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審決分類 審判    C02F
管理番号 1276338
審判番号 無効2012-400006  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-11-22 
確定日 2013-06-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第3123557号実用新案「接触濾材」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3123557号の請求項1及び2に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯

1.本件実用新案登録第3123557号の請求項1乃至5に係る考案についての実用新案登録出願は、平成18年5月9日になされ、平成18年6月28日にその考案について実用新案権の設定登録がなされた。

2.平成24年11月22日付で請求人矢田広幸より、本件実用新案登録第3123557号の請求項1及び2に係る考案についての実用新案登録を無効とするとの審決を求める無効審判の請求(無効2012-400006号)がなされた。

3.平成25年1月10日付けで被請求人新日鉄住金マテリアルズ株式会社から上申書が提出された。


第2 本件考案

本件実用新案登録の請求項1及び2に係る考案(以下「本件考案1」及び「本件考案2」という。)は、実用新案登録請求の範囲、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
A:所定の長さ(L)を有した複数の炭素繊維ストランド濾材を、各前記炭素繊維ストランド濾材の軸線方向が互いに平行となるように並置して一方向に面状に配列し、
B:前記面状に配列された複数の前記炭素繊維ストランド濾材の両面をFRP支持筋にて挟持して一体としたことを特徴とする接触濾材。
【請求項2】
C:前記炭素繊維ストランド濾材は、所定の長さ(L)を有した炭素繊維フィラメントを多数本結束した炭素繊維ストランドにて形成されることを特徴とする
請求項1の接触濾材。」(審決注:「A:」?「C:」の分節は、無効審判の請求でなされたものに従って当審が行った。)


第3 請求人の主張の概要

請求人は、本件登録実用新案の請求項1及び2に係る考案は、実用新案登録出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された考案並びに実用新案登録出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された周知技術に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、その実用新案登録は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1乃至4号証を提出した。

証拠方法
甲第1号証:特開2004-188284号公報
甲第2号証:特開2003-225690号公報
甲第3号証:特許第2954509号公報
甲第4号証:特許第3331372号公報


第4 被請求人の主張の概要

被請求人は、請求人の主張する無効理由に対し、平成25年1月10付けで、答弁書を提出しないという内容の上申書を提出したので、平成25年4月12日に当審から被請求人代理人倉橋弁理士へ電話連絡を行い、争う意思のないことを確認した(応対記録参照)。


第5 当審の判断

1.甲第1号証の記載事項
ア 「【請求項1】
炭素質繊維槽と前記炭素質繊維槽の後段に連設した木炭槽とを有する生物膜水浄化装置であって、炭素質繊維槽がその内部に送気管と炭素質繊維を揺動自在に取りつけた生物膜担体とを収納すると共に、木炭槽がその内部に送気管と木炭を充填した木炭カートリッジとを収納してなる生物膜水浄化装置。
【請求項2】
炭素質繊維が、炭素繊維、酸化繊維、又は活性炭素繊維である請求項1に記載の生物膜水浄化装置。
・・・
【請求項5】
炭素質繊維がストランド、紐、編織物、不織布、マット、又はモールヤーンに形成された請求項1に記載の生物膜水浄化装置。」(【特許請求の範囲】

イ 「また、炭素質繊維を結束したり、編んだり、織ったりして種々の形状に形成し、これを生物膜を担持させる担体に用いる接触酸化水浄化装置も報告されている(特許文献3)。
・・・
【特許文献3】
特許第2954509号公報(請求項1)」(段落【0006】?【0008】)
ウ 「前記流量調整槽2の後段(下流側)には炭素質繊維槽6が設けられており、流量調整槽2中の原水3はオーバーフロー部8を通って炭素質繊維槽6内に供給される。10は、炭素質繊維槽6内に設けられた生物膜担体で、枠体12に多数の炭素質繊維14が垂直方向に揺動自在に張設されている。
図2は上記生物膜担体10の拡大図である。この図においては、枠体12に炭素質繊維14が所定間隔で張設されている。炭素質繊維14の両端側はプラスチックチューブ等が被覆されて枠体12に固定されることにより、炭素質繊維14の切断が防止される。枠体12の材質としては、特に制限が無く、プラスチック、強化プラスチック、竹、ステンレススチール等の金属、木材等が挙げられる。
炭素質繊維14としては、通常の炭素繊維、酸化繊維、活性炭素繊維が含まれる。通常の炭素繊維としては、アクリル繊維、ピッチ、メゾフェースピッチを酸化性雰囲気中、加熱炉を用いて酸化して得た酸化繊維、及びフェノール樹脂繊維等を800℃以上の不活性ガス中で炭素化して得られる炭素含有量が85質量%以上の炭素質繊維、及び炭素含有量が90質量%以上のアクリロニトリル系、ピッチ系、メゾフェース系、フェノール系の炭素繊維で、繊維直径が5?10μm、引張り強度が500MPa以上、引張り弾性率が50GPa以上の公知の繊維である。構成本数は1000?1000000本のフィラメント束が好ましい。」(段落【0021】?【0023】)

エ 「図5は、2枚の板状保持体74、76間に比較的短い炭素質繊維78を挟持させて生物膜担体を構成している。
・・・
図7は、短い炭素質繊維86の中央部を接着材や金属リング等の固着部材87を用いて結束してなる生物膜担体を示す。炭素質繊維ストランドの長さは、5?10cmが好ましい。この生物膜担体は、炭素質繊維槽内に固定することなく、炭素質槽水中に浮遊させた状態で使用する。」(段落【0039】?【0041】)

オ 「

」(【図5】)

カ 「

」(【図7】)

2.甲第1号証に記載された考案の認定
記載事項アには、「炭素質繊維を揺動自在に取りつけた生物膜担体」及び「炭素質繊維が、炭素繊維、・・・である」ことが記載されている。
そして、同エには、「図5は、2枚の板状保持体74、76間に比較的短い炭素質繊維78を挟持させて生物膜担体を構成している。」が記載されている。
これら記載事項を本件考案1及び2に則って整理すると、甲第1号証には、次の考案(以下、「甲1考案」という。)が記載されていると認められる。
「比較的短い多数の炭素繊維を2枚の板状保持体間に挟持させて取りつけた生物膜担体。」

3.対比・判断
(1)本件考案1について
ア 対比
本件考案1と甲1考案とを対比する。
甲1考案の「炭素繊維」、「板状保持体」は、それぞれ、本件考案1の「炭素繊維」、「支持筋」に相当する。
そして、甲1考案の「比較的短い多数の」は、本件考案1の「所定の長さを有した複数の」に相当することも明らかである。
さらに、甲1考案の「生物膜担体」は、本件の考案の詳細な説明の段落【0004】で提示された特許文献1(甲第1号証で特許文献3として提示され、甲第3号証でもある)特許第2954509号公報において「【発明の属する技術分野】本発明は、上下水道や河川や湖沼等の水を生物膜を使って浄化する方法(以下、これを接触酸化法という)に使用される生物膜担体である接触濾材に関する。」(段落【0001】)との認識を水の浄化技術の分野において有するものであるので、本件考案1の「接触濾材」ということができるから、甲1考案の「多数の炭素繊維を2枚の板状保持体間に挟持させて取りつけた」ことで、多数の炭素繊維は、面状に配列され、両面の挟持により一体化されることが予想され、併せて図5の炭素質繊維78の態様を加味することにより、本件考案1の「軸線方向が互いに平行となるように並置して一方向に面状に配列し」、「面状に配列された複数の前記炭素繊維濾材の両面を支持筋にて挟持して一体とした」に相当するということができる。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
<一致点>
「a:所定の長さ(L)を有した複数の炭素繊維濾材を軸線方向が互いに平行となるように並置して一方向に面状に配列し、
b:前記面状に配列された複数の前記炭素繊維濾材の両面を支持筋にて挟持して一体としたことを特徴とする接触濾材。」
<相違点1>
本件考案1では、炭素繊維濾材が「ストランド」であるのに対して、甲1考案は、炭素繊維の形態が特定されていない点。
<相違点2>
本件考案1では、支持筋が「FRP」であるのに対して、甲1考案は、板状保持体の材質が特定されていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)<相違点1>について
甲第1号証にも濾材として「炭素繊維ストランド」とすることは、
「【請求項5】
炭素質繊維がストランド、紐、編織物、不織布、マット、又はモールヤーンに形成された請求項1に記載の生物膜水浄化装置。」として明記されている。また、甲第3号証に「【請求項1】 予めサイジング剤が除去されたPAN系の炭素繊維フィラメントによって生物膜担体が形成されるとともに、
前記生物膜担体は、柔軟性及び可撓性に富む極細の多数の前記炭素繊維フィラメントが結束されたり圧縮されたり編まれたり織られたりして、水中に設置した場合には、多数の前記各炭素繊維フィラメントが水中でばらけて露出し、泳動することにより、大きな微生物付着表面積を確保する成形体に形成され、
前記成形体は、前記炭素繊維フィラメントによって形成されたストランド基幹部に対して、複数本の前記炭素繊維フィラメントからなる炭素繊維ストランドを連結一体化することによってほうき状に形成されたほうき型ストランド成形体から構成されたことを特徴とする接触酸化式水浄化装置における接触濾材。」として記載され、甲第4号証に「【請求項1】 炭素繊維を主材料とした人工藻を具える人工藻場において、
前記人工藻として、水底固定具によって水底の所定位置に位置決めするとともに浮体によって水中に立ち上げさせかつ水面下の水中にその浮体を維持する長さにした紐状または3cm未満の巾の帯状の芯材の長手方向に沿う5cmから40cmまでの間隔の複数箇所の片側または両側に弾性率100GPa?400GPaの炭素繊維フィラメントからなり水溶性のサイジング剤が塗布された1本または複数本の炭素繊維ストランドの一端部を固定して水中で前記各箇所の炭素繊維ストランドが多数本の炭素繊維フィラメントに分散して房状に膨らむようにした房状人工藻を具えることを特徴とする、炭素繊維人工藻場。」と記載されるように接触濾材として炭素繊維ストランドは従来周知の事項である。
そして、本件考案1の炭素繊維濾材にストランドが適用できないとする阻害要因も格別見当らないことからすれば、甲1考案において、炭素繊維濾材として、従来周知のストランドと特定することは、当業者がきわめて容易になし得たものであるというべきである。
(イ)<相違点2>について
甲第1号証にも枠体の材質として「強化プラスチック」を用いることは、記載事項ウに明記されている。
そして、「FRP(fiber reinforced plastic)」即ち「繊維強化プラスチック」は、例えば甲第2号証に
「本発明の繊維装着ユニットは金属製、プラスチックス、繊維強化プラスチックスなどの材料で造った立体枠とそれに装着した該炭素繊維のストランドおよび組織体で構成されている。」(段落【0021】)と記載されるように従来周知の事項であることからすれば、甲1考案においての枠体の材料として「FRP」を用いることは、当業者にとってきわめて容易に想到することができたものであるというべきである。
(ウ)本件考案1の作用ないし効果について
本件考案1の作用ないし効果については、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された考案並びに実用新案登録出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された周知技術から当業者が十分予測できる範囲内のものであって、顕著なものとはいえない。
(エ)まとめ
したがって、本件考案1は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された考案並びに実用新案登録出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

(2)本件考案2について
本件考案2は、本件考案1の接触濾材にさらに「C:前記炭素繊維ストランド濾材は、所定の長さ(L)を有した炭素繊維フィラメントを多数本結束した炭素繊維ストランドにて形成されること」を特定事項として付加するものである。

ア 対比
そこで、本件考案2と甲1考案とを対比すると、両者は、上記<一致点>で一致し、前記(1)アで示した<相違点1>及び<相違点2>に加え、以下の<相違点3>で相違する。
<相違点3>
本件考案2は、「前記炭素繊維ストランド濾材は、所定の長さ(L)を有した炭素繊維フィラメントを多数本結束した炭素繊維ストランドにて形成される」のに対し、甲1考案では、炭素繊維の形態が特定されていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)<相違点1>及び<相違点2>について
相違点1及び相違点2についての判断は、上記(1)イ(ア)、(イ)に記載したとおりである。
(イ)<相違点3>について
甲1考案においては、上記(1)イ(ア)記載されているように、炭素繊維濾材を「ストランド」とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得た程度の事項である。
そして、甲第1号証には、2枚の板状保持体間に炭素繊維を挟持して生物膜担体を構成するものではないものの、炭素質槽水中に浮遊させた状態で使用する生物膜担体について「図7は、短い炭素質繊維86の中央部を接着材や金属リング等の固着部材87を用いて結束してなる生物膜担体を示す。炭素質繊維ストランドの長さは、5?10cmが好ましい。」(記載事項エ)と記載されるように、「5?10cmの炭素質繊維ストランド中央部を接着材や金属リング等の固着部材87を用いて結束してなる生物膜担体」即ち「所定の長さ(L)を有した炭素繊維フィラメントを多数本結束した炭素繊維ストランドにて形成された接触濾材」は、当業者であれば、格別の困難なく採用し得る形態にすぎないものである。
従って、当業者であれば結束したストランドの採用も極めて容易というべきである。

(ウ)本件考案2の作用乃至効果について
本件考案2の効果についてみても、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された考案並びに実用新案登録出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された周知技術から当業者が十分予測できる範囲内のものであって、顕著なものとはいえない。

(エ)まとめ
したがって、本件考案2は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された考案並びに実用新案登録出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。


第6 むすび

以上のとおり、本件考案1及び本件考案2は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるので、本件考案1及び本件考案2についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-04-25 
結審通知日 2013-04-30 
審決日 2013-05-13 
出願番号 実願2006-3453(U2006-3453) 
審決分類 U 1 124・ 121- Z (C02F)
最終処分 成立    
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中澤 登
豊永 茂弘
登録日 2006-06-28 
登録番号 実用新案登録第3123557号(U3123557) 
考案の名称 接触濾材  
代理人 倉橋 健太郎  
代理人 倉橋 暎  
代理人 山川 正男  
代理人 宮田 信道  

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