• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない H01F
審判 全部無効 産業上利用性 無効としない H01F
管理番号 1020811
審判番号 審判1999-35236  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-05-24 
確定日 2000-07-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第2043303号実用新案「整列巻コイル」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 【1】手続の経緯
本件実用新案登録第2043303号考案は、昭和56年7月3日に出願(実願昭56-99264号)され、昭和63年6月22日に出願公告(実公昭63-22645号)がなされ、その後平成6年12月16日にその実用新案についての設定登録がなされたものである。
【2】本件考案の要旨
本件登録実用新案に係る考案(以下、「本件考案」という。)の要旨は、出願公告明細書及び出願公告後の平成元年10月20日付、平成3年8月28日付の各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された「整列巻偏平コイル」にあるものと認められるところ、その考案の要旨は次のとおりのものである。
「自己融着線を用いた2等辺A、Bを有する三角形又は台形等の形状のコイルにおいて、内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を2等辺A、B以外の頂部又は底部に配設したことにより、コイル本体4の磁界を直交する2等辺A、B部分の線束が直線状に形成されていることを特徴とする偏平型モータの整列巻偏平コイル。」
【3】審判請求人の主張
(一)無効とすべき理由
審判請求人は、証拠方法として甲第1号証乃至6号証を提出し、以下の理由により本件登録実用新案は無効とすべきものである、と主張している。
<証拠方法>
甲第1号証 特開昭56-12845号公報
甲第2号証 特開昭58-197709号公報
甲第3号証 特公昭59-963号公報
甲第4号証 特開昭56-10062号公報
甲第5号証 インシュレイション/サーキッツ 1976年1月号
甲第6号証 実開昭56-20354号公報
<理由1(未完成)>
本件考案は考案として完成されていないものであるから、旧実用新案法第3条柱書きの「産業上利用できる考案」でなく、当該柱書きによって登録を受けることができないものである。
よって、本件登録実用新案は同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
<理由2(進歩性)>
仮に本件考案が考案として完成されているとしても、甲第4?6号証に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案できたものであるから同法第3条第2項の規定により登録を受けることができないものである。
よって、本件登録実用新案は同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
(二)無効とすべき理由の概要
<理由1(未完成)について>
(1)本件考案の明細書でいう「整列巻」とは、内層から外層に巻き上げる線の交差点又は乗り上げ点以外では、巻線が完全に直線状に整列し、且つ、巻線の横断面が俵積み状になっていることを意味しており、この「整列巻」を実現するには、自己融着線の外径をdとしたとき、n層目の巻き終りと巻枠との間にほぼd/2の隙間gが必要であると記載されている。
ところが、このようなコイルに使用される自己融着線は工業製品である以上、その外径dが長さ方向に一定ということはあり得ず、或る公差の範囲で変動することが不可避である。してみれば、本件考案の明細書でいう、d/2の隙間gの数値そのものが変動するということになる。
従って、本件考案を実施するには、隙間gの値がどのようになりそうかを常に予測しつつ、一対の巻枠の間隔を制御しなければならないという道理になるはずである。
ところが、本件考案の明細書では、そのような制御を実現する方法については実質的に何も開示されていない。(中略)
「この隙間を2等辺A,B以外の頂部又は底部に設ける」とあるが、典型的なコイル巻線装置(一対のフランジを具えたボビンを回転させ、巻線を左右にトラバースさせることによりコイルを巻き上げる装置)を示す甲第1号証(特開昭56-12845号公報)からも知られるように、巻線装置の一対のつば(フランジ)は、通常、平行に設置されるものであるから、当然、その間の幅はどこでも一定のはずで、「この隙間を2等辺A,B以外の頂部又は底部に設ける」というのは、技術的にどのようなことを意味しているのか全く理解できないからである。
(2)自己融着線の外径dが長さ方向に変動することは不可避であるが故に、 「整列巻」を実現するには、例えば、甲第2号証(特開昭58-197709号公報)に開示されているような「計測と制御」をすることが必要なのである。(この公報の整列巻線機では、巻線の径の測定手段が具えられており、その実測線径値をもとにして、巻回時の線材送りピッチや巻幅を自動調整するようにしている。)なお、甲第3号証(特公昭59-963号公報)の第1欄の終わりから第2欄の始めにかけては、「導線の送り誤差、導線の直径のバラツキ、回転軸の偏心、導線の振動等」により、整列状態は乱れ、導線の重なりや飛び越しが生ずることが記載されている。
このように、偏平コイルの整列巻を実現するには、自己融着線の外径dが長さ方向に変動するため前記隙間gの値が一定しないという問題のみならず、「導線の選り誤差、回転軸の偏心、導線の振動等」により整列状態は乱れ導線の重なりや飛び越しが生ずるという問題が克服されなければならないのである。
結局、本件考案の明細書は、このようなコイルができれはよいという願望を記載したものに過ぎず、産業上利用できる考案として完成されていないことは明らかである。
(3)本件考案の明細書は、実現可能な「交差(乗り上げ)点を2等辺以外の任意の辺に集約する方法」を何ら開示しておらず、「この隙間を2等辺A,B以外の頂部又は底部に設けることにより、交差(乗り上げ)点を2等辺以外の辺に集約出来る。
隙間gを頂部又は底部に設けるには、例えば巻幅の調節が可能なつばを有するボビンを用い、交差が頂部又は底部で起る幅につば間隔を設定すればよい。」と、全く意味不明のことが書かれているに過ぎない。
結局、本件考案の明細書は、このようなコイルができれはよいという願望を記載したものに過ぎず、産業上利用できる考案として完成されていないことは明らかである。
<理由2(進歩性)について>
(1)本件考案と甲第4号証に記載された考案とを対比すると、両者は、自己融着線を用いた2等辺A,Bを有する、偏平型モータの三角形状のコイルである点では一致するが、本件考案では、内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を2等辺A,B以外の頂部又は底部に配設したことにより、コイル本体4の磁界を直交する2等辺A,B部分の線束が直線状に形成されている旨限定されているのに対して、甲第4号証では、これらの点については記載がないことが相違する。
ところが、前記のとおり、甲第5号証には、四角形状のコイルについて、本件考案でいう「整列巻」を実現するため、巻線の外径をdとしたとき、n層目の巻き終りと巻枠との間にd/2の隙間gを設け、四角形の3辺では、巻線はボビンの軸線に直角に、すなわち、直線状に巻かれ、残りの1辺において、巻線の直径dの分だけ斜めに走行し、上側の層と下側の層では、巻線の傾斜方向が互いに逆になることが開示されている。
従って、甲第5号証に開示されている四角形状コイルの巻線方法を甲第4号証の三角形状コイルの場合に適用すれは、三角形の2辺では、巻線はボビンの軸線に直角に、すなわち、直線状に巻かれ、残りの1辺において、巻線の直径dの分だけ斜めに走行し、上側の層と下側の層では、巻線の傾斜方向が互いに逆になるのは当然である。
なお、当業者であれば、四角形状コイルの巻線方法が知られているならば、これを、辺の数が1つ少ないだけの三角形状のコイルの巻線に適用しようとする「動機付け」があることは当然のことである。
このようにして出来上がった三角形状のコイルでは、巻線が斜めに走行する1辺では、上側の層と下側の層では、巻線の傾斜方向が互いに逆になるから、本件考案でいう交差点又は乗り上げ点ができて、巻線が盛り上がり、その部分が膨れた形状になることは明らかである。
従って、このような形状の三角形状のコイルを甲第4号証の第5図のような配置で使用しようとすれは、巻線が盛り上がって膨れた形状になる三角形の辺を、隣のコイルの巻線と僅かの間隔しかない、磁界と直交する内側の2辺の位置を避けて外側に配置しようとすることは、設計上、ごく自然に発想されることに過ぎず、当業者がそのようなことを発想するのに、格別の考案力を要しないことは明らかである。すなわち、甲第5号証の開示内容を三角形状のコイルに適用すれば、巻線が斜めに走行する1辺では、交差点又は乗り上げ点ができて、巻線が盛り上がり、その部分が膨れた形状になる一方、残りの2辺では、線束が直線状に形成されるコイルができるから、このコイルを磁界との関係でどのように配置するかは設計事項に過ぎない。
(2)そして、そのように、交差点又は乗り上げ点ができて、巻線が盛り上がり、膨れた形状になる辺を外側に配置すれは、偏平型モータにおける本件考案の効果として明細書に記載されているような事項が達成されることは全く自明のことに過ぎない。
なお、本件考案の実用新案登録請求の範囲では、偏平コイルの形状として、上記「三角形状」のほかに「台形状」についても言及されているが、甲第6号証(実開昭56-20354号公報)にあるように、「台形状」の偏平コイルも出願前公知であることに変わりはないから、上記「三角形状」の偏平コイルについて述べたことは、「台形状」の偏平コイルについてもそのまま当てはまるものである。すなわち、甲第5号証の開示内容を台形状のコイルに適用すれば、巻線が斜めに走行する1辺では、交差点又は乗り上げ点ができて、巻線が盛り上がり、その部分が膨れた形状になる一方、残りの3辺では、線束が直線状に形成されるコイルができるから、このコイルを磁界との関係でどのように配置するかは設計事項に過ぎない。
そして、そのように、交差点又は乗り上げ点ができて、巻線が盛り上がり、膨れた形状になる辺を頂部又は底部に配置すれば、偏平型モータにおける本件考案の効果として明細書に記載されているような事項が達成されることは全く自明のことである。
【4】当審の判断(その1)
理由1(未完成)について検討する。
(一)本件登録実用新案明細書には、以下の記載が認められる。(なお、摘記事項の記載箇所は本件公告公報による。)
(1-i)「コイルとして要求される品質を要約すれば、
(1)同一仕様の場合、出来るだけ外径が小さく仕上がること、
(2)コイルの外径の寸法精度が良いこと(図面通りに仕上がること)、
(3)2等辺A,Bの線束が直線状であること、
であり、上記3項目のうち(1)(2)は整列巻にすることによりある程度解決出来る。(3)を実現するためには整列であることのほかに次の条件が必要である。
一般にコイルは内層から外層へ線同士が交差しながら巻き上げられる。整列巻では各層内の線は整列しているが、各層の一部に線が線に乗り上げる交差部も生じる。つまり、最内側を1層目とすると、1層目を巻終えてから同側より折返して2層目に移り同様に多層巻きを行なうとき、2層目の線は1層目の線と線の谷間に位置するが(第5図)、整列に巻く場合n層目の巻き終わりから(n+1)層目の巻始めに移る箇所、即ち折り返し位置では線は巻きらせんの傾斜方向が変り、一周巻くごとに一部で下層の線の上に乗り上げ交差が起るため、線径をdとすれば一部の乗り上げ点での巻き厚は2dになる。これに対し他の大部分では下層線の谷間へ上層が位置する最密的巻回状態になるため2dcos30°(厳密にはd+dcos30°)の厚さで巻かれてゆく。
この事から線同士の交差(乗り上げ)位置ではコイルが盛り上るようになり、この盛り上りの位置は一定せず巻層を乱すことが自明である。
すなわち(3)を満たす必要条件として交差(乗り上げ)点を2等辺部以外の線束部に集約しなければならない。乗り上げ位置が2等辺部に来ると2dの巻厚により同じn層でも巻き上りの厚さが増し、外側にその分膨らむため直線状にならないからである。これに用いる線材は第4図のような構造の自己融着線が適しており、巻き上ったコイルを接着処理することにより、事後の型くずれを起こさない寸法精度の良いコイルが得られる。この自己融着線1は心線5の外周に絶縁被膜6を介して融着被膜7を施した構造を有し、加熱や溶剤塗布等の再活性化処理により接触膜同士がそのまま接着できる。小さく仕上げるには通常のボビンを省きいわゆるボビンレスコイルにする方が有利であるがこの場合にもやはり自己融着線が適している。」(公告公報1欄24行?3欄12行)
(1-ii)「コイルを整列に巻き上げるには第5図で判るようにn層目の巻き終わりと巻枠との間にほぼd/2の隙間gが必要である。この隙間2等辺A,B以外の頂部又は底部に設けることにより、交差(乗り上げ)点以外の任意の辺に集約出来る。隙間gを頂部又は底部に設けるには、例えば巻幅の調節が可能なつばを有するボビンを用い、交差が頂部又は底部で起る幅につば間隔を設定すれば良い。」(公告公報3欄13行?21行)
(1-iii)「この構成の本案コイルを製造するには、1層目の巻きを第1図の如く例えは頂部(底部でも可)から開始し、1層目の全幅を巻終えたのち2層目へ巻上げるが、その場合第1層の線への乗り上げは、前記つば間隔の設定等により頂部(又は底部)で起り、3層目、4層目…n…最外層まで同様に巻かれる。かくして本体4を熱風融着、通電加熱、溶剤塗布等により処理し、全体を融着被膜7で一体化し完成するものである。なお、完成したコイルの巻き線の厚さHはd+d(n-1)cos30°になる。」(公告公報4欄1行?11行)
(二)判断
本件明細書には、上記のとおりの記載が認められ、これらによれば審判請求人が主張するいずれの点においても、以下に検討するとおり理由がない。
(なお、審判請求人の主張に則して検討する。)
(1)審判請求人は、
「コイルに使用される自己融着線は工業製品である以上、その外径は長さ方向に一定ということはあり得ず、或る公差の範囲で変動することが不可避である。してみれば、本件考案の明細書でいう、d/2の隙間gの数値そのものが変動するということになる。
従って、n属目の巻き終わりと巻枠との間の間際d/2は変動する。
したがって、本件考案を実施するには、間隙gの値がどのようになりそうかを常に予測しつつ、一対の巻枠の間隔を制御しなければならないという道理になるはずである。
ところが、本件考案の明細書では、そのような制御を実現する方法については実質的に何も開示されていない。」(審判請求書3頁16行?24行)旨主張する。
しかしながら、審判請求人が主張するように通常は自己融着線の製造時にその外径寸法が変動するものであることは当然であるが、これは自己融着線の製造工程上、仕上り外径の寸法変動の殆どは塗料の濃度、粘度変化にともなう被膜厚のバラツキであり、またこの自己融着線の仕上り外径の寸法は長さ方向での長い周期で微小変化する程度のものとするのが技術常識であると認められる。そして、この程度の外径寸法の変動は、通常本件におけるようなコイル1個に必要とする自己融着電線の長さでは、整列巻コイルの製作にあたって無視できる程度のものと認められる。さらに、自己融着線はコイル製造に使用するための工業製品である以上、コイルに使用できない程、すなわち整列巻コイルの製作に適合しない程その外径dが長さ方向に変動するものが流通するとは考えられないから、自己融着線の外径寸法のバラツキは現実的にコイル製作上なんら支障はない。
したがって、審判請求人による、自己融着電線の仕上り外径のバラツキを論拠として整列巻コイルは不可能とする主張は、本件明細書には整列巻に係る製造方法が明示され、また前記したとおりの理由により、当該主張は採用することができない。
(2)審判請求人は、
「公報第3欄15行乃至21行に、「この隙間を2等辺A,B以外の頂部又は底部に設けることにより、交差(乗り上げ)点を2等辺以外の任意の辺に集約出来る。隙間gを頂部又は底部に設けるには、例えば巻幡の調節が可能なつばを有するボビンを用い、交差が頂部又は底部で起る幅につば間隔を設定すればよい。」と記載されているが、この文章は理解できない。……(略)……
コイル巻線装置(一対のフランジを具えたボビンを回転させ、巻線を左右にトラバースさせることによりコイルを巻き上げる装置)を示す甲第1号証(特開昭56-12845号公報)からも知られるように、巻線装置の一対のつば(フランジ)は、通常、平行に設置されるものであるから、当然、その間の幅はどこでも一定のはずで、「この隙間を2等辺A,B以外の頂部又は底部に設ける」というのは、技術的にどのようなことを意味しているのか全く理解できないからである。また、前記文章の後半の、「巻幅の調節が可能なつばを有するボビンを用い、交差が項部又は底部で起る幅につば間隔を設定すればよい。」については、意味不明である。……(略)……
巻線装置の軸は毎分数千回も回転しているのであるから、「交差が頂部又は底部で起る度につば間隔を設定する」ようなことが技術的に可能とは思われない。結局のところ、前記文章の意味するところは理解不能である。」(審判請求書3頁25行?4頁18行)旨主張する。
しかしながら、前記(一)項に摘記したように、本件考案は「交差若しくは乗り上げ点を2等辺A,B以外の頂部又は底部に配設した」整列巻偏平コイルであって、本件明細書には本件考案の整列巻コイルの製造方法が明示されているのであるから、審判請求人が主張する考案末完成についての当該主張は採用することができない。
(3)審判請求人は、
「整列巻を実現するには、甲第2号証に示されるような「計測と制御」が必要であるのに明細書には開示されていない。」(審判請求書4頁19行?5頁3行)旨主張している。
しかしながら、審判請求人が引用する甲第2号証は整列巻コイルの製作に必須の条件を示したものではない。すなわち、甲第2号証は整列巻コイルの製作にあたってさらなる生産効率向上を目的とし、所定の「計測と制御」を導入したものであり、整列巻コイルの製作を実現するために必ずしも必要な条件ではない。
そして、本件考案は、「整列巻偏平コイル」の構造に係るものであって製造方法を規定するものではないのであり、また該製造方法の開示の程度においても、本件においては効率的・量産化による製造を可能とする程度まで開示する必要があるものとまではいえない。
(なお、被請求人が答弁するように、本件考案のコイルは、1層目のm列全幅を巻き終えたのち、g≒d/2の隙間を作るのであるから巻幅(w)は常に、1層目のm列全幅の電線外径の平均値をdとするとW=md+d/2となり、電線外径の計測は必要としない。また、コイルごとに1層目のm列全幅を巻き終えたのち、つばを調節し巻幅を設定するのであるから完壁な巻幅制御が行われる。例えば、倣い巻きで説明すればd/2の制御は目視で行うが隣りに線があるので容易に行うことができる。)
(4)審判請求人は、
「本件考案の明細書は、実現可能な「交差(乗り上げ)点を2等辺以外の任意の辺に集約する方法」を何ら開示していないので考案として完成されていない」(審判請求書5頁4行?22行)旨主張する。
しかしながら、前記(一)(1-ii)で摘記したように本件明細書(公告公報3欄13行?17行)には「コイルを整列に巻き上げるには第5図で判るようにn層目の巻き終りと巻枠との間にほぼd/2の隙間gが必要である。この隙間を2等辺A,B以外の頂部又は底部に設けることにより、交差(乗り上げ)点以外の任意の辺に集約できる。」と記載され、これによれば、2層目の最初の巻線は、その1層目の最後の巻線とつばとの間のd/2の隙間に乗って巻かれ、2層目の巻線は最初の線に沿って巻かれることとなり、その乗り上げ点は、2層目の巻線と1層目の巻線の交差点となる。したがって、交差(乗り上げ)点は、1層目の最後の巻線とつばの間のd/2の間隙を設ける位置を定めることにより制御されることとなる。
したがって、考案として完成されていないとまではいえず、審判請求人の当該主張は採用することができない。
(5)以上のとおりであって、本件考案は、甲第1号証乃至甲第3号証の記載を参酌したとしても、実用新案法第3条第1項柱書きに言う「考案」に該当しないものであるとすることはできず、また同じく柱書きにいう「産業上利用することができる考案」に該当しないものであるとすることもできない。
(三)まとめ
したがって、本件実用新案登録は実用新案法第3条第1項柱書きの規定に違反してなされたものとすることはできないから、請求人が主張する無効とすべき理由1(未完成)については理由があるものとすることができない。
【5】当審の判断(その2)
理由2(進歩性)について検討する。
(一)各甲号証に記載された考案
(1)甲第4号証(特開昭56-10062号公報)には、「偏平型ブラシレスモータ」に係る考案であって、自己融着線を用いて三角形状の偏平コイルを構成するものが開示され、その従来技術及び図面とこれに係わる記載を参酌すると、以下のような考案が記載されているものと認められる。
「融着皮膜(12)が施された融着導線(13)を用いた略三角形の形状のコイルにおいて、内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を具備したことにより、コイル(8)本体の線束が形成されている偏平型モータの整列巻偏平コイル。」
なお、コイル(8)は、通常、整列巻として構成されるものであり、したがって内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を具備すること、及びコイル(8)本体の線束が形成されることは、当該甲第4号証における記載全般及び技術常識に照らし、自明の技術的事項である。
(2)甲第5号証(インシュレイション/サーキッツ[Insulation/Circuits]1976年1月号第31?32頁)には、一対の巻枠を有するボビンを用いて四角形状のコイルを巻き上げる技術的事項が開示されている。また、第32頁の右側図から「整列巻」となすには、巻線の外径をdとしたとき、n層目の巻き終りと巻枠との間にd/2の隙間を必することが開示されている。
(3)甲第6号証(実開昭56-20354号公報)には、モータの扁平コイルを「台形状」とする技術的事項が開示されている。
(二)対比
本件考案と甲第4号証(特開昭56-10062号公報)に記載された考案(以下、「引用例考案」という。)とを対比すると、引用例考案におけるコイル(8)を構成する「融着導線(13)」は互いに融着されるものであるから、本件考案における「自己融着線」に相当するものと認められる。
したがって、両者は、
(一致点)
「自己融着線を用いた三角形の形状のコイルにおいて、内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を配設したことにより、コイル本体4の線束が形成されている偏平型モータの整列巻偏平コイル。」
で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
(相違点)
(1)三角形の形状のコイルが、本件考案にあっては、2等辺A、Bを有する三角形の形状であり、この2等辺A、Bの部分が磁界と直交すると共に線束が直線状であるのに対し、引用例考案にあっては、この点の構成が明示されておらず、したがって磁界と直交すると共に線束が直線状であるのか否か明らかでない点。
(2)内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点が、本件考案にあっては、2等辺A、B以外の頂部又は底部に配設したものであるのに対し、引用例考案にあっては、その構成が明らかでない点。
(三)判断
以下、相違点について検討すると、相違点1及び2は、いずれもコイルの整列巻についての具体的構造に係わるものであるから、以下に併せて検討する。
(1)コイルを整列巻となした扁平型などのモータにおいて、そのコイルや磁石の形状・配置は、駆動トルクの増大やその変動など所望とする電気的特性を考慮して適宜に定める設計上の事項である。そして、該コイルを略三角形の形状となすものにおいては、前記電気的特性を考慮するとトルクに寄与する部分が回転軸の放射線方向に対して面対称性を有するように、すなわち三角形の頂点を回転軸方向として2等辺(A、B)を形成するような配置構成とすることが理に適うものであって当業者における技術的常識に係わる事項であると認められる。
しかしながら、この2等辺A、Bを形成するものにおいて、さらに整列巻における線束となる部分が、この2等辺A、Bの部分であって、かつ磁界と直交すると共に線束が直線状であるように、内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を「2等辺A、B以外の頂部又は底部に配設した」構成となすことは刊行物5乃至6(さらには刊行物1乃至3)に何ら開示されておらず、またこれらの刊行物5乃至6(さらには刊行物1乃至3)から自明の技術的事項であるとも認められない。
そして、本件考案は、この相違点1乃至2において、本件明細書に記載(本件公告公報4欄14?29行)されたとおりの作用効果を奏するものであって、当業者が容易に予測しうるものとは認められない。
したがって、本件考案は、刊行物4乃至6に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたもの、とすることはできない。
(2)以下、審判請求人の主張に沿って敷衍する。
(2-i)審判請求人は、審判請求書6頁2行?15行において、甲第5号証には「一対の巻枠を有するボビンを用いて四角形状のコイルを巻き上げる技術が開示されている。n層目の巻き終りと巻枠間にd/2の隙間gが必要であることが示されている。」旨主張している。
しかしながら、甲第5号証に記載されてコイルは四角形ボビンに巻いたコイルが開示されているに止まるものであって、本件考案における三角形または台形とはその形状、構造が相違し、また線の交差点(乗り上げ点)をモータの回転駆動力が発生する2辺以外の頂点または底部に配置することの示唆も見当たらない。そして、審判請求人は、甲第5号証に記載されたコイルは線の外径がバラツクため交差点(乗り上げ点)が乱れる旨主張しているのであるから、本件考案の回転駆動力に係わるものと異なるものである。
(2-ii)審判請求人は、審判請求書7頁13行?22行及び同頁27行?8頁11行において、 交差点(乗り上げ点)をどこにするかまたコイルの配置を磁界とどのような関係とするかは「設計的事項に過ぎない」ことであり、またその効果も「自明のことに過ぎない」ものであって、本件考案は「甲第4号証と甲第5号証に基づいて容易に考案をすることができた」旨主張している。
しかしながら、前述したように、甲第4号証には交差点(乗り上げ点)がどの辺に分布したもの(すなわち、全辺に分布したものであるのかあるいは1辺に纏めて分布したものであるのか)明らかでなく、また甲第5号証は四辺形のコイルであって、交差点(乗り上げ点)は一辺に設けられているものの、磁界との関連配置、すなわち磁界と直交する辺に配置されるのかあるいは磁界と直交しない辺に配置されるのかは考慮されておらず、この構成を示唆する記載も見当たらない。すなわち、甲第4号証と甲第5号証を組合わせ乃至寄せ集めても、線の交差点(乗り上げ点)を3辺の内の1辺に分布したものとして構成するものに止まるものであって、コイルの回転駆動力を発生させる辺と磁界との直交をも考慮した配置構成を採用するものまで想到することができるものとはいえない。また、他にこのコイルの具体的構成及び配置構成を「設計的事項にすぎない」とする技術的事項も見出すことはできない。
そして、本件考案にあっては、このコイルの回転駆動力を発生する一辺に交差点(乗り上げ点)を設けて三角形の形状としたコイル(三角形または台形の偏平コイル)が、磁界と直交する回転力を発生させる二等辺A、B以外の頂部又は底部に交差点(乗り上げ点)を配置し、該二等辺A、B部分の線束を直線状に整列させて最大の回転力を得る整列巻偏平コイルとなしたものであるから、この構成が各甲号証から自明乃至は容易になし得るものであるとも、またその効果が自明のことにすぎないものであるともすることはできない。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。
(2-iii)なお、審判請求人は、審判請求書7頁6行?8行において、「なお、当業者であれば、四角形状コイルの巻線方法が知られているならば、これを、辺の数が1つ少ないだけの三角形状のコイルの巻線に適用しようとする「動機付け」がある事は当然のことである。」と主張しているが、本件考案は四角形の形状のコイルの線の巻方を三角形の形状のコイルに適用したものではないのであるから、当該主張はその前提において当を得ないものである。
(四)まとめ
したがって、本件実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできないから、審判請求人が主張する無効とすべき理由2(進歩性)については理由があるものとすることができない。
【6】むすび
以上のとおりであるから、審判請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-05-10 
結審通知日 2000-05-23 
審決日 2000-06-05 
出願番号 実願昭56-99264 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (H01F)
U 1 112・ 14- Y (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 朗矢田 歩  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 田口 英雄
片岡 栄一
登録日 1994-12-16 
登録番号 実用新案登録第2043303号(U2043303) 
考案の名称 整列巻コイル  
代理人 高橋 淳  
代理人 木下 洋平  
代理人 渡辺 秀夫  
代理人 野村 晋右  
代理人 本谷 康人  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社   サービスに関しての問い合わせ