thus as may be seen in Figure 6. The turning of the container 1 inside out is effected by exerting pressure on the base region 4 in the direction of the arrows 10 thereby to push the bottom region 4 upwardly relative to the top surface 6. This pressure is continued until the container has been turned inside-out so that the initially outside surface 2 becomes the inside surface of the container. The inside-out condition of the container 1 is schematically represented by Figure 7.”(公報第5ページ第2?11行)
「この手順につき、Fig.6とFig.7に図示されている。Fig.6にみられるように、容器1を反転させることは、底の部分4に矢印10の方向に圧力を及ぼして、底の部分4を頂面6よりも上となるように押すことにより行われる。この圧力は、容器が反転して当初外面2であった面が内面となるまで与え続けられる。この、容器1が反転した状態が、Fig.7に図示されている。」(当審仮訳)

サ.”For many materials to be mixed the container can be formed from silicones, neoprenes, polypropolenes, polyurathenes, etc., can be used provided that the selected material satisfies the additional requirement of having sufficient flexibility to enable a suitable container made therefrom to be capable of being for being turned inside-out whilst being able to maintain the required container shape when containing materials to be mixed.”(公報第7ページ第15?23行)
「混合されるべき多くの材料として、容器は、シリコン、ネオプレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、その他の選択された材料から、反転することが可能な一方、混合する材料を受けたときに形を保つことができる十分な柔軟性に関するさらなる要求を満足させる限りにおいて、形成し得る。」(当審仮訳)

以上のケ.コ.サ.の記載、Fig.6、Fig.7の記載からみて、甲第4号証には「内部で材料を混合するためのシリコンなどからなる容器1であって、容器1は内側を外側に反転することができ、反転させた状態において材料を混合することができる容器1」という考案(以下「甲第4号証の考案」という)が記載されている。

e)甲第5号証
甲第5号証の国際公開第2006/054168号には、「柔らかいザル」に関して以下の記載がある。

シ.”The main feature of this patent is that the colander is wholly made of a flexible material, a flexible material being intended herein as a material that can recover important strains (50% minimum) with a hardness of 20 to 90 Shore A.
The materials used are preferably elastomers and more preferably silicone elastomers.”(明細書第2ページ第14?20行)
「この発明の主な特徴は、ザルの全てが柔らかい材料からなることであって、柔らかい材料とは、ショアAで20?90の硬さで重大な変形(最低50%)から回復できるものを意図している。この材料としては、エラストマーが好ましく、シリコンエラストマーがさらに好ましい。」(当審仮訳)

ス.”The colander turns to a considerably smaller size when it is stored and not used.
Its material further allows to fabricate low-cost colanders in a wide range of colors.
The colander made of flexible material is further easily washable.”(明細書第3ページ第26?31行)
「このザルは、収納するとき、あるいは使わないときにはかなり小さな大きさとなる。その材料により、広い範囲の色調を有する低価格のものを提供することができる。柔らかい材料からなるザルは、さらに、洗うのも簡単である。」(当審仮訳)

以上のシ.ス.の記載、Fig.1、Fig.2の記載からみて、甲第5号証には「ザルの全体が柔らかい材料であるシリコンエラストマーからなり、収納するとき、あるいは使わないときにはかなり小さな大きさとなる柔らかいザル」という考案(以下「甲第5号証の考案」という)が記載されている。

f)甲第6号証
甲第6号証の特開平11-236048号公報には、「滑り止め加工を付したプラスチック容器」に関して以下の記載がある。

セ.「【請求項1】 塩素化ポリエチレンを含有するアクリルウレタン樹脂の硬化塗膜を、容器の外側表面の少なくとも1部に具備することを特徴とする滑り止め加工を付したプラスチック容器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として日用品を充填するのに使用するプラスチック容器に関する。」

ソ.「【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、上記した様な弊害を生ずることのない、つまり滑り止め加工を付してないものに比較して意匠等の外見が特別に変わることがなく、しかも効果的な防滑性を有するプラスチック容器を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題は、特定のビヒクル樹脂を含有する被覆用組成物の硬化塗膜を形成してなる本発明のプラスチック容器によって解決することができる。すなわち本発明は、塩素化ポリエチレンを含有するアクリルウレタン樹脂の硬化塗膜を、容器の外側表面の少なくとも1部に具備してなる滑り止め加工を付したプラスチック容器からなる。
【0009】
【実施の態様】上記の構成による本発明の滑り止め加工を付したプラスチック容器は、プラスチック容器の外側表面の少なくとも1部に、塩素化ポリエチレンを含有するアクリルウレタン樹脂の硬化塗膜からなる滑り止め塗膜を具備してなるものであり、プラスチック容器の外側表面の全面にこの滑り止め塗膜を有していても、或いは容器底部、充填物を吐出させるときの押し下げ部、又はこれらのうちの1部にこの滑り止め塗膜を有していてもよい。」

以上のセ.ソ.の記載からみて、甲第6号証には「プラスチック容器の外側表面の少なくとも一部に、塩素化ポリエチレンを含有するアクリルウレタン樹脂の硬化塗膜からなる滑り止め塗膜を具備したことにより防滑性を有する、主として日用品を充填するプラスチック容器」という考案(以下「甲第6号証の考案」という)が記載されている。

g)甲第8号証
甲第8号証の実願昭52-84047号(実開昭54-13448号)のマイクロフィルムには、「ざる」に関して以下の記載がある。

タ.「多孔板で形成したざる本体の底部平坦面に凹凸部を形成したことを特徴とするざる」(明細書第1ページ第5?6行)

チ.「この考案は多孔板で形成されたざるに関し、その底部平坦面に凹凸部を膨出形成することにより水捌けの良いざるを提供せんとするものである。」(明細書第1ページ第8?11行)

ツ.「本考案は以上の多孔板で形成したざる本体の底部平坦面に凹凸部を形成したので、底部は凹凸の粗面となりて水切り孔に表面張力現象は作用しなくなり、従つて底部に水が溜まるといつたことは全くなく、円滑な水捌けを発揮することが出来るざるを提供し得る。」
(明細書第3ページ第5?10行)

以上のタ.チ.ツ.の記載、及び第1図,第2図の記載からみて、甲第8号証には「多孔板で形成したざる本体の底部平坦面に凹凸部を形成したものであり、円滑な水捌けを発揮することが出来るざる」という考案(以下「甲第8号証の考案」という)

(2)本件考案1について
a)上記甲第1号証ないし甲第5号証の考案は、本件考案1を特定するために必要な事項である「表面と裏面の防滑性が異なる」こと(以下「本件考案1の特徴部分」という)を備えるか不明である。さらに、甲第6号証の考案は、外側表面の少なくとも一部に、塩素化ポリエチレンを含有するアクリルウレタン樹脂の硬化塗膜からなる滑り止め塗膜を具備したことにより防滑性を有するプラスチック容器に関するものであり、外側表面と比べて、内側表面の防滑性がどの程度のものであるか不明であるから、本件考案1の特徴部分を備えるか不明である。甲第8号証の考案は、ざるであって、多孔板で形成したざる本体の底部平坦面に凹凸部を形成したものであって、凹凸部は円滑な水捌けを発揮するためものであるが、本件考案1の特徴部分を備えるものかは不明である。
b)甲第1号証の考案と甲第6号証の考案の組み合わせにつき、甲第1号証は、水切りボールであり、一方、甲第6号証は日用品を充填するプラスチック容器である。そして、水切りボールと日用品を充填するプラスチック容器は異なる目的で用いられるものであって、甲第1号証の考案に、甲第6号証の考案を適用すること自体が困難である上、甲第1号証の考案と、甲第6号証の考案は、各々、本件考案の特徴部分を備えるものではないから、仮に甲第1号証の考案に甲第6号証の考案を組み合わせたところで、本件考案1の特徴部分を備えるものとはならない。
c)甲第1号証の考案と甲第2号証の考案の組み合わせにつき、両者を組み合わせたとしても、甲第1号証の考案、甲第2号証の考案の各々が、上記本件考案の特徴部分を備えるものではないから、甲第1号証の考案に甲第2号証の考案を組み合わせたところで、上記本件考案1の特徴部分を備えるものとはならない。
d)甲第3号証の考案、及び甲第2号証の考案の組み合わせにつき、甲第3号証は、食品を焼成するための焼成容器であり、一方、甲第2号証は、合成樹脂製ざるである。そして、食品を焼成するための焼成容器と、合成樹脂製ざるは異なる目的で用いられるものであって、甲第3号証の考案に、甲第2号証の考案を適用すること自体が困難である上、甲第3号証の考案と、甲第2号証の考案は、各々、本件考案の特徴部分を備えるものではないから、仮に甲第1号証の考案に甲第6号証の考案を組み合わせたところで、本件考案1の特徴部分を備えるものとはならない。

以上のとおりであるから、本件考案1は、甲第1号証ないし甲第6号証及び、甲第8号証の考案に基づいて、あるいは、甲第1号証の考案と甲第6号証の考案、甲第1号証の考案と甲第2号証の考案、甲第3号証の考案と甲2号証の考案を組み合わせることにより当業者がきわめて容易に考案することができたとすることはできない。

(3)本件考案2ないし5について
本件考案2ないし5は、いずれも本件考案1あるいは本件考案1を引用する本件考案2ないし4を引用するところ、本件考案1は、上記のとおり当業者がきわめて容易に考案することができたとすることはできないものであるから、本件考案2ないし5も、甲第1号証ないし甲第6号証及び、甲第8号証の考案に基づいて、あるいは、甲第1号証の考案と甲第6号証の考案、甲第1号証の考案と甲第2号証の考案、甲第3号証の考案と甲2号証の考案を組み合わせることにより当業者がきわめて容易に考案することができたとすることはできない。

(4)小括
以上のとおり、本件考案1ないし5は、甲第1号証ないし甲第6号証及び甲第8号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたとすることはできないので、実用新案法第3条第2項の規定に該当しない。

2.無効理由2
a)実用新案法第5条第4項違反
ア.「ひっくり返す」が通常と異なる意味で使用されているので不明確
本件明細書においては、
・段落【0010】「本考案のザルは上記各構成要素が一体成型されたものであり、前記突起部が底下部に位置してザルとして使用できる第一の状態と、ひっくり返すことで前記突起部が底上部に位置してザルとして使用できる第二の状態となる柔軟性のあるものである。」(下線は当審にて付与。以下同様)の記載、
・段落【0030】?【0031】「底部3の底面には、図3に示すように複数の突起部4が設けられている。図においては12個設けられているがこれに限定されるものではなく、前記手による操作で変形しつつ、底部3を均等に近い状態で支えるようになっている。底部3には、側面部2と同様に複数の水切り孔6bが設けられている。少なくとも水切り孔6bの一部は任意の突起部4の略中間位置となるように設けることが好ましい。上記各構成よりなる本考案のザル本体は、突起部4が底部3の下部に位置してザルとして使用できる第一の状態と、ひっくり返すことで前記突起部が底部3の上部に位置してザルとして使用できる第二の状態となる柔軟性のあるものである。本考案は以上の構成よりなる。」及び、
・段落【0036】「これら各接触操作において、ザル本体1を図7に示すように突起部4が内側にくるようにひっくり返した第二の状態で使用することも可能である。この際、複数の突起部4が突出した状態で収納した食材に触れる。ここで突起部4はその形状およぶ肉厚により側面部2及び底部3よりも硬質に局所的に食材に触れるため、より効率的な作用効果を得られる。」
の記載があり、加えて、上記第一の状態の断面図が図5、上記第二の状態の断面図が図7に図示されている。
そして、上記の段落【0010】、【0030】?【0031】、【0036】の記載と、図5、図7の記載を総合すると、「ひっくり返す」とは、突起部が底下部に位置してザルとして使用できる第一の状態から、突起部が底上部に位置してザルとして使用できる第二の状態とする、換言すれば、ザルの内側部分を外側に反転させるという意味であり、そのための柔軟性をザルが備えているということであって、明細書及び図面の記載全体からみても他に解釈する余地がないから、本件明細書に記載の「ひっくり返す」の意味は、本件明細書において明確である。

イ.「硬度」の測定方法の表示がないので不明確
硬度の測定方法が表示されていないことにつき、被請求人は、平成23年9月15日(差出日:平成23年9月16日)の上申書とともに乙第1号証を提出し、硬度の測定方法の表記がなくとも、当業者であれば本考案の実施が可能と主張した。
乙第1号証(株式会社パッキンランドのホームページを印刷したもの)には、「ゴムの硬度で従来から国内では、Hs(JISスプリング式 HsのHはHardness、sはspring)が多く使用され、「ゴムの硬度は?」との問いに「Hs70」とか「Hs50」などと表現していました。さらには、「70度」や、ただ「70」というだけでHsの単位であると理解されていました。しかしながら最近では、国際的な取引も多く、ISO(国際標準化機構)やデュロメータ(ショア)などに準拠したA型が使用されることが多くなりました。」(第1ページ、本文第6?9行)と記載されており、従来、硬度の測定方法の表記がなくても、Hsの単位として理解されていたことが窺える。そして、乙1号証第2ページの「スプリング式、デュロメーター、ASKER,ゴム硬度比較表」において、スプリング式A型(JIS K 6301 A)と、デュロメータA(ショアA)により測定された値を比較すると、測定法による数値の違いは、顕著なものではない。
一方、請求人は、平成23年9月21日の上申書において、「乙1号証には、その公表年月日を証明する記載がなく、本件実用新案登録の出願日以前から公表されていたことを示すものではない。すなわち、乙1号証は証拠能力を欠くものであり、従って、被請求人の主張も認められない。」と主張する。
しかしながら、乙1号証における、旧JIS K 6301は、(1998年廃止)(乙1号証第1ページの表、左欄(規格)参照)とあり、JIS K 6253とともに、規格自体は、本件実用新案登録の出願日(優先日)以前に存在していたものであるから、乙1号証そのものの公知日が不明であるとしても、スプリング式A型(JIS K 6301 A)と、デュロメータA(ショアA)により測定された値との比較、及び「「ゴムの硬度は?」との問いに「Hs70」とか「Hs50」などと表現していました。さらには、「70度」や、ただ「70」というだけでHsの単位であると理解されていました。」なる事実は、規格とともに本件実用新案登録の出願日(優先日)以前から存在していたものと推認でき、請求人の主張のように、乙1号証は証拠能力を欠くものであるとまではいえない。
仮に、測定方法の表示がないため、硬度が実際にどの程度のものであるのか不明であるとしても、本件明細書の記載には、段落【0025】「・・厚さ及び硬度は外部からの加圧、好ましくは手の操作により柔軟に歪むものである。・・」とあり、測定方法はともかくとして、外部からの加圧、好ましくは手の操作により柔軟に歪む程度の硬さについては当業者であれば技術常識をもって十分想定することが可能であるから、単に硬度に関して測定方法の表示がないことをもって、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていないとすることはできない。

ウ.「防滑性」の意味につき、明細書の記載において定義されておらず不明確
「防滑性」の意味については、請求人の主張(審判請求書第20ページ第3行?第21頁第2行)のとおり、本件明細書において、「防滑性」については特段定義されていないが、「滑ることを防止する性質」、すなわち「滑りにくさ」を意味するものと解釈できるから、「防滑性」の意味するところは、本件明細書において明確である。
なお、請求人は、「シボ加工」とは、表面に凹凸を付ける加工であるから、シボ加工を行えば、その表面の摩擦係数は高くなり、従って、摩擦力は大きくなる。すなわち、滑りにくくなる訳であるから、通常の意味における「防滑性」も大きくなるはずである。しかるに、明細書の段落0037の記載によれば、「防滑性」は「減少」するものとされている。これは、「防滑性」の一般的な解釈とは全く逆である。(審判請求書第20ページ第15?19行)と主張し、「防滑性」の意味が不明確であることの根拠としている。 しかしながら、被請求人が平成23年5月8日の上申書(第12ページ第21行?第13ページ第2行)において、シボ加工が微少な凹凸が形成された面を形成することであり、当該面同士の接触面積が減少し、摩擦力が小さくなると主張しているとおり、シボ加工が微少な凹凸面を形成することであれば、鏡面仕上げのものよりも摩擦が小さくなるものであって、上記の「防滑性」が「滑りにくさ」を意味するということと格別矛盾はない。

よって、本件明細書は当業者が実施できる程度に明確に記載されたものではないから、本件実用新案登録は実用新案法第5条第4項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとはいえない。

b)実用新案法第6項第1号違反
本願考案の請求項1の記載「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」ことに対応する部分として、本件明細書には、
「【0010】
本考案は、硬度約60?約80の耐熱性及び柔軟性を有するシリコンにより一体成型されたザルである。
前記側面の上部開口部には側面部よりも肉厚となる開口リブとなっている。該開口リブは開口状態に保形する役割を有しつつ、手で簡単に湾曲させることができる柔軟性のあるものである。
本考案のザルは上記各構成要素が一体成型されたものであり、前記突起部が底下部に位置してザルとして使用できる第一の状態と、ひっくり返すことで前記突起部が底上部に位置してザルとして使用できる第二の状態となる柔軟性のあるものである。
本考案の他機能ザルは、放置した状態ではザル形状を維持し、外部からの操作による折りたたみ、食材の水切り、泥落とし、塩もみ、絞り等ができるように歪み変形するものであることを特徴とする多機能ザル。」等の記載があるから、実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
なお、上記「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」の意味自体も、そのような性質をもったものという意味と理解すれば明確であり、特段、シリコンの肉厚まで限定しないと不明確になるとまではいえない。

よって、本件実用新案登録請求の範囲の記載において、実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細な説明に記載したものではないから、本件実用新案登録は実用新案法第5条第6項第1号の規定により実用新案登録を受けることができないとはいえない。

3.無効理由3(実用新案法第7条7項違反)
(1)本件考案1について
a)本件考案1は、「第2.本件考案」における次のとおりのものである。
「【請求項1】
円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコンからなる一体成型体であり、且つ、
表面と裏面の防滑性が異なることを特徴とする多機能ザル。」

b)特許発明
これに対して、本件実用新案登録出願の出願(優先日:平成19年6月20日)と同日(優先日:平成19年6月20日)にされた特許出願(甲第7号証、特願2008-169547号、平成22年11月12日設定登録、特許第4625852号)の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「特許発明」という)である。

「【請求項1】
円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
外部からの操作により全体が歪み変形し得る薄板状のシリコンからなり、ザルとして使用できる第一の状態及びひっくり返した第二の状態とし得る柔軟性を備えた一体成型体であることを特徴とする多機能ザル。」

c)対比・判断
本件考案1と特許発明とを対比すると、両者は、「円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコンからなる一体成型体であることを特徴とする多機能ザル」で一致し、本件考案1においては、「表面と裏面の防滑性が異なる」のに対して、特許発明においては、その点が特定されていない点で相違する。そして、多機能ザルにおいて、「表面と裏面の防滑性が異なる」ことは、周知慣用技術ともいえず、その相違点につき、実質的なものではないとはいえない。
他方、特許発明と、本件考案1とを対比した場合において、特許発明においては、「ザルとして使用できる第一の状態及びひっくり返した第二の状態とし得る柔軟性を備えた」のに対して、本件考案1においては、その点が特定されていない点で少なくとも相違する。そして、「ザルとして使用できる第一の状態及びひっくり返した第二の状態とし得る柔軟性を備えた」ことは、周知慣用技術ともいえず、その相違点につき、実質的なものではないとはいえない。

よって、本件考案1と、特許発明とは同一とはいえないので、実用新案法第7条第7項に違反してなされたものとはいえない。

(2)本件考案2ないし5について
本件考案2ないし5は、いずれも本件考案1あるいは本件考案1を引用する本件考案2ないし4を引用するところ、本件考案1は、上記のとおり特許発明と同一とはいえないので、実用新案法第7条第7項に違反してなされたものとはいえないものであるから、本件考案2ないし5も実用新案法第7条第7項に違反してなされたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件考案1ないし5は、特許発明と同一といえないので、実用新案法第7条第7項に違反してなされたものとはいえない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法においては、本件考案1ないし5の実用新案登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項で更に準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-10-07 
結審通知日 2011-10-12 
審決日 2011-10-25 
出願番号 実願2010-3300(U2010-3300) 
審決分類 U 1 114・ 537- Y (A47J)
U 1 114・ 5- Y (A47J)
U 1 114・ 121- Y (A47J)
U 1 114・ 536- Y (A47J)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 松下 聡
青木 良憲
登録日 2010-07-07 
登録番号 実用新案登録第3161431号(U3161431) 
考案の名称 多機能ザル  
代理人 天野 広  
代理人 松下 恵三  

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