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審決分類 審判 全部申し立て   F04D
管理番号 1012768
異議申立番号 異議1998-75594  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2000-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-17 
確定日 2000-04-03 
異議申立件数
事件の表示 登録第2571387号「遠心送風機の羽根車」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 登録第2571387号の請求項1に係る実用新案登録を維持する。
理由 【1】手続きの経緯
本件実用新案登録第2571387号の考案についての出願は、平成4年8月25日に実用新案登録出願されたものであって、平成10年2月20日にその実用新案権の設定登録がなされたところ、本件の請求項1に係る実用新案登録に対して竹野哲雄より登録異議の申立てがなされ、その結果、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年4月13日に訂正請求がなされ、その後、その訂正請求に対して訂正拒絶理由通知がなされ、そして、その指定期間内である平成11年8月10日に手続補正書が提出されたものである。

【2】補正の適否についての判断
ア.補正の内容
実用新案登録権者が求めている補正の内容は、次のとおりである。
(1)全文訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1を、次のとおり補正する。
「【請求項1】 羽根車の回転軸線方向に一定の翼形断面をそれぞれ有し同羽根車の周方向に相互に間隔を置いて配設された複数枚の羽根体を備え、上記回転軸線の周りに回転されることにより遠心方向に送風気流を発生させる遠心送風機の羽根車であって、上記各羽根体が、同羽根体の翼弦の長さ方向への突出長さが同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな値を有し最大高さが同羽根体の厚さに対して十分に小さな値を有して同羽根体と一体成形された尾ひれを有し、同尾ひれが、上記各羽根体の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し且つ同翼型上表面よりも翼型の上方の位置に曲率中心を有して同翼型の上方へとなめらかに同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成されていることにより上記翼型上表面に沿って流れて同翼型上表面に揚力を発生させた送風気流の流れを同翼型上表面から剥離しないように誘導する翼型上表面側気流誘導面と、上記各羽根体の翼型下表面の後端縁から上記翼型上表面側気流誘導面に沿ってなめらかに湾曲し同翼型下表面に沿って流れた送風気流を同翼型下表面の後端縁から連続的になめらかに偏向させて上記翼型上表面側気流誘導面の後端縁から離れる気流に流れ方向を一致させて合流させる翼型下表面側気流偏向面とを備えていることを特徴とする、遠心送風機の羽根車。」
(2)全文訂正明細書の段落【0005】を、次のとおり補正する。
「前記目的を達成するために、本考案の遠心送風機の羽根車は、羽根車の回転軸線方向に一定の翼形断面をそれぞれ有し同羽根車の周方向に相互に間隔を置いて配設された複数枚の羽根体を備え、上記回転軸線の周りに回転されることにより遠心方向に送風気流を発生させる遠心送風機の羽根車であって、上記各羽根体が同羽根体の翼弦の長さ方向への突出長さが同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな値を有し最大高さが同羽根体の厚さに対して十分に小さな値を有して同羽根体と一体成形された尾ひれを有し、同尾ひれが、上記各羽根体の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し且つ同翼型上表面よりも翼型の上方の位置に曲率中心を有して同翼型の上方へとなめらかに同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成されていることにより上記翼型上表面に沿って流れて同翼型上表面に揚力を発生させた送風気流の流れを同翼型上表面から剥離しないように誘導する翼型上表面側気流誘導面を備えている。」
(3)全文訂正明細書の段落【0006】を、次のとおり補正する。
「上記尾ひれは、さらに、上記各羽根体の翼型下表面の後端縁から上記翼型上表面側気流誘導面に沿ってなめらかに湾曲し同翼型下表面に沿って流れた送風気流を同翼型下表面の後端縁から連続的になめらかに偏向させて上記翼型上表面側気流誘導面の後端縁から離れる気流に流れ方向を一致させて合流させる翼型下表面側気流偏向面を備えている。」
(4)全文訂正明細書の段落【0013】を、次のとおり補正する。
「各羽根体8の後端には、尾ひれ9が同羽根体8と一体成形されており、この尾ひれ9は、図6に示したように翼型上表面側気流誘導面と、翼型下表面側気流偏向面とを有している。尾ひれ9の翼型上表面側気流誘導面は、各羽根体8の後端部において、同各羽根体8の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し且つ同翼型上表面よりも翼型の上方の位置に曲率中心を有して同翼型の上方へとなめらかに同羽根体8の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲し、上記翼型上表面に沿って流れて同翼型上表面に揚力を発生させた送風気流の流れを、同翼型上表面から剥離しないように誘導する。」
(5)全文訂正明細書の段落【0027】を、次のとおり補正する。
「(1)翼型断面を有する各羽根体が、同羽根体と一体成形された尾ひれを有し、同尾ひれが、翼型上表面に沿って流れて同翼型上表面に揚力を発生させた送風気流の流れを同翼型上表面から剥離しないように誘導する翼型上表面側気流誘導面を有し、同翼型上表面側気流誘導面が、上記各羽根体の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し且つ同翼型上表面よりも翼型の上方の位置に曲率中心を有して同翼型の上方へとなめらかに同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成されているので、翼型上表面に沿って流れて同翼型上表面に揚力を発生させた送風気流の流れが、尾ひれの翼型上表面側気流誘導面により翼型上表面から剥離しないように連続的になめらかに誘導され、各羽根体の揚力が増加するとともに、各羽根体に作用する抵抗が少なくなり、各羽根体の振動および騒音が低減し、送風が安定して、送風量に対する消費動力あるいは消費電力が少なくて済む。」
イ.補正の適否
前記補正(1)は、補正前の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されていた構成の「尾ひれが、上記各羽根体の翼型上表面になめらかに連続し」、「(尾ひれの上記翼型上表面側気流誘導面の曲率半径が、)羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな値を有し」を、それぞれ、「尾ひれが、上記各羽根体の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し」、「(尾ひれが、)羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成され」に変更するものであり、この補正は実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とし、しかも、実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、かつ、新規な事項を含まないものである。
また、上記補正(2)?(5)は、上記補正(1)に伴って、考案の詳細な説明の記載を実用新案登録請求の範囲に整合させるものであって、明瞭でない記載の釈明にあたり、かつ、新規の事項を含まない。
したがって、これらの訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではないので、上記補正を採用する。

【3】訂正の適否についての判断
ア.訂正の要旨
(1)願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1を上記【2】ア.の(1)に記載されたように訂正する。
(2)願書に添付した明細書の段落【0005】、【0006】、【0013】、【0027】を上記【2】ア.の(2)?(5)に記載されたように訂正する。
(3)願書に添付した明細書の段落【0028】の「(2)翼型断面を有する各羽根体が尾ひれを有し、‥‥‥」を、次のように訂正する。
「(2)翼型断面を有する各羽根体が同羽根体と一体成形された尾ひれを有し、‥‥‥」
イ.訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)は、訂正前の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されていた構成の「各羽根体が、尾ひれを有し、」を「各羽根体が、‥‥同羽根体と一体成形された尾ひれを有し、」に、さらに、「尾ひれが、上記各羽根体の翼型上表面になめらかに連続し」、「(尾ひれの上記翼型上表面側気流誘導面の曲率半径が、)羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな値を有し」を、それぞれ、「尾ひれが、上記各羽根体の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し」、「(尾ひれが、)羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成され」に変更するものであり、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当し、しかも実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、かつ、新規な事項を含まない。
上記訂正事項(2)、(3)は、上記訂正事項(1)に伴って、考案の詳細な説明の記載を実用新案登録請求の範囲に整合させるものであって、明瞭でない記載の釈明にあたり、かつ、新規の事項を含まない。
ウ.訂正明細書の請求項1に係る考案
訂正明細書の請求項1に係る考案は、補正後の訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 羽根車の回転軸線方向に一定の翼形断面をそれぞれ有し同羽根車の周方向に相互に間隔を置いて配設された複数枚の羽根体を備え、上記回転軸線の周りに回転されることにより遠心方向に送風気流を発生させる遠心送風機の羽根車であって、上記各羽根体が、同羽根体の翼弦の長さ方向への突出長さが同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな値を有し最大高さが同羽根体の厚さに対して十分に小さな値を有して同羽根体と一体成形された尾ひれを有し、同尾ひれが、上記各羽根体の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し且つ同翼型上表面よりも翼型の上方の位置に曲率中心を有して同翼型の上方へとなめらかに同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成されていることにより上記翼型上表面に沿って流れて同翼型上表面に揚力を発生させた送風気流の流れを同翼型上表面から剥離しないように誘導する翼型上表面側気流誘導面と、上記各羽根体の翼型下表面の後端縁から上記翼型上表面側気流誘導面に沿ってなめらかに湾曲し同翼型下表面に沿って流れた送風気流を同翼型下表面の後端縁から連続的になめらかに偏向させて上記翼型上表面側気流誘導面の後端縁から離れる気流に流れ方向を一致させて合流させる翼型下表面側気流偏向面とを備えていることを特徴とする、遠心送風機の羽根車。」
エ.独立実用新案登録要件の判断
(引用刊行物)
訂正明細書の請求項1に係る考案に対して、当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(「Power」第128巻第5号[1984年5月発行]、P81?83)には、
「このブレード・チップ・エクステンションはエアロ・フォイル・ブレードに図示のように溶接されている。僅かな曲がりが性能を改良する。」(第6図説明文)、「第6図はオプションBの実施方法のスケッチである。縮尺したレイアウトを使うのが正確なジオメトリーを決定するためにはベストな方法である。チップのエクステンションに僅かな曲がりのある場合は有利である。/ 幾つかの機械的なチップ / チップ・アウトの設計で、そのブレードへの取り付け方法を理解していることが重要である。溶接が普通の方法であるが、アルミニウムあるいは低チップ速度インペラーの場合は、ボルト締め、リベッティングも適用できる。」(第83頁左欄第34?45行)、「tip-out付加前の出口角度Buは34度であり、付加後の出口角度は39度であり、その差は5度である。」(第6図参照)ことが記載されている。
(対比・判断)
そこで、本件請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)と上記刊行物1に記載された考案とを対比する。
刊行物1には僅かな曲がりを有する「チップ」(本件考案の「尾ひれ」に相当)が記載されており、さらに、この僅かな曲がりが一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成されていると仮定すれば、該「チップ」の円弧状部分に対する中心角は5°となるが、本件考案の「尾ひれ」は一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成されているから、この「尾ひれ」の円弧に対する中心角θを本件考案の実施例の具体的数値(明細書の段落【0022】参照)に基づいて求めるならば、V=13mm、S=6.5mmであり、13Sin(θ/2)=6.5÷2の式が成立するのであるから、本件考案の実施例のものの「尾ひれ」に対する中心角θの具体的数値は約20°となり、したがって、両者の中心角は、それぞれの具体例のものに記載された数値で比較する限りにおいて、明らかに相違する。
そして、このような相違を勘案して両者をあらためて対比すると、刊行物1記載の考案は、「チップ」の僅かな曲がりの曲率半径が、羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径であるものとは云えないから、刊行物1記載の考案は、本件考案の構成に欠くことができない事項である「尾ひれが、各羽根体の翼型上表面に継ぎ目なしでなめらかに連続し且つ同翼型上表面よりも翼型の上方の位置に曲率中心を有して同翼型の上方へとなめらかに同羽根体の翼弦の長さに対して十分に小さな一定の曲率半径で一定の曲率中心の周りに湾曲して形成されている」点(以下、「構成A」という。)を備えていないというべきである。
そして、本件考案は、当該「構成A」を備えることにより、明細書記載の「翼型上表面に沿って流れて同翼型上表面に揚力を発生させた送風気流の流れが、尾ひれの翼型上表面側気流誘導面により翼型上表面から剥離しないように連続的になめらかに誘導されるとともに、各羽根体の翼型下に沿って流れた送風気流が、同翼型下表面の後端縁から連続的になめらかに偏向されて、翼型上表面側気流誘導面の後端縁から離れる気流に流れ方向が一致した状態で渦流の生成を抑制しつつ無理なく合流し、各羽根体の翼型上表面に沿って流れる送風気流、特に、気流の流れの剥離が生じ易い各羽根体の翼型上表面上の後端寄りの部分における送風気流の流れの翼型上表面からの剥離を、最大限効果的に抑制することができる。」(段落【0029】参照)という顕著な効果を奏するものであるから、本件考案は、刊行物1に記載された考案であるとも、この刊行物1記載の考案からきわめて容易に考案をすることができたものともいえない。
したがって、本件考案は実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない考案とすることはできない。
オ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用され、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で更に準用する同法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【4】実用新案登録異議の申立てについての判断
ア.申立ての理由の概要
異議申立人竹野哲雄は、証拠として甲第1号証(「Power」第128巻第5号[1984年5月発行]、P81?83)及び甲第2号証(独国特許第3206798号明細書)を提出し、請求項1に係る考案は甲第1号証又は第2号証に記載された考案であり、本件の請求項1に係る実用新案登録は、実用新案登録法第3条第1項第3号の規定に違反して実用新案登録されたものであるから、実用新案登録を取り消すべき旨主張している。
イ.判断
異議申立人が提出した甲第1号証は、当審が通知した取消理由で引用した刊行物1と同じであるから、甲第1号証に記載された考案は、すでに上記【3】エ.で示したように、本件考案の構成に欠くことができない事項である「構成A」を備えていない。
また、異議申立人が提出した甲第2号証には、半径流送風機の翼体(羽根3)の輪郭を変更するための変形可能な案内部材4が配置されており、案内部材4が変形自在に且つ羽根3に及ぼされる力の作用のもとで、自動的に、それぞれ流れに有利な形態を採るスリング4aの形態で、羽根3に取り付けられていることが、記載されているものと認められる。
しかしながら、異議申立人が提出した甲第2号証に記載された考案は、スリング4aの形態の案内部材が変形自在であるため、該案内部材は一定の曲率半径もなく、また、一定の曲率中心も有しないものであるから、本件考案の構成に欠くことができない事項である「構成A」を備えていないことは明らかである。
したがって、本件考案は、異議申立人が提出した甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案であるとも、該甲第1号証及び甲第2号証記載の考案から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものともすることができない。

【5】結論
以上のとおりであるから、異議申立人の主張する理由及び証拠方法によって、本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2000-03-14 
出願番号 実願平4-59764 
審決分類 U 1 651・ 121- YA (F04D)
最終処分 維持    
前審関与審査官 長崎 洋一  
特許庁審判長 小池 正利
特許庁審判官 清田 栄章
関谷 一夫
登録日 1998-02-20 
登録番号 実用新案登録第2571387号(U2571387) 
権利者 東洋鉄工株式会社
東京都港区芝1丁目8番25号
考案の名称 遠心送風機の羽根車  
代理人 田中 秀佳  
代理人 江原 省吾  
代理人 唐澤 勇吉  
代理人 飯沼 義彦  
代理人 白石 吉之  

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