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審決分類 審判 全部申し立て   B41J
審判 全部申し立て   B41J
審判 全部申し立て   B41J
管理番号 1020849
異議申立番号 異議1998-72182  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-04-22 
確定日 2000-04-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 登録第2551597号「サーマルインクジェット記録装置」の実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 訂正を認める。 登録第2551597号の請求項1ないし3に係る実用新案登録を維持する。
理由 1.手続きの経緯
実用新案登録第2551597号の請求項1?3に係る考案(以下まとめて「本件考案」という。)は、平成2年12月29日に実用新案登録出願され、平成9年6月27日に実用新案登録の設定登録がされ、その後異議申立人、山口雅行により実用新案登録異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月5日に訂正請求がされた後、訂正拒絶理由が通知され、訂正拒絶理由に対して手続補正書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正請求に対する補正の適否
(1)実用新案権者は、訂正請求書第4頁第21行?22行記載の「・・・後方に行くにつれてヒーターが設けられた基板に近づくようになる向きに傾斜させる・・・」を「・・・ヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる・・・」と補正するものであり、当該訂正請求に対する補正は、ヒーター発熱面上方の空間を傾斜させるに当たって、ヒーター発熱面の後端部の上方より傾斜させると更に減縮するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものでない。
(2)実用新案権者は、訂正請求書第5頁第1行?第2行記載の「・・・後方に行くにつれてヒーターが設けられた基板に近づくようになる向きに傾斜させる・・・」を「・・・ヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる・・・」と補正し、訂正請求書第5頁第11行?12行記載の「・・・後方に行くにつれてヒーターが設けられた基板に近づくようになる向きに傾斜させる・・・」を「・・・ヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる・・・」と補正している。これらの訂正請求に対する補正も上記(1)と同じ補正であり、上記(1)と同様に訂正請求書の要旨を変更するものではない。
(3)実用新案権者は、訂正請求書第5頁第22行?23行、27行?28行、第6頁第4行?5行、第13行?第14行、第27行?第28行記載の「後方に行くにつれてヒーターが設けられた基板に近づくようになる向きに傾斜させる」とあるを「ヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる 」と補正するものであるが、これらの訂正請求書に対する補正は実用新案登録請求の範囲の訂正に伴って、考案の詳細な説明の記載をそれに整合させるものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
以上のことから、本件訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法第120条の4第3項においてさらに準用する同法第131条第2項の規定に適合する。

イ.訂正の内容
a.実用新案登録請求の範囲の請求項1「ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成したことを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」を「ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」と訂正 。
b.実用新案登録請求の範囲の請求項2「ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成 するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」を「ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジエット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」と訂正。
c.実用新案登録請求の範囲の請求項3「ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成 するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」を「ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」と訂正。
d.考案の詳細な説明の段落[0005]「[課題を解決するための手段]本考案は、ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、請求項1に記載の考案においては、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成したことを特徴とするものであり、請求項2に記載の考案においては、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成 するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものであり、そして、請求項3に記載の考案においては、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成 するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものである。」を「[課題を解決するための手段]本考案は、ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、請求項1に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことを特徴とするものであり、請求項2に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものであり、そして、請求項3に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とする ものである。」と訂正。
e.考案の詳細な説明の段落[0007]「ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成したことにより、生成されるバブルの体積が変化すると、バブルのつぶれる位置が変化する。通常の印字において、バブルの大きさが必ずしも一定でないことにより、キャビテーションダメージを分散させることができる。」を「 ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことにより、生成されるバブルの体積が変化すると、バブルのつぶれる位置が変化する。通常の印字において、バブルの大きさが必ずしも一定でないことにより、キャビテーションダメージを分散させることができる。」と訂正。
f.考案の詳細な説明の段落[0015]「このような従来のサーマルインクジェットヘッドにおいては、ヒーターの上部空間は、インク流路の軸方向にも、軸と直角方向にも対称である。したがって、上述したように、生成される気泡の大きさにかかわらず、バブルも対称的に生成され、バブルの重心は、常に一定であり、気泡がつぶれる位置は常に同じ位置となる。」を「このような従来のサーマルインクジェットヘッドにおいては、ヒーター発熱面の上方の空間は、インク流路の軸方向にも、軸と直角方向にも対称である。したがって、上述したように、生成される気泡の大きさにかかわらず、バブルも対称的に生成され、バブルの重心は、常に一定であり、気泡がつぶれる位置は常に同じ位置となる。」と訂正。
g.考案の詳細な説明の段落[0017]「したがって、ヒーター3の上方の空間は、ピットがヒーターに対して溝の軸方向に非対称に延びていることにより、また、チャンネル基板における溝が、ヒーターの上方でその軸方向に非対称に配置されていることによって、ヒーター上方の空間は、溝の軸方向に非対称にされている。」を「したがって、ヒーター3の発熱面上方の空間は、ピットがヒーターに対して溝の軸方向に非対称に延びていることにより、また、チャンネル基板における溝が、ヒーター発熱面上方でチャンネル基板が有する溝の上部がヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向が非対称に配置されていることによって、ヒーター発熱面上方の空間は、溝の軸方向に非対称にされている。」と訂正。
h.考案の詳細な説明の段落[0019]「図4,図5は、本考案の他の実施例におけるヘッド構造を説明するための図である。図中、図14,図15と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図4は、ヒーター基板の平面図である。図5は、チャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。この実施例では、ヒーター基板1およびチャンネル基板2の構造は、図14,図15に示した従来例と同じであるが、チャンネルが横方向にずれて接着されている点で、従来例と相違する。」を「図4,図5は、本考案の参考例におけるヘッド構造を説明するための図である。図中、図14,図15と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図4は、ヒーター基板の平面図である。図5は、チャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。この実施例では、ヒーター基板1およびチャンネル基板2の構造は、図14,図15に示した従来例と同じであるが、チャンネルが横方向にずれて接着されている点で、従来例と相違する。」と訂正。
i.考案の詳細な説明の段落[0020]「この位置ずれによって、ヒーター発熱面上方の空間が、溝と直角方向に対して非対称な形状となっている。この構造のヘッドを用いて、ヒーター寿命を評価、比較した結果、先に述べた実施例と同様に長いヒーター寿命を得ることができた。この実施例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化したと考えることができる。」を「この位置ずれによって、ヒーター発熱面上方の空間が、溝と直角方向に対して非対称な形状となっている。この構造のヘッドを用いて、ヒーター寿命を評価、比較した結果、先に述べた実施例と同様に長いヒーター寿命を得ることができた。この参考例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化したと考えることができる。」と訂正。
j.考案の詳細な説明の段落[0023]「図1乃至図3、および、図4,図5で説明した実施例のサーマルインクジェットヘッドに、図6,図8で説明したヒーター駆動方法を用いて印字したところ、従来例と同様の印字画像を得ることができた。従来例の駆動方法は、駆動電圧が一定の30Vであるのに対して、この実施例では駆動電圧が、28.6?31.4Vの範囲で変動する。駆動電圧が一定でないのに同様の印字画像が得られる理由は、用いたヘッドにおいて、インク滴を吐出できる最低電圧が約27Vであり、この実施例のサーマルインクジェットのヒーター駆動方法における、最小駆動電圧28.6Vにおいても、インク滴の吐出に悪影響を及ぼさないだけのマージンを持っていることによると考えられる。また、同じく最大駆動電圧31.4Vにおいても、インク滴の吐出への悪影響は見られなかった。また、最小駆動電圧と最大駆動電圧でのドット径を測定して比較した結果、その差は、3%程度であり、ばらつきの範囲内であった。つまり、駆動電圧の変化範囲は、インク滴を安定的に吐出できる範囲内を選択したということができる。」を「図1乃至図3で説明した実施例のサーマルインクジェットヘッドに、図6,図8で説明したヒーター駆動方法を用いて印字したところ、従来例と同様の印字画像を得ることができた。従来例の駆動方法は、駆動電圧が一定の30Vであるのに対して、この実施例では駆動電圧が、28.6?31.4Vの範囲で変動する。駆動電圧が一定でないのに同様の印字画像が得られる理由は、用いたヘッドにおいて、インク滴を吐出できる最低電圧が約27Vであり、この実施例のサーマルインクジェットのヒーター駆動方法における、最小駆動電圧28.6Vにおいても、インク滴の吐出に悪影響を及ぼさないだけのマージンを持っていることによると考えられる。また、同じく最大駆動電圧31.4Vにおいても、インク滴の吐出への悪影響は見られなかった。また、最小駆動電圧と最大駆動電圧でのドット径を測定して比較した結果、その差は、3%程度であり、ばらつきの範囲内であった。つまり、駆動電圧の変化範囲は、インク滴を安定的に吐出できる範囲内を選択したということができる。」と訂正。
k.考案の詳細な説明の段落[0029]「上述した2つの実施例では、ヒーターの駆動電圧が一定の周期を持つ波形であったが、図9に示すように所定の範囲内の振幅変化の中で、ヒーター駆動電圧が不規則に変化するようにしてもよい。」を「上述した実施例では、ヒーターの駆動電圧が一定の周期を持つ波形であったが、図9に示すように所定の範囲内の振幅変化の中で、ヒーター駆動電圧が不規則に変化するようにしてもよい。」と訂正。
l.考案の詳細な説明の段落[0034]「図11,図12は、上述した駆動方法に適したヘッド構造の別の実施例の断面図である。図中、図16と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図16の従来例と比較すると、図11、図12ともにヒーター発熱面に対するピット7の形状が、インク滴吐出方向に対して非対称な形状となっている。」を「図11,図12は、上述した駆動方法に適したヘッド構造の別の参考例の断面図である。図中、図16と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図16の従来例と比較すると、図11、図12ともにヒーター発熱面に対するピット7の形状が、インク滴吐出方向に対して非対称な形状となっている。」と訂正。
m.考案の詳細な説明の段落[0037]「これらの構造のヘッドを用いて、ヒーター寿命を評価・比較した結果、図1乃至図3で説明したサーマルインクジェットヘッドに、図8で説明したヒーター駆動方法を用いて印字した結果と同様に長いヒーター寿命を得た。この実施例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化が達成できたものと考えられる。」を「これらの構造のヘッドを用いて、ヒーター寿命を評価・比較した結果、図1乃至図3で説明したサーマルインクジェットヘッドに、図8で説明したヒーター駆動方法を用いて印字した結果と同様に長いヒーター寿命を得た。この参考例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化が達成できたものと考えられる。」と訂正。
n.明細書の[図面の簡単な説明]の項を「[図1]本考案の一実施例におけるヒーター基板の平面図である。[図2]本考案の一実施例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。[図3]本考案の一実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図4]本考案の他の実施例におけるヒーター基板の平面図である。[図5]本考案の他の実施例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。[図6]本考案の一実施例におけるヒーターの駆動回路の等価回路である。[図7]一般的なヒーター駆動方法を説明するための等価回路である。[図8]図6における駆動装置の駆動電圧の一例の説明図である。[図9]図6における駆動装置の駆動電圧の他の例の説明図である。[図10]図6における駆動装置の駆動電圧の別の例の説明図である。「図11]本考案における別の実施例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図12]本考案における別の実施例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図13]サーマルインクジェットヘッドの従来例の一部を切断した斜視図である。[図14]従来例におけるヒーター基板の平面図である。[図15]従来例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は、断面図である。[図16]従来例のサーマルインクジェットヘッドの要部の断面図である。 【符号の説明】 1 ヒーター基板 2 チャンネル基板 3 ヒーター 4 共通電極 5 個別電極 6 ピット層 7 ピット 8 インク流路 9 ノズル」を「[図1]本考案の一実施例におけるヒーター基板の平面図である。[図2]本考案の一実施例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。[図3]本考案の一実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図4]本考案の参考例におけるヒーター基板の平面図である。[図5]本考案の参考例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。[図6]本考案の一実施例におけるヒーターの駆動回路の等価回路である。[図7]一般的なヒーター駆動方法を説明するための等価回路である。[図8]図6における駆動装置の駆動電圧の一例の説明図である。[図9]図6における駆動装置の駆動電圧の他の例の説明図である。[図10]図6における駆動装置の駆動電圧の別の例の説明図である。「図11]本考案における別の参考例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図12]本考案における別の参考例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図13]サーマルインクジェットヘッドの従来例の一部を切断した斜視図である。[図14]従来例におけるヒーター基板の平面図である。[図15]従来例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は、断面図である。[図16]従来例のサーマルインクジェットヘッドの要部の断面図である。 【符号の説明】 1 ヒーター基板 2 チャンネル基板 3 ヒーター 4 共通電極 5 個別電極 6 ピット層 7 ピット 8 インク流路 9 ノズル」と訂正。

ウ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項a、b、cは請求項1,2,3に共通する構成のうち
a.「ノズルを形成するための溝」を「前方にノズルが形成されるための溝」に、
b.「ヒーター上方の空間」を「ヒーター発熱面上方の空間」に、
c.「ヒーター上方の空間を、・・・溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成」を「チャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成」
に訂正したものである。
aの訂正は、ノズルと溝との関連構造を明瞭にするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
bの訂正は、ヒーター上方をヒーター発熱面の上方に区域を限定するものであり、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものである。
cの訂正は、溝の軸と直角方向を非対称にする構成を削除するとともに、溝の軸方向を非対称に形成するための具体的な構成に限定するものであり、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項d、eは、訂正事項a、b、cに伴なって、「課題を解決するための手段」および「作用」の項を、実用新案登録請求の範囲の記載に整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(3)訂正事項fは、「ヒーターの上部」を「ヒーター発熱面上方」とその位置を具体的に説明するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(4)訂正事項gは、「ヒーター3の上方の空間」を「ヒーター発熱面上方」とその位置を具体的に説明するものであるし、「ヒーターの上方でその軸方向に非対称に配置されている」を「ヒーター発熱面上方でチャンネル基板が有する溝の上部がヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向が非対称に配置されている」と非対称となる構成を具体的に説明するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(5)訂正事項h、i、j、k、l、m、nはいずれも、訂正事項aによって実用新案登録請求の範囲を減縮したことに伴って、図4,図5、図11,図12に示された例を「参考例」としたことにより、考案の詳細な説明をそれに整合させるためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そしてこれら(1)?(5)の訂正にかかる構成は、願書に添付した明細書および図面に記載された事項であるとともに、この訂正が実用新案登録請求の範囲を実質的に拡張しまたは変更するものでもない。

エ.独立特許要件の判断
(1)訂正明細書の請求項1に係る考案(以下「本件考案1」という。)
本件考案1はその実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりである。
「ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」
(2)当審の訂正拒絶理由の概要
本件考案1は、特開平2-4510号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された考案であり、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録出願の際独立して実用新案を受けることができないものである、というものである。
(3)刊行物1記載の考案
a.例えば、第2図に示したような構成を有する記録ヘッドにおいては、上述のような材料および形成方法で各部分を形成すれば、各部分の精度良い微細化やオリフィスのマルチ化、あるいは小型化が極めて容易であり、また量産性に富むという利点を有するが、オリフィスからのインク滴の吐出方向に乱れが生じ易く、印字品位が低下する場合があり、またインク滴吐出の際の応答周波数やインク滴の飛行速度に限界があった。すなわち、記録ヘッドを構成する基板1、壁材2および天板3の各構成部分に用いられる材料の材質は、通常これらそれぞれの部分の機能や加工性の面から異なる。その結果、オリフィス5の開口端面1aのオリフィス5周辺およびオリフィス5を構成する部分の天井、側壁、底部におけるインクの濡れ性や表面の平滑性が部分的に異なってしまい、インクをオリフィスから吐出させる際に、・・・第3図に示したようにインクの吐出方向が基板1側へ乱れ、被記録材へのインク滴の着弾点のズレを生じる。また、第2図に一点鎖線14bで示したように、流路の中心線とオリフィスの開口中心軸とが同一直線上にある構成となっているため、吐出エネルギーのインク滴形成およびインク滴の飛行速度への変換率にも限界がある。(公報第2頁左下欄第12行?右下欄下から2行)
b.その上、オリフィスを構成する部分の材料が同一となっているので、オリフィス構成部におけるインクの濡れ性、平滑性が均一となり、安定したインク滴形成と飛行方向の直進性を効果的に高めることができる。・・・まず、吐出エネルギー発生体7及び該発生体に記録信号を印加するための電極(不図示)が設けられた基板1上に、吐出エネルギー発生体7の配置に対応した流路4の吐出エネルギー発生体7上部までの部分およびオリフィス5の底部となる部分を構成する層8を設ける。なお、基板1は、例えばシリコンウエハー、ガラス、絶縁層を表面に持つ金属、樹脂フィルム、セラミックス等からなる基体の絶縁性を有する面の所定部分に、・・・電極を形成し、・・・次に、層8上に少なくとも流路4の覆い部分およびオリフィス5の側壁部分を構成する層9と、少なくともオリフィス5の天井部分を構成する層10を順次積層した後、層10の上に更にガラス、金属プレート、セラミックス、樹脂などの強度の高い材料からなる天板3を接着した接合体を形成する。(公報第4頁右上欄第1行?左下欄下から4行)
c.層8,9,10の形成には、・・・それぞれが同一材料から形成されるように層8,9を順次積層し、更にこれらの層と同一材料からなる板材等の層10を積層する方法などを用いることができ(公報第4頁右下欄第5行?下から6行)
d.更に、吐出エネルギー発生体7付近からの流路の屈曲形状は上記の例のように折れ曲がり形状に限定されるものではなく、例えば第5図(A)および(B)に示すような湾曲状とするなど種々の態様を取り得る。(公報第5頁左上欄第8行?12行)
e.(1)オリフィス構成部分のインクの濡れ性と平滑性が均一であるので、オリフィスから吐出されたインク滴の被記録材への良好な着弾位置精度が得られ、長期にわたって常に高品位な画像を得ることができる。(2)吐出エネルギー発生体からのエネルギーをインクに効率良く作用させることができ、より高い応答周波数とインク滴の飛行速度を得ることができる。(公報第5頁左上欄末行?右上欄第8行)
(4)対比
本件考案1を刊行物1記載の考案、特に第5図(B)記載の考案と対比すると、次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
「サーマルインクジェット記録装置において、溝の上部をヒーター発熱面上方において前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したサーマルインクジェット記録装置。」
(相違点)
(a)サーマルインクジェット記録装置が、本件考案1においてはヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されているのに対して、刊行物1記載の考案はヒーターが設けられた基板1に同一材料からなる層8,9,10を順次積層し、さらに天板3を接合して構成されている点
(b)溝の上部をヒーター発熱面上方において前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させるに当たって、本件考案1はヒーター発熱面の後端部の上方より前方に傾斜させているのに対して、刊行物1記載の考案はヒーター発熱面のどの部分の上方より傾斜させているか明確ではない点
(5)相違点の検討
相違点(a)について検討すると、刊行物1記載の考案はオリフィスを構成する部分の材料を同一にして、オリフィス構成部におけるインクの濡れ性、平滑性を均一にし、安定したインク滴形成と飛行方向の直進性を得るものであることから、オリフィスを構成する部分と基板1や天板3とは別の部材として構成することを特長とするものであり、層8,9,10と天板3を一つの部材としてチャンネル基板に相当するとして、これをヒーターが設けられた基板1に接合してサーマルインクジェット記録装置を構成したものとみることはできない。したがって、相違点(a)に関して刊行物1に実質的に本件考案1と同一の構成が記載されているとすることはできない。
また、刊行物1記載の考案は上記技術的意義からみて、層8,9,10と天板3を一体の部材として前方にノズルが形成されるためのチャンネル基板とすることが、当業者にとってきわめて容易に考えつくことができたとすることもできない。
相違点(b)については、刊行物1記載の考案はヒーター発熱面の後端部の上方より傾斜していると明記されていないし、第5図(b)は第5図(a)とともに屈曲形状の一例を概略的に示すものであって、この図面に傾斜部とヒーター発熱面後端部との位置関係が明確に示唆されているとすることはできないし、概略図である第5図(b)においてもヒーター発熱面の後端部の上方より傾斜しているとみることができない。したがって相違点(b)に関して刊行物1に実質的に同一の構成が記載されているとすることはできない。
また、溝の上部をヒーター発熱面上方において前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させた技術的意義が、本件考案1では発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにするためのものであるのに対して、刊行物1では吐出エネルギー発生体からのエネルギーをインクに効率よく作用させるために屈曲させたものであって、その技術的意義の異なる考案の一例を概略的に示した図面から、「ヒーター発熱面の後端部の上方より前方に傾斜している」という構成を当業者がきわめて容易に考えつくことができたとすることはできない。
したがって、本件考案1は特開平2-4510号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された考案であるとすることも、それに基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとすることもできないから、実用新案登録出願の際独立して実用新案を受けることができるものである。
(6)本件考案1と取消理由通知で示したその他の刊行物、また異議申立書添付のその他の証拠との対比
刊行物1(特開平2-92547号公報)には、発熱抵抗体を部分的に厚くして結果的に基板側を傾斜させるものは記載されているが、本件考案1の構成要件である「溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる」点が記載されていない。
刊行物2(特開昭58-1569号公報)記載の考案は傾斜の向きが反対であって、本件考案1の構成要件である「溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる」点を備えていない。
刊行物3(特開昭59-138460号公報)記載の考案は溝の上部をヒーター発熱面上方において傾斜させておらず、本件考案1の構成要件である「溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる」点を備えていない。
刊行物4(特開昭55-128465号公報)記載の考案は溝の上部をヒーター発熱面上方において傾斜させておらず、本件考案1の構成要件である「溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる」点を備えていない。
甲第6号証(特開昭60-107356号公報)、甲第7号証(特開昭56-64878号公報)、甲第8号証(特開昭61-242850号公報)、甲第9号証(特開昭60-125675号公報)記載の考案はいずれもヒーターに印加する駆動エネルギーに関する考案であり、本件考案1の構成要件である「溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させる」点を備えていない。
以上のことから、本件考案1は、刊行物1?4および甲第6?9号証に記載された考案であるとすることも、当業者がそれらの考案に基づいてきわめて容易に考案することができたものであるとすることもできないから、実用新案登録出願の際独立して実用新案を受けることができるものである。

オ.訂正明細書の請求項2および請求項3に係る考案は、本件考案1の構成をそっくり含むものであり、本件考案1が実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである以上、請求項2および請求項3に係る考案も実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである。

カ.異議申立書第18頁d.で主張の明細書の記載要件の不備については、訂正請求により図11や図12記載の例を本件考案の実施例から除外して参考例としたので、明細書の記載不備は解消され、本件考案は実用新案登録出願の際独立して実用新案を受けることができるものである。

キ.むすび
以上の通りであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.実用新案登録異議申立についての判断
ア.申立の理由
異議申立人、山口雅行は、請求項1,請求項2,請求項3に係る考案は、甲第1号証(特開平2-92547号公報)、甲第2号証(特開昭58-1569号公報)、甲第3号証(特開昭59-138460号公報)、甲第4号証(特開昭55-128465号公報)、甲第5号証(特開平2-4510号公報)、甲第6号証(特開昭60-107356号公報)、甲第7号証(特開昭56-64878号公報)、甲第8号証(特開昭61-242850号公報)、甲第9号証(特開昭60-125675号公報)をもとにきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるし、また本件考案の明細書の記載が実用新案法第5条第3項に規定する要件を満たしていないから、実用新案登録を取り消すべきであると主張している。
イ.判断
本件考案1は上の2.エで示したように、甲第1号証?第9号証記載の考案であるとも、またそれらに基づいてきわめて容易に考案できたものとすることはできない。
また、本件考案1をそっくり含む請求項2および請求項3に係る考案も、甲第1号証?第9号証記載の考案であるとも、またそれらに基づいてきわめて容易に考案できたものとすることはできない。
さらに上の2.カで示したように、本件考案の明細書の記載は実用新案法第5条第3項に規定する要件を満たしている。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、実用新案登録異議申立の理由および証拠によっては、本件考案についての実用新案登録を取り消すことができない。
また、他に本件考案についての実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
サーマルインクジェット記録装置
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。
【請求項2】 ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。
【請求項3】 ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ヒーターに通電して発生したエネルギーを利用して液体を吐出するサーマルインクジェット記録装置に関するものである。
【従来の技術】
ヒーターを用いて、インクを加熱し、気泡を発生させ、発生した気泡の圧力によりインクを噴出するバブル型のサーマルインクジェット記録装置は、その噴射原理のために、キャビテーションによる破壊が発生し、それがヘッド全体の寿命を短縮させる原因となっている。
【0002】
この対策として種々の方法が提案されているが、特開昭58-11169号公報や特開昭63-199652号公報に記載されたものは、いずれも、ヒーター駆動パルスの工夫によりサーマルインクジェット記録装置の長寿命化を図るものである。特開昭58-11169号公報においては、1個のインク滴を吐出させるために、複数個のパルスを印加しヒーターを駆動することによって、ピーク温度を抑えるものであるが、印加パルスのレベルやパルス幅を変化させた複数個のパルスを発生させる必要があるため、その駆動回路が複雑になる欠点がある。また、ピーク温度を抑えても、気泡がつぶれる際のダメージが熱作用面上に蓄積され、いわゆるキャビテーションダメージのために、ヒーター寿命を大幅に改善することはできない。
【0003】
特開昭63-199652号公報では、気泡が消滅する前に、第2,第3のパルスを印加してキャビテーションダメージを軽減するものである。キャビテーションダメージによるヒーター寿命改善には効果があると思われるが、第2,第3のパルスを印加することによる消費エネルギーの増大や、このパルスによるヘッドの昇温、ならびに、印字パターンによる温度差の拡大等の欠点がある。また、特開昭58-11169号公報に記載されたものと同様に、1個のインク滴を吐出させるために複数個のパルスを発生させる必要があるため、その駆動回路が複雑になる欠点がある。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、上述した欠点を解決するためになされたもので、複雑なヒーター駆動回路を必要とせず、簡単な構造のヘッドを用いること、ならびに、ヒーターに印加するエネルギー、波形を変化させることにより、キャビテーションダメージの蓄積を緩和し、長寿命のヒーターを持つサーマルインクジェット記録装置を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本考案は、ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、請求項1に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことを特徴とするものであり、請求項2に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものであり、そして、請求項3に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものである。
【0006】
【作用】
インクを吐出する吐出口と、該吐出口に連通したインク流路と、該インク流路内部に設けられたヒーターと、該ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段を有するサーマルインクジェット記録装置においては、従来技術では、ヒーター上方の空間がヒーターに対して完全に対称的であるから、生成される気泡の大きさにかかわらず、バブルも対称的に生成され、バブルの重心は、常に一定である。したがって、気泡がつぶれる位置は常に同じ位置であり、気泡のつぶれによるキャビテーションダメージが1箇所に集中し、早期にヒーター保護膜が破壊されてヒーター故障に至ったものである。
【0007】
ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことにより、生成されるバブルの体積が変化すると、バブルのつぶれる位置が変化する。通常の印字において、バブルの大きさが必ずしも一定でないことにより、キャビテーションダメージを分散させることができる。
【0008】
さらに、駆動手段として、駆動エネルギーが、規則的に、あるいは、不規則的に変化するもの、あるいは、駆動エネルギーが一定であるが、その波形が、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものを用いることによって、気泡の発生状態が変化し、その結果、気泡がつぶれる位置を、さらに変化させることができ、キャビテーションダメージをより広い範囲に分散させることができる。
【0009】
【実施例】
先ず、サーマルインクジェット記録装置の概略を説明する。
【0010】
図13は、サーマルインクジェットヘッドの一例を示すもので、一部を切断した斜視図である。図中、1はヒーター基板、2はチャンネル基板、3はヒーター、4は共通電極、5は個別電極、6はピット層、7はピット、8はインク流路、9はノズル、10はインク供給口である。なお、保護膜等は図示を省略した。
【0011】
図14は、図13に示したサーマルインクジェットヘッドの構成要素であるヒーター基板の一部の平面図である。点線でハッチングした部分は、ピット層が設けられた部分であり、したがって、このハッチングがない部分がピットである。3はヒーター、4は共通電極、5は個別電極、4aは共通電極端子、5aは個別電極端子であり、これらはSi基板であるヒーター基板1上に、フォトリソグラフィーにより形成される。その上には図示を省略したが、保護膜が被着されている。
【0012】
図15は、図13に示したサーマルインクジェットヘッドの構成要素であるチャンネル基板を説明するためのもので、(A)図は平面図、(B)図は、(A)図のチャンネル軸方向の断面図である。チャンネル基板2における、ノズル9を形成するインク流路8は、Siの結晶方位に依存してエッチング速度が違うことを利用した異方性エッチング法(ODE法)によりSiウェハに作製される。したがって、インク流路8は、(B)図に示すように、三角形状の溝として形成され、溝間は、やや幅をもった隔壁となっている。
【0013】
ヒーター基板1とチャンネル基板2とが接着される。図15(A)の斜線部分が、ヒーター基板1との接着面である。両基板の接着は、図15(A)に示すチャンネル基板2の下の辺が、図14に示すヒーター基板1の上の辺と重なって接着されて、ノズル端面となる。接着後、ダイシングソーにより各素子に切断され、図13のサーマルインクジェットヘッドが製作される。
【0014】
図16は、このようにして製作されたヘッドの要部の断面図である。図中、図13と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。11は保護層である。ピット層6は、ヒーター部にピットと呼ぶ凹部7を形成するものである。ピット層6は、ヒーター基板1上のヒーター発熱部以外の全面に、フォトリソグラフィーによりポリイミドを着膜することにより形成され、気泡の成長を規定する役割を果たす。保護層11は、ヒーター3および電極4,5の保護膜であり、バブルがつぶれる際のキャビテーションダメージからヒーター層を守る機能と、電極がインクに触れないようにする機能とを果たす。チャンネル基板2は、ヒーター基板1上にインク流路8を形成し、ヒーター3に通電することによって発生した気泡により、インク滴が吐出される。
【0015】
このような従来のサーマルインクジェットヘッドにおいては、ヒーター発熱面の上方の空間は、インク流路の軸方向にも、軸と直角方向にも対称である。したがって、上述したように、生成される気泡の大きさにかかわらず、バブルも対称的に生成され、バブルの重心は、常に一定であり、気泡がつぶれる位置は常に同じ位置となる。
【0016】
図1乃至図3は、本考案の一実施例におけるヘッド構造を説明するための図である。図中、図14乃至図16と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図1は、ヒーター基板の平面図である。図2は、チャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。図3は、チャンネル基板における溝の軸方向に切った断面図である。この実施例では、図1および図3から明らかなように、ピット7の領域が、インクの吐出と反対方向に拡張されている。また、図2(A)および図3から明らかなように、チャンネル基板における溝の長さが短縮されている。なお、インク流路8は、短縮された溝から拡張されたピットに連続して形成されている。
【0017】
したがって、ヒーター3の発熱面上方の空間は、ピットがヒーターに対して溝の軸方向に非対称に延びていることにより、また、チャンネル基板における溝が、ヒーター発熱面上方でチャンネル基板が有する溝の上部がヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜されることにより溝の軸方向が非対称に配置されていることによって、ヒーター発熱面上方の空間は、溝の軸方向に非対称にされている。
【0018】
チャンネル基板における溝の形成は、(100)面を持つSiウェハの異方性エッチングによって行なった。図14,15で説明したと同様に、図2(A)のチャンネル基板2の下の辺が、図1に示すヒーター基板1の上の辺と重なって接着されて、ノズル端面となる。
【0019】
図4,図5は、本考案の参考例におけるヘッド構造を説明するための図である。図中、図14,図15と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図4は、ヒーター基板の平面図である。図5は、チャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。この実施例では、ヒーター基板1およびチャンネル基板2の構造は、図14,図15に示した従来例と同じであるが、チャンネルが横方向にずれて接着されている点で、従来例と相違する。
【0020】
この位置ずれによって、ヒーター発熱面上方の空間が、溝と直角方向に対して非対称な形状となっている。この構造のヘッドを用いて、ヒーター寿命を評価、比較した結果、先に述べた実施例と同様に長いヒーター寿命を得ることができた。この参考例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化したと考えることができる。
【0021】
図7は、一般的なヒーター駆動方法を説明するための等価回路である。Rはヒーターを示し、Tはスイッチング素子であり、MOSFETが用いられる。ヒーターRは、図14におけるヒーター3に相当する。駆動電源は、30V程度の直流電圧Vcが用いられる。スイッチング素子Tは、そのゲートに印加される印字信号Vgによって、オンオフされるから、個別電極端子は、駆動時のみ接地され、非駆動時は、ハイインピーダンス状態となる。その結果、駆動時には、図14に示す、共通電極端子4a,共通電極4,ヒーター3(R)、個別電極5,個別電極端子5aの経路で電流が流れ、ヒーター3で発生した熱によりバブルが発生、成長し、インク滴が吐出される。インクが吐出されたために減少したノズル近傍のインクは、インク供給口10からインクの表面張力により再充填される。上述したように、電源電圧および印加信号は一定であるから、ヒーターの駆動エネルギーは、常に一定である。
【0022】
図6は、本考案の一実施例におけるヒーターRの駆動方法を説明するための等価回路である。この実施例では、共通電極に印加する電圧として、直流電圧のVdと直列に付加電圧Vaが追加されている。直流電圧Vdに30Vの直流電源を選び、付加電圧Vaには、周波数1kHz,振幅1Vrmsの交流電圧を発生する発振器を用いた。その結果、スイッチング素子Tのゲートに駆動パルスVgが印加された際にヒーター間にかかる電圧は、図8のようになる。この実施例では、1つのヒーターの吐出周波数を2.1kHzとしたので、あるヒーターに通電される時期T_(1),T_(2),T_(3)は、約476μsの周期となる。したがって、ヒーターに印加される電圧は、図8のT_(1),T_(2),T_(3)における電圧に示すように、吐出の度に変化し、その振幅の変化範囲は、約2.8Vとなる。なお、各吐出におけるゲート電圧のパルス幅は、4μsであり、ヒーター間にかかる電圧は、このパルス幅内においては、一定と考えて差し支えない。
【0023】
図1乃至図3で説明した実施例のサーマルインクジェットヘッドに、図6,図8で説明したヒーター駆動方法を用いて印字したところ、従来例と同様の印字画像を得ることができた。従来例の駆動方法は、駆動電圧が一定の30Vであるのに対して、この実施例では駆動電圧が、28.6?31.4Vの範囲で変動する。駆動電圧が一定でないのに同様の印字画像が得られる理由は、用いたヘッドにおいて、インク滴を吐出できる最低電圧が約27Vであり、この実施例のサーマルインクジェットのヒーター駆動方法における、最小駆動電圧28.6Vにおいても、インク滴の吐出に悪影響を及ぼさないだけのマージンを持っていることによると考えられる。また、同じく最大駆動電圧31.4Vにおいても、インク滴の吐出への悪影響は見られなかった。また、最小駆動電圧と最大駆動電圧でのドット径を測定して比較した結果、その差は、3%程度であり、ばらつきの範囲内であった。つまり、駆動電圧の変化範囲は、インク滴を安定的に吐出できる範囲内を選択したということができる。
【0024】
次に、同様に製作したサーマルインクジェットヘッドを用いて、従来例および実施例のヒーター駆動方法を用いて連続的に印字してヒーター寿命を評価、比較した。その結果、従来例のヒーター駆動方法による場合に比べて、実施例の駆動方法による方が、平均寿命が、ほぼ2.7倍に伸びた。寿命が伸びた原因は、発熱面上の気泡のつぶれる位置が、ヒーター駆動電圧の変化のために吐出の度に異なることによると考えられる。それに加えて、ヒーター発熱面上方の空間が、上述したように非対称な形状であるため、バブル体積が変化するとバブルの重心の移動を大きくとることができ、気泡のつぶれる位置をさらに大きく変化させることができたものである。
【0025】
すなわち、従来は、同じ位置で気泡がつぶれていたために、気泡つぶれによるキャビテーションダメージが1箇所に集中し、ヒーター保護膜が破壊されて早期にヒーター故障に至ったのであるのに対して、本考案では、キャビテーションダメージが分散するために、ヒーター故障時期を遅らせることができた、と考えられる。なお、2.8Vのヒーター駆動電圧の増加によって、気泡つぶれの位置は、ノズルとは反対の方向に約15μm移動することが、別の実験により明らかになっている。
【0026】
また、実施例における交流電圧Vaの周波数は、吐出周波数のn倍、あるいは、1/n倍(nは整数)以外を選んで、すべてのヒーターの駆動電圧が変化するように設定するのがよい。また、このVaの周波数は、ドット径の差によって画像にわずかに現れる濃淡によるモアレ現象に似た影響を目立たなくするよう、実験により適切に設定するのがよい。
【0027】
図10は、本考案の他の実施例の駆動手段におけるヒーターの駆動電圧の説明図である。この実施例では、スイッチング素子であるMOSFETにおけるゲート電極のパルス幅を電圧に応じて変化させた。すなわち、ヒーターに印加されるエネルギーが一定になるように、ゲート電極のパルス幅をヒーター駆動電圧の自乗に反比例させたものである。
【0028】
このヒーター駆動方法を用いて、ヒーター寿命を評価・比較した結果、先に述べた実施例での結果とほぼ同様のヒーター寿命を得ることができた。この実施例の場合にも、先の実施例と同様の理由により、キャビテーションダメージが分散し、ヘッドの長寿命化が達成できたと考えられる。
【0029】
上述した実施例では、ヒーターの駆動電圧が一定の周期を持つ波形であったが、図9に示すように所定の範囲内の振幅変化の中で、ヒーター駆動電圧が不規則に変化するようにしてもよい。
【0030】
図9では、途中の電圧波形を省略しているが、ヒーター駆動電圧が不規則に変化している様子を模式的に示している。具体例としては、ヒーター駆動電圧は、28.6V?31.4Vまでの範囲内において、不規則に変化させたが、平均値は、中心値である30Vになるようにした。
【0031】
図10のように、ヒーター駆動電圧を不規則に変化させた場合においても、ヒーターに印加されるエネルギーが一定になるように、ゲート電圧のパルス幅をヒーター駆動電圧の自乗に反比例させることにより、図9に示す実施例と同様なヒーター駆動回路を構成することも可能である。
【0032】
また、図8に示す実施例では、ヒーターの駆動電圧を変化させたが、ヒーター駆動電圧を一定として、ゲート電圧のパルス幅を変えることによって、ヒーターに印加されるエネルギーを変化させてもよい。パルス幅の変化は、規則的であっても、不規則であってもよい。上述したと同様の効果が得られる。
【0033】
すなわち、本考案においては、ヒーター電流のレベルや、パルス幅を変化させる際に、ヒーターに印加されるエネルギーは、一定に保たれてもよいし、ヒーター電流のレベルや、パルス幅等の変化に応じて変化させてもよい。
【0034】
図11,図12は、上述した駆動方法に適したヘッド構造の別の参考例の断面図である。図中、図16と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。図16の従来例と比較すると、図11、図12ともにヒーター発熱面に対するピット7の形状が、インク滴吐出方向に対して非対称な形状となっている。
【0035】
図11では、ピットをインク滴吐出方向に少し拡張して、チャンネルの軸方向におけるピットの形状をヒーターに対して非対称とした。生成される気泡が大きくなるにつれて、その重心は前方に移動する。
【0036】
図12では、ピット7のインク滴吐出方向と反対方向の後部のピット層を、適当な長さだけ薄く形成して、ピット後部に段差22を設けた構造である。この構造は、ポリイミドによるピット層を成膜する工程を2度繰り返して行なうことにより実現した。このピット構造では、生成される気泡が大きくなるにつれて、その重心は後方に移動する。
【0037】
これらの構造のヘッドを用いて、ヒーター寿命を評価・比較した結果、図1乃至図3で説明したサーマルインクジェットヘッドに、図8で説明したヒーター駆動方法を用いて印字した結果と同様に長いヒーター寿命を得た。この参考例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化が達成できたものと考えられる。
【0038】
【考案の効果】
以上の説明から明らかなように、本考案によれば、気泡つぶれによるキャビテーションダメージが、1箇所に集中せず分散できるために、ヒーター寿命を大幅に伸ばすことができる。
【0039】
また、ヒーター電流のレベルや、パルス幅等を変化させることによって生ずる、ドット径のわずかな差は、ノズル間のドット径の差に起因するすじ状の画像欠陥の影響を目立たなくできるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本考案の一実施例におけるヒーター基板の平面図である。
【図2】
本考案の一実施例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。
【図3】
本考案の一実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの断面図である。
【図4】
本考案の参考例におけるヒーター基板の平面図である。
【図5】
本考案の参考例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。
【図6】
本考案の一実施例におけるヒーターの駆動回路の等価回路である。
【図7】
一般的なヒーター駆動方法を説明するための等価回路である。
【図8】
図6における駆動装置の駆動電圧の一例の説明図である。
【図9】
図6における駆動装置の駆動電圧の他の例の説明図である。
【図10】
図6における駆動装置の駆動電圧の別の例の説明図である。
【図11】
本考案における別の参考例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。
【図12】
本考案における別の参考例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。
【図13】
サーマルインクジェットヘッドの従来例の一部を切断した斜視図である。
【図14】
従来例におけるヒーター基板の平面図である。
【図15】
従来例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は、断面図である。
【図16】
従来例のサーマルインクジェットヘッドの要部の断面図である。
【符号の説明】
1 ヒーター基板
2 チャンネル基板
3 ヒーター
4 共通電極
5 個別電極
6 ピット層
7 ピット
8 インク流路
9 ノズル
訂正の要旨 訂正の要旨
a.実用新案登録請求の範囲の請求項1「ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成したことを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」とあるのを、実用新案登録請求の範囲の減縮および明瞭でない記載の釈明を目的として「ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」と訂正。
b.実用新案登録請求の範囲の請求項2「ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」とあるのを、実用新案登録請求の範囲の減縮および明瞭でない記載の釈明を目的として「ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」と訂正。
c.実用新案登録請求の範囲の請求項3「ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」とあるのを、実用新案登録請求の範囲の減縮および明瞭でない記載の釈明を目的として「ヒーターが設けられた基板と前方にノズルが形成されるための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。」と訂正。
d.考案の詳細な説明の段落[0005]「[課題を解決するための手段]本考案は、ヒーターが設けられた基板とノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、請求項1に記載の考案においては、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成したことを特徴とするものであり、請求項2に記載の考案においては、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものであり、そして、請求項3に記載の考案においては、ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものである。」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「[課題を解決するための手段]本考案は、ヒーターが設けられた基板と前方にノズルを形成するための溝を有するチャンネル基板とを接合して構成されるサーマルインクジェット記録装置において、請求項1に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことを特徴とするものであり、請求項2に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものであり、そして、請求項3に記載の考案においては、ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成するとともに、前記ヒーターに駆動エネルギーを印加する駆動手段からの駆動エネルギーが一定であり、かつ、その波形が、印字情報と関係なく、規則的に、あるいは、不規則的に変化するものであることを特徴とするものである。」と訂正。
e.考案の詳細な説明の段落[0007]「ヒーター上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するように溝の軸方向と溝の軸と直角方向のうち少なくとも一方を非対称に形成したことにより、生成されるバブルの体積が変化すると、バブルのつぶれる位置が変化する。通常の印字において、バブルの大きさが必ずしも一定でないことにより、キャビテーションダメージを分散させることができる。」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「ヒーター発熱面上方の空間を、発生するバブルの体積が変化するとバブルの重心が移動するようにチャンネル基板が有する溝の上部をヒーター発熱面上方においてヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向を非対称に形成したことにより、生成されるバブルの体積が変化すると、バブルのつぶれる位置が変化する。通常の印字において、バブルの大きさが必ずしも一定でないことにより、キャビテーションダメージを分散させることができる。」と訂正。
f.考案の詳細な説明の段落[0015]「・・・ヒーターの上部空間は、・・・」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「・・・ヒーター発熱面の上方の空間は、・・・」と訂正。
g.考案の詳細な説明の段落[0017]「したがって、ヒーター3の上方の空間は、ピットがヒーターに対して溝の軸方向に非対称に延びていることにより、また、チャンネル基板における溝が、ヒーターの上方でその軸方向に非対称に配置されていることによって、ヒーター上方の空間は、溝の軸方向に非対称にされている。」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「したがって、ヒーター3の発熱面上方の空間は、ピットがヒーターに対して溝の軸方向に非対称に延びていることにより、また、チャンネル基板における溝が、ヒーター発熱面上方でチャンネル基板が有する溝の上部がヒーター発熱面の後端部の上方より前方に行くにつれてヒーターが設けられた基板から遠ざかるようになる向きに傾斜させることにより溝の軸方向が非対称に配置されていることによって、ヒーター発熱面上方の空間は、溝の軸方向に非対称にされている。」と訂正。
h.考案の詳細な説明の段落[0019]「図4,図5は、本考案の他の実施例・・・」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「図4,図5は、本考案の参考例・・・」と訂正。
i.考案の詳細な説明の段落[0020]「・・・この実施例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化したと考えることができる。」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「・・・この参考例の場合も、先の実施例と同様の理由により長寿命化したと考えることができる。」と訂正。
j.考案の詳細な説明の段落[0023]「図1乃至図3、および、図4,図5で説明した実施例のサーマルインクジェットヘッドに、・・・」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「図1乃至図3で説明した実施例のサーマルインクジェットヘッドに、・・・」と訂正。
k.考案の詳細な説明の段落[0029]「上述した2つの実施例では、・・・」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「上述した実施例では、・・・」と訂正。
l.考案の詳細な説明の段落[0034]「図11,図12は、上述した駆動方法に適したヘッド構造の別の実施例の断面図である。・・・」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「図11,図12は、上述した駆動方法に適したヘッド構造の別の参考例の断面図である。・・・」と訂正。
m.考案の詳細な説明の段落[0037]「・・・この実施例の場合も、・・・」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「・・・この参考例の場合も、・・・」と訂正。
n.明細書の[図面の簡単な説明]の項「・・・[図4]本考案の他の実施例におけるヒーター基板の平面図である。[図5]本考案の他の実施例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。・・・「図11]本考案における別の実施例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図12]本考案における別の実施例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。・・・」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として「・・・[図4]本考案の参考例におけるヒーター基板の平面図である。[図5]本考案の参考例におけるチャンネル基板を示し、(A)図は平面図、(B)図は断面図である。・・・「図11]本考案における別の参考例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。[図12]本考案における別の参考例のサーマルインクジェットヘッドの断面図である。・・・」と訂正。
異議決定日 2000-04-06 
出願番号 実願平2-405640 
審決分類 U 1 651・ 531- YA (B41J)
U 1 651・ 113- YA (B41J)
U 1 651・ 121- YA (B41J)
最終処分 維持  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 伊波 猛
信田 昌男
登録日 1997-06-27 
登録番号 実用新案登録第2551597号(U2551597) 
権利者 富士ゼロックス株式会社
東京都港区赤坂二丁目17番22号
考案の名称 サーマルインクジェット記録装置  
代理人 石井 康夫  
代理人 石井 康夫  
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