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審決分類 審判 全部申し立て   B62J
管理番号 1020872
異議申立番号 異議1998-75371  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-06 
確定日 2000-04-12 
異議申立件数
事件の表示 登録第2570272号「自転車利用者用夜光反射バンド」の請求項に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2570272号の請求項1に係る実用新案登録を取り消す。
理由 1 手続きの経過
登録第2570272号実用新案(以下、本件考案という)の請求項1に係る考案は、平成4年12月15日に出願され、平成10年2月6日に本件考案について登録の設定がなされたものであり、その後、平成10年11月6日付けで実用新案登録異議の申立てがなされ、その実用新案登録異議の申立てに対して当審より平成11年1月28日付け及び平成11年10月8日付けで二度の取消理由通知がなされたものである。
2 本件考案
本件考案は、実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「ビニール素材から成る帯状シートの片面に適宜色彩を有する発光媒体を具備しかつ袋状に一体成形した夜光反射シ-トと、弾性特性を有する軟質プラスチック素材を簿帯状かつ断面半月状に一体成形した帯状弾性材とから成り、該帯状弾性材を前記夜光反射シートに挿入しかつ挿脱自在にした夜光反射バンドを設け、該夜光反射バンドを夜間使用時の自転車の所望箇所に前記帯状弾性材の先端部を外側に屈曲させて装着して成ることを特徴とする自転車利用者用夜光反射バンド」
3 登録異議申立人の主張の概要
これに対し、登録異議申立人株式会社ナカネは、甲第1号証(「人と車」1992年7月、財団法人全日本交通安全協会発行)、甲第2号証(物品を添付した財団法人鳥取県交通安全協会発行の証明書)及び甲第3号証(納品書の写しを添付した財団法人鳥取県交通安全協会発行の証明書)を提出し、本件考案は、甲第1号証に記載された考案或いは、甲第2号証として添付した物品から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により登録を受けることができない旨主張している。
4 証拠
4-1 甲第1号証(「人と車」1992年7月、財団法人全日本交通安全協会発行)には、その11頁に、「歩行者 自転車に対するライトアップ運動の推進活動」という見出しに続き「京都府警察本部と府下の全警察署では、交通安全協会などの後援で夜間の事故を防ぐため交通安全大会、街頭広報活動を行った。歩行者と自転車利用者を対象にしたもので、反射材、通称「タックルバンド」等を着用して「夜間に目立つ工夫を」と呼びかけた。参加者は延べ五千人。その結果、安全運動期間中、子供やお年寄りの夜間の事故が前年より減少するという好成績を収めた。この「タックルバンド」は簡単に取り外しができる上おしゃれだと好評で、地元企業、学校など各方面から商品注文先について問合わせがきている。問題点としては、反射材が比較的高価であるため交通教室等ですべての参加者に配布することがむずかしいので、今後は店頭販売をすすめ、この運動が定着するよう各方面に働きかけていくことにしている。」と記載され、又この「タックルバンド」を人の髪の毛及び腕に着用した図が示されていると共に、その図の横に「バネ入りで自由に丸まりフィットする長さ24cm幅3cm赤と黄の二色がある」と記載されている。
4-2 甲第2号証(物品を添付した財団法人鳥取県交通安全協会発行の証明書)には、「本証明書に添付した物品と、鳥取県交通安全協会で株式会社ナカネより平成4年6月から8月の間に12000個以上購入した「タックル」は、同一のものであることを証明いたします。」と記載されていると共に、長さ約28.5cm幅約3cmからなる形状、その表面に夜行塗料が塗られていること及びバンド状に巻回される機能等からして、「ビニール素材から成る帯状シートの片面に黄色彩を有する発光媒体を具備しかつ袋状に一体成形した夜光反射シ-トと、弾性特性を有する金属素材を簿帯状かつ断面半月状に一体成形した帯状弾性材とから成り、該帯状弾性材を前記夜光反射シートに挿入しかつ密封した夜光反射バンド」が添付されている。
4-3 甲第3号証(納品書の写しを添付した財団法人鳥取県交通安全協会発行の証明書)には、株式会社ナカネから鳥取県交通安全協会宛の5枚の納品書(92年6月11日付けのものには、タックルを計250個納品したことが、92年7月30日付けのものには、タックルを計800個納品したことが、年(不明)8月20日付け(別途平成4年8月21日付けの鳥取県交通安全協会の受領印有り)のものには、タックルを計4400個納品したことが、平成4年8月24日付けのものには、タックルを計3200個納品したことが、平成4年8月27日付けのものには、タックルを計2400個納品したことがそれぞれ記載されている。)のコピーが添付され、その納品書には、「タックル」を合計11050個納入したことが記載されている。
5 対比、判断
5-1 平成11年10月8日付け取消理由通知書の理由は以下の通りである。
『取消理由1
本件登録実用新案明細書には、目的として「従来、・・・自転車車輪用夜行反射具がある。・・・この自転車車輪用夜行反射具は、・・・であり、あくまでも自転車の車輪に取付ける夜行反射具である。したがって、夜間走行している自転車の状態は外から見ることができるが、夜間自転車に乗っている人の姿は見えない。・・・このような従来方式では、夜間、自転車に乗っている人の姿が走行中の自動車運転手からは見えにくいので、交通人身事故の要因にもなっていた。この従来課題を解決するために開発したのが、本考案でありいわゆる自転車に取付ける夜行反射具ではなく乗用している人に取付ける用具にしたところにその特徴を有するものである。」(段落【0002】?【0004】)と記載されており、これら記載に基づけば、本件登録実用新案は、自転車に取付ける用具ではなく、自転車に乗用する人に取付ける用具にその特徴を有するものであるはずである。
しかしながら、【実用新案登録請求の範囲】及び【課題を解決するための手段】には、その用途として「自転車利用者用夜行反射バンド」との記載はあるが、バンドの装着箇所について「自転車の所望箇所に装着する」との記載もあり、明らかに齟齬をきたしている。
即ち本件登録実用新案は、適用される平成2年法の実用新案法第5条第4項及び第5項の規定に違反するものである。
取消理由2(上記取消理由1が解消されたとして) 合議体による平成11年6月15日付け審尋書に対し、登録異議申立人は、平成11年 9月 20日付け回答書と同時に甲第3号証として証明書を提出した。そして該証明書に添付された納品書を参酌すると、甲第2号証として提出された物品は、本件登録実用新案出願前に日本国内において公然実施されたものであると認めることができる。
そして該物品を鳥取県交通安全協会が購入したということは、該物品が交通安全用に用いられるものであることは当業者であればきわめて容易に考えられることである。
ところで、バネが挿入され、表面に反射材が設けられた細長いバンドを歩行者及び自転車利用者の体の一部に巻き付けて装着し、歩行者及び自転車利用者の交通安全に用いることは、甲第1号証に示されるように本件登録実用新案出願前に公知であるとともに、甲第1号証には、そのバンドを歩行者及び自転車利用者の交通安全に用いることに対し、交通安全協会が後援した旨も記載されている。
さらに、甲第2号証の物品に用いられるバネの材質(金属)と本件登録実用新案のもの(軟質プラスチック素材)との相違に対し、格別の技術的意義を認めることはできない。
してみると、本件登録実用新案は、甲第2号証の物品のものに対し、甲第1号証記載の用途に関する技術を加味することにより当業者にとってきわめて容易になし得るものであると認められるため、実用新案法第3条第2項の規定に違反するものである。』というものである。
5-2 上記取消理由1に対する判断
上記取消理由通知書に対し、実用新案権者は、何らの訂正請求をしていない。そのため依然として本件考案の請求項1の記載事項と考案の詳細な説明の項に記載される本件考案の目的との間には、明らかに齟齬が生じていることになり、この齟齬は実用新案法第5条第4項乃至第5項の規定に反するものである。
なお、実用新案権者は、意見書において、本件考案は、実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおり、自転車の所望箇所に装着することを特徴とする自転車利用者用夜光反射バンドであり、自転車利用者の身体に直接装着して利用することは他の実施例を説明したにすぎないと主張しているが、明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された事項は、本件考案の目的との間に齟齬があることは前記したとおりであり、実用新案権者の主張は採用できない。
5-3 上記取消理由2に対する判断
本件考案は、前記5-2に記載した理由により登録を受けることができないものであるが、請求項1に記載された事項について上記取消理由2が依然として存するかについて判断する。
5-3-1 まず、登録異議申立人の提出した甲第2号証として提出された物品が、本件考案出願前公知のものであるかについて検討すると、
登録異議申立人の提出した甲第2号証及び甲第3号証の証明書は、財団法人鳥取県交通安全協会の証明書であるところ、該協会が私企業ではなく、準公的機関に属する法人であり、さらに登録異議申立人と利害関係にない法人であることは明らかであり、かつこれら証明書には、同じ協会印が押されており、このような法人が証明する証明書の証明内容は、特別の事情でもない限り充分信憑性のあるものである。
なお甲第2号証に記載されるタックルの数(12000個以上)と甲第3号証に記載されるタックルの数(11050個)とは若干の差はあるものの誤差の範囲にすぎない。
してみると、甲第2号証に添付されている物品は、その名称を「タックル」とし、甲第3号証の納品書の日付よりみて本件考案の出願前に株式会社ナカネより前記安全協会に納品されたものと認められ、かつ、該安全協会は、その法人の役割よりみて、納品された11050個のタックルをそのまま公にすることなく保管しておくことは常識的に考えられず、当然交通安全の目的に使用するために購入したものと推認できるため、前記納品の事実は、即物品の製造乃至譲渡にあたり、実用新案法第2条の実施に該当する。
そのため、甲第2号証として提出された名称を「タックル」という物品は、本件考案出願前日本国内において公然知られたものであると認めることができる。
5-3-2 次に、「タックル」なる物品から本件考案がきわめて容易に考案できたものかについて検討する。
該物品は、上記4-2で記載したように「ビニール素材から成る帯状シートの片面に黄色彩を有する発光媒体を具備しかつ袋状に一体成形した夜光反射シ-トと、弾性特性を有する金属素材を簿帯状かつ断面半月状に一体成形した帯状弾性材とから成り、該帯状弾性材を前記夜光反射シートに挿入しかつ密封した夜光反射バンド」としての構成を有するものと認められるところ、本件考案と該物品との構成の差異は、以下の通りである。
(1)前者は、帯状弾性材を、軟質プラスチック素材とすると共に、夜行反射シートに挿脱自在にしたのに対し、後者のそれは、金属素材であると共に、夜行反射シートに封入されている点。
(2)前者は、夜光反射バンドを夜間使用時の自転車の所望箇所に前記帯状弾性材の先端部を外側に屈曲させて装着して成る自転車利用者用夜光反射バンドであるのに対し、後者は、その使用形態について明示がない点。
相違点(1)について検討すると、弾性材を軟質プラスチック素材或いは金属素材によって成形することは、周知技術にすぎず、どちらの材質を使用するかは単なる設計事項にすぎず、又、その帯状弾性材をシートに挿脱自在にするか否かも、当業者が必要に応じて選択できる設計的事項にすぎない。
相違点(2)については、甲第1号証に記載される事項は、前記4-1に記載したとおりであるところ、そこでの記載事項によれば、「タックルバンド」は、甲第2号証の物品とその長さにおいて若干相違するが、形状、色並びに夜行塗料の使用、さらにはバネ入りで自由に丸まるという機能等で両者は共通し、さらに甲第1号証の「タックルバンド」の使用形態が、「歩行者と自転車利用者を対象にしたもの」との記載並びに図面からして歩行者と自転車利用者の体の一部に巻き付けて使用するものであることを踏まえれば、甲第2号証のタックルなる物品を自転車利用者用として使用することはもちろんのこと、タックルなる物品の機能からして自転車の一部に巻き付けて使用することも当業者にとってきわめて容易に想定することができる事項にすぎない。
してみると相違点(2)も当業者にとって格別のものではない。
即ち、本件考案は、甲第2号証に添付された本件出願前公然実施された物品に甲第1号証に記載される物品の使用例を適用することにより、当業者にとってきわめて容易になしえたものである。
6 むすび
以上のとおり、本件考案は実用新案法第5条第4項乃至第5項の規定に違反するとともに、本件考案は上記甲第1号証に記載された考案、並びに、甲第2号証及び甲第3号証によって証明された本件考案出願前に公然実施された技術事項に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件登録実用新案は、実用新案法附則第9条第2項において準用する特許法第113条第2項の規定に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

異議決定日 2000-02-01 
出願番号 実願平4-85945 
審決分類 U 1 651・ 121- Z (B62J)
最終処分 取消    
前審関与審査官 小山 卓志  
特許庁審判長 玉城 信一
特許庁審判官 柴田 由郎
鈴木 法明
登録日 1998-02-06 
登録番号 実用新案登録第2570272号(U2570272) 
権利者 山下 勇
神奈川県横浜市緑区あざみ野4-9-6
考案の名称 自転車利用者用夜光反射バンド  
代理人 唐木 浄治  
代理人 嶋 宣之  

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