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審決分類 審判 判定  属さない(申立て成立) B65F
管理番号 1015022
判定請求番号 判定請求1999-60079  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2000-11-24 
種別 判定 
判定請求日 1999-10-27 
確定日 2000-04-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第2047290号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「「ごみ袋」」は、登録第2047290号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 〔1〕請求の趣旨・手続の経緯
本件平成11年判定請求第60079号(以下「本件判定請求」という。)の請求の趣旨は、請求人が製造販売する予定であるイ号製品に係る「ごみ袋」が、実用新案登録第2047290号(以下「本件実用新案」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めたものであり、本件実用新案及び本件判定請求に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
(1)本件実用新案の出願日:平成2年3月23日
(2)実用新案権の設定の登録:平成7年1月23日
(3)本件判定請求:平成11年10月27日差出
(4)物件提出書(請求人):平成11年11月24日付け
(5)答弁書(被請求人):平成12年1月13日付け
(6)物件提出書(被請求人):平成12年2月15日提出
(7)口頭審理:平成12年2月15日
なお、平成12年2月15日期日の口頭審理において、請求人は、平成11年11月24日付け物件提出書に添付した見本が本件判定請求に係るイ号製品であって、判定請求書に添付されたイ号製品説明書・図面は、イ号製品の参考説明書・図面である旨、また、イ号製品説明書・図面におけるゴム部2と筒形編体1側面に固着された下端縁3との間の一重の部分は、使用時にはゴム部2の上方部分が折り返されることにより、外部には実質的に露出しない程度の寸法である旨陳述した。

〔2〕本件実用新案に係る考案
本件実用新案に係る考案(以下「本件考案」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された「上下が開口した筒形網体の上端周緑に口ゴムを設け、筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成したごみ袋」にある。

〔3〕当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、本件考案を、下記(1)の如くA?Dの構成要件に分説し、一方、イ号製品を下記(2)の如くA'?D'の構成要件に分説して両者を対比し、下記(3)の理由により、イ号製品は本件考案の技術範囲に属さない旨主張する。
(1)本件考案
A 上下が開口した筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設け、
B 筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、
C 網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成した、
D ごみ袋。
(2)イ号製品
(1)A' 上下が開口した筒形網体の上端周縁からやや下がったところにゴム部を 設け、
B' 筒心を軸に筒形網体の略中央を下端部を捩って折返すと共に、
C' 網体上部の側面にこの端縁を固着して袋全体をほぼ二重の網体構造にした、
D' ごみ袋。
(3)イ号製品が本件考案の技術的範囲に属さないとする請求人の理由(要旨)
「7)本件考案とイ号製品との比較
本件考案とイ号製品とを構成要件毎に比較してみると、
・AとA'の比較では、ゴム部の位置を異にし、本件考案ではゴム部は筒形網体の上端周縁にあるが、イ号製品においてはゴム部は筒形網体の上端周縁からやや下がったところにある点において本件考案とイ号製品とは相異している。
・次にBとB'とを比較すると、筒形網体の折返す位置であるが、本件考案では筒形網体の下端部を折返しているが、イ号製品は筒形網体の略中央を折返している点において本件考案とイ号製品とは相違している。
・次にCとC'とを比較すると、折返した筒形網体の端部を固着する位置であるが、本件考案では網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成している。この文言からは筒形網体の端部を網体側面のどの位置に固着したのかは必ずしも明確ではないが、本件考案の審査経過において「下端部のみが二重となっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される。」(意見書第2ページ第2行?第4行)との説明から筒形網体の端部は筒形網体の袋底を二重にする程度の位置、つまり筒形網体の底部に固着されていることがわかる。この点において本件考案とイ号製品とは相異している。
・次に、効果を比較すると、上記の通り、本件考案では、筒形綱体側面の一重の部分から水分等は速やかに排出されるが、イ号製品では、ごみ袋から水が排出されるのは二重になっている網体側面と袋底とからであり、必ずしも水分等は速やかには排出されないがごみ袋の略全体を二重にしたことにより、強度がおおきく、金属やガラスの破片が入っても耐えられるものである。
8)結論
以上極々述べたように、本件考案とイ号製品とは、構成要件を異にし、その効果を異にすることが明らかである。よって、イ号製品は本件考案の技術的範囲に属さないものである・・・」
(判定請求書第5頁第23行?第7頁第2行)
(4)証拠方法
資料1:本件実用新案に関し平成5年7月9日付け提出の意見書
資料2:本件実用新案に関し平成5年7月9日付け提出の手続補正書
資料3:大阪地方裁判所平成10年(行ケ)第414号審決取消請求事件の判決書(平成 11年9月30日判決言渡)
物 件:本件イ号製品見本

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、イ号製品は本件実用新案の技術的範囲に属するとして、以下のように反論する。
「1.本件考案について
イ、本件考案の構成について
本件考案は、その明細書の実用新案登録請求の範囲、請求項1に記載通りであり、これを分説すると、請求人の主張通り、
A.上下が開□した筒型網体の上端周緑に口ゴム部を設け、
B.筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、
C.網体側面にこの端緑を固着して二重の袋底を形成した
D.ごみ袋。
である。
ロ、本件考案の作用効果について
本件考案は、その明細書に記載通り、次の作用効果を奏する(本件公報第4欄第12行目以下参照)。
(1)この考案に係るごみ袋は、円形編機によって、筒形網体を編成しながら口ゴム部を形成し、同時に握り操作、折返し操作、端縁固着操作を経て二重の袋底を作成することができる。従って、ミシン縫目により袋底を作成する従来品に比較して、省力化及び能率化を図ることができる。
(2)筒心を軸に下端部を捩って折返すことにより、二重の袋底を作成したことから、この袋底にごみの重量がかかると、中心部が更にきつく締められ、耐荷重性に優れる。従って、従来品の如くミシン縫目がないことから、袋底が不用意に破れることがなく、確実にごみを収納することができる。
(3)下端部のみが二重となっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される。
2.イ号物件について
イ、イ号物件の構成について
イ号物件は、別紙添付のイ号物件説明書に記載通り、次の構成から成るものである。
a.上下が開口した筒型網体1の上端部周縁に上方のエプロン部9とこのエプ ロン部9の下方に隣接する口ゴム部2を設け、
b.筒心を軸に下端部を握って筒型網体1の略中央下方で折返すと共に、
c.網体側面の上方にこの端縁3を固着して二重の袋底5を形成した
d.ごみ袋。
ロ、イ号物件の作用効果について
イ号物件は、前記構成から成るものであるから、次の作用効果を奏する。
(1')イ号物件に係るごみ袋は、円形編機によって、筒形網体を編成しながら口ゴム部を形成し、同時に握り操作、折返し操作、端縁固着操作を経て二重の袋底を作成することができる。従って、ミシン縫目により袋底を作成する従来品に比較して、省力化及び能率化を図ることができる。
(2')軸心を軸に下端部を握って筒型網体1の略中央下方で折返すことにより、二重の袋底を作成したことから、この袋底にごみの重量がかかると、中心部が更にきつく締められ、耐荷重性に優れる。従って、従来品の如くミシン縫目がないことから、袋底が不用意に破れることがなく、確実にごみを収納することができる。
(3')下端部のみが二重となっていることから、水分等は上方の一重の部分から速やかに排出される。
3.本件考案とイ号物件との対比
イ、本件考案の各構成要件とイ号物件の各構成との対比
(1)本件考案の構成要件Aとイ号物件の構成aとの対比
a.本件考案は、「上下が開口した筒型網体の上端周縁に口ゴム部を設け」ることをその構成要件とする(構成要件A)。
これに対してイ号物件は、「上下が開口した筒型網体1の上端部周縁に上方のエプロン部9とこのエプロン部9の下方に隣接する口ゴム部2を設け」ている(構成a)。
したがって、イ号物件の口ゴム部2は、筒型網体の上端周縁に設けられているから、イ号物件は、本件考案の構成要件Aを充足する。
b.ところで、請求人は、「本件考案ではゴム部は筒型網体の上端周縁にあるが、イ号製品においてはゴム部は筒型網体の上端周縁からやや下がったところにある点において本件考案とイ号製品とは相異している。」と主張している。
c.しかしながら、イ号物件は、筒型網体の上端部周緑に上方のエプロン部9とこのエプロン部9の下方に隣接する口ゴム部2を設けていること(構成a)、即ち、請求人のいうゴム部は筒型網体の上端周緑からやや下がったところにあるとしても、この口ゴム部2の位置は依然として、本件考案の構成要件にいう「上端周縁」に該当する。
この点について、本件の被請求人を原告とし、請求人を被告とする実用新案権侵害差止等請求事件の判決(大阪地方裁判所平成11年(ワ)第3970号実用新案権侵害差止等請求事件、平成11年8月31日判決。以下、この事件を単に侵害訴訟事件といい、この判決を大阪地裁判決という)は、次の通り判示している(乙第1号証)。
「本件考案において口ゴム部が果たす機能、口ゴム部の設置場所が上端周縁とされた理由からすると、本件考案における『筒型網体の上端周縁』とは、必ずしも、筒型網体の最上端部である必要はなく、実質的に見て上端の周縁といえる範囲であって、ごみ袋を支持体内に配置し、ごみ袋の上方を外向きに折り返して口ゴム部を支持体に装着した場合に、当該ごみ袋がごみ袋として機能し得る範囲内(すなわち、口ゴム部の下方に十分な筒型網体が存在していること)に、口ゴム部が設けられていれば、当該口ゴム部は、筒型網体の上端周縁に設けられていると評価し得るものと解される。」(乙第1号証の第16頁第9行?第17頁第5行目)。
「被告商品における口ゴム部は、筒型網体(全長約17センチメートル)の最上端部から約2センチメートル下がった部分に設けられているにすぎず、(中略)被告商品を支持体内に配置し、ごみ袋の上方を外向きに折り返して口ゴム部2を支持体に装着した場合に、被告商品がごみ袋として機能し得る範囲内に、口ゴム部が設けられていることは明らかであるから、被告商品の口ゴム部2は、筒型網体1の上端周縁に設けられているものと認められる。」(同第17頁第6行?第18頁第3行目)。
d.この侵害訴訟事件でいう「被告商品」と本件の「イ号物件」とは、筒型網体1の上端部周縁が、「上方のエプロン部9とこのエプロン部9の下方に隣接する口ゴム部2」から成るものであること(構成a)、即ち、請求人のいうゴム部は筒型網体の上端周縁からやや下がったところにあることにおいて共通するから、大阪地裁判決の上述の判示は本件の「イ号物件」にもそのまま当てはまる。
したがって、上述の通り、イ号物件は、本件考案の構成要件Aを充足する。
(2)本件考案の構成要件Bとイ号物件の構成bとの対比
a.本件考案は、「筒心を軸に下端部を握って折返すと共に、」をその構成要件とする(構成要件B)。
これに対してイ号物件は、「筒心を軸に下端部を握って筒型網体の路中央下方で折返すと共に、」をその構成とする(構成b)。
したがって、イ号物件は、筒心を軸に下端部を握って折返すことにおいて本件考案と共通し、単にその折返す箇所を「筒型網体の路中央下方で」と限定したにすぎないから、イ号物件は、本件考案の構成要件Bを充足する。
b.ところで、請求人は、「本件考案では筒型網体の下端部で折返しているが、イ号製品では筒型網体の略中央で折返している点において本件考案とイ号製品とは相異している。」と主張している。
c.しかしながら、本件考案は、「筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、」をその構成要件とするのであるから(構成要件B)、下端部を捩ることをその要件とするに止まり、請求人の主張する如くに、筒型網体の「下端部で」折返すことまでをもその要件とはしていない。下端部を捩っていれば足るのであるから、そのいずれの箇所で折返すかは、単なる設計事項であるにすぎない。
そして、明細書記載の実施例においても、「筒心を軸にして下端開口縁3を丁度360度、即ち1回転捩った状態(第4図矢印方向A参照)にして折返し(第4図矢印方向B参照)、筒型網体1の側面にこの下端開□緑3を当接し、環状編み止め4を施して二重布状(第3図参照)の袋底が形成されている。」と記載され(本件公報第3欄第20行?24行目)、本件考案では、「下端部」は、捩じる部分であることが明らかにされている。
d.したがって、上述の通り、イ号物件は、本件考案の構成要件Bを充足する。
(3)本件考案の構成要件Cとイ号物件の構成cとの対比
a.本件考案は、「網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成した」ことをその構成要件とする(構成要件C)。
これに対してイ号物件は、「網体側面の上方にこの端縁3を固着して二重の袋底5を形成した」ことをその構成とする(構成c)。
したがって、イ号物件は、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成したことにおいて本件考案と共通し、単にその端縁の固着位置を網体側面の「上方」に限定したにすぎないものであるから、イ号物件は、本件考案の構成要件Cを充足する。
b.ところで、請求人は、「本件考案では網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成している。この文言からは筒型網体の端部を網体のどの位置に固着したのかは必ずしも明瞭でないが、本件考案の審査経過において『下端部のみが二重となっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される』(意見書第2ページ第2行?第4行)との説明から筒型網体の端部は筒型網体の袋底を二重にする程度の位置、つまり筒型網体の底部に固着されていることがわかる。この点において本件考案とイ号製品とは相異している。」と主張している。
c.しかしながら、本件考案は、上述の通り、「網体側面にこの端緑を固着して二重の袋底を形成した」ことをその構成要件とするから、端部を網体側面に固着するかぎり、その固着位置は限定されていない。筒型網体の下端部を捩じって折返し(構成要件B)、端部を網体側面に固着すると(同C)、その端部の固着位置が網体側面の比較的上方にあろうと、下方にあろうと、袋底は二重に形成される。
そして、このごみ袋の網体に、上方の一重の部分と下方の二重の部分があるかぎり、請求人指摘の上述の意見書で述べた通り、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出されるから、網体側面のどの程度の高さの位置に端緑を固着するかは、単なる設計事項であるにすぎない。
d.したがって、上述の通り、イ号物件は、本件考案の構成要件Cを充足する。
(4)本件考案の構成要件Dとイ号物件の構成dとの対比
両者はいずれも「ごみ袋」であるから、同じであり、イ号物件は本件考案の構成要件Cを充足する。
ロ、本件考案とイ号物件の作用効果の対比
本件考案は、上述(2)1.ロの通り、(1)、(2)、(3)の作用効果を奏するのに対して、イ号物件は上述(2)2.ロの通り、(1')、(2')、(3')の作用効果を奏するものである。
そこで、これらの各作用効果を対比すると、
(1)イ号物件の(1')の作用効果は、本件考案の(1)の作用効果と同じである。
(2)イ号物件の(2')の作用効果は、本件考案の(2)の作用効果と同じである。
(3)イ号物件の(3')の作用効果は、本件考案の(3)の作用効果と同じである。
ところで、請求人は、「本件考案では、筒型網体側面の一重の部分から水分等は速やかに排出されるが、イ号製品では、ごみ袋から水が排出されるのは二重になっている網体側面と袋底とからであり、必ずしも水分等は速やかには排出されないがごみ袋の路全体を二重にしたことにより、強度がおおきく、金属やガラスの破片等が入っても耐えられるものである。」と、その相違を強調している。
しかしながら、イ号物件は上述の通り、「網体側面の上方にこの端緑3を固着して二重の袋底5を形成した」ことをその構成とするから(構成c)、ごみ袋全体として筒型網体を二重にした下端部分が広いとしても、依然として網体側面の上方に一重の部分が存在する。
そして、この筒型網体側面に一重の部分がある限り、この一重の部分から水分等は速やかに排出されることは本件考案と同様である。この一重の部分から目を背けて、二重の部分を強調して「ごみ袋から水が排出されるのは二重になっている網体側面と袋底とからであ」るとするのは誤りである。
したがって、上述の通り、イ号物件の(3')の作用効果は、本件考案の(3)の作用効果と同じである。
4.技術的範囲の属否
このように、イ号物件は、本件考案の各構成要件A、B、C及びDのすべてを充足し、また、本件考案の各作用効果(1)、(2)、(3)のすべてを奏する。
したがって、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。」
(判定事件答弁書第3頁第2行?第9頁第22行)
また、被請求人は、上記反論に加えて、平成12年2月15日期日の口頭審理において、「イ号物件を使用するごみ容器の形状はさまざまであり、上縁の薄いごみ容器に使用したときは、イ号物件の上端を折り返して装着したときは一重の部分が残る」「本件公報の第3欄の第18?19行目に 『下端部を捩って折り返すことにより二重の袋底を作成したこと・・・ 』と記載されていることから同25?26行目にいう 『下端部 』とは、折り返されて二重になっている部分をいう。」旨陳述した。
(証拠方法)
乙第1号証:大阪地方裁判所平成11年(ワ)第3970号実用新案権侵害差止等請求事 件・平成11年8月31日判決
検乙第1号証:大阪地方裁判所平成11年(ワ)第3970号実用新案権侵害差止等請求 事件におけるイ号物件
〔4〕当審の判断
1.本件考案について
(1)本件考案は、前記〔2〕のとおりであって、本件明細書の考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌すれば、以下の各構成要件に分説するのが相当である(請求人の主張のとおり)。
A 上下が開口した筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設け、
B 筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、
C 網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成した、
D ごみ袋。
(2)なお、実用新案登録された考案の技術的範囲を定めるにあたって、実用新案法は、特許法を準用し、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基いて定めなければならない(実用新案法第26条で準用する特許法第70条第1項)、前項の場合においては、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するもの(同第2項)、としている。
(3)そこで、本件実用新案についてみてみると、その構成要件A、すなわち、「上下が開口した筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設け」た点は、被請求人が主張し、また、被請求人が引用した大阪地方裁判所平成11年(ワ)第3970号実用新案権侵害差止等請求事件平成11年8月31日判決が判示したように、本件考案において口ゴム部が果たす機能、口ゴム部の設置場所が上端周縁とされた理由からすると、本件考案における「筒型網体の上端周縁」とは、「必ずしも、筒型網体の最上端部である必要はなく、実質的に見て上端の周縁といえる範囲であって、ごみ袋を支持体内に配置し、ごみ袋の上方を外向きに折り返して口ゴム部を支持体に装着した場合に、当該ごみ袋がごみ袋として機能し得る範囲内(すなわち、口ゴム部の下方に十分な筒型網体が存在していること)に、口ゴム部が設けられていれば、当該口ゴム部は、筒型網体の上端周縁に設けられていると評価し得る」(乙第1号証の第16頁末行?第17頁第5行)ものと解すべきである。
(4)次に、構成要件Bにおける「筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、」構成要件Cの「網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成した」点について検討すると、「筒心を軸に下端部を捩って折返す」及び「二重の袋底」の用語に関しては、一義的に明確に理解することができないので、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、それらの意義を解釈すべきであると考えられる。
そこで、本件明細書の考案の詳細な説明及び図面における関連の記述をみてみると、
「筒心を軸にして下端開口縁3を丁度 360度、即ち1回捩った状態(第4図矢印方向A参照)にして折返し(第4図矢印方向B参照)、筒型本体1の側面にこの下端開口縁3を当接し環状編み止め4を施して二重布状(第3図参照)の袋底5が形成されている。」(実公平6-8081号公報第2頁第3欄第20?24行)、
「この考案に係るごみ袋は、円形編機によって、筒形網体を編成しながら口ゴム部を形成し、同時に握り操作、折返し操作、端縁固着操作を経て二重の袋底を作成することができる。従って、ミシン縫目により袋底を作成する従来品に比較して、省力化及び能率化を図ることができる。」(同第2頁第4欄第12?17行)、
「筒心を軸に下端部を捩って折返すことにより、二重の袋底を作成したことから、この袋底にごみの重量がかかると、中心部が更にきつく締められ、耐荷重性に優れる。従って、従来品の如くミシン縫目がないことから、袋底が不用意に破れることがなく、確実にごみを収納することができる。」(同欄第18?23行)、
「下端部のみが二重となっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される。」(同欄第24?25行)
旨の記載が認められる。
また、第4図には、筒型網体の下端開口縁3のやや上方部分を絞り部(以下この部分を「絞り部C」と呼ぶ。)として捩り、捩った状態で筒型網体の下方部分を絞り部Cから折返して下端開口縁3を筒型網体の側面に固着した態様が示されており、第1図には、二重の袋底がごみ袋の下端部分に形成された態様が示されている。
(5)上記考案の詳細な説明の記述中、「従来品の如くミシン縫目がない」とは、袋の底部を縫合した従来品と対比したものと認められ、「二重の袋底を作成したことから、袋底にごみの重量がかかる」、「袋底が不用意に破れることがな(い)」との記載は、その従来品に対比し得る程度の、下端部のみが二重である袋底であることを示唆するものであると認められる。
また、「下端部のみが二重となっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される」との記載は、水分等の多くが上部の一重の部分から排出され、二重の部分からは少量しか排出されないことを意味するものと解すべきである。
請求人は、「上部の一重の部分と下方の二重の部分がある限り・・・水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される」と主張するが、袋体の大部分が二重となっていて、一重の部分が袋体の上部にごく僅かしか形成されていない場合には、上部に一重の部分があったとしても、水分等が上部の一重の部分から速やかに排出されることにはならないものと認められる。
そうすると、本件考案の技術的範囲は、筒型網体からなるごみ袋の全体が二重であるものはもちろん、ごみ袋の上部に一部分一重の部分があったとしても、水分等の多くが上部の一重の部分から排出されことにならないような態様のごみ袋に関しては少なくとも及ばないものというべきである。

2.イ号製品と本件考案の対比
(1)これらの点を考慮して、イ号製品と本件考案の対比すると、イ号製品は、ゴム部2(本件考案の口ゴム部に相当する)と筒形編体1側面に固着された下端縁3との間の一重の部分は、使用時にはゴム部2の上方部分が折り返されることにより外部には実質的に露出しないものであって(符号はイ号製品説明書及び図面のもの)、「下端部のみが二重となって・・・水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される」ことには到底ならないものであるから、本件考案の「筒心を軸に下端部を捩って折返すと共に、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成したごみ袋」とは明確に峻別することができるものである。
なお、請求人は、判定請求書中において、「イ号製品は筒形網体の略中央を折返している」としているが、厳密には筒形網体の中央部より下方において折返して形成されたものと認められるので、請求人のこの点の主張には首肯することはできないが、その点が上記判断を左右することにはならない。
(2)被請求人は、「本件考案は、・・・端部を網体側面に固着するかぎり、その固着位置は限定されていない。筒型網体の下端部を捩じって折返し・・・端部を網体側面に固着すると・・・その端部の固着位置が網体側面の比較的上方にあろうと、下方にあろうと、袋底は二重に形成され…網体側面のどの程度の高さの位置に端緑を固着するかは、単なる設計事項であるにすぎない。」(判定請求書第8頁第2?12行)、「イ号物件を使用するごみ容器の形状はさまざまであり、上縁の薄いごみ容器に使用したときは、イ号物件の上端を折り返して装着したときは一重の部分が残る」、「本件公報の第3欄の第18?19行目に 『下端部を捩って折り返すことにより二重の袋底を作成したこと・・・ 』と記載されていることから同25?26行目にいう 『下端部 』とは、折り返されて二重になっている部分をいう。」(平成12年2月15日期日の口頭審理)と主張する。
しかしながら、願書に添付された明細書及び図面によれば、第1図・第4図に見られるような袋底のみが二重にされた実施態様が示されるにすぎず、請求人が本件考案の技術的範囲に含まれると言わんとする「袋体の大部分が二重であるごみ袋」に関しては、記載も示唆もない。
なるほど、「上下が開口した筒形網体の下部を捩って折返して網体側面にこの端縁を固着した少なくとも袋底が二重であるごみ袋」であれば、袋体の袋底のみが二重であろうと袋体の大半が二重であろうと、円形編機によって、筒形網体を編成しながら口ゴム部を形成し、同時に握り操作、折返し操作、端縁固着操作を経て二重の袋底を作成することができ、ミシン縫目により袋底を作成する従来品に比較して、省力化及び能率化を図ることができる、という作用効果が奏せられ、イ号製品がこの点の技術的思想において軌を一にするものであると認められる。しかし、一方において、ごみ袋の全体ないし大部分が二重である場合には、たとえ上縁の薄いごみ容器に使用したとしても「水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される」とする作用効果は奏せられない道理となる。
(3)かてて加えて、本件についての実用新案登録出願から登録査定に至る審査の経過をみてみると、拒絶理由通知(平成5年5月11日発送)に対応して、本件考案では、外皮全体が二重構造を有するものではなく下端部のみが二重となっている点の作用効果が強調されて、実用新案登録に至った経緯があり(判定請求書資料1参照)、また、その後の、無効審判(同資料2参照)、その審決取消訴訟(同資料3参照)、本実用新案件に基づく侵害訴訟(乙第1号証参照)、さらに本件判定請求においても(判定事件答弁書参照)同様の主張が一貫してなされてきているのであるから、この点を無視して、一方で、袋体の大部分が二重であるものをも本件考案に含めるように拡張的な解釈をすることは、禁反言の法理に照らしても許容することはできない。(東京地裁平成8年9月30日判決・知財管理別冊判例集平成8年(II)651頁、 京都地裁昭和59年9月18日判決・特許管理別冊判例集昭和59年(III)245頁参照)
〔5〕以上のとおりであるから、その余について判断するまでもなく、イ号製品は、本件実用新案に係る考案の技術的範囲に属しないものとして解するのが相当である。
よって結論のとおり判定する。
判定日 2000-03-13 
出願番号 実願平2-30409 
審決分類 U 1 2・ 081- ZA (B65F)
最終処分 成立    
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 熊倉 強
長崎 洋一
登録日 1995-01-23 
登録番号 実用新案登録第2047290号(U2047290) 
考案の名称 ごみ袋  
代理人 杉本 勝徳  
代理人 山崎 和夫  
代理人 杉本 巌  
代理人 鳥居 和久  
代理人 東尾 正博  
代理人 鎌田 文二  

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