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審決分類 審判 全部申し立て   B23K
管理番号 1007631
異議申立番号 異議1998-73112  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2000-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-06-17 
確定日 1999-12-08 
異議申立件数
事件の表示 実用新案登録第2567155号「スポット溶接機」の請求項1ないし3に係る実用新案に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 実用新案登録第2567155号の請求項1ないし3に係る実用新案登録を維持する。
理由 1.手続の経緯
本件実用新案登録第2567155号は、実用新案法第9条第1項で準用する特許法第44条第1項の規定により平成3年9月30日に出願された実願平3年86656号(以下、原出願という。)から分割された新たな実用新案登録出願に係り、平成9年12月26日にその実用新案登録の設定がされ、その後、平根昭男から特許異議の申立てがなされたので、当審より取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成11年2月9日に意見書が提出されたものである。
そして、本件実用新案登録に係る考案は、明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】重ね合わせた二枚の金属板の一方に正電極を、該金属板の他方に負電極を接触させて、これらを加圧、溶接するスポット溶接機において、上記負電極が接触する金属板の溶接スポット部近傍に接触させるための上記正電極とは別の第二正電極を有し、この第二正電極と上記負電極との間を予熱しその間に存する塗膜等を破壊し得る電流を発生させる第1の電流回路と、この第1の電流回路と共にON状態とされ上記正電極と上記負電極との間に本電流を発生させる第2の電流回路と、この第2の電流回路を介して上記正電極から上記負電極に電流が流れるのを検知する電流センサと、この電流センサにより電流が流れたことを検知したとき上記第1の電流回路中に挿入されたスイッチ素子をOFFするように制御する制御回路と、を具備することを特徴とするスポット溶接機。
【請求項2】上記スイッチ素子は、例えば、上記正電極と接触する金属板の表面および/または上記二枚の金属板の接触面に塗膜等が介在していても、上記第二正電極と上記負電極との間に流れる電流で上記両電極の近傍が予熱されることにより上記塗膜等が破壊されて上記正電極と上記負電極との間に電流が流れ始めたことを上記電流センサが検知した時、その検知信号を受けた制御回路によってOFFされるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接機。
【請求項3】上記スイッチ素子として、サイリスタのような半導体スイッチを用いることを特徴とする請求項1または2に記載のスポット溶接機。」
(以下、本件の請求項1?3に係る考案を、順に「本件第1?3考案」という。)
2.取消理由について
2-1.取消理由の概要
本件第1考案は、第1の電流回路が、「第二正電極と負電極との間を予熱しその間に存する塗膜等を破壊し得る電流を発生させる」点を含むものであるが、原出願の明細書にはこの点についての記載がなく、かつ、この点は自明のこととも認められないから、本件実用新案登録に係る出願は、適法な分割出願とはいえず、その出願日は現実の出願日である平成7年8月21日である。
そして、本件第1?3考案は、刊行物(特開平5-92274号公報)に記載されたものであるから、その実用新案登録は実用新案法第3条第1項の規定に違反してなされたもので取り消されるべきである。
2-2.分割の適否についての判断
(原出願の記載事項)
原出願の願書に最初に添付された明細書・図面には、次のように記載されている。
▲1▼「重ね合わせた二枚の金属板の一方に正電極を、他方に負電極を接触させて、これらを加圧、溶接するスポット溶接機において、上記負電極が接触する金属板の溶接スポット部近傍に接触させるための上記正電極とは別の第二正電極を有し、該第二正電極と上記負電極との間に低電流を発生させる低電流回路と、上記正電極と負電極との間に本電流を発生させる大電流回路とを備えていることを特徴とするスポット溶接機。」(【実用新案登録請求の範囲】)
▲2▼「【0003】 具体的には、図4に示されているように、溶接すべき二枚の金属板1a、1bを重ね合わせ、これをクランプ2の電極3a、3bで挟んで、溶接金属を使用せずに加圧、溶接している。この際、上記金属板1a、1bの溶接スポット部を磨いて塗膜、錆及びサフェーサー等を除去しておくことが望ましいが、近年、二打点溶接等を行うことにより、薄い塗膜、錆及びサフェーサー等が混入しても良好なスポット溶接が可能になった。」
▲3▼「【0015】 このように構成されたシステム回路によって本実施例のスポット溶接機10は、例えば、3000A以上の本電流iaが上記大電流回路16から出力され、2000A程度の低電流ibが上記低電流回路15から出力されるようになっている。最初に、上記位相制御パワー素子17と上記SW素子20とをON状態にすると、上記大電流回路16は通電条件が満足されないために本電流iaが流れず、上記低電流回路15に低電流ibのみが流れる。次に、低電流ibの効果により、上記大電流回路16に本電流iaが流れ始めると、該大電流回路16に介設された電流センサー23がこれを検知して上記制御回路22に入力する。そして、この制御回路22が上記ドライブ回路21を駆動させて、上記SW素子20をOFFさせるものである。」
(本件第1考案の構成について)
上記▲3▼には、(a)最初に第1の電流回路と第2の電流回路とを共にON状態とすると、第1の電流回路は通電条件が満足されないために本電流が流れず、第2の電流回路15に低電流のみが流れること、及び(b)その後、低電流の効果により、第1の電流回路16に本電流が流れることが記載されている。これらのことは、最初に正電極と負電極の間に通電を阻害するものが存在しており、次に低電流が流れることにより第二正電極と負電極の間が加熱され、その阻害していたものが破壊されたことを示している。そして、溶接すべき金属板に塗膜などが存在することは上記▲2▼に記載されており、その塗膜が存在すると正電極と負電極の間の通電が阻害されるから、溶断電流以下のある電流を付与して塗膜を発熱により破壊させることは周知技術であるから(本件実用新案権者が提出した乙第2、3号証である実公昭52-40189号公報、実願昭51-88362号(実開昭53-7427号)のマイクロフィルム等を参照)、前記(a)(b)は、溶接すべき金属板に塗膜が存在し、それが予熱によって破壊されること述べたものと解することができる。
そうすると、第1の電流回路が、「第二正電極と負電極との間を予熱しその間に存する塗膜等を破壊し得る電流を発生させる」点は原出願の明細書に実質的に記載されていたものと認められるから、本件実用新案登録に係る出願は、原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されていない事項を含むものではない。
(同一性について)
次に、原出願の請求項1に係る考案(以下「原考案」という。)と本件第1考案とを比較すると、
(1)第1の電流回路につき、原考案が、第二正電極と負電極との間に低電流を発生させるものであるのに対し、本件第1考案は、第二正電極と負電極との間を予熱しその間に存する塗膜等を破壊し得る電流を発生させるものである点。
(2)原考案が、本電流が正電極から負電極に流れた時、これを検知して低電流回路がOFF状態となるように形成したものであるのに対し、本件第1考案は、正電極から負電極へ電流が流れるのを検知する電流センサと第1電流回路中に挿入されたスイッチ素子をOFFするように制御する制御回路を有するものである点。
の2点で両者は相違している。
これらの相違点において、本件第1考案は、原考案の構成をより具体化して構成しており、かつ、相違点(1)で低電流を塗膜等を破壊し得る電流に限定し、相違点(2)で、電流センサとスイッチ素子を用いた制御回路を有するものに限定することが、原考案の構成から見て自明なものとも認められないから、本件第1考案は先願考案と同一でもない。
したがって、本件実用新案登録に係る出願は、適法な分割出願であり、その出願日は原出願の出願日である平成3年9月30日にそ及する。
2-3.まとめ
したがって、上記刊行物は、本件出願前に頒布されたものでないから、本件の実用新案登録は実用新案法第3条第1項の規定に違反してなされたものではなく、取消理由によっては、本件実用新案登録を取り消すことはできない。
3.実用新案登録異議の申立てについて
(申立ての理由の概要)
本件実用新案登録に係る出願は適法な分割出願とはいえず、その出願日は現実の出願日である平成7年8月21日である。
そして、本件第1?3考案は、甲第1号証(特開平5-92274号公報)に記載されたものであるから、その実用新案登録は実用新案法第3条第1項の規定に違反してなされたもので取り消されるべきである。
(判断)
そこで、申立理由について検討すると、本件実用新案登録に係る出願は、前記したように適法な分割出願であり、その出願日は原出願の出願日である平成3年9月30日にそ及する。
したがって、上記甲第1号証は、本件出願前に頒布された刊行物でないから、本件の実用新案登録は実用新案法第3条第1項の規定に違反してなされたものではなく、申立理由によっては、本件実用新案登録を取り消すことはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、実用新案登録異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?3に係る実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 1999-11-18 
出願番号 実願平7-9667 
審決分類 U 1 651・ 113- Y (B23K)
最終処分 維持    
前審関与審査官 坂本 薫昭  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 影山 秀一
中村 朝幸
登録日 1997-12-26 
登録番号 実用登録第2567155号(U2567155) 
権利者 田中 武巳
東京都新宿区西新宿5の1の17の605
考案の名称 スポット溶接機  
代理人 真田 修治  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 山崎 利臣  

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