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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A01K
審判 全部無効  無効とする。(申立て全部成立) A01K
管理番号 1014954
審判番号 審判1998-35083  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2000-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-03-03 
確定日 2000-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第2543572号実用新案「スピニングリール」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2543572号実用新案の登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 I.手続の経緯
本件登録第2543572号実用新案(以下、「本件考案」という)は、平成2年11月21日に出願された実願平2-122948号(以下、「原出願」という)を原出願とする実用新案法第9条の規定により準用する特許法第44条第1項の規定による実用新案登録出願として、平成8年7月26日に出願されたものであり、その実用新案権は平成9年4月25日に設定登録された。
II.本件考案
本件考案は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。
「釣り糸(3)の巻取り操作時に、べール(8)と共にスプール(4)の外側方を公転しながら自身の軸芯周りでの転動により前記釣り糸(3)をスプール(4)に案内するラインローラ(9)を設けてあるスピニングリールであって、
前記ラインローラ(9)に、前記釣り糸(3)が前記ラインローラ(9)の軸芯方向一方へ変位するのを規制する制動力を作用させるべく前記軸芯に略直交する壁状部(9A)と、前記壁状部(9A)に近接する程その壁状部(9A)の基端部径と略等しい径に近ずくように小径化する円錐台部(9B)とを並設し、前記壁状部(9A)を前記ラインローラ(9)の公転方向後方側に配置し、前記円錐台部(9B)を前記公転方向前方側に配置してあるスピニングリール。」
III.請求人の主張
請求人は、下記の甲第1ないし3号証を提示し、大略次のとおり主張している。
本件考案は、原出願である実願平2-122948号(甲第1号証)に開示されていない考案を要旨とするものであるから、本件出願は適法な分割出願とは認められず、その出願日は、遡及せず、実際の出願日である平成8年7月26日である。
この結果、本件考案は、その出願前に頒布された刊行物である甲第2号証及び甲第3号証に記載されたスピニングリールと同一の構成であり、また、公然知られたものに過ぎない。
したがって、本件考案は、実用新案法第3条第1項第1号及び第3号に掲げる考案であり、実用新案登録を受けることができないものであるから、本件考案の実用新案登録は同法第37条の規定により無効とすべきである。

甲第1号証:実願平2-122948号(実開平4-77771号)のマイクロフイルム(原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面の内容を示す)
甲第2号証:特開平8-23834号公報
甲第3号証:特開平8-116833号公報
IV.被請求人の反論
被請求人は大略次のとおり反論している。
原出願の明細書10頁9?11行には「釣り糸(3)の案内位置を決める壁状部(9A)および、この壁状部(9A)の方向に釣り糸(3)を案内するコーン状面(3B)夫々形成されている。」と記載されており、この記載及び図7、図8から、本件考案の「前記ラインローラ(9)に、前記釣り糸(3)が前記ラインローラ(9)の軸芯方向一方へ変位するのを規制する制動力を作用させるべく前記軸芯に略直交する壁状部(9A)と、前記壁状部(9A)に近接する程その壁状部(9A)の基端部径と略等しい径に近ずくように小径化する円錐台部(9B)とを併設し、」の構成が、原出願の明細書又は図面に記載されていることは明らかであり、また、上記構成を備える本件考案が明細書記載の「その結果、壁状部の形成によって、常に、ラインローラ上でのコロガリを抑制する効果が高く、傾斜面で円錐台部の最小径部位まで釣り糸を誘導して、スプールに対して決まった位置より釣り糸を送り込むことができる。」(本件明細書段落【0007】)という効果を奏すること、は明らかである。
したがって、本件出願は適法な分割出願であり、その出願日は原出願の出願日に遡及し、甲第2及び3号証は本件の出願後に頒布されたものとなるから、本件考案の実用新案登録がこの甲第2及び3号証によって無効とすべきであるとする、請求人の主張は失当である。
V.当審の判断
1、分割出願の適否について
本件考案は、上記II.に記載したとおりのものであり、その作用として「・・・・釣り糸は張力を受けるとラインローラの最小径となっている円錐台部と壁状部との間に位置する傾向を有する。・・・・
また、円錐台部と壁状部との間に位置する釣り糸は、ラインローラのスプール外側方の公転作動によって、釣り糸自身の軸芯回りにおいてラインローラの回転方向とは反対方向に回転駆動させる。・・・・
このことは、釣り糸にスプールから螺旋状に放出される際の螺旋による縒れを相殺する方向に縒れを掛けることを意味しており、結局は放出時の糸の縒れを低減することになり、巻き取り時の糸縒れも少なくなる。」(本件明細書段落【0006】)と記載されている。
一方、原出願(甲第1号証)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「原出願の明細書等」という)には、次の事項が記載されている。
「1. 釣り糸(3)の巻取り操作時に、ベール(8)と共にスプール(4)の外側方を回転し、かつ、その転動により該釣り糸(3)をスプール(4)に案内するラインローラ(9)が備えられて成るスピニングリールであって、
巻取り操作時にスプール(4)に導かれる釣り糸(3)に対して制動力を作用させる摩擦部材(10)が備えられて成るスピニングリール。
2. ‥‥スピニングリールであって、
巻取り操作時に、前記ラインローラ(9)に導かれる釣り糸(3)に対し、ラインローラ(9)の軸芯(X)と平行する方向から接触して制動力を作用させると共に、ラインローラ(9)の軸芯(X)方向への釣り糸(3)の変位を規制する摩擦部材(10)が備えられて成るスピニングリール。」(実用新案登録請求の範囲)
「本考案の目的は、軽く転動するラインローラを用いたものより放出時の縒れが少なく、しかも、釣り糸の巻き取り時には固定型の案内部材を用いたものより軽く巻き取り操作を行えるスピニングリールを合理的に構成する点にある。」(6頁第5?9行目)
「〔作用〕
第1図及び第2図に示すように構成すると、釣り糸(3)をスプール(4)に巻き取る際には、ラインローラ(9)に導かれる釣り糸(3)に対して摩擦部材(10)からの制動力が作用する結果、軽く転動するものと比較すると、摩擦部材(10)とスプール(4)との間の張力が高まり、ローラ圧接力に起因するローラ、スプール間の張力と、公転力との合成力の作用が大きくなる。
摩擦部材をローラ軸芯と平行する方向から接触するように配置することにより、巻取り操作時において、ラインローラ(9)の軸芯(X)の方向への釣り糸(3)の移動を規制できるので、第2図に示すコーン状面(9B)に釣り糸(3)が乗り上がった際に生ずる縒れの発生を抑制できる。」(7頁第4?8頁第1行目)
「〔考案の効果〕
従って、摩擦部材としてピンを設ける程度の改良により、軽く転動するラインローラを用いたものより放出時の縒れが少なく、しかも、巻取り時には固定型の案内部材を用いたものより軽く巻取り操作を行えるスピニングリールが合理的に構成されたのである。」(8頁第11?17行)
「巻取操作時においてラインローラ(9)に導かれる釣り糸(3)に対し、ラインローラ(9)の軸芯(X)と平行する方向から接触して制動力を作用させると共に、ラインローラ(9)の軸芯(X)の方向への釣り糸(3)の変位を規制するセラミック製でピン状の摩擦部材(10)が、釣り糸(3)を基準にしてロータ(5)の巻取り側への回転方向(W)の上手側に形成され、更に、この接触を確実にするためラインローラ(9)には釣り糸(3)の案内位置を決める壁状部(9A)および、この壁状部(9A)の方向に釣り糸(3)を案内するコーン状面(3B)((9B)の誤記である)夫々が形成されている。」(9頁20?10頁11行)
「▲1▼ 第7図及び第8図に示すように、前記実施例とは逆に、釣り糸(3)を基準にしてロータ(5)の巻取り側への回転方向(W)の下手側に摩擦部材(10)を形成し、又、ラインローラ(9)にも壁伏部(9A)コーン状面(9B)を形成し、更に、ロータ(9)の巻取り側への回転時に摩擦部材(10)の位置まで釣り糸(3)を案内するための平滑面(7A)をアームレバー(7)に形成する。」(10頁15行?11頁2行)
第8図には、巻取り側への回転方向(W)の下手側に壁伏部(9A)を、上手側にコーン状面(9B)を設け、壁伏部(9A)とコーン状面(9B)の間に円筒部を形成したラインローラ(9)の構成が開示されている。
以上の記載によると、原出願の明細書等に記載された考案において、ラインローラ(9)に形成されている壁状部(9A)およびコーン状面(9B)は、釣り糸(3)の案内位置を決めて、釣り糸(3)と摩擦部材(10)との接触を確実にするためのものであり、また、ラインローラ(9)の壁伏部(9A)とコーン状面(9B)の間には円筒部が形成されている。
そうすると、原出願の明細書等には、ラインローラ(9)に案内される釣り糸(3)に対して摩擦部材(10)によって制動力を与えることにより釣り糸(3)の縒れを抑制することは記載されているが、摩擦部材(10)によって釣り糸(3)に制動力を与えることなく、壁状部(9A)により釣り糸(3)に制動力を与えて縒れを抑制することは記載されていないし、また、壁伏部(9A)、円筒部及びコーン状面(9B)で構成したラインローラ(9)は記載されているが、壁状部(9A)と、前記壁状部(9A)に近接する程その壁状部(9A)の基端部径と略等しい径に近ずくように小径化する円錐台部(9B)とを並設したラインローラ(9)が記載されているとはいえない。
したがって、原出願の明細書等には、本件考案の「ラインローラ(9)に、釣り糸(3)が前記ラインローラ(9)の軸芯方向一方へ変位するのを規制する制動力を作用させるべく前記軸芯に略直交する壁状部(9A)と、前記壁状部(9A)に近接する程その壁状部(9A)の基端部径と略等しい径に近ずくように小径化する円錐台部(9B)とを並設し」た構成が記載されていないから、本件出願は、原出願の一部を新たな実用新案登録出願とするものではなく、適法な分割出願とは認めらず、その出願日は遡及せず平成8年7月26日である。
2、甲第2証記載の考案
甲第2号証は本件出願前である平成8年1月30日に頒布された刊行物であり、その発明の詳細な説明の段落【0002】?【0014】、【0060】の記載及び図面(特に、図1、図2、図26)によると、
甲第2号証には、釣糸35の巻取り操作時に、ベール23と共にスプール31の外側方を公転しながら自身の軸芯周りでの転動により前記釣糸35をスプール31に案内するラインローラ125を設けたスピニングリールであって、前記ラインローラ125に、前記釣糸35がラインローラ125の軸芯方向一方へ変位するのを規制するべく前記軸芯に略直交するガイド部127と、前記ガイド部127に近接する程そのガイド部127の基端部径と略等しい径に近ずくように小径化するテーパ部分とを並設し、前記ガイド部127を前記ラインローラ125の公転方向後方側に配置し前記テーパ部分を公転方向前方側に配置し、釣糸35の縒れを抑制するスピニングリールが記載されていると認められる。
3、対比・判断
本件考案と甲第2号証記載の考案とを比較すると、甲第2号証記載の考案の「ガイド部127」及び「テーパ部分」が、本件考案の「壁状部(9A)」及び「円錐台部(9B)」にそれぞれ相当しており、両者に構成に差異があるとは認められない。
したがって、本件考案は、上記甲第2号証に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものである。
なお、本件出願の願書に最初に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された「ラインローラ(9)に、釣り糸(3)に対して制動力を作用させる壁状部(9A)と、前記壁状部(9A)に近接する程小径となる円錐台部(9B)とを並設し」は原出願の明細書等に記載されておらず、本件出願は適法な分割出願とは認められないから、本件出願は平成5年改正法による実用新案登録出願となり、審査を経ることなく実用新案登録されることになるとも思料される。
しかしながら、この場合においても、出願時の実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に係る考案は、甲第2号証に記載された考案であるから、その実用新案登録は、実用新案法第3条の規定に違反してされたものであり、同法第37条の規定により無効とすべきものである。
VI.むすび
以上のとおりであるから、本件考案の実用新案登録は、実用新案法第3条の規定に違反してされたものであり、同法第37条の規定により、これを無効にすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1999-10-13 
結審通知日 1999-10-22 
審決日 1999-11-04 
出願番号 実願平8-7330 
審決分類 U 1 112・ 03- Z (A01K)
U 1 112・ 113- Z (A01K)
最終処分 成立    
前審関与審査官 石井 哲  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 日高 賢治
白樫 泰子
登録日 1997-04-25 
登録番号 実用登録第2543572号(U2543572) 
考案の名称 スピニングリール  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 坪井 淳  
代理人 布施田 勝正  
代理人 水野 浩司  
代理人 中村 誠  
代理人 小林 茂雄  

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