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審決分類 審判 全部申し立て   G10B
審判 全部申し立て   G10B
審判 全部申し立て   G10B
管理番号 1004120
異議申立番号 異議1998-76066  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2000-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-16 
確定日 1999-08-18 
異議申立件数
事件の表示 実用新案登録第2571343号「鍵盤楽器の蓋開閉装置」の実用新案に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 実用新案登録第2571343号の実用新案登録を維持する。
理由 1 本件考案
実用新案登録第2571343号(昭和61年2月13日出願(実願昭61-18280号の分割)、平成10年2月20日設定登録)の考案(以下、「本件考案」という。)は、登録査定時の明細書および図面(以下、「本件明細書」という。)の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものであると認める。
2 申立ての理由の概要
実用新案登録異議申立人株式会社河合楽器製作所(以下、「申立人」という。)は、
(1)本件明細書の記載は、請求項1中の「スライド自在な鍵盤蓋」に関し、その構成が「当業者が容易にその実施をすることができる程度に」考案の詳細な説明の項に記載されていないか、または実用新案登録請求の範囲に「本件考案の構成に欠くことのできない事項のみ」が記載されていないかのいずれかであり、改正前実用新案法(以下、「実用新案法」という。)第5条の規定に違反し、
(2)本件考案は、その出願前に日本国内で公然実施された公知装置(甲第1号証)と同一、またはこれと周知技術とに基づいて、当業者がきわめて容易になし得た考案であるから、実用新案法第3条の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、
本件考案についての登録を取り消すべきと主張している。
3 実用新案法第5条に係る主張について
(1) 申立人の主張は、
▲1▼ 本件明細書には、「スライド自在」の蓋の例は、先行技術として「よろい戸状の蓋」が挙げられており、この場合は、よろい戸すなわち鍵盤蓋の両側端部がガイド溝に沿って、文字通りスライド=摺動すると解される。
▲2▼ しかし、本件実施例における「鍵盤蓋8のスライド」に関しては、「垂下片26aを山板30の前端部上面より高く持ち上げるかもしくは前記前端部上面に載置し、しかる後後方にスライドさせると、…各軸端がガイド溝に沿って後方に移動し、…鍵盤蓋8は…楽器本体の内部に収納される。」(以下、「文節1」という。)、「鍵盤蓋を円滑かつ確実にスライドさせることができ」(以下、「文節2」という。)と記載されるのみである。
▲3▼ 文節1において「スライドさせられる」対象物は、文理解釈上からは鍵盤蓋8ではなくて「垂下片26a」に限られる。また、第1、3図の構造を参酌しても、鍵盤蓋8に取り付けられた補助金具26の垂下片26aが、鍵盤蓋の開閉時に、山板30の前半部上面bを「スライドする」であろうことは理解できるが、この状態のとき鍵盤蓋8自体は山板上面部bにはもちろん、その他のどの部材にもスライドしないことは明らかである。
▲4▼ このように、本件の実施例では、鍵盤蓋8と垂下片26aとは完全に別体のものとして記述されているから、第1、3図で垂下片26aを持ち上げた状態ではもちろん、これを山板30の上面bに摺動させた状態でも、鍵盤蓋8それ自体は、後方への移動中のどの段階においても、山板30の前半部上面にはもちろん、その他の部材にもスライド=摺動することはあり得ない。
▲5▼ このことは、平成9年12月1日付けで補正、追記された「山板とは、…楽器本体の左右の側板の内側に固着される一対の板状部材のことであり、…鍵盤蓋の開閉時にその前端に設けた垂下片を載置してスライドさせるガイドの役を果たす…(段落0009)」との記載を参酌すればより一層明白である。すなわち、ここには「山板は、垂下片26aをスライドさせるガイドの役を果たすものである」旨明記されている。
▲6▼ それ故に、本件明細書の記載は、本件考案の必須要件である「スライド自在な鍵盤蓋」に関して、その構成が「当業者が容易に実施をすることができる程度に」考案の詳細な説明の項に記載されていないか、または実用新案登録請求の範囲に本件考案の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないかのいずれかである。
なお、この点では、文節1と2、および、段落0009の記述とは整合せず、請求項1中の「スライド自在な鍵盤蓋」の意味が不明確である。
ということである。
(2) 申立人の主張の要点は、本件明細書に「スライド自在」の蓋の例として記載されている「よろい戸状の蓋」の構造からみて、「スライド」とは「摺動」と解すべきであり、そのような解釈を基にして文節1の記載をみると、「スライドさせられる」対象物は、文理解釈上からは鍵盤8ではなくて「垂下片26a」に限られ、本件の実施例では、鍵盤蓋8それ自体は、スライド=摺動しておらず、したがって、「スライド自在な鍵盤蓋」の実施例が記載されていないということであると考えられる。
(3) しかしながら、本件明細書全体の記載からみて、本件考案における「スライド」なる用語を、「摺動」、すなわち、2つの部材が接触した状態ですり動かすというような狭い意味に限定して解すべき理由はない。
▲1▼ 本件明細書には、本件考案は、電子オルガン等の鍵盤楽器に適用して好適な蓋開閉装置に関するものである旨記載されており、このような蓋を開閉する手段には、
i 蓋を取り外したり、取り付けたりする。
ii 蓋を1軸を中心に回動させる。
iii 蓋を水平方向に移動させる。
等の構成があることは、本件考案の技術分野に限らず、一般に周知の事項であり、iiiの蓋を水平方向に移動させることにより開閉する動きを「スライド」と称することは、当業者の技術常識である。
したがって、本件考案において、「スライド自在」とは、前後方向にほぼ水平に移動可能であることを表現したものと解するのが、明細書の素直な理解であると考えられる。
ちなみに、本件明細書では、軸34の軸端とガイド溝38、39との関係を「摺動自在」と表現しており、「スライド」と「摺動」は、区別して使用されているから、当業者であれば、本件明細書全体を見て、「スライド」=「摺動」と限定して解することはあり得ないものと考えられる。
▲2▼ また、申立人は、文節1の記載において、「スライドさせられる」対象物は、文理解釈上からは鍵盤蓋8ではなくて「垂下片26a」に限られると主張するが、文節1には、垂下片26aが山板上面部bに接触した状態ですり動く態様だけでなく、垂下片26aを高く持ち上げた状態、すなわち、手で保持した状態で、そのまま後方に「スライド」させる態様も記載されており、後者の場合には、垂下片26aも他の部材に接触した状態ですり動いているわけではない。
申立人主張のように、文節1において「スライドさせられる」対象を垂下片26aに限るとすれば、垂下片26aを高く持ち上げた状態で移動させる場合には、「スライド」させるものが何も無いことになり、「スライド」させるものが無い状態で「スライド」させるというのは、不合理な表現である。これは、「スライド」の意味を「摺動」、すなわち、2つの部材が接触した状態ですり動かすという狭い意味に限定して解したことによる矛盾である。
してみると、文節1において、「スライドさせられる」対象は、「摺動」する部材だけでなく、水平移動している鍵盤蓋8、補助金具26、27、軸34、ピニオン35、36からなる全体のことであると解するのが合理的であり、当業者の技術常識にも合致すると考えられる。
(4) したがって、「スライド自在な鍵盤蓋」とは、前後方向にほぼ水平に移動可能な鍵盤蓋と解することができ、そのように解すれば、文節1と2、および、段落0009の記述も整合し、請求項1の「スライド自在な鍵盤蓋」の意味も明確である。
そして、「スライド自在な鍵盤蓋」の構成は、実施例の記載によって、当業者が容易に実施できる程度に開示されていると認められる。
また、「スライド自在な鍵盤蓋」が本件考案の構成に欠くことができない事項であることは明らかである。
(5) 以上のことから、本件明細書の記載には、申立人が主張するような不備は認められず、実用新案法第5条の規定に違反しない。
4 実用新案第3条に係る主張について
(1)申立人の主張は、
▲1▼ 甲第1号証に係る電子オルガンが、本件考案に係る出願(以下、「本件出願」という。)の出願前に公然実施された事実は、甲第2号証、甲第3号証、および、甲第6号証により証明される。
▲2▼ 本件考案は、甲第1号証に係る公然実施された考案と同一である。
▲3▼ 本件考案は、甲第1号証に係る公然実施された考案および甲第4、5号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
ということである。
(2) 上記(1)▲1▼の主張について、申立人が提出した証拠を検討すると、
▲1▼ 甲第1号証は、甲第1号証の1?12からなり、それぞれ電子オルガンを撮影した写真である。甲第1号証の1および2は、電子オルガンの全体写真、甲第1号証の3?5は、同電子オルガンの本体蓋を開放し、鍵盤蓋の後部に設けられた左右一対のピニオンとその軸を撮影した写真であり、甲第1号証の6?8は、同電子オルガンから取り外した鍵盤蓋および前記ピニオンとその軸を撮影した写真、甲第1号証の9は、同電子オルガンに固着された銘板を撮影した写真、甲第1号証の10?12は、同電子オルガンの鍵盤蓋に設けられたピニオンとオルガン本体との係合状体を撮影した写真である。
▲2▼ 甲第2号証は、株式会社ミュージックトレード社発行の「ORUGAN BLUE BOOK 1987/79年度版」(昭和53年11月15日発行)であって、その第8頁には、左上隅にKAWAIの文字があるとともに、C-50なる機種に第92頁が対応することが記載され、同第92頁には、C-50なる機種の外観写真が記載されている。さらに、同第92頁には、C-50の掲載部分に「1969-1974・6」と記載されている。
▲3▼ 甲第3号証は、平成8年3月6日に株式会社河合楽器製作所が日本キリスト教団駒込教会の牧師菊間俊彦に対し、前記教会が昭和47年頃株式会社河合楽器製作所製電子オルガンC-50 SERIAL NO.72201を購入し、本書作成時まで秘密の扱いをすることなく使用していること、および、別紙添付の写真が前記電子オルガンのものである旨の証明を依頼する「証明願」、ならびに、これに対し、平成8年3月7日菊間俊彦が前記事項に相違がないことを証明し押印した部分が同一紙面上に記載され、これに甲第1号証の1?12と同一の写真が別紙として添付されたものである。
▲4▼ 甲第6号証は、審判平6-18286号の登録異議申立事件における検証調書であり、東京都豊島区駒込2-3-8日本キリスト教団駒込協会内に設置されている株式会社河合楽器製作所製「C-50」型電子オルガンについて検証が行われたこと、検証物の銘板に、「TYPE C-50」、「SERIAL NO 72201」との記載があること、ならびに、検証物の構造と状況が添付写真とともに詳細に記載されている。
(3) そこで、甲第1号証に係る電子オルガン(以下、「甲1オルガン」という。)が本件出願の出願前に公然実施されたものであるか否かについて検討するに、
▲1▼ 甲1号証の9において、銘板のTYPEとして刻印された文字を明確に読みとることはできないが、甲第6号証によれば、甲1オルガンは、検証物を撮影したものであり、甲第1号証の9の撮影対象となった銘板には、TYPEが「C-50」、SERIAL NO.が「72201」と記載されているものと認められるが、甲第1号証、甲第6号証からは、甲1オルガンの公然実施の日を特定することはできない。
▲2▼ 甲第2号証に掲載されている外観写真は、甲1オルガンの外観と特に異なる点は見当たらないものの、甲第2号証の記載からは鍵盤蓋の開閉機構は不明である。そして、甲第2号証には、甲1オルガンそのものについては何ら言及するところがないので、たとえ、甲第2号証の記載から、株式会社河合楽器製作所のC-50なる型番の電子オルガンが1969年から1974年6月にかけて販売されたことが推測されるとしても、そのことをもって、甲1オルガンが本件出願の出願前に公然実施されたものと認めることはできない。
▲3▼ 甲第3号証は、証明書の証明年月日の日の欄を空白とした他は、証明者名、購入年を含めて証明事項を全てあらかじめ印刷し、電子オルガンの写真を添付した、株式会社河合楽器製作所作成の「証明願」に、前記証明年月日の日の欄に数字を記入し、証明者欄および写真貼付部分に菊間俊之の押印をして作成されたものと認められ、また、証明内容も、証明書作成日である平成8年3月7日から約24年前の購入製品に関するものであって、その証明内容を信ずるに足る他の証拠もないから、甲第3号証をもって、甲1オルガンが本件出願の出願前に公然実施されたものであると確信することはできない。
▲4▼ そして、申立人が提出した他の全ての証拠を検討しても、甲1オルガンの公然実施の日は不明である。
以上のことから、申立人の提出した証拠によっては、甲1オルガンが本件出願の出願前に公然実施されたものと認めることはできない。
(4) してみると、甲1オルガンが本件出願の出願前に公然実施されたものであることを前提に、本件考案の新規性進歩性を否定する申立人の主張は、その前提を欠くこととなり、本件考案の構成と甲1オルガンの構成の対比を検討するまでもなく、理由がない。
5 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する理由、提出した証拠方法によっては、本件考案についての登録を取り消すことはできない。
また、他に本件考案についての登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 1999-07-23 
出願番号 実願平8-10999 
審決分類 U 1 651・ 112- Y (G10B)
U 1 651・ 121- Y (G10B)
U 1 651・ 531- Y (G10B)
最終処分 維持    
前審関与審査官 樫本 剛及川 泰嘉  
特許庁審判長 小林 信雄
特許庁審判官 鈴木 朗
小林 秀美
登録日 1998-02-20 
登録番号 実用登録第2571343号(U2571343) 
権利者 ヤマハ株式会社
静岡県浜松市中沢町10番1号
考案の名称 鍵盤楽器の蓋開閉装置  
代理人 平木 道人  
代理人 田中 香樹  

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