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審決分類 審判 全部申し立て   E04F
管理番号 1018555
異議申立番号 異議1998-71140  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-02-26 
確定日 1999-06-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 実用新案登録第2545888号「防音床材」の実用新案に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 実用新案登録第2545888号の実用新案登録を維持する。
理由 1.手続の経緯
実用新案登録出願 平成 3年 2月12日
実用新案権設定登録 平成 9年 5月 9日
実用新案登録異議の申立て(異議申立人 浦田英清)
平成10年 2月26日
取消理由通知 平成10年 7月 7日(平成10年7月24日発送)
異議意見書及び訂正請求
平成10年 9月21日
訂正拒絶理由通知 平成11年 3月11日(平成11年3月19日発送)
異議意見書 平成11年 5月17日
訂正拒絶理由通知 平成11年 5月28日(平成11年5月28日発送)
手続補正書 平成11年 5月28日
2.訂正請求について
(2-1.)訂正請求に対する補正の適否について
実用新案権者が平成11年5月28日付けでした訂正請求に対する手続補正は、訂正請求書に添付した明細書の明りようでない記載の釈明に該当するものであり、また、訂正請求書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内の補正であり、訂正請求書に添付した明細書における実用新案登録請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでないから、訂正請求に対する当該補正は訂正請求書の要旨を変更するものでなく、当該補正は認められる。
(2-2.)訂正請求の趣旨及び訂正事項
訂正請求の趣旨は、本件実用新案登録第2545888号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおり訂正することを求めるものであり、そして、その訂正事項は、平成11年5月28日付手続補正書により補正された以下、▲1▼?▲7▼に記載のとおりのものである。
▲1▼訂正事項a
実用新案権設定登録時の明細書(以下、「登録明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載、
「【請求項1】床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きいことを特徴とする防音床材。」を、
「【請求項1】床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材。」と訂正する。
▲2▼訂正事項b
登録明細書の段落【0005】の記載、
「連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きいことを特徴とする防音床材である。」を、
「連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材である。」と訂正する。
▲3▼訂正事項c
登録明細書の段落【0011】の記載、
「最裏層を構成する独立気泡型の発泡合成樹脂シートの表裏面には好ましくは任意形状の凸部が多数形成される。」を、
「最裏層を構成する独立気泡型の発泡合成樹脂シートの表裏面には任意形状の凸部が多数形成される。」と訂正する。
▲4▼訂正事項d
登録明細書の段落【0012】の記載、
「独立気泡型の発泡合成樹脂シート6の裏面には多数の凸部7,7…が形成されている。」を、
「独立気泡型の発泡合成樹脂シート6の表裏面には多数の凸部7,8が形成されている。かくして発泡合成樹脂シート5,6の接着面において凸部8,8…間に空気室9,9…が形成される。」と訂正する。
▲5▼訂正事項e
登録明細書の段落【0013】を削除し、登録明細書の段落【0014】を段落【0013】と訂正する。
▲6▼訂正事項f
登録明細書の記載、
「【図2】本考案の別の実施例による防音床材の構成を示す断面図である。」を削除する。
▲7▼訂正事項g
登録明細書に添付した図面中【図1】を削除し、【図2】を【図1】と訂正する。
(2-3.)訂正の要件の適否
(2-3-1.)訂正の目的の適否
上記訂正事項aは、登録明細書の【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】に記載の「連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きいこと」を、訂正明細書の【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】に記載の「連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられること」と訂正するものであり、独立気泡型の発泡合成樹脂シートの構成を限定しようとするものであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものであるということができる。
また、上記訂正事項b?gは、それぞれ実用新案登録請求の範囲の請求項1の訂正に伴い、考案の詳細な説明の記載及び図面の記載を整合させたものであり、明りようでない記載の釈明を目的とするものであるということができる。
(2-3-2.)新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a?gは、それぞれ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものとも認められない。
(2-3-3.)独立登録要件について
本件訂正請求書に添付された訂正明細書に記載の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されている事項により構成される考案は、後述する
「3-5.対比・判断」でしたように、訂正拒絶理由、取消理由及び実用新案登録異議申立ての理由では、それぞれ実用新案登録を受けることができないとすることができず、また、他に実用新案登録を受けることができないとする理由も発見しないから、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである。
(2-3-4.)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、平成6年法律第116号附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項で準用する同法第126条第2項?第4項の規定に適合し、当該訂正は認められる。
3.実用新案登録異議申立について
(3-1.)訂正後の本件請求項1に係る考案
本件訂正請求書に添付された訂正明細書に記載の請求項1に係る考案(以下、「訂正後の本件請求項1に係る考案」という。)は、その【実用新案登録請求の範囲】に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材。」
(3-2.)実用新案登録異議申立ての理由の概要
異議申立人 浦田英清は、甲第1号証として実願昭59-133385号(実開昭61-47339号)のマイクロフィルム(当審で通知した取消理由で引用した刊行物及び訂正拒絶理由で引用した刊行物1)、甲第2号証として実願昭62-3521号(実開昭63-117840号)のマイクロフィルム、甲第3号証として実願昭52-112529号(実開昭54-38325号)のマイクロフィルム、甲第4号証として特開昭63-78961号公報、甲第5号証として実願昭55-40041号(実開昭56-140424号)のマイクロフィルム、甲第6号証として実公昭52-30125号、甲第7号証として特開昭63-107649号公報(当審で通知した訂正拒絶理由で引用した刊行物2)を提示し、
登録明細書に記載の請求項1に係る考案は、甲第1?7号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない旨、主張している。
(3-3.)取消理由及び訂正拒絶理由の概要
(3-3-1.)取消理由の概要
取消理由の概要は、上記甲第1号証を刊行物として引用し、登録明細書に記載の請求項1に係る考案は、上記刊行物に記載された考案であるから、登録明細書に記載の請求項1に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第3号の規定に違反してなされたものである、というものである。
(3-3-2.)訂正拒絶理由の概要
平成11年3月11日付け訂正拒絶理由の概要は、以下のものである。
〔理由1〕上記甲第1号証及び甲第7号証をそれぞれ刊行物1及び刊行物2として引用し、訂正後の本件請求項1に係る考案は、上記刊行物1及び刊行物2に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、訂正後の本件請求項1に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない、というものである。
〔理由2〕訂正明細書の段落【0012】の「凸部8,8・・・に空気室9,9・・・が形成される。」という記載は、考案の構成を不明瞭とするものであり、実用新案登録請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれの事項をも目的とするものではない、というものである。
また、平成11年5月28日付け訂正拒絶理由は、上記〔理由2〕と同趣旨のものである。
(3-4.)甲各号証(引用刊行物)に記載の考案
<甲第1号証>
『木質板・・・の下面全体に複数層よりなる遮音用発泡体・・・が貼付けられており、隣接する上下の層・・・の発泡倍率が相互に異ならしめられている遮音性木質床材。』(実用新案登録請求の範囲)
『遮音用発泡体の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン、塩化ビニルなど発泡体を形成しうるものはすべて使用可能ではあるが、床材に用いられるものであるから、・・・・、・・貼付け作業上接着し易いものが望ましい。遮音用発泡体は複数層よりなるものであるが、通常は2層であり、発泡倍率は上層が高く、下層が低い方が好ましく、また両層とも連続気泡よりも独立気泡の方が望ましいが、とくに下層は上層に較べて独立気泡の方がよい。・・・・・。発泡倍率の適正値は、発泡体の材料によって異なるが、ポリエチレンを例にとれば、高いものとしては10?50倍、低いものとしては5?20倍のものが用いられ、』 (第5頁第5行?第6頁第5行)
『遮音用発泡体(22)の下面には、長さ方向にのびた並列状の溝(30)が設けられている。』(第13頁第4行?第6行及び図面第3図)
『この考案による床材は、・・・、遮音性がよいうえに、・・・歩行感の悪さなどの問題が生ぜず』(第13頁第8?11行)
<甲第2号証>
『(1)木質板の裏面に緩衝部材を貼合わせてなる遮音性木質系床材において、前記緩衝部材が、内部の所要個所に吸音材層を設けた第1層と、前記第1層の底部全面に貼合わせた独立気泡体の第2層と、からなることを特徴とする遮音性木質系床材。
(2)吸音材がグラスウール又はポリウレタン等の連続発泡体であることを特徴とする遮音性木質系床材。』(実用新案登録請求の範囲)
『第1層5を吸音材のみで構成した場合に』(第5頁第7行目)
<甲第3号証>
『1.独立気泡発泡体ではない多孔質弾性体と上記多孔質弾性体よりもヤング率の大なる弾性体とが積層されてなる床用緩衝材。
2.多孔質弾性体が連続気泡を有する軟質合成樹脂発泡体である・・・床用緩衝材。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.ヤング率の大なる弾性体が独立気泡を有する軟質合成樹脂発泡体である』(実用新案登録請求の範囲)
『本考案は床衝撃音を減少させるための床用緩衝材に関するものである。』(第1頁下から3行?第2行)
『独立気泡発泡体ではない多孔質弾性体とは・・・たとえばポリウレタン、ポリエチレン等の軟質合成樹脂の連続気泡を有する発泡体、・・・等が使用される。」(第3頁第1?6行)
『ヤング率の大なる弾性体であり・・・・・たとえばゴム、軟質ポリエチレン、軟質塩化ビニル等の軟質合成樹脂、独立気泡を有する前記軟質合成樹脂の発泡体等が使用される。』(第3頁第7?12行)
『本考案の床用緩衝材は床板、根太等の床組と床スラブの間に設置されて緩衝材として使用されるのである。』(第3頁下から2行?第4頁第1
<甲第4号証>
『木質系板材の片面もしくは両面または複数の木質系板材間に粘弾性体を積層し、損失係数を0.05以上になるようにした複合板材の下面に、高分子発泡体を貼設してなることを特徴とする制振複合床材。』(特許請求の範囲)
『本発明は、・・・床衝撃音の低減効果の優れた床材に関するものである。』(第1頁左下欄12?14行)
『発泡体として成形したのち異種発泡体を積層して使用することも可能である。』(第3頁左下欄第6、7行)
<甲第5号証>
『本考案は床表面材に関し、歩行感が快適で・・・防音性の優れた床表面材を提供することをその目的としている。』(第1頁第9?11行)
『敷物地(2)の下面に、まずポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂発泡体よりなる軟質発泡体層(3)を貼着し、さらにその下面にポリスチレン樹脂、ASB樹脂等の合成樹脂発泡体よりなる硬質発泡体層(4)を貼着して成るものであり、」(第3頁第10?15行)
『独立気泡を有する硬質発泡体層(4)の場合には』(5頁第4、5行目)
<甲第6号証>
『床材本体1の裏面に発泡倍率3?10倍の合成ゴム発泡体、天然ゴム発泡体等の軟質発泡体を貼着して軟質高発泡層2を積層形成せしめ更にその上に非積層面をエンボス加工して凹凸3を賦与せる発泡倍率1.5?3倍未満の合成ゴム発泡体、天然ゴム発泡体を貼着して軟質低発泡層4を積層形成せしめて成るものである。」(第2欄第7?第13行)
<甲第7号証>
『木質化粧板の裏面にシート状物を積層一体化すると共にシート状物の裏面に基板を積層一体化し、基板に切溝を設け、この基板の裏面に弾性体を積層一体化して成ることを特徴とする床材。』(特許請求の範囲第1行?第4行)、
『本発明は、防音及び防振機能を備えた床材に関する。』(第1頁左下欄第14、15行)、
『弾性体5は、・・・合成樹脂・・・発泡体製等の弾性を有するものである。弾性体5は、・・・その表面に凹凸を形成したもの、・・・・・・などが考えられる。』(第2頁左下欄第15行?右下欄第2行)
「弾性体5の表面に凸部10が形成されている」
(図面第8図)
(3-5.)対比・判断
訂正後の本件請求項1に係る考案と上記甲第1号証に記載の考案とを対比すると、
上記甲第1号証に記載の「複数層よりなる遮音用発泡体」の材料は合成樹脂であり、
上記甲第1号証に記載の『両層とも連続気泡よりも独立気泡の方が望ましいが、とくに下層は上層に較べて独立気泡の方がよい』という事項は、上層が連続気泡で下層が独立気泡のものも示唆されていると認められ、
上記甲第1号証に記載の「遮音用発泡体(22)の下面に設けられ、長さ方向にのびた並列状の溝(30)」間は、凸部となっていると認められる。
そして、上記甲第1号証に記載の「木質板」、「遮音性木質床材」は、それぞれ訂正明細書の請求項1に係る考案における「床板基板」、「防音床材」に相当すると認められるから、
訂正後の本件請求項1に係る考案と上記甲第1号証に記載の考案とは、「床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材。」である点で一致しているが、以下の点で相違していると認められる。
《相違点》
訂正後の本件請求項1に係る考案では、「上下に積層された発泡合成樹脂シートのうち、上層の発泡合成樹脂シートは下層の発泡合成樹脂シートより発泡倍率が大きいものにおいて、下層の発泡合成樹脂シートの表面に凸部が設けられる」構成であるのに対して、上記甲第1号証に記載の考案ではそうではない点。
しかるに、記相違点の構成は、
上記甲第2?6号証のいずれにも記載はなく、
上記甲第7号証には、防音及び防振機能を備えた床材の構成部材である、最裏層の合成樹脂発泡体製の弾性体5の表面に凸部10が形成されている考案が記載されているが、上記弾性体5は、発泡倍率が下層よりも大きい上層発泡合成樹脂シートの下面に積層されたものではないので、上記甲第1号証に記載の考案に上記甲第7号証に記載の考案を適用して、上記相違点における訂正後の本件請求項1に係る考案の構成とすることは当業者にとって困難性のあるものといわざるを得ない。
そして、上記相違点における訂正後の本件請求項1に係る構成により、平成11年5月17日付け異議意見書の第2頁下から第7行?第3頁下から第4行に記載の、『上面側からの荷重を受けた初期段階▲2▼では、上層発泡合成樹脂シート5が下層発泡合成樹脂シート6よりも発泡倍率が大きく構成される・・・と共に上層発泡合成樹脂シート5は下層発泡合成樹脂シート6の表面側凸部8上に積層されている・・・から、下層発泡合成樹脂シート6の表面側凸部8の上に位置している上層発泡合成樹脂シート5の部分aのみが収縮を始め、上層発泡合成樹脂シート5において凸部8,8間の凹部上に位置している部分bは未だ何ら収縮していない。・・・・・・さらに大きな荷重が加わると、上層発泡合成樹脂シート5の部分aがより大きく収縮し、これに伴って部分bはほとんど収縮しないまま該凸部8,8間の凹部にめり込むようにして変形し、ついには▲3▼に示されるように、部分bが完全に凹部を満たすようになる。▲3▼の状態に至った後にさらに大きな荷重が加わると、▲4▼に示されるように部分bも収縮し始める。すなわち、今までは部分aだけの収縮であったものが部分aと部分bとの複合的収縮に変化し、上層発泡合成樹脂シート5の全体が収縮することになって、単位面積当たりの変形量が今までの部分aだけの収縮よりも小さくなるため、収縮しにくいものとなる。このようにして上層発泡合成樹脂シート5の部分aと部分bが共に収縮してその平均弾性率が下層発泡合成樹脂シート6の弾性率と等しくなった状態以降は、▲5▼に示すように、上層シ一ト5の全体に加えて下層シート6の裏面側凸部7上の部分が収縮する。▲6▼の状態は下層シート6の裏面側凸部7が完全に潰れるまで収縮した段階を示しており、この状態以降はシート5,6全体が一体となって収縮してゆく。すなわち、・・・本件考案によれば、荷重を受けてから上層発泡合成樹脂シート5と下層発泡合成樹脂シート6が共に収縮し始めるまでに、上層発泡合成樹脂シート5のみの収縮として、まず部分aのみが収縮し、次いで部分aと部分bとがそれらの平均弾性率が下層発泡合成樹脂シート6の弾性率と等しくなるまで一緒に収縮するという二段階の収縮工程がある。このため、上層と下層とを平面的に積層して単にそれらの発泡倍率の差により荷重を受けた初期に上層のみが収縮するにすぎない・・・ものに比べて広い周波数域に亘って優れた防音性能を示すことができる。』という作用及び効果を奏するものと認められる。
したがって、実用新案登録異議申立ての理由では、訂正後の本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すことはできない。
また、取消理由は、上記甲第1号証を刊行物として引用するものであり、訂正拒絶理由のうち〔理由1〕は、上記甲第1号証及び甲第7号証をそれぞれ刊行物1及び刊行物2として引用するものであるから、上記判断のとおり、訂正後の本件請求項1に係る考案は、上記刊行物に記載された考案であるとも、上記刊行物1及び刊行物2に記載された考案に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるともいうことはできず、訂正拒絶理由のうち〔理由2〕でいう記載の不備は、補正により解消されたものであるから、取消理由及び訂正拒絶理由によっては、訂正後の本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すことはできない。
(3-6.)むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び実用新案登録異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る考案の実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
防音床材
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本考案は床材、特に家屋の階上部分に使用して床面の衝撃による固体音の階下への伝搬を有効に防止することのできる防音床板に関する。
【0002】
【従来技術】この種の防音床材としては従来から各種のものが提案されている。例えば、実開昭50-49917号公報に記載の床材は、床材本体の裏面に、発泡倍率3?10倍の軟質高発泡層およびエンボス加工せる発泡倍率1.5?3倍の軟質低発泡層を順次積層せしめて成る。また、実開昭61-47339号公報に記載の床材は、木質板下面全体に、複数層より成る遮音用発泡体が貼着されて成り、隣接する上下の層の発泡倍率が相互に異なるものとされている。これらの従来技術のように発泡倍率の異なる発泡体が複合されたものは、衝撃力を受けた場合にその変形によって緩衝効果を与える緩衝材として機能し、その剛性が低いために変形を通じて行われる緩衝時間が長くなる。従って、運動量の変化、即ち力積、衝撃力の時間的積分値は一定であっても、衝撃力のピーク値や衝撃固有周波数を低下させ、基板への衝撃入力エネルギーを低減し、衝撃による音や振動を低下することができる。また、これらの緩衝材を床板等の建材の裏面に複合したとき、該建材の曲げ振動で生ずる緩衝材の伸縮変形を通じて、衝撃力のエネルギー吸収を行う。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】ところで、防音機能は建材と緩衝材との厚さ比の影響が大きく、防音機能を向上させるためには、建材に対する緩衝材の厚さ比を2?3倍とする必要がある。しかしながら、前記従来技術による防音床板において複合発泡体の厚さをこのような範囲のものとすると、緩衝材が厚すぎるものとなり、床板全体の撓みが過剰となってしまう。このために、床板の接続部において破損が生じたり、過度の沈みにより歩行感が悪化する等の問題をもたらしていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】このような現状に鑑み、本考案者は、上記従来技術の問題点を解決するために研究を重ねた結果、本考案を完成するに至った。
【0005】即ち、本考案は、床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材である。
【0006】床板基板としては、合板、パーティクルボード、ハードボード、LVL(平行合板)等を適宜必要に応じて用いることができる。また、基板の中間に緩衝効果の優れた合成樹脂発泡シートを挟着したものを用いると、防音効果を向上することができる。更に、基板の裏面に裏溝を刻設することにより、基板の有する剛性を低下させ、表面に加えられた衝撃エネルギーを基板において吸収することが可能となり、また裏溝によって基板の一部が分割されるので、音の伝搬を妨げ、防音効果のより一層の向上に寄与する。
【0007】基板の表面には任意化粧を施すことができる。化粧としては、突板、合成樹脂或は合成樹脂発泡化粧シート、化粧紙或は合成樹脂含浸化粧紙等の表面化粧材を積層接着するか、または下塗りを施した後柄模様を印刷する等の方法が例示される。
【0008】基板の裏面には、緩衝材として、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとが順次積層接着される。基板裏面に直接接着される発泡合成樹脂シートとして連続気泡型の発泡体を選択することにより、表面から加えられたエネルギーが該発泡合成樹脂シートを構成している合成樹脂自身によって吸収されるだけでなく、変形につれて多孔体に出入りする気体の粘性抵抗即ち空気ダンピングによって効果的に吸収される。
【0009】この連続気泡型の発泡合成樹脂シートの発泡倍率は40?60倍とすることが好ましい。40倍未満であると、表面から加えられたエネルギーを吸収する能力が不十分となり、60倍を越えるとエネルギー吸収能力は優れるもののシートが柔らかくなりすぎて、表面から加えられる荷重に対する圧縮強度が急激に低下し、軽度の荷重が与えられるだけで収縮してしまうので好ましくない。この発泡合成樹脂シートとして用いる樹脂は連続気泡型を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、天然ゴム、合成ゴム等が例示される。
【0010】連続気泡型の発泡合成樹脂シートの裏面側に積層接着される第2の発泡合成樹脂シートとしては独立気泡型の発泡体が選択される。その発泡倍率は好ましくは20?30倍である。連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率よりも小さい発泡倍率であって更に発泡形態も独立気泡型と異なるものとすることにより、衝撃エネルギーを吸収する機能は若干損なわれるが、圧縮荷重に対する強度を高めることができる。即ち、表面から加えられたエネルギーを連続気泡型の発泡合成樹脂シートによっては十分に吸収し得なかったとき、この独立気泡型の合成樹脂シートで吸収することができる。独立気泡型の発泡合成樹脂シートの発泡倍率が20倍未満であると、該シートが固くなってしまい、吸収しきれなかったエネルギーをそのまま階下に伝搬することになるので、防音性能が低下する。一方30倍を越える発泡倍率となると該シートが柔軟になりすぎて、2つの発泡合成樹脂シートから構成される緩衝材の伸縮による沈みが大きくなり、歩行の際に、床面が柔らかすぎることによる不安感及び疲労を生ずるので、好ましくない。独立気泡型の発泡合成樹脂シートとして用いる合成樹脂は独立気泡型の発泡体を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン、塩化ビニル等が例示される。
【0011】最裏層を構成する独立気泡型の発泡合成樹脂シートの表裏面には任意形状の凸部が多数形成される。これにより、連続気泡型の発泡合成樹脂シートとの接着面に多数の空気室が形成されると共に、床板を床下地に施工したときに該床下地との接着面に多数の空気室が形成され、これら空気室の存在によって防音性能が更に向上すると共に階下への音の伝搬を防止する効果が向上する。
【0012】
【実施例】図1に示す実施例は、合板2a,2bの間に発泡合成樹脂シート3を挟着して成ると共に表面に化粧層4を設けて成る基板1の裏面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シ一ト5を積層接着し、更にその裏面に独立気泡型の発泡合成樹脂シ一ト6を積層接着して成る。独立気泡型の発泡合成樹脂シート60表裏面には多数の凸部7,8が形成されている。かくして発泡樹脂シート5,6の接着面において凸部8,8…間に空気室9,9…が形成される。
【0013】
【考案の効果】本考案による防音床板は、緩衝材として、表面側に発泡倍率の大きい連続気泡型の発泡合成樹脂シートを、裏面側に発泡倍率の小さい独立気泡型の発泡合成樹脂シートを配したものを用いているので、表面から加えられたエネルギーは、まず連続気泡型の発泡合成樹脂シートが変形するにつれて多孔体に出入りする気体の粘性抵抗即ち空気ダンピングにより有効に吸収することができ、更に吸収しきれないエネルギーは独立気泡型の発泡合成樹脂シートによって吸収されるので、優れた防音効果を示す。更に、裏面側の独立気泡型の発泡合成樹脂シートの表裏面に多数の凸部を形成することによって、防音効果をより一層高めることができる。裏面側に独立気泡型の発泡合成樹脂シートを配したことにより、緩衝材に適度の剛性が保持され、良好な歩行感を与える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施例による防音床板の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2a 合板
2b 合板
3 発泡合成樹脂シート
4 化粧層
5 連続気泡型の発泡合成樹脂シート
6 独立気泡型の発泡合成樹脂シート
7 凸部
8 凸部
9 空気室
【図面】

訂正の要旨 本件実用新案登録第2545888号の訂正事項は、以下のとおりである。
(I)実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、
実用新案登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載、
「【請求項1】床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きいことを特徴とする防音床材。」を、
「【請求項1】床板基板の下面に、連続気泡型の発泡合成樹脂シートと独立気泡型の発泡合成樹脂シートとを順次積層接着して成り、連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材。」と訂正する。
(II)上記実用新案登録請求の範囲の訂正に伴い、対応する考案の詳細な説明及び図面の記載を整合させるための訂正であり、明りようでない記載の釈明を目的として、
1.登録明細書の段落【0005】の記載、
[連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きいことを特徴とする防音床材である。」を、
「連続気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率が独立気泡型の発泡合成樹脂シートにおける発泡倍率より大きく、独立気泡型の発泡合成樹脂シートは表裏面に凸部が設けられることを特徴とする防音床材である。」と訂正する。
2.登録明細書の段落【0011】の記載、
「最裏層を構成する独立気泡型の発泡合成樹脂シートの表裏面には好ましくは任意形状の凸部が多数形成される。」を、
「最裏層を構成する独立気泡型の発泡合成樹脂シートの表裏面には任意形状の凸部が多数形成される。」と訂正する。
3.登録明細書の段落【0012】の記載、
「独立気泡型の発泡合成樹脂シ一ト6の裏面には多数の凸部7,7…が形成されている。」を、
「独立気泡型の発泡合成樹脂シート6の表裏面には多数の凸部7,8が形成されている。かくして発泡合成樹脂シート5,6の接着面において凸部8,8…間に空気室9,9…が形成される。」と訂正する。
4.登録明細書の段落【0013】を削除し、登録明細書の段落【0014】を段落【0013】と訂正する。
5.登録明細書の記載、
「【図2】本考案の別の実施例による防音床材の構成を示す断面図である。」を削除する。
6.登録明細書に添付した図面中【図1】を削除し、【図2】を【図1】と訂正する。
異議決定日 1999-06-09 
出願番号 実願平3-18181 
審決分類 U 1 651・ 121- YA (E04F)
最終処分 維持    
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 樋口 靖志
特許庁審判官 阿部 綽勝
白樫 泰子
登録日 1997-05-09 
登録番号 実用登録第2545888号(U2545888) 
権利者 株式会社ノダ
東京都台東区浅草橋5丁目13番6号
考案の名称 防音床材  
代理人 ▲桑▼原 史生  
代理人 ▲桑▼原 史生  

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