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審決分類 審判 全部申し立て   B62D
管理番号 1016798
異議申立番号 異議1999-70818  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2000-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-03 
確定日 2000-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 登録第2580169号「弾性履帯」の実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 登録第2580169号の実用新案登録を維持する。
理由 I.手続の経緯
本件実用新案登録第2580169号の請求項1に係る出願は、昭和63年11月30日に出願した実願昭63-156741号の一部を平成9年4月21日に実願平9-3104号として新たな実用新案登録出願としたものであって、平成10年6月19日に請求項1に係る考案について実用新案権の設定登録がなされものであるが、その後、鈴木有紀子より請求項1の実用新案について実用新案登録異議申立があったので、当該異議申立の理由について検討の上、当審より当該実用新案登録の取消理由を通知したが、その通知書で指定した期間内の平成11年10月12日に意見書と共に訂正請求書が提出され、これに対して、更に当審において訂正拒絶理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内の平成12年2月4日に、訂正請求書についての手続補正書が提出されたものである。

II.訂正請求の可否
1.訂正請求の補正の要旨
前記手続補正書による補正の要旨は、下記ア?カのとおりである。
ア.全文訂正明細書中の請求項1において「前記履帯本体(12)の少なくとも幅方向中央部に」とあるを、「前記履帯本体(12)内の幅方向中央部に」と補正する。
イ.全文訂正明細書中の請求項1において「該繊維層(14)……埋設され」とあるを、「該繊維層(14)は前記抗張帯体(13)の幅方向両端を越えてその幅方向外端部(14A)が、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の外周端よりもさらに間隔(S)をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体(12)の両翼部(12A)に埋設されるように、前記繊維層(14)には前記抗張帯体(13)の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成され」と補正する。
ウ.上記ア及びイの請求項の補正に伴い、対応する詳細な説明部分の記載を補正する。
エ.全文訂正明細書中の段落番号【0013】において「第4の実施の形態」とあるのを、「比較例」と補正し、それに伴う実施例の符号の補正を行う。
オ.訂正請求書の第3頁第12行目から第17行目(訂正事項d)の「本考案によれば……防止される。」とあるを、「本考案によれば、転動輪の当接部に作用する荷重は、繊維層によって幅方向中央部の抗張零体に伝達されるので、履帯の幅方向中央部と当接部のテンション及び伸びの差による応力集中が緩和され、また、繊維層は抗張帯体の埋設部分と履帯の両翼部間で間隔を有して埋設するように、段差肩部を備えているので周方向伸びの差が可及的に小さくできてクラックの発生及びその伸長が効果的に防止される。」と補正する。
カ.請求の原因の項目を上記補正に伴った訂正をする。
2.訂正請求の補正の可否
上記訂正請求の補正事項ア及びイは、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
上記補正事項ウは、請求項1を上記補正事項ア及びイと補正したことから、明細書の記載内容とこれとの整合を図るための補正であり、不明りょうな記載の釈明に相当する。また、これにより、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
上記補正事項エは、上記補正事項アで明らかなように「抗張帯体の埋設部位を履帯本体内の幅方向中央部」と限定したことにより、明細書の記載内容と請求項の記載との整合を図るため、図6を本考案の実施例から比較例としたものであり、また、それに伴い、図7を本考案の第4の実施の形態および図8を本考案の第5の実施の形態としたものであり、この補正は、不明りょうな記載の釈明に相当するものである。また、これにより、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
上記補正事項オは、上記補正事項ア、イの請求項の補正によって奏される作用効果を明りょうにするため「また、繊維層は抗張帯体の埋設部分と履帯の両翼部間で間隔を有して埋設するように、段差肩部を備えているので周方向伸びの差が可及的に小さくできる」と補正するものであり、不明りょうな記載の釈明に相当する。なお、明細書の段落番号【0010】および【0011】並びに【0015】に記載の事項から、当該補正に事項は、明細書の記載の範囲内のものといえ、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、上記手続補正は、実用新案法第13条で準用する特許法120条の4第3項でさらに準用する同法第131条第2項の規定に適合し、適法なものとして認められるものである。
2.訂正の要旨
前述のとおり、前記手続補正書による補正が認められた、本件実用新案登録異議申立に係る訂正請求における訂正の要旨は、次のa?dのとおりである。
a.実用新案登録請求の範囲における【請求項1】の「前記履帯本体(12)の少なくとも幅方向中央部に」とあるを、「前記履帯本体(12)内の幅方向中央部に」に訂正し、「該繊維層(14)の幅方向外端は、前記転動輪の当接部の下方にまで延設されている」を「該繊維層(14)は前記抗張帯体(13)の幅方向両端を越えてその幅方向外端部(14A)が、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の外周端よりもさらに間隔(S)をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体(12)の両翼部(12A)に埋設されるように、前記繊維層(14)には前記抗張体(13)の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されている」と訂正する。
b.上記aの請求項1についての訂正に伴い、対応する明細書における詳細な説明部分の訂正を行う。
c.明細書中の段落番号【0013】において「第4の実施の形態」とあるのを、「比較例」と補正し、それに伴う訂正を行う。
d.明細書の【0016】における「本考案によれば、・・・に防止される。」を、「本考案によれば、転動輪の当接部に作用する荷重は、繊維層によって幅方向中央部の抗張帯体に伝達されるので、履帯の幅方向中央部と当接部のテンション及び伸びの差による応力集中が緩和され、また、繊維層は抗張帯体の埋設部分と履帯の両翼部間で間隔を有して埋設するように、段差肩部を備えているので周方向伸びの差が可及的に小さくできてクラックの発生及びその伸長が効果的に防止される。」と訂正する。
3.訂正の目的、新規事項の有無及び実用新案登録請求の範囲の実質的拡張・変更の存否
訂正の要旨aについて
上記訂正の要旨aについては、訂正前の【請求項1】に記載された「前記履帯本体(12)の少なくとも幅方向中央部に」とあるを、「前記履帯本体(12)内の幅方向中央部に」に訂正し、「該繊維層(14)の幅方向外端は、前記転動輪の当接部の下方にまで延設されている」とあるのを、「該繊維層(14)は前記抗張帯体(13)の幅方向両端を越えてその幅方向外端部(14A)が、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の外周端よりもさらに間隔(S)をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体(12)の両翼部(12A)に埋設されるように、前記繊維層(14)には前記抗張体(13)の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されている」に限定したものであり、これらの訂正事項は出願当初から明細書及び図面に示されていたものであり、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当しない。そして、請求項1の訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正の要旨b、cについて
上記訂正の要旨b、cの事項の訂正は、訂正事項aによる訂正後の実用新案登録請求の範囲の内容と、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明の内容との整合を図り、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内において、明りょうでない記載の釈明あるいは誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加にも該当せず、実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正の要旨dについて
上記訂正の要旨dについては、請求項の訂正によって奏される作用効果を明りょうにするため「また、繊維層は抗張帯体の埋設部分と履帯の両翼部間で間隔を有して埋設するように、段差肩部を備えているので周方向伸びの差が可及的に小さくできる」と訂正するものであり、不明りょうな記載の釈明に相当する。なお、明細書の段落番号【0010】および【0011】並びに【0015】に記載の事項から、当該補正に事項は、明細書の記載の範囲内のものといえ、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
4.独立実用新案登録要件の検討
ア.訂正考案の認定
訂正に係る請求項1の考案は、平成12年2月4日付で提出された訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】
「芯金を有しないゴム等の弾性材料製無端状履帯本体(12)に、抗張帯体(13)を周方向に埋設してなる弾性履帯(11)において、
前記抗張帯体(13)は、前記履帯本体(12)内の幅方向中央部に埋設されており、
前記履帯本体(12)の幅方向中央部の両側の内周面が、転動輪の当接面とされ、前記履帯本体(12)内において、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の内周側に繊維層(14)が埋設され、該繊維層(14)は前記抗張帯体(13)の幅方向両端を越えてその幅方向外端部(14A)が、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の外周端よりもさらに間隔(S)をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体(12)の両翼部(12A)に埋設されるように、前記繊維層(14)には前記抗張帯体(13)の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されていることを特徴とする弾性履帯。」
イ.引用刊行物とその記載事項の概要
当審が通知した上記訂正拒絶理由で引用した各刊行物には、以下の事項が記載されている。
刊行物1:特開昭48-44931号公報
刊行物1には、「ゴムを初めとする・・・移動農機用クローラ」(特許請求の範囲、「以下図示の実施例について詳述すると・・・(1)(1)は長手方向における両側部、(2)は中央部、(3)はこの中央部(2)の中心位置において長手方向に亘り、定間隔の下に列設される突起、(4)はこの突起(3)よりも下方で同じく中央部(2)の中心内に長手方向に亘り縦貫状に必要に応じて埋入されるスツールコード、強力繊維等による張力保持用芯体を示し、」(公報第2頁左上欄16行?右上欄第4行)、「又転動輪(8)においてはクローラ全体の荷重および積載荷重のほとんどが強力な荷重として加わり・・・第8図に示すように・・・丁度突起(3)と突起(3)の谷に位置した時には重荷重の全ては当たり面を持つ両側部(1)(1)上面に支持されこの場合において、特にその両側部が重荷重と振動によって変形、型脱れを起こそうとするが・・転輪当り面である両側部(1)(1)上面とそれより上位の部分とは曲率半径の相違により、周長に当然差が生じるが」(公報第3頁左上欄14行?左下欄1行目)及び対応する図2、図8が記載されている。
刊行物7:実公昭52-52355号公報
刊行物7には、「クローラゴム実質中に少なくとも1層の補強布を埋設し、これによってクローラのラグ側裂傷により侵入した土砂泥水などが補強コードを腐食させることを防止できる。」(公報第2頁左欄10行?14行)と記載されている。
ウ.対比・判断
訂正明細書の請求項1に係わる考案と刊行物1に記載された考案とを対比すると、
「芯金を有しないゴム等の弾性材料製無端状履帯本体に、抗張帯体を周方向に埋設してなる弾性履帯において、前記抗張帯体は、前記履帯本体内の幅方向中央部に埋設されており、前記履帯本体の幅方向中央部の両側の内周面が、転動輪の当接面とされており、前記幅方向中央部の抗張帯体と履帯本体の両翼部とは周方向に間隔を有している弾性履帯。」 である点で、両者は一致し、
訂正明細書の請求項1に係わる考案においては、「繊維層が埋設され、該繊維層は前記抗張帯体(13)の幅方向両端を越えてその幅方向外端部(14A)が、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の外周端よりもさらに間隔(S)をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体(12)の両翼部(12A)に埋設されるように、前記繊維層(14)には前記抗張体(13)の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されている」のに対して刊行物1に記載された考案においては繊維層が設けられていない点で相違している。
以下相違点を検討するに、刊行物7に、クローラのラグ側裂傷により侵入した土砂泥水などが補強コードを腐食させることを防止するために補強布をクローラに埋設することが記載されており、補強布を設けるにあたってクローラの全面に設けることが慣用技術であること(刊行物3、刊行物5参照)を勘案しても、上記各引用例に記載のクローラに設けられた繊維層は全て同一平面上に設けられるものであり、繊維層に「抗張体の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部」(以下、「特定事項1」という。)」を設けることを想到し得たとは言えず、また、上記特定事項1を示唆する記載も見当たらない。さらに、取消理由通知に記載した他の刊行物のいずれにも、上記特定事項1に関する記載は存在しない。そして、上記請求項1に係る発明は、上記特定事項1を含む構成を備えることにより、明細書に記載されたとおりの格別顕著な効果を奏するものと認める。
よって、訂正に係る請求項1の考案は、刊行物1及び刊行物7に記載された発明に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたと認めることはできない。
また、上記訂正に係る考案は、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないとする他の理由も発見しない。
5.訂正請求の認容について
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項に掲げる事項を目的とするものであり、また同じく特許法第120条の4第3項で準用され、平成6年法律第116号付則第6条第1項の規定により適用される、同法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正の請求を認容する。

III.実用新案登録異議申立についての判断
1.本件考案
上記のとおり、訂正が認められたことにより、実用新案登録異議申立に係る考案は、上記II.4.アに記載されているとおりのものである。
2.判断
実用新案登録異議申立人は、本件の請求項1に係る考案に対して、甲第1号証乃至甲第7号証を提出して、本件実用新案登録は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、請求項1に係る実用新案登録は取り消されるべきものである旨主張している。
しかるに、甲、上記II.4.ウで示したのと同様の理由により、請求項1に係る考案は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められない。
また、申立人は、「該繊維層の幅方向外端は、前記転動輪の当接部の下方にまで延設されている」の記載は、本件実用新案の技術思想を逸脱した記載であり、かつ、不明瞭な記載である旨主張するが、上記記載は訂正により「該繊維層は前記抗張帯体の幅方向両端を越えてその幅方向外端部が、前記幅方向中央部の抗張帯体の外周端よりもさらに間隔をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体の両翼部に埋設されるように、前記繊維層には前記抗張帯体の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されている」に訂正され存在しておらず、異議申立人の主張は失当である。

IV.むすび
以上のとおりであるから、実用新案登録異議申立の理由及び証拠方法によっては本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に上記本件考案の実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
弾性履帯
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 芯金を有しないゴム等の弾性材料製無端状履帯本体(12)に、抗張帯体(13)を周方向に埋設してなる弾性履帯(11)において、
前記抗張帯体(13)は、前記履帯本体(12)内の幅方向中央部に埋設されており、
前記履帯本体(12)の幅方向中央部の両側の内周面が、転動輪の当接面とされ、
前記履帯本体(12)内において、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の内周側に繊維層(14)が埋設され、該繊維層(14)は前記抗張帯体(13)の幅方向両端を越えてその幅方向外端部(14A)が、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の外周端よりもさらに間隔(S)をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体(12)の両翼部(12A)に埋設されるように、前記繊維層(14)には前記抗張帯体(13)の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されていることを特徴とする弾性履帯。
【0001】
【考案の詳細な説明】
【考案の属する技術分野】
本考案は、農業用移動機械、各種運搬車、雪上車等の無限軌道車に用いられる無端状の弾性履帯に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、農業用移動機械には、図9に例示している無限軌道装置が採用されている(特公昭49-29654号公報参照)。すなわち、この装置は、主として駆動輪1、遊動輪2、転動輪3と、これらに巻き掛けられた無端状の弾性履帯4とから成っており、駆動輪1としては駆動ピン5を備えたものか図11のスプロケット1Aが一般に用いられている。また、転動輪3としては、図10に例示するまたぎ転輪3Aが用いられている。
【0003】
そして、従来の弾性履帯4は、図10?図11に示すように、全体がゴム等の弾性材料から成り、外周(接地)側にラグ6を、内周(反接地)側に駆動輪1と係合する突起7をそれぞれ周方向所定間隔毎に突設し且つ芯金を有しない履帯本体4A内に、スチールコード8等の抗張帯体が周方向に埋設されている。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
ところで、従来の上記弾性履帯4は、駆動輪1、遊動輪2及びまたぎ転動輪3Aによって駆動されかつ回動案内されるが、各動輪1,2,3Aの弾性履帯4に当接する部位が異なる。したがって、テンションを受ける部分も違うため、図11に示すように、弾性履帯4の突起7の基部、即ち、スチールコード8の外周側と翼部4Bの間にクラック9が発生し、脱輪を生じたり耐久性を損ねるという問題がある。また、弾性履帯4の翼部4Bと、スチールコード8埋設部分は、周方向の伸びに差があるため、これによる応力でクラック9の発生及びその伸長を助長する。
【0005】
本考案は、上述のような実状に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、クラックの発生及びその伸長を防止し、耐久性の向上を図りうる弾性履帯を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本考案では次の技術的手段を講じた。
すなわち、本考案は、芯金を有しないゴム等の弾性材料製無端状履帯本体に、抗張帯体を周方向に埋設してなる弾性履帯において、前記抗張帯体は、前記履帯本体内の幅方向中央部に埋設されており、前記履帯本体の幅方向中央部の両側の内周面が、転動輪の当接面とされ、前記履帯本体内において、前記幅方向中央部の抗張帯体の内周側に繊維層が埋設され、該繊維層は前記抗張帯体の幅方向両端を越えてその幅方向外端部が、前記幅方向中央部の抗張帯体の外周端よりもさらに間隔をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体の両翼部に埋設されるように、前記繊維層には前記抗張帯体の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されていることを特徴とする弾性履帯である。
【0007】
本考案によれば、転動輪の当接部に作用する荷重は、繊維層によって幅方向中央部の抗張帯体に伝達されるので、履帯の幅方向中央部と当接部のテンション及び伸びの差による応力集中が緩和され、クラックの発生及びその伸長が効果的に防止される。
【0008】
【考案の実施の形態】
以下、本考案の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1?図3は本考案の第1の実施の形態を示し、11は弾性履帯で、芯金を有しないゴム等の弾性材料製無端状履帯本体12と、該本体12内に周方向に埋設されたスチールコード等の抗張帯体13及びキャンバス等の繊維層14により構成されている。
【0009】
履帯本体12は、外周側(接地側)にラグ15が、内周側(反接地側)に駆動輪1と係合する突起16がそれぞれ周方向所定間隔毎に突設されており、突起16の幅方向両端部に形成されている翼部12Aの内周面に遊動輪2及び転動輪3が当接するようになっている。
スチールコード等の抗張帯体13は、履帯本体12の幅方向中央部の突起16基部に、周方向に埋設されている。
【0010】
キャンバス14は、履帯本体12内において図1で示すように、抗張帯体13の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されていて、抗張帯体13の内周側からその幅方向両端を越えて外周側の両翼部12Aにまでキャンバス14の幅方向外端部14Aが延びるように埋設されており、該端部14Aが抗張帯体13の外周端よりもさらに間隔Sをもって外周側に位置されている。そして、キャンバス端部14Aは、両翼部12Aの遊動輪2及び転動輪3が当接する部分全体にわたってキャンバス14が埋入されるように延びており、各輪2,3当接部分の周方向の伸びが翼部12A両外端よりも小さく、抗張帯体13埋設部分との伸びの差も小さく、したがって、伸びの差による応力が小さく応力集中が緩和される。
【0011】
したがって、上記第1の実施の形態において、弾性履帯11を駆動輪1、遊動輪2及び転動輪3に巻き掛け、駆動走行すると、各動輪1?3の当接部が異なるため履帯本体12に受けるテンションが異なり、翼部12Aと突起16の間特に突起16の基部に応力が集中しようとするが、キャンバス14によってテンションの差が縮まり、応力集中が緩和され、クラックの発生が防止される。そして、仮に、翼部12Aと抗張帯体13埋設部との周方向伸びの差による応力でクラックが生じたとしても、クラックがキャンバス14で止まり、それ以上伸長することがなく、耐久性を損ねるまでには至らない。
【0012】
図4は、本考案の第2の実施の形態を示し、第1の実施の形態と異なるところは、キャンバス14が2プライすなわち、2層に埋設されている点であり、その他は第1の実施の形態と同じであるから、同一符号を付し説明を省略する。
図5は、本考案の第3の実施の形態を示し、第1の実施の形態と異なるところは、キャンバス14が抗張帯体13の内周側で切り離され、その各内端部14Bを抗張帯体13の幅方向両端部内周側に位置させた点であり、他は第1の実施の形態と同じであるから、同一符号を付し説明を省略する。なお、第3の実施の形態にあっては、抗張帯体13埋設部分と翼部12A端間の周方向伸びの差をより小さくすることができる。この第3の実施の形態においても、キャンバス14をそれぞれ2層又は3層としてもよい。
【0013】
図6は、本考案の比較例を示し、スチールコード等の抗張帯体13が、履帯本体12内にその幅方向に3列埋設されており、キャンバス14は幅方向中央の抗張帯体13の内周側から、両側の抗張帯体13との間を通って翼部12Aの抗張帯体13の内周側に延びている。したがって、3列の抗張帯体13内にキャンバス14が位置し、このキャンバス14によって補強され応力集中が緩和される。
【0014】
図7は、本考案の第4の実施の形態を示し、第1の実施の形態と異なるところは、履帯本体12内の幅方向中央部で抗張帯体13が、幅方向に2列に埋設され、突起16が幅方向2列に突設されている点で異なり、キャンバス14は2列の抗張帯体13の内周側から外周側に延びており、第1の実施の形態と同等の効果が期待できる。
図8は、本考案の第5の実施の形態を示し、履帯本体12内に2プライのキャンバス14が埋設され、内周側のキャンバス14は第1の実施の形態と同様に埋入されているが、外周側のキャンバス14は、抗張帯体13の外周側に埋入され、その両端部14Cが内周側キャンバス14の端部14Aよりも中央側に位置せられて、ステップ17が付けられている。したがって、履帯本体12の抗張帯体13埋設部と翼部12Aとの周方向伸びの差が段階的に縮まり、クラック発生を効果的に防止することができる。
【0015】
本考案において、キャンバス等の繊維層14は、抗張帯体13埋設部分と翼部12A間における周方向伸びの差が可及的に小さくでき、伸びの差による応力集中を回避しうるように埋設するのが好ましく、幅の異なる繊維層を複数層設けてもよいこと当然であり、特に突起16の基部に集中するテンションによる応力を小さくしうるよう配慮すべきであること勿論である。
【0016】
【考案の効果】
本考案によれば、転動輪の当接部に作用する荷重は、繊維層によって幅方向中央部の抗張帯体に伝達されるので、履帯の幅方向中央部と当接部のテンション及び伸びの差による応力集中が緩和され、また、繊維層は抗張帯体の埋設部分と履帯の両翼部間で間隔を有して埋設するように、段差肩部を備えているので周方向伸びの差が可及的に小さくできてクラックの発生及びその伸長が効果的に防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本考案の第1の実施の形態を示す縦断面図である。
【図2】
本考案の第1の実施の形態を示す一部平面図である。
【図3】
本考案の第1の実施の形態を示す側面図である。
【図4】
本考案の第2の実施の形態を示す縦断面図である。
【図5】
本考案の第3の実施の形態を示す縦断面図である。
【図6】
本考案の比較例を示す縦断面図である。
【図7】
本考案の第4の実施の形態を示す縦断面図である。
【図8】
本考案の第5の実施の形態を示す縦断面図である。
【図9】
従来例を示し、履帯と各動輪との関係配置図である。
【図10】
従来例を示し、転動輪と履帯との関係配置図である。
【図11】
従来例を示し、駆動輪と履帯との係合説明図である。
【符号の説明】
11 弾性履帯
12 履帯本体
13 抗張帯体
14 繊維層
訂正の要旨 本件実用新案登録異議申立に係る訂正請求における訂正の要旨は、次のa?dのとおりである。
a.実用新案登録請求の範囲における【請求項1】の「前記履帯本体(12)の少なくとも幅方向中央部に」とあるを、「前記履帯本体(12)内の幅方向中央部に」に訂正し、「該繊維層(14)の幅方向外端は、前記転動輪の当接部の下方にまで延設されている」を「該繊維層(14)は前記抗張帯体(13)の幅方向両端を越えてその幅方向外端部(14A)が、前記幅方向中央部の抗張帯体(13)の外周端よりもさらに間隔(S)をもって外周側に位置しかつ前記転動輪の当接部の下方に延設されて履帯本体(12)の両翼部(12A)に埋設されるように、前記繊維層(14)には前記抗張体(13)の幅方向両端と対応する部分に外周側に向かう段差による肩部が形成されている」と訂正する。
b.上記aの請求項1についての訂正に伴い、対応する明細書における詳細な説明部分の訂正を行う。
c.明細書中の段落番号【0013】において「第4の実施の形態」とあるのを、「比較例」と補正し、それに伴う訂正を行う。
d.明細書の【0016】における「本考案によれば、・・・に防止される。」を、「本考案によれば、転動輪の当接部に作用する荷重は、繊維層によって幅方向中央部の抗張帯体に伝達されるので、履帯の幅方向中央部と当接部のテンション及び伸びの差による応力集中が緩和され、また、繊維層は抗張帯体の埋設部分と履帯の両翼部間で間隔を有して埋設するように、段差肩部を備えているので周方向伸びの差が可及的に小さくできてクラックの発生及びその伸長が効果的に防止される。」と訂正する。
異議決定日 2000-03-22 
出願番号 実願平9-3104 
審決分類 U 1 651・ 121- YA (B62D)
最終処分 維持    
前審関与審査官 吉国 信雄粟津 憲一水谷 万司岡田 孝博  
特許庁審判長 玉城 信一
特許庁審判官 鈴木 法明
大島 祥吾
登録日 1998-06-19 
登録番号 実用新案登録第2580169号(U2580169) 
権利者 オーツタイヤ株式会社
大阪府泉大津市河原町9番1号
考案の名称 弾性履帯  
代理人 安田 敏雄  
代理人 安田 敏雄  

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